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   DISK3  Silent Jealousy :trak2          BY zodiacok
 
 


 

声が、聞こえる

いつまでも?

 深い闇の中からも? 

 
 
 
 

「ユイナァッ!!!」

アスカの叫び
真紅の弐号機は、それに呼応するかのごとく矢のように走り出した

「アスカッ!アスカァッ!!」

既に初号機は、半分以上が黒い底なし沼に嵌ってしまっている

「アスカッ!たすけてっ!」

「ユイナッ!」

助けを求めるその声に、弐号機はその加速度を増していく
ビルを、それこそかするようにしてその間を駆け抜ける

それはまさに、風のように

走って

走って・・

走って・・・・・

 
そして

「なっ・・・・。」

弐号機の足元には、使徒の黒い影が広がっていた

「くっ!」

しかしアスカは、逡巡もせずにその中に飛び込もうとする

「・・・だめ。」

だが、
それは直前になって止められてしまう

レイの零号機が、弐号機を羽交い絞めにしたのだ

「なっ!ファースト!何しやがる!離せ!!」

目の前では、少しづつ初号機の姿が見えなくなっていく

「何してんだよっ!離すせっ!離せってんだろ!!」

「・・・・・・。」

暴れる弐号機を、押さえつける零号機

「離せ!ユイナがっ!ユイナがっ!!」

「・・・・・・。」

強引に引きずろうとするも、零号機の力は予想以上に強く、なかなか前に進むことは出来ない

「アスカッ!アスカァッ!!!」

「ユイナァッ!!」

伸ばした両手が虚しく中をきるその前で、初号機の姿が完全に見えなくなってしまった

「ユイナッッッ!!!!」

「・・・・碇、さん。」


  巻き上げたアンビリカルケーブルの先は、何もついていなかった・・・





西に沈みかけた太陽が、あたり一面を紅く染め上げる
コンクリート製の壁を背にして立っているレイに、横からその光があたっている

その正面に、夕日よりも紅いプラグスーツに身を包んだアスカが立っていた

「なぜだ。」

向けられた視線は、あるいはレイでなければ受け止められないかもしれない

「なぜ・・・なぜあの時俺の事を止めたんだ!!」
「・・・なぜ?」

ただ、まっすぐに紅い瞳でアスカを見つめ返す

「なぜ!俺があの時ユイナを助けに行くことを止めたんだっ!!」
「・・・止めなければ、あなたもあの影の中に沈みこんでいってしまっていたわ。」
「なっ!・・・どういう意味だよっ!!」

 がしっ

アスカの手がレイの肩を激しく掴む
痛いほどに

それでも、レイはアスカを見つめつづける

「・・・そのままの意味よ。」
「な・・・なんだとっ!!」
「あなたが行っても、犠牲者を1人増やすだけ。」
「・・・ざけんな。」

 どんっ!

そのまま、レイの肩を突き飛ばす

「くっ・・・。」

レイは、壁に背中をぶつけた衝撃で、わずかに顔をしかめた

「ざけんな!!」

アスカは、 うつむいたまま体を震わせ
  そして、やおら顔を上げると‘キッ’と紅い瞳をねめつける

「ふざけんなっ!!」

吐き捨てるような叫び

「!!!」

弓を引くかのようにアスカは強く握られた拳を振りかぶった
レイは強く目を閉じ、体を強張らせる

 シュッ

閃光よりも早く、吹き抜ける風

 ガスッ!

「・・・・・・。」

だが、いつまでたっても、体を衝撃が襲ってくることはなかった

「・・・?」

恐る恐る目を開けてみるれば
前に見えるのは、うつむき、前髪に隠れて見えないアスカの表情

打ち込まれた拳は、自分の顔の数センチ横を通り、
後ろのコンクリートの壁にぶつかっていた

「・・・わかってたさ。」

風に乗って、聞こえた

「わかってたさ。俺が行っても、何にも出来ないってことぐらい。」
「・・・惣流君。」

 ガスッ!

「わかっていた・・・。」

 ガスッ!

「わかっていた!」

 ガスッ!ガスッ!!

「わかっていたっ!!」

 ヒュッ

「やめて・・・。」

 バシッ

「・・・くぅ。」

何度も、幾度も壁に叩きつけられていた拳を、
突然、レイがその体を張って止めた

「・・・ファースト。」

アスカは、ゆっくりと顔を上げ
その虚ろな瞳をレイに向けた

視線の先の少女は、血の滲んだ拳を優しくさすっている

「・・・血が、滲んでいるわ。」
「ファースト・・・。」

ぎこちないながらも、精一杯の笑顔で微笑む

「あなたまで行ってしまったら、きっと碇さんは戻ってこない。」
「・・・・・・。」
「此処にいれば、きっと碇さんはあなたに会うために戻ってくる。」

ぎこちない、けれど、本当に優しい笑顔で、レイは微笑んでいた

「そう、でしょ?」
「・・・くっ。」

白いプラグスーツの肩に、アスカは、顔をうずめる

「うぅっ・・・ユイナ、ユイナッ。」
「・・・・惣流君。」
「ユイナッ、ユイナッ・・・・ユイナァッ。」

ただ・・・ただ、愛しい人の名を呼び続ける

「ユイナッ!」
「・・・・ごめんなさい。」

レイは、そんなアスカから‘ふと’視線を逸らした

「こんな時、どうすればいいのかわからなくて。」

困惑した顔を見ずに、両手を白いプラグスーツの後ろに回すアスカ

「ふふっ・・・。」

恋人より若干ボリュームのある胸に、安らぎを覚えていく

「イイ女ってのは・・・こんなとき黙って胸を貸して、‘そっ’と肩を抱いてくれるもん、だ。」

顔を押し付けたまま、わずかに口の端を歪ませて見せた

「・・・・そう。」
「ああ・・・・。」

でも、そんな強がりもそこまでだった

「クッ・・・ユイナ、ユイナッ!!」

涙を流すことの出来ない、心が悲鳴をあげる

「ユイナ・・・ユイナ、ユイナ。」

再び体を震わせながら名前を呼びつづけるアスカを
レイは、ゆっくりと抱き締めた

「ユイナ・・・ユイナッ!」

(・・・・碇さん)

やがて夕日は、地平線の奥へと消えていった





「・・・ふみゅ。」

ちいさくひとつ、溜息をつく

「しっぱいしっぱい。折角アスカに誉めてもらおうと思ったのに・・・・。これじゃ、また怒られちゃう。」

‘ふみゅ’と、もうひとつ溜息をつく
とりあえず、レバーを引いたり色々とやってはみるが・・・

「ふみゅう・・・ダメだ、わかんない。」

何が、というよりも
‘何がなんだか’わからない、と言った方が正しいだろう

「えっと、こんな時は・・・・。」

ちょっと考えてから、生命維持モードへと切り替えた
彼女にしては珍しい、きちんとした手順だった

「だって。」

そう、だってこうしていれば

「きっとアスカが助けにきてくれるよ。」

そう約束したから
そう、信じているから

「アスカ・・・。」

彼のことを考えれば、こんな事になっても、何もつらいことはない

「アスカ、最近なんだかすごくイライラしてるみたい。」
 

逆にアスカの心配をしてしまうぐらいだ

「帰ったら、アスカのだ〜い好きなハンバーグを作ってあげよっと!」

そのときのアスカの反応を思うと、顔が自然とほころんでしまう

「だから・・・。」

だから、早く助けにきてよ

・・・・アスカ





 カタン

と、急造の作戦室・・・仮設テントのホワイトボードの前にマジックが置かれる

「アスカ君、レイ。」

同時に通信が入れられた

「・・・・・。」

ゆっくりと、顔を上げるアスカ
その目には・・・何が映っているのだろう?

「作戦が決定した。そのまま・・EVAに乗ったまま聞いてくれ。」

モニターに写る顔は、いつもに増して苦渋に満ちた物だった

「敵の正体は、あの影のほうだった。直径680メートル、厚さ3ナノメートルの、な。
その薄い空間を内向きのATフィールドで支えている・・・これが、赤木博士が出した結論だ。」

‘博士’というところを、加持は何故か強調して見せた

「内部は‘ディラックの海’と呼ばれる虚数空間に・・・ま、この辺りはアスカ君のほうが詳しいかな。」

‘ははは’という乾いた笑い声にも
アスカは何の反応も示さない

「そこで。」

やおら、加持の顔が真剣な物に変わる

「・・・・・。」

それにはアスカも、ほんの少しだけ反応を見せた

「君たち2人で使徒の虚数空間に、1000分の1秒でいい、干渉して欲しい。
・・・その瞬間に現存するN2爆雷992個全てを投下し、爆発のエネルギーを集中させてディラックの海を破壊する。」

「そんな!」

叫びは、零号機の方から聞こえた

「中には、中にはまだ碇さんが!!」

「レイ・・・!?」

「・・・ファースト。」

彼女の珍しい感情の爆発

と、
何を思ったか、不意にアスカがくぐもった笑い声を上げる

「・・・ククッ。」

「・・・・ア、アスカ君?」

加持と、レイの視線がアスカに向けられる
もっとも、金色に彩られた前髪に隠れた表情を見ることは出来なかったが

「あいつは・・・あいつはなんて言ってるんだ?」

「あいつ?」

 クククッ

笑い声が、響く

「なんて言ったかなぁ・・・あいつ。」

「な・・・あ・・・・・。」

 ゾクッ

加持の背中に戦慄が走る
モニターに写っているのは、顔を上げたアスカの右の瞳

・・・それは、闇よりもなお、深い青だった

「そうそう・・・ゲンドウ。‘碇=ゲンドウ’とか言ったっけな。」

深い青は、遥か遠くを見ている・・・加持は、そんな気がした

「し、司令からの許可は獲ってある。」

「碇司令が、そんな・・・・・・・。」

告げられた言葉に、レイは顔色を失わせた

「そうか・・なら、かまわんさ。」

アスカは、いつものように口の端を歪めたまま

「あの男がそう言うのなら、な。」

それは自信か、確信か・・・

だが、いつもとは違う笑みがそこには浮かんでいた

「そ、そうか。」

男はそう言って通信を切り、

「・・・司令。」

少女の視線は、宙を彷徨った





そしてここにも、視線が宙を彷徨っている少女が1人

「・・・アスカァ〜。」

少女・・・ユイナは、薄暗いエントリープラグの中で悦に浸っている

「やっぱり、あの時のアスカはかっこ良かったよね。」

うっすらと頬を紅く染めて

「絶対リツコさんより、キーボード打つの早かったもん。」

思い出に浸っている

「・・・そうでも無かったかな?」

不意に、我に返る・・・・

「でもでもっ!リツコさんと違って、アスカはぜんぜんMAGIのこと知らないのに、同じくらいの早さだったもん!
最後にとどめのボタンを押したのもアスカだったし!!
・・・そしたら、やっぱアスカの勝ちだよね。」

でもすぐに
再び、’ふにゅ〜ん’とした顔に戻った

「だから、あの時使徒を倒したのはアスカなんだ・・・。
やっぱアスカは、すご・・・い・・・な・・・・・・。」

その顔は、笑顔のまま

‘ぎゅっ’と、プラグスーツの胸の辺りを握り締める

「アスカは、すごいん・・・だから。
ア・・・スカは、一番・・・・なんだか・・・ら。」

息が、苦しい
LCLが濁ってきているのがわかる

「・・・・。」

そんなの見たくないから、しっかりと目をつぶる

「・・・アスカ。」

  苦しいよ、苦しいよぅ

「アスカ・・・アス、カァ・・・・。」

血の匂いがする

それが、すごくイヤで・・・
だけど、それを吸わなきゃ息が出来なくて・・・・

「助けて・・・早く、助けて・・・・よ。」

  気持ちが、悪いよ・・・





壊れた心は    きっとすぐに癒えるはず
  泣きたい気持ちは きっとすぐに消えるはず
悲しい気分は  きっとすぐになくなっていく


零れ落ちる涙は、誰のため?

愛しき心はあなたの元に

愛する気持ちは私の中に





赤い夕日は沈み
暗い夜空に、光る星

そして、浮かぶ月

「信じているのね。」

 なにを?

「・・・碇司令のこと。」

 だれが?

「あなた。・・・私は、少しだけ信じきれないでいた。」

  ・・・・・。

「・・・・・。」

少女は知らない
‘SOUND ONLY’とかかれたモニターの奥で、自らの肩を抱き締め、震えている少年の姿を
蒼くなるほどかみ締められた唇を、強く閉じられている瞳を

引き裂かれそうな心を

「・・・ユイナ。」

零れ出た、その呟きを・・・




何をやってもダメな日って、あるよね

目玉焼き焦がしちゃった
階段でこけちゃった
先生に当てられて、答えられなかった

あきれちゃった?

うそ、慰めてくれるくせに


暗い影に包まれた、あなたを思う私

お姫様は、きっと、王子様のキスで目を覚ます

・・・そんなの
  待ってらんないよ!





「アスカァ!」
 



 グォォォォォォォォォォ!!


音にならない声が、第三新東京市を揺るがす

見る者に戦慄と恐怖を、聞く者に悲嘆と絶望を
それは、ジャバウォックのような狂気か
それは、至高神のような畏怖か




「アスカアスカアスカアスカアスカアスカアスカアスカアスカアスカアスカアスカアスカ!!

ただただ・・・この言葉を繰り返す

「アスカアスカアスカアスカアスカアスカアスカアスカアスカアスカアスカアスカアスカァ!!

意味など存在しない・・・必要なのは、絶対の安らぎ

「アスカァ!」

 ガッ!

深遠なる闇に、突如光った白い眼

・・・それはユイナの叫びに呼応するかのようだった




凍りついたかのように

白と黒・・モノクロのストライプ模様の使徒
その、球状の体を内側から食い破るように・・・
そいつは姿をあらわした

宵闇の街の中に

そいつは、漆黒に染まった
‘EVANGELION’・・・・その、初号機

「・・・な、んだ・・あれ・・・は。」

誰のものか知れない呟きは
全ての者の心の叫び

「・・・ユイナ。」

ただアスカだけが、彼女の名を口にすることが出来た




そして、ネルフ内の病室

うっすらと、目が開かれる

「・・・うにゅー。」

 天井だ

そう思うよりも早く

「ユイナッ!!」

 ガバッ!

「きゃっ!」

誰かが、ユイナに抱きついてきた

「ふにゅ!ア、アスカ!!」
「・・・・・。」

抱きつかれたまま、ユイナは、何とか上半身を起こした

「ア・・・アスカ。」
「・・・・・。」

何も、答えは帰ってこない
ただ少しだけ、抱きしめられる力が強くなった

「アスカ?・・・どったの?」

ちょっとだけ心配になって、声をかける

「・・・・。」

それでも、返事はない

「アスカ、アスカ?」
「・・・・・・。」

代わりに、さらに強く抱きしめられる

「んっ・・・アスカ、苦しいよ・・・・・ア、アスカッ!」

自分の胸にうずめられた肩が、小刻みに震えていた
耳をすませば、触れ合っている体から嗚咽が聞こえる

「アスカ・・・泣いているの?」
「・・・・。」

やっぱり、答えはない

でも、抱き締める力がもっともっと強くなる
苦しいけれど、イヤじゃない・・

「うっ・・アスカァ、泣いちゃダメだよう・・・・・アスカが泣いちゃダメだよう。」

そんなアスカを見てると、ユイナの方だって悲しくなってくる

「うぐっ・・アスカァ、ごめちゃ−い。・・・だから、泣かないでよう・・・・うっ・・・・・。」

‘ぽろぽろ’と零れ落ちる涙が、
アスカの、金色の髪の上で舞い散った

「・・・ユイナ。」

顔を挙げたアスカの頬には、一筋の涙の後が

「うぐっ・・アスカ泣いちゃダメ、私が悪かったの・・・だから、アスカが泣いちゃだめなのっ!」
「ユイナ・・・。」

伸ばしたその手が、優しくユイナの頬に触れる

「ごめちゃ〜い、アスカ。」
「・・・ユイナ。」
「アスカ、私が悪いんでしょ。」
「・・・ああ、そうだよ。」
「へへ〜。だからアスカ、ごめちゃ〜い。」

瞳に涙を浮かべたまま、‘にぱにぱ’って笑うユイナの唇に
アスカは、自分のそれを‘そっ’と重ねた

しばらくぶりに交わされたキスは、ほんの少しだけ血の味がした

「お帰り、ユイナ。」
「ただいま、アスカ。」

二人は、互いに微笑みあった




でもね、アスカの心には
今も、黒い影が広がったまま




〜次回予告

ほ〜んと、アスカってもてるよね
毎日たくさんのラブレターをもらってるし
何度も告白とかされてるし
もうッ!アスカは私のなんだからっ!!

ぜ〜ったい!、誰にもあげないんだからぁっ!!

 CHANGE DISK TO THE 恋せよ乙女

「アスカ君も、ユイナちゃんに好かれてるという事実が嬉しいのよ。」

「は〜あ・・・・やってられませんなぁ。」




 あとがき

電波ですねぇ・・・・・・・
読んでくださっている方は、深く考えずに読んでくださると
zodiacokはすごく喜びます(爆)


マナ:ユイナちゃん、無事に戻ってこれてよかったわ。

アスカ:ディラックの海に消えちゃった時には、どうしようかと思ったわよ。

マナ:輪をかけて、N2を992個落とすなんていいだすし・・・。(ーー;

アスカ:ったく、なんて作戦立てるのかしら。

マナ:でも、結果良ければ全て良しって言うし、良かったんじゃない?

アスカ:これで、元の生活にみんな戻れるのかしら?

マナ:アスカ本人の問題がまだ残ってるわよ?

アスカ:うーん・・・それが問題よねぇ。
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