「遅いわ!!」

「ゴメン、勘弁して!」

ユイの研究室では案の定、キョウコは予想通り怒っていた。
が、声色が真面目なものへと変わった。

「・・・時間、無いんでしょ?」

「えっ?ええ、無いわね。」

「彼の身体データは入力済み。
 後は出来るのを待つだけよ、とりあえずはね。」

「ありがとう、大感謝!!」

ユイは明るい声をあげるが、キョウコの表情は重い。
いくらカヲルを救うためとは言え、やっている事は気分のいいことではない。
それはユイも思っている事だった。

「ごめんなさいね、巻きこんでしまって。」

「仕方ないわよ。リッちゃんには言えないでしょ、彼の事。」

「ええ、言っても信じてくれないでしょ?
 まあ、シンジが全部話すんだったら、私達も話さなきゃいけないんでしょうけどね。」

「そうね。
 でも、誰にも言わずに事が全部上手くいけば、話す必要なんて無いわよ。」

ユイはキョウコが進めたデータを見ていた。
キョウコの事を信頼しているが、時間も無い上に失敗できないのだ。

「そうだけどね。」

「特に問題は無いはずよ、貴方の計画通りに進めたから。」

チェックが終わったのだろう、ユイは顔を上げた。

「・・・・・OK!さて、コーヒーでも飲みにいきますか?」

「当然、貴方のおごりよね?」

「もちろん!おごるわよ〜、コーヒーわね。」

「セコイ事言うわね〜。まっ、いいわ。」

2人はユイの研究室を出ると、食堂へと向かった。





食堂に入った2人は隅の方に座ると、サンドイッチとコーヒーで小腹を満たしていた。

「シンジのお料理が食べたいわ・・・。」

「同感、彼のは美味しいのよね・・・。」

ここのところ、2人は家に帰っていない。
不便な事は無いのだが不満はある、その一つがシンジの料理だ。
彼の料理と比べると、食堂の料理も悪くないのだが2人には満足できないのだ。

「作業の方は今日いっぱいで終わるはずよ。」

「じゃあ、明日は食べられるかしらね・・・。」

「食べたいわね・・・・。」

休憩中とは言え、大事な作業をしているのにこの余裕。
さすがは三賢者の2人、只者ではない。







                   The Restart Of Evangelion

                        第24話 「2人目のシ者 前編」  









(暇だなぁ、カヲル君のお見舞いにはいけないし・・・。)

夕方にシンジは一人、散歩をしていた。
アスカは1人でどこかに出かけてしまい、レイはお昼寝中である。

「今日は私が腕を振るわせてもらうわ!」

マナのこの一言で夕飯を作らなくて良くなったために暇だったのだ。
そんなわけで、家の近所をふらふらとしている。

そんなシンジを遠くから見つめる視線があった。

(彼が碇シンジ君か・・・好意に値する顔立ちだね。)

視線の主はシンジと同じ学校の制服で、ズボンのポケットに手を突っ込んで立っていた。

(今すぐ接触したいけど、予定だと明日には会えるからね・・・。
 さて、次は僕に似た『気配』を持ってる人物を探しにいこうか。)

シンジを見ながら微笑むと、その人物は姿を消した。





ここ病院では、カヲルがアダムと対峙していた。

『色々と画策している様だね、カヲル。』

「・・・君の好きにはさせないよ。」

カヲルは気づかれていた事に驚きを隠せなかった。
しかし、ここで退くわけにはいかないのだ。

『もう遅いよ。それに、なんにせよ僕は君から出ていくからね。』

「!! それはどういう事なんだい?」

『スケジュール通り、もう一人の、いや、この時代の渚カヲルがここに来るからね。』

(そうか!!あの時の僕ならアダムの望む事を起こしやすいからね・・・。)

『抵抗しても無駄だよ。君には体を提供してもらってたからね、殺しはしないよ、ここではね。』

抵抗しても無駄。
アダムの『力』によって、アダムが『前』に出る事は容易い。
それに打ち勝つだけの『力』が無いカヲルにはどうしようもない。

「だったら、君の思う通りにすればいいさ。」

『・・・・・。』

「シンジ君達が君を止めてくれるからね。」

『・・・楽しみにしてるよ。』

(シンジ君・・・頼むよ。)

アダムはその言葉を最後に、声が聞こえなくなった。
カヲルも疲れてしまったのか、ベッドに横になると眠りについた。





時間も経ち、シンジが家に戻ると夕食が出来あがろうとしていた。

「ただいま〜。」

「お帰り、シンジ。もうちょっと待っててね。」

「お帰りなさい、お姉ちゃんも帰ってきてますよ。」

アスナはマナと一緒にいる所為か、シンジにも普通に話しかけてくる。
アスカが帰ってきているとの事なので、リビングの方へ行ってみるとアスカとレイがいた。

「お帰り、シンジ!」

「お帰りなさい、お兄ちゃん。」

「ただいま、2人共何してるの?」

アスカは手に持った何かをシンジに見せた。

「レイにもお勉強よ、お勉強。」

「私、こう言う事わからないから・・・。」

それはファッション雑誌であった。
アスカ達と一緒に行動する事が増えてきていると言えど、そう言う知識は未だに乏しい。

「そっか。じゃあ、僕はお風呂に入ってこようかな?」

「アタシも一緒に入ろっかな〜♪」

「私も・・・。」

「ダメだって!もう、年頃の女の子なんだからさ・・・。」

シンジがぶつぶつ言いながらバスルームへと消えていった。
リビングにいるアスカとレイは顔を見合わせると、クスクスと笑っていた。



(ふう・・・なんだかんだで仲がいいんだよね、あの2人。)

ガシガシと頭を洗いながら、アスカとレイの事を考えていた。
前回は仲が悪かった2人。
やり直したとは言え、仲がいいのはいい事である。

(それにしても、カヲル君は大丈夫かな・・・会いたいよ。)

今度はゴシゴシと体を洗いながら、カヲルの事を考える。
『もう来ないで欲しいんだ。』こう言われてしまっては、行きたくても行けない。
ユイに電話して聞く事も出来るが、出来る事なら直接会って話したいのだ。

(・・・次の使徒はどうなるんだろう、カヲル君、なのかな・・・・・?)

ゆっくりと湯船に浸かりながら、次の使徒の事を考える。
前回は『渚カヲル』であり『第17使徒タブリス』だった。
しかし、ここにカヲルがいるとはいえ、それはありえる事である。

(カヲル君が心配している事はこの事、だと思う。2人で僕らに襲い掛かってくるのかな・・・。)

パシャパシャと顔を洗いながら考えつづける。

(手駒としては四号機しかないはず。
 弐号機も乗っとられるんなら、初号機も可能なんだよね・・・。
 あれには『魂モドキ』が入ってるんだから、その点は同じなんだしさ。)

「シンジ、ご飯出来たから早く出てきなさいよ。」

「わかった〜。」

外からアスカの声が聞こえると、そこで考えるのを止めた。

(なるようにしかならないけど・・・がんばろう!!)

シンジはお風呂から出ると、ダイニングへと向かった。



「ゴメンゴメン、お待たせ〜。」

「シンジも来たし、食べましょうか?」

マナがそう言うと、全員が黙って手を合わせる。

「「「「「いただきます。」」」」」



「最近、ママ達とご飯食べてないわね。」

「そうだね、色々忙しいんだよ。」

アスカとシンジが雑談を始めた。
親の考えてる事と一緒の事を考えるのは親子だからであろうか。

「おばさん達ってそんなに忙しいの?」

「渚さんの事とかありますから、色々あるんですよ。」

マナが口を開けば、アスナが返す。

「・・・全部終われば問題無くなるわ。」

「それはそうだけどね・・・。」

シンジがレイに返す、こんな調子で夕食の時間は過ぎていった。





「ねぇ、シンジ。」

「何、アスカ?」

夕食後、2人はリビングのソファーに並んで座っていた。

「最後の使徒ってさ、渚じゃないの?」

「・・・なんでそう思うの?」

「女の勘よ、って違うけど。
 アイツがアタシを戻したり、アスナの事とか、人としては出来ない事ばかりやったもの。」

(アスカには話してもいいのかもしれない。)

シンジはアスカの話を聞きながら、そう考えていた。

「アスカ、いい?」

「何よ?」

シンジは深呼吸をすると、アスカに話し始めた。

「アスカの言う通り、カヲル君は使徒だったよ。」

「だったよ?って、今回はどうなのよ?」

「違うよ、彼をそう言う風に呼ぶのなら『アダム』だからね。」

「な、何ですってぇ〜!!」

大声をあげてソファーから立ち上がった。
信じられない、そんな表情でシンジを見つめていた。

「シ〜!静かにしてよ。」

「わ、わるかったわね・・・。」

アスカはソファーに座り直すと、シンジは話を続けた。

「だから、アスカを戻したり出来たのさ。」

「だったら、アンタはどうしたのよ?」

「・・・レイだよ。」

「アイツは人間でしょ?そんな真似出来っこ無いじゃない。」

アスカの言う通りだが、彼女はまだ知らないのだ。
シンジはアスカの目を見据えながら言った。

「レイは父さんの計画によって『リリス』となったんだ、サードインパクトでね。」

「!!そ、それって・・・。」

「彼女は僕に『願いがあるか』って言ったんだ。
 僕はそれで戻ることにした、皆を護る為に・・・。」

シンジは目線を外し俯きながら、そう言った。

「じゃあ、レイは・・・?」

「人間だよ、母さんがそう言ってた。」

「・・・色々あるみたいね。」

「アスカは自分自身が経験したこと、覚えてることしか知らないんだ。
 だから、第16使徒は始めて見たでしょ?」

アスカは黙って首を縦に振った。

「僕は違う、全てを『識った』んだ。
 セカンドインパクトの事、EVAの事、使徒の事、大人達の事、人類補完計画の事、全てね。」

「それって、『リリス』が教えてくれたの?」

シンジはゆっくり首を横に振りながら、話しを続ける。

「僕は1人で戻ってきたんだ、『リリス』の力を受け取ってね。
 レイはカヲル君が戻したんだ、マナがネルフにいる事はレイがやったみたいだけどね。」

「・・・シンジは『リリス』なの?」
(シンジが人間じゃなくたって、アタシはアンタの事が・・・。)

不安げな表情でシンジを見つめながらアスカは聞いた。

「違うよ、母さんをサルベージするのに『力』を渡したからね。
 母さんもコアにいろいろやった際に『力』を使いきったから、僕達親子は人間だよ。」

「よかった・・・。じゃあ、アタシ達のママは?」

「カヲル君が同様にやったんだ。
 サルベージは成功したけど、カヲル君は人間になれなかったんだ。」

「・・・そうなんだ。じゃあ、アイツには頭が上がらないわね。」
(ただのホモじゃなかったわけね、なんか悪い事をしたのかもしれない気がするわね・・・。)

アスカは少しバツの悪そうな顔をしながらそう言った。

「退院したらさ、お礼でも言ったらいいんじゃない?」

「・・・そうね。」

こうして話が一区切りつくと、2人は他愛の無い雑談を楽しんだ。





その頃、話に上がったカヲルはベッドで半身起こしていた。

(来たようだね・・・。)

ガチャッとノックも無しにドアが開くと、誰かが入ってきた。

「見つけたよ。」

そう言って人影は、カヲルの元へと近づくと途端に驚きの表情を浮かべた。

「!!君は・・・僕と同じ顔をしているね、何者なんだい?」

「僕は『待ち焦がれたよ、渚カヲル。』
(アダム!!)

カヲルの意識を乗っ取ると、アダムはもう一人の渚カヲルに話しかけた。

「僕の事を知っているのかい?」

『もちろん。僕の体になってもらえる存在、第17使徒・タブリスこと、渚カヲル、5thチルドレンだね?』

「・・・死んでもらうしか無いようだね。」

カヲルは床を蹴ると、アダムに向かって襲い掛かってきた。
しかし、何の事も無く止められてしまった。

「な、何だって?!」

『そういう歓迎は好きじゃないよ。』

アダムの右手が光を帯び始めると、カヲルの口元に近づける。

『君の体を貰うよ、と言っても共棲だけどね。』

「き、君は一体何者なんだい?」

『挨拶が遅れたようだね、僕の名はアダム。』

「!!」

『目的は君と同じかな、ある人間と決着をつけた後に人類を滅ぼすのさ。』

そして、アダムは光っている右手をカヲルの口に突っ込んだ。

「ううううう!!!!!」

手首まで入ると光がカヲルの体へと移っていく、移り終えると2人のカヲルはその場に倒れた。





「出来たわ・・・。」

「彼もこれで一安心ね。」

ユイの研究室、ここではカヲルの体が出来あがったところであった。

「夜も遅いし、明日の朝にしますか?」

「そうね、今日はもう寝ましょう。」

研究室に置いてある、大きなダブルベッドに向かう2人。

「始める前に、シャワーを浴びるのを忘れない様にしないとね。」

「当然。今日はもう寝るわ・・・。」

ユイとキョウコはベッドに倒れこむと、そのまま眠りについてしまった。





『上手くいったようだね。』

学生服姿のカヲルが立ちあがると、体をほぐしながら言った。
彼の足元には病院着のカヲルが倒れている。

『君の大事な碇シンジ君を倒してから、人類を滅ぼすとするよ。』

アダムはカヲルをベッドに寝かせてシーツを掛ける。
そして、その部屋から立ち去った。


『全ての準備は整った・・・明日が決戦だよ、碇シンジ君。
 うふふふふ、あはははは、あ〜っはっはっはっは!!』

アダムは大きな声で笑う、楽しみで仕方が無いと言ったように。
最後の決戦と1つの命が救われるか否か、全ての結果は明日出る・・・。







<後書き>
ども、ウエッキーです。

とりあえずはここで一区切りです。
カヲル(帰還した方)は救われる為の準備は整い、カヲル(アダム共棲)は決戦を楽しみにしている・・・。
次回は戦闘シーンがメインになりそうな気がします、上手く書けるといいんですけど、努力します!!

カヲルが2人だとややこしいような、アダムになってるとは言えね。(−−;

P.S コメント係のアスカ様へ 
始めの方の「シンジの散歩」は本当はアスカと一緒の予定でしたが、『スマキ』のお礼に一緒にさせませんでした。m(_ _)m


<次回予告>
ついに始まった戦い、シンジvsアダム。
アダムによって、1対1の戦いに苦戦を強いられるシンジ。

そんな中で、カヲルはユイとキョウコの2人と共に出来あがった体に『魂』を移す作業を開始する。
はたして、彼は『人間』になれるのか?

使徒との対決はここで最後を迎える!!

次回、The Restart Of Evangelion

        第24話 「2人目のシ者 後編」

を、お送りしまーす。


アスカ:アタシとシンジの良い雰囲気もあってねぇ。とってもいい話だったのにねぇ。(ーー#

マナ:なに膨れっ面してんのよ。

アスカ:後書き読んで、機嫌が悪くなったのよっ!(ーー#

マナ:そりゃ、スマキになんかしたら・・・。ウエッキーさんが可愛そうよ。(^^;

アスカ:ふーん。そー。(ー。ー)

マナ:これに懲りて、その乱暴な性格を直したらぁ?

アスカ:でも、大丈夫よ。

マナ:大丈夫? どうして?

アスカ:今日は、アンタをスマキにしてあげるわっ!

マナ:えっ? わ、わたしは、いいわよ。いやっ! 離してっ!

アスカ:うりゃーーーーーーーっ! ウエッキーとスマキになっとれーーーーーーっ!!!!(グルグルグル)

マナ:いやーーーーーーーっ!!!!(@@)

アスカ:フッ。一石二鳥とは、このことねっ!(ーOー)
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