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『冠婚葬祭』   作:WARA

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最初はアレ?と思うかもしれませんがLASです。

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随分昔の話です。

ネルフという小さな国の第三新東京村。
山に囲まれた自然豊かで穏やかな村。

「酒屋の葛城さん、おはようございます。」

シンジ少年が朝から元気にランニング。
村人の安全を守る為、今日も欠かさずトレーニング。

「あ、シンジ君。おっはよう。今日も元気ね。」

「もちろんです。あっ、八百屋の加持さん、おはようございます。」

「おはようシンジ君。天気が良くて良かったね。」

「はい。」

村で人気の高いシンジ。
彼の父、ゲンドウはここの村長。

「ほんとシンジ君の笑顔っていいわよねぇ。」

「あの恐いお父さんに似なくて良かったわねェ。」

村の井戸端会議のシンジの評価は高い。





●『婚』





「碇君、おはよう。」

「綾波、おはよう。」

シンジと挨拶しているのは綾波レイ。
彼女は村の代々伝わる占い師の娘である。

「今日あたり彼女が来そう……。」

「それも予言?」

「ええ。」

「すごいなぁ、綾波は。」

「そう?」

「だって先のこと分かるんだもん。羨ましいな。」

「そんなことないわ。」

少し悲しそうなレイ。

「どうして?」

「嫌なことも分かってしまうもの。」

「でも、分かっていたら避けることもできるんじゃないの?」

「かもしれない。」

「だったらやっぱり素晴らしいよ。」

「ありがと。」

パッパカ パッパカ パッパカ パッパカ

猛烈に走ってくる馬。
馬の上には真っ赤な服装を着た女の子。

ヒヒ〜ン
ズザザザ……

「レ、レイじゃない!」

「アスカ。随分早かったわね。」

「善は急げよ。っで……。」

アスカと名乗る女の子が馬から飛び降り、
腰に手を当てシンジの方の前に立つ。

そしてシンジに顔を近づける。

か、かわいい……
シンジのアスカに対する第一印象はそうだった。

「アンタが碇君ね。」

「き、君が惣流さん?綾波から話は聞いているよ。」

「アスカ、でいいわよ。こっちもいろいろ聞いているわ。」

「僕も……シンジでいいよ。」

「じゃ、シンジ。よろしく。」

「こ、こちらこそ。」

「碇君……照れてる。」

「そ、そんなことないよ、綾波。」

「ふ〜ん。なかなかかっこいい婚約者じゃない、レイ。」

「ええ。」

その言葉を受けて本当に照れてしまったシンジ。

「あ、そ、そうだ、アスカさん。」

「アスカでいいって。」

「じゃ……アスカ。村を案内するよ。
 今日は日曜日で特に予定があるわけじゃないし。」

「そう。レイも来るのよね?」

「ええ。」

「じゃ、シンジ頼むわ。」

「うん。」

そうしてシンジ・レイ・アスカの3人は村のあちこちを回った。





夜、占い師綾波の家

レイの母親のリツコが晩餐の準備をしていた。

「以前レイが危ないところを助けてくれたそうで。
 一度お礼をしたいと思っていたんですよ。」

「そんな、大したことじゃ。」

アスカは賞金稼ぎで生計をたてている。

以前、少し遠くの占い師の知り合いをレイが尋ねた時、
賊からアスカが助けたのであった。
それ以来、アスカとレイは交友していた。

「大したもんじゃありませんが、一杯召し上がって下さい。」

「ありがとうございます。」

「シンジ君も一杯食べるのよ。」

「ありがとうございます、リツコさん。」

楽しい楽しい晩餐会だった。





「ねえ、レイ。これが未来を見通す水晶”マギ”なのね?」

「ええ、そう。」

「すっごいわぁ。こうして見るだけでも神秘的〜っ!」

興味津々でアスカが水晶”マギ”を見つめる。

「それにしても、アスカ来るの早かった……。」

「なんたってレイの結婚式じゃない。
 居ても立ってもいられなかったのよ。」

「早く来ても式の日にちは変わらないわ。」

そっけなく言うレイであるが嬉しそうである。

「でも、綾波。アスカが来るのは前もって知ってたんだろ?」

「いいえ知らないわ。占い師は自分のこと占っちゃ駄目なの。」

「だったらどうして今朝来るの分かったのさ?」

「少し未来に起こることは、何故だか占わなくても分かるの。」

「へ〜え。予知ってやつかな?」

「ちょっとシンジ。どうして婚約者のアンタがそんなことも知らないのよ?」

「あんまり占いのことは聞かないんだ。
 レイも話したがらないし。」

「ふ〜ん。仲のお宜しいことで。」

「碇君とアスカも仲いいわ。今日会ったばっかりなのに。」

「そ、そんなことないよ。」

狼狽するシンジ。

「碇君が好きそうなタイプだもの、アスカは。」

「レイ。言っていいことと悪いことがあるわよ!」

アスカがレイをたしなめる。

「ごめんなさい。でもそんな気がしたのよ。」





それから1週間が過ぎて、シンジとレイの結婚式の早朝。





「お〜い、シンジ〜。元気やったか?」

「トウジ。来てくれてありがとう。」

「おめでとう、碇。」

「ケンスケ。ありがとう。」

遠く離れた学生時代の親友二人が朝早くからシンジを祝いにやって来た。





「綾波さん、おめでとう。」

「洞木さん。ありがとう。」

「良かったわね……って、アスカ。どうしてここに?」

レイの後ろにいるアスカを見て驚愕するヒカリ。

「あれぇ、ヒカリじゃないの?」

「えっ?二人は知り合いなの?」

レイが驚いて尋ねる。

「ええ。」

「知らなかった。」

「いいこと、レイ。ブーケはアタシに投げるのよ。」

「ちょっとアスカ。横暴よ。私にお願いするわ。」

女性陣も盛り上がっていた。





今日は村をあげてのお祝い。
村長のゲンドウの力もあるが、村民のシンジに対する評価が高いのもある。





式の1時間前。

「碇君、どうかしら?」

着替えを済ませたレイがシンジの様子を見にやって来た。

「綾波。綺麗だよ。」

「あ、ありがとう。」

赤面するレイ。

「ホント綺麗よ、レイ。」

「ありがとうアスカ。」

「それにしても、『碇君』『綾波』じゃないでしょ〜が!」

「あ、そうか。」

「まったく〜。先が思いやられるわ。」





広大な敷地を誇る碇家の庭にお客さんが次々と押しかけてくる。

「ふぅ、あと1時間。緊張するわ。碇君は?」

「僕もだよ、綾波。」

アスカの忠告はどこへやら、今まで通りで呼び合う。

ガシャン
バキバキ

凄まじい音が屋敷の玄関から聞こえる。

バーン
バーン
バーン

「な、何かしら?」

アスカが様子を見に行く。

「ゼーレ軍だ!」

村人の叫びが聞こえる。

最大の賊集団『ゼーレ』が突然襲撃してきた。

「ちっ。奴ら目。急場を狙っのか?
 総員第一種戦闘態勢!」

急な状況にゲンドウは私設警護隊に指令を下す。

賊集団『ゼーレ』。
リーダーのキールが率いる、盗賊集団。
場合によっては殺戮も厭わない
しかも女・子供関係無しに襲う悪名高き賊であった。

村の安全を守る為、村長ゲンドウが次々と彼らを追い詰め、
その結果、ゲンドウはこの地の権力を確固たるものにしていた。

この襲撃は結婚式という格好のチャンスを狙った彼らの反撃に違い無かった。

しかし今回の襲撃は村人を狙ったものではなさそうである。
キールが次々に指令を出し、集団があちこちを制圧する。
誰かを探している様子である。





父さんの命を狙っているのか?
いや、でも父さんの周辺には警護隊が守っている。

シンジが考える。

「綾波、逃げよう。」

今はシンジにとってレイが最優先。

「どこへ?」

どこへ逃げればいい?
玄関から音がしたから奥の母屋が安全か?

シンジはレイを引っ張って母屋へ避難する。

「ふぅ〜。」

「とりあえず、逃げれたわ。」

ひとまずシンジの部屋へ逃げこんだ二人。

「綾波、ゴメン。」

「どうして謝るの?」

「せっかくの結婚式だったのに。」

「碇君に責任は無いわ。」

「でも、きっと碇家への反撃だよ。」

「だってそれは村民を守る為でしょ?
 碇君に罪は無いわ。悪いのは彼らよ。」

「ありがとう。綾波は優しいね。」

「そう。良く分からない。」

「そうだよ。こんな時に言うべきことじゃ無いんだろうけど、
 最初父さんに綾波と結婚を命じられた時、嫌だったんだ。
 でも、今は綾波で良かったと思ってるんだ。
 本当だよ。」

「ありがとう。私も碇君で良かったと思っているわ。」





あの日、突然父・ゲンドウに結婚を命ぜられた。
策士として名を馳せるゲンドウだけに政略結婚だと噂された。

村の行事を取り仕切る占い師の綾波家。
その綾波家との政略結婚でより権力を手中にするのでは無いか?
というのが村での定評だった。

実際シンジも言葉数の少ないレイに戸惑っていた。
だが、レイのことが分かってくるにつけ、
日に日にレイのことが好きになっていた。

亡くなった母・ユイに似ていたのも惹かれていった要因で
あったのかもしれないが、今はレイで良かったと心底思っていた。

だからこそ、守らなくちゃ。

シンジはそう決意する。

「綾波。少し様子を見てくるよ。」

「駄目。危険。何があるか分からないわ。」

「でも、もし奴らがここへ来たら逃げ場が無いよ。
 少し見てくる。綾波はここにいるんだよ。」

「分かったわ。気をつけて。」

「うん。」

腰の短剣を取りだし外の様子を伺いに部屋を出るシンジ。

ざわめきはまだ治まっていない。
まだ庭が騒がしいようだ。
やはり暫くは母屋が安全のようだ。

念の為裏口を詮索する。
音はしない。

万一の場合こっから逃げるか?

念の為扉を開けて、避難ルートを確認する。

バタン

「はっ!」

しかし裏口を出たのは失敗だった。
賊はこちらにも回っていた。

「碇君危ない!」





バーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン





ほんの短い銃声。
しかしシンジには永遠に感じられた。

「綾波ィィィィィィィィィィィィィィィィ!」





バーン
バーン
バーン





更に銃声が3発。

目の前の賊3人が倒れる。

「大丈夫シンジ?」

アスカだった。

「ア、アスカ!綾波が……綾波が……僕を庇って。」

「えっ?!レイ!」

胸の辺りが真っ赤になっていた。

「い……碇く……ん。大丈夫だった?」

「僕は大丈夫だよ。でも、綾波が……。」

「良かった。間に……合って。」

「綾波喋るんじゃ無い。」

「は、話を……させて。
 碇君……一度で……いいから……レイって呼んで……。」

「あ、あや……レイ。死んじゃ駄目だレイ!」

「あり……がとう……シンジく……ん。」

その言葉を最後にレイは永遠の眠りについた。

「よくも……よくも綾波をっ!」

短剣を片手に飛び出そうとするシンジ。

「待ちなさい!」

「止めないでよ、アスカ!」

「拳銃持ってる相手に短剣でどうしようって言うの!」

「でも、仇を討たないと!頼むよ、アスカ。
 君の拳銃を貸して。」

しかしアスカは首を横に振る。

「今の冷静さを欠いたアンタが行ったって、殺られるだけよ。」

「だけど、このまま放っておけるわけが無いだろ!」

「気持ちは分かる。でも駄目よ。
 アンタはレイの横に付いてあげなさい。」

「でも。」

「アンタにまで何かあったらレイに申し訳が無いわ!
 レイの仇は必ずアタシが取る!」

「アスカ。」

「レイを寝かせてあげて。そのままじゃ可愛そうよ。」

「うん……頼んだよアスカ。」

非常に悔しそうな表情のシンジであったが、
身を斬る思いで渋々承諾した。

「まかせなさい!レイをよろしくね。」

できるだけ優しい表情でシンジの元を離れたアスカ。
だが、飛び出した瞬間、表情は鬼のように変わっていた。

「このアスカ様を本気で怒らしたわね〜〜〜!
 こうなりゃ、正面切って行ってやるわ。」

庭に飛び出すアスカ。

目の前に4人。

バーン
バーン
バーン
バーン

目に止まらぬ早さで瞬間的に4人を倒す。

「やられたぞ。こっちに応援回せ。」

フン。
どんどん掛かってきなさい。

さらに3人

バーン
バーン
バーン

直ぐにリボルバーに弾を装填する。

「死ね。」

バーン

後ろから不意をつかれた。
肩から血を吹き出す。

「こんのぉ!」

振り向きざま、アスカのリボルバーが火を吹く。

「な、なんてヤツだ。」

ゼーレも慌てはじめる。

「アタシは惣流・アスカ・ラングレーよ。
 必ずアンタ達を全滅させてやるわ。覚悟なさいっ!」

そう宣言するやいなや、敵の本営に向かって突進するアスカ。

「なっ……あの『紅き女狼・アスカ』か?
 み、みな引くのだ。」

ボスのキールが号令するが時すでに遅し。
鬼神と化したアスカが次々と倒していく。

「今日のアタシは一味違うわよ。
 制限を掛けずにパワー全開で挽き肉にしてやる!」

たちまちの内に手下を全て倒す。

「ちっ!」

一人、馬で逃げ出すキール。

「逃がさないわ。行くわよ仁豪鬼(にごうき)!」

愛馬”仁豪鬼”を駆り、キールを追い詰めるアスカ。

「た、たすけてくれ!」

「ここへ来て命乞い?フンッ。
 アタシの大事なレイを殺ったんだから、絶〜っ対許さない。
 地獄で反省することねっ!」





バーーーーーーーーーーーーーーーーン




アスカの敵討ちは終わった。




レイ、終わったわ。
ハッ、シンジ。

アスカは慌てて碇家の屋敷に戻る。

「シンジ。」

「アスカ。無事だったんだね。
 あ、肩から血が!」

「こんなのかすり傷よ。全てやっつけたわ。」

「治療しなきゃ。」

「大丈夫よ!」

「強いんだね。僕の代わりに討ってくれてありがとう。」

「…………シンジに人殺しさせたくなかったし。
 きっとレイが悲しむもん。」

「綾波から聞いたことあるよ。
 アスカは綾波の忠告以降、人を殺して無いんだって。」

「ええ。以前レイに怒られちゃって。
 どんな悪い人でも殺しちゃいけないって。」

「でも、今日は僕の代わりに……。」

「いいのよ。今日だけは守る気無かったもん。」

「そう?」

「ええ。実はアタシのママも賊に殺られたの。
 それからよ、賞金稼ぎを始めたのは。
 絶対許さないって。
 でも、レイの忠告以降は生け捕りにしていた。
 だけど、今日だけは……今日だけは……。」

「アスカ……。」





その夜。
レイの無きレイの家に帰ったアスカ。

アタシが近くにいながら防げなかったなんて。
何が『紅き女狼』よ。

部屋のベッドで悲嘆にくれるアスカ。

ん?
何かしら?

机の上に何かがある。

「レイからの……手紙?」





●『葬』





レイの葬式が盛大に行われた。
勿論碇家が後援していた。

「僕と結婚式をあげようとしなければ、レイは……。」

結婚式の襲撃以降、ほとんど寝てないのか、酷くシンジはやつれていた。

───でも、分かっていたら避けることもできるんじゃないの?───

僕は綾波の予知能力に対してそう言ったんだっけ。
僕の危険を予知した綾波が、きっと運命を変えようと……

「くそっ。僕なんかいなけりゃ良かったんだ!」

自暴自棄に叫ぶシンジ。

「バカなこと言うんじゃ無いの。
 見てよレイの顔。アンタに最後を見届けられて幸せそうよ!」

「でも。」

「男のクセにくよくよしない!」

「僕が様子を見に行くなんて言い出さなければ!」

「アンタバカァ?もしアンタがあのまま何も行動しなくても、
 アンタの部屋を襲撃されてたわよ。」

「だったら、二人で死ねたのに。
 どうして僕だけが……。」

バッチーーーーーーーーーーーーン

アスカの平手が炸裂した。

「アンタって、本当にバカね!」

そう言い残してアスカが去った。
シンジは一人でレイの埋葬を見届けていた。





「リツコさん。お世話になりっぱなしですみません。」

夜、レイのいない占い師の綾波家に滞在していることに
礼を言うアスカ。

「いいのよ、アスカさん。
 きっとレイも喜んでいるでしょうから。」

「でも、リツコさんも悲しいのにアタシは……。」

「だからよ。私も一人じゃ心細いのよ。
 アスカさんがいてくれて良かったと思っているの。」

「そう言っていただけると。」

「だから遠慮しないで泊まって下さいね。
 でも、アスカさんがお嫌でしたら構わないですからね。」

「いえ。もう暫くお世話になります。すみません。」

「だから、謝らなくてもいいのよ。」

「ハイ。ありがとうございます。」

アスカはまだこの村を離れる訳にはいかなかった。
肌身離さず所持しているレイの最後の手紙をギュッと握り締めていた。





1週間が過ぎてもシンジはまだ悲嘆にくれていた。

毎日爽やかな笑顔の挨拶をしてくれた碇シンジ少年の
元気な姿が見られず、村も静まり返っていた。

「シンジ君、塞ぎこんでいるらしいわよ。」

「誰よ、政略結婚なんて噂したのは。」

「そうよ、そんな噂なんかするから村にバチが当たったのよ。」

井戸端会議も盛り上がらない。
村全体が悲嘆にくれていたのである。





やがてアスカがシンジにさよならの挨拶に来た。

「そう、行っちゃうんだ。」

「ええ。私は賊と闘って闘って闘って生き抜くわ。
 誰かさんと違ってね。」

「そんな言い方しなくていいだろ?」

「アタシは事実を言ったまでよ。さよなら。」

アスカ……
君も行ってしまうんだね。
僕は一人ぼっちで……





●『祭』





今日はシンジの誕生日。
普段ならバースデーパーティーが催されるも、
今年はシンジの意向で取り消しになった。

その情報は数日前にキャッチしていたアスカ。
旅立つとシンジに行ったものの、
実は村の離れで密かに様子を伺っていたのである。

早朝。
今年に限っては嬉しくも無い誕生日の目覚めのシンジ。

どうして僕は生きているんだろう?

自問自答しながら起きる。

パン
パン
パッパッパッパーーーーーーーーーン

「なんだなんだ?」

クラッカーが激しく舞う。

「誕生日おめでとうシンジ!」

「アスカ。何やってるの?どうしてここにいるの?」

「おめでとうさん、シンジ。」

「碇、おめでとう。」

「碇君、誕生日おめでとうございます。」

「トウジにケンスケに……洞木さんまで。」

「今日は、アンタを祝いにやって来たのよ!」

「どうして?」

「誕生日でしょ。ほら主役はさっさと着替える!」

シンジが二の句を次げないまま、無理やり着替えさせられる。

「アスカ一体どういうことだよ。」

「どうって、誕生日パーティーよ。」

「そんなの聞いていないよ。」

「そりゃそうよ。内密にアタシが計画したんだもの。」

「そういう問題じゃ無いだろ!」

「そういう問題よ。始めるわよ!」

無理やりゴリ押しで進めるアスカ。

「ちょっと待ってアスカ!」

シンジがトーンを上げ話す。

「僕はそんな気分じゃないんだ。
 アスカは僕のこともう少し理解してくれていると思った。」

「分かっているわよ。だからアタシは……」

「じゃどうして?!」

「もう、仕方が無いわ。こっち来なさい。」

無理やり引っ張っていく。

「みんなちょっとだけ待っててね。主役の準備してるから。」

そう言い残し庭へシンジを引っ張り出した。

「ねぇ、あれからどんだけの日にちが経ったのかしら?」

「もう1ヶ月かな……。」

投げやりに答えるシンジ。

「アンタ、その間何をしてた?」

「別に何も。」

「悲しんでいただけ?」

「そうだよ。悪いのかい?」

「悪いわよ。」

「僕は綾波を失ってしまった。
 結局、式も挙げれず……綾波は一人先に……。」

「これ読みなさい。」

「何これ?」

「レイからのアンタへの最後の手紙よ。」

「えっ?」

「ホントはアンタ自身で立ち直って欲しかったけど……
 どうするの?読まないの?」

「よ、読むよ。」

ガサガサ





碇君。

これを読んでいるということは、私に何かあったことでしょう。
そして、きっと悲しみにくれているのでしょう。

どういうことが起こっているのか今の私には分かりません。
でも、悲しんでいちゃ、駄目。

私は碇君の爽やかな笑顔が好きです。
小さい頃から村で朝から挨拶していた碇君の笑顔が好きでした。
ずっと憧れていました。

だから結婚すると決まった時嬉しかったです。

碇君。
何があっても笑顔を忘れちゃ駄目。
私のお願い、必ずきいて下さい。

レイ。





「あ、綾波……。」

「どう?ちょっとは心境が変わったかしら?」

「ゴメン。僕が間違っていた。
 アスカの言う通りだ。悲しんでばかりで僕は何もしてなかった。」

「さ、みんなのところに行くわよ!」

「うん。」





「ハッピィバースデー、シンジ!」

「かんぱ〜い。」

みんなシンジの心中を察して頑張って盛り上げた。
そしてシンジは久しぶりに笑った。
これでもう大丈夫だとアスカは思った。





翌朝。

久しぶりにシンジの笑顔が村に戻ってきた。
まだ、爽やかとはいかないものの、村もようやく安堵をついた。

「アスカ、今度こそ本当に行っちゃうんだ。」

「ええ。」

「手紙書いてよ。」

「ええ。でも、こっちは転々としてるから、
 シンジからの手紙は滅多に受け取れないかも。」

「いいよ。」

「ま、いろんな武勇伝を書いてあげるわ。」

「ハハ。アスカらしいね。また、この村に来るんだろう?」

「勿論。レイの命日は最低でも来るから。」

「うん。じゃ、元気でね、アスカ。」

「シンジこそ。」





アスカは手紙を書いた。
アスカが長期で同じ場所に滞在している時はシンジも手紙を書いた。

レイの命日には必ず1ヶ月以上アスカは滞在していた。

シンジの朝の挨拶も元気になっていた。

だが、過去のものとは違っていた。
済んだ少年の笑顔では無かった。

でもアスカは満足だった。
それは少年では無く青年の笑顔に変わっていたのだから。





●『冠』





数年後

シンジの20回目の誕生日。
それと同時に、いよいよ村長となる。

今、彼はレイの墓前にいる。

「綾波。僕は村長になるよ。
 過去の悲劇を繰り返さないように、
 みんなが安心して住める村にするのが夢なんだ。」

レイの墓前で静かに村長就任を告げる。

「きっとできるわよ。」

シンジの横にアスカがいる。

「うん。」

「ほら、もう1個報告することあるでしょ?」

「あ……うん。
 綾波、実は僕、アスカと結婚することになった。
 君のことは忘れたわけじゃ無いよ。
 でも、僕が一人前になれたのはアスカのお陰。
 祝福してくれるよね、綾波?」

「レイ。あなたとの約束をようやく果たすわ。
 アタシ達を見守っていてね。」

「約束って?」

今初めて聞いたアスカとレイの約束。

「実はレイから……あの日手紙があったの。」

そういってレイからの最後の手紙を渡す。





アスカ。

今日嫌な予感がするの。
それが何かは分からない。
占い師は自分ことを占っては駄目だから。

碇君に何も無ければいいのだけど。

もし、私に何かあったら碇君のこと宜しくお願いします。
きっと約束を果たしてください。

あと、万一の為に碇君への手紙を同封します。
もし、彼が立ち直れないような状況の場合手渡して下さい。

では、くれぐれも宜しく。

レイ。





「そうか、こんな手紙残していたんだ。」

「ええ。」

改めてレイの配慮に感謝するシンジ。

「あの時、レイとの約束を破って、ゼーレ達を殺してしまった。
 でも、今度こそ約束を守ろうって。」

「……うん。」

「でも、約束だけじゃ無くて、本当に好きよ。シンジ。」

「アスカ……。」

「ほら、みんなが待ってるわ。
 アンタの村長就任式を。」

「同時に僕達の結婚式でもあるけどね。」





●再び『婚』





アスカとシンジの結婚式。
二人にはどんな未来が待ちうけているのか?

「どんなことがあっても、アタシは前進あるのみよ。」

「うん。僕はもう決してくじけない。前を向いて頑張るよ。」





その後、村には永遠にアスカとシンジの銅像が残されたといいます。
村の幸せのシンボルとして。


マナ:綾波さんって、やっぱり健気ね。

アスカ:ファーストのヤツ、いい役もっていくじゃないの。

マナ:自分にもしものことがあった時のことまで、シンジのことを考えてるなんてさすがだわ。

アスカ:まっ。シンジを立ち直らせたのは、このアタシの力だけどさ。(得意気)

マナ:単に、綾波さんの手紙のお陰じゃない。

アスカ:う・・・。それもあるけど。

マナ:でもさ。綾波さんも、1つだけ人生最大の過ちを犯してしまったわ。

アスカ:なによ?

マナ:シンジのことは、アスカじゃなくてマナちゃんに任せるべきだったのよっ!

アスカ:少なくともファーストはバカじゃないから、そんな愚考はしないわっ!

マナ:バカって・・・・・・。(ーー#
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感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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