「ん?」

シンジが気がつくと、開けっ放しのカーテンから注がれる日の光が目に飛び込んできた。
小鳥のさえずりが聞こえ、半分眠気まなこのシンジにも、朝だという事が分かった。

「何時だ?」

机の上に置いてある目覚まし時計は、6時40分をさしていた。

「そうか、あのまま寝ちゃったのか」

ベッドから立ち上がり、しわの寄った服を脱いで、制服に着替えた。

自分の部屋から出ようとしたとき、シンジは台所に人の気配を感じた。
トントントン、とリズミカルな音が聞こえる。
それは、毎朝、自分が出している音と同じだった。包丁がまな板を叩く音である。

シンジはドアを開けようとするのをためらった。
いま、台所に立っている者は一体何者なのか。
ミサト、もしくはアスカという可能性はまったくのゼロに等しいはず、とシンジは勝手に決め付けていた。
だから、なおさら警戒心を強めたシンジは、ドアに耳をピッタリとつけてみた。

トントントン、という音は断続的で、他にも冷蔵庫の開閉のような音も聞こえた。
間違いなく誰かが僕の代わりに朝食を作っている、とシンジは緊張してきた。

すると、ドアの向こうの人物に動きがあった。スリッパのペタン、ペタンという音がシンジに近づいてくる。
シンジは内心、逃げるか、隠れるかと焦ったが、迷っているうちにドアが開いた。

「あっ、碇君。おはよう」

普段抑揚のない声は、少し明るみを帯びていた。シンジの目の前には、綾波レイがいた。
レイは、制服姿にシンジ愛用のエプロンをつけている。その顔には微笑みがあった。

「あや、なみ? どうして綾波がここに」

シンジはドアが開いたとき、一歩後ずさりをしたが、驚いてさらに二歩後退した。

「碇君、どうしたの? 朝ごはん出来たから」

レイは台所に戻っていった。シンジは相変わらず呆然としている。

シンジは部屋を出て、ゆっくりとダイニングに近づいた。
レイは、茶碗や料理が盛られた皿などを並べていた。
手際よくごはんをよそりながら、シンジに気がついて声をかけた。

「碇君、顔、洗ってきたら」

「・・・・うん」

それだけ呟くと、シンジは洗面台に向かった。

勢いよく水を出して、冷たい水で何度も顔を洗い、もう一度ダイニングに向かった。
その間、シンジの頭の中はクエスチョンマークだらけだった。
それはさらに増え続ける。

「え?」

シンジは目を疑った。いつの間にか片岡マイがそこにいたのだ。
綾波レイの姿はなくなっていて、マイがエプロンをつけていた。
マイはシンジの方を向いてニコッと笑った。

「碇君、食べよう」

「あ、あの、片岡さん・・・・どうして」

シンジは何が何だか分からない上に、多少の恐怖も感じていた。
その感情がストレートに顔に出て、マイの笑顔が急に曇った。

「碇君、何でそんな顔するの。私の事、助けてくれるんじゃなかったの」

マイは両手を胸に当てて、今にも泣きそうな顔になった。

「・・・・・・・・」

シンジは何も言う事が出来ない。ただ、マイを見つめるだけだった。

すると、マイは突然シンジに駆け寄ってきた。

「えっ、あっ、か、片岡さん・・・・」

マイはシンジの胸に顔をうずめ、背中に腕を回して抱きしめた。
シンジの両腕は、行き場をなくして空中をウロウロしていた。
お互いの鼓動が手に取るように分かるほど、二人は密着していた。
シンジは理解しきれない状況に動揺した。

「お願い、碇君」

マイは涙声になっていた。鼻をすする音が聞こえる。

「私を見捨てないで。お願い、お願い、碇君」

マイの懇願に、シンジはさらに動揺した。
が、何となくマイがかわいそうに思えて、ふと、右手をマイの頭に優しく添えた。

マイがパッと顔を上げた。赤くなった目に、紅潮した頬、そして、生まれ持った美しい顔立ち。
シンジはその時、冷静にマイの顔を見つめていた。

「碇君・・・・」

マイは、瞳を涙でぬらしたまま微笑んだ。そして、静かにその瞳を閉じた。

シンジはこの時、動揺がなくなっていた。目の前で美しい少女が、シンジの行動を待っているというのに。
ここでシンジの思考が停止した。そして、目を閉じて、自分の唇をマイの唇に重ねようとした。

その時、

「ふ、ふふ、ふふふふ」

シンジの間近で、不気味なささやき声が聞こえた。驚いて目を開けようとするが、なぜか開かない。
しかし、その声がどこから発せられているかはすぐに分かった。片岡マイの口からだ。
ところが、声がどことなく違っているようにも聞こえる。一聴してマイの声のようだが、少し低い印象を受けた。

シンジは声を冷静に聞いているわけもなく、ワナワナと震えていた。
ささやき声はまだ続いている。さらに、抱きしめられたまま、離れる様子もない。
目が開けられない上に、身動きも取れない状況の中で、シンジはもがいていた。

すると、突然ささやきが止んだ。

しかしシンジの状況はまだ変わらない。しばらくもがいていると、同じところから声が聞こえた。

「全てはあの恨みを晴らすため・・・・」

悪意に満ちた声に、シンジは凍りついた。

「全てはあの恨みを晴らすため・・・・」

また同じトーンで繰り返された。シンジは恐怖で叫びたくなったが、喋れなくなっている事に、いま気付いた。

「ふ、ふふ、ふふふふ・・・・」

再びささやき声になった。さっきよりずっと声が低くなっているように思える。

シンジはもう気絶してしまいたかった。しかし、恐怖がそれを許さないように作用していた。

ささやきはまた突然止み、しばらく沈黙があった。
しかし、その沈黙は再び、何者かの声によってやぶられた。

「ちょっと、アンタ何寝てんのよ!」

シンジはハッとなってベッドから飛び起きた。

            *      *      *

「あれ? もう帰ってる」

刑事二人と別れたアスカが家に戻ると、玄関にシンジの靴が置かれていた。
いま何時か見ようと、リビングの壁にかかった時計を見たら、4時過ぎだった。
学校から帰ってきたのは3時半頃で、さほど時間は経っていない。

アスカは、自分がすぐに家を飛び出したように、シンジもそうしたものだと思っていた。
急いでシンジの部屋に向かう。

「ちょっと、シンジ、いる・・・・のね」

ドアを開けると、アスカの目に、シンジの安らかな寝顔が飛び込んだ。
シンジは、ベッドの上で大の字になって眠っていた。
アスカはその姿に一瞬恍惚としたが、すぐに自分を取り戻して、シンジを叩き起こした。

「ちょっと、アンタ何寝てんのよ!」

アスカはシンジの身体をバシバシと叩いて怒鳴りつけた。

「はっ!」

シンジは驚いた表情で飛び起きた。アスカもそれに驚く。

「ど、どうしたのよ」

「えっ? あ、アスカ」

「ねえ、アンタ顔色悪いわよ」

額に汗をびっしょりとかいているシンジを見て、アスカは心配そうな顔をした。

「そう? ああ、僕寝ちゃったのか」

「あっ、そうだ」

シンジの言葉に反応して、アスカは思い出した。

「アンタ、マイちゃんちに行くのはどうしたのよ」

「あ、それはね」

シンジは、何か悪い夢を見ていたような気がする、と思ったが、どんな夢か思い出せなかった。
そのもどかしさを払って、目をこすりながら続けた。

「アスカが行った後、片岡さんがうちに来たんだ。片岡マイさんが」

「えっ」

アスカは思わずビックリした。

「ふふ、僕もビックリしたよ」

アスカの驚いた顔を見て、シンジは微笑んだ。

「それに、私たちが疑われてる、って言ってた。お姉さんが気がついたみたい」

「そう、それから?」

アスカはすぐに続きを促した。

「それから、『助けて欲しい』って・・・・」

「なるほど。やりやすくなったわね」

「うん、僕も安心したんだ。あ、それと、その時の片岡さんなんだけど・・・・」

シンジはもう眠気も取れて、完全に目が覚めていた。そしてスッキリとした顔で言い切った。

「普通だった」

「普通ってのは、どう普通なのよ」

「あのとき、一緒に帰ったときと同じだった」

「そう、他には?」

「それだけ」

「それだけ? 事件のこと聞かなかったの?」

「いや、聞けるわけないよ。泣いてたし・・・・」

「え?」

シンジの呟きを逃さずに聞いたアスカは、シンジを突き放すように言った。

「アンタ、マイちゃん泣かしたの? サイテー」

「サイテーって、僕は何も言ってないよ。片岡さんが勝手に」

「ひどい男ね、アンタって。意外だわ」

「だから違うってば」

アスカはシンジに耳を貸そうとしなかった。
しかし、実際アスカは、シンジの言うとおりマイが勝手に泣き出したんだろうと思っていた。
それよりも、その時、シンジがどう対処したのかが気になって、軽いやきもちを焼いていたのだ。

「・・・・アスカの方はどうだったの」

アスカが口撃をやめたようなので、話題を変えようとシンジが聞いた。

アスカは、先ほどの一件をシンジに説明した。
まだ何も分かっていないという事を、さも分かっているような口ぶりで話した。
しかし、シンジは冷静に、まだ何も情報を得られてない事を理解した。

「結局、今は何も分かってないって事でしょ」

身振り手振りを加えて、大げさな説明をしていたアスカに向かって、シンジは冷たく言い放った。
というよりも、何か別のことを考えながらポツリと言ったようにも聞こえた。

「何よ、その言い方」

アスカはシンジの言い方が気に入らなかった。
もう少し、自分の成果を認めてくれる事を言ってくれるのを期待していたからだ。
成果は明日にならないと表れないが、少しはシンジに褒めてほしかった。

シンジは、アスカの方を見ずに、少しうつむいて黙っていた。
その顔つきは、ただボーっとしているようであり、何か考え事をしているようでもあり、どちらとも取れない。
実際、シンジは考え事をしていた。
もう一度さっきの夢を思い出そうとしていたのだ。

アスカの怒鳴り声が聞こえて、バッと起きたのは覚えている。ついさっきの事だからだ。
夢もついさっきの事のはずなのに、まるで思い出せない。
しかし、悪い夢だったことは間違いない。額はまだ少し汗でぬれていた。

「ねえ、アンタ、聞いてんの?」

「あ、ああ、聞いてるよ」

シンジは急に顔を上げた。アスカの顔に怒りが込められているのがすぐに分かった。

「嘘ばっかり。アンタってほんと、サイテー」

アスカはそう吐き捨てると、シンジの部屋を出て行った。

シンジは、今のは少しまずかったな、と思った。
余計な事考えるんじゃなかった、と後悔しながら、急いでアスカを追いかけた。
アスカはすぐに自分の部屋に入ったようで、ドアを強く閉める音が聞こえた。
アスカの部屋のドアをノックをし、そのまま声をかけた。

「アスカ、ゴメン。実はさ、さっき変な夢見たんだ。それでちょっと考え事してて・・・・」

シンジは正直に言った。アスカの返事を待つ。

「あっそう」

アスカの声は「あっちへ行け」と言わんばかりの強く、冷たい声だった。

「その夢の中に、アスカが出てきたんだ」

確かに出てきたことは出てきたが、あれは現実の声がそのまま聞こえただけで、
実際は登場していたとはいえない。アスカの機嫌を直したいがために、シンジは適当に思いついた話を続けた。

「アスカが、遅く起きた僕のために朝食を作ってくれてさ、それがすごくおいしいんだ」

シンジはそう言ってから、気がついた。
適当に喋った事が、夢の中のシチュエーションに似たようなことがあったのを思い出したのだ。
しかし、今はアスカのことが心配なので、それは後で考える事にした。

「アスカ、ねえ、入ってもいい?」

「いいわよ」

意外にうまくいったな、とシンジは少し不思議に思いながら、ドアを開けようとした。

「そのかわり、アタシの言うことを一つ聞くこと」

ドアを開けようとドアノブに手をかけた時、アスカが言った。
きっとまた買い物かなんかに付き合わされるんだろうな、とシンジは思いながらドアを開けた。

「ストップ」

ベッドに座り込んでいたアスカが、シンジに向かって右手の人差し指を立てた。

「そこから先に入らないで」

「・・・・分かったよ」

シンジは半分入れかけた足を戻した。

「言うことって、何?」

「・・・・目をつぶりなさい」

アスカはシンジをにらみながら言った。
シンジは直感的に、引っぱたかれるのを予想した。そのため、顔に力が入った。
素直に応じて、シンジは目を閉じた。

アスカが近づく。止まる。
シンジはさらに歯を食いしばった。

「シンジ」

アスカが自分の名を、さっきと違って優しい声で呼ぶのを聞いたのと同時に、
シンジは唇になにか温かいものが触れるのを感じた。

それを感じたのは一瞬のことだったが、シンジはしばらく目を閉じたままだった。
そして、シンジの目がパッと開かれた。アスカはさっきと同様ベッドに座り込んでいた。
目を開けたときに半開きになった唇をキュッとしめると、少しぬれていた。
いま、シンジは何が起きたのか、まだよく分かっていない。
アスカは、何となく落ち着かない様子だった。シンジは呆然とアスカを見つめている。

「な、なに見てんのよ。あ、あ、あ、あっちに行きなさいよ」

アスカの声は動揺を隠さなかった。しかし、それでもシンジはまだ理解できていない。

「ねえ、いま何したの?」

「うるさい!」

シンジの問いを意識的に無視して、アスカはそっぽを向いた。

シンジは、アスカにキスをされた事に気付くのに、それから10分も要した。

            *      *      *

4月16日、水曜日の朝。

碇シンジの目覚めはまずまずだった。
昨日の昼間に見た夢が出てくることはなく、目覚ましにせかされて起きた。

あの時見た夢は、全体的には思い出せなかった。
しかし、アスカとの一件があった事も手伝って、断片的に思い出したことが幾つかあった。

順序立てていくと、
シンジの代わりに朝ごはんを作っていたのは、綾波レイ。
顔を洗いにいった後、片岡マイに代わっていた。
片岡マイが抱きついてくる。
雰囲気に飲み込まれて、マイにキスをしようとする。
・・・・そこまでしか思い出せなかった。

その先に、なにか大変な事が起こったような気がしてならなかった。
とにかく、なにか恐ろしいことが起こった、ということしか分からない。

シンジは、それよりももっと大きな謎にぶち当たっていた。
アスカにキスをされた事である。
アスカは怒っていたんじゃなかったのか、僕のことは単なる同居人としか思ってなかったんじゃなかったのか、
などと、シンジはその事ばかりを考えながら、昨日は床についた。

シンジが朝ごはんの用意をしていると、シンジが呼びかけていないのにもかかわらずアスカが起きてきた。
おはよう、と言ったきり、アスカは何も喋らず、シンジを見ようともしなかった。
アスカはパジャマのままテーブルにつき、ボーっとテーブルの上を見つめていた。
シンジも声がかけにくくなり、沈黙の朝が流れた。
しかし、それはほんのひと時のことだった。

「あっ、ミサトさん起こさなきゃ」

思いついたようにシンジがミサトの部屋へ向かった。
シンジの視界に入らなくなった瞬間、アスカはシンジを目で追った。

シンジが動揺したのと同様、シャレでも何でもなく、同じようにアスカも昨日の出来事を考えていた。
事件なんてそっちのけで、シンジの事ばかりが頭の中でグルグル回っていた。

実はあの時、アスカは最初、ビンタをしようと思っていた。
しかし、シンジの顔が明らかにビンタを待ち構えている様子だったので、
心理的に、逆の事をしてやろうという風にアスカの思考が働いた。
その結果、アスカ自身も信じられないような事になったのだった。

いつもと違うシンジとアスカの雰囲気に、ミサトが気がつかないはずはない。
二人とも反論もせずに、黙ってミサトのからかいを聞きながら朝を過ごした。
そして、うるさいミサトから逃げるように二人は家を出た。

            *      *      *

その日の午後、学校から帰ったアスカは、刑事たちが来るのを待っていた。
昨日のコンビニ前は人が通る可能性があり、話が話なので、
こちらから出向いた方がいいという望月警部の提案だった。

ソファーに姿勢よく座って、アスカは真剣なまなざしでじっとしていた。
一緒に帰ってきたシンジが、その隣に同じ姿勢で座っている。
アスカと違って、シンジは時折アスカを横目でチラチラ見ていた。

少しして、インターホンが鳴り、刑事たちが現れた。

スーツ姿の望月警部と中島刑事は、額にたくさん汗をかいていた。
まだ春の中頃にもかかわらず、日差しの強い日がここ数日続いていた。
望月警部はスーツを腕にかけ、ワイシャツ姿になったが、それでも暑そうで、ハンカチがよく動いていた。

「ここらは静かですね」

部屋に上がりながら、中島刑事が誰かに向けてというわけでもなく言った。

昨日、つまり事件が起きた次の日は、午前中には報道陣が事件のリポートなどをしていたが、
ここ最近、大きな芸能ニュースが立て続けに飛び込んできて、
そのためにすぐに引き下がり、今日などはその姿が見られなかった。
実際、この事件の報道は、死体に鉛筆が突き刺さっていたという猟奇的な事件であるにもかかわらず、
あまり大きく取り上げられていなかった。

警視総監から直々にアスカとの関係を聞いた望月警部は、アスカへの協力を促されていたので、
シンジを立会いさせることを認めさせられた。シンジはどことなく緊張した面持ちだ。

「さて、どこから話そうかな」

ソファーに腰を落ち着けた望月警部は、シンジが持ってきた麦茶を一口飲んでから語り始めた。
中島刑事は立ったまま、無言で腕組みをしている。

望月は、昨日片岡姉妹の事情聴取で得た情報を含め、これまでに分かっている事を事細かに語った。
アリバイによる矛盾の点など、まだ分かりかねている事など全てをアスカとシンジに伝えた。
アスカが、今日もマイが学校に来ていなかったことを言うと、
警察の配慮でそういう風にしている、と望月は説明した。

さらに、新たに分かった事も補足した。

「片岡家がここに引越し来る前の事なんだが・・・・」

望月警部は声のトーンを少し低くして言った。

「彼らはここに来る前、東京の国分寺市日吉町というところにいた。これは知ってたかな」

望月はアスカの顔を上目づかいで見た。

「ええ」

学校でマイから聞いていたのですぐに頷いた。シンジも軽く頷く。

「その日吉町の、ヒルズ日吉というマンションに彼らは住んでいた。そこで一つ問題が起きたんだ」

「問題?」

アスカが身を乗り出した。

「ニュースで見たかもしれんが、そのマンション近くの河川から、男性の遺体が見つかったのだ。
これはこちらの事件が起きる3日ほど前のことなんだが」

シンジもアスカもその事は知らなかった。

「その男性というのが、殺された片岡氏の弟である、片岡テツ氏だった」

アスカは「えっ」と驚いてシンジと顔を見合わせた。シンジもビックリした表情だ。

「そちらの事件が起きた時、私らは他の事件で忙しかったし、管轄外の場所でもあったので、
ほとんど何も知らなかったのだが、いやはや、驚いた」

望月はここでいったん麦茶で口を湿らせた。

「その遺体の腹に、鉛筆が数本刺されてあったというのだ」

「えっ!」

アスカではなく、シンジが声を上げて驚いた。

「しかし、この遺体には首を絞められた跡がなかった。直接の死因は、出血多量によるショック死という事だ。
そのあと、犯人の手によって河川に捨てられたものと思われる」

「犯人は同じかしら」

アスカは腕を組んで、呟くように言った。

「鉛筆を使ったという手口が同じだから、同じだろう、と考えるのは安直だが、
同一犯という考えで捜査は進んでいる。それに、日吉で遺体が見つかったというのが非常に引っかかる。
もう少し片岡姉妹についてよく調べないといけないようだな」

「あの・・・・」

シンジが遠慮がちに手を上げた。

「片岡マイさんとユカさん以外に疑われてる人っているんですか?」

「実はだな・・・・日吉の事件で見つかった鉛筆の指紋なんだが、これも片岡マイのものだった」

「えっ」

シンジとアスカが同時に声を上げた。

「いよいよ、彼女らを警察に連れて行かねばならんときが来たってことだ」

望月はコップを手に取ったが、空になっていたのでテーブルに戻した。
シンジが気付いて冷蔵庫へ麦茶を取りにいこうとした。

「あ、いいよ。私らはこの辺で失礼しないとならないんで」

望月は、これから日吉の方へ調べを入れることになっていると話し、丁重な挨拶をして、
中島刑事と共に帰っていった。

「ねえ」

刑事たちを見送った後、玄関に立ったままアスカがシンジに言った。

「マイちゃんちに行ってみない?」



つづく



(あとがき)

どうも、うっでぃです。

どう結末までもっていこうかと考えれば考えるほど、
ややこしくなってしまい、また死者を出してしまいました。
でも、今回は出だしが少し気に入ってるので、勝手に良しとします。

シンジとアスカが推理するのは次回です。
ここまでくるのにかなりの時間を使ってしまいました。

それからこの話は、エヴァの世界のままでいくと、何ともややこしいので、
シンジたちの住む場所は現実の東京ということにしました。

あと、かなり下手糞なLAS(っぽいもの)をムリヤリ入れてみましたが、
これまた苦しい流れになってしまいました。ごめんなさい。

ということで、ではではまたまた。


アスカ:また、また、殺人事件よーっ!

マナ:マイちゃんの指紋まで? いったい、どうなってるの?

アスカ:こうなったら、マイんちに行くっきゃないっ!

マナ:真相を聞きださなくちゃね。

アスカ:徹底的に取り調べてやるわよーーっ!!!

マナ:あまり、手荒なことはしないでね。

アスカ:だーいじょうぶ。容疑者が疲れたら、カツ丼を頼んであげるわっ!

マナ:いや・・・あまり調子に乗らない方が・・・。
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