それから30分後、ミサト達はWポイントに到着した。

「それでは、ただ今『イチマルマルマル』をもって『ホカク作戦』を開始します!!」













その頃、『家』にいたカヲルは沢山の気配を感じていた。

「どうやら、お客様が来たみたいだね・・・。」

「Nervの人達ですか?」

近くにいたイロウルが尋ねた。

「彼ら以外に、好き好んでこんな所に来る人達はいないよ。」

「・・・・・『下僕』もいるようですが?」

「ああ、弐号機とか言うやつだね・・・構わないよ、僕が出迎える。」

そう言って、カヲルは家から出ようとすると、イロウルがまた尋ねた。

「私達はどうすれば?」

「ここにも来るだろうからね、『家』の中には入れないでほしい。」

「わかりました。」

「頼んだよ、ここは任せたからね。」

そう言って微笑むと、カヲルは家から出ていった。

残されたイロウルは目を閉じて、精神を集中させる。

{聞こえてましたね、皆さん・・・・・。}






一方、Wポイント入口には弐号機と指揮車がいた。

「ミサト、アタシはここで待ってればいいわけ?」

アスカは苛立ちを感じさせる声でミサトに尋ねた。

「シンジ君がどこに居るかわからない以上は仕方ないわ。
 けど、彼は現れるはずよ、ここにね。」

「どうしてよ?」

「・・・彼が只者じゃないからよ。」

「は?」

ミサトの答えにアスカは一瞬あっけにとられた、だが次の瞬間。

「ア、アンタバカー!何よそれ、来なかったらシンジが助けられないじゃない!!」

相手が上司だろうがなんだろうが、思った事を思いっきりぶちまけた。

「バ、バカって、しょうがないでしょ!そう思ったんだからさ・・・。」

『そう、思った通りでしたよ。』

自分達以外の声が会話に参加してきた瞬間、2人は辺りを警戒する。

『そんなに警戒しなくても、僕はここですよ。』

指揮車と弐号機から少し離れた所に、カヲルは立っていた。

「シンジ君を取り返しに来たわけですか?」

「ついでにアンタも捕獲の対象よ。」

アスカは身構えながらそう言うと、ミサトが続ける。

「碇司令からの命令でそうなったわ。
 素直にシンジ君を返して、貴方がついてきてくれると嬉しいんだけど?」

「そうですね・・・・・。」

悩む仕草を見せるカヲル、アスカとミサトは警戒しつづける。
が、次に発せられた言葉は予想と違うものだった。





「わかりました。」





「「へっ?」」

間の抜けた声を出すアスカとミサトに、カヲルはおかしかったのか笑みを浮かべて続ける。

「わかりました、と言ったんです。
 ただし、シンジ君がここに来れば、ですけどね。」

「アンタがここにいるんだから、すぐ連れてくるわよ!」

(さっきといい、今といい、どういう事なの・・・敵は、使徒は彼以外にもここにいるの?)

カヲルの態度が予想とは違っていた事に、ミサトは疑問を覚えながら警戒していた。

「葛城三佐。」

「何か?」

「捜索隊から通信が入ってます。」

「繋げて。」

オペレーターが何やら操作をする、ミサトは息を大きく吸って繋がるのを待った。

『こちら捜索隊、本部聞こえますか?』

「聞こえてます、そちらの状況は?」

『はい、建物を発見しました。サードがいるものと予想されます。』

「わかりました、建物内での捜索をお願いします。」

『了解しました。』







Nerv本部・発令所

一方、発令所ではゲンドウがこの作戦をモニターで見ていた。

「上手くいきそうだな?」

「・・・わからん。」

(いきそうでは困るのだ、計画の遂行にはアダムが必要なのだからな。)

楽観視する冬月に対し、ゲンドウの表情は厳しい。
モニターから視線を外すと、リツコの周りが慌しくなってるのが目に入った。

「・・・赤木博士、何があった?」

「は、はい、レイがまだ来ていないのです。
 今日が本部待機だとは先日伝えたはずなのですが、携帯も繋がらず、家にもいないようなのです。」

(この前からおかしな所があった・・・・・まさか!)

この前、呼び出して本部待機を伝えた時からおかしかった事を思い出す。
そして、レイが起こしそうな行動も思いつき、不意に立ちあがった。

「レイの家からWポイントまでを徹底的に探せ!動ける者を全て使っても構わん!!」

「は、はい!!」

大声でリツコにそう指示を出すと、彼女の周りが一層慌しくなった。
ゲンドウはそのまま椅子に腰を下ろすと、先程よりも厳しい表情でモニターを見つめる。

(このままレイがいなくなったら、お前の計画は終わってしまうからな・・・。)

そんなゲンドウを横目で見ながら、自分もモニターを見つめる冬月であった。







「ふあぁ〜、よく寝たなぁ。」

外の様子を一切知らないシンジが目を覚ました。
眠い目を擦りながら、近くに置いてある携帯の電源を入れる。

「うわ、寝すぎちゃったなぁ・・・。」

久しぶりの寝坊なのだろう、自分の部屋から出ようと立ちあがった瞬間。

「うわっ!!」

何とも言えない感覚が全身を襲う。
シンジは自分の肩を抱くと、そのまま床にうずくまった。

(何なんだよ、これ・・・変な感じがする。)

『コンコン!』

思う様に体が動かせないでいると、ドアをノックする音が聞こえた。

「ど、どうぞ・・・。」

「失礼します、大丈夫ですか?」

「イロウル、何か変なんだよ、助けてよ!」

入ってきたイロウルに頼むが、イロウルは首を横に振った。

「初めてですから、どうすればいいのかわかりません・・・すいません。」

「そんな・・・カヲル君は、カヲル君は何処にいるの?」

「兄さんなら、出かけてます。」

「ど、何処に?」

「ここから見えます、肩をかします。」

シンジはイロウルの肩をかりて立ちあがると、窓へと案内される。

「あれは弐号機?!」

「はい、カヲル兄さんはあそこにいます。」

「そんな!危ないじゃないか?!」

「大丈夫だと思います、ここの周りにも沢山の人がいます。」

その言葉を聞き、シンジは下を見た。
姿は見えないのだが、かなりの数の人間がいる事が『わかった』。

「周りにいる人達は私達が対処します。」

「・・・殺すの?」

少し怯えを感じさせる声で、シンジは尋ねた。

「・・・わかりました、殺さない様にします。」

シンジの『感じ』が伝わったのだろうか、イロウルはそう答えた。

「よかった、ありがとう。」

微笑んでお礼を言うと、シンジはゆっくりと、1人でドアに向って進み始めた。

「気をつけてくださいね、シンジさん。」

「ありがとう。」

シンジが部屋を出て行くまで見ていたイロウルは、ドアに向って呟いた。

「・・・お帰りなさい、お父さん。」






シンジが起きたのと同時刻

Nervで行方知れずとされていたレイは自宅にいた。

『ピピピ・・・・・!!』

何度目とわからないコール音が鳴り響くが、気にも止めずに座っていた。

「碇君・・・。」

会いたいシンジの名を呟いた瞬間。

「!!」

何とも言えない感覚が彼女を襲った。
床に倒れ、何とか起き上がろうとするも力が入らない。

(何が起きたの?!助けて、誰か・・・碇君・・・・・。)

助けを呼ぶ声もあげられず、そのまま気を失った。
その直後、部屋に入ってきた諜報部の人間が彼女を本部まで連れていった。


「ファーストチルドレンを発見、これから本部に戻ります。」

『・・・急いで戻れ。』

「はっ!」










あれから、シンジは弐号機のある所に向っていた。
ふらふらしながらも、ゆっくりと進んでいく。

(あれだけ倒れてたけど、死んでないんでよね・・・。)

家の外に出た途端、黒服の男達が大の字で倒れていたのだ。

(今はそれよりも早く行く事だけを考えないと・・・。)

そう思い、進んでいくシンジの後を追う3人の少女。

{シンジの様子に変わったところは見えないけど、成功したのか?ゼルエル。}

{どうなのかしら、あたしにはわからないけど・・・。}

{・・・とりあえず成功したみたいですよ、ガギエル姉さん、ゼルエル。}

{嘘じゃないだろうな、サンダルフォン。}

{はい、感じますから・・・。}

テレパシーでそんな会話をしながら、シンジの後ろを歩いていく。

{だったら、私らがいる事わかってんじゃねえの?}

{まだ馴れてないでしょう、ふらふらしてるもの。}

{兎に角、カヲル兄さんの所までは見届けないと・・・。}

{わかってるよ、『捜索人』達がいるかもしれないからな。}



しばらく進んで行くと、シンジはその場所に到着した。

{ここまでだな、戻るぞ。}

{{了解です。}}

3人は来た道を戻っていく。
シンジはその様子には気付かずに進んでいくと、カヲルがシンジに気付いた。

「やあ、シンジ君。」

「カ、カヲル君・・・。」

安心した為か、それだけ言うと地面に座りこんでしまった。

「大丈夫かい?」

「起きてからここまで来たんだけど、ずっと体の調子が悪いんだ・・・。」

「大丈夫だよ、それはアダムが君と同化した証しだからね。」

「じゃあ・・・。」

カヲルは微笑み、優しい声で言った。

「これからはずっと一緒だよ、シンジ君。」

「カヲル君・・・。」

「とりあえず、肩をかすから立ってくれるかい?」

「うん・・・。」

2人は指揮車から出てきたミサトの元へと向う。

「ちょっと、シンジ君は大丈夫なの?」

「・・・大丈夫です。」

「よく脱出できたわね・・・シンジ君。」

シンジに優しく声をかけるミサトだが、シンジは冷めた目で見つめている。

「・・・諜報部の人達なら寝てましたよ。」

「な、何ですって?!」

慌てて指揮車に戻り、通信を開くが応答などあるわけない。
何度も呼びかけてる間に、アスカが声をかけてきた。

「お久しぶりね。」

「・・・そうだね。」

「そろそろ帰ってこない?家中汚くなってしょうがないのよ、ご飯も味気ないし・・・。」

「・・・・・・・。」

「ちょっと、聞いてるの?」

「・・・知らないよ。」

「・・・何て言ったの?」

「知らないって言ったんだ!!」

突如、大声で叫ぶシンジにアスカと、車の中にいたミサトが驚いた。

「ど、どうしたの?2人共。」

「アタシは帰って来い、って言っただけよ。」

「そうな・・・・・。」

確かめようとシンジの方へ向くと、憤怒の表情で2人を睨んでいるではないか。
ミサトは言いかけた言葉を飲みこんだ。



「いい加減にしてよっ!僕はミサトさんやアスカの召使いじゃないんだ!!」



「つべこべ言わずにさっさと帰ってきなさいよ!」

「シンちゃん、家事当番なら公平になるよう決めなおすわ・・・だから。」

それぞれが言葉をかけるが、シンジはまったく聞こうとはしない。

「家事当番?どうでもいいんだよ、もうあそこは僕の居場所じゃないんだから!」

「「!!」」

「一体何なんだよ、2人して僕がいないと不便だからってここまでして迎えに来てさ!
 どうして僕が家事をやらなきゃ行けないんだよ、感謝こそされ文句なんか言われる筋じゃないだろっ!!」

「ちょ、シンジ君、落ち着いて・・・。」

『バシッ!!』

ミサトが宥め様と手を伸ばすが、シンジは無言でその手を弾いた。

「!!」

「もう構わないでよ、放っておいてよ、会いに来ないでよ!!」

怒りによるものだろうか、『力』が発現して辺りに風を起こし始めた。

(これはまずいね・・・。)

「Nervには此方から近日中に出向きます、今日の所は帰ってもらえませんか?」

「そ、そう「ここまで来て、『はい、そうですか。』って帰れるわけ無いでしょ!」

カヲルの提案に賛成しようとしたミサトを遮り、アスカが突っぱねた。
息を一つ吐いてから、カヲルは続ける。

「このままシンジ君を放っておいたら、ここにいる人間は全滅するけど・・・いいのかい?」

(雰囲気が変わった・・・まずい!!)

提案した時とは違う雰囲気に、冷たいものがミサトの背筋を走った。

「アスカ、止めなさい!ここは諦めて、本部に戻るわよ!!」

「戻りたければ1人で戻ってなさいよ、アタシは絶対にコイツを連れて帰るんだから!」

「アスカ!!」

ミサトの制止も聞かず、アスカは弐号機でシンジを掴もうとするが、


「な、何で触れないのよ!」


シンジの目の前まで伸ばされた手は、シンジに触れる事ができずに開かれていた。

「君じゃ中和することも出来ないよ。」

「エ、ATフィールド!?」

「そう、君達はそう呼んでいるね。それをシンジ君は生身で展開することが出来る・・・。」

「ま、まさか・・・・・。」

ミサトはシンジを見ながら、思いたくない結論を口にしようとした。



「そう、彼は僕と同じ存在になったんだよ。」



「!!」

予想通りとはいえ、ショックが大きかった。
アスカにもそれが聞こえていたのだが、関係無いと言わんばかりにシンジを掴もうとする。

「使徒だろうが何だろうが、連れて帰るもんは連れて帰るのよっ!!」

「・・・邪魔。」

「キャァァァーーー!!!」

シンジがぼそっと呟くと、弐号機が吹き飛ばされた。

「こんなもんで諦めると思ってんの、このアタシが!」

ダメージは大した事無いのか、起き上がり再度捕まえようと手を伸ばすが

「・・・邪魔だって言ってるじゃないかー!!」

「止めなさい、アスカ!!」













「あああああああああああ!!!!!!!!!!」













ミサトの2度目の制止を振りきって伸ばしたその手は、本体から離れ地面に落ちていた。

「アスカ!!」

「ぐっ・・・ううう・・・・・。」

神経接続された状態で手が吹き飛ばされた。
それは、実際に同じ事を本人がされたのと、同じ痛みが襲ってくるという事だ。
『無事』だった手で『落とされた』手を庇う様にする、痛みからか瞳からは涙がこぼれていた。

「シンジ君。」

「・・・何、カヲル君。」

「帰ろう、今日は疲れただろう?」

シンジは黙って頷いた。
カヲルの肩にもたれる格好になると、2人は『家』へと帰り始めた。


「近日中、いや、明日にでもNervに行きますから。」


と、最後にカヲルが言い残して。











『ホカク作戦』終了報告書

作戦結果 失敗 

被害損傷率 エヴァンゲリオン弐号機・中破 セカンドチルドレン・要検査 諜報部員・50名全員軽傷

作戦目的であった『第17使徒・渚カヲル』、『サードチルドレン・碇シンジ』両名の捕獲に失敗。
しかし、『渚カヲル』が明日、『碇シンジ』を伴ってNerv本部に来る(らしい)。
来た際に司令の指示を仰ぐ事に。

                                               作戦部部長・葛城ミサト















<後書き>

どもども、ウエッキーです。

今回は上手くいかなかったかなぁと・・・これにするまでに2回書き直しました。(−−;

アスカの扱いが酷い、と怒られるかもしれません。
読んで不快感を覚えたからと言って、ウイルスの類は送らないで下さいませ。m(_ _)m

LRSなのに、レイとシンジの絡みが無いも問題かも・・・。(^^;
次回からそろそろその辺も展開予定です。



レイ   「・・・私の出番は?」

ウエッキー「すんません、次回です。」

レイ   「・・・碇君に会えるのね?」

ウエッキー「それはもう、それがメインです。」

レイ   「早く書いて、余計なのはいらないから・・・。」

ウエッキー「そうですね、しばらくはこれ1本ですね。」

レイ   「待ってるから・・・。」

ウエッキー(今日は逃げずに済んだか・・・。)
   


<次回予告>

約束通り、Nervへと現れたシンジとカヲル。
ゲンドウは2人を呼び出し、シンジに同化したアダムを取り返そうとする。
一方、本部に連れてこられていたレイは、シンジが来ている事を知って、会いに行こうとする・・・。  

次回、・ 自由への道のり、愛の扉 ・ 第5話 「再会」


アスカ:いやぁぁぁっ! LASどころか、敵視よっ! 敵視っ!

マナ:日頃の行いがあれじゃぁねぇ。こういうことも起こりえるわよ。

アスカ:ミサトよっ! ミサトがいけないのよっ! 全部シンジに押し付けるから。

マナ:あなたもでしょ・・・。

アスカ:ホカク作戦も失敗しちゃうし、どうしたらいいのぉーっ!?

マナ:名前が悪かったんじゃない?

アスカ:こうなったら、ファーストを味方に引きずり込んでっ!

マナ:それは・・・かなり無理があるような。(ーー;
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ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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