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『アスカと演劇』   作:WARA

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一応『アスカとゲーム』の続編です。
そんなに大きな関わりが無いので、これだけ読んでも構いませんが、
宜しければ、そちらからお読み下さい。

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「『僕がみにくいアヒルの子だったときには、
 こんなに幸福になれようとは、夢にも思わなかった!』」

ここで、シンジは本を閉じた。

「いいぃぃ。とってもいい話しだわぁぁ。」

シンジの横で目をウルウルさせて感動しているアスカ。
最近夜にシンジに本を読んでもらうのが日課になっていた。

難しい漢字が読めないってことで、最初は難しい専門書を読んであげていたのだが、
最近は童話をアスカに読んできかせる羽目になったシンジ。

「もう、5回目だよ。『みにくいアヒルの子』を読むの。」

「いいのよ。いい話は何度読んでもらってもいいのよ。」

「そういうもんかな。」

「それに、シンジ、本を読むの上手なんだもん。朗読の才能があるかもよ。」

「ハハハ。ありがとう。」





しかし、アスカに童話ねぇ。

とシンジは思う。

飛び級で幼女から少女時代を駆け抜けたアスカは、意外に童話を知らなかった。
小学生で既に専門書を読み出したアスカ。
きっとその分、本来小さい頃に読んで然るべき童話を余り読まなかったのだろう。

『マッチ売りの少女』『フランダースの犬』などなどアスカは知らなかった。
そして、今読んだ『みにくいアヒルの子』が一番のアスカのお気に入りだった。

「じゃ、明日また別なの読んであげるからね。」

「うん。」

そして心地よい眠りにつくアスカ。
朝はシンジの『お目覚めキス』が待っている。

先日のゲーム騒動からすっかり定着してしまったようだ。




そして学校。

「え〜、今年は学園祭において全学年で演劇を発表することに決定致しました。」

委員長のヒカリが発表する。

「つきましては、2年A組の題目の検討を行います。」

女子からは『鏡の国のアリス』などという意見が出る。

「やっぱ格闘モンやでぇ。」

「いやいや、軍事戦闘モノも捨て難いよ。」

誰の発言かは言わなくても分かるであろう。

約2名は置いておいて、演劇という時点で男子より女子の方が真剣に検討する。
結果『鏡の国のアリス』と『ロミオとジュリエット』が人気を占めた。

「では、この二つに絞り込みたいと思いますが反論はありませんか?」

「委員長、何でやねん。ワイは格闘モンやってゆうてるやろ?」

「そうだ横暴だ。やっぱ軍事戦闘モノだよ。」

「あんた達、真面目に意見しなさい。
 演劇でそんなのできるわけ無いでしょう!」

「ねぇヒカリ。『みにくいアヒルの子』は駄目?」

今まで沈黙していたアスカが意見を投げる。
いや、正確には机の上で潰れるように寝ていたため、沈黙していただけなのだが。

「『みにくいアヒルの子』?アンデルセンの?」

「そうよ!」

『今時中学校で『みにくいアヒルの子』なんてやるのぉ?』

『だいたい、あれって劇にするの難しくない?』

『そうよ、何せ動物だから、衣装作るだけじゃ済まないじゃ無い。』

他の女生徒から反対意見が出る。

「な、何よ。文句ある訳!」

ア、アスカ。
そんな睨みを利かさなくても・・・・・・

ハラハラドキドキのシンジである。

「それよりも、碇君とアスカで『ロミオとジュリエット』がいいんじゃないかしら?」

ヒカリからの提案である。

委員長……それはマズイよ〜〜〜。

シンジが焦る。

シンジには行く末が見えている。
問題のキスシーン。
絶対やると言ってアスカはきかないに違いない。
それだけは避けたい。

「アタシは『みにくいアヒルの子』がいいのよ!」

シンジは予想外のアスカの言葉にここぞとばかりに応援に回った。

「ぼ、僕も『みにくいアヒルの子』がいいと思います。」

「そうよ。とってもいい話なんだからさ。」

「でも、動物とかどうするのよ?そんな小道具はとても作れないわよ。」

「え〜とそれは……紙芝居に変更しない?」

アスカのこの提案に当然ブーイングが起きる。

シンジが助け船を出す。

「演劇っていっても、人形劇では駄目かな?」

シンジの発言にクラス内で検討が再燃する。
人形劇っていうのが、少し意表を突いて、好印象を与えているようだ。

「ただの人形劇で無くて、シンジに朗読を担当させるのはどう?
 シンジの朗読は盛り上がるわよ。」

アスカもシンジに続いて提案するが、これにはシンジが驚愕した。

ア、アスカ……何てこと言うんだよ。

だが、案外これは良案だった。
クラス内の密かな”碇シンジ愛好会”がこれに賛成した。

結果、『みにくいアヒルの子』の人形劇で決定。

シンジも朗読という大役を背負ったが、『ロミオとジュリエット』だけは
避けたかったので、しぶしぶ同意した。





その夜。

「今日は何を読もうかな?」

「『みにくいアヒルの子』」

「昨日も読んだじゃ無いかぁ。」

「学園祭の練習よ。」

「それはそうだけど……。」

「良かった『ロミオとジュリエット』とかいうのにならなくて。」

「えっ?ア、アスカ。」

「何?」

「『ロミオとジュリエット』知らないの?」

「ええ、知らないわ。どうせ下らない話でしょ?」

そんなことは無いよ……
とでも言おうものなら、劇が変更される恐れもある。
知らないなら知らないままにしておこう。

シンジはそう考えた。





翌朝。

「アスカ〜〜〜。朝だよ〜〜〜。早く起きて。」

「ん〜。まだ眠いのぉ。」

「遅刻しちゃうよ。」

「だったらいつもの……」



チュ



「おっはようシンジ。やっぱこの目覚めは最高ね。」

やっぱり是が非でも『ロミオとジュリエット』を回避して正解だと思ったシンジである。





その日から学校では学園祭の準備が始まった。

何でも先輩の3年A組で『ロミオとジュリエット』をやることになったらしく、
シンジのクラスでやる可能性は100%なくなり安堵するシンジであった。

そして、放課後クラスでの全体練習。

シンジは朗読。
アスカは言い出しっぺということで、演出役。

ただ、アスカに任せると暴走しかねないとの暗黙の配慮で、
総監督は委員長のヒカリが就いていた。

「どうしてアタシが監督じゃないのよ。」

シンジに不満をぶつける。

「あっほら、監督っていっても、あっちこっちとの調整に追われる訳で……。
 演出は本当に舞台を決める大切な役だから、アスカにはこっちが向いてるよ。
 調整役は委員長の方が向いてるし……ね。」

「そっか。そうよね。」

気苦労が絶えないシンジ。

昨日何故『みにくいアヒルの子』が好きなのかアスカに尋ねたら

『耐え抜いて耐え抜いて幸せになる姿がとっても感動するのよ』

とアスカが答えたが、シンジは自分を
耐え抜いて耐え抜いていると痛感していた。

それでも、耐えぬいた後で幸せになれる自信が無いよ……





実際、練習や準備が進むにつれ、アスカの無理難題な演出を
影でシンジがアスカを操り、なんとか切り抜けていった。




「いよいよ明日だな、碇。」

「うん。」

「センセも大変やのう。」

「うん。」

最近疲れが体中からみなぎってるシンジ。

トウジとケンスケが心配して声をかける。
そう、いよいよ明日が学園祭本番。

「でも、結構アスカは喜んでるみたいじゃん。」

「そうだね。」

「そうやなぁ。アスカも今まではこういう集団モンは
 あんまし関わらんかったもんなぁ。」

「うん……。」

「ま、いろいろ大変だと思うけどさ、頑張れよ。」

「そやそや。力になれんで悪いけど、頑張れや。」

「有難う。」

トウジとケンスケは結局この人形劇に関わら無いことになったので、
独自で『地球防衛バンド』を結成し、個人参加の形で学園祭に
出展することになっていた。

忙しいにも関わらず、それでも心配してくれる二人に感謝するのであった。





夜。コンフォートマンション17。

いつものように、本を取り出すシンジ。

人形劇に決まったあの日読んだのを最後に、
『みにくいアヒルの子』は読んで聞かせていない。

アスカも練習で毎日読んでいるのを気を遣って、
他のをリクエストしていた。

「今日は何を読もうかな?やっぱアンデルセンがいいのかな?
 『雪の女王』なんてどう?」

「う〜ん。ねぇ。やっぱりあれ読んで。」

「あれって……『みにくいアヒルの子』?」

「うん。」

「明日も読むんだよ。本番で。」

「でも、明日はみんなの為に読むんでしょ?」

「うん。」

「今日はアタシの為に読んで。」

「アスカ……。」

「アタシもできるだけ我慢したのよ。
 自分で言い出したからには、人形劇を成功させようって。
 何とか自分を抑えて演出に集中してきたの。
 だから、今日は……。」

「そう……。分かったよ。」

ここ数日は教室内で聞こえるように割りと大きな声で読むことが多かった。
だが、今日は久しぶりに、聞き手の為に読んできかせようとシンジは思った。

「『”さあ、僕を殺して下さい”と、かわいそうなアヒルの子は、言いながら、
頭を水の上にたれて、殺されるのを待ちました。』

人形劇の練習と違い、今日は抑揚をつけて、感情を込め、
何よりアスカの為に読み上げる。

「『そうです。ハクチョウの卵からかえったものものならば、
たとえ鳥小屋で生まれたにしても、やっぱり、立派なハクチョウに違いないのです。』」

「ううぅ……」

アスカは涙目。
いつもこの辺りでウルウルさせているが、今日は既に頬にまで涙が伝う。

「『アヒルの子は……』」

「もういいわ。シンジ。」

「え?なんで?」

「もう、これ以上今日は聞けない。」

「そ、そう?」

「うん。明日、本番で続きを聞く。」

「でも、今日はアスカの為に……。」

「いいの。ね、明日。」

「分かった。」





アスカはこの話が好きだった。

いつも自分は必要にされていないんじゃ無いか?
アタシは誰にも認められない存在じゃ無いか?

その不安を打ち消すように、がむしゃらにやってきた。

スタンスの違いはあれ、このみにくいアヒルの子は
自分と重ね合わせられるモノを感じていた。



そして、今アタシがここにいる。



シンジの前にアタシがいる。



シンジに読んで貰っている時、そう思えて嬉しいのだった。

明日は必ず成功させる。
そう胸に秘め、アスカは眠りについた。





翌日、13時。
いよいよ発表となった。

中学生の学園祭にしては異例の『みにくいアヒルの子』の人形劇。
だが、思いのほか、観客はいる。

発表の場は体育館。

シンジ達の後にはトリを務める3年A組の『ロミオとジュリエット』。
ひょっとしたら、これを目当てに観客は集まったのかもしれない。

緊張の中、静かに幕は開けた。





アスカが押した朗読のシンジ。

上手いという評価は練習中にもあったが、
アスカが言うほど感動を呼ぶっていう点数はクラス内ではついていなかった。

教室と違い今日はマイク。
声を張り上げる必要も無い。

シンジはいつもアスカに読んで聞かせるように朗読を始めた。

「『田舎は本当に素敵でした。夏のことです。』」

いよいよ本番開始。

シンジの朗読に併せて鳴るサウンドトラック。

実は演出のアスカがNERVの青葉に頼んでオリジナル曲を用意してもらったのだ。
シンジの声と心地よいサウンド。
時間は流れいよいよ終盤。

「『僕がみにくいアヒルの子だったときには、
 こんなに幸福になれようとは、夢にも思わなかった!』」





静まりかえる体育館。

シンジは勿論、アスカも失敗したのかと疑問に思った。

だが、違う。

客席から嗚咽が漏れる。
そう、みんな感動して聞いていたのだった。

そして忘れていたかのように、拍手が沸き起こった。





その後の3年A組の『ロミオとジュリエット』をアスカとシンジも見ていた。
だが、自分達ほど拍手は起こらなかった。

シンジは『あっちの作品の方が良かった。せっかくシンジとキスできたのにぃぃ。』
というアスカを想像していたが、

「やっぱ、アタシ達の方が成功したようね。」

とご満悦な様子を見てホッと胸を撫で下ろした。





シンジ達2年A組の打ち上げ。

「今日は大成功でした。みんな、お疲れ様〜。」

ヒカリの音頭で乾杯が始まる。
勿論アルコールでは無く、普通のジュースである。

クラス中でみんな成功だと言った。

立役者のアスカ・シンジはみんなから祝福されていた。





だが、喜びは束の間。





翌日以降、”碇シンジ愛好会”が表立って大きな存在となった。
そう、あの人形劇で虜になった女生徒が急増。

「もう〜。あんな劇やるんじゃ無かったぁ。」

アスカはご不満。
これからどうやってシンジを女生徒から遠ざけるか悩めるのだった。

「そんなこといったってぇ。アスカがやりたいって言ったんじゃ。」

「いいこと。来年は『ロミオとジュリエット』でみんなに見せつけるんだからね。」

「ええ〜〜〜〜〜〜。なんでそうなんるんだよぉ。」

「あったり前でしょ。これ以上煩いハエが集ってたまるもんですか。」

「トホホ……。」

シンジは来年を思い苦悩するばかりだった。





だが、気を取り直してシンジが尋ねる。

「アスカ。今日は何を読む?」

「勿論『ロミオとジュリエット』よ。」

「ええ〜〜〜。」

「今から予行練習よ!」

「…………」


アスカ:な、なんで「みにくいあひるの子」なのよぉぉ?

マナ:アスカが気に入ってたんでしょ?

アスカ:絶対「ロミオとジュリエット」が、いいに決まってるじゃんっ!

マナ:「みにくいあひるの子」の方が、感動するわよ?

アスカ:そんなことないわっ! ラブストーリーが良かったぁぁぁっ!

マナ:悲劇より、ハッピーエンドの方が、幸せな気分になれるでしょ。

アスカ:そ、そうかもしれないけど・・・。

マナ:そうそう。シンジも幸せな気分になった方がいいに決まってるし。

アスカ:シンジ? そ、そうね。じゃ、「みにくいあひるの子」で良かったのかぁ。(^^v

マナ:・・・・だって、シンジとキスなんかされたらヤだもん。(ボソ)
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