そして入れ替わりにシンジがやってくる。

「あれ? 委員長どうしたの? なにか急いでるみたいだったけど、、、」

「フンッ! 知らないわよ、バカシンジっ!!」

そう罵るとシンジに背中を向け、ズンズン足音を鳴らせて教室を出て行くアスカ。

 

「あちゃ〜、やっぱりまだ怒ってるか、、、、はあ〜、、、」

うつむいてため息をつくシンジ。

もしかしたら機嫌が直ってるかも、と思っていたシンジの考えはとてつもなく甘かったようだ。

 

「まってよ、アスカ〜! 一緒に帰ろうよぉ!!」

しかしそんな呼び声もむなしくコダマし、

シンジが教室を出たころには、たなびく赤い髪はもうすでに廊下を曲がりかけていた。

 

 

 

長すぎる今日。 (第六話)

written by tomas.

 

 

 

帰り道。

今日の夕食のハンバーグと1週間の風呂上がりのマッサージを約束したところで、アスカの機嫌をなんとか回復する事ができた。

今回の交渉はおおむね成功に終わらせる事ができたと言っていいだろう。

金銭的損害は最小限に押さえる事ができたんだから。

いや、もしかしたらアスカにとっては減点式のテストなど本当に興味がなかっただけなのかもしれない。

 

なんてことを先を行くアスカのゆれる髪を見ながら考えていると、

「ねえ、シンジ?」

不意にアスカが話しかけてきた。

 

「なに?」

「今日が何の日だか分かる?」

 

えっ!? 今日??

アスカに言われて、いろいろ思い巡らしてみるが今日が何の日だったかちょっと思い出せない。

「う〜ん、、、今日? 何の日だったっけ??」

 

 

「んとね、、、今日はアタシが退院した日からちょうど半年。」

なるほど。

「ふ〜ん、そっか、、、ってことはまた僕と一緒に暮らすようになって半年、、、でもあるわけだ。」

「そうね。」

「、、、もうそんなになるんだね。」

「そうね。」

「、、、」

「、、、」

「、、、」

時間の流れというのはホントに早いものだ。

あれからもう半年にもなるなんて、、、

僕はしばらくの間、黙ってこの半年の生活を思い起こしていた。

 

アスカが退院してからの生活というのも最初はぎこちないものではあった。

が、やはり使徒の脅威にさらされていた頃と比べるとピリピリした雰囲気もなくなっていたし、僕も

アスカも心にゆとりが持てるようになっていたと思う。やがて加持さんの無事がわかり、ミサトさん

が家にいる時間が少なくなってくるとだんだん僕の中でも変化が起きはじめた。アスカと二人でいる

時間が長くなってくるにつれて無性に彼女の事が気になりだしたし、知らず知らずのうちに彼女の事

を目で追っている自分がいた。最近などはひどいものでアスカの事を考え出すと他の事が手につか

なくなることもあるくらいだ。

 

 

 

「アタシさぁ、書いてるんだ。あの半年前の日から。」

突然、思いを馳せていた本人から話しかけられて驚いたが、できるだけ平静をよそおって答えた。

 

「な、何を?」

、、、少しよそおいきれなかった。

 

が、アスカはとくに気にしていないようでそのまま話を続ける。

「日記。」

「えっ!アスカが!?」

僕はアスカの言葉がちょっと、、、いや、かなり意外だったのでそれをそのまま口にしてしまった。

 

「何よその言い方!アタシが日記書いてちゃおかしい?!」

「い、いや、そんなことはないけど、、、」

あちゃあ〜、せっかくアスカのご機嫌も戻りかけてたのに。

、、、まずったかな。

 

「、、、あの日からアタシの新しい生活が始まったから。あの日をアタシの区切りの日にしようと思って。」

(ううん、それも確かにあるけどホントはちょっと違う。ホントの理由は、日記を書いて自分を見つめなおす事で

もっと素直な自分になりたかったから。)

 

「ふ〜ん。」

そう生返事をしながら、僕はアスカの機嫌が悪くならずにすんでホッとしていた。

 

「アンタも書いてみなさいよ。結構おもしろいわよ、最初は照れくさいけど、、、」

「、、、そんなもんかな?」

「そんなもんよ。」

 

「、、、」

「変われるかもよ。」

「えっ?」

「自分のなりたい自分に。」

 

「、、、自分のなりたい自分、、、か。」

僕はアスカの言葉を繰り返した。

確かに自分を変えたいとは思っていたけど、もっと変えたかったのは二人の関係。

日記を書いたら少しは変わるかな。

いや、変われるかな。

 

その後も僕らはとりとめのない話をしながら家路を歩いた。

 

 

 

 

 

 

夕食を済ませた僕らはリビングでおもいおもいにくつろいでいた。

カーペットの上でうつぶせに寝転がり、雑誌の特集をながめているアスカ。

僕はと言えば、さっきから面白そうな番組がないかいろいろ探してはいるんだけど、、、

、、、あっ!これにしよう。

音楽番組”エムステーション”。

なんでも僕らが生まれる前から続いてるらしい長寿番組だ。

僕は芸能人はあんまり詳しくないんだけど、この司会のおじいさんは他の番組でもよく目にする。

サンバイザーと年不相応な真っ黒な髪のカツラが印象的だ。

 

いま、若手の3人組みのバンドが演奏を終えた。

まあまあよかったんじゃないかと思う。

ヴォーカルの人のルックスはイマイチだったけど、その伸びのある声は聞いていても心地がよかった。

メロディーもけっこう僕好みの穏やかなバラードだった。

さあ、今度はどのミュージシャンかな。

 

次は、、、

次は大御所の”モーニング小娘。”みたいだ。

とはいえ今では人数が増えすぎて、初代のメンバーは誰もいなくなっている。

なんでも今度45人目の新人が入るとか入らないとか、、、

そんなことを考えながらもぼんやりモーニング小娘。の新曲を聞いていると、

 

「あっ!今のっ!!」

アスカが突然画面を指差し、叫んだ。

 

「えっ!? なに? どうしたの、、、?」

アスカの突然の叫びに一瞬驚いたが、それでもアスカに尋ねてみた。

 

「今、映ったのよ! チラッとだけど、、、」

「えっ? 映ったって何が?」

「!   ホラ、あそこっ! あの画面の右端っ!!」

アスカが目を見開いて、画面の一点を指差している。

 

僕も必死でそのきれいな人差し指の延長線をたどってみた。

すると、、、

 

いっ、いっ、委員長ぉーーっ?!!

おもわず叫んでしまった。

よく目を凝らさないと見逃してしまいそうな程の大きさだったけど、確かにあの委員長が可愛らしいモーニング小娘。の衣装で

踊っていた。 しかもときどきバックコーラスで”あ〜ん♪”とか言いながら、、、

今日の放課後、委員長が急いで帰っていったのはこの為だったのだろうか。

 

 

僕が腰を抜かしているその横で、アスカがわりと冷静につぶやいていた。

「、、、明日が楽しみ♪」

 

 

 

 

PM11:30

シンジの部屋。

 

今日もいろんな出来事があった。

そして今までにもいろんな出来事があった。

僕らが長く苦しい戦いの末に手に入れたものは、穏やかで、そして単調な毎日。

どこか物足りなさを感じてもおかしくないような単調な毎日。

けど、そんな毎日にアスカはスパイスを与えてくれる。

アスカと一緒にいると何気ない一瞬であってもそれは楽しい一時のように思えてくる。

アスカがそこにいるだけで、モノトーンの僕の毎日は鮮やかな色彩で彩られる。

 

そんな毎日を形にしておきたくて、、、僕はアスカに言われたように日記を付けてみることにした。

今日はその記念すべき第1日目。

まっさらなノートの表紙をめくるとそこに今日の日付を書きこんだ、、、

 

 

 

シンジはペン先を見つめている。

不思議なことに右手が勝手に動いていくような気がした。

思い出したことを書き綴っているのか、書き綴ることで思い出しているのか、、、

もはやシンジには分からなくなっていた。

どうでもいい気がしていた。

 

今日一日の出来事を振り返り、それを事細かく日記に記し続ける。

たぶんそうなのだろう。

自分の右手が書いているのだから。

自分の意思で書いているのだから。

 

 

バカ正直に今日一日に起こったあらゆる出来事を丁寧に日記に書きこんでいく。

黙々と、、、淡々と、、、時間を忘れるほどに。

やがて睡魔が彼を襲うまで。

 

 

しかしシンジは知ることはなかった。

ページの一番最初に書きこんだ日付が、今日ではなく明日の日付であることに、、、

自分の右手が過去ではなく未来を書き綴っていることに、、、

 

つづく(第1話へ)

 

 

 

 

 

エピローグ

 

      ジリリリリリ、、、、、、、

      ベッドの脇においてある目覚し時計のアラームが勢いよく鳴り出す。

      ジリリリリリ、、、、、、、

 

      ゴソゴソ、、、

      パッ、、パッ、、パッ、、、、ガッ!

      1度、2度、3度、4度目にしてやっと、タオルケットの中から伸ばされた手がその音源のありかをつきとめる。

      時計の一番上についている突起の部分を指で押さえると、けたたましく鳴り響いていたベルの音が止まった。

 

彼らの”新しい”朝が今、始まろうとしている。

しかし、それは何度目の今日なのか、、、

 

誰も気づくこともなく、飽きることもなく、

”長すぎる今日”はまた繰り返される。

 

それはあらかじめ用意された脚本のように、、、


マナ:ほ、洞木さんっ!

アスカ:フフフフフ。明日が楽しみねぇ。(キラリ)

マナ:そんな話、なにもしてなかったのに。人は見掛けによらないわねぇ。

アスカ:今日の日記は、ヒカリのことでいっぱいだわ。

マナ:シンジも日記をつけ始めたみたいね。

アスカ:ええ。日記はいいわよ。アンタも書いてみたら?

マナ:そうねぇ。でも、毎日毎日書くネタが無いわよ。

アスカ:それでいいのよ。それを書けばいいじゃん。

マナ:毎日、似た様なことを?

アスカ:そっ。そういう日常こそが、今日という日なんだから。

マナ:そうね。平穏な何の変哲も無い日常ってのが、一番幸せなのかもね。

アスカ:そんな日が明日も来ますようにってね。
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