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   DISK3 Silent Jealousy :trak1         BY zodiacok
 
 


 その影は、突然に
 人知れず

 そこに現れた

 


 バタン!

「くぉらバカユイナァ!!!」

冷蔵庫の扉を閉めると同時に、アスカの怒声が室内に響き渡った
全身全霊の怒りを込め、‘ギロッ’とした視線でユイナをねめつける

台所で朝食を作っているユイナは、その声に体を‘ビクッ’てさせると
眉毛を‘ハ’の字にして、恐る恐る振り返った

「・・・うにゅ〜。」
「‘うにゅー’じゃねえ!何度言ったらわかるんだ!俺はアイスコーヒーは‘MJB’しか飲まねぇって言ってるだろ!!」
「うにゅ〜・・・ごめちゃい。」
「誰があやまれっつったよ!俺は、‘何回言ったらわかるんだ’って聞いてんだろ!!」
「ごめちゃーい。ごめちゃーい。」

大声で捲くし立てるアスカに、ユイナは‘ぺこぺこ’と頭を下げる

「ごめちゃ−い。アスカごめちゃ−い。」
「だからっ!!」
「ごめちゃーい、ごめちゃーい。」

 ぺこりぺこり

ユイナはただただ、頭を下げる

「ごめちゃーい、ごめちゃーい・・・・・うにゅう。」

ユイナは俯いたまま、上目遣いでアスカを見つめる
アスカは、ただ黙ってユイナを睨みつける

「まあまあ。アスカ君も、こんなに謝っているんだからもういいじゃないか。な。」

そして、そんな健気な彼女に見かねた加持が、二人の間に口をはさんだ

「うにゅ〜・・・いいの加持さん。だってアスカは、私が悪い事したから怒ってるんだもん。」

それでもユイナは、眉毛を‘ハの字’にしてアスカに謝りつづける

「ごめちゃ〜い、アスカ。」
「・・・ユイナ。」
「アスカ、私が悪いんでしょ。」
「・・・ああ、そうだよ。」
「へへ〜。だからアスカ、ごめちゃ〜い。」

‘ジーッ’と見つめるアスカに、ユイナは‘にぱにぱ’って笑いかけた

「ねっ、アスカ。」
「・・ああ、オメ−が悪いんだよ。」

‘くいっ’とアスカは左の眉を跳ね上げて、少女にそう言い放った
そして、見つめてる視線を横にずらした

 パタッ

黙って、冷蔵庫を開ける

「・・・・・アスカ?」
「・・・・・・・。」

その、コーヒーの入ったボトルを取り出し
キャップを外して、

 ・・・ゴクッ

一口、飲み干す

「・・・今度間違えたら、ただじゃおかね−からな。」

 パタン

音を立てて、その扉を閉め
官能的に、唇の端から零れ落ちた雫を左手の甲で拭い去った

「うん!」

 


その影は
少しずつ、でも確実に大きくなっていった  

少しずつ・・・少しずつ・・・・


 


個々に与えられたロッカー
その中の一つ、自分用に与えられた物に、少年は挑むような視線を注ぐ

そして・・・

 ガシィッ!!

高速の左ハイキック

 ガシッ!ガシッ!ガシッ!ガシッ!ガシッ!!

左ロー、右ミドル、左ミドル、左ロー、右ロー

「あああぁっ!!」

 ガキッ!ガシィッッッ!!!・・・・ガコンッ!!

ラスト、三日月のような弧を描きながら右上段後ろ回し蹴りが踵からヒットしたところで
鋼鉄製のロッカーはその用途を果たさなくなった

「・・・ハァ、ハァ。」

2、3回肩で息をして、呼吸を整える
ちょっとした無呼吸運動だった
足に違和感を感じる
見てみれば、安全靴のように鉄板が入っている爪先が、わずかにへこんでいる

「・・・・クソッ。」

崩れかけたロッカーに額を押し付け、静かに、そう呟く

「何だよ、わかってた事じゃねーか。」

そう、わかってた事・・・なはずだった

「あいつのシンクロ率の高さなんて、今に始まったことじゃねぇっ!」

 ガツンッ!

拳を、ロッカーに叩きつける

「初めからっ・・・初めからわかってたじゃねーか!!」

だけど、
体が、心が、感情が・・それを理解するのを拒否する

「ユイナッ!・・・なんで、なんでだよ・・・・。」

こみ上げてくるのは、悔しさと・・・悲しさ
そして、ぶつけ様のない憤り

少年・・アスカはただうつむき、ややもすると簡単に落ちてこようとする涙を押さえ込んでいた

「ユイナ・・・ユイナァ・・・・。」

呟きを繰り返す

「なんで、そんなんなちゃったんだ。」

だが、気付いている

「・・・いや。」

ロッカーから額を離し、顔を上げる

「ちげーよ。」

床に落ちている着替えの上着を手に取り
口元に、自嘲気味な笑みを浮かべる

「あいつのシンクロ率が高いんじゃねぇんだ・・・。」

 俺の、シンクロ率が低いんだ

けれど、その思いは言葉には乗せられない
乗せられる、はずもない

「ハッ・・・。行くか。」

拾った上着に袖を通し、壊れたロッカーに一発蹴りを入れて
アスカは、ドアの開閉ボタンに手をかけた

 パシュッ

ドアが開いたその先には・・・

「あっ、アスカ。」

ユイナが、いつもの笑顔で立っている

「うにゅ〜・・・アスカ、遅かったじゃない。私ずっと待ってたのにぃ。」

左腕に自分の両腕を絡め
眉毛をちょっとだけ‘ハの字’にして、ユイナは自分より高い位置のある顔を見上げている

アスカは斜め下にある自分に向けられた顔に、‘チラ’と一瞬だけ視線を向けた

「・・・はにゃ。(*^^*)」

そんなわずかな視線も、ユイナは絶対に見逃さない

アスカは左の眉を跳ね上げ、‘にぱにぱ’って笑う少女に再び視線を落とした

「・・・悪かったな。さ、帰るか。」
「うん!」

引っ張るようにして歩くアスカの左腕に、ユイナは‘ぽて’と顔をあずけた


 

 
影は、収まる術を持たずに、その巨大さを増していくばかり


 

照りつける太陽
‘ギラギラ’とした、真夏の日差し

陽炎が立ち、照返しも眩しい第三新東京市に、黒と白のストライプの模様をした謎の球体が
上空にその姿をあらわした

 ・・・・・

 ビィー、ビィー、ビィー、ビィー

‘警報’と表示されたモニターが、赤く点滅を繰り返す

「西地区の住民、避難完了まで後5分!」
「目標は、毎時2.5kmの速度で移動中。」

オペレーターの慌しい声が発令所を交錯する

「っもう!加持君はどうしたの!?」

リツコの怒声が、そこに重なる

「ごめん!どうなってる!?」

と、ようやくあわてた様子で加持が駆け込んできた

「遅いわよ!何やってたの!?」
「ごめんごめん!・・・で、富士の電波観測所は?」

口調は悪びれた様子もないが、しかし真剣な顔つきで現在の状況を把握しようとする

「は、はい!・・いえ、探知してません。直上にいきなり現れました。」

オペレーターもあわてて答える

「パターン=オレンジ。ATフィールド、反応ありません。」

オペレーターの一人、‘青葉=シゲル’の言葉

「新種の使徒かしら?」

リツコの疑問に

「マギは判断を保留しています。」

同じくオペレーターの一人、‘日向=マコト’はそう答えた

「・・・ふむ。」

加持はあごに手をやり、暫しの逡巡をする



無人の第三新東京市をゆっくりと進む使徒
そして、その後を尾行するかのように隠れて後をつける三体のEVA

アスカ、ユイナ、レイの三人とも、真剣な面持ちで使徒の様子をうかがっている

そこに、加持からの通信がはいった

「データは、今送ったのが全てだ。何もわかっちゃいないのと同義なんでな、慎重に行動してくれ。」

「で、どうするんだ?慎重にこのまま後をつけてくのか、ずっと。」

「ふむ、アスカ君。それもなかなかいい案なんだが。
・・・とりあえず一機が接近して反応をうかがい、可能であれば市街地上空への誘導を行ってもらう。
残りの二機は、先行する一機の援護だ。」

「あ!加持さん。じゃあ私が先に行くね。」
「な!・・ユイナ!!」

アスカは唖然とした顔の加持から、右手を挙げているユイナのモニターにその視線を移した
それに気付いたユイナは

「へへっ。」

って、アスカに向かって顔を赤らめる

だがアスカは、そんなことを気に留める風もない
再びユイナに向かって声をあげた

「てめぇ!なに言ってんのかわかってんのか!?」

「そ、そうだよユイナ君。どうしたんだい急に?」

発令所にいる加持も、同調する

だけど

「へへ〜。」

ユイナは戦闘中の緊張感などないかのように、顔に浮かべた笑みを絶やそうとはしない
元々垂れ目ぎみだった目じりをさらに下げて、モニターに写る恋人の顔を正面から見つめる

「だって、私が一番シンクロ率が高いんでしょ?」
「!!!」
「・・・碇さん。」

「確かに、そうだな。」

「だから、私が先に行くから。いいでしょ?加持さん。」

「・・ああ。」

「へへー。アスカ、レイちゃん。援護お願いね。」

小首をかしげて、ユイナはEVA初号機のコントロールレバーにかけた小さな掌に力をこめた


 
 がんばって、アスカに誉めてもらうんだから

こっそりと心の中でつぶやくと、使徒との間合いを詰めていく
‘チラ’と後ろを確認すると、2体のEVAはちょっとばかり遅れていた
アスカもレイも、アンビリカルケーブルの処理に手間取っているようだった

「・・・ふみゅ。」

(やっぱり、私がなんとかしなきゃ)

その思いが、強くなった
だから、
距離が他のEVAとの丁度半分となったところで、手にした銃を三発、ストライプ模様めがけて発射した

その瞬間

「・・うにゅ!?」

使徒の姿は跡形もなく消えてしまった
発令所のメンバーも、これにはすこし色めきたつ

「何だと!?」
「消えたですって・・・?」

だがMAGIだけは、その存在を感知していた

「パターン青!使徒発見!!」
「どこっ!?」
「しょ、初号機の真下です!!」
「何だって!!」

加持が叫んだその時!
ユイナの駆る機体の足元に、黒い影が姿をあらわした!!

「ユイナ、下だ!!」
「え!?」

アスカの声に、ユイナははじめて足元の使徒に気が付いた

「きゃ!なにっ!?やだっ!!」

その黒き使徒の中に、少しずつ、ブルーの初号機が沈んでいく

「やだっ!アスカッ!アスカァッ!!」

使徒に飲み込まれていくかのような感触に、ユイナは恐怖し、アスカに助けを求め叫ぶ

「アスカッ!アスカ助けてっ!!」

 パァン!パァン!パァン!!

叫びながら、足元に向け、めったやたらに銃を発砲する

「クッ!ユイナ!!」

それを見たアスカは、一瞬にして顔色を変え見境もなしにダッシュする
が、

 ガクン

「うぉっと!」

アンビリカルケーブルが、その動きを食い止めた

「クソッ!!邪魔だぁっ!!」

 ググッ・・・ぶちん!!

しかし、それを強引に引きちぎる!

「ユイナァッ!!!」



 CONTINUE TO 「trak2」
 
 

 あとがき

電波・・・ですね
なんか・・その・・・
私が書きたかったのは、こんなのじゃなかった気がします・・・・

じゃあ他に書けたかと言うと・・・これしか書けなかった、というのも、事実なんですね

なんか、あとがきで言うことじゃないですね

では、
Trak2に続きます


アスカ:なんだか、1番辛い展開になってきたわね・・・。(ーー;

マナ:本編に沿うと、どうしてもねぇ。

アスカ:そーだけど・・・、アタシとしては読んでて辛いわ。

マナ:でしょうねぇ。アスカの自分勝手で我侭で勝手で怒りっぽいところが出てくるところだもんねぇ。

アスカ:ンなこと言ってんじゃないでしょうがっ!!!!

マナ:違うの?

アスカ:シンクロ率でアタシが悩むシーンだって言ってんのよっ!

マナ:だからって、ロッカーをボロボロにするまで暴力的にならなくても。

アスカ:アタシはそこまでしなかったわよ・・・。(ー。ー)
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