the end of neon genesis
EVA. rebirth
turbo type D
〜Point of No Return〜
死んだように眠るアスカの顔をはさんで、小さな両手をベッドに突く
「ねぇ、アスカ・・・・ねぇ・・・。」
全身を使って、ベッドを揺らす
「ねぇアスカ・・・ねぇアスカ、起きてよ・・・・。」
上下に、激しく、何度も揺らす
「ねぇ、アスカ・・・朝だよ。起きなきゃだめだよ・・・・。」
一生懸命に、力いっぱいに・・・・
「ねえ!アスカ起きなよ!!・・・起きなよぅ・・・・。」
陶器のように白いアスカの体がバウンドするほどに跳ねても
ユイナはその行為を止めようとはしない
「アスカ・・・アスカ、アスカ!アスカ!アスカ!!」
叫ぶと同時に、全身の力を込めてベッドを押すと
勢いよく跳ねたアスカの身体が、ころんと、ユイナの手に凭れ掛かってきた
「・・・・・!!」
求めていたはずのその感触に、ユイナは驚き、そして恐怖した
伝わる体温、触れている頬の柔らかさ、感じる重さ
そのどれもが、自分の知っている・・・覚えているものとは大きく異なっている
「う・・・・あ・・・アスカ・・・・・。」
けれど、その事が怖いんじゃない
「アスカ・・・いや・・・・・。」
そんな事、わかっていた
だから、それを意識させられることが怖かった
「アスカ・・・うっ・・・・アスカ・・・・。」
恐怖はすぐに、悔恨となって瞳から溢れ出てくる
純白のシーツに、こぼれた後悔が吸い込まれていく
「アスカ・・・私知らなかった・・・ほんとに知らなかったの・・・・・。」
痩せ細った手に、自分のそれを重ねる
「アスカ、傷ついてた。・・・こんなになるまで・・・・こんな、ボロボロになるまで傷ついてたんだ。」
傷、つけてたんだ
「気付かなかった・・・私、ぜんぜん気付かなかった。」
冷たい手を、力を込めずに握り締める
「私、そんなアスカに甘えてばかりいた。アスカに・・・頼ってばかりで、アスカを傷付けてばっかで。
アスカのこと、助けてあげられなかった。・・・・ミサトさんと約束したのに。」
何も、してあげられなかった
謝罪するように、祈るように、想いが通じるように
前髪に隠された小さな額を、握った手にコツンと触れさせる
倒れこむように、アスカの上に覆いかぶさる
「私って・・・・サイテーだ。」
発令所の騒ぎは収まるどころか、その大きさを増していくばかりだ
中央のメインモニターに、無数にあるセンサー類に
パニックの原因となる情報が矢継ぎ早に表示されていく
「状況は、どうなってる?」
緊急放送も流れる中、ようやく作戦部長がリフトに乗って発令所に現れた
「加持さん、おはようございます。
赤木博士がMAGIのプロテクトに向かいました。
・・・・それから。」
言葉を、詰まらせる
「それから?・・・・どうしたんだい?」
ぽん
と、言いよどむマコトの肩をたたいて、その先を促す
「それから、先ほど副司令から第一種戦闘配置にとの命令が出ました・・・。」
「使徒も来ていないのに?」
「・・・ええ、そうです。」
なぜ?
そんな、疑問に満ちた表情で見上げてくる部下に
加持は苦笑を禁じえない
(アイツと比べるつもりもないが・・)
あまりにも緊張感に欠けている気がする
それとも、現状を見つめたくないのだろうか?
同じ人間と戦うという現実を・・・・
「すぐにわかるさ。A−801が発動されたんだから。」
「・・・・・・。」
メインモニターを見据えたままつぶやくと
手を置いた肩が、一瞬びくりと震えた
(やはり、後者の方か)
彼女の優しさは長所だが、常にそれがそうであるとは限らない
特に、こんな非常事態の時にはそうだ
(けれど・・・)
けれど、短所だからといって攻めてしまっても始まらない
それならば、もう一度長所に変えてやればいい
優しさを武器になるように仕向けてやればいい
「アスカ君は?」
「303病棟です。」
すばやくキーを操作すると、サブモニターに病室の様子が映し出される
小さな画面の中で、人形のように眠るアスカの姿がそこにはあった
「やばいな・・・そこだと確実に殺される。早く弐号機に乗せるんだ。」
「は、はい!」
命令され、あわててスピーカーでその旨を職員に知らせる
だがその顔は、血の気が引き真っ青になってしまっていた
「加持・・・さん・・・・。」
恐る恐る、ゆっくりと振り向く
「・・・・ああ。」
そして、完全にこちらを向いたのを確認した加持は
真摯な瞳で、肯定の意を示すために、うなずいて見せた
二人の間の、わずかな沈黙
ぎりっ
すぐにマコトは、強くこぶしを握り締めて、歯を食いしばった
「・・・わたし・・・・。」
「・・・・ああ、それでいいんだ。」
ようやくか・・といった感は否めないが
それでも、多少なりとも改善の兆候があるのを、加持は感じ取っていた
もっとも、現状は悪化の一途をたどっているのだが・・・
「レイは?」
「所在不明です。位置を確認できません。」
「・・・殺されるぞ。補足、急ぐんだ。」
びくっ
‘殺される’
という単語に、いちいち反応することに多少の苛立ちを感じながら
次々と新しい指令を出す
「アスカ君の収容は済んだか?
・・・そしたらエヴァ弐号機は地底湖に隠すんだ。
すぐに見つかるだろうが、ケイジよりかはマシだ。」
その命令に、青葉が弐号機を射出される
「よし、続いて初号機発進!ジオフロント内に配置するんだ!!」
「・・・だめです!パイロットがまだ!!」
「え?」
怪訝な顔で映されたモニターを見ると、
解像度の悪い映像の中で、うずくまっているユイナの姿を見つけた
「何だって・・・・。くそっ!てっきりアスカ君の病室にいるものだとばっかり・・・。」
だが、後悔している時間はない
右手を、上着の上から左胸の拳銃にそっと当てると
もと来たリフトに飛び乗った
「第3層までは破棄だ。戦闘員を下がらせて。非戦闘員の白兵戦は極力避けるんだ。
向こうはプロだからな。ドグマまでの後退が無理なら投降した方がいい。
それと、803区間までの全通路とパイプにベークライトを注入させろ。それで少しは持つはずだ。」
「はい!」
「後は、頼んだぞ。」
早口に命令を残し、小さく手を上げて
加持はリフトごと下がっていった
エヴァパイロットは発見しだい射殺、非戦闘員への無条件発砲も許可する
左手に持った無線機からそんな命令が聞こえている
右手の銃口は、ピタリと階段の下で蹲っている少女に向けられている
「・・・悪く思うなよ、お嬢ちゃん。」
その言葉に反応したのだろうか?
膝を抱えている腕にうずめていた顔を、ゆっくりと上げ
うつろな瞳で、黒い銃を見つめた
・・・ごくっ
誰の喉が鳴ったのか
不意に、向けられていた銃がホルスターにしまわれる
「ん・・・何やってるんだ?」
同じくマシンガンを向けていた二人のうち一人が、奇妙な行動をとる同僚に横目で疑問を投げかけた
「ああ・・・いや、ほら。」
あごで、視線の移動を促す
ぼんやりと宙を見つめる少女
そのまま視線を下にずらせば見える
着こなされた白いブラウスに、淡いブルーの制服、胸元の赤いリボン
折れそうなほど細い腕が抱いている、折れそうなほど細い足
そして、体育座りしているその奥の、白い影
「な。」
「・・・まじかよ。」
「こんなチャンス、めったにないぜ。」
「チャンスって・・・。でもお前、今作戦中だぜ。」
「かまわねえよ。」
「かまうだろうがよ。」
「・・いいんじゃねーの?」
二人の顔が、同時に三人目の仲間に向けられた
「だろ?」
「いいって・・・。」
だが、その反応は対照的だ
「こういう時ってのは、結構興奮するもんだろ?」
そいつは、すでに肩からマシンガンを下ろしている
早くもズボンのベルトに手をかけているのを見て、
つられて、あわてて二人もベルトをはずそうと手をかけた
「んだよ、なんだかんだ言ってお前もヤル気じゃん。」
「・・・るせー。」
「へへっ・・悪く思うなよ、お嬢ちゃん。」
「あ、てめー何抜け駆けしようとしてんだよ。」
言い合いながら、少女を囲む包囲網を狭める
それでも、虚ろな視線に灯が燈らない
ただわずかに、薄い唇が小さく動いた
「アスカ・・・。」
と、
「ん?・・・なんだって?」
「アスカ・・・セカンドだろう。たしかこの娘の恋人だとか、そんな話じゃなったか?」
「へへっ・・じゃあそいつの代わりに俺たちがこの娘を大人にしてやろうぜ。」
「彼氏は今頃地獄に行ってるだろうけど、お嬢ちゃんはおじさんたちが天国に連れてってあげるからね。」
「お前ら、下品。変な官能小説とかの読みすぎだよ。」
「美少女監禁陵辱って?」
「つれて帰るのかよ。」
「ま、それは後で要相談ってことで。」
「だな、さっさと犯っちまおうぜ。あんまりゆっくりしている時間も無いだろうしな。」
「ああ。」
「っていうか、もう手遅れなんだけどな。」
ダンッ!
「なっ!!」
「しまっ・・・。」
ダンッ!ダンッ!!
三発の銃弾が、二人の頭を貫く
生き残った一人が床のマシンガンを拾うより早く
どかっ!
鋭い蹴りが、腹部に命中する
吹っ飛んだ勢いのままに、壁と拳銃の間に顔を挟みこみ
「悪く思うなよ・・・。」
そのまま、引き金を引いた
「・・・ふぅ、ほんとに、別な意味で危機一髪ってとこだったな。」
俺がアスカ君に殺されるとこだったよ
照れ隠しのように肩をすくめ
「さ、行こうか。初号機へ。」
その肩越しに、ユイナを振り返った
・・・なん、だろう?
とても・・心地いい感じ・・・・
温かくて・・・ぬくぬくしてる・・・・
・・・ユイナ?
違う・・もっと、懐かしい感じがする・・・・
・・・・・誰、だろう?
蒼いシトロエンが、巨大なコンベアに乗って運ばれてゆく
いつか見た風景
けれど、そんなことに感傷に浸れるほど少女は大人ではなかったし、心に余裕もなかった
だから
「久しぶりだね・・・初めて会った時以来かな?ユイナ君とこうして車に乗るのは。」
なんていう風に昔を振り返られるのは
加持が大人で、心に余裕があるからなのかもしれない
「本当は、もっとこうしてドライブとかしたかったんだけどね。みんなで、君と・・・。」
アスカ君と
その名前に、助手席でうずくまっているユイナの体が
ぴくり
と、震えた
「・・3人で。芦ノ湖に、ピクニックにでも行こう。お弁と持って、な。」
ゆっくりと窓の外を流れる景色
ハンドルに体を預けて、加持は‘ちら’と助手席に顔を向けた
・・・・なんだ?
正体がわからない・・けれど、そんなことに不安は感じなくて
いっそ、永遠にこのままでいたい・・・そんな気持ちにすらなってくる
なんか、気持ち良いな・・・・
あったかいし・・・
ずっと、こうして・・・・・
いたい
けれど、そんなささやかな願いですら叶えてもらえはしないのか
ドドオォォォーン
!!
「ウギャァァァァァァ!!」
ドォーーン!!
「ギャァー!!」
ドォーン!ドーン!ドーーン!!!
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!
」
いてぇ!
いてぇいてぇいてぇいてぇいてぇ!!!!!!
「うあぁぁぁーーーーーーーー!!!!!!!」
ドドォー・・・・・
キィー−−ーン・・・・
「うぁぁぁ・・・・?」
いた、く・・・・なくなった
キィー−−ーン
再び感じる、暖かさ
ん・・・・なん、だ?
小川のせせらぎのような心地よさ
波の音のような心地よさ
干したおふとんのような心地よさ
森林浴のような心地よさ
微温湯につかるような心地よさ
母の手に抱かれるような心地よさ
母の手に・・・
・・・ママ
「ママ・・・?」
つぶやき
心が解けていく
「ママ・・・ここにいたの?」
温もりが、強くなる
「ママ!!」
カィーー−−−−−−ーン!!
あたりを包む光
深紅のそれは、ATフィールド
ジオフロント内の地底湖から、巨大な光の十字架が浮かび上がる
それは、魚雷を投下していた戦艦を貫き、あたりに水しぶきを撒き散らす
「こ、これは!?」
「やったか!?」
豪雨のような水しぶきを受けながら
傍らで見ていた自衛隊員が声を上げた
・・・しかし
すぐにそれは、驚愕のものへと変化する
まるで、死人が生き返ったかのような衝撃
光の直撃を受けた戦艦を持ち上げ、湖の中から現れる真紅の巨神
すぐさま戦車から無数のミサイルを撃ち込まれるも
掲げた戦艦を楯にそれを防ぎ
衝撃で崩れかけた船を、そのまま投げつける
爆音と、爆炎があたりを包み込み
「・・・・・!!」
再び自衛隊員が、声を上げることは出来なかった
「ママ!ママはここに居たんだね!!」
遠くに見える赤い炎
「ママ!」
今度こそ
「ママ!ママ!ママ!ママ!ママ!!」
今度こそ、必ず
「ママを守って見せるから!!」
飛んできたミサイル
「ママを守るから!!」
伸ばした右手のオレンジ色が、すべてを防ぐ
「ATフィールド!!」
戦闘ヘリからの攻撃
「今まで、守っていてくれた!!」
手を伸ばすまでもなく、オレンジ色がすべてを防ぐ
「今度は、俺がママを守るんだ!!」
狙いが、電源ケーブルに変わった
「ママを守るんだ!!」
ヘリからのミサイルで破壊されるアンビリカルケーブル
電源システムの表示が、無限大から残り5分へと切り替わる
「ママを!ママを守るんだ!!」
右手を振り払う
同時に、湾曲したATフィールドがミサイルを、ヘリをなぎ払う
「ママを守るんだ!ママを守るんだ!!」
宙に浮いているヘリをつかみ、別のヘリにぶつける
「ママを守るんだ!ママを守るんだ!!」
回し蹴りが、一度に2機のヘリを叩き落す
「ママを守るんだ!ママを守るんだ!ママを守るんだ!!」
あらかたのヘリはもう片付いただろうか
「ママを守るんだ!ママを・・・ママを!!」
叫ぶアスカは気付かなかった
遠く聞こえる地鳴り
天高くを飛ぶ、九つの輸送機に
EMERGENCY ELEVATOR
そう書かれたプレートの前に、加持は立っていた
襲撃を受けぼろぼろにされた車を乗り捨て
俯き、恋人の名を繰り返す少女を半ば引っ張るようにして
「・・ここか。」
一息ついたのも、束の間の出来事だった
パァン!
「な!」
甲高い音とともに、熱い痛みがわき腹を通り抜けていった
「くぅっ!!」
後ろを振り返るなんてことはしない
とっさにユイナをドアの向こうに押しやると
サブマシンガンの小気味良い連射音が聞こえると同時に、自分もドアの中へと飛び込んだ
直後だった
ドォーン!!
という爆風が、さっきまで二人のいた場所を包み込んだのは
・・・・・
入ってきたドアにロックをかけて
血の止まらないわき腹を押さえて
ニヤリ、と口元に笑みを浮かべて
崩れそうになる膝に力を入れて
「・・・これで、暫くは、大丈夫だろう。」
加持は、搾り出すようにそう呟いた
「くっ・・・。」
歯を食いしばって、エレベーターの電源を起動させる
良かった、電源はまだ生きてる
ほっと、安堵の息を漏らす
チラと、傍らの少女を見やる
「アスカァ・・アスカァ・・・・。」
しゃがみ込んで、ただその言葉を繰り返すばかりの少女を
「・・ユイナ君。」
はじめは、優しく声をかける
「・・・ユイナ君。」
「アスカァ・・・アスカァ・・・・。」
「ユイナ君・・ユイナ君!」
「アスカァ・・・・。」
「ユイナ君!・・ユイナ君!!」
「アスカァ・・・アスカァ・・・・。」
「ユイナ君!!」
だんだんと強く・・・けれど
「ユイ・・!!」
わき腹を通り抜ける痛みが、それより先を許してはくれなかった
だから、無言で手を伸ばし、うつむく少女を引っ張り上げた
瞬間、それまで以上の激痛が走ったが、そんなことにかまっている余裕などありはしなかった
エレベーターのドアに押し付け、屈み込んで、じっと顔を覗き見る
「ユイナ君・・・。」
それでも鳶色の瞳は、光を取り戻さないまま
薄桃色の唇は、アスカの名を呼び続けている
「・・・・・。」
熱を帯びてきたわき腹を必死に押さえ
戸惑いのため、加持は視線を右に逸らした
が、それもわずかな時間
すぐにアスカという名が漏れこぼれる口を、自らのそれでふさいだ
「・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
エレベーターのモーター音だけが、その場を支配する
何が起こっているか理解し始めたのか
少女の瞳の色が濃くなり始める
「・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
・・・そして
「・・・・いやっ!!」
パシン!!
華奢な左手は、守るように唇に当てられ
右手は、最短距離で加持の頬を捉え、振り抜かれた
「あ・・・・え?」
光の戻った瞳に映ったのは
わき腹とほほを押さえる自称保護者の姿だった
「加持・・・さん?」
左手は唇に添えられたまま
右手は振りぬかれたまま
ユイナは初めて、アスカ以外の人の名を口にした
「はは・・これがユイナ・ストライクか。・・・・いや、話に聞いた以上の威力だね。」
額に脂汗を浮かべ、それでも、おどけて見せる
つらそうに、けれど笑ってウィンクをしたり
「これじゃ、普通の子は気絶位するかもね。まだ頭がくらくらするよ。」
けれど・・・
タンッ
やおら 頬を押さえるのを止めて、ユイナの顔の横の壁に手をつく
「悪かったユイナ君、それは謝るよ。」
いつものふざけた笑顔のまま
それでも、まじめな視線で少女を見つめる
「でも、これでアスカ君に会いに行く口実が出来たろう?」
「・・・・加持さん。」
「何があったか知らないけど、アスカ君に会って。話はそれからだろ。」
必死に歯を食いしばって
だけど、絶対にそれを気取らせないようにして
「アスカ君に会って、さっきのキスの続きを教えてもらっておいで。大人のキスってやつをさ。
ま、アスカ君ならその先も教えてくれるかもしれないけどな。」
ユイナに、笑いかける
「でも私・・アスカに会いにいけない・・・。」
そんな笑顔から視線を逸らし
小さな宿った光が、雫となって零れ落ちてゆく
「ユイナ君?」
「私、アスカに酷いことをした。・・私、アスカを守ってあげられなかった。」
砕け散ったガラスのように
後から後から、光の欠片があふれてゆく
「だから・・だから私アスカに会えないの。アスカに、会っちゃいけないの。」
そして茶色の瞳は、涙に奪われてゆくかのように再び色を失い始めてゆく
「私・・私・・・・アスカに・・・。」
そこから先は、言葉が続かない
「アスカに・・・・アスカ・・アスカに・・・。」
「会いたい、んだろ?」
優しい言葉に、ただただ、うなずく
「だったら、会いに行って来るんだ。」
「でも・・私・・・。」
「でも、じゃないだろ。会いたいんだろ?」
「・・・うん。」
同じ高さに揃えられた視線が、ぶつかり合った
「今、ここで泣いてたって何にもならないぞ。まずアスカ君に会って、悪いことをしたなら、ちゃんと謝るんだ。」
「でもきっと、許してもらえない・・・。」
「じゃあユイナ君は、許してもらえなかったら、それでいいのか?」
「ううん!」
ふるふるふると、勢いよく首を左右に振る
「だろ?・・・人なんて、ちょっとしたすれ違いで二度と会えなくなる事だってある。」
「・・・・。」
「ちょっとケンカしただけで、8年も想いを伝えられなくなる事だってあるんだ。・・そんなの嫌だろ?」
「・・・うん。」
「・・・・そう、それでいいんだ。」
まだ血でべたつく右手が、エレベーターのスイッチに伸ばされる
小さな音をさせて、すぐに扉が開かれる
背凭れを失ったユイナは、よろめく様に中に入った
「さ、行っておいで、アスカ君に謝って、それから、キスの続きをしてもらっておいで。」
「え・・・・。」
ユイナが何かを言う前に
伸ばした手が触れるよりも前に
再び扉は閉じられた
「加持さん・・私・・・・もう大人・・・・・。」
伝えようとして、
伝えなくて良かったと気付く
「ミサトさん・・・加持さん・・・。」
動き出した箱の中で、もう一度決意する
「もう、アスカを傷付けないよ。今度こそ、アスカを助けてあげるよ。」
だからその時は
「それが出来たら、今度こそ、もう大人だよって、胸を張って言うね。」
非常用のエレベーターはユイナを乗せて
まっすぐに、初号機の元へ
NEXT「Paint It Black」
あとがき
容量の関係上分かれてしまいましたが
・・何せ100kbを超えてしまったので(^^;
これと次の話は、二つで一つと思ってください
マナ:いよいよ最終局面ね。
アスカ:加持さんのおかげで助かったわ。
マナ:ユイナちゃんも、今回のことで加持さんにいろいろ教わったみたいね。
アスカ:やっぱり、加持さんは大人よねぇ。
マナ:ユイナちゃんが、加持さんの言うこと、どこまで理解できたかしら。
アスカ:アスカと会った時、どんな成長をしたかわかるんじゃない?
マナ:加持さんと同じ失敗だけはして欲しくないわね。
アスカ:そうよ。言いたいことは言うのが1番なんだから。
マナ:あなたの場合は、煩過ぎだけど・・・。
作者"zodiacok"様へのメール/小説の感想はこちら。
ysd-244@clio.dricas.com
感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。
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