カヲルがNervに現れた翌日、ここではアスカとレイの捕獲訓練が行われていた。 「くっ!!」 「!!」 赤と青の巨人の周りを『人間』が走りまわる。 姿形は渚カヲルになっているが、彼がこのような動きをするかどうかはわからない。 『あくまで、動くスピードは予測でしかないのよ。 これ以上早いかもしれないし、遅いかもしれない・・・どちらにせよ、2人にはこれをクリアしてもらうわ。』 開始前にリツコが2人にこう言った。 そこから1時間が経過したが、触れる事すらも出来ないのが現状だ。 始めたばかりとはいえ、ミサトは先行きに不安を感じていた。 (正直、上手く行けば御の字だわ・・・ってこれくらいしかないし。 捕獲するんだから、虫取り網みたいのでもいいかと思ったんだけど、ATフィールドで防がれるのがオチでしょうしね。) と言っても、リツコには『網』の製作も頼んではいた。 (形振り構っていられないのよね、2対1だもの、何とかなるはず。) Nervのメンバーはまだ知らなかった、敵は1人ではないと言う事を・・・・・・・。 訓練中、リツコは後をマヤに任せると部屋を出た。 「何処行くの?リツコ。」 「ちょっとね、ヤボ用があるのよ。」 「そうなの?」 「ええ。」 ミサトとの会話を終え、専用のエレベーターに乗り込む。 目的地まで降り、部屋の前にあるスリットに自分のIDカードを滑らせた。 『ピピッ!プシュー!!』 機械音が鳴り、ドアが開く。 中に入った時、リツコは異変に気付いた。 「ど、どういう事なの?!」 走ってその部屋から出ると、リツコは司令室へと向かった。 『ドンドン!!』 「赤木です!司令、大変です!!」 司令室の前に到着するや否や、リツコはドアをノックしながら叫んだ。 『プシュー!』 ドアが開くと、中へと駆け込みこう言った。 「司令、『予備』が全て無くなってます!!」 「・・・どう言う事だ?」 リツコは息を整えてから、説明を始めた。 「今日は定期検査の日だったんですが、そこの水槽が空になっていたんです。 盗もうにも私達以外は入れませんし、破壊された後はありませんでしたけど・・・。」 「・・・・・・・。」 「司令?」 「・・・構わん、生成してる時間は無い。 現在のレイで計画を実行するだけだ、危険な任務からは外す様に。」 「了解しました。」 指示を受け、リツコが部屋から出て行く。 (渚カヲルの仕業なのか・・・どこまで私の邪魔をすれば!) 自分の計画を邪魔され、ゲンドウは忌々しさから奥歯を噛み締めた。 ・ 自由への道のり、愛の扉 ・ 第3話「動く刻」 「今日もダメか・・・・・。」 訓練開始から3日が経過した。 未だに触る事さえ出来ず、その日の訓練を終えた。 「・・・やっぱ、厳しいのかしらね?」 「そうも言ってられないわ、最後に物を言うのはあの子達の力なんだから。」 リツコがキーボードで何やら打ち込むと、画面に色んなグラフが出てきた。 「これは?」 「今日までの2人のシンクロ率、ダミーの速度をグラフにしたものよ。」 「どれどれ・・・・・って、どんどん下がってるじゃない!」 ミサトが叫ぶのも無理はない、2つのグラフは『右肩下がり』になっているのだ。 「シンクロ率はどの日も開始した時が1番良いのは当然ね、疲労度で下がるのも止む無しよ。 ダミーの速度についてなんだけど、初日がダメだったからどんどん下げていったのよ。」 「普通逆じゃないの?」 「ダミーはそうすればよかったかもね。 と言っても、今日は初日の7割のスピードだけど触る事すら出来てない・・・結果としては同じよ。」 言い終えてキーを叩き、グラフを消した。 「そう、『網』の方は明日出来あがるわ。 データの入力は済んでるけど、微調整が必要なのよ。」 「とりあえずは捕まえてもらわないとね・・・。」 ロッカールームではアスカとレイが着替えていた。 「・・・・・・・。」 「・・・・・・・。」 お互いに話す事はしない。 いつもはアスカが適当に絡んでくるのだが、訓練を開始してからそれが無くなった。 (今日もダメだった・・・このままじゃダメなのに!!) 『ガァァァン!!』 拳を握り、思いっきりロッカーを殴る。 自分の不甲斐なさ、生活環境の悪化、アスカの情緒は不安定だった。 「・・・・・・・。」 レイはそんなアスカを気にするでもなく、着替えを終えると1人家路につく。 自分の住んでるマンションが見えてきた時、入口に人影が見えた。 いつもの彼女なら気にもしないのだが、人影の顔を見た時に彼女の表情が一変した。 「・・・綾波さんだよね?」 「貴方・・・。」 「『元』フィフスチルドレン・渚カヲルだよ。」 笑顔で2回目の自己紹介をするも、気にも止めないで尋ねられた。 「・・・碇君はどこ?」 「僕達の家にいるよ、案内は今の所は出来ないかな。」 「・・・今の所?」 「そう、シンジ君が望めば案内できる。」 「・・・・・・・。」 (この『人』は適当な事を言ってない、そう思う・・・。) 笑顔のカヲルの目を見ながら、レイはそう思っていた。 「・・・碇君は無事なの?」 「もちろんだよ、僕と彼は友達だからね。」 「よかった・・・。」 ほっと安堵の息を漏らす、それだけでも分かったのが嬉しかった。 「心配なのかい?」 「・・・・・・・。」 「黙っていても今の表情でわかったよ、君になら教えてもいいかな?」 「・・・何を?」 シンジの事には反応するレイを見ながら、カヲルは続けた。 「彼は今、僕達と同じ存在になろうとしている。」 「!!」 レイの目が大きく見開かれ、カヲルを見つめる。 「アダム、は知ってるよね?」 「ええ・・・。」 「それを碇ゲンドウが持っていた事は?」 「知ってるわ・・・。」 「でも、それはシンジ君の元にある、この前返してもらったからね。」 「そう、あの時に・・・。」 前にゲンドウ・冬月・カヲルの会話は下にいた者達には聞こえていなかった。 光ったと思ったら、カヲルの姿は消えていた・・・何が起こったかすらもわかっていなかったのだ。 「彼は自由を欲していた、それを手に入れるには何が必要だと思う?」 「・・・・・・・。」 「わからないかい?」 「・・・ええ。」 「『力』だよ、何人にも支配されないだけの力・・・それが。」 「アダム・・・。」 言おうとする言葉を先に言われても、カヲルは表情を変えずにレイの反応を見る。 (そうなったら、私も碇君と同じになれる? 私の中にある『力』が発現して、リリスとなれば・・・・・。) 俯き、何かを考える仕草を見ながら、カヲルはレイに声をかけた。 「でも、シンジ君はまだアダムとなっていないんだ、選択している所なのさ。」 「・・・・・・・。」 カヲルはレイに背を向けた。 「今度会う時はシンジ君も一緒かな? とりあえず、君は考えておいてほしい。」 「・・・何を?」 「僕達の所へ来るのか、それとも戦うのか、ね・・・。」 そう言うと、カヲルはそこから立ち去っていった。 「碇君・・・・・。」 残されたレイは、カヲルの立ち去ったほうを見ながら、そう呟いた。 それから2日後。 「捕まえたー!!」 アスカが見事に、その手に『人間』を捕らえていた。 「このまま少しずつレベルを上げていって、作戦の決行は明日にするわ。」 「明日?!急にどうしたの?ミサト。」 ミサトはリツコに何かの書かれた紙を見せた。 『捕獲猶予は明日までとする。 碇ゲンドウ』 「それはメールで来たのをプリントアウトした物よ。 何でか知らないけど、そう言う事らしいわ。」 (『計画』のスケジュールを狂わせるわけにはいかないと言う事ですか、碇司令・・・。) 「そう・・・。」 無論、それはミサトには言わない。一言そう言って、その紙を返した。 「アスカ、スピードのレベルを上げるわ!」 「任せて!絶対に捕まえるわ。」 「期待してるわよ!・・・リツコ、お願いね。」 アスカが訓練をしている中、レイはゲンドウに呼び出されて司令室にいた。 「・・・レイ。」 「・・・はい。」 「我々に残された時間は少ない・・・。」 「・・・・・・・。」 「・・・シンジと渚カヲルの捕獲を明日行う。」 「!!」 「我々の計画にスケジュールの遅延は認められんのだ・・・。」 「・・・はい。」 「そこで、お前には作戦の参加を認めん。」 「!!・・・何故、でしょうか?」 「お前は計画の要だ、何かあってからでは遅い・・・。」 「しかし・・・。」 「・・・渚カヲルによって、お前の予備は無くなってしまった。」 「!!」 「・・・そう言う事だ、葛城三佐には通達済みだ。」 「さ、作戦の成功の為には私も・・・。」 「・・・レイ。」 「!!・・・はい。」 「お前は当日、ここで待機だ・・・わかったな?」 「・・・・・はい。」 「それだけだ、下がっていいぞ。」 「・・・失礼します。」 落胆の表情を浮かべながら、レイは司令室を出ていった。 「碇、委員会の通達は無かったはずだが?」 「・・・アダムは成長している、これ以上は待てないのだ、冬月。」 レイが発令所へと向うと、ドアの内側から声が聞こえてきた。 「どう言う事よ!ファーストを作戦に参加させないって!!」 「碇司令の命令なのよ、仕方ないわ・・・。」 「司令はシンジが心配じゃないのよ!」 「あら、アスカは1人じゃ出来ないの?」 「リツコ!!」 「なっ!アタシは1人で構わないわよ!!」 「だったら良いじゃない、頑張りなさい。」 レイは中へ入るのを止め、そのまま帰る事にした。 (私は碇君に会いたい・・・会えると思ったのに。) 一方、シンジは部屋でアダムを見つめていた。 (決めたよ、僕は・・・・・・・。) カヲルの言うタイムリミットは明日だが、シンジは自分の結論を伝える為に部屋を出る。 『コンコン!』 「・・・どうぞ。」 「カヲル君・・・。」 「やあ、シンジ君。」 入ってきたのがシンジだとわかると、カヲルは笑みを浮かべた。 「決めたよ、僕。」 「!!・・・で、どうするんだい?」 「僕は・・・・・・・。」 アダムが『強奪』されてから1週間が経ったこの日、Nervでは捕獲作戦が開始されようとしていた。 「作戦を説明します!」 ミサトの声にも緊張が感じられた。 それが影響してか、その場にいる作戦に参加するメンバーにも緊張感が包む。 「EVA弐号機は出撃後、Wポイントまで移動。 私もスタッフを率いて、指揮車で同行します。」 大型ディスプレイに映し出されたポイントを、棒で示しながら説明を続ける。 「相手は使徒・渚カヲル1人、EVAが出撃すれば迎撃に出るはずです。 そこを、捜索隊メンバーでシンジ君を保護します。 ここまではいいかしら?」 ミサトの問いかけに、メンバーは黙って首を縦に振る。 「アスカには渚カヲルを捕獲してもらうわ。 最悪、捕獲できない場合は時間だけでも稼いで頂戴。 その間にシンジ君だけでも保護するわ、OK?」 「任せてくれていいわよ、捕獲するわ!」 「期待してるわ!それではこの作戦を『ホカク作戦』と呼称します、各員配置についてください。」 参加メンバーが部屋から出て行く中、アスカは思った。 (『ホカク作戦』ってまんまじゃん、ミサトもネーミングセンス無いわね・・・。) それから30分後、ミサト達はWポイントに到着した。 「それでは、ただ今『イチマルマルマル』をもって『ホカク作戦』を開始します!!」 <後書き> ども、ウエッキーです。 何とか出来あがりましたが、ちょっと中途半端かも? その辺はご勘弁下さい。m(_ _)m 今回は自分の都合(スパロボ)で投稿が遅れてしまった事もあり、別物を1本投稿しております。 大した物ではありませんが、読んでもらえれば幸いです。 ジャンルはLAS、かなぁ・・・?(^^; そんでは! ウエッキー「し、死にそう・・・。」 レイ 「・・・まだ終わってないのね。」 ウエッキー「これを書いてる時が88話、2週目をやりたく無くなったよ・・・。」 レイ 「・・・そう、じゃあこれの続きを書いて。」 ウエッキー「そうですねぇ。」 レイ 「それと・・・。」 ウエッキー「何ですか?」 レイ 「もう1つの・・・これは何?」 ウエッキー「思い浮かんだんで、遅くなったお詫びになればと・・・。」 レイ 「・・・私じゃないのね。」 ウエッキー「コメント係のアスカさんが恐いですからねぇ、LASの献上ってところです。」 レイ 「私も・・・。」 ウエッキー「へ?」 レイ 「私も、こういうお話に出たい・・・。」 ウエッキー「その内、に考えときますよ・・・多分。」 レイ 「約束、して・・・。」 ウエッキー「そ、それは厳しいです〜、さよなら!!」(逃走) レイ 「・・・逃がさないから。」 <次回予告> 『ホカク作戦』により出撃した弐号機をカヲルが迎え撃つ。 その間にシンジを保護する捜索隊。 しかし、吉報は届かずに悲鳴が指揮車に鳴り響く。 その頃、本部待機を命じられたレイはその姿を消していた・・・。 次回、・ 自由への道のり、愛の扉 ・ 第4話 「開戦」
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