2016年、人類は自己の意志で各々LCLの海から還って来ていた。
一度はLCLに解け合い、全てを知った筈の人々はしかし、サードインパクト後の記憶を失っていた。
 発生した混乱に乗じ人類補完計画の再開を企むゼーレと、使徒を全て倒し存在意義を失うのみならず、サードインパクトの実行犯であるという事実を抱え込んだネルフ……
両者の対立が戦争に発展するまで、かかった歳月は一年。
長いか短いかはさておき、攻撃開始日が丁度サードインパクトが発生した日だった事、更にその実行部隊が一年前と同じく戦略自衛隊だったという奇妙な一致は、ネルフ職員達に戦慄を憶えさせた。
が、その戦慄も、非戦闘員、それもネルフの人間ですらない市民の無差別な虐殺という現実を通過し、憤怒へと取って代わることとなる………
この第一次攻撃により、ネルフは多くの物的資源を失い、それを補って余りあるだけのものを手に入れた。 
第3新東京市、そのものである。
戦自の無差別攻撃により、ゼーレ側は第3新東京市の市民達を完全に敵に回したのだ。 
逆にネルフは、市民達の支持と協力を得、第三新東京市内の実権をほぼ掌握してしまった。
その最たる効果は、第壱中学校2−Aクラスに集められたチルドレン候補者達の積極的な協力姿勢にある。
主戦力となるであろうエヴァンゲリオンのパイロットを、中学校の一クラス分も有しているのだ。
未だに高い工業力や経済力・科学力を誇るアメリカ支部との連携で、新型のエヴァは既に生産ルートに乗っていた。
対して、綾波 レイ・渚 カヲルが一体残らず消え去り、禁忌の術だと言わんばかりに跡形もなく消滅したダミープラグ製造のノウハウと、それを記したデータの山………
影響力だけの幻影的存在であったゼーレに、ドイツ支部他数支部が付いた事自体奇跡と言えた。
尤もその筆頭といわれたドイツ支部でさえ、セカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレー本人の意志による日本残留に、「忠犬」の称号を返上しかけたという実績を持っているが………
相手より数の少ない「烏合の衆」に、勝ち目がある筈もなく、やがて新型エヴァの開発も進み、戦況はネルフに傾く。
ネルフの大人達の何人かは、サードインパクト以来姿の見えないシンジの行方を心配していた……忘却の湖に片足を漬からせながら。
ネルフ有利の戦況が保たれ続けながら、双方共に決定打に欠け、3年が過ぎようとしていた…………
 
 
E−After 〜大戦〜 第1話
 
 
 
例え戦争が始まろうと天変地異が起ころうと、人間食う物を食わねば餓死してしまう。
食う為には利潤を得ねばならず、即ち働かなくてはならない。
他国語に通じる者、コンピューターを操れる者、経理の得意な者など、人は各々の能力で仕事をこなす。
しかし何の能も持たない者達は、一体どうやって生計を立てればよいのか。
それも今列挙した能力など屁の役にも立たない無法地帯で………
男達の内、力も知恵も持たない者は早々と現世から退場していき………残ったのは極少数の能ある男と、女達となった。
女は能力の有無に関わらず生き残ったというのか?
そう、彼女らは生き延びていた。
幸か不幸か、女として産まれたという事実を利用し、身を売って食いつないでいたのだ。
一つ場所にそのような者達ばかりが集まり、歪んだ発展が続けば、どの様な空間に育つかは明白である。
そうして、殆どの者が名前すら知らない、ちっぽけな裏通りに過ぎなかったこの場所は、毒々しく艶を振りまく色街へと変貌していった………
血なまぐさい喧嘩騒動や、商売女達の霰もない姿で飾り立てられたこの場所に、ネルフのエースパイロット、惣流・アスカ・ラングレーは脚を踏み入れていた。
いつもの彼女らしからぬ、細心の注意を払いながら……
「ヒカリ………」
尾行目標である親友の名をぽつりと呟き、彼女はまた歩みを進める。
週に二度、三度と夜更けの外出を繰り返すヒカリに不安を覚え、コッソリとつけて来た………までは良かったのだが。
「なんでこんなにケバケバしい場所に来んのよぉ……」
只でさえ目を引く容姿の彼女が、目立たないつもりで選んだ服装が、この場所では逆に好奇の視線を集めてしまう。
「………出直した方がいいかな?」
神経を思考の底に沈め始めた、次の瞬間だった。
「?!」
アスカの反応は速かった。
物音が聞こえた方向へ振り向くと、直ぐ目の前に立っていた人影に向かい、反射的に水月へ拳を叩き込んだのだ。
吐き気を催し蹲る……筈だった敵はしかし、その拳が我が身に触れるより先に、楽々と掴んでアスカを引きずり寄せたのだ。
「イヤンンッ………んー!……んー!……」「あのな、大声出したら気付かれるだろ」
アスカの口を手で塞いだ男は、呆れた様子で声をかける。
「洞木の後追って来たんだろ?にしてもな、もうちょっと自覚持てよ。何回も狙われてたんだぜ、お前」
そういって男は、足下に転がる巨漢を顎で指す。
「全員叩きのめしたけどな」
親しげに語りかける男を、アスカは不信たっぷりに睨み付ける
「…誰よ、アンタ」
「あ?分かんなかったのか?俺だよ、俺」
言われて、アスカはマジマジと男を見つめる。
今時この手の場所では珍しい、全く染色の後が見えない黒髪、先程の行動や台詞回しの主にしては整った……そのくせ傷だらけの顔立ち。
「アンタなんて知らないわよ」
「おいおい、キスまでした仲だってのにそりゃないだろ?」
「くっ、口から出任せ言ってんじゃないわよ!!」
男が砕けた調子で吐いた台詞に激昂するアスカ。
「ファーストキッスだったんだぜ………それを遊び気分で奪っといて、おまけに洗面所に直行だもんなぁ………」
「アンタねえ!いい加減にッ…………………シンジ?!!!」
「よぉアスカ、久々」
やっと思い出したか、と、改めて軽い挨拶を飛ばす男。
「あ、あ、あ、………」
「んー?何だよ?足はついてるだろ?」
アスカの驚愕を軽くいなす男。
「アンタッ……シンジっ?!………シンジは…………だって…………」
記憶と現実の整合がつかず、アスカは完全に混乱に陥った。
「死んだ、なんて思ってた訳でも無ぇんだろ?」
生きていてくれた!
確かにそのことに対する歓びはある。
「ま、立ち話もなんだしな……」
しかし何より、目の前のこの男が、どれだけ記憶を掘り返し、当時のイメージをひっくり返しても、あの気弱で線の細い少年とイコールで結びつかないのだ。
「あ、シンジの兄貴」「おう、ただいま」「ただいまじゃねぇですよ、もう営業時間ですぜ」
引き締まった傷だらけの肉体と正反対に調子は軽く、本人は柔和な気分で細めているのであろう目には獲物を狙う食肉獣の様な野生を滲ませ、変声期を過ぎ完全に男を主張する喉からは下品なスラングが当たり前に飛び出してくる………
「つーわけで、俺今日は休むわ」「あ、兄貴ぃ………」
顔立ちに多少面影は残っているものの、四年前の少年と現在のこの男が同一人物だと言われて、あっさり事実を受け入れる者はまずいないだろう。
「アスカ?大丈夫か?」
「え?あ、えあ?あ、う、うん、ちょっと、考え事」
男の声に我に返ったアスカは、改めて辺りを見回す。
「………ここ、何処よ?」
「売春宿」
「ばっ売春宿ぉ?!!」
「そ。働いてんのは男だけどな。欲求不満の女から金を貰ってここで満足させるってワケだ」
「男ぉ?!じゃ、じゃ、まさか……………」
総じて、嫌な予感とは、
「あ、ちなみに俺、ここの稼ぎ頭だから」
「稼ぎって………やっぱりその……そういう事……したり………」
一番当たって欲しくない時に当たってしまう訳で……
「当然だろ、何の為に布団が敷いて有んだよ……って何だよ?んなことで赤くなるか、普通?随分初々しいなぁ……ヴァージンは松田で卒業してんだろ?」
「な、何でそんなこと知ってんのよ?!!」
更に漏れなくついてきたもう一つの爆弾を思わずつついてしまい…
「マナから聞いた」
「マ、マナ?!アイツ、ここに来てるの?!」
次々と現れるそれはグングンと火力が上がっていき…
「ああ、常連だよ。金払いは今イチだけど」
「ね、寝たの?!!」
「いやぁ〜、やっぱいいわ若いのは。普段オバハンの相手ばっかしだからなぁ……」
「シ、シンジィィィィィイ!!!!!!」
連鎖反応を起こし続け、一向に静まる気配のない爆発は、
「な、何だよ?何怒ってんだよ?!」
「アンタッ………アンタよりにもよってッ……マ、マナと寝たぁ?!……アタシがどれだけ誘惑しても振り向きもしなかった癖にッ………何でッ……何でアタシより先にあの女なんかとッ!」
乙女心までも掻き乱し、
「じゃ、お前も寝てみる?」
とうとう核弾頭まで誘爆してしまう。
「えっ?!ンッ!…ンンッ…ッア……や、イヤァッ!……ダメェ………ン…………ああ、シンジィ……………………………」 「♪」
楽しげにアスカを攻めるシンジは知らない。
この一件のせいで後に周囲から、「一発屋」の称号を賜る事を。
八ヶ月後、シンジを隣に、大きなお腹と緩みきった笑顔で彼女は語ったという。
「後悔って、後に悔いると書くのよ………」
 
 
続く……………筈


マナ:盗思狼さん投稿ありがとーっ!\(^O^)/

アスカ:フン。もうシンジは、アタシのものね。

マナ:どうして、アスカとの間に子供ができるわけぇ?

アスカ:やっぱ、相性がいいのね。

マナ:でも・・・これからどうなるんだろう。

アスカ:アタシは身重だし・・・うーん。
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