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『助けてシンジ』   作:WARA

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シャコシャコシャコシャコ
シャコシャコシャコシャコ

頭脳聡明・容姿端麗のスーパー美少女、惣流・アスカ・ラングレーが
寝る前に歯磨きをしています。

シャコシャコシャコシャコ
シャコシャコ……

「ぬっ?」

アスカの動きが止まりました。

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」

タタタタタタタタタタタタタ

「シ、シンジぃぃぃ!」

アスカは台所で洗い物をしていたシンジのもとへ、ダッシュしました。

「ア、アスカぁ。歯磨き粉つけたまま喋っちゃぁ汚いよぉ。」

「そ、それどころじゃないのぉ!む……む……む……」

「むむむ???ねぇ、一体何の遊び?」

「む……む……虫ぃぃぃ!」

「へ?」

「洗面所に虫がぁぁぁ!」

シンジが洗面所に行きます。

「なんだぁ、コオロギじゃないかぁ。」

「む、虫には違いないわ!早く殺して捨てちゃって!」

「殺したらかわいそうだよぉ。」

そう言いつつ、シンジはコオロギを捕まえました。

「ちょ、ちょっとぉ、こっちに来ないで!」

「はいはい。」

シンジは玄関から外へ捨てました。

「へ〜、コオロギがいるなんて、本当に生態系が戻ってるんだ。」

シンジは呑気に感心しています。

「そんなの戻らなくていいわよ!」

「どうでもいいけど、アスカ。早く口をゆすいでおいでよ。」

「い、言われなくたってやるわよ。」

グチュグチュグチュ
ジャーーーーー

「ふぅ。すっきり。」

「アスカって……」

「な、なによぉ?」

「虫が苦手?」

「そ、そうよぉ。何か悪いの?!」

「い、いや、そういう訳じゃないけど。
 でもなんか、アスカも女のコなんだなぁって。」

シンジは屈託無く笑っています。

「フンッ。……ってアンタ、アタシをどういう目で見てる訳?」

シンジは失言したことに気が付きました。

「あ、いや、その……。」

「ま、いいわ。それより本当に捨ててくれた?」

「うん。」

「アンタ、虫は平気なんだ?」

「うん。ここに来る前は先生のところにいたのは知ってるだろ?
 結構田舎で育ったんだよ、僕は。」

「そう。通りでのほほんとした性格に育った訳ね。」

アスカは洗顔も済ませ、シンジも台所作業が終わり、
二人ともあとは寝るだけです。





「じゃ、そろそろ寝るわ。」

「うん、おやすみ。」

「おやすみ。」

シンジとアスカはそれぞれ自分の部屋へ戻りました。

うぅ、寝る前にジュース飲み過ぎちゃったわねぇ。
シンジが絞りたてのアップルジュースなんか飲ませるから……

とか何とかアスカは思ってますが、
結構ご機嫌で飲んでいたのですが。

トテトテトテ……

どうやら就寝の前に用を済ませるようですね。
我々がついて行くとアスカに怒られそうですので、
ここで待っていましょう。

バタン

シーーーーーーーーーーーーーーーン





「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」

「ど、どうしたんだよアスカ?」

ドタドタドタ
バタン

「ちょ、ちょっとアンタいきなりどこへ入ってんのよ!
 このスケベシンジがぁぁぁぁぁ。」

バシーーーーーーーーーーーン

シンジは思いっきり引っぱたかれました。

「そ、そんなこと言ったって悲鳴を上げたじゃないかぁ。」

いきなりシンジは非難を浴びましたが、アスカは普通の格好です。
トイレに入るなり、悲鳴を上げたようです。
もっとも、そうでなければシンジは生存していなかったことでしょう……

「まぁいいわ。今回は未遂で終わったし……
 そ、それより、シンジぃ。あ、あそこぉぉ!」

悲鳴の原因をアスカは思い出したようです。
アスカが指で黒いモノを指しています。
良く見ると蜘蛛のようです。

「なんだぁ、ハエ取り蜘蛛じゃないかぁ。」

シンジは窓からポイと捨てました。

「ど、どうして虫がいるのよぉ。」

アスカは半分涙声です。

「さぁ、どうしてかな?」

「ちゃんと網戸してるんでしょ?」

「してるよ。それに今は夜だから全部窓も閉めてるよ!」

「昼間も?」

「うん、網戸をちゃんと閉めてる。」

「じゃぁどうして?」

「通風孔から入ったのかなぁ。」

「もう、嫌……」

「アスカって本当に苦手なんだ。」

「だってドイツは万年雪国でしょ?
 日本に来て初めて虫なんて見たんだもん。
 気持ち悪いったらありゃしないわ!」

そうです。
セカンドインパクトの影響で、日本は常夏に、
ドイツは万年雪国になっているのです。

「そっかぁ。とにかく、もういないから安心して。」

「え、ええ。」

いつになく弱気のアスカです。

「じゃ、僕寝るよ、おやすみ。」

「ええ、おやすみ。」

再び二人はそれぞれの部屋に戻りました。





バタン

アスカは自分の部屋に戻りました。

「今度は……大丈夫よね?」

キョロキョロ

ベッドの周りを確認します。

「大丈夫大丈夫。」

キョロキョロ

床と壁を確認します。

「大丈夫大丈夫……」

キョロ……

今度は机を……

「うぎゃ……って、もう消しゴムじゃない。
 まったく黒い消しゴムなんて紛らわしいじゃないの!」

そんなこと言いましても、それを買ったのはアスカ自身なんですが。

そんなこんなで、ようやくベッドに入りこみます。
そして消灯。

ううっ、ホントに大丈夫?

カサカサ
カサカサ

「うぎゃ……って、風の音か。もう驚かすじゃないのぉ!」

ゴソゴソ
ゴソゴソ

「きっと風の音よ、風の……
 って風の音がゴソゴソ言うわけないじゃないのっ!」

慌てて電気をつけます。

ゴソゴソ……ドスン

「な、なに。外から?まさかノゾキじゃないでしょうね?」

窓を開けて確認しようと思いましたが、
虫が入ってくるのが嫌なので諦めました。





ドンドンドン

「シンジぃ!起きなさい、シンジぃ!」

バタン

「何、アスカ?まだ起きてるけど。」

「虫が……じゃない、なんかノゾキが現れたのよ!」

「ホントに?ここのマンションってセキュリティ高かったんじゃないの?」

「そんなこと知らないわよ。でもいたの!」

「見たの?」

「そ、それは……窓を開けたくなかったから……。」

「どうして?って、あっそうか。」

鈍感なシンジでも流石に気づいたようです。

「ね、久しぶりにリビングで寝ましょうよ。」

「ええ?」

「明日は休みでしょ?たまには話でもしながら……」

「そうだね。でも、アスカってそんなに恐いんだ、虫が。」

「ち、違うわよ。ノゾキも嫌だし、
 たまにはアンタに付き合ってやろうって言ってるだけじゃないのっ!」

「ま、いいや。じゃ布団をリビングに敷かなきゃ。」

アスカが敷く筈も無く、シンジが二人分準備します。

「さ、できた。電気消すよ。」

「ええ、いいわ。」

パチッ

「久しぶりね、ここで寝るの。」

「そうだね。この前は一緒に対戦格闘ゲームをやってて
 そのままここで寝たね。」

「そうだったわね。」

カサカサ

風の音のようです。

「あん時、アンタ1回も勝てなかったのよねぇ。」

「あれからケンスケと鍛えたから、今度はもうちょっと善戦できるよ。」

カサカサ

「へぇ、自信あんじゃない。また今度やってみましょ。」

「うん。」

どうやらシンジといると、安心できるようですね。
やがてアスカは眠りに落ちていきました。





翌朝。

「さて、朝シャン、朝シャン……と。」

脱衣所でご機嫌のアスカです。
一晩寝れば、すっかり気分が良くなったようです。

「アスカぁ。卵焼きは目玉焼き?スクランブル?」

台所からシンジの声がします。

「目玉焼き!」

アスカが返事をします。

髪を解き、朝シャン準備完了。

モジモジ……

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」

アスカは台所で朝食の準備をしていたシンジのもとへ、ダッシュしました。

「ア、アスカぁ?!そのカッコ……」

「そ、それどころじゃないのぉ!む……む……む……」

そこまで言ってアスカはハタと気づきました。

「このスケベシンジがぁぁぁぁぁ。」

バシーーーーーーーーーーーン

シンジは思いっきり引っぱたかれました。
アスカは慌てて自分の部屋に戻り、バスタオルを巻きました。

「ひ、酷いよぉ。僕のせいじゃ無いじゃないかぁ。」

でも、得した気分なのも事実です……

「アタシが飛び出して来る前に、さっさと言ってくれりゃぁいいのよっ!」

無理難題ってもんです。

「そ、それより……。」

「また虫?」

脱衣所をシンジが確認します。

「へぇ青虫か。きっとアゲハ蝶だ。
 よくこんなとこにいたなぁ。」

「な、なに感心してんのよ。さっさと捨てて来て!」

ポイッ





そんなこんなで、朝シャンもすみました。
そして二人で朝食。

「ねぇ、シンジ。」

「なに?」

「全ての原因は、あの不毛の暗黒の地、ミサトの部屋が原因じゃないの?」

「それは違うと思うけどなぁ。」

「どうして?」

「ミサトさん、今出張中だろ?
 だから、僕がおとといに部屋を片付けておいたんだよ。」

「そうなの。う〜ん。」

朝食後、念の為ミサトの部屋を確認しましたが、綺麗なもんです。

「アンタ、良く片付けたわね。」

「結構大変だったよ。」

「だったらどうして……。」

「まぁ、アスカのこともあるけど、不衛生だし、
 家の中を掃除してバルサンでも炊こうか?」

「ええ、そうしましょ。」

そうしましょ……とは言ったものの、そうするのはシンジの仕事です。





夜。
今日も二人でリビングで寝ます。
雑談をしながら、眠気が来るのを待っています。

「あ、シンジどこ行くの?」

話の切れ目でシンジが布団から出ていきました。

「トイレだよぉ。」

「あ、そっか……。行ってらっしゃい。」

トイレに行くのに”行ってらっしゃい”もあったもんじゃありませんが、
まぁ一人だと不安なんでしょう。

カサカサ

「風の音、風の音……。」

案の定、不安になってきたアスカです。

カサカサカサ

「風の音……じゃないわよ、これ。」

音の方をみます。

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」

タタタタタタタタタタタタタ

「シ、シンジぃぃぃ!」

アスカはトイレ用を足してしていたシンジのもとへ、ダッシュしました。

「ちょ、ちょっとアスカぁぁぁ。」

「ちょ、ちょっとアンタ、なにやってんのよぉ!
 この変態シンジがぁぁぁぁぁ。」

バシーーーーーーーーーーーン

シンジは思いっきり引っぱたかれました。

「そ、そんなこと言ったってトイレで用を足すのは当たり前じゃないかぁ。」

度重なる惨事に、シンジは泣きそうな気分でした。

「そ、そんなことより、む……む……む……」

用を足し終えたシンジがリビングに向かいます。

「これは……ゴキブリじゃ。」

新聞紙を丸めてそっと近寄ります。

バシッ

一発で仕留めました。

「シンジ、やるじゃん!」

「ハハハ……。でも、バルサン炊いたのにまだいるなんて……。」

「安物だったんじゃないの?」

「さぁ。これなんだけど。」

「え〜なになに、『赤木リツコ特製、虫イチコロ』……。
 あのマッドが作ったヤツ?」

「うん。先日貰ったんだ。
 『ミサトの部屋って不衛生でしょうからあげるわ』って言って。」

「あんなヤツのを使うから効かないのよ!」

「そうなのかなぁ?でもゴキブリはマズイから、
 早速明日に、普通のバルサン買って炊くよ。」

「ええ、そうして頂戴。さ、寝ましょ。」

「うん。」

ギュッ

アスカがシンジの手を掴んでます。

「ちょ、ちょっとアスカ?」

「い、今だけでいいの……」

シンジはどう答えて良いのか分かりませんでしたので、
黙って寝ていました。

そして寄り添うように一夜が明けました。





翌朝。
今日は学校です。
いつもと同じく一緒に登校します。

しかし、今日はちょっと状況が違いました。

「アスカぁ、恥ずかしいよぉ。」

「だ、だってぇ……」

そうです、今朝もひと騒動あり、すっかり怯えているアスカでした。

「ホントに苦手なんだ?」

「わ、悪かったわね。フンッ。アンタは無敵のシンジ様だから
 アタシのこの気持ちが分からないのよっ!」

悪態を付くもののシンジの手を離しません。

「無敵のシンジ様……って。」

「おはよう、センセぇ。って何や。何で手をつないでるんや?
 お前らとうとうくっ付いてもうたんか?」

「いや、違うんだ。アスカが……」

「な、何言ってんのよ。これは……そう、訓練の一環なのよ!」

プライドが高いアスカは虫が恐いからだとは、
シンジ以外には言いたくありませんでした。

「どないしたら訓練の一環になるっちゅうねん!」

その日より、公認のカップルとなってしまいました。





数日後の夜。

「シンジぃぃ。もっとこっちぃ。」

「はいはい。もう、アスカは恐がりさんなんだから。」

ピトッ

今は一緒の布団で寝る始末です。

カサカサ

「シンジぃ。まさか……。」

「違うよ。風の音だよ。」

「あっ、そっか。」

「安心して眠って。」

「ちょ、ちょっとどこ行くの?」

「少し暑いから冷房の調整を……。」

「ア、アタシも付いていく。」

ピトッ

「はいはい。もう、アスカは恐がりさんなんだから。」

暑いのは見ている我々の方です……





朝も仲良く登校。

「相変わらず仲のええこっちゃなぁ。」

「いや、そういう訳じゃないけど……。それより最近ケンスケ見ないね。」

「そうやなぁ。何か戦艦追っかけるって言ってたけど、
 もう戻るハズなんやけどなぁ。」

その様子を電柱の影から見つめる一人の少女の姿がありました。

「どうして……こうなっちゃうの?」





夜……某所。

「ちょっとぉ、どうしてこうなっちゃうのよ?」

「そんなこと、私に聞かれてもねぇ。」

「赤木博士。あんたのせいじゃないの?」

「何を言うのよ。私は貴方の言うように、
 『特製虫ロボット軍団』を作ってあげたのよ。」

そう言いながら、リツコは自分が作った虫ロボットを
リモコンで操作しています。

「現に、シンジ君とアスカは本当の虫だと思ったんでしょ?」

「ううっ」

「とにかく、私は要望通りのモノを作ったわ。報酬を。」

「フンッ。」

そういって、モルモット”相田ケンスケ”を差し出しました。

「暴れるから縛りつけておいたわ。
 どう、活きのいい実験体でしょ?」

「ええ。これなら構わないわ、マナ。」

「全く、こんなに苦労したのにぃ……」

マナはお尻を擦っています。
先日、アスカの醜態を見てやろうと
外から様子を伺っていて、途中で落下して大きなアザができていました。

「貴方がへっぽこだからじゃないかしら?」

「そんなことないもん!
 これでも天才スパイ少女なんだからぁ!」

「ふ〜ん。」

あまりマナの話は興味ないようです。
手に入れたモルモットをどう料理するか、
そればっかり頭を占めているようです……

「でも、何がいけなかったの?
 虫が嫌いだっていう情報を仕入れたから、綿密に計画したのにぃ。
 弱虫のアスカなんか、シンジ君が愛想つかすハズだったのにぃ。」

「それはね、マナ。貴方の計画そのものが”へっぽこ”なのよ。」

「そ、そんなぁ。アタシってへっぽこ?ううぅ……へっぽこ……」

へたり込んだマナの周りには暗黒星雲が立ちこめていました。

「フッ、無様ね。でも、このモルモットは有り難く頂いて行くわ。
 フフフフフ……。」

怪しい高笑いをNERV本部に響き渡らせながら、
意気揚々と実験室へ向かうリツコでした。

さよなら、相田ケンスケ。





友人一人の犠牲を知らず、
今夜もアスカと一緒に仲良く寝るシンジでした。





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あとがき

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アスカが苦手なモノ……何か無いかな?
私が苦手なモノ……英語、月末の支払い、そして虫。
そっからピピピっと怪電波が飛んできまして、一気に書き上げました。

っで少し甘えん坊なアスカになってしまいました。

『助けてシンジ』というタイトルですが、これはアスカの声なのか、
それとも、ケンスケの声なのか……

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