「ねぇ、
とアスカは声をかけた。

「ねぇってば。」
シンジはそれにふれないように、
(まるで傷口にふれないようにするように)
歩いている。

「ねぇ、話くらい聞いたらどうなのよ。」
それは正しい言葉だった。

「話って、
とシンジは声に出した。

「話ってどんな話なの。」
とシンジは答えた。

仕方なく。

「実はぁ」


「はぁ。」
やっぱりか、とシンジは思った。
アスカの要求はいつもこうだ。
わがままで自分勝手。「ねぇ、」だなんてほかの中学生が聞いたら
卒倒するようなかわいい声しちゃってさ。

手に重い服の数々。

「ねぇ、」
とシンジが声をかける。

「ねぇ、いつまでいるの。」

アスカの選ぶ服をじろじろと見ながらシンジは自分の立場を考えていた。
考えてみたらこうしてアスカにつきあってる必要はないのかもしれない。

だって、彼女じゃないし。

「ねぇってば」
「うるさいわね、アンタ。」

アンタなんて呼ばれるし。

「黙ってなさいよバカシンジ。こっちは大変なんだから。」

バカシンジなんて言われるし。

「はぁ」

ため息に変換させた意志表示。

それにアスカは気づいてるんだろうか。
それとも知っててわざとそういうふうに振る舞っているんだろうか。

わからなかった。
アスカの視線を追ってみてもアスカの行動を追ってみても。

アスカの本当の気持ち。
なんだろうって思う。

目の前で服を選ぶ彼女。

僕はいつか「彼氏」になれるんだろうか。


「ねぇ、
とアスカが話しかける。
「日曜、暇なんでしょ?」

初めから決めてかかるアスカに僕はこう答えた。

「いや、宿題が・・・」
言ってすぐにまずいと思った。

「はぁ?宿題。あんなのに日曜一日かかるの?」

「いや、そ・・ゆ・・わけじゃ」
「バカじゃないの。幼稚な問題ばっかりじゃない。」

「でも・・やらないと・・」

じぃっとアスカの目が見てる。
「日曜、あけときなさいよ!」


目覚まし時計を止める。

日曜が来た。

そうあの日曜だ。
起きるしかない。体を無理に起こしてみる。

「はぁ」
誰に捧げるでもない・・・いや彼女にだけは捧げたいため息。

「シンジ、」
がらっと扉を開ける彼女。

そのまま僕を見てる。目覚まし時計で気づいたらしい。

「起きたわね、行くわよ。」
「え、もう?」
「アンタねぇ、並ばなきゃいけないのよ!」

「はぁ。」
「はぁ、じゃないわよ。とっとと支度なさい。」

アスカがでていこうとした。

「それと、」
少し顔を赤らめているようだが?
「下くらい、履きなさいよ。デリカシー0。」
べーっと残して去っていくアスカ。

言わなくても・・
別に言わなくても・・
「イイジャナイカ」
あー恥ずかしい。


「やっと座れたぁ。」
アスカの望みは映画を見ることだった。
「ねぇ、」
とまた彼女は言う。
「ねぇ、ジュース飲みたい。」
買って来てって言えばいいのに。

仕方なく小銭を探る。
アスカは初めからお金を出す気がない。

「早くぅ。」
だからそんな声ださないでよ。

仕方なく入り口脇の自販機まで買いに行く。


帰ってくるとどうやら喧嘩、いやなんだか騒がしい。
「・・離しなさいって!」
パチン。
劇場中に広がる音。
「あんたたちなんかと映画見る気ないのよ!」
「なんだと、この中坊。」
中坊、なんて言うなら誘わなきゃいいのに。

「ちょっと、すいません」
野次馬をかき分ける。

「この子がなにかしましたか?」
そう彼らに言う。高校生か?

「なんだよ、彼氏かよ。」
もう一人が顔を近づける。
「この子が、先に何かしたんなら謝ります。
でも、そうじゃないなら悪いのはあなた達じゃないんですか?」

そうシンジは言った。
自分でも驚くほどの声の大きさだった。

「いいぞ、兄ちゃん。」
野次馬からそんな声がした。
高校生の二人はきまずくなったみたいだ。

「ち。」
と舌打ちしながら歩いてゆく。

「アスカ、けがはしてない?」
僕はようやくぶるぶると体のふるえを感じながらアスカの方に手を出した。
「バカ・・・・」
アスカが手を取って立ち上がった。

「アンタやっぱバカよ。殴られたら、どうする気だったのよ。」

「アスカが殴られなきゃ、」
声が震える。
「そうじゃなきゃ別にいいと思った。」

「バカ。そうやっていつも一人で背負っちゃって。」

「たまには、」
アスカは埃を払うように。
「たまにはさ、強気になってもいいんだよ。」
アスカはそういって髪を整える。
「たまには、だけどね。」

さてなんて答えたらいいんだろう。シンジは考えた。

「ジュース」
アスカが手を出す。それに手渡す。

「ねぇ、
とアスカが声をかける。
「ねぇ、映画みよ!」

アスカは僕の右手をとった。
「ねっ!」


マナ:山口零さん、投稿ありがとうございましたぁ。

アスカ:フン、シンジったら無理しちゃってさ。

マナ:あなた、もうちょっとやさしくできないの?

アスカ:なんで、アタシがやさしくしなくちゃいけないのよ。

マナ:このままじゃ、シンジいじけちゃうわよ。

アスカ:はぁ? どうしてシンジがいじけなくちゃいけないのよ。

マナ:わたしだったら、もっとやさしくしてあげるけどなぁ。

アスカ:アタシは、シンジと映画見に行っただけよ? どうしてそんなこと言われなきゃいけないのよ。

マナ:だって、ジュースを買いにいかせるし・・・。

アスカ:アタシは、ジュースが飲みたいなぁってシンジにおねだりしただけよ? 何が悪いのよ。

マナ:うーーん、そう言われると・・・でも・・・なんだかねぇ。

アスカ:そういうのをひがみって言うのよ! シンジと映画に行きたいいんなら、はっきり言いなさいよ。

マナ:うううう・・・じゃ、今度シンジと映画行きたい・・・。

アスカ:ダメよ。

マナ:はぁ? だって・・・言いなさいって・・・。

アスカ:言うのは勝手だけど、誰がそんなこと許すものですか!

マナ:・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
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