Reirth

DISK12    Successful Misson                                              BY   zodiacok 
 
 

 



不意に、立ち止まる
‘いつものように’紅い瞳で
見つめた先の夕日の赤さに、目を細めて
まぶしさに、心を揺らして






 一人湖畔で夕日を見つめる
昼間の太陽の元では銀色に輝いて見える青い髪も
いまは深紅に染まっている

碇さんとは、もう何日も会っていない

碇司令とは・・もう、会いたくも無い

惣流君は、いまだ行方知らず
学校には行っていない
行っても、誰も話し掛けてなんかくれない・・・何人か話し掛けてきても、碇さんのことを聞かれるだけ
気がついた・・・みんな私の友達なんじゃなくて、碇さんの友達だったってことに

もともと、あまり人付き合いのいいほうではなかったけれど
それでも、数少ない知人たちがいなくなってしまうのは・・・

とても寂しい事だとわかった

とても・・・くるしい事だとわかった

「一人は・・・・いや・・・・・。」

今まで、どうやって一人で生きてこられたんだろう
今まで、どうして一人でいられたんだろう
今まで、何で一人だったんだろう・・・

 もう、一人じゃいられない・・・・

一人ぼっちでいられた、あの頃の自分に戻りたい

一人ぼっちだった、あの頃に戻りたくない

赤い夕日が、滲んで見えてきた
一度溢れ出した涙は、容易には止まってくれそうにない
零れ続ける涙を拭いもせず、ただ、流れ落ちるままにする
寂しさと悲しみを、いっしょに洗い流してくれる・・そう信じて
いたずらに、泣き続ける

 ・・・・・

そうして、どのくらいの時間が過ぎたことだろう
傾いていただけだった太陽も、今やその姿のほとんどを海の向こうに消していっている
あたりはもはや、赤と黒のツートンカラーに彩られ始めている

 夕暮れ時

ああ、でも!誰彼(黄昏)時だなんて誰が言ったのかしら
私と同じだと言ってくれた彼は
歌うように微笑んでいる彼は
白魚のようなその指先で涙をぬぐってくれた彼は
こんなにも近く、確実に存在しているのに




歌はいいね、歌はいつも心の隙間を満たしてくれる
リリンの生み出した文化の極みだよ、そうは感じないか?
綾波レイさん

・・・私のことを?

知らないものはいないさ、失礼だけど、君は少し自分をわかったほうがいい

・・・・・・

僕は、カヲル・・渚カヲル
・・・君と同じね

渚、カヲル・・・そう、フォースパイロットの・・

カヲル、って呼んでくれないかな?

え・・・あ・・・・わ、私も、レイでいいわ







ほんの一年前・・けれど、随分と昔のように感じる
殺風景だったこの部屋も、今は大分華やいできた

所々に置かれた小物
ボロボロのカーテンの替わりに取り付けられた、ホワイトカラーのブラインド
真新しくなった布団とシーツ
そのベッドの脇に置かれたおっきな熊のぬいぐるみ
食卓の上にかけられたチェックのテーブルクロス
・・・・そして、つい先程まできちんとクローゼットに仕舞われていた洋服

 すべて、碇さんが選んでくれたもの

レイは、床に投げ散らかされた数々の洋服を見て、途方にくれていた

「・・・・どうしたらいいの?」

もうすぐシンクロテストの時間だ
そろそろ家を出ないと、間に合わないだろう
こんなところでぐずぐずしている暇はない・・・・ないのだけれど

「・・・・どうしたら、いいの?」

着ていく洋服が、決まらない

「はやくしないと・・・・。」

急がなくちゃいけないのに
今まで、こんなことで悩んだことは無かったのに
服なんて、なんでもいっしょ・・・

「にしか、見えない・・・。」

ピンクのシンプルなブラウス
丸くて大きな襟の白いブラウス

何が、どこが違うのか

厚手のスカート
薄い生地のスカート

いったい、何が違うのか

「・・・・わからない。」

どんな格好をしたら好いんだろう
上着6着に、スカートが4着・・・組み合わせは24通り
うち、正解は・・・・

「だめ・・何が正解かもわからない・・・・。」

こんなとき、いつも他人任せにしていたことが悔やまれる
洋服を買うのも、そのコーディネートも
すべてユイナに任せてきたから、いざとなった時には、自分で洋服を選ぶことができない

なら、今までどおりに制服で行けば簡単なのだろうけど
そういうわけには、いかない

・・そんな格好、していきたくない

「・・・カヲル、さん。」

手にしたブラウスを、‘きゅ’と抱きしめる

 なんだろう・・この気持ち

思い出される、あの笑顔
耳の奥に残る、あの声
心が、体が奥から熱くなってくる
胸が苦しくて・・でも、とても心地よくて・・・・

白いブラウスから、ぬくもりが伝わってくる

 ・・・・・

「・・・で、どうして遅れたのかしら?」
「申し訳ありません・・・・。」

白衣の女性に向かって、深く深く、頭を下げる

「ははっ。珍しいじゃないか、レイが実験に遅刻するなんて。」

腕を組んだまま、顔だけ振り返って、肩越しに加持が笑いかける
そんな彼を、リツコは白衣のポケットに手を突っ込んだまま一瞥した
釣られてレイも振り向く

けれど、その視線の先は・・・

「・・・・・・。」

モニターの中、LCLに揺れる少年
ふわりと漂う銀色の髪
今は閉じられている赤い瞳
透けるような白い肌
青と黒で色付けされたプラグスーツ
それが、オレンジ色に溶け合っている

ふと、ゆっくりと瞼が開かれた
隠されていたルビーが、その輝きを見せる

「・・・・・。」

エントリープラグの方からは、こちらの様子は見えない
だのに、目があったような気がしたのは、気のせいだろうか?

「・・・・あ。」
 
オレンジ色の向こうで、その口元がそっと微笑む

「・・・カヲルさん。」

ただそれだけの事なのに、レイの頬は、桜色に彩られる

(私・・・この気持ち・・・・)

今まで感じた事の無い胸のときめき・・そして、ざわめき
とても、不安なその感じ
でも・・・いやじゃない

(きっと、碇さんならこの気持ちの答えを知っているのかもしれない。)

そう思ったレイは、その視線を、リツコと言い争いをしている加持のほうへ向けた

「・・・加持三佐。」
「ん・・・なんだい、レイ?」

尚も言い寄るリツコを左手で制して
加持は、レイの方を振り返った

「・・碇さんは、今日の訓練には参加しないのですか?」

今までとは何か違う
感情の色を灯した瞳で、じっと、見つめる

それにはさすがの加持も、視線をそらすことはできない

「・・・加持、三佐?」
「え・・・ん、ああ・・・・ユイナ君は、ちょっとね。」

ぼさぼさの頭を、名探偵の様にかきむしって
いつもの様な曖昧な返事を、真摯な少女に返した
漸く逸らせた縋る様な目を、隣の美女に向けることも忘れずに

そして、その美女は、イミテーションの金髪をわずかに揺らして

「ユイナちゃんは関係ないでしょうあなたはあなたの仕事をこなすことだけを考えればいいの
 ・・・わかったら、さっさと着替えてきて頂戴こっちも時間がないのよ!!

そしてそれはいつもの光景なのだけれど
突然ヒスを起こしたかのように少女に向かって怒鳴り散らすと
手にした書類に顔を向けたまま、以後、振り向くことはなかった

静まり返った場に、張り詰めた空気

レイは、心に刻み込むようにモニターを凝視した後、そのまま部屋を後にした





実験は、いつもどおりに終わった
だけどいつもどおりすぐに帰る・・という気にはなれなかった
男子更衣室の前に座って
・・・そう、昔碇さんがやっていたように
ただ、今か今かと彼の出てくるのを待つ
一度だけ一緒に待っていた事があったけれど、そのときは、何も感じたりはしなかった
けれど・・今は・・・・

 パシュッ!

その瞬間、更衣室のドアが開き
拭取りきれなかったシャワーの水滴で銀髪をぬらす
色白の少年が出てきた

「・・・やぁ、僕を持っていてくれたのかな?」

ベンチに座っているレイに視線を合わせるように、カヲルはほんの少し前屈みになって
ポケットから出した右手で、少女の青い髪に触れながら
夕日の前で見せたのとなんら変わらない笑顔で、そう問いかけた

「・・・・なんていうのは、僕の意識過剰かな?」

ほんの少し困ったように小首をかしげる

「あ・・・いえ、そんなことはないわ。」

あわてて少女は首を左右に振って、それを否定する

「そう・・よかった。」

その拍子に外れてしまった手が、再びシャギーのかかったショートヘアをなぜた
レイはされるがまま
じっと、目を細めて笑うカヲルの顔を覗き込んだ
そして、カヲルも・・・・

 しばらく、
 そのまま、

電池の切れた時計のように
少しの間、時は止まり続けた

「・・・髪、濡れてないね。」

不意に、カヲルが電池を入れ替えた

「カヲル・・さん?」
「シャワー・・・浴びてないのかい?」
「あ・・・・え、ええ・・・。」

その指摘に、レイは呆然としてしまう
いくら早めに出て待ち伏せをする為とはいえ、これでは汚い女の子だと思われても仕方が無いではないか
いつもユイナがそうするのでそれを真似てみたが、今回はそれが裏目に出てしまったと後悔をしても始まらない

けれど、そんな少女の今にも泣き出したい気分など知らないで
カヲルはいつものような笑顔のまま、髪を撫でつづける
そして、一つの案を青い髪の少女に示した

「もしよかったら、僕のうちでシャワーを浴びていかないかい?」
「・・・・・・・え。」

レイの赤い瞳が驚愕に見開いたのは言うまでも無く
また、その提案を否定しようはずも無かった





フォースチルドレンに与えられた個室に向かう途中
二人より添って歩く緊張感に、顔を赤らめてうつむいて歩くレイには
カヲルの歪にゆがんだ口元に
そうさせている心の内に
気が付こう筈も無かった

 



 成功は、目的ではなく結果である

なんて言ったのは誰なんだろう
成功してこその目的の達成であるというのに




何も、理解していない訳ではない
ここでシャワーを浴びていると言うことがどういうことを示すのか
そんなことがわからないほど、無知でも世間知らずでもない
・・・・つい、この間まではそれも否定は出来なかっただろうが
けれど、今は違う

  今は・・・・・

備え付けられた鏡を覗き込む
写りこんでいる風景は、まるで自分の家にいるかのように生活観が感じられない
いくつか感じる相違点のうち最大のものは、異常なまでの清潔感だろうか
それとも、静まる気配のないこの高揚感からだろうか
鏡の中のもう一人の自分の赤く火照っているほほが
決してシャワーを浴びた後と言う理由だけでないのを、レイはよく理解していた

そして、これからのことも・・・・

「カヲルさん・・・。」

つぶやいた言葉に、幾許かの期待を込めて





僕は、君に会うために生まれてきたのかもしれない





たった一言だったけれど
わたしにはそれで十分だった

体中に受けた口付けも
全身で感じた体温も
二人がひとつになった一体感さえも
それほどまでには、私の心を満たしてはくれなかった
だから、その言葉を胸に
体の中心からの、心地よい痛みを感じながら
彼の細く白い腕に頭を持たれかけさせ
ほの温かい肢体にその身を預け
かつてないほど深い眠りに、落ちて・・・・いった





君は覚えていないだろうね
でも、知らないはずはないのだから
紅にきらめく湖畔で君と再会したとき
その美しさに息を呑んだとき
僕はそう、確信した
もしこれを恋と言うのなら
僕たちは‘いつものように’恋に落ちた
全ては、プログラムされた回路のように
完璧主義者の映画監督の台本のように
CDに焼かれた音楽のように、僕たちは‘いつものように’計画を推し進める

後は、君が幸せでありますように




Ⅰ wish will be happy life







〜次回予告

彼女の選択したものは
少年が残していったものは
今、少女の、少女による、少女の為の
人類補完計画がスタートする

手を拱いているだけの大人
恋に恋する女たち
自らの無力さを嘆く男たち

さあ、タイムアップまでは、後もうわずか・・・・



 CHANGE DISK TO THE イツナロウバ

「けれど、2つの誤算があったのよね。」
「誤算・・・だと。」


 
 
 

あとがき

さて、これが掲載されているころには
立派な(?)花の社会人一年生になっていることでしょう!!(希望)
ますます遅筆度に加速がかかる中!(爆)
果たしてRebirth完結はいつの日のことか!!
(頼まれもしない)連載が始まって丸2年が経過!!

いよいよ次回、Rebirth2完結編です!!


マナ:綾波さんが渚くんにひかれてるみたいね。

アスカ:これでファーストが渚を味方につけたら、後が安心できるわね。

マナ:他がみんな潰れてるから、貴重よねぇ。

アスカ:ここはファーストを応援しなくちゃっ。

マナ:がんばれーっ。綾波さんっ!

アスカ:でも・・・相手は渚だから裏切るかもよ?

マナ:可能性は高いかも・・・。(−−;
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