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   DISK2 FLYING IN THE SKY         BY zodiacok
 
 
 

モニター上にシンメトリカルな図形が浮かび上がる

・・・否、使徒が

「第6サーチ衛星より目標の映像データの受信を確認。」

オペレーターの青葉=シゲルがそう言うと、次の画像がモニターに映し出された

それは、使徒の一部が滴のように海に向かって落ちていく画像
滴は雲を割り、大気を切り裂き、大海原へと落ちていった

「たいしたもんだな。」

そう、今回の敵は宇宙空間にその姿をあらわしたのだ

「さすがはATフィールド、といったところだな。」
「落下エネルギーと質量を利用しています。使徒そのものが爆弾といえますね。」
「で、初弾は太平洋に大ハズレ。・・・2時間後の第2射が今のか。」
「確実に誤差を修正してきてます。」

切り替わったモニターには、巨大なクレーターが・・・2つ

「・・・次は、ここか。」
「本体ごとね。」
「そしたら、第三芦ノ湖の誕生かな?」
「富士五湖が一つになって太平洋と繋がるわ。・・・ここごとね。」
「は、はは・・・そうだな。」

緊張気味の加持に対し、クールな表情を見せるリツコ

「南極の碇司令は?」
「使途の放つ強力なジャミングのため、依然連絡不能です。」
「マギは全会一致で撤退を推奨か・・・。よし。」

加持が、何かを決意した表情でモニターを見つめた

「日本政府各省庁に通達だ。ネルフ権限における特別宣言‘D−17’を発令。
半径50Km以内の全市民は、直ちに避難。松代に、マギのバックアップを頼んでくれ。」
「こ、ここを放棄するつもりですか!」
「まさか。ただ、みんなで赤信号を渡る必要もないだろ?」

振り向いた視線は、いつになく厳しいものだった
 
 
 

「・・・あなたの勝手な判断で、EVAを3体とも捨てる気?」

トイレから出てきた加持に、待ち構えていたリツコが、そう話し掛けた

「なんだい、リッちゃん。藪から棒に。」
「どうなの?」

リツコは、いつになく厳しい表情で加持を問い詰める
加持は、そんなリツコを‘きょとん’とした顔で見つめている

「どうって・・・EVAに賭けるだけだよ。」
「加持くん!」
「現責任者はこの俺だ。やれることはやっておくべきだろ。使徒の殲滅は、俺の仕事だしね。」
「仕事?笑わせてくれるわね。あなた、自分のためでしょ?使徒への復讐は。」

その言葉に益々‘心外だ’という表情をして見せる

「リッちゃん。仮にそうだとしても、ここで使徒を食い止めなければならないことには変わらないだろう?
・・・それとも、リッちゃんにはもっといい作戦がある、とでも言うのかい?」
「それは・・・。」
「まさか‘地下のアダムと接触しても、サードインパクトは起こらない’なんて言い出すんじゃ、ないだろうね。」

加持の視線が、リツコを貫く 

「な・・・・・くっ。」

うつむくリツコの横を、加持は無言で通り抜けていった
 
 
 

場面は、広く、そして黒い部屋に
床下一面には、ジオフロントの光景がガラス越しに広がっている

そこに、加持と正対している3人のチルドレン
惣流=アスカ=ラングレー、 碇=ユイナ、綾波=レイ

「・・・これが、作戦か?」

作戦を説明し終えた加持に、呆れたようにアスカが言った

「落ちてくるから、受け止める。・・・これを作戦って言うのなら、馬券買うのも仕事って言ってる親父といっしょだと思うがね。」
「一緒なの?」
「・・・・。」

チルドレン達の白けた視線が、作戦部長の加持を襲う

「はは・・・まったく、アスカ君の言う通りだな。」
「ったく。・・・もち、勝算はあるんだろ。」
「それはなら‘馬のみぞ知る’と言った所かな。」

「「「・・・・・。」」」

加持のセリフに、3人は言葉も出ない

「・・・これでうまくいったら、それ奇跡だな。」

左の眉を撥ね上げ、口の端を引きつらせ・・・アスカは、ようやくそう呟いた
ユイナは、アスカの機嫌があんまりよくないのを敏感に察知して、ちょっと悲しい気分になっていた
レイは・・・いつもの無表情を貫いている

「だが、奇跡って奴は、起してこそ価値があるもんだ。」

加持はそんな三人の顔を見回して、そう言った
その真剣に目に、アスカの表情も変わる

すぅ、と目線が細くなり、口の端をわずかに歪ませる

「だな。・・・上等だ、何とかしてみせようじゃねーか。」
「してみせよ−じゃないかぁ。(^^)」

いつもに戻ったアスカがうれしくて、
ユイナも、アスカのまねをした

「すまない。だが、他に方法がないんだ。」

そう言って頭を下げる加持に、3人のチルドレンは微笑んで見せた

「かまわね−さ。加持さんがそう言うなら、そうなんだろ?だったら、俺達はそれを信頼している。
‘使徒’だろうが‘アクシズ’だろうが・・・受け止めてやるさ。」
「うん!アスカがやるなら、私もやる!!」
「ええ。命令なら、そうするわ。」
「そうか・・・。」

その言葉に、加持の目はわずかに潤む

「・・・ありがとう。」
「何言ってんだ。作戦だろ?」
「ああ、そうだったな。で、どうする?一応規則だと遺書を書くことになって「ざけんな!!」

突然、アスカは大声で加持を怒鳴りつけた

「ア、アスカ君?」

ギラついた視線で、加持をにらみつける

「戦う前から、負けたときのことを考える奴がいるかよ!」
「そうか。・・・レイと、ユイナちゃんは?」
「私も、アスカが書かないなら、書かないよ。」
「私には、何も無いもの。」

悲しそうにつぶやくレイにアスカは少し顔をしかめたが、今は気にしないことにした
加持も、レイの言葉に複雑な表情をした
が、ユイナは一人何も気にしちゃいなかった

「・・・すまないな、みんな。終わったら寿司でも食いに行くか。」
「うにゅ!ほんと!!」

素直に喜ぶユイナ

「えー!ステーキにしようぜ、ステーキに。」

不平を言うアスカ

「うにゅう・・・でもアスカ、レイちゃんはお肉嫌いなんだって。ね。」
「ええ。」
「あっそ。でも、俺はステーキが食いたい。」

そういうアスカに、ユイナは困った顔をすると、‘くるリ’とレイのほうを振り返った

「だって。ごめんね、レイちゃん。」
「・・・いえ、いいのよ。(−−)」

レイ、14歳にして女の友情を知る

「・・・でも。」

‘ポン’と、アスカはユイナの頭に右手を置いた

「俺は、ユイナの手料理が一番のご馳走だけどな。」
「・・・・。(///) アスカったらぁ。(*^^*)」

‘ニヤリ’と笑うアスカ
顔を真っ赤にして、照れるユイナ
いつにも増して、暗い表情のレイ

「やれやれ・・・。」

加持は、緊張感の無いチルドレンに、なんとは無い頼もしさを、幾ばくかの呆れとともに感じていた



巷に雨の降るごとく
窓の外には小雨が降り続いている・・・まるで、異世界のように静かな光景だ

家の中の喧騒も、いつしか外と同じくらい静かになっていた
アスカはグラスの中のスパークリングワインを一口、口にした
ふと見れば、トウコとヒカルはちょっとお酒を飲んだだけで眠りこけてしまっている
トウコの下敷きになっているヒカルは、苦しそうだが、どこか幸せそうだ
アヤメは、テープの剥れた‘祝!加持三佐昇進パーティ!!’の垂幕を直すのに失敗して転び、机に頭をぶつけたきり‘ピクリ’とも動かない
加持さんとミサトは・・・さっきシトロエンのエンジン音がした

・・・きっと、そういうことだろう

肝心のユイナは、レイとおしゃべりをしていた
二人の飲んでいる‘カルアミルク’は、ユイナのために作ってやったものだ、決してファーストに飲ませるためではない
アスカはそう思ったが、今は、いい

・・・今は、少しだけ一人にして欲しい

アスカは、使徒を受け止めた自分の手を‘じっ’と見つめる
正確には、受け止めたのはEVAだが
その感触は自分の手に残っている

ソファに座り、グラスを傾けていれば、そのときの事を思い出さずにはいられない

 ・・・・・

「ユイナ君!待つんだ、ユイナ君!!」

加持の声が発令所に響き渡る

「MAGIは!?」
「まだです!まだ落下地点を特定できていません!!」
「ユイナ君!!」

そんな声が聞こえないかのように、ユイナはアンビリカルケーブルを切り離しEVAを走らせている

「クッ!」

と、それを見たアスカも躊躇することなくアンビリカルケーブルを切り離し、走り出した!

「アスカ君!」

発令所にいた加持は、アスカの行動に再び声をあげた
だがアスカは、加持の叫びを無視して走りつづける

初号機の向かっている方向から、おおよその場所はわかる
だが、正確な位置が知りたい
アスカはすばやくマップを表示させると、ユイナに問い掛けた

「ユイナッ!どこだ!どこに落ちてくる!!」
「あ、ん・・・こ、こっち!」

ユイナは、EVAで走りながら自分の進行方向を指し示す

「バカッ!場所をいえっ、場所を!!」

モニター越しに怒鳴りつけるアスカ
それでも走りつづけるのはやめない

「え・・・あ、う〜んと・・・・。ここ!」

ユイナがプラグ内に浮かぶ地図の一点を指し示す
そこは・・・

「B−2か!!」

  それなら、俺のほうが近い!

アスカはそう叫ぶと、全速力でEVA弐号機を走らせる

一方、発令所でも使徒の落下地点を割り出すことに成功していた
オペレーター‘日向=マコト’のディスプレイに、そのポイントが表示される

「マ、MAGIによる落下予測地点は・・・・。」
「落下地点は・・・?」

その場に、静寂が訪れる
本来は‘1分・1秒’どころか、‘コンマ何秒’を争う事態であるにもかかわらず
全員が動きを止め、マコトの次の言葉を待つ

「B・・・‘B−2エリア’です!!」
「!・・・レイ!スタートだっ!!」

加持は思い出したかのようにそう叫ぶが、レイの青い零号機は、ポイントが確定した時点で既に走り出していた

事実、距離にして半分ほどユイナより近い場所にアスカはいた

だから、アスカは走った
ビルの谷間を抜け、送電線を飛び越え、街路樹を踏み潰して
紅い残像を残し、弐号機が駆け抜け・・・

B−2ポイントにたどり着いた時

「あっ、アスカ!」

初号機は、すでにその場所にいた

「・・・・・ユイナ。」

弐号機のモニターに写るその笑顔
愛しいはずの笑顔が、今アスカには、なぜか複雑に感じられた

「・・・・ユイナ。」
「なに?・・・どうしたの、アスカ。」

悲しげな表情のアスカに、ユイナの顔も暗くなる

(・・・俺は、なにをやってるんだ?)

ふと、アスカは我に返った
見ると、モニターにはユイナの今にも泣きそうな顔が写っている

(・・・・ユイナ)

彼女の、そんな表情を見るとアスカの胸は苦しくなる
心の深く、一番奥の中枢を、冷たい手で鷲掴みにされるような気分になる

弐号機と共に上を見上げれば、目前に迫った第十使徒

アスカの顔に、いつもの不敵な笑みが戻った

「ユイナ。」
「・・・ふふっ。な〜に、アスカ?」

ユイナは、アスカのそんな表情が大好きだ
モニター越しに見つめていると、視線を下ろしたアスカと目が合った

「いくか?」
「うん!」

後方から零号機の足音が聞こえてくる
が、そんなことはもうどうでもいい

2対のEVAが、ゆっくりと両手を掲げた

「いくぞ、ユイナ。」
「うん!アスカ!!」

 ・・・・・

「アスカッ!アスカッ!!」

自分を呼ぶ声に、アスカはわずかに視線をずらした

「・・・ユイナ。」
「えへへ〜、アスカァ〜。」

ソファに座っているアスカに飛びつくユイナ

「なんだよ、酔っ払ってんのか?ユイナ。」
「ねえねえアスカァ、知ってたぁ?ねえ知ってたぁ?」
「何を?」
「私ねぇ、実はアスカの事が大好きなんだぁ。」

アスカの首に抱きつき、その胸に顔をすりすりさせる

「ね〜え〜。知ってたぁ?知ってたぁ?」

そんなユイナの頭を、ポンポンとなでてやる
誰にも見せることの無い、やさしい表情をしてユイナの顔を見つめる

「知ってるさ。」
「ほんとぉ。アスカほんとぉ?」
「ほんとだよ。」
「えへへ〜。嬉しい!」

アスカは、そう言って首に体重をかけてくるユイナを抱き起こし、自分の隣に座らせる
ユイナは、そのままアスカの左手に絡みつく

「えへへへへ〜、アスカ知ってるんだぁ。嬉しいよぅ。」
「そんなの、当たり前だろ。」
「へへへ〜。」

こてん、とアスカの膝に寝転がる
そのユイナに‘いーこいーこ’してやる

「にゃ〜。>^O^<」
「なんだ、猫か?。」
「な〜。>^O^<」
「ユイナは猫になっちゃったのか。」
「違うよぉ、私は猫じゃないよ〜。」

‘いーこいーこ’してもらってる手を取り、ほっぺに‘すりすり’させ
満面の笑みを浮かべるユイナ

「私はユイナだよぉ〜。」
「嘘付け。」
「に゛ゃ〜っ。嘘じゃないよぅ。」
「ほら、やっぱり猫だ。」
「にゃ〜お。>^^<」

むにゅ、とユイナのほっぺをつねる

「ほれ、うりうり。」
「にゃ〜にゃ〜。>^O^<」
「ねーこユイナ。」
「にゃ〜。>^^<」
「ね〜こ、ユーイナッ。」
「にゃ〜にゃ、にゃーにゃにゃっ。>^O^<」
「ね〜こユイナ。」
「にゃぁ〜、にゃぁ〜、ふにゃ〜・・・アスカァ。(///)」

 ぽふっ

愛するアスカの胸に、ユイナはその顔をうずめる
そっと髪をなでてくれると安心する
肩に置かれた手から、体全体にぬくもりが伝わってくる

「・・・アスカ。」

潤んだ瞳で見上げれば、いつだって優しく微笑んでくれる
心に響くアスカの鼓動

(きっと、アスカにも伝わっているよね)

ユイナの激しい胸の高鳴りは、アスカにも伝わっているはず

だから、ずっと、いつだって

二人の気持ちはシンクロしている
絶対これが愛だって、ユイナは信じてる

ゆっくりと目を閉じて、アスカに抱かれて眠りに落ちたユイナは
そのとき、アスカの視線は雨の降り止まない闇夜に向けられていたことに

気が付きはしなかったのだ




〜次回予告

現れた黒い影
それは、全てをおおい尽くし
全てを飲み込んでいく

 CHANGE DISK TO THE Silent Jealousy

「ごめちゃ〜い、アスカ。」

「・・・ユイナ。」




 あとがき

予想以上に時間がかかってしまいました
しかし、その甲斐あって(?)いよいよアスカが主役らしくなってきました

・・・かな?


アスカ:こ、これって・・・。(ーー;

マナ:どうしたの? 無事ハッピーエンドだったじゃない。

アスカ:嫌な予感がヒシヒシと・・・。(ーー;

マナ:はぁ? 使徒倒したのに?

アスカ:このままシリアス調で話が進んだら・・・、ヤバイわよっ! これは絶対ヤバイ展開よっ!

マナ:なんで、そこまで焦ってるのかわからないんだけど?

アスカ:うーん・・・思い過ごしならいいけど・・・。

マナ:だから、なんなのよぉっ!?

アスカ:うっさいわねっ! アタシのことなんだから、ほっといてよっ!

マナ:なんで、怒るのよぉぉぉ。(TT)
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