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『続・姫君アスカ〜クリスマス編〜』   作:WARA

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『姫君アスカ』の続編です。
宜しければ先にそちらをお読み下さい。

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「全く寒いったらありゃしないわ。
 何グズグズしてるの、早く部屋を暖めなさいよ!」

アスカ姫の声が、惣流家の屋敷内に響き渡りました。

「ハッ、申し訳ありません。」

惣流家専属の運転手の時田は冷や汗を掻きながらアスカ姫にあやまり、
すぐさま薪を暖炉に放り入れました。

「罰として馬になりなさい!」

「は?」

「馬よ。アンタ馬も知らないの?」

「いえ……その、馬になるとは?」

「床について、アタシの馬になって歩きなさいっていってるのよ!
 どうしてそうグズなのかしら。」

「いや、しかし、旦那様のお迎えに行かなければならない時間ですので……。」

「それは誰か暇な者にやらせなさい。」

私は専属ドライバーとして雇われているのに……
暇な者が相手をして、私が迎えに行くのが普通ではないのだろうか?

そういう素朴な疑問が湧き上がりますが、
アスカ姫に逆らえる筈がありません。

「しょ、承知しました。」

「最初っからそういう風に言えばいいのよ。
 ほら、さっさと床に手をついて!」

「はい……」

時田はしぶしぶ馬の格好になりました。

「さ、どうぞ姫。お乗り下さい。」

こんなことで姫のご機嫌が直るのであれば仕方ない。
そう考えました。

「アンタバカァァ?
 そのままアンタの上に乗れって〜の。いやらしいわねぇ。
 鞍を準備しなさいよ!」

たかだかご機嫌をなだめるのに、
どうしてそこまでしなくてはいけないのだろう?

辺りを見回します。
他のメイドや召使い達はその場を離れています。
触らぬ神に祟り無しってやつですね。

そんなこんなで時田は諦めて鞍の準備をしました。

「さ、姫、お乗り下さい。」

「もういいわ。」

「は?」

「もういいって言ってるの。
 部屋も暖まったし、本でも読むわ。」

時田は言葉が出ません。

「聞こえないの?本を読むのよ。出ていきなさいよ!」

「は、はぁ……。」





アスカ姫がNERVからここドイツの惣流家の屋敷に戻ってから、
こういう光景は度々ありました。
約半年の間、アスカ姫が留守にしていたので、
屋敷は平穏でした。

ですから余計に召使い達は溜息が出る思いでした。

「加持さん、元々アスカ姫はその……気難しいと申しましょうか、
 お気位の高いお嬢様ではございましたが、
 NERVから戻ってからというのは……その……。」

時田が執事の加持に話しかけました。
加持はNERVの手続き等で、一昨日戻ったばかりです。

「まぁ、ちょっと色々あってな……。」

やっぱり彼がキーだな……
でなければ、この屋敷には平穏は戻って来ないだろう。

加持はそう思いました。

「旦那様ですか?ええ、実は折り入ってお話が。ええ、姫のことで……」





NERVで一体何があったのでしょうか?
時間を遡って、様子を見てみましょう。





フィーフィーフィー

「第三新東京市郊外にて未確認飛行物体発見!」

「パターン青、使徒です!」

「これより第四使徒を迎撃する。総員第一種戦闘体勢。」

第一発令所が緊迫感に包まれています。
一方、アスカ姫はシンジと地上の喫茶店にいました。

「遅いわねぇ……」

シンジが携帯で話しているので、
アスカ姫は一人で拗ねていました。

「まずいよアスカ。今ミサトさんから使徒発見の連絡が……」

「だってまだ頼んだパフェが来てないのよ。」

アスカ姫はパフェが来るのはまだかまだかと待っています。

「そんなこと言ってる場合じゃないよ。急いで本部に戻らないと。」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。
 折角シンジが紹介してくれた喫茶店のパフェじゃないのぉ。」

ピーピーピー

「はい、シンジです……。」

『ちょっとぉ、まだ姫は来ないの?緊急事態なのよ!」

ミサトの音声が割れんばかりに携帯を通して聞こえます。

「その……アスカがパフェを待ってる最中で。」

「何呑気なこと言ってるの。
 あなたは姫の世話役でしょう?」

そんな……元々の世話役はミサトさんじゃないかぁ……

シンジは自分の立場を呪います。

「ちょっとシンジぃ。この店出るのが遅いわよ。
 パフェごときで何分待たせるのよ!」

「アスカ、そんなこと言ってる場合じゃないよ。
 使徒を倒したら、クレープのおいしい店も教えてあげるから。」

なんとかかんとかなだめすかし、ようやくアスカ姫は本部に戻りました。

ぶぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ

「あ、あの……姫。早くEVAに乗って頂かないと……」

ぶぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ

「もう時間が……」

ぶぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ

ミサトが何を言っても膨れッ顔のアスカ姫です。

「は、早く倒して、アスカとクレープを食べたいなぁ。ハハハ……」

「し、仕方ないわねぇ。」

ようやくEVAに乗るアスカ姫です。

「どうしていいところで呼び出すのよ!」

EVAに乗ることは乗りましたが、
ミサトの言うことになかなか従いません。

「申し訳ありません。では、作戦を説明……。」

「嫌よ!」

「ひ、姫?」

「どういう了見でアタシに命令するのか、説明しなさいよ!」

そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!

そう言いたいのをグっと我慢するミサトです。

「申し訳ありません。使徒さえ現れねば、我々も姫に迷惑をかけずに……。」

そもそも使徒さえ現れなかったら、
姫のお守りなんかしなくてすんだのにぃ

ホントはそう言いたいミサトです。

「あの使徒が悪いのね?」

「え、ええ……。」

「アイツがアタシの邪魔をしたのね?」

「は?」

「EVA弐号機発進!!」

バシュッ
ゴーーーーーーーーーー

「ちょ、ちょっと姫、勝手に出撃なさっては。
 シンジ君、姫をなんとかして!」

「ああなったら僕にもどうにもできないですよ……。」

「そんなこと言ってないでなんとかして頂戴。」

どうして都合の悪い時は僕に頼るんだよぉ……

いじけるシンジでした。

発令所の全ての人間がハラハラとモニターを見守っています。
弐号機が地上に出ました。

「こんのぉ、アンタが私のパフェを邪魔したのね!!」

「す、凄いです、シンクロ率上昇していきます!
 90……95……し、信じられません。
 シンクロ率が100%に到達。」

ダダダダダダダ

「姫、いきなり距離を縮めては危険です!」

いきなりダッシュしたアスカ姫に向かって叫ぶミサト。

「アスカ、まずは遠くから様子を……」

相変わらず通訳のシンジですが、アスカ姫は聞く耳を持ちません。
第四使徒・シャムシェルの光電状のムチが襲いかかりますが、
強力なATフィールドを伴った弐号機の手で、
いとも簡単に振り払いました。

「このぉ。アスカキィィック!」

ブシッ

「アスカパァァァーーンチ!」

ドゴッ

「アスカチョ〜〜〜ップ!」

グシャ

「だ、第四使徒、沈黙しました。」

出撃後、僅か10秒で第四使徒・シャムシェルを撃破。
発令所は何とも言えぬ沈黙に包み込まれました。

「ミ、ミサト。姫を止めて頂戴。
 今の状態なら、貴重な使徒のサンプルを回収できるわ。」

沈黙を破り、リツコが使徒の残骸状況を見てミサトに叫びました。

「姫……撤収して下さい。」

「このぉこのぉ……!」

ガシュ
ガシュ

「ア、アスカ。もういいから撤収してよ。」

「アンタのせいで、折角のパフェが!」

ボカッ
ボカッ

「もういいってば、アスカぁぁ!」

「絶対許さないんだから。」

ゲシッ
ゲシッ

内部電源が切れた頃にはシャムシエルの姿は無残なモノになりました。

「あれじゃ使い物にならないわね……」

リツコはガックリと肩を落としました。

「どうしてくれるのよ、シンジ君。
 姫のお目付け役は貴方でしょ!」

そ、そんな……どうして僕のせいばかりされるんだよぉ。

自分の運命を呪うシンジです。

しかし、このことにより、コアの回収が不可能になり、
後日、開発される予定であったS2機関は、無に帰しました。

これが、ゼーレの野望を阻止する1つの原因になろうとは誰も知りませんでした。





第四使徒を撃退した翌日。

「やっぱり内部電源の容量拡大化が必要ね。」

「そうですね。少しバッテリーの触媒の圧縮化を進めてみます。」

「ええ、お願いするわ。」

リツコとシンジは技術的問題点を話しあっていました。

一方アスカ姫は……

ちぇ、シンジのヤツ、また仕事とか言ってどっかいっちゃうし。
あのシャムシェルとか言うヤツが昨日邪魔するから、
シンジも忙しくなっちゃうのよ。

仕方なく、アスカ姫は一人で本部内をブラブラしていました。
ですが、誰も相手をしてくれずイライラが募ってきました。

プシューーー

「あら、姫。」

発令所に現れたアスカ姫に気づいたミサトです。

「なによぉ。」

「いえ、別に……私は用事がありますので、これで。」

ミサトは発令所から避難しました。
アスカ姫はMAGIを見ています。

「ふ〜ん。これもパソコンなの?」

暇に耐えかね、マヤに話しかけるアスカ姫です。

「ええ……そのようなものです。
 これは本部の守護神ともいえる、スーパーコンピューター。
 科学の結晶なんです。」

潔癖症のマヤは、アスカ姫を苦手としつつも、丁寧に相手をしました。

「ちょっとアタシに触らせてよ。」

「だ、駄目ですよ。」

「どうしてよ?」

「これは専門知識を必要としますので……。」

「アンタバカァァ?
 アタシは大学も出てんのよ。こんなのお茶の子サイサイよ!
 それともこのアタシをバカにしてるって訳ぇ?」

「い、いえそんな……。」

「じゃ、いいわね?」

「は、はい。」

しぶしぶ承諾するマヤでした。

仕方ない。ログインさせるにしても、
最低限の権限のみにして。
そうね、問題無いデータでも閲覧して貰って満足していただこう。

「では、ログインの準備できました。」

マヤはアスカ姫用の認証コードを準備しました。

30分程、色んな問題の無いデータを覗いていたアスカ姫ですが、
当然飽きてきます。

何よ、アタシの認証コードじゃ何もできないじゃない!
そうだ……

アスカ姫はトイレと称して、廊下へ出ました。
そして携帯のボタンを叩きます。

「ねぇシンジ。ちょっとお願いがあるの……。」

1時間後、シンジのコードで進入したアスカ姫が、
最重要データを持て遊んでいました。

フィーフィーフィー

『人工知能により、自爆が決議されました。』

「あれれ?どうしてそうなっちゃうの?」

アスカ姫はキョトンをしています。
その場にいたマヤは何事かと目を丸くしています。

『否決……否決……』

「た、大変だわ!先輩に知らせなくちゃ。」

翌日、シンジはリツコに大目玉を食らいました。

「どうして貴方の認証コードを教えるのよ。」

「だってアスカがそうしないと弐号機で本部を踏み潰すって……。」

「もうちょっとで、本部が吹き飛ぶところだったのよ!
 貴方は暫く謹慎処分よ。
 暫くは姫のお守りに専念してちょうだい!」

「そ……そんな。」

そんなこんなで、暫くの間、アスカ姫の世話役専門となったシンジです。
一方、アスカ姫は大喜びでした。

「いいじゃないの。このアタシとず〜っと一緒にいられるのよ。」

「ず、ず〜っと?ハハハ……」

僕は自分の存在を確かめる為にNERV技術部に入ったのに……
僕はやっぱり必要ないんだ……

自分の運命を呪うシンジです。

しかし、この事件によって、細菌サイズの使徒──後の第十一使徒・イロウルが
活動範囲を狭められ、後日リツコの手によって葬り去られることになったのでした。




翌日。
シンジと一緒に過ごせるとあって、今までで一番ご機嫌のアスカ姫でした。

「ね、シンジ。1週間ず〜っと一緒に遊べるのよね?」

「そう……1週間だよ。長いなぁ。」

「どうしてよ。もっと長くてもいいわよ。」

「だって、僕は……仕事をする為にこのNERVに来たんだ。」

「何よ、アタシと一緒じゃ不満なの?」

「そうじゃ無いよ。でも……。」

「アンタの仕事はEVAの整備をすることでしょ?」

「そうだよ。」

「それはパイロットの環境を良くしたり、守ったりするもんでしょ?
 前にアンタそう言ってたじゃん。」

「うん。」

「これだって、アタシという世界唯一のパイロットを
 護衛する立派な仕事じゃん。それでも不満なの?」

「別にいいんだけどさ。」

シンジは拗ねていました。

「もう、辛気臭いわね。
 ねぇ、本部を探検しましょうよ。
 シンジが嫌なら一人で廻るわ。」

一人で行っておいでよ。

そう言おうと思いましたが、
昨日のMAGIの件を思い出しました。

アスカ一人にすると何するか分からないし……
また何かあったら、今度は謹慎じゃすまないだろうしなぁ

結局アスカと共にすることにしたシンジです。

3時間ほど、あちこち廻っていました。

「ねぇここは?」

「……ここはやめよう。」

「どうして?」

「ここは……司令の執務室だよ。」

「ってことは、シンジの……」

「あの父さんの部屋だよ。」

「ふ〜ん。」

アスカ姫は何か考えていました。

「いいわ。シンジはここで待っていて。
 アタシに任せなさい!」

「え?任せるって?」

不安な気持ちで尋ねましたが、アスカ姫は答えませんでした。





「ここ、広くていいわねぇ。」

アスカ姫が執務室に入りゲンドウに言いました。

「ひ、姫……何かご用でしょうか?」

目を合わせず、ゲンドウがサングラスを手で押し上げ尋ねました。

「あら、髭、いたの?」

「ハッ。」

ゲンドウは髭を隠すように、手を顔の前で組みました。

「うん、ここ気に入ったわ。
 アンタの机の代わりにベッドを入れなさい。
 ここでシンジに本を読んでもらったら、くつろげそうなんだもん。」

「は?」

「ここが気に入ったって言ってるの!」

「しかし、私も色々ここで作業をしていますので。」

「ふ〜ん。じゃ、パイロットやめた〜っと。
 世界で唯一のパイロットを苛めるNERVになんて居たくないわ。」

これが他の人物なら、脅しに屈することはないでしょう。
しかし、他ならぬアスカ姫です。
本当にドイツに帰ってしまう可能性は十分あります。

そうなれば、どんなに運が良くて世界が滅びなかったとしても、
ここNERVは間違い無く跡形もなくなるでしょう。

「も、問題ありません……。
 すぐにお譲りさせていただきます。」

「アンタには発令所の一角に机を移してあげるわ。
 最前線の方が、命令もしやすくて具合がいいでしょ?
 勿論費用は、アタシが持ってあげるから。
 ああ、アタシって何て優しいのかしら。」

「あ、ありがたき幸せ……光栄でございます。」

サングラスの向こうで涙しながら、
ゲンドウは机を運ぶ準備を始めました。

こういう経緯で、ゲンドウは静かな執務室を追われ、
NERVのオペレーター達に囲まれる形になりました。

「先輩……どうして司令がここにいるんですか?
 仕事がやりにくいったら無いですよぉ。」

マヤが尋ねます。

「姫のご命令だそうよ。」

コーヒーを片手に、作業を進めているリツコが答えました。

「姫……ですか。
 でも、いつでも司令に見張られているような気がして……。」

「あら、あの姫がここに張り付いているよりマシってものよ。」

先日のMAGIの件を思い出しました。

「そ、そうですね。それよりはいいですね。」

一方、ゲンドウと冬月は、発令所では秘密の話ができません。
勿論他の場所に自分達の暗躍の場所を設けることも考えましたが、
姫が用意したこの一角を放っておき、他の場所へ移るとどのようなことになるか……

結局この一角にしか居場所のない、ゲンドウと冬月でした。
そのせいで影で進行させていたゲンドウのシナリオも、
この時からうまく機能しなくなりました。

結果を考えますと、
アスカ姫のお陰でサードインパクトが防がれたのかもしれません。





そして、時は過ぎ、冬が訪れようとしていました。
その頃には、使徒も数体を殲滅し、
先日も第十五使徒アラエルを倒していました。

EVAのケージにアスカ姫がシンジを訪ねていました。

「もう冬ね。」

「そうだね。」

「もうここへ来て半年近くね。」

「うん。それより、ここは危ないっていつも言ってるだろ。」

シンジはEVAの整備に追われていました。

「だって、最近シンジがいなくて一人が多いんだもん。」

「それは誰のせいだよぉ。
 第十使徒の時なんかさ……」

元々優秀なパイロットのアスカ姫です。
普通に戦っていれば、ダメージを受けるようなことはありません。
しかし、NERV職員の希望を裏切るように、
アスカ姫はことごとく、ピンチを招いていました。

例えばシンジが言った第十使徒・サハクィエル戦のことです。

アスカ姫の乗る弐号機は、手で使徒を直接受け止めるという、
ミサトの大胆な作戦を敢行していました。

「EVA弐号機、目標落下予定地点に到達しました。」

「姫はその場で待機。
 降下する使徒を受けとめて下さい!」

「アスカ、その場で使徒を受け止めるんだ!」

「まっかせなさ〜い。」

アスカ姫は難なくサハクィエルを受けとめました。

「アスカ、凄いよ!」

シンジがアスカ姫に向かって叫びます。

あ、シンジが見てる。

気を良くしたアスカ姫は、あろうことか、
受けとめた使徒をグルグル回しました。

「見て見て、シンジ。
 使徒で皿回しよ!」

「ア、アスカ……。」

モニターを見ていた発令所の者はみな呆れています。

「ちょ、ちょっとシンジ君。
 姫の暴走を止めて。危険よ!」

「アスカ止めるんだ。」

しかし、アスカ姫に回されてATフィールドの減少した使徒は
そのまま弐号機に覆い被さり、爆発しました。

幸いアスカ姫は軽傷ですんだものの、
EVAは大破したのです。

そんなこんなで、シンジは作業に追われていたのでした。

「あの時はアタシもちょ〜っとやり過ぎたわ。ごめんなさい。」

「いや……分かってくれればいいんだよ。」

プライドの高いアスカ姫に謝られ、
シンジも優しい言葉をかけずにいられませんでした。

「私、部屋へもどるわ。」

「うん。仕事終わったら行くから。」

「ええ。」

どんなに忙しくても、アスカ姫に本を読んで聞かせるという
日課だけは守られていました。

さて、アスカのためにも整備を頑張らなくっちゃ。





アスカ姫の影響はNERV本部だけではすみません。
NERV付属病院も餌食にあっていました。

第十六使徒アルミサエル戦の後でした。

「精神汚染の心配がありますので、
 まずは簡単な心理テストをします。」

「ちょっとバカにしないでよ!
 アタシは大学も出てんのよ。
 難易度の高い心理テストで試すのが筋ってもんでしょ〜が!
 人をコケにするのも大概にして欲しいわね!」

コケにされてんのはこっちだろ〜が、この生意気なお嬢様がぁぁ!

心の中ではいらつく医師でしたが、グッと我慢します。

「失礼しました。
 私が申したのは、我々にとっては最高難易度のテストなのですが、
 姫にとってはきっと簡単だろうと……そういう意味です。」

「最高難易度ぉぉ?
 アンタバカァァ?
 使徒と戦って疲れてんのよ。簡単なテストにしなさいよ。
 まったく気が利かないったらありゃしないわね。
 行こうシンジ。」

医師は呆然としてしまいました。
そして胃の辺りがキリキリ音がしているのが……感じられました。

一方、こんなときでも同行させられているシンジです。
アスカ姫に言わせると、EVAの技術部もパイロットの体調は知っておくべき
とのことです。
代表して、シンジを連れて……拉致してました。

僕も早く戻ってEVAの整備しないといけないんだけどなぁ。
でも放っておくと、病院で何するか分からないし……

結局、付き合わざるをえません。

ともかく、医師は胃がキリキリしながらも、心理テストを進めました。

「以上でテストが終りです。
 体力回復の為、病室で点滴を打ってもらって下さい。」

「嫌よ。」

「は?」

「嫌よ。なんで、アンタの命令を聞かなくちゃいけないのよ。
 アタシはEVAのパイロットなのよ。」

「で、ですから、EVAのパイロットの状態を最高に維持するために我々は……。」

「あ、そうだ。病室でアスカに本を読んであげるからさ。」

シンジが医師へ助け船を出しました。

「そう?まったく、シンジに手数をかけるんだから、
 シンジにあやまんなさいよ、このヤブ医者がぁ。」

碇三慰に手数をかけさせてるのはわがまま姫のお前だろ〜が!!

そう言いたいのをグッと我慢して、シンジに謝罪する医師でした。

以上のような病院でのやりとりは、ほんの一角です。
結果、医師5名が胃潰瘍や胃炎の為、長期入院のハメにあってました。






「碇、このままでは使徒より先に、我々の胃袋に穴が開いて死んでしまうぞ?」

「ああ。」

「姫に対しどうするね?」

「予定を繰り上げるぞ。」

アルミサエルの撃退の翌日、ゲンドウは予定を早め、
タブリスを早速ゼーレより送ってもらいました。

「フッ、やはり老人達も焦っているようだ。」

「焦っているのはお前じゃないのか、碇?」

「次回の委員会にはアスカ姫を同行させると言ったら、
 老人達は慌てて寄越した。
 彼らも自分の身は可愛いようだ。」

「う〜む。」

と言う訳で最後の使徒、タブリス──渚カヲルは
早速アスカ姫の元に送られてきました。

「ついに我々の待ち望んだ時は来たのだ。
 私はこの半年間、どれほど待ったことか。」

「しかし……このまま倒しては、
 本来のシナリオからは逸脱するぞ?」

「も……問題無い。」

「サードインパクトも起こさず、
 アダムとの接触ともせず、ただ撃退するだけで良いのか?」

「ああ。私は一刻も早く、姫が帰られる日を望むだけなのだ。」

「碇……?」

「平穏が一番だ……。」

ゲンドウはアスカ姫が来た当初から苦手としておりましたが、
執務室を追われてからというもの、以前以上に苦手意識が強くなっていました。

冬月もこの半年間を思い出していました。

「……そうだな。」

ゲンドウに同意せざるを得ない冬月でした。





カヲルはアスカ姫の言動・心中を模索しようと試みましたが、
理解不能に陥っていました。

「おかしい。話が違うね。
 人には思い遣りの心ってものがある筈だと聞いていたんだけど。
 それはどうやら間違いだったらしいね。」

カヲルは自分でATフィールドを作り出せます。
ATフィールト=心の壁

しかし、ずけずけ入りこんでいくアスカ姫の心を摸写しようとした為、
心の壁を作ることができず、あっさりアスカ姫の弐号機に破られました。

「勝手気ままにわがまま振舞う。
 意外に難しいよ……フッ僕はアスカ姫のような器では無かったようだね。」

それが渚カヲルの遺言となりました。





「ねぇシンジ。本を読んで頂戴!」

最後の使徒・カヲルを殲滅した日、いつものようにアスカ姫は広大な執務室……
今は『姫専用安息所』と呼ばれる部屋に、シンジを呼びました。

「いいよ、仕事も終わったし。」

こちらは大層平穏でした。

「さ、準備ができたわ。読んで。」

ベッドに潜りこみ、シンジの方を見ています。
シンジが複数の本を見せ、アスカ姫に何を読むか決めてもらいます。

短編を1つ読んで聞かせました。

「とても良いお話だわ……」

アスカ姫は高尚な気分に浸っていました。
この気分がシンジ以外の前でも持続していたら、
多くの人々は救われたかもしれませんね。

「まだ読む?」

「もういいわ。」

「それにしても、ここは広いね。」

何度来ても無意味に広い……
そう思わざるをえません。

すっかりゲンドウの執務室の頃とは様相がことなります。
ベッドとシンジが座る椅子以外何も無く非常にさっぱりしています。
また、カバラに関連する、訳の分からない文字や絵は消され、
怪しさは無くなっていました。

シンジの椅子はシンジが好きな色を選ぶようにというアスカ姫のもと、
紫色になっていました。

そして、赤いふわふわのクッションに包まれたベッドが、
真中に鎮座しています。

「うん。アタシは結構お気に入りよ。」

「でも、寂しくない?
 ちょっと殺風景だしさ……。」

「だってここは本を読んでもらう時だけの為に用意したんだもん。
 ここだとシンジの話す物語の世界にどっぷり浸れるのよ。」

「そ……そう?」

「ねぇ……」

「な、なに?」

アスカ姫がシンジの方を見つめています。

「な、なんでもないわよ。」

「そ、そう……。」





ゲンドウは翌日、MAGIに確認を急いでおりました。

『全使徒……殲滅に成功』

これがMAGIの解答でした。

「冬月……これで我々に安住の時が訪れる。」

「そうだな。」

これが、『俺と一緒に人類の新たな歴史を作らないか?』と誘った男なのだろうか?

そういう疑問が沸きましたが、やっぱりホっとする冬月でした。





「ええ〜?アタシはドイツに戻るの?」

「らしいよ。」

アスカ姫とシンジは昼食を摂っていました。

「どうしてよ?」

「全ての使徒を倒したからだよ。
 ホント、良くやったね。」

「そんな……。」

「良かったじゃないか?
 ドイツに戻りたかったんだろ?」

「え……そりゃそうだけど。」

「日本は暑くて嫌だとか言ってたじゃないか。
 それに、アスカのお父さんも待ってるんだろ?」

「うん。でも……せっかくシンジと仲良くなったのに。」

「そう……だね。」

最初は色々戸惑うことが多かったアスカ姫の世話でしたが、
今となれば懐かしく思い出されます。

いろいろあったけど……でも楽しかったな。

「そうだ。シンジも一緒にドイツへ行きましょうよ!」

その言葉に一瞬シンジの胸も、ときめきました。
しかし……

「駄目だよ。」

そう告げたのでした。

「どうしてよ?アタシの言うことが聞けないって〜の?!」

「多分明日からここは世界復興支援機関に変わるはずなんだ。
 僕もやることが色々あるんだよ。」

「そんなのいいじゃん!」

「駄目だよ。世界の平和の為だよ。
 ずっと僕思ってたんだ。
 僕は何の為に存在してるのかって……
 平和活動に参加したら少しは自信が持てるかもしれない。だから……。」

「そ。だったら参加すればいいじゃん。
 アタシは一人で帰るもん!フンッ。」

「ア、アスカ……。時々は手紙出すから。」

「時々ぃぃ?」

「ああ、その……毎日出すよ。」

「ふ〜ん。」

「それに……たまには会いに行くよ。」

「たまにぃぃ?」

「毎日は無理だよぉぉ。ドイツは遠いよ。
 時々はドイツにも出張があるからそん時は必ず行くよ。」

「どうしても、一緒に来れないの?」

「ごめん……。」

アスカは沈黙しました。

「で、でも、僕は君とず〜っと友達だよ……」

「べ、別にアタシはいいのよ。
 アンタが一人じゃ可愛そうだなぁって思うから折角声をかけてやったのにさ。」

「え?」

「ま、まさか、アタシがアンタを誘ってるって思ってんの?
 と〜んだお調子者ね。
 いいわよ。平和の仕事に従事するんでしょ。勝手にやんなさい。」

「アスカ……。」

「もう絶交よ。呼び捨てにしないで……」

「わ……わかりました……アスカ姫。」





シンジが部屋を出て行った後、アスカ姫は淋しくなりました。

また……一人ぼっち
ドイツに戻って、一人ぼっち

ず〜っとここにいれると思ったのに……





3日後、アスカ姫の帰国の日です。

「シンジ君。姫のお見送りしなくていいの?」

ミサトがシンジに尋ねました。

「アスカ姫からそのような命令は聞いてませんから。」

「だって友達なんでしょ?」

「絶交らしいですよ。」

「それは……女心が分かってないだけよ、シンジ君は。」

「え?」

「きっと淋しいのよ。
 だから憎まれ口を叩く。
 ホントはどうしても一緒にいたいのよ。
 でもあの姫がそんなこと口にすると思う?」

「それくらい……分かってます。
 でも、復興支援にも参加したいんです。」

「ドイツ勤務にしてもらえばいいじゃない。
 お父さんに頼めばそれくらい……。」

「あんな父親になんか、頼みたくありませんよ。」

ゲンドウのことが話題に出ると、いつものシンジではなくなります。
声を荒げ、目線は地をさまよっています。

「そう……でも今日くらい、お見送りしなさい。
 私がNERVを代表してお見送りの役目を背負ってるけど……
 急病ってことにして……。」

「ミサトさん?」

「あ〜気分が悪いわ。医務室に行ってくる。
 悪いけど、姫のお見送りの大役はシンジ君にしっかり頼んだわよ。」

ミサトはシンジにウィンクしました。

「わ……分かりました。では行ってきます。」

「行ってらっしゃい。」

シンジはミサトの執務室を飛び出して行きました。

「フッフッフッフ……ラッキぃぃぃ!!
 これで姫に会わずにすむわぁ。
 それに加持君とデートの約束もすっぽかさないで済むし。
 これぞ一石二鳥ね!」

そうです。
度々日本にやってくる加持とすっかり仲良くなったミサトです。
しかし、優しい言葉をシンジにかけながら……鬼ですね〜。





「ア……アスカ姫。NERVを代表してお見送りに参りました。」

「シ、シンジ……。なんでアンタがお見送りなのよ!」

「ミサトさんが急病で来られなくなったから。」

「フンッ。大体お見送りなんていらないのよ。
 帰りなさい。」

「アスカ……。」

「呼び捨てにするなって言ったでしょ!」

「それじゃ寂しすぎるよ。
 折角友達になったのに……また他人で別れちゃうの?」

「ぬ、ぬぅ〜わによ!!
 それはこっちのセリフよ。」

「え?」

「どうして友達なのよ!」

「アスカ?」

しかし、アスカ姫は黙ってしまいました。
時間が刻々と過ぎています。
間もなく出発の時間が迫ってきます。

「アスカってば?」

「ア、アンタってどうしてそう鈍感なのよ!」

「ゴメン……。」

「アタシは……ちゃんと以前に伝えたハズよ。
 どうして……どうして……。」

「アスカ〜〜ぁぁぁ!!」

アスカ姫は搭乗する飛行機に向かって走り出しました。

「近いうち必ず行くからぁぁ!」

アスカ姫はそのまま飛行機の中へ姿を消しました。




アスカ……ゴメン。
僕はどうしても……自分の居場所を探したいんだ。





そんなこんなで、ドイツに戻ってからのアスカ姫のわがままは
加速していました。
召使い達は、NERVで甘やかされたせいだと噂していました。

夜、自室にいると、父のハインツが現れました。

「やあ、アスカ。」

「パパ……珍しいわね。年内は忙しいって言ってなかった?」

「ああ。今度はクリスマスまで戻れないな。」

「そう。」

「でも、アスカは強いから一人で大丈夫だね?」

「も、もちろんよ。何心配してんのよ。」

「そうかね?だが加持君が心配しておったんでな。」

「NERVでちょっと忙しかったからイライラしてたの。
 でも日に日に良くなってるから大丈夫よ。」

「分かった。ところでクリスマスのプレゼントは何がいい?」

「別に……どうせならパパが内緒で考えてビックリさせてよ。」

「そうか……そうするか。うん。じゃ楽しみにね。」

「うん。」





一人っきりの自室でアスカはソファーに座りました。

クリスマスか……
あと1週間でクリスマス……
でも、別に欲しいものなんか無いもん。

そろそろ寝ようとベッドに移ります。

どうも本が無いと寝れないわね。

NERVに行く前と行った後の差はこの時間帯でした。
以前はメイドに本を読んでもらって寝ていました。
しかし、今は読んでもらいません。
アスカの方で断っていました。

シンジ以外の声だとどうも駄目ね……
って、もうシンジはいいの。

本を取り出します。
しかし集中して読めません。

ベッドの横にはイスがありました。
まるでそこに座ってもらいたがっているように存在していました。

アスカはイスの方を見たあと、目を瞑りました。

こうすると、シンジの声が聞こえる……
って、もうシンジはいいのよ!!





そして日は過ぎ、今日はクリスマス・イブ。

豪華なケーキが用意され、
大層大きなもみの木が飾り付けられています。

しかし、アスカ姫の機嫌は非常に良くありませんでした。

「ほ、ほら、姫。おいしそうなケーキですね。
 召しあがりましょう。」

メイドが声をかけますが、首を横に振るアスカです。

ドイツに戻って1週間はわがままが加速する一方のアスカ姫でしたが、
この4〜5日は下がる一方でした。
最初は喜ぶ召使い達でしたが、だんだん心配になっていました。

アスカ姫に何を尋ねても、
いらない・必要無い・したくない……或いは返事をしない、
そういった状況でした。

今晩は屋敷の主のハインツも戻ってきます。
今のアスカ姫を見たら心配することが容易に想像できます。
なんとか気を引きたてようと一生懸命の召使い達でした。

なによ、ウザいわねぇ。
いちいちアタシのご機嫌なんかとらなくたっていいのよ。

「プレゼントが待ち遠しいですね、姫。」

加持がアスカ姫に言いました。

「いらないわよ。」

「どうしてです。
 旦那様がプレゼントにいらっしゃるんでしょ?
 実は残念ながら夜中までお戻りできないという連絡を受けましたが、
 素敵なプレゼントを用意されてるとのことですし……。」

「いらないわよ。」

「そうですか?でもきっとお気に召しますよ。」

「アンタは何か知ってんのね?」

「はて……。」

「まったくとぼけちゃって。」





自室に戻りました。

プレゼントか……
去年はぬいぐるみだったわね。
あれは傑作だったわ。
アハハハ

その時の様子を思い出しまして、急に笑い出しました。
本当に久しぶりに笑いました。

アスカ姫はプレゼント用の靴下を用意していました。
自分でこしらえた靴下でした。
夜中に、アスカ姫の部屋に訪れたハインツが
大きなぬいぐるみを靴下に入れようと格闘していました。

しかし物理的にどうやっても入りません。

アスカ姫が頑張ってこしらえた靴下にどうしても入れてあげようと
ハインツは頑張って押しこめているうちに
物音でアスカ姫が目覚めてしまいました。

あん時のパパの顔ったら……アハハハ
でも、今年も同じことするんだろうなぁ。
ようし……

アスカ姫はそれから1時間かけて大きな大きな靴下を準備しました。
笑ったことで、気分が少しは良くなったのかもしれません。

これでいいわね。
でも大きすぎたかな?
パパでもすっかり入ってしまいそう。

明かりを消すと静寂に包まれました。

神様……一度でいいからサンタクロースからプレゼントが欲しいです。
この靴下に……





ドサッ

屋根から落ちた雪の音でアスカ姫は目が覚めました。

朝か……
そうだクリスマスの朝だ。

ベッドを飛び起きます。
靴下が大きく膨らんでいました。

あ、やっぱり大きいの作って良かった。
パパったらまた大きな人形を買ったわね。

「えいっ」

アスカ姫はベッドから靴下にジャンプで飛びつきました。

「痛〜〜〜ぁい!!!」

アスカ姫は激痛で涙が出そうでした。

ぬいぐるみじゃないの?
まさか、私が神様にお願いした通り、シンジが入ってたりして……

ドキドキ……

心をときめかせ、アスカ姫は靴下の中を見ました。

「な、なによこれぇぇぇ?」

中には本が一杯入っていました。

「本なんかどうするって言うのよ!」

ズゲシ

アスカ姫は本を蹴飛ばしました。

「イタタタ……ん?」

何かがふわりと舞いました。
クリスマス・カードのようです。
足をさすりながら、アスカ姫はカードを見ました。

『今度、ドイツ支部へ移りました。12月25日付けです。
 今日から毎日アスカに本を読んで聞かせます。
 アスカの永遠の友・碇シンジ』

あの……バカ。
アタシは永遠の恋人って書いてやったのに……
アンタは冗談だと思っているの?
それとも本気で受け取った上で、無視してるの?……そんなの嫌。





嫌ったら嫌ぁぁぁ!!





トントン

あ……パパ?

「おはよう。」

ハインツの声です。

「お帰りなさい。」

出かかった涙を押さえ、アスカは出迎えました。

「やあ、アスカ。メリークリスマスだな。」

「ええ、メリークリスマス。」

「プレゼントは気に入ったかな?」

「え?」

「私が、碇のヤツに頼んでおいたのだよ。
 彼はこっちに配属なんだろ?」

「き……気に召すわけ無いでしょ!」

わがまま姫のアスカ姫ですが、
父・ハインツにだけは優しく接していました。

ですが、今日は引導を渡されたのです。
今日だけはいつもの用にハインツに接することはできませんでした。

「え?」

「気に召さないのよ。最悪よ!」

「アスカ……。
 一体どうしたんだい?」

ハインツが心配そうに見ています。

「ごめんなさいパパ……。」

「いや……別に。」

アスカ、行くわよ!

アスカ姫は決意しました。

「シンジは何処?」

「ん?……多分NERVドイツ支部だろう。」

「行ってきます!」

「おい、アスカ。」

しかし、ハインツを無視してアスカ姫はドイツ支部へ向かいました。





「どういうつもりなのかしら?」

壁にもたれるようにして腕を組み、シンジの前にアスカ姫は現れました。

「アスカ?」

「これよこれ!」

アスカ姫はシンジのクリスマスカードをヒラヒラさせています。

「あ……その……僕の気持ちだよ。」

シンジが真っ赤になって言いました。

「ふ〜んこれがね。」

「あ、嫌なら嫌でいいんだ。
 でも、僕は……その……。」

「別に。どうせアンタはただの友達よ。
 それ以上でもそれ以下でもないわ。」

「そ……そう……。」

シンジは肩を落としました。

「なんで、アンタが落胆するのよ。」

「え?」

「落胆したいのは……こっちでしょ!もう知らない!!
 アンタなんか日本へ帰ればいいのよ!」

「ア、アスカ。」

「うっさいうっさい……うるさ〜〜いっ!」

アスカ姫は走り去りました。

「ちょっと待ってよ!」

シンジはアスカ姫を追いかけました。

来ないでよ。
惨めになるだけじゃない……
もうアタシは一人でいいのよ!

「アスカってば……裏は読んでくれたの?」

ふぅ〜と溜息をつきながらシンジがアスカ姫を捕まえ言いました。

「え?」

「やっぱり……。アスカってせっかち過ぎるよぉ。」

「アンタがノロマなのよぉ。って何が書いてあんの?」

アスカ姫は裏面を見ました。





『P.S.アスカが良ければ、恋人に昇格して下さい。』





アスカ姫は動きが固まりました。

「突然……辞令が出たんだ。
 最初は驚いたけど、気づいたんだ、自分の気持ちに。
 ドイツ支部に行くことになって喜んでる自分に。
 これが……自分の気持ちだったんだって。」

アスカ姫はまったく動きません。
シンジも精一杯、気持ちを告白したので、
コレ以上何を言って良いのか分からず、アスカ姫の動きを待っていました。

「条件があるわ。」

ようやく、アスカ姫が口を開きました。

「な、なに……?」

「メッセージを書き換えなさい!」

「え?」

「ほら。ここをこうして……」

アスカ姫がシンジに指示しています。

「は、恥ずかしいよぉ……。」

「ハイ、これで完成。」





『P.S.アスカが良ければ、永遠の恋人に昇格して下さい。』





「シンジ、返事が欲しい?」

「え?」

「昇格させてあげるかどうか?」

「う、うん……。」

「さぁ〜て、どっちにしよ〜かな〜?」

ニヤニヤと嬉しそうです。
一方シンジは気が気でなりません。

「もう、人のことジロジロ見ないの。今考えてるんだから!
 ほら目を瞑って落ちつきなさい。」

「うん。」

思いっきり息を吸って、シンジは判決を待ちました。





チュッ





「ア、アスカ?」

「コレが返事、そして……アタシからのクリスマスプレゼント。」

「アスカ……。」

「これで一石二鳥ね!」

「いや……その日本語、微妙に違うよ。」





何はともあれ、二人にメリー・クリスマス。





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あとがき

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前作『姫君アスカ』の続編のリクエストを頂きました。
私自身も、前作一話では完結させていませんでしたので、
今回続編を執筆させていただきました。

わがまま一杯のアスカ姫。
でもその中に見え隠れする本心。

自分自身でもお気に入りのアスカです。

今回で完結となりますが、いかがだったでしょうか?

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感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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