Reirth

DISK8            夢見る少女じゃいられない                            BY zodiacok   
 
 


どうしてだろう・・・

いつからだろう・・・・

私は、アスカの隣で笑っていればいいと思ってたのに
アスカの横にいて、甘えていたかったのに
アスカの言うことだけを聞いていればよかったのに

それだけじゃダメになっちゃったのは

 

アスカの喜ぶ顔が見たい
アスカに誉めてもらいたい

・・過ぎた願いだったのかな


何がいけなかったのかな?
どこがいけなかったのかな?


アスカを好きでいる・・・

ただそれだけの事が、こんなにも難しい事だなんて・・・・


思わなかった


 

月明かりの照らす、午前零時
人の気配のない交差点の真中で、ユイナは1人、空を見上げていた

「わかんないよぅ・・・。」

わかんない事、だらけだ

何気なく向けている視線の先には
ぼんやりとした月が浮かんでいる

知らず、涙が零れ落ちる

憂鬱な気分
もう、アスカには会えないかも知れないと言う・・悲しみ

「・・・なんで、あんな事言っちゃったんだろう。」

アスカが間違っているはずないのに
私が悪い事をしたに決まっているのに

でもあの時は、本当にいやだったから

「・・・いっそ、雨でも降ってくれればいいのに。」

そしたら、家に帰る口実になるかも
心配したアスカが探しに来てくれるかも

だけど、月の出ている夜は、雲ひとつない星空で

正面には、まっすぐな道が続いていて
左右にも、まっすぐ道路が伸びていて
振り返れば、さっききた道
どっちに行けばいいんだろう
どの道を行けば、早く明日になるんだろう?

明日になれば、きっと
どうにかなるから

確信があるわけじゃない
誰かがそう言ってくれたわけじゃない

「・・・早く、明日になるといいな。」

だけど、そんな気がする

 プァー

「にゅ?」

静寂に響く低音に、音のほうを振り返る

「・・・・!?」

真っ白なヘッドライトに、思わず左手をかざした

ここは交差点のど真ん中
車が向かってくる中、突っ立っていたら危ない場所なのだが
ユイナは、逃げようともしない

 ブォー―ン

「・・・・・。」

 ブォー・・キキィッ!

ユイナにぶつかろうかと言う寸前で、その車は急ブレーキをかけた

 バタッ

ドアが開き、中から人が降りてくる

「ちょっとぉ〜。危ないじゃないのユイナちゃん。そんなところに突っ立ってたらぁ〜。」

腰まで届く長い髪を翻し、深夜だと言うのに紫外線を98%カットするサングラスをかけて
車から降りてきたのは

「・・・ミサトさん。」
「やっほー、久ぶりねぇ。」

‘パタパタ’と手を振りながら、ミサトはゆっくりとサングラスを取った


      

草木も眠る丑三つ時
ゴーストタウンのような町
時速150キロオーバーで駆け抜ける、ミッドナイトドライブ

カーステレオからはDEEP PURPLEの「HIGHWAY STAR」がエンドレスでかかっている

ハードロックのリズムより猛スピードで流れていく景色を

ミサトは鼻歌交じりにサングラス越しに見つめ
ユイナは無気力に、ただ眺めていた

「・・・この曲。」
「ん?なぁに?」
「ミサトさんの好きな曲なんですか?」
「そーよぉ。加持が教えてくれた曲なんだけどね。車をすっ飛ばしているときに聞くには、ぴったりの曲よん。」
「・・加持さんのプレゼントなんですか。」
「プレゼント・・そぉねぇ、これは違うけど、元のMDはあいつがプレゼントしてくれたのよねぇ。」
「・・・・そうなんですか。」
「あたしの車での2回目にドライブした時かしらん?あいつがMD持ってきて‘君にぴったりの曲だから’って。
‘HIGHWAY STAR’ってタイトル聞いて、‘あ、やっぱりぃ〜’って思ったのにぃ。あいつ、なんて言ったと思う?」
「にゅ?」
「‘違う、聞いてみればわかる’って。」
「で、聞いてどうだったんですか?」
「そしたら‘It‘s a killing machine’なんて歌ってるから、‘まさか、これの事じゃないわよね?’って聞いたの。」
「そしたら、そうだったんですか?」
「ううん。‘それも違う’ですって。」
「うにゅ?」
「‘She‘s a killing machine’の方だですって。あったまきちゃうとおもわなぁい?」
「うにゅ〜・・・ノーコメント。」
「なによぉ、ユイナちゃんまでそんな事言うのぉ?」
「言ってないよ。‘ノーコメント’だもん。」
「それが言っている、っていうのよぉ。もうこうなったらぁ・・・・。」
「・・なったら?」

恐る恐るミサトを振り返ると、サングラスが‘キラリ’と光った

「ふっふ〜ん・・・スピード、アァップ!!」
「にゃぁっ!!」

 どぎゅ〜ん!

瞬間、体にかかるGが倍になったような感じがした・・・

 ・・・・・

高速道路に入ったら、外の景色は単調なものになって
出しているほどのスピード感は、感じなくなった

「ミサトさんは・・・・。」
「・・・何、ユイナちゃん。」

一瞬横目で‘チラ’と見やる
左座席のユイナは、ドアにもたれ掛かったまま
はじめてあったときよりもほんの少し伸びた髪と
ウインドウに映った顔が、妙に印象的だった

「ミサトさんは、私を探しに来たんですか?」
「違うわよ〜。た・ま・た・ま・・・夜のドライブを楽しんでたら、偶然見かけただけよん。」
「うそ。」

ユイナも、ウインドウ越しにミサトの姿を見つめる

「ん〜?どぉしてぇん?」
「だって、降りていきなり私の名前呼んだじゃないですか。」
「それは・・車止めたときに‘あっ、ユイナちゃんだ’って、わかったからよん。」
「加持さんに、頼まれたんですか?」
「あらー・・信じてくれないの?お姉さん、悲しいわぁ。」
「それとも、パパにですか?」

数瞬の、沈黙

「・・・・・・いいえ。」
「・・・・じゃあ、どうしてですか?」
「あなたがここにいるって聞いてね、飛んできたのよ。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」

ギターのソロパートが、ちょうど耳に心地いい
点在する街頭の明かりが、流星のようにつながって見える

「・・・・・・。」
「・・・・‘どうして’とか、聞かないの?」
「・・・・・・。」
「・・・・・ユイナちゃん?」

前方に障害がないのを確認してから
再び横目で少女のほうを見る

「・・・あらあら。」

ウインドウに頭をあずけ、シートベルトを抱くように眠る姿が、そこにはあった

「あたしの車で寝れるなんて、意外と大物かもねぇん。」

結構自覚はあったのか、それとも自信があったのか
さも意外そうに肩をすくめてみせる

「さぁて・・じゃあそろそろ、帰りますかねぇ。」

眠り姫を気遣うように、ステレオのボリュームを下げ、ほんの少しだけアクセルを緩めて
ミサトはウインカーも出さずに、高速の出口に向かってハンドルを切った


 
そして少女は、朝の光で目がさめた

「・・・・・知らない天井だ。」

‘ぼそっ’と呟いて、‘がばっ’て起きる
真新しい、真っ白なシーツ
木で作られた壁は、ほんのり黄色く、清潔な感じがする
木造住宅・・と言うよりは、ログハウス、といった感じだろう

「ん・・・そっか、昨日はミサトさんの車に乗ってドライブしたんだっけ。」

掛け布団を横にどけて、横にそろえて置いてあるスリッパを履いて、ベッドから起き上がる
いつの間に着替えたのか、誰かに着替えさせてもらったのか
だぼだぼのT−シャツを脱いで
ハンガーにかけてある、ブラウスを取ろうとして

手が、止まった

「・・・・・。」

だけど、ほかに洋服はない

手にとって、取ていたボタンが不器用に縫い合わせてあるのをみて
それで、ブラウスを着る気になった


 

靴に履き替えて外に出る
回りは、見渡す限りの木々
空には第三新東京市が下から覗いて見える

(そっか・・・ジオフロントなんだ、ここは)

ぼんやりと、自分の居場所にメドをつけて
‘つい’と視線を動かす

 いた

目当ての人は、畑のやさいに水をやっていた

「・・・おはようございます。」
「ん・・おはよ−、ユイナちゃん。よく眠れた?」
「はい。・・これ、スイカですか。」

ミサトが水をやっていたのは、大きなスイカだった

「そ〜よん・・・あたしにはね、もう、こんなもんしかないのよ。」
「え・・・・?」
「ふふっ・・・ま、ね。干された、って言うより、動けないの方が正解なんだけどねぇ。」
「うにゅ?」
「いろいろやって怒られちゃって、もうこれ以上の悪さは出来ないわね〜・・ってことよん。」
「にゅ!どんな悪い事をしたの?」
「隠された真実を探そうとしてた・・・なんていうのは、かっこつけすぎかしらねぇ?」
「ううん!良くわかんないけど、なんかかっこいいよ!!」
「そう?ありがと、ユイナちゃん。・・・でもね。」
「にゅ?」
「真実なんてのはね、‘空’と同じ。どっからが空で、どこまでが空かなんて、自分で決めるしかないのよ。」

恐らくミサトが寂しそうな顔ユイナに見せたのは、初めてだろう

「でぇ、ユイナちゃんはぁ、何で昨日あんなところにいたのかなぁ?」

けれどすぐに、‘ニヤリ’とした顔でユイナの目を覗き込んだ
そんなミサトに、ユイナはばつが悪そうにうつむいた

「・・アスカと、ケンカしたの。」

‘ちら’と上目遣いで表情を伺う
ミサトは、その言葉に

 やっぱ〜

とでもいいたげに、肩をすくめた

「何があったの?・・・なんてのは聞かないわよん。痴話げんかに首を突っ込むほど、ヤボじゃないしねぇ。」
「うじゅ〜。」
「で〜も、相談ぐらいには乗るわよ。」
「・・・うん。」

一瞬の沈黙が、辺りを包み込む
聞こえてくるのは・・風の音、こすれ合う葉と葉、セミの鳴き声

ユイナは、ゆっくりと口を開いた

「ミサトさん・・私、私が何も知らないってこと、知っていなくちゃいけなかったんでしょうか?」
「ユイナちゃん?」
「わかんない事だらけだってこと、知ってなくちゃいけなかったんでしょうか?」
「・・どうしたのん、一体?」
「私、アスカが喜ぶように、アスカに誉めてもらえるように頑張ってきました。」
「・・・・・。」
「でも、アスカを怒らせてばっかりです。・・アスカに、怒られてばっかりです。」

そう言って、ユイナは‘ぎゅっ’て強く、唇を噛み締めて

「私、アスカの言う事をちゃんと護ってたのに・・・。」

握りこぶしを、‘ぎゅっ’て強くして

「私、アスカのために、頑張ってたのに・・・。」

泣かないように、‘ぎゅっ’て強く目を閉じて

「何でだろう?私、アスカのこと何も知らないから、アスカのこと何もわかんないから・・・。」

隠していた不安を、一生懸命言葉にした

「私、もっとアスカの言う事をちゃんと聞いてくべきだったのかな?」

我慢してたはずなのに、涙が頬を伝ってくる

「・・それとも、私、もっとアスカに反抗的なほうが良かったんでしょうか?」

潤む瞳で、ミサトを見つめた

「・・・ミサトさん。」
「あのね、ユイナちゃん。」

再びミサトは、スイカに水をかけはじめる

「私もね、昔はいろいろわがままを言ったのよ。」
「・・・加持さんに?」
「そっ。・・ま、あいつにだけって訳じゃないんだけどね・・・わがままを言う事が、女の特権だと思ってた。」
「・・・・・。」
「わがまま言って、男を振り回すような女のほうが、魅力的だって、そう思ってたのよ。」
「・・やっぱり、そうなのかな?」
「あはは・・でもねぇ。振られちゃった。」

乾いた声で笑って
その顔を、涙で頬をぬらす少女に向ける

「それだけが原因、ってわけじゃないんだけどね。・・・でも、その事であいつと喧嘩別れしたのよねぇ。」
「え・・・。」
「仲直りはしたけど、また付き合う事はなかったわ・・・・つい、この間まではね。」
「・・なんでまた、付き合い始めたんですか?・・・久しぶりに会ったから?」
「そうよん。久しぶりに会ったからね。」
「・・・・・。」
「そ〜んな顔しないのぉ。」
「・・だって。」
「あのねユイナちゃん。」
「なんですか?」

ほんのちょっと、ほっぺたを膨らましているユイナに、困惑気味な顔を向ける

「このスイカねぇ。ここまで育てられるようになるまで、結構かかったのよぉ。」
「だから?」
「ん〜・・・あたしってぇ、け〜っこう不器用なのよねぇ。料理も下手だし、部屋も汚いしぃ・・ま、あいつほどじゃないけどねぇ。」

 たはは〜

自分で言って、自分で照れる

「だからね、このスイカもちゃ〜んと育つようになるまで、7年も8年もかかったのよ。」
「そうなんですか。」
「そっ。最初はぜ〜んぶ枯らしちゃったりなんて事もあったのよぉ。」
「うじゅ〜・・スイカさん、かわいそう。」
「そうねぇ、スイカには可哀相な事もしたわねぇ・・・・。
 でもおかげで今、こうやって立派なスイカを育てる事が出来ているのよ。」
「・・・・・。」
「確かに、‘コツ’を掴めてきたってのもあるわ。でもね、それもそれだけの月日が経ってきたって事なのよ。」
「月日が・・・。」
「そう。月日って言うのは、経験も、成長も、考える時間も与えてくれるの。」
「経験も、成長も・・・・。」
「従順だっていいの、わがままだっていいの。どんな自分がいいかなんて、それは月日が教えてくれるわぁ。」

そう言って向けられた笑顔は、大人の笑顔だと、ユイナは思った

「だぁいたい、あんたまだ14歳でしょ?あたしの半分も生きてないのに、恋愛について悩むなんて早すぎるわよん。」

 ぱちん

「うにゅ!(><)」

必殺のでこピンが、ユイナの額にも命中した

「はぁ〜い。(;;)」
「判ればよろしい・・・さっ、朝ご飯にしましょ。スイカも冷えてるわよぉ。」
「あ、はぁ〜・・・。」

 ドドーン!!・・・ゴゴゴゴゴ

「えっ!?」
「なに?」

瞬間、突如襲ってきた振動

 ドンッ!!

そして、目の前に現れたのは・・・

「「使徒(さん)!!」」

第14番目の使徒

「ミサトさん・・・。」
「・・行きなさい、ユイナちゃん。」
「・・・・・・。」
「行って、アスカを護ってあげて。」
「・・・アスカ、を?」
「そう。あの子はね、見た目よりも弱い子なの。月日が解決してくれないほど、つらい過去を抱えているのよ。」
「・・・でも、私。」
「ユイナちゃん、あなたならきっと、あの子の支えになってあげられる。
 私は、ここでスイカに水をあげる事しか出来ないけど、あなたなら、アスカを救ってあげる事ができる。」
「私・・なら。」

 アスカを救ってあげる事ができる

左手でブラウスの胸元を掴んで、ユイナはその言葉を噛み締める

「さぁ、いってらっしゃい。帰ってきたら、改めてスイカを食べましょ。」
「・・・はい!!」

ユイナは、その決意を胸に走り出した

「いってきます!!」

振り返って手を振るユイナに、ミサトは同じように右手を振って、それに答える

時は、全てを解決してくれる
でも・・・

「月日って残酷なのよね。いつか、全てを奪ってしまう。・・・・あの娘も。」

きっといつか、あんな風に純粋な気持ちで悩む事もなくなるんだろうか

そして、そんなことが

 大人になるっていうことなんだろうか



〜次回予告
少年は敗北を味わい
少女はその意味を知らない
女は問いかけ
男は・・・逃げる 

 CHANGE DISK TO THE Man&Woman   」

「・・・・・・何、謝ってんだ。」

「アスカが、怒ってるから。・・・だから、ごめんね。」


  
 

あとがき

あははははははは・・・・

なんつーかΓ教蓋瓜Γ教蓋瓜説教くさいですかね
でもね、大人なんて、20(18)になったら、大人なんだと思いますよ


マナ:ユイナちゃん、今回のことでちょっと成長したんじゃないかしら?

アスカ:大人になっていくのよ。

マナ:きっと、これでアスカへの接し方も変わるんじゃないかな?

アスカ:どうかなぁ? そう簡単にいけばいいけど?

マナ:どうして?

アスカ:ミサトが長い月日を掛けてわかったことを、すぐ実戦できるかなって思って。

マナ:でも、きっと頑張るって。

アスカ:そうやって、みんな成長していくのね。

マナ:うんうん。

アスカ:でも・・・アンタの胸はいつまでたっても・・・。(ーー)

マナ:やかましーーーっ!!!(▼▼#
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