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   DISK6 残酷な天使のテーゼ     :trak3                                                BY    zodiacok    
 
 



 

「ゲンドウ!!答えろゲンドウーー!!

 叫ぶ

「聞こえているんだろ!?ゲンドウ!!どういう事だ!!どういう事だっ!!!

 叫ぶ

「ゲンドウゲンドウ!!答えろーーーっ!!!

 叫ぶ

この時アスカは、叫ぶことしか出来なかったのだから

 
      


漆黒の天井に浮かぶ、セフィロトの樹
少年は、鉄の顎に両手首を咥えられ
二人の屈強な男に両脇を守られて立っている


「君とこうして話すのは、初めてかな?」

その前に座る男は、大した感情を込めないまま、そう嘯く

「・・・・・。」

無言で返事を返す
うつむいた顔は、長く伸びた前髪に隠れ、その表情を男に見せない

「ふむ・・・。私は、君のことを少しばかり買被っていたようだな。」
「・・・・・。」

返事は、ない
だが、そんなことは意に介さずに男は話を続ける

「命令違反、EVAの私的占有、上官に対する造反とも取れる行為。」

机の上に指を組んだまま
赤いサングラスが、わずかに‘キラリ’と光る

「惣流=アスカ=ラングレー君。」

名前を呼ばれ、初めて少年は正面の男に眼をやった

「君のとったこれらの行動は酷く軽率で浅はかなものであり、かつ犯罪行為でもある。」


瞬間、交錯する視線
わずかな沈黙の後、その男・・・ゲンドウは続ける

「本来ならネルフからの追放はもとより、それ相応の処罰は免れないところだが・・・・君の今までの功績はあまりにも大きい。」

一つ、息をつく

「特例だ、君に三日間の独房入りを命じる。」

言い渡された判決

「・・・何か、言いたい事はあるか?」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・クククッ。」
「どうした。」

彫刻のような整った顔に、宵闇のような影を落とし

「クククククッ。」

かつては水晶のように澄んでいた瞳で、アスカはゲンドウをただ、見つめる

「何が特例だ。何が功績だ。・・・そんな理由じゃねー事ぐらい、わかりきっているんだろ?」
「・・・・・・。」
「てめーの娘一人、言うこと聞かせられない男が何言ってんだよ。」
「・・・・・・。」
「・・・だろ?あいつは・・ユイナは、俺の言うことしか聞かねーからな。
俺がいなくなれば、EVAのパイロットもいなくなる。いや、そんなことは問題じゃねーな。」

‘クククッ’と笑うアスカを、ゲンドウは黙って聞き入っていた

「ユイナに捨てられる。それがハッキリするのが、こえーんだろ?」

下げずむような目
今、審判を下されているのは・・・・

「いいぜ、あいつは。白く、すべるような肌。マシュマロみたいに柔らかい感触。薄紅色の唇。なだらかなカーブを描く姿態。」
「・・・・・。」

ゲンドウがまとう空気が変わったのを、アスカの横に立つ二人のSPも感じ取っていた

「強く抱き締めたとき、‘うっとり’と閉じられる瞳。口付けを交わしたとき、甘くもれる吐息。俺の囁きにだけ傾けられる耳。」

「・・・もうよい。」

「ベッドに組み敷いたとき、ほんの少し下がる眉。愛撫に答えて上気してくる頬。一つになったとき、絡み付いてくる足。」

「もうよい。」

「絶頂を迎えた瞬間に、俺の背中に食い込んでくる爪。・・・今までいろんな女を抱いてきた。同級生だって、年上だって、年下の女もいたっけな。」

「・・・・・。」

「レイプまがいの事だってやったな。リツコとだって寝た・・・ククッ、そういう意味じゃ、俺たちは‘兄弟’だなぁ。」

「もうよい!」

「だがなぁ・・最高だ!あんな良い女はいねー!あいつの全てがいとおしい!あいつの全てを・・・愛してる。」

 クククククッ

器用に、左の眉を跳ね上げる


「いいぜぇ・・・犯りたいんだろ?てめーも。抱いてみたらどうだ?」

「もうよいと言っている。早く連れてゆかんか!!

「クククククッハハハハハッアーハッハッハッハッハッ!!

・・・・・そして、
アスカは高く響く笑い声だけを残し、漆黒の部屋から姿を消したのだった



「使徒、殲滅しました・・・。」

オペレーターのその言葉だけが冷静に事実を伝えていた
けれどそれは、今までにないほどの不快感を持って発せられていた

そして、一人、一人とその場を後にしていった

 ・・・・・

静まり返った発令所には、2人の人間だけが残されていた

「うっ・・こんな、こんな結果って・・・・酷すぎます。」

口元を押さえ涙するのは、オペレーター席に座るショートカットの女性

「どうして、ですか・・・なんで、こんな事に・・・・。」

言葉を続けることは出来ない

「こんなことをするために・・・私は、こんなことをするためにっ!!」
「・・・しょうが、なかった。これ以外の結末は、ありえなかったさ。」
「そんなことありません!きっと!きっと何かあったはずです!!」

かけられた慰めの言葉を否定し
顔を上げ、涙をこぼしながら、眼鏡越しの瞳で睨みつける

「加持さん。きっと・・・きっと何かあったはずです!」
     「マコト君・・・。世の中なんて、奇麗事だけじゃ済まされない。それは、汚れたときに分かったんじゃ遅いんだ。」

‘つい’と、逃げるように視線をそらす

「かまいません!奇麗事を言わずして、何の正義ですか!!
「潔癖症は、つらいぞ。」
「そんなんじゃ、ありません。」
「そう、か・・・。」

そして、再びの静寂

と・・・

「あ・・・。」
「ん、なんだい?」
「ユイナちゃんが、戻ってきたみたいです。」
「そうか・・ははっ、参ったな。」

突然素っ頓狂な声をあげて、加持は‘ぼりぼり’と頭の後ろを掻いた

「どうしたんですか?」
「いやー・・アスカ君のこと、どうしようか。」

ははは・・・と、乾いた声で力なく笑う

「なら・・・。」
「・・・ん?」
「私が伝えましょうか?」
「・・・・いいのかい?」
「ええ。」

マコトはオペレーター席を立つと、ドアのスイッチに手をかけた

 バシュッ

小気味の良い音を立てて、扉が勢いよく開く

「じゃあ、いって来ます。」
「すまない。いつも、面倒なこと押し付けて。」
「良いんです、加持さんのためなら・・・。」

そういい残し、マコトがドアから出て行くと
再び‘バシュッ’という音を立てて、ドアが閉まった

「・・・・すまない。」

後には、加持が一人、残されていた


  

ぽつねん・・・・

「うにゅ〜〜〜。」

1人取り残されたように、
ユイナは更衣室の前のベンチに座っている
淡いグリーンのスカートを‘ひらひら’といじってみたり
‘djhonda’のTシャツの裾を引っ張ってみたりと
ヒマつぶしに余念がない

廊下の角を曲がったところでそれを見つけたマコトは、逡巡した後、思い切って声をかけた

「あ・・あら、ユイナちゃん。」
「うにゅ?・・あ、マコトおねーちゃん。」

上げた顔に満面の笑みを浮かべて、知り合いのお姉さんの名前を呼ぶ

リツコさんみたいにレイちゃんをいじめたりしない
ミサトさんみたいにアスカを取られる心配はない

だから、チョコパフェをおごってくれるこのお姉ーさんが、ユイナは大好きだった

「もう、洋服に着替えたの?」
「うん!」
「何時もこんなに早く着替えてるの?」
「うん、そうだよ。だって、早くアスカに会いたいんだもん!!」

 えへへ

照れたように笑顔を浮かべるユイナに、わずかに顔を曇らせる

「あ、あの・・その、アスカ君のことなんだけど・・・・。」
「にゅ?」

笑顔のまま、小首をかしげる

「その・・ちょっと、入院しているのよ。」
「えっ!うそっ!!」

 ガタッ

その言葉にユイナは目を丸くして立ち上がった

「ほんと!?アスカ大丈夫なの?どこにいるの?」

オペレーターの制服の胸元をゆするように、必死の形相で問い詰める

「あ、だ、大丈夫よ、ちょっとした検査入院みたいなものだから。」
「・・・けがしたわけじゃないの?」
「そうよ。ただ、三日間は面会謝絶なの。」
「・・・会えないの?」

伝えられた話に、暗い表情で顔をうつむかせるユイナ

「ええ・・・三日、我慢してね。」
「ぶぅぅ・・あの使徒さん、悪こさんなんだから。」

使徒・・・

目を三角にして不満を漏らすユイナ
自らの手で知り合いを殺めてしまった事を知ったら、この少女はどんなに悲しむのだろう?
それでも、マコトは勇気を振り絞って口を開いた

「あのね。・・その、使徒なんだけど・・・。」


 ・・・・・

「あぁぁぁぁっ!!やっぱりぃっ!!!」

女性オペレーターの抱いていた不安を全て吹き飛ばすかのような大きな声で
顔に「全て納得しました」と書いて、叫び声をあげた

「ど、どうしたの?」
「私ね、あの人はじめて見た時から嫌いだったの。やっぱり、悪こさんだったんだね。」

‘えっへん’と得意げに胸を張って、少女は主張を続ける

「それにしても使徒だったのかー。さすがにそこまでは気付かなかったなー。」
「・・・ユイナちゃん。」
「アスカを入院させちゃうし、最悪だよね。」

得意げに笑って見せるユイナ
マコトは、唇を震わせて必死に涙をこらえている

しかし、その努力も

「ねぇ、マコトおねーちゃん・・・・。」

 アスカ、誉めてくれるかなぁ?

笑顔で発せられた一言で、脆くも崩れ落ちていった

「うっ・・ああっ!・・ああっ!!」

ユイナの、白いTシャツの形の部分を掴み

「ああっ!・・ユイナちゃん・・・・あああっ!!」

膝を震わせ、胸に顔をうずめるように声をあげて泣き始めてしまう

「にゅ〜・・・どったの?」
「ううっ・・・なんでもないの・・・うっ・・・なんでもないのよ・・・・・・・。」
「ほらほら、泣いちゃダメでしょ。折角使徒さんを倒したんだから。」

‘ポンポン’と2回、彼女の背中を叩いて慰める

「こういうときは、笑わなくっちゃ。」

少女にきっと、罪はない




〜次回予告

1人でいる家は寂しいから
1人っきりの夜は寂しかったから

だからアスカも、同じ思いをしていたと思ったから・・・・

 CHANGE DISK TO THE 「ヒトリノ夜」

「アスカのバカッ!アスカなんかだいっ嫌い!アスカなんか、アスカなんか死んじゃえっ!!」


マナ:アスカかなり怒ってたわねぇ。

アスカ:あんなことがあった後じゃ・・・。

マナ:ユイナちゃんが、慰めてあげれればいいんだけど。

アスカ:難しいんじゃないかしら? 状況が状況だし。

マナ:次回の予告を見ると、そんな気もするけど・・・なんとかなって欲しいわ。

アスカ:ミサトが動いてくれたらねぇ。

マナ:葛城さんの言うことならきいてくれるかな?

アスカ:心の拠り所っぽいところあるからねぇ。
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