コンコン

「どうぞ」

「失礼します・・・」








EVA−RETURNER    第二話











 中にはリツコさんと、ミサトさんが何か話をしていた。

「あら、誰かさんと違ってちゃんと来れたわね。初めてなのに。」

「ちょっとぉ、何よそれぇ。私が方向音痴だっていうの?」

「違うの?ここに来て一週間、毎日来てる自分の仕事場も行くのに2時間もかかるのに?」

「うぅ・・・言い返せない・・・」

「ははは・・・(やっぱり、この二人仲良いなぁ)」

二人してギャアギャアと騒いでいる。それも今が幸せな証拠のひとつなのだろうとシンジは思った。






 十数分して、ミサトとの話をそこで終わらせてシンジの方に向き直った。・・・と、しかし後ろではまだミサ

トがわめいている。

業を煮やしたリツコは、ポケットから何かを取り出して、ゆらぁっと立ち上がり振り向いた。

ミサトの顔が恐怖で固まるのがシンジでもはっきりわかった。

「・・・リ・・・リツコ・・・そ、その注射器で、な、何しよぉとしてるのかなぁ〜・・・なんちって(汗)」

リツコの手の注射器の青い液体がキラリと光る。

「あら、痛くないから気にしなくて良いわよ。人に使ったことないからどうなるかわからないけど、死ぬことは
ないから安心して科学のために犠牲になって頂戴。」

リツコの目が爛々と輝く。

(きっと人体実験できてうれしいんだろうなぁ。この頃からもうマッドだったんだ・・・)

「う、ウソよね、ちょ、ちょっとぉ・・・シンちゃん助けてぇ〜」

「(ごめんなさい、僕にはどうすることもできません。ごめんなさい、ごめんなさい・・・・・・・・・)」

ガタッ、グサッ

「い、いやぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!(ばたっ)」




「待たせて悪かったわね、立ってるのも疲れたでしょ。ここに座っていいわよ。・・・シンジ君?」

シンジは壁際でぶるぶる震えて自閉モードに突入していたものの、リツコの紫色の液体が入った注射器を見た
とたん”死ぬかも”と再起動を果たし、急いでミサトが座っていた椅子を引き寄せ、そこに座った。




「私もあまり時間がないから短刀直入に言うわ。これから言うことはまだあなたにとって酷なことかも知れな
いけど人類の未来の為には必要なことなの。」

「はい…。」

「ごめんなさいね。あなたには、数年後、現在建造中のエヴァンゲリオンという兵器に乗って使徒と呼ばれる
敵と戦ってもらうことになります。」

「…僕の母さんが取り込まれたやつですか…」

「!!」

「あなた…なんでそんなこと知ってるの?」

「え?いや、実際目の前で母さんが取り込まれるの見てましたし。それに、大学へ行くのも母さんを助けるた
めなんですよ。」

「しれ…お父さんはその事知ってるの?」

「はい、全て話してくれました。あと当時行われたサルベージの資料ももらいました。毎週報告義務をつけら
れたんですけど。」

「そう…、でもあなたもまだ知らないでしょうけど、サルベージが成功したとしても、一つ問題が発生するの
よ。」

「どんな…ですか?」

「エヴァとシンクロするためにはパイロットの近親者のパイロットを愛して『存在していてほしい』と思う心
が必要なのよ。そうでなかったらシンクロどころかエヴァに取り込まれて喰われるのがオチよ。」

「…わかりました。それを解決すればいいんですね。難しいかもしれないですけどやりますよ、というよりや
らなければならないんです。」

「それはあなたの自由よ。本当は私の仕事なんだけどね。今はエヴァの建造で手一杯なのよ。
まあ、この話はこれくらいにしておきましょう。それから明日からドイツへ行くまで毎日シンクロテストをさ
せてもらうけどいいかしら?」

「ええ。これからやることに必要ですし、他にやることも無いですから。」

「じゃあ寮に案内するわ。付いてきて。」











夜、シンジはS−DAT(お手製)を聞きながら今日を振り返っていた。

「(ふぅ、今日はいろいろあったなぁ。前のときよりみんな人間らしい表情をしてるよ。この表情がずっと見
れるように頑張らなきゃ。)」

そうしてシンジは眠りについた。



















翌日、第五実験棟は緊張に包まれていた。

“ここのスタッフ”にとって、まだ起動さえされたことのない―ドイツでのセカンドチルドレンは別として―
実験なのだ。司令(ゲンドウ)と副司令(冬月)がいることからも窺える。

もっともゲンドウの場合は(本人は否定しているが)それだけが理由では無いようだ。

「では、これからサードチルドレンのエヴァ初号機とのシンクロテストを行います。」

リツコの極めて事務的な言葉が静かにモニター室に響いた。

「シンジ君?準備は良いわね?」

「はい、大丈夫です。」


冬月がゲンドウにしか聞こえないような声で言った。

「・・・碇、あの時を思い出すな・・・・・・」

「・・・・・・あぁ。」

「それにしても、シンジ君はユイ君似でよかったよ。」

「・・・どういう意味だ?」

「自分の胸に聞いてみるんだな。」

「・・・(怒)」










『パイロット・・・・・・・エントリープラグ内、コックピット位置に
着きました!!』

「(久しぶりだね、母さん。)」

『第一次接続開始!!』

『エントリープラグ・・・LCL注水!!』

(ここは驚かないと怪しまれるな。)
「うわっ・・・水が・・・、水・・・じゃないですね。って、溺れちゃいますよ?」

「大丈夫、肺まで入れれば勝手に酸素を取り入れてくれるわ。」

「ごぷっ・・・本当だ・・・。すごい、これってどうやって作られたんですか?」

「それが、まだよくわかってないのよ。シンジ君?話したいのは山々だけど、今はテストに集中させてね。」

「あ、はい、ごめんなさい。」

『ボーダー突破まであと5秒・・・4・・・3・・・2・・・1・・・突破!二次接続開始します!』

『A神経接続異常なし、初期コンタクトすべて問題なし! ハーモニクス正常です。』
















「すごいわ!須藤君、シンクロ率は!?」

「・・・・!!シンクロ率・・・」

「どうしたの?」

「い、いえ。・・・シンクロ率、121.4%、誤差ありません!」

「ウソでしょ?レイだってまだ起動さえできてないのよ?」

「まるでエヴァに乗るために生まれてきたような子ね。(もしかしたらエヴァの中のユイさんを感じているか
らかしら。)」

『リツコさん!どうですか?』

「シンジ君、すごいわよ。成功よ。夢かと思うくらいにね。」

リツコもあまりのことに興奮気味だ。

「どう?エントリープラグの感じは?」

『何か血の臭いがしますけど、母さんに抱かれてるみたく暖かいです。もう少しここにいたい感じです。』

「シンクロ率上昇していきます!150・・・200・・・250・・・300・・・」

「シンクロ強制解除!」

「解除できません!あ!シンクロ率399%で安定!心音、脈拍共に正常です。」

「(ほっ) シンジ君、大丈夫?」

「はい、大丈夫です。」(母さん、起きた?)













エントリープラグ内

(母さん、起きた?)

(シンジ?シンジなの?)

(そうだよ、母さん。今シンクロテストでひと段落着いたから、取り込まれるぎりぎりまでシンクロ率を上げて今話してるんだ。)

(初めてでそんなことできるわけないわね。もしかして、私が寝てる間に使徒を全部倒しちゃったとか?)

(まだ“この世界”では来てないよ。母さんだけには言っておくけど、僕は未来から来たんだ。時間無いから記憶を送るよ。)

そう、シンクロしていれば記憶を共有することぐらい朝飯前なのだ。

(そんな辛い事があったのね・・・でも私はまだここから出るわけにはいかないわ。エヴァが動かなくなってしまうもの。だから・・・)

(大丈夫だよ、一応擬似コア理論は戻る前にある程度できていたから。ダミープラグの応用でね。だから三、四年したら戻ってくるからそのときには・・・ね。)

(ありがとう、シンジ。さあ、もう行きなさい、みんなが心配するわよ。)

(うん、じゃあまた後でね。あと何日かでドイツ行くからそれまで毎日会えるから、父さんのこと色々教え
てね。)

(わかったわ。)

でもこの会話は精神同士のふれあいなので、もともと思考能力の高い二人なので、これだけの会話をものの
数秒で済ませてしまった。よって、まわりにこの会話の存在自体気づかれていない。


・・・・・・

「大丈夫です。少し集中してただけですから。」

「じゃあ、もうそろそろ上がってちょうだい。」

「はい。」












「碇、お前の息子は予想以上だぞ。」

「あぁ、問題ない。」

「しかし、ゼーレが黙ってはいないぞ。」

「この実験自体表に出さなければ問題ない。ダミーのシナリオはできている。」

「ふっ、相変わらずだな。」















残りの数日は、シンクロテストやリツコさんの手伝いであっという間に過ぎてしまった。

そして、出発の日。空港で父さんから思わぬ言葉をもらった。

「精一杯頑張って来い。」

不器用だが父さんらしい、いや、父さんにしては暖かすぎる言葉だった。

不覚にも飛行機のシートに座って涙を流してしまった。あまりに嬉しくて。



















「・・・ぐすっ・・・」

「あ〜ら、シンちゃん。涙なんか流して、私と別れるのがそんなに悲しかったかしらぁん?」

「・・・ミ、ミサトさん!こんなところで何してるんですかぁ!」

「私、もともとドイツ第三支部配属だったのよぉ。でも飛行機乗り遅れちゃってキャンセル待ちしてたらこ
うなっちゃったってわけ。ちなみに、向こうでのあなたの保護者は私だからよろしくねん。」
















僕は胃に穴が開きそうな気分だった。








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     あとがき


   え〜、第二話、完成しました。一話も少し手直しさせてもらったんですけど、更新されているかな?

  されてなかったら、それはそれでしょうがないですけど。

   三話からはドイツ編です。このペースで更新できたらいいなぁ。


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