「アスカ、醤油取って」 朝の食卓。碇シンジはテーブルを挟んだ向こう側の惣流アスカに言った。 「そのくらい自分で取りなさいよ」 アスカは、さも面倒だという声で言い返した。 「アスカの方が近いじゃないか」 「アンタだって、手を伸ばせば届くでしょ」 「何だよ、もう」 シンジは朝からアスカとやり合うのは面倒だと感じて、結局自分で醤油入れを取った。 「最初からそうすればいいのに」 アスカが軽い嫌味を呟いたが、シンジは聞いてない素振りを見せる。 今朝は二人だけの朝食だった。葛城ミサトは昨夜遅くに帰って来ながらも、シンジとアスカが起きる前に家を出ていた。「今日は先に行く」という内容の小さい手紙がテーブルの上にあったので、二人はいつも通りの朝を迎えていた。 「ごちそうさま」 アスカはそう言って自分の部屋へ行った。 「ごちそうさま」を言ってくれるようになってどの位かな、とシンジは思った。実際は、アスカが「ごちそうさま」を言うようになって一ヶ月も経っていないが、シンジはそれがとても長いように感じていた。もっと素直になってくれるといいのに、とシンジは思う。毎朝こんな調子だった。 「ねえ」 部屋の中からアスカが呼びかけた。 「アンタ、今日何するの?」 「今日は休みだし、天気も良いから、洗濯とか掃除とか色々したいんだけど」 シンジの言うとおり、今日は晴れの日曜日。珍しい事に二人の起きる時間は平日も休日も変わらないので、正しくいつもと変わらない朝である。 「アンタバカ?こんなに良い天気なのに家にずっといるわけ?」 アスカはそう言いながら部屋から出てきた。 「だって、学校のある日はできない事だろ。こういう休みの日しかする暇ないんだよ」 シンジはさらに言った。 「アスカは何か予定あるの?」 「えっ、別に・・・・いや、あるわよ」 アスカは少し戸惑いながら言った。 「じゃあ、どっか行くの?」 シンジの問いに、アスカは何かぼそぼそと言ったが、聞こえない。 「えっ、何て言ったの?」 「映画」 「あっ、映画見に行くんだ。誰と?」 「アンタと」 少し沈黙があってから、アスカがぽつりと言った。 「えっ?」 シンジは間抜けな声を出した。アスカが言ったことを理解できていないのか、眉をひそめてアスカを見つめる。アスカは顔を真っ赤にしていた。 「僕と?」 「そうよ」 アスカは急に声を大きくした。 「どうして?」 シンジは素直な疑問をアスカにぶつけた。 「どうもこうもないわよ。とにかく行くのよ。アタシが誘ってやってんだから断るなんてことしないわよね」 相変わらず顔を真っ赤にしながら、アスカは開き直って言った。 「でも、僕」 「アタシと家事とどっちが大事なの?」 アスカはそう言ってからハッとなって口元を押さえそうになった。今、自分は愛の告白とも取れる様な事を言ったのだ。それに比べてシンジは、笑いをこらえていた。アスカの言った事は分かったが、アスカから「かじ」という言葉が出てきた事によって、「家事」を「加持」ととらえそうになってしまい、変な言葉になっておかしくなったのだ。 「分かったよ」 ここで「家事に決まってるだろ」と言ったら後が面倒になると思い、シンジはうまく答えた。すると、アスカの顔は急に明るくなった。 「決まりね」 「何時に出る?」 「10時頃ね」 「分かった。じゃあそれまでに出来るだけやっとこう」 シンジは食器を流しに持っていった。 「・・・・アンタ、本当に家事が好きね」 シンジはまた笑いそうになった。 「別に好きってわけじゃないよ。アスカもミサトさんもしてくれないから僕が仕方なくやってるんだよ」 「はいはい、ご苦労さま」 * * * シンジとアスカは自宅のマンションの近くの公園にいた。二人はブランコに並んで揺れている。 「ねえ、アンタ奇跡って信じる?」 「うーん、どうかな。分かんないよ」 「もう、つまんないわね」 アスカはブランコの揺れに合わせてジャンプをした。その時、スカートがふわりと揺れて、下着が見えた。 「あっ」 シンジは思わず声を上げた。アスカはすぐに気付いて後ろを振り向いた。 「あーっ!今見たでしょ、バカシンジ」 「み、見てないよ」 口ではそう言っても、顔が明らかに嘘をついていた。 「エッチ、スケベ、エロシンジ」 アスカは走ってマンションの方に行ってしまった。 「あっ、アスカ待ってよ」 シンジは慌てて後を追う。 二人は映画を見終わった後、ファーストフード店で昼食を取り、その後はアスカがシンジを引っ張る形でたくさんの店に立ち寄った。そして夕方、帰り道の途中の公園を通りかかった時、アスカが公園に寄っていこうと言い出したのだ。公園での会話は、映画に影響されてのものだった。 アスカが先にマンションの入り口に入った。その時、アスカは誰かに正面衝突でぶつかった。 「いったあーい。ちょっと、どこ見て歩いてんのよ」 アスカはぶつかったショックで後ろに倒れこんだが、すぐに立ち上がり、いつもの調子でぶつかった相手を非難した。 「ごめんなさい」 その相手はすぐに謝り、外へ出て行ってしまった。 「あんな子いたっけ?」 アスカは呟いた。アスカとぶつかった相手は、同い年くらいの女の子だった。アスカより少し背の低い、しかし、非常に髪の長い女の子だった。 アスカの後を追いかけてきたシンジが、その女の子とすれ違った。すれ違う時、女の子は軽く会釈をした。シンジも同じように軽く頭を下げた。 「ねえ、あの子知ってるの?」 アスカがたずねる。 「いや、知らない。見かけない子だね」 ちょっとかわいい子だったな、とシンジは思ったが、それは口に出さなかった。 つづく (あとがき) どうも、うっでぃと申します。はじめまして。 初投稿なので、文章が下手糞なのは勘弁してやって下さい。 さて、EVAのミステリーを作ってみたいなあと思って書いてしまいました。 これはまだプロローグですが、これから色々展開していきたいと思います。 一応LASも挟みつつ書いていけたらいいなと思っております。 一つ言っておきますが、EVAオリジナルのキャラが死ぬということはありません。 ミステリーというと殺人がついて回りますが、 死ぬのはみんな僕が作るオリジナルキャラにしようと思います。 あまり死ぬ死ぬと言うのはよくないのでこの辺で失礼します。 ではではまたまた。
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