新世紀エヴァンゲリオンSS

ふたり

BY ゆたか はじめ


 

 私達は使徒との戦いの中でお互いに傷つけ合い、それでも支え合ってきた。

 そして使徒との戦いが終わった時、私達の関係は以前とは変わっていた。

 ・・・・・・まあ、別にどちらかが告白したとかそう言うわけではない。

 

 私は今まで一人だった。

 孤独でも平気だと強がってた。

 でも、私の中のシンジを好きという気持ちは確かなものだった。

 どんなに否定しても否定できない。

 でも、いまさら恥ずかしくて好きだ何て言えない。

 だから私だって頑張っているのだ。

 家事(未だに私達はミサトの家で暮らしている)も少しは手伝うようにしている。

 ・・・・・・そりゃまあ、前よりも我侭になったかもしれないけど・・・ちがうわ、これは甘えてるだけよ。

 それにシンジも私に優しくしてくれるわ。

 私の望みも叶えてくれる。

 だからシンジも今の関係を喜んでいると思ってた。

 私は、そう思っていた。

 

 平和になればなったで何処かに綻びが出来るのかもしれない。

 それが私達の中に現れたというのだろうか。

 

 最近シンジとの仲が上手くいってない気がする・・・・・・

 

 

「おはよう、シンジ!」

 私は朝起きるなり、シンジの部屋に直行した。

 昔はシンジが起こしてくれるまではベッドから出ようともしない私だったけど、今ではこうしてシンジを起こすこともあるのよ!!

 (たまに・・・だけどね(^^;;)

「シンジ〜?」

 この私が起こしに来てやったというのにシンジの返事が無い。

 良く見るとシンジの布団はすでに畳まれていたの。

 私はそれを確認すると、キッチンをはじめトイレに至るまで家中を探し回ったわ。

あの、ミサトの部屋までもよ!! ちなみにミサトはまだ寝てたわ)

 けどその何処にもシンジの姿はなかった。

 靴も鞄も無いところを見ると、すでに学校に行ってるみたい。

(また、今日もか・・・・・・)

 実はシンジが朝早くから家をでるのは今日が始めてじゃない。

 ここの所毎日なのよ。

 始めの内は日直かなにかだと思って気にして無かったわ。

 私達の朝食もちゃんと用意してあったし。

 でもそれが一度ではなく二度三度、ついにはほぼ毎日ともなると私もおかしいと思いシンジに問いただしたわ。

 私がこんな感じでシンジを問いただすなんてことは良くあるの。

 私の知らない女と話していた時とか、知らない女から電話がかかって来た時とか!

 でもそれもシンジのことが好きだから、気になるからよ。

 だからシンジだってあせりながらもきちんと説明してくれるの。

 ・・・・・・べつに私が怖いからじゃないわよ!愛よ愛!・・・・・・たぶん。 

 だから今度もことも何か訳があって、ちゃんと話してくれると思ってたわ。

 でもシンジは曖昧な微笑を浮かべて、答えをはぐらかしたの。

 もちろん私もシンジのそんな態度を見て黙ってはいないわ。

 様々な手を使ってシンジに白状させようとしたわ。

 時には厳しく、時にはやさしく、時には激しく(?)!!

 でも結局・・・・・・シンジは話してくれなかった・・・・・・

 こんなこと、これまでは無かったのに・・・・・・

 シンジ・・・・・・

 

 

 嫌な時には嫌なことが重なるのね。

 それは間近に迫った学園祭の準備をヒカリとしていた時のこと。

「え〜うそ、あの碇君が〜」

「ほんとなのよ」

 その女の声は私達が別の教室の前を通りかかった時に聞こえた。

(シンジ、シンジがどうかしたの?)

 私はその会話の中のシンジの名前に思わず聞き耳を立てたわ。

 となりを見るとヒカリまで同じようにして聞き耳をたててたわ。

 ヒカリには最近シンジの様子がおかしいって相談していたから気になるのね。

「碇君、惣流さん以外に好きな人ができたんですって」

 う、うそ・・・シンジが私以外にっ!!

 私は聞こえてきた信じられない言葉に呆然としてしまった。

 シンジに私以外の好きな人が・・・・・・

「うそだ〜」

 そ、そうよ、そんなの嘘に決まってるわ!!

 そんな私の思いを打ち消すような言葉。

「ほんとだって、だって碇君最近惣流さんと一緒にいること少ないでしょ。朝だって惣流さん一人で来てるみたいだし」

「確かに」

「ね、それに惣流さんっていつも碇君のこと振り回してたじゃない。碇君が惣流さんと別れてもおかしくないわ」

 うっ、確かに最近シンジと一緒に居る時間が減ったような気もする。

 なまじ家でも一緒に居るから気づかなかったけど。

 学校が終わっても何時の間にか居なくなってるし・・・・・・

 顔面蒼白、まさに今の私の顔はそうなっていたのだろう、ヒカリが声をかけてくれるた。

「だ、大丈夫よアスカ。碇君に限ってそんなこと無いわよ」

「で、でも・・・・・・最近帰りも別だし・・・他の娘と帰ってるんじゃ」

「ま、まさか、ほらそんな時って鈴原も相田君もいないし、一緒に帰ってるのよ」

「でも、それなら私に教えてくれるはずよ」

「そ、それは・・・・・・」

 たしかにヒカリの言うとおり、シンジがいない時鈴原も相田も何時の間にかいなくなっていた。

 それにシンジが他の女と一緒にいた所を見た人がいるわけでもない。

 でもそんな簡単なことも今の私には理解できずにいた。

 昔の私なら「バッカみたい!」って言って気にもしなかったわ。

 でも今の私にはそれが出来ないの。

 私の知らないシンジがいる。

 それだけで不安になる。

 どうして、どうして何も話してくれないの、シンジ・・・・・・

 

 

 その日もシンジは私と一緒に帰らなかった。

 その上夕食の時間になっても帰ってこない。

 ミサトが仕事で遅くなる為、私は一人でシンジの帰りを待っていた。

 不安

 孤独

 一人でいることがそんな感情を強くする。

 あのころは良かったわ。

 エヴァが、エヴァに乗って戦うことが私達の絆になってくれていたから。

 戦うため、生きていく為に余計なことを考えずにすんでいた。

 でも今は違う。

 考えるのはいつもシンジのこと。

 私はいつの間にこんなにもあいつのことを好きになっていたのだろう。

 私はいつに間にこんなにも弱くなったのだろう。

 シンジと少しすれ違うだけでこんなにも不安になる。

 シンジ・・・・・・教えて

 私の不安を打ち消して・・・・・・

 そんなことを考える自分が嫌だった。

 弱い自分が・・・・・・嫌だった。

 

 

 シンジが帰ってきた時も私は心の中のそんな思いを消せないでいた。

 シンジにも私のこの気持ちをわかって欲しかった。

 だから帰ってきたシンジがいつもと変わらない顔でいることが辛かった。

 何も言ってくれないシンジが憎らしかった。

「シンジっ、何処行ってたのよ!!」

 そんな思いが言葉にも表れていた。

「え、いや・・・ちょっと・・・」

 言葉を濁すシンジ。

 そんな態度がよけい私の中の不安を、そしていらつきを強くした。

「なによ、はっきり言いなさいよバカシンジっ!それとも私には言えないようなことをしてきたのっ!!」

「な、そんな訳ないだろっ」

 私につられてか、シンジの語気も荒くなってくる。

 それすらも今の私をいらつかせる。

 どうして、どうして私がこんな思いをしなくちゃいけないのよ!

「良いから話しなさいよっ」

「い、嫌だよっ!」

「何よ、バカシンジのくせに、あんたは私の言うとおりにしていれば良いのよ!!」

「な、なんだよいつもいつもっ。なんで僕がアスカの言いなりにならなけりゃいけないんだよ!!」

 シンジが私にこんなに言い返すなんていつ以来だろう。

「僕だって僕の好きな様にしても良いだろう!!なんでも勝手にアスカが決めて、自分勝手だよ!!」

 シンジのその言葉に私は気づいた。

 私はシンジに自分の気持ちを伝えてない。

 シンジの思いも聞いてない。

 ただシンジが優しくしてくれるから。

 シンジが私の言うことを聞いてくれるから。

 だから。

 シンジの言うとおり私はシンジを自分の言いなりにしていたのかもしれない。

 シンジが流されやすいのを利用して。

 勝手に一人思いあがって。

 『好きだから』

 その言葉を免罪符にして私はただ我侭を言っていただけなのかもしれない。

 シンジは私を・・・・・・好きじゃないのかもしれない。

 私の思考はループに囚われる。

 シンジの言うとおり私はシンジを自分の言いなりにしていたのかもしれない。

 シンジは私を・・・・・・好きじゃないのかもしれない。

 シンジは・・・・・・

「あ、アスカ?」

 急に黙りこんだ私を不信に思ったのか、シンジが話し掛けてくる。

 でも私は現実を見るのが怖くて。

 これまでの事を否定されるのが嫌で。

 シンジの前から・・・・・・逃げ出した。

 

 

「それで、出てきちゃったんだ」

「うん(ぐすっ)」

 シンジの前から逃げ出した私は今ヒカリの家にいる。

 ヒカリは私の話を聞いて慰めてくれた。

 ヒカリは優しい。

 いつでも私の事を考えてくれる。

 シンジも同じ。

 でも私は?

 私はシンジのことを本当に考えてたの?

 私は・・・・・・ただ浮かれていただけ・・・・・・

 シンジに我侭を押し付けてきただけ・・・・・・

「ねえアスカ、鈴原に聞いたんだけどね」

 ヒカリが私に話し掛けてくる。

「碇君、やっぱり鈴原達と一緒に帰ってたみたい」

「そう・・・・・・」

 やっぱりそうだった。

 でもシンジはどうして教えてくれなかったの?

 私の事が・・・・・・嫌いだから?

「碇君ね、自分を変えたかったんだって」

 えっ?

「アスカがね、どんどん素直になって変わっていくのに、自分は何も変わらない、昔のままだって」

「私が、変わった?」

「ええ、アスカは変わったわ。すごくかわいくなった」

 ヒカリの言葉に私は赤くなる。

 確かに私は変わった。

 前より素直になった。

 でも・・・

「でも、シンジに嫌われたわ」

「碇君はアスカの事嫌ってなんていないわよ」

「でも何も話してくれなかった!」

 そう、何も・・・・・・

「それはね、言ったでしょ、碇君は自分を変えたがってたって。鈴原に言ってたらしいの『アスカに相応しい男になりたい』って」

「で、でもっ」

「だったらどうして話してくれなかったか、でしょ?」

「うん」

 ヒカリの言葉に私は頷く。

「それが可笑しいのよ。鈴原が言うには男のプライドなんですって」

「プライ・・・ド?」

「そう、男のプライド。ね、なんだか昔のアスカに似てると思わない?」

「あっ・・・」

 そうだ、確かに似ている。

 昔の私はプライドの塊だった。

 どんなに苦しんでも、悩んでも誰にも相談せずに一人で解決しようとしていた。

「ね、アスカ。アスカも碇君も思いは一緒なのよ。でもすれ違った。どうしてだと思う?」

「言葉にして・・・伝えなかったから?」

 私の言葉にヒカリは頷く。

「きっとそうね。アスカも碇君も自分の思いを言葉にしなかった、だから二人の間にずれが出来たのよ」

「でも、いまさら言えないわ。私はシンジに自分の我侭ばかり押し付けて・・・・・・」

 私のそんな弱気な言葉にヒカリは優しく微笑んで答えてくれた。

「碇君は流されるのは嫌と言ったけど、アスカの我侭を聞くのが嫌とは言ってないわ。男でも女でも好きな人の我侭は聞きたいと思うものよ。アスカだってそうでしょ?」

 シンジの我侭・・・・・・

 シンジは我侭なんて言わなかった。

 いつも私の我侭を聞いてくれた。

 私も・・・・・・

「私も、シンジの我侭聞いてあげたい」

「でしょ、だったらそのためにも自分の思いを伝えなくちゃ」

「でも・・・・・・」

 それでもまだ私は躊躇っていた。

 今シンジの前に立って、素直に思いを伝えられるだろうか?

 また、我侭だけを言ってしまうかも・・・・・・

 そんな私の心を読み取った様に、ヒカリが私を助けてくれた。

「ねえアスカ、私に良いアイデアが有るの。実は今度の学園祭で鈴原とね・・・・・・」

 私はその時、ヒカリと知り合えたことを本当に良かったと思った。

 私の大切な、最高の親友に・・・・・・

 

 

 そして学園祭当日。

 私はこの日まで、シンジに話しかける事が出来なかった。

 それはシンジも同じらしい。

 お互い不器用だから、思いを素直に伝える事が出来なかった。

 でも今日、私は自分の思いを伝える。

 その為に今この時間、シンジをこの場所に呼んだのだ。

 そして私はその為に、体育館のステージの上に立っている。

 ヒカリや鈴原、相田達と一緒に。

 体育館には大勢の生徒。

 その最前列、私の目の前にシンジはいる。

 私の素直な気持ち、想いを乗せた歌を伝えたいたった一人の人。

 私の最愛の人。

 その人の為に。

 私は歌う。

 

  イヤなんだここ最近の

 ズレてるようなこの感じが

 こんなはずじゃなかった

 まるで君がストレスになってる

 

 相性どうこう言えば もしかして二人良くないね

 そんなの関係無い そう言えるような愛が欲しいから

 

 抱きしめたい

 がむしゃらに君を強くずっと

 壊してしまいたい

 人のせいにする ちっぽけな自分を

 

 何でも自分一人で 決めてきたような気になって

 孤独が平気って顔して 強がってばかりいたけど

 裸の心さらけ出せれば それがいいね

 ほんの少し時間かければ 分かりあえるよ

      

 

 


 その日お互いの素直な気持ちを伝え合うことの出来た、私の親友と私の大切な人の親友。

 そんな二人を私は誰よりも大切な人の隣で見つめていた。

 彼はいつ私に素直な気持ちを伝えてくれるのだろう。

 私は信じている。

 いつかきっと私達も、親友達のように互いの想いを伝え合える日が来ると。

 その日まで、この気持ちは大切に取っておこう。

―洞木ヒカリの日記より―


 あとがき

 アスカが作中で歌った曲はSURFASEの「ふたり」という曲です。

 この曲をシンジとアスカ、二人のどちらに歌ってもらうか悩みました。

 フルで聞くとどちらにも合うと思ったので。

 当初の予想以上にヒカリが「いい女」になりました。

 はじめは消去方だったんですよ、ミサトとヒカリ。

 ただヒカリの方がアスカに身近だろうなと思い、ミサトが消えました(^^;;

 最後に感想「あ〜自分で読むとはずかしい〜」


マナ:やたか はじめさん。投稿ありがとうっ!

アスカ:鈴原の奴が、余計な知恵入れるからおかしくなっちゃったじゃない。

マナ:シンジも頑張ってるのよ。

アスカ:シンジはあのままで良かったのに。

マナ:シンジの頑張りは認めてあげなくちゃ。

アスカ:ま、そうだけどねぇ。

マナ:なんなら、わたしが認めてあげてもいいけど。

アスカ:アンタは、用済みよっ!

マナ:ぶぅぅ。(ー。ー)

アスカ:でも、わかり合えて最高のハッピーエンドねっ!

マナ:洞木さんのおかげだけどね。

アスカ:アンタと違って、ヒカリの言うことなら信じられるからねぇ。

マナ:ぶぅぅ。(ー。ー)
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