======================================================================

『パチプロアスカ』   作:WARA

======================================================================

ここは第三新東京市の駅前の繁華街にある”ネルフ”という
パチンコ店の前です。

そこにアスカという美少女が立っていました。

「アスカ、行くわよ。」

アスカは自分自身に気合を入れるかのように呟きました。
彼女はパチンカー。
パチンコで生計を立てている、いわゆるパチプロってやつです。

パチプロの素性がバレると入店禁止となり、
もう第三新東京市の繁華街で入店できるのは、
この”ネルフ”ただ1店となりました。

その為、彼女は服装も目立たないよう配慮しています。

真っ赤なTシャツに真っ赤な短ジーンズ。

……う〜ん、どこからどう見ても素晴らしく目立つ格好ですね。

どうしてジロジロアタシを見るのかしら?
そっか、きっとアタシが絶世の美少女のせいね。

疑いもなくアスカはそう結論付けていました。

アスカは頭脳明晰の美少女です。
類い稀な頭脳をいかし、パチンコの攻略に役立てています。
類い稀な美貌をいかし、パチンコの収支に役立てています。

ん〜〜〜?
頭脳はともかく、どうして美貌が収支に役立つのでしょうか?

景品交換所での出来事です。

「余り玉3個か……チョコレートは厳しいかしら?」

当然です。
せめて20個ぐらいは無いと厳しいです。

でも、カウンターにいるのは若い男性。

「チャーンス。」

そして、男性に向かって彼女自身曰く”女神の微笑み”を炸裂させて、

「よろしくお願いしま〜す。」

”女神の微笑み”を食らった男性は余り玉3個にも関わらず
チョコレートを渡してしまうのです。

……う〜ん、なかなかアスカはしっかり(ちゃっかり?)してますね。





さて、話を元に戻しましょう。

彼女は気合を入れ”ネルフ”に入りました。
ここは初めてのホールです。

アスカが攻略している機種があるかどうかチェックします。

キョロキョロ

ありました。
結構人がいますが、8台ほど空いています。
とりあえず一番回りの良さそうな台を選びます。

通路の奥から2番目。

「よし、これならなんとかなりそうね。」

戦闘態勢に入ります。
アスカが挑んでいるのはフィーバー台です。
『3』の確変に突入すると、アスカの必殺裏攻略ができます。
勿論彼女自身が基板を解析した結果の賜物です。

2000円でとりあえず、かかりました。
でも、確変じゃありません。

さらに1万円突っ込んだところで待ちに待った『3』の確変が
かかりました。

今月はついているわ。
まだ負け無しね!

ほくそえむアスカでした。

ジャラジャラジャラ

景気良く玉がでます。

ジャラジャラジャラ
ポロ
ゴロゴロゴロゴロ……

おやおや、玉が一つ隣の台へ転がりました。

「玉が落ちましたよ。どうぞ。」

隣に座っていた男の子が笑顔で渡してくれました。

「ありがぞう……えっ?!」

アスカが驚愕しています。

き、綺麗な笑顔……

アスカの心臓はバクバク。
おめめはキラキラ。

そうです。
アスカはこの男の子に一目惚れしたようです。

ジャラジャラジャラ

隣の男の子は再び自分の台に専念しています。
が、アスカは男の子が気になって仕方ありません。

ジャラ……

「あっ」

気が付くとフィーバーが終わっていました。

どうして?
まだ3ラウンドしか出してないのに。

当然です。
男の子に気になる余り、レバーがおろそかになっていました。
思いっきり強く右打ちになっていました。
この状態ではVに玉が入りません。あえなくラウンド終了。
いわゆる”パンク”ってやつですね。

ああ〜アタシとしたことがぁぁぁ
せっかく『3』の確変だったのにぃぃぃ

でも、後の祭りです。
その後、2時間粘ってもウンともスンとも何もかかりませんでした。

玉がつき、ついでに遅い昼食を摂りました。
再びホールに戻ってくると、あの男の子の隣の席、
すなわち、先ほどまでアスカが打っていた台は他人に取られていました。

しまったぁぁぁ。
アタシとしたことがぁ……

やはり食事札をつけるべきでしたね。

ま、いいわ。
どうせあの台は駄目そうだし。

さすがはアスカです。
プロです。

前向きな考えをし、他の台で再び戦闘態勢。
すでに3万近い負けを取り戻さねばなりません。

ジャカジャカジャカ

チラチラ

ジャカジャカジャカ

チラチラ

う〜ん、駄目ですねぇ。
どうにも男の子が気になって仕方無いようです。
集中力を欠いていますね。

待望の『3』の確変がかかりました。
全ラウンド終了時にタイミング良くチャッカーに玉を入れると
再び『3』の確変がかかるのです。

実機を購入し、2週間に及ぶROM解析。
そしてその後、家でタイミング良く玉を入れる練習を
これまた2週間しました。

彼女は努力家なんですね。
不屈の精神で、たった一人で攻略しているのです。

今度こそ失敗できないわ。

もう15ラウンドです。
このラウンドが終われば、裏モードに持っていけるかどうかの山場です。

すぅーーーーーーーはぁーーーーーーーー

深呼吸をして集中します。

その時、例の男の子がアスカの方に向かって来ます。

ええ〜っ
か、彼が来る〜!
ま、まさか、彼がアタシに一目惚れして告白してくれるのかしら?

かなりの御都合主義のようですね。

しかし男の子はそのまま通り過ぎ、ホールから出て行ってしまいました。
どうやら単に帰っただけのようです。

ああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!

そうこうしている間に、ラウンドはすっかり終わっていました。
通常の確変になってしまいました。

結局この日のアスカの収支はマイナス2万円強でした。

普段は負けると、苛立つアスカですが、
何故か今日は気分が良いようです。

「あ〜あ、明日もあの男の子来るかな?」

既に負けたことなど忘れているようです。





翌日、昨日の挽回をと早めにホールに来ました。
普段は目を付けられないように、敢えて開店から1時間後ぐらいに
入店しますが、今日は10半と開店30分後です。

決して朝が苦手なせいだとか言ってはいけません。

とにかく、今日はリベンジです。

眼光鋭くアスカは台を探しています。
さすが、プロですね。

「あの男の子、今日はいないのかな?あっいた。」

おやおや、探していたのは例の男の子のようです。

男の子は昨日と同じ台に座っていました。
彼の台は通路の一番端です。
アスカは昨日と同じ2番目に座りました。

開始30分。
なかなかかかりません。
そもそも、回りが悪いです。
どうやら釘が渋くなっているようです。

普段ならさっさと台を変わるアスカなのですが、
今日は何があってもこの台を死守しています。

ジャカジャカジャカ

チラチラ

ジャカジャカジャカ

チラチラ

普段は強気のアスカも緊張して、チラチラと見ることしかできません。

声をかけたいな。
せめて名前ぐらい知りたいな。
まさか玉をまた転がすっていうのも芸が無いし……

頭脳明晰のアスカも今日はうまく頭が回りません。

パラリラパラリラ
グォングォングォングォン
パッパカパーパッパッパッパーーー

どうやって話しかけようかしら。

パラパラリラリラ♪

パラパラリラリラ♪

アスカ。
アスカ。
ほら、フィーバーが掛かってますよ。
集中しないとまた失敗しますよ。

一緒に食事でもどう?
って、いきなり過ぎるわよね。

パラパラリラリラ♪

パラパラリラリラ♪

アスカ。
アスカ。
玉がありませんよ。
早くしないとまたパンクしますよ。

「君、玉が無いよ。」

隣の男の子がそう言うと、玉を少しアスカの台へ放り入れます。

「あ、あ、あ、ありがとう。」

パラパラリラリラ♪
ジャラジャラジャラ

パラパラリラリラ♪
ジャラジャラジャラ

ほ〜、どうやらパンクは免れたようです。
そして無事ラウンド終了。

い、今がチャンスよ。

「あ、あの。さっきはありがとう。」

勇気を出して男の子に声をかけます。

「ううん。大したことじゃ。」

「あ、さっきの分、これ返しておくわ。」

アスカは先ほど貰った分を返しました。

「君パチンコあんまりやらないの?」

男の子から声をかけてきました。

「え、そ、そんなこと無いわ。」

アスカもプロです。
ド素人みたいに言われるとさすがにプライドに触ります。

「昨日も失敗していたみたいだったから。」

あ、アタシのこと覚えていてくれたんだ。

今日のアスカの服装はやはり目立たないように
昨日とすっかり様変わりしています。

真っ赤なブラウスに真っ赤なキュロット

……う〜ん、ハタから見れば全然昨日と変わりませんねぇ。
男の子がアスカだと認識しても当然ですよね?

きっと脈があるわ。

前向きなアスカはそう思うことにしました。
ひょっとしたら、本当にそう思い込んでいるのかもしれませんが……

「ア、アタシ、惣流アスカ。惣流・アスカ・ラングレーよ。」

いきなり自己紹介をしました。
アスカは回りくどいことは嫌いなようですね。

「あっ、僕は碇シンジ。」

彼はシンジ君というようです。
律儀な性格なのか、ちゃんと自己紹介してくれました。
良かったですね、アスカ。

「アンタ、良くここに来るの?」

「僕?僕は昨日が初めて。君は?」

「アスカでいいわ。」

「あ、じゃ、アスカ。アスカは良く来るの?」

「アタシも昨日が初めてなの。」

「そう。パチンコって難しいね。」

「そう?」

「うん。」

それっきりシンジ君は自分の台に専念しました。
どうやら人見知りするタイプのようです。

「ね、ねぇ。碇君。」

アスカが我慢できなくなって、シンジ君に話しかけます。

「シンジでいいよ。」

「じゃ、シンジ。お昼一緒にどう?」

「ゴメン。昼から用事があるんだ。
 だからそろそろ帰るんだよ。」

「そ……そう。」

「うん。」

「明日はまた来るの?」

「うん。そのつもり。」

「じゃ、また明日ね。」

「うん。」

それから10分後、シンジ君は帰りました。





その日の午後は、アスカは集中して勝つことができました。

家に帰って収支を計算しています。
おっと、3万円の勝ちです。
さすがプロですね。
執念でリベンジしましたね。

「これで、明日うまくいけばシンジとデートできるわ。」

……う〜ん、どうやらデート代欲しさに頑張っていたようです。

そういえば、シンジがフィーバー出しているところって見たことないわねぇ。
良くお小遣いが無くならないわねぇ。

昨日と今日を振り返りアスカはそう思いました。

アタシが教えてあげるとか言って、手を触ったり……

夜遅くまで妄想にふけるアスカでした。





翌日、10時15分にホールに行きました。
既にシンジ君はいました。

あ〜〜〜〜〜〜〜15分損したぁぁぁ。

地団太を踏んで悔しがります。

でも、早速笑顔に切り替えて

「おっはよう、シンジ。」

と声をかけます。
例の女神の微笑みです。

「あ、おはよう、アスカ。」

こちらも素敵な笑顔です。
少なくともアスカには素敵な笑顔です。

や、やるわねぇ。
このアタシの女神の微笑みと同等……いえ、それ以上の破壊力だわ。

会話をしながらパチンコをします。
アスカにとっては初めての経験です。

今まで勝つためにしかパチンコをしたことがありません。
会話は不要です。
集中力が勝負です。
そう、彼女は負けず嫌いなんですね。

「ここのカウンターの男の人、恐そうね。」

他愛も無い会話を進めるアスカです。

「そうだね。でも、ここの店長なんだよ。」

「へ〜え、そうなの?あんなツラで良く潰れないわねぇ。」

「そ、そうだね。」

「ねぇ、アンタは何やっているの?」

「見た通りパチンコだよ。」

「違うわよ。普段は何?学生?」

「うん。」

「今は夏休みだからパチンコって訳ね。」

「う〜ん、そんなところかなぁ。アスカは?」

「アタシ?アタシは……。」

普段はフリーターと言うことに決めています。
決してパチプロだと素性を明かしません。

ですが、シンジ君に嘘を付きたくはありません。

「アタシは……パチプロなのよ。」

嫌われるかな?

そんなことを思いましたが、やはり嘘を付けませんでした。

「へ〜。凄いんだぁ。」

「そ、そう?」

「うん。良くこんな難しいモノで稼げるね。」

どうやら評価は悪く無いようです。
良かったね、アスカ。

「アンタは趣味?」

「ちょっと違うんだ。父さんにやれって。」

「え?無理やりやらされているの?」

良く分かりません。
親に止められるなら分かりますが、
積極的にパチンコを勧める父親とは理解できません。

「お客さんの立場を知りなさいって。」

「お客さんの立場?」

さすがのアスカも『?』マークで一杯です。

「うん。ここの店長父さんなんだ。」

「ええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜?!」

思いっきりビックリしました。
今日も店長はカウンターにいます。

あ、あの髭親父がシンジの父親?!
うそ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜?!

「そ、そうだったの。」

「うん。」

なるほどね〜
だからいくら負けても平然と同じ台を打ち続けられるのねぇ。

昨日の夜の疑問が解消されました。

一度シンジがかかるとこ見たいな。
どんな顔するのかな?
ビックリするのかな?
それとも声を上げて喜ぶのかな?
う〜ん、シンジだと声をあげることは無いわね。

今日も集中力散漫です。

パラリラパラリラ
グォングォングォングォン
パッパカパーパッパッパッパーーー

アスカの台がかかりました。
『3』の確変でした。

「アスカ。やったじゃ無いか。」

「え?」

アスカは自分のパチンコなど見てなかったようですね。

「『3』の確変だよ。良かったね。」

シンジ君も喜んでくれてます。

パラパラリラリラ♪
ジャラジャラジャラ

パラパラリラリラ♪
ジャラジャラジャラ

「アスカ、その調子だ。」

シンジが応援してくれています。
アスカの集中力もいつもより倍増。

きっちり裏モードに突入させました。

さすがはプロです。
こんな時でもしっかり攻略します。

フフフ、シンジが見てる。
このまま永久裏モードに突入させて、もっと見てもらおう!

……う〜ん、ただ単にシンジの視線と応援欲しさなんですねぇ。





「凄いなアスカって。さすがプロだね。」

ふとアスカは思いました。
シンジはここの御子息です。

「シンジ、お願いだから、アタシがプロってことは、
 あの髭……じゃない、お父さんに言わないでね。」

「え?うん。」

「アタシとシンジだけの秘密よ。」

「分かった。言わないよ。」

これで秘密を共有できたわ。

何やらアスカは嬉しそうです。





アスカが3回目の確変に入った時です。

パラリラパラリラ
グォングォングォングォン
パッパカパーパッパッパッパーーー

隣から音がします。

「シ、シンジ〜。かかったわよ。」

「あ、ホントだ。」

パラパラリラリラ♪

パラパラリラリラ♪

しかし、シンジ君の玉が無くなっていました。

「ホラ、アタシの玉で打ちなさい。」

「ありがとう。」

パラパラリラリラ♪
ジャラジャラジャラ

パラパラリラリラ♪
ジャラジャラジャラ

快調にラウンドが進みます。

『7』の確変です。
これは裏モードには突入させられません。

もっとも、さすがにアスカも裏モードは教えられないでしょう。

「残念『7』だったわね。」

「でも確変だよ。」

「『3』だととっておきの裏モードがあるのよ!」

……う〜ん、相手がシンジ君だと秘密を守れないようですねぇ。

パラパラリラリラ♪
ジャラジャラジャラ

パラパラリラリラ♪
ジャラジャラジャラ

シンジ君が楽しそうに見つめています。

アスカの心臓はドキドキドキドキ♪

「かかると楽しいね。」

屈託無い笑顔をアスカに送ります。

アスカの心臓はズキュンズキュン♪

シンジの確変が終わりました。

「さっきは玉をありがとう。」

シンジ君が律儀に玉を返します。

「どういたしまして。」

「昨日も同じことがあったね。」

シンジの殺人的微笑(ただしアスカに対してのみ)が
全開で炸裂しました。

アスカの心臓はバッコンバッコンバッコンバッコン♪

シ、シンジ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

アスカはトリップしています。





アスカも目一杯稼いだし、シンジのフィーバーが終わったところで
揃って景品所に向かいます。

すでに10万分は稼いだアスカ。
シンジも2万5千円ありました。。

「良くやったな、シンジ。」

シンジ君もなんだか嬉しそうです。





次はトリップ中のアスカです。

「フッ。現金か?それとも景品か?」

シンジの父・ゲンドウの接客とは思えない言葉にも
アスカは関係ありません。

「あ、あの……。」

「どうした?早くしろ。でなければ帰れ。」

いやいや、ゲンドウさん。
アスカは帰るところなんですってば。

「あの……その……このシンジと交換して下さい。」

「ええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」

シンジ君は驚いています。
当然ですよね。

「景品としてシンジが良いのだな?」

「は、はい。」

「フッ。問題無い。好きにしろっ。」

「はっはっ……はいぃぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

返事をするや否や、拉致するかのように
アスカは”景品・シンジ君”を持ちかえりました。

シンジ君の意見は関係無いようでした。





3年後。

アスカは郊外に住んでいました。

そして、郊外のパチンコ店『ゲヒルン』で、背中にシンジ君との子供を
おんぶしたアスカが、今日も家計を支えるためパチンコに励んでいました。


マナ:パチンコって儲かるのね。

アスカ:フッ。誰でも儲かるってもんじゃないわよ。

マナ:どうしたら勝てるの?

アスカ:教えて欲しい?(自慢気)

マナ:うん、うん。(@@)

アスカ:それはさ。あーなったら、こーして、こーして・・・

マナ:ふむふむ。なるほどぉ。(^^v

アスカ:どう? わかった?

マナ:よくわかったっ! よーし、わたしもシンジGetに、ゲヒルンに行くのっ!!

アスカ:なぬっ? そういうことだったのね・・・大当たり確立を最低にしておいてやる。(ニヤリ)
作者"WARA"様へのメール/小説の感想はこちら。
miya-wrc@vanilla.freemail.ne.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

inserted by FC2 system