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『ゼリーのように』   作:WARA

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「一体どこに寄り道してたのよっ!」

頭脳聡明・容姿端麗のスーパー美少女アスカが、
コンフォート17にて声を荒立てていました。

「委員長のところだよ。」

シンジは面倒臭そうに言いました。
シンジはややお疲れ気味のようです。

「アンタ、昨日も行ってたでしょうがっ!
 アタシが腹を空かせて待ってるってぇ〜のに!」

「お腹が空いたのなら、パンでも食べていたらいいじゃないかぁ。」

「このアタシがアンタの作った夕食を待ってあげてるっていうのに、
 何よ、その言い方は!
 大体どうしてヒカリのところへ毎日行く必要があんのよっ?」

「そ、それは……」

「ふ〜ん。そういうこと……」

「えっ?ち、違うよ、ちょっと用事が……」

「じゃぁ一体何よ。」

「だから、それは……。」

「やっぱ言えないんじゃないのぉ!
 このアタシが……アタシが……」

「アスカが何?」

「アタシが……お、お腹を空かせて、そうよ、
 お腹を空かせて待ってあげているのにぃ!」

どうどう巡りです。

「大体、僕が委員長のところへ行ったって構わないだろ?」

「だ、誰もそんなこと言ってるんじゃないでしょぉ〜がっ!」

「ア、アスカ?」

ドタドタドタ
バタン

アスカは自室に篭ってしまいました。

「ちょ、ちょっとアスカぁ!」

シンジが部屋の前まで行って声をかけますが、返事はありません。

ふぅ〜困ったなぁ
でも、材料買って来ちゃったし…





そして……

「アスカ。ご飯ができたよ。」

返事がありません。

「アスカってば、さっきはゴメン。」

やっぱり返事がありません。

「僕が悪かったからぁ。」

「どうして謝んのよっ!」

「は?」

バタン

アスカが出てきました。

「あ、アスカ。さ、食事ができたから……」

ツカツカツカ
バタン

しかし、アスカは外へ出て行ってしまいました。

アスカ……





翌日。
シンジがアスカを起こしに行きました。

「アスカ。朝だよ。」

「うっさいわねぇ。分かってるわよ。」

「昨日は……外食?」

「アタシがどうしようと、アンタには関係無いでしょ!」

「でも、昨日は……」

「何グジグジ言ってんのよ。
 今日は頭が痛いから、勝手に行ってて!」

「そう……お大事に。」

シンジは一人で食事を済ませ、一人で登校しました。





「あ〜あ。お腹空いたぁ。
 昨日、サイフの中身を確認せずに飛び出しちゃったからねぇ。」

400円しか持って出ず、昨日の夕食はサンドイッチのみですませた
アスカでした。

「朝食、アタシの分あるかしら?」

ダイニングに移動します。

ふ〜ん、さすがシンジね。
喧嘩してても、ちゃんと準備してるし。
まぁ、あの性格だからねぇ。
しかし、よりによって……

そうです。
シンジが準備していた朝食はサンドイッチでした。

「ま、こういう間の悪さもアイツらしいんだけどさ。」

一人でブツブツ言いながら、飲み物の準備をしています。

あれ?

アスカが冷蔵庫に何かがあるのに気づきました。

こ、これって?

メモを添えられた何かがありました。

『アスカが食べたがってた
 ”バニラアイスクリームのクレープとイチゴのキャラメリゼ”です。
 良かったら食べて下さい。』

シ、シンジ……

サンドイッチより先に、アスカはそれに手をつけました。

おいしい。
でも、このキャラメリゼって温かいモノよね。
もし、昨日アタシがシンジに突っかからなければ……

冷え切ったキャラメリゼをアスカは残さず食べました。





夕方、シンジが帰って来ました。

「今日は早いのね。」

アスカがシンジに声をかけます。

「え?う、うん。」

シンジは少し困ったような、当惑したような、
複雑な表情をしていました。

「冷蔵庫のヤツ、頂いたわよ。」

「そ、そう?」

シンジの表情が少し明るくなりました。

「アレを作るためにヒカリのところ行っていたのね?」

「う、うん。ほら、この前喫茶店でアスカがこれを食べたいって言ってたから。
 だから委員長に作り方を。」

「どうして昨日ちゃんと説明しなかったのよ?」

「ちょっとビックリさせようと思って……。」

「はぁ〜。やっぱそんなことだったのね。
 ちゃんと説明してくれたら、アタシだって……」

「ゴメン。」

「またすぐ謝る〜。」

「ゴメン。」

「はぁ〜。もういいわ。でも、アンタのせいで冷たいキャラメリゼになったじゃない。
 やっぱ温かいうちでないと……。」

「じゃ、また明日作るよ。」

「うん。」

台風が通りすぎ、二人は笑顔になっていました。





翌日、アスカは温かい内に、キャラメリゼを食べました。

う〜、でも借りっぱなしって言うのはシャクよねぇ。
一応、何だかんだ言いながらも、アタシの為にアイツは作ってくれたんだしぃ。
ようし、明日は日曜日だし、シンジもあのジャージ馬鹿と出かけるみたいだし。

そう考えると、アスカは本棚を漁り始めました。





「じゃ、行ってくるよ。昼食は水屋に入れてあるから。」

「ハイハイ。アンタってホントマメねぇ。」

「ハハハ……。じゃ。」

「あのジャージ馬鹿にそれ以上馬鹿をうつされないようにね!」

「ハハハ……。」

シンジは出かけました。

さて……と
まずは道具を調達しないと。

アスカも買い物に出かけました。





う〜、なかなか難しいわね……

道具を調達したアスカが何やら悪戦苦闘しているようです。

どうして固まらないのよ?
もう、この料理の本の書き方が悪いのよ。
このアタシが解読できないなら、世界の誰もが理解できないじゃ無いのっ!

アスカは失敗したソレをゴミ箱へ抹消しました。

はぁ〜、こんなことなら材料もっと沢山買っておけば良かった。

材料を再度、今度はふんだんに購入し、再び台所で格闘していました。





どうして……どうして固まらないのよぉ

もう3度目です。
台所が悲惨な状況に変わりつつあります。

そうだ、ヒカリに……

プルルルルル

っち、このアタシが電話してるんだから、さっさと出なさいよぉ!
もう、いいわ。
こうなったら成功するまで何度もトライしてやるぅ〜!

しかし5度目。
一向にアスカの思うようになりません。

どうして?
アタシの何が悪いの?
料理の本にも簡単って書いてあるじゃない……

アスカは台所でヘタリこんでいました。

でも、頑張んなきゃ……





「ただいま〜。」

シンジが帰宅したようです。

「アスカいないの?」

シンジが台所まで来ました。

「な、なんだなんだ?」

シンジは台所を見て、呆気にとられました。
悲惨な状況です。
床にまで様々な色をした液体が飛び散っています。

「ア、アスカ?どうしたの?何かあったの?」

隅のほうで座りこんでいるアスカを見つけたようです。
アスカは首を横に振るだけでした。

「一体どうしたの?」

ポロポロポロ

「ア、アスカ?」

返事がありません。

「ま、まさか、強盗でも?」

シンジの顔色が変わりました。
が、アスカは首を横に振りました。

「べ、別に何とも無いんだよね?」

アスカはコクンと頷きます。

「そ、そっかぁ。それならどういうこと?」

「……固まらないのよ。」

「え?」

「ゼリーが一向に固まらないのよ……」

「ゼリー?」

テーブルの上を見ると、ゼリーを作る器が並べられていました。
しかし、度重なる失敗品がゴミ箱を溢れ、あちこちに散らばっていました。

「そう、ゼリーが食べたかったんだね?
 じゃ、僕が作るから……」

「そうよ!アンタなら簡単に作るんでしょうけどね。フンっ。
 どうせアタシは……アタシは……。」

「アスカ?」

「せっかく、アタシがシンジに……」

「え?」

「この前、キャラメリゼをアタシが食べた喫茶店で、アンタはゼリーを食べてたでしょ?
 中にイチゴの身の果肉が入っていたヤツ。
 どうやって作るのかなぁ……とか言ってたじゃない。
 だから、アタシが……。」

「ア、アスカ。」

「か、勘違いしないでよ。昨日わざわざキャラメリゼを作って貰った借りを……。
 アタシは借りたままじゃ済ませられない性格だってのは知ってるでしょ?」

「うん、分かってるよ。だからアスカの気持ちだけで……。
 それより片付けようよ、ね?」

「な、何も分かって無いじゃないのぉ!
 これじゃ借りを増やしただけじゃないのよっ!」

ポロポロポロ

「だから、気持ちだけで、僕は全然……。」

「せっかく、せっかく、アタシが頑張ったのに……
 このアタシが頑張ったのに……。
 ちゃんとできなきゃ意味が無いのよっ!」

ポロポロポロロポロポロ

「ゴメン。そういうつもりじゃ無くて……。
 でも、僕も一緒だよ。実は、あのキャラメリゼ。
 一日じゃうまく作れなくて、委員長のところに2日間通っちゃったんだよ。
 本当は内緒にするつもりだったんだけどさ。」

「そ、そう?」

「うん。まぁ、僕は不器用だから、アスカとは比較にならないけど。」

「わ、分かったわよ。
 今に見ておきなさい!
 ぜ〜ったいアンタをビックリさせてやるんだから。」

不屈の精神の持ち主のアスカは涙を拭い、
台所を片付け、リベンジを誓いました。





それから長い年月が経過しました。





「わぁ、さすがアスカ。とってもおいしいよ。」

シンジはアスカが作ったゼリーを食べていました。
シンジの目の前には色とりどりのゼリーが並べられています。
勿論、以前のように固まらないゼリーではありません。
見るからにおいしそうです。

「当然でしょ。このアタシが作ったんだからぁ。」

「うん、そうだね。」

「こんな優しくて可愛い奥さんを貰えてシンジは幸せね。」

「ハハハ……そうだね。」

「何よぉ、その笑いはぁ。」

そうです、あれから4年強。
シンジとアスカは結婚し、幸せな新婚生活を送っていました。

「あれから、丁度5年よ。」

「あれからって?」

「アンタ忘れたの?」

アスカが睨みつけています。

「え、え〜と、確か僕がキャラメリゼを作って、
 そのお返しにアスカが……。」

「良く覚えていたわね。忘れていたら死刑にしてるところだけど。」

「ハハハ……。でも丁度5年って。良くアスカは覚えているね?」

「もし、あの時のことがなければ、今のアタシ達は無かったのよ。」

「えっそうなの?」

「ねぇ、シンジ。もしアタシから告白しなければ、アンタから告白してくれた?」

シンジが考えています。

「多分……あの時の僕じゃ、とても。」

「でしょ?あん時、アンタの為にゼリーを作っていて思ったの。
 何でこんなことしてるのかなって。
 それで自分の気持ちに気づいたのよ。」

アスカは少し苦い想い出を、今は楽しそうに話しています。

「そう……だったんだ。」

「アンタがアタシに作ってくれて、アタシがアンタの為に苦労して……。
 まったく、光栄に思いなさいよ!」

「うん。でも、僕もアスカが好きだったから、あの時頑張ってキャラメリゼを。」

「へぇ〜そうだったの。それは初めて聞いたわ。ご馳走さま。」

アスカが悪戯っぽく笑っています。

「あの、その、ハハハ……あっ、このイチゴ味おいしいね。」

「アンタ、会話を逸らせたわね?
 全く、真っ赤になっちゃって。」

「い、いや別に……。ねぇ、この透明なのは何味?」

「そんなの決まってんじゃない!」

「へ?」

「アタシのあっつぅ〜〜〜〜〜〜い、愛情の味よ!」

「ハハハ……」





二人の愛情は、目の前のゼリーのように柔らかく、
しかし固くて、決して崩れることのないものへ成長していました。

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あとがき

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今回はこの二人には幸せになって欲しいなと、思いながら
ライトでやや温かいLASを目指して書いてみました。

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マナ:ゼリーが固まらないくらい、なによっ。

アスカ:苦悩は、2人で乗り越えていくものなのよ。

マナ:苦悩って程のことでもないでしょっ。ゼリーが固まらなーいとか、かわいこぶってんじゃなーいっ。

アスカ:かーいかった?(*^^*)

マナ:すっごく、その顔、むかつくんだけど。だいたい、ゼリーなんかで結婚までするぅっ? ゼリーが

アスカ:あぁ、あの固まらないゼリーが、愛のキューピッドだったのね。

マナ:ゼリー事件を、口実にシンジを撃沈しただけでしょ。(ーー)
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