ン………変な夢……見ちゃった……
下品で軽くて何考えてんだかさっぱり分からない奴になっちゃってたシンジと再会して、おまけに…寝ちゃうなんて…
「……スカ……お〜い、アスカ?」
「……ンムゥ…あと十分〜〜」
分かってるってヒカリ……朝練の時間でしょ?お願い、もうちょっとだけ………
「あと十分も寝てたら洞木のLOVEらう゛シーン見逃すぞ?」
「ヒカリの?!ってアンタ誰よ?!」
「……寝惚けてんな?シンジだよ、い・か・り・し・ん・じ!」
「何言ってんのよ、行方不明のシンジがアタシの部屋に居るわけ………あれ?」
何処よ、ここ…
「やぁっと起きたか、相変わらず寝坊すけだな……」
あ…あ…アンタまさか………!
「シ…シシシシシシシシ・」
「ケ〇ケン?」
「シンジいぃぃッ?!!」
「……………またかよ」
 
E−After 〜大戦〜   第2話

 「出て来たぞアスカ」
再び眠りに落ちかけていた意識を、野太い声が引きずり戻す。
「何処?」
「居るだろ、青い看板の下。おっと」「わきゃッ?!」
窓から身を乗り出し過ぎたアスカを片腕でひょいと引き戻すシンジ。
「あ、ありがと……」
目の前の知り合いの変貌ぶりを再確認しながら、納得できない表情で礼を言う。
かつて水準以下の身体能力しか持たなかった男が今、身長170pを超える自分の体を軽々と、
それも利き腕でもない左腕一本で引っ張り上げてみせたのだ。
 「あれだよ、洞木のお相手」
言われて、ハッと我に返る。どうも調子が狂いっ放しだ。
今度は落ちない様に注意しながら、窓からヒカリの隣にいる褐色の男を見つめる。
シンジ同様この手の場所では珍しく、染めた様子の見えない黒髪。
ライトに反射する、褐色の肌。
美形とは言い難いが不細工な訳では決してない、『男』を全面に出したその顔は……
「す……す……」
「エイジっていってな、良い奴だぜ」
わざとらしさを微塵も感じさせない、しかしわざとやっているとしか思えない、平然としたシンジの台詞もアスカには届かず………
鈴原ぁ?!!ぁあ、あいつ、生きてたの?!」
「クッ!ブッハハハハ!!ヒーーーッ、ハハハハ!!!が、我慢出来ね、く、苦しッ、ハッ、ハッ……」
堪えかねて笑い出すシンジ。
矢張りわざとだったようだ。
「ま、俺も最初見た時は同じ様な反応したけどな。そっくりだろ」
「鈴原じゃ……ないの?」
「赤の他人だとよ。少なくとも、近い親戚じゃあ無いとさ」
妙に醒めた表情で呟く様に答えるシンジを、驚愕から立ち直りきらないまま呆然と見るアスカ。
 忘れていない。
そう、シンジは忘れていないのだ。
当時たった二人しかいなかった、友人と呼べる少年達の内一人が死体となって目の前に現れた事を。
ミンチメーカーの役目を仰せつかったのが、自分が駆る紫の巨人であった事を。
友人が入っているカプセルが握り潰される様を、特等席で見せつけられた事を。
現場にいる自分の意志をも握り潰してその陰惨な光景を決定した者が、自分がいた組織のトップであった事を。
そして恐らく、その一件を含む彼にとっての一年間………大義の下で盛りつく己一人の業が為に、
組織の上層部の者達が、自分達の命や心を道具として磨り減らし続けた事を。
 「お、大胆」
23時57分ジャスト。
シンジの声で戻した視線の先で、その日最後の驚愕が目に飛び込んでくる。
 五年来の親友・洞木ヒカリのキスシーン。
それも男の頬に手を添え、自分から顔を近づけている。
年頃の女なのだ。客観的に考えれば何の不思議もない。
ただ、普段の彼女を知る人間にとっては、
有り得ない、とまでは言わないものの、ほとんどそれに近い感覚を憶える光景だった。
 背を向けているのでヒカリの顔は見えない。
だが赤くなって狼狽える男の表情はよく見えていた。
それも、表面上ですら動揺を取り去れないまま、重ねた顔で見えなくなる。
 
 「やることやっといて今更何慌ててんだよ、エイジの奴」
長々と続いた店先でのキスシーンがやっと終わり、未だに一人呆然と立つエイジを、呆れの表情で眺めるシンジ。
「じゃ、行くか」
「行くって、どこに?」
いきなり腰を上げたシンジに、問いかけるアスカ。
「下。ほら、お前もそろそろやばいんだろ?帰り支度しとけよ」
促され、直接肌に蒲団を纏っていた事を思い出す。
「エイジも、いい加減娑婆に戻してやらないといけないしなぁ」
さっさと階段を降りていく後ろ姿を、慌てて追いかけながら、既に日が変わってしまった事を確認する。
二年半ぶりに「午前様」をやらかしてしまった……教官の渋い表情が脳裏に浮かぶ。
 「いつまで固まってんだよ、てめぇわ」
「あ、シンジはん」
声をかけられて、やっと凝固が解けた男が、親しそうにシンジの名を呼ぶ。
「ついでだから紹介しとくか。
エイジ、エヴァ弐号機パイロットの惣流・アスカ・ラングレーだ。んでアスカ、こいつがエイジ」
シンジが簡単に紹介を済ませる。
「アスカ?ああ、そちらさんがあの……」
紹介を受けたエイジが人懐こそうな笑顔を見せる。
「洞木はんから話は聞いとります。ご親友やそうで」
「ええ………」
アスカは苦い表情で応える。
遠慮無しに頭を掻いて照れる表情、がに股気味の、頬の片側だけに浮かぶ、少しイビツなえくぼ……
 穏やかな雰囲気を崩さないままこちらに向かって語りかけ続ける男に、文句をつけようとは思わない。
旧い知り合いに生き写しの顔で、にこやかに話しかけられているという現状自体が、どこかしら腑に落ちないのだ。
「そろそろ仕事に戻らねーとやばいだろ」
明るいとは言い難いアスカの表情を確認しながら、エイジの腕ごと腕時計を掴み、目線の位置まで引き上げる。
「ああ、もうこんな時間に…ほなシンジはん、わいはこれで」
「おう、またな…………さて、と。おーい!タカやん!」
エイジの姿が青い建物内に消える前に、男娼宿[酔狂館]より、目つきの悪い男が現れる。
「タカやん、見送り頼む」
「わかりやした。へぇ……へへへ、こりゃまた……霧島のお嬢も別嬪だったが………」
「……………」
脂ぎった視線が体中を這い回る様に感じて、思わず後ずさるアスカ。
「おいおい、こう見えてネルフのエースパイロットだぜ。
なんかしでかしたらマナより高くつくって事ぐらい、分かるよな?」
「エース………あのお嬢より、更に上なのか……」
「ま、死んでもいいってんなら俺は何も言わねぇけどな。たかがチンピラ一人殺すくらい……」
ネルフならば躊躇無しにやりかねない。
言外に語るその内容が、アスカには簡単に読み取れた。
「じゃ、俺もそろそろ店に戻んねーとな。オヤジさん、カンカンだろ」
「お陰さんで怒鳴り散らされましたよ。じゃ、こっちも行きますか」
呟いた言葉が自分を促す呼びかけだと言う事に気付いた時には、既に男がアスカの前を歩き始めていた。
「又来いよアスカ、激安価格でたっぷりサービスするからよ!」
商売人じみたことを言うシンジに、アスカははっきりと不満を憶える。
では今夜の事はお試し無料サービスだとでも言うのか。
男の後を歩きながら、冴えきらない脳内で思考が回転を繰り返す。
今夜起こった一連の出来事は、まるきり違和感の塊だ。
まるでこうであって欲しいと思う願望と、こういう風にだけは絶対なって欲しくないと思う、
ある種の知らざる事実に向ける恐怖が混ざり合った、夢であるかの様だ。
消えない肌のぬくもりは、さっきまでの出来事を幻想とすることを許さない。
だが、今ここで全てを認めるには、余りにも現実離れしているのだ。
 ここ?
こことはどこだ?
アスカは、目の前を歩いている筈の男がいつの間にか見えなくなってしまっている事に気付く。
男だけではない。
目に痛い程のネオンの明かりも、けばけばしい建物も、全てが消えてしまっている。
そこにはただ、闇があった。
ああそうか、矢張りコレは夢なのか。
「………すか、アスカ………」 ほら、ヒカリがアタシを起こす声が聞こえる……
「起きてよアスカ……の上遅刻までしちゃったら、反省文じゃすまなくなるわ」
待ってよ、ヒカリ…直ぐ起きるから……
「只でさえ昨夜は日が変わるまで帰ってこなかったんだから」
「!」「キャッ?!」
蒲団を飛ばして跳ね起きる。
見慣れた部屋だ。
「確か昨日、あれから………どうしたんだっけ?…………ん?誰?」
トんだ記憶の整理をする暇もなく、叩かれる部屋のドア。
「ヒーカーリー!アースーカー!点呼の時間過ぎちゃったよーー!」
断りもなくドアを開けながらずかずかと部屋に入ってくる、黒髪の女。 「マナ…」
「昨晩に続いて今朝も遅刻なんて、珍しいじゃない。教官なんかもぉ凄いわよ?帽子の横から角が見えてるんだから。お陰でとばっちり喰っちゃったわ。ランニング3セットも追加されたんだから、もぉ朝からクッタクタよぉ。で、ホントは昨日何処に行ってたの?教官にも言わなかったなんて、これもアスカにしちゃ珍しいわよねぇ。何か事情でもあんの?」
ふと早口のトークを打ち切り、いやらしい笑みを浮かべるマナ。
「それとも、ジジョウじゃなくて、ジョウジ?」
「!!」
昨日のシンジとの出来事を思い出し、赤くなるアスカ。
「あらぁ、もしかして図星かなぁ?」
マナのにやけた顔を無視して、記憶は高速で巻き戻され、シンジと寝る切っ掛けとなった部分が再生される。
『ヴァージンは松田で卒業してんだろ?』
『な、何でそんなこと知ってんのよ?!!』
マナから聞いた』

「そう………そういえばそうだったわね………」
「って、アスカ?」
奇妙な友人の気配に、逃げ腰になるマナ。
「そ、そうそう!教官が呼んでるわよ。凄い剣幕だから早く行った方が良いわよ!じゃあね!って、ヒカリ?!」
本来の用件を切り出し、さっさと帰ろうとした時、倒れている友人が視界に入り込む。
「マナぁ………ちょぉっと聞きたい事があるんだけど、いいわよねぇ?」
一瞬の隙をついて、がっしりと肩を掴まれてしまう。
「き、きききき聞きたい事って?な、何かなぁ、一体……」
「『Blue Rose』に居る関西弁のコの事とかぁ、『酔狂館』の人気ナンバーワン店員の事とかよぉ?
特に後ろの方は、微に入り細に渡って、たぁぁぁぁっぷり聞きたいんだけど?」
アスカのにこやかな笑顔と対照に、肩にかけられた手の圧迫が増していくのを感じながら、引きつった笑顔でマナは思った。
(……シンジぃ……私、今日が命日かも……TT)

 
続く…………筈

p.s. 例えば大声で叫びたい、「王様の耳はロバの耳!」

ども、作者の盗思狼です。
とりあえず今一度……タームさん、掲載ありがとうございます。
「大戦」とか題してる割りに全然戦争シーンが出て来ない……順調に進んでも話の1/3くらいはこんなです。
順調じゃないので話数増えるかも………ちゃんと終われるのか>俺
HN通り素人な(ええ、そういう意味なんです)ので、どうか長い目で見てやって下さい。
トウジの顔でえくぼ…マズったかな?(;−−
ヒカリ嬢の扱いも後ろの方はなんだか酷い……親友に忘れ去られてるし。(;−−
まあ、前半でいい目を見たという事で………良いのか?(;−−
フン。もうシンジは、アタシのものね。
ええ、確かに「八ヶ月後、大きなお腹と緩みきった笑顔でシンジを隣に」しているとは書きました。
で・も。逆隣りに、
「シンジ似な我が子の世話に奮闘しているマナがい」ないとは、何っ処にも書いてませんよ?( ̄▽ ̄
ま、いるとも書いてないけど。
何せウチ(大戦)のシンジ君ですからねぇ、コンセプトが「アンタ、誰?」だし……
性的表現は、1話のアレの他は、マナ嬢が猥談するかも知れない位ですが……ウチのマナ嬢はこんなですから。
全員の性格を「ウチのはこんな」で済ますのは、流石にまずいだろなぁ………
アスカ嬢の怒りが本格的に爆発しない内に、この辺で終わっときます、はい。
今後とも何卒よろしく………あっ、そうそう。
批評のメールは大歓迎ですが、誹謗は問答無用でポイしますよ、中傷も。
他人様にメール出すんなら、最低限その程度の違いは分かる常識人になってからにして下さいね?
恥くらいは知っている人にで無ければ、付き合う気はありませんから(^‐^
無論、ウィルスやボムもお断りです。
では。また3話で遇いましょう。


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