決戦――かえで雄一の物語――特別編

決戦<その12>


 不器用なウインクに返された不敵な笑い。
 銃と剣を携えて向かい合っていた兄弟の間に成立した同盟の、それが契約書だった。

「神無月」
『何でしょうか、次郎さん』

 再び通信機で上空の神無月を呼び出す雄次郎。

「近接装備を降ろせ」
『……降魔兵器相手に、白兵戦に持ち込むおつもりですか?』
「何を今更。元々雪組は白兵戦用の歩兵隊じゃないか」
『それはまあ、そうですが……
 敵味方が近接した状態では、白鯨丸の援護射撃もままなりませんよ?』
「ちゃんと考えてあるさ。
 隊長」
『…何かしら、次郎ちゃん?』

 通信機から流れ出してきたのは不機嫌を丸出しにした女性の声。

「……怒っているふりをするのは止めてくださいよ。貴女は、そんな感情に左右される人じゃないはずだ」
『女心を語るには十年早いわよ』
「……あのですね」

 苦りきった表情で、こんな場合であるにもかかわらず、絶句されられてしまう弟を見て、加山は強い親近感を覚えた。兄弟だから、という理由からではなく、兄弟とは境遇まで似てしまうのか、という感慨を覚えていたのである。

「時間が無いんですが」
『無駄口を叩いているのは次郎ちゃんの方ですよ』
「……分かりました。仰る通りです。怪神の武装を」
『精密射撃用に切り替えて欲しいというのでしょう?炸裂弾をソフトポイント弾に換えて』
「…その通りです」
『両方とも既に準備は出来ています。コンテナを同時に投下しますので頭上に注意してください』
「両方とも?そこまで分かっていたんですか?」
『別に次郎ちゃんの為に用意してあげた訳ではありません。「共振能動防御」のデータは怪神に劣らぬ今回の目玉ですからね』

 ブツッ、と音を立てて切れる通信。

「やれやれ……どうしてああ、偽悪的なのかね、あの人は……」

 溜息と共に頭を振る雄次郎。だが、唇にはほのぼのとした苦笑いが微かに刻まれている。

「……上手くやっているようだな、雄次郎」
「あ、兄貴!?」

 そして、兄の目は弟のそんな、複雑な心情を見逃しはしなかった。

「兄弟とはいえ、人の趣味にとやかく口出しするような野暮な真似をするつもりは毛頭無いが……あの隊長より高村隊員の方が俺はお勧めだと思うぞ?」
「なっ、いっ、一体何処からそんな話を……」
「彼女も満更ではなかったというではないか。俺も一応、帝劇暮らしだからなぁ。椿さんとも知らない仲じゃなし。二股かけて泣かせるような事態になってしまっては、兄として顔向けできんからなぁ……いっそそうなる前に、椿さんに本当のことを」
「ち、違う!俺と隊長は別にそんなんじゃ……」

 ニヤッ、と笑う兄。
 ハッ、と口をつぐむ弟。

「い、今はそんな話をしている場合じゃないだろっ!」

 僅か3歳違いとはいえ兄と弟。顔が赤くなっているのはやはり年季の差か。上空から軽い地響きを上げて落下してきた、大小合わせて十を越えるコンテナへ向けて急ぎ足で立ち去る弟の背中を、兄は人の悪い笑顔で見送る。
 それは短い幕間劇。
 兄の顔は、すぐに、月組隊長の顔に戻った。

「柴田、何をしている」
「はっ?ハッ!」
「結界は放棄して構わん。急いで全員をここに集めろ」
「ハッ!」

 ほのぼのとした空気に感染してしまっていた雷の術者が慌てて身を翻す。
 目を半眼にし、微かな音を耳で拾おうとしているような仕種を見せた後、加山はコンテナの周りで慌しく動き回っている雪組隊員達の様子を興味深げに見詰めていた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 灰白色の戦闘服に身を包んだ雪組の隊員達が援護射撃用の歩兵用榴弾砲を投げ捨て、コンテナの周囲に集まっている。
 自走式の動力アームが忙しく怪神の弾倉を交換する脇で、灰白色の男達は白銀のヘルメットと銀色の装甲を身に着けていく。

「急げ!用意の出来た者からソーマの服用!」

 小さなアンプルの中身を口に流し込み、マスクとゴーグルで表情を完全に隠してしまう雪組の面々。体格以外に彼らを見分けるものは無くなって行った。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 欠けた者はゼロ。これ程の悪条件下の、激戦であったにも拘らず。だが、流石に全員、疲労の影を隠せなくなっている。半数以上の隊員は、明らかに限界を示す憔悴を浮かべている。
 ひたひたと近づいてくる、三方から包囲を縮めている降魔兵器の気配を背中に感じながら、加山の下に最集結した月組の精鋭達。無言で片膝をつく彼らの前に立つ加山、その背中に彼ら月組を少し上回る数の鎧武者が現れた。
 鎧武者?
 別に、亡霊でも復古思想に基づくものでもない。
 伝統的な鎧兜とはかけ離れた、だが鎧としか言い様のない金属の防具を身につけた灰白色の兵士達。
 天頂に一本の短い角がつけられた白銀の兜、と言うかヘルメットの中身は、鼻と口、顔の下半分をすっぽり覆う白いマスクと飛行機乗りの風防眼鏡に似たゴーグル。灰白色の戦闘服は花組の物と同じ耐熱・耐酸・防弾繊維で仕立てられたものだ。その上につけた鈍い銀色の胸甲、手甲、脛当て。左肩には身を屈めれば上半身だけなら隠せるであろう大きさの、鏡のように表面が磨き上げられた銀色の盾。伝統的な鎧兜と言うよりも幕末の軽装歩兵、否、むしろ西洋の軽騎兵の鎧を連想させる姿だ。
 およそ30の頭数を数える雪組の兵士。その半数の右手には一風変わった形の長銃。基本的なフォルムは1.5メートル余りの長く太い円筒。その後ろ端から1/3の位置に銃把が取り付けられ、30センチ程離して支持用の握りが銃把とは直角に伸びている。銃身自体が回転するように作られた6つの銃口からのぞく鋭い銀色の杭。連発式の杭打ち銃とでも言うべきか。
 そして残り半数の右手には巨大な盾。左肩に装着されているものより数段大きい、立ったままでも膝の辺りまですっぽり隠せそうな楕円形の、白銀の盾。やはり、鏡のように磨き上げられた表面に、こちらは浅く十字の紋章が彫り込まれていた。
 見るからに重そうなその杭打ち銃を両手で支え、あるいは右手に携える盾に左手を添えて、ゴーグルとマスクに表情を隠し雄次郎の背後に整列する雪組の隊員たち。
 向かい合う兄と弟。
 片膝立ちの軽装と、仁王立ちの完全武装で向かい合う月組と雪組。
 月組が無言で立ち上がる。
 雪組が長大な杭打ち銃と巨大な盾を構えなおす。

「来たようだな」
「それで?」

 他人事のような弟の台詞に応える兄の短い問い掛け。

「坊やたちに援護射撃をさせてこいつらを突っ込ませる。上手くいけば、火と雷の出番になる」
「ほう……」

 謎かけのような思わせ振りの答え。興味深げな頷き。

「第二幕の始まりだ」
「俺達には第四幕だがな」
「……気を殺ぐような事言わないでくれよ。せっかく、キメ台詞なんだからさ」

 今ひとつ緊張感に欠ける兄弟の会話は、大口径機銃の轟音で打ち切られた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 再び射程距離に出現した降魔兵器。射程距離内、とは、お互いに言える事。妖気の烈風が吐き出されんとする、その機先を制して怪神の腕が轟音を発した。
 ここまでは先程までと全く同じ展開。だが今回、銃撃は弾幕とならなかった。
 突出した半魔の機体を狙って正確に浴びせられる弾丸。連射が利かない代わりに、弾丸自体の威力は数段増しているのだろう。鈍い銀色の飛沫が弾け、降魔兵器が態勢を崩す。標的を重複させること無く交互に火を噴く銃身は、九つの機体が完全に一つの意思で制御されているかのようだ。
 怪神の銃弾は遠距離攻撃用の降魔兵器だけを正確に狙っていた。その結果、遠距離攻撃用の『烈風』が足止めされ、近接戦闘用の『万雷』が突出する二層化が半機半魔の陣形に生じていた。
 兵器として作られた存在である降魔兵器は、与えられた以上の、設計外の能力を持ち得ない。万雷が攻撃できるのは、その爪と牙が届く範囲のみ。
 それは、「本来の」雪組の間合いでもあった。
 狂ったように――否、元々狂気しか持ち合わせていないのだろう――突進し、無謀にも(?)自分から突っ込んでくる灰白色の獲物に爪を食い込ませ牙を突きたてようといる降魔兵器。その正面で足を踏ん張り、手にした杭打ち銃の銃口を魔の兵器へ向ける、完全武装に個性を隠した雪組隊員。
 瞬間、その身体から霊子の光が迸った。
 機動兵器の大口径機銃に勝るとも劣らぬ轟音が発せられる。

「おぉ……」

 小さくもれる嘆息は、加山の背後から思わず上がったもの。
 なんと。
 怪神の大口径砲にすら傷を負わなかった降魔兵器の身体に、銀色の杭が突き立っていたのだ。
 傷口から流れ出す毒々しい紫の体液と、凶々しい牙の奥から漏れる咆哮。

「瞬間的に霊力を爆発させたのか」
「銃身に霊力を蓄える機能が組み込まれている」
「あの杭も普通の材質ではないな」
「生来の霊力(ちから)だけではない」
「薬を使っているのか」

 群れをなすミツバチの羽音に似たざわめきは、通常の数倍の速さで囁き交わされる月組のコミュニケーション。

「ソーマか」
「非道だと思うかい?」

 ほとんど唇を動かさず、同じ高速で往復する兄弟の問答。

「裏御三家じゃあるまいし、自前の力だけじゃ、魔操機兵や降魔の相手はとてもとても出来んからね」
「あの杭は、シルスウス鋼ではないな。ミスリルか?」
「やっぱり流石だよ、兄貴は。いかにも、錬金術加工を施した魔術の銀、ミスリルを尖先と芯に使っている。周囲はシルスウス鋼だけどね。
 古来より魔を斃す力を持つと伝えられる銀の武器。その中でも特に倒魔の力に優れているミスリルを、シルスウス鋼の管に流し込み先端を研ぎ上げた、魔を貫く槍を射出する雪組本来の主装備『銀槍銃(ぎんそうじゅう)』。またの名を『白銀の牙』」
「だがあれでは」

 高速で交わされる会話には、表情というものがほとんどない。言葉の背後にあるはずの感情が読み取れない。特殊な話法は、高速の情報交換の代償として情緒の交流を不可能としているのか。

「まずい」
「気力の全てを注ぎ込んだのか」
「霊気が虚脱している」
「あれでは防げないぞ」

 にも拘らず、兄の最後の一言には焦りにも似た危機感が込められていた。そして、それに続くように交わされた背後の囁きにも。
 初めてそのおぞましい肉体に傷を負わされた降魔兵器。だが、魔に抗する金属で作られた全長0.5メートルの杭も一撃だけでは致命傷とはならない。しっかり足を踏ん張り、全気力を叩きつけた射手に、報復に怒り狂った半機半魔の爪を躱す術はないかと見えた。

 鈍く轟く金属音。
 霊子の光。

「何ぃ!?」

 今度こそ、抑え切れぬ正真正銘の驚嘆が漏れる。
 装甲を着込んでいるとは思えぬ俊敏さで――おそらく、『ソーマ』とは霊力だけでなく肉体機能も増幅する薬効があるのだろう――仲間の隣に走りこんできた「盾の兵士」が、楕円形の巨大な盾を両手でかざし、降魔兵器の爪を受け止めたのだ!
 確かに、シルスウス鋼の装甲板ならば降魔兵器の打撃に耐えることも出来るだろう。魔でありながら物理的な実体も有する、降魔兵器の物理的な打撃力だけならば。だが、その爪に込められた妖気は例えシルスウス鋼であっても完全には防ぎきれない。否、シルスウス鋼の装甲と霊子機関を併せ持つ霊子甲冑でも完全にダメージゼロという訳にはいかないのだ。
 だが、今。月組の目の前で、薬で一時的な強化を受けているとはいえ生身の兵士が、衝撃に(仲間を巻き添えにして)地面を転がりながらも、降魔兵器の一撃を防ぎ止めたのだ。白銀の表面から爆発的に放たれた霊子力場で。
 降魔兵器の妖力を相殺する程の強力な霊子力を放射する銀色の盾。だが、加山の目はそれ以上の驚くべき現象を捉えていた。

(あれは、大神の『守護の力』……?)

 少女達を率いて戦場を駆ける彼の親友が時折見せる奇跡の技。危機に陥った隊員の機体へ自らの霊力を投射し、「護る」と念じた相手の霊力と自らの霊力を共振、相乗させ、爆発的な防御霊力場の放射に換えていかなる攻撃をも相殺してしまう守護の力。
 今、加山の眼前で生じた現象は、エネルギー量、「強さ」から言えば遥かに劣る。だが、霊力の投射と共振により一人の人間が作り出せる限界を超えた強度の霊子力場を形成した点で、大神の技と確かに同質のものだった。

(いや、大神と同じ力の持ち主がいる訳ではない。霊力は、一人からではなく全員から投射されていた)

 加山の、この世のものならざるものを「見る」視力には、楔形の陣形で突撃する雪組隊員全員の左肩、鏡のように磨き上げられた小型の盾――「盾の兵士」が携える大型の盾に比べれば、だが――が霊光を放ち、お互いの霊力を反射しあうように霊子のネットワークを形成した様が映った。そして、一瞬にして作り上げられた霊力の網を通して、仲間を庇い降魔兵器の前に立ちはだかった隊員の掲げる楕円の盾にネットワークを形成していた霊力の全てが吸い込まれたのを見た。

(あんな事は全員の霊子波動が同調していなければ不可能なはずだ)

 普通ではありえないこと。霊力とは人の持つ命と心の力であり、霊子波動とは生命の波動の事。それは、容貌や体格、性格と同じように、あるいはそれ以上に一人一人固有のものだ。だからこそ、霊力を一つに束ねる為には大神のような「触媒の能力者」が必要とされるのであり、またその存在が稀有のものなのだ。
 しかし、改めて「目」を凝らしてみれば、突進する雪組の隊員達は確かにほとんど同一波調の霊子波動を放っている。特に、そうするよう意識している様子も無く。「魂の双子」と呼ばれる、生まれつき同じ霊子波動を持つ者同士ならば起こりうる現象だろう。だが、それもまた希少な例のはず。30人以上の能力者が同じ霊子波動を持っているなど、不自然だ……

(不自然?まさか!?)

 加山は自分の考え違いに気づいた。そして、おぞましい推測に突き当たった。
 雪組はいわゆる「能力者」ではない。無論、普通よりはるかに強い霊力を有しているだろうが、花組、そして月組のように魔に対抗し得るまでの卓越した霊力、あるいは術を備えている訳ではない。
 今、雪組は、霊力増幅効果のある一種の麻薬「ソーマ」を服用し降魔兵器に対抗する霊力を得ている。霊力それ自体を「修行」によって高めるのではなく一時的に霊力を無理矢理引き出しているのだ、副作用の無いはずはない。それでも、勝利のため自分自身をすら「変えてしまう」非情さ、それが雪組の持つ最大の「武器」だろう。
 ならばそれが、今だけだと考えるのは、それこそ不自然ではないだろうか?
 雪組は、常日頃からそうして自分達を「改造」しているのではないだろうか?

「気づいたかい、兄貴?」

 高速話法ではなく、普通の速さで問い掛けた雄次郎の顔には、やり切れなさを押し隠し、無理矢理浮かべたどこか空々しい笑いが刻まれている。
 次の「射手」が降魔兵器に接触した。半機半魔の肉体に食い込む銀色の杭。反撃の爪は空を切る。だが、その横では「銀槍銃」を構えた「射手」に一呼吸先んじて「万雷」の爪が振り下ろされる。間一髪走り込む「盾の兵士」。発光現象と同時に轟音が響く。銀の槍が撃ち込まれた衝撃に態勢が崩れたのであろう、降魔兵器の打撃に本来の力はなく、「射手」と「盾の兵士」は降魔兵器の死角へと素早く移動する。
 銃も弓矢もなく、ただ手にする槍のみで虎や獅子に挑む異郷の狩人のように、正真正銘、ギリギリの戦闘に命を曝す雪組。その後方で、再び交わされる高速話法を用いた、兄弟の会話。

「あれが本来の雪組の姿、そして雪組の戦い方。
 精神、霊力に作用する薬物と霊子科学が産み出した感応システムを併用して霊子波動を近似的に同一化し、霊力の共振が起き易いように『調整』した兵士達が文字通り霊力(ちから)を一つにして人の力を超えた『魔』と戦う。
 One for all,all for one.
 儚く消える一ひらの雪も、一つにまとまれば全てを押し流す雪崩に変わる。それが、『雪組』の名前の由縁」
「一種の洗脳だ」
「気に入らないようだね?まあ、当然かもしれないな。人が人として、人間らしく生きるという事に兄貴は昔から妙に拘っていたからな。きっと、大神隊長もそんな人なんだろうね。
 だけどね兄貴、それは『強者』の理想なんだよ。破邪の血統でも霊剣の継承者でもない普通の人間が、普通の人間のままで『魔』と戦う事なんて到底出来ないんだ。
 普通の人間に魔を退ける力はない。だから、対降魔部隊は二剣二刀の継承者を集めた。わずか14才の少女までも。花組は世界中から高い霊力を持つ者を捜してきた。10才に満たない少女までも。
 それを非難するつもりは無いよ。誰も無理強いされた訳じゃない。そして、戦場に身を置きながらも、彼女達は決して不幸ではないのだろうから。だけどね、ただ力がある、というだけで、戦いを全て彼女たちに押し付けて良いはずもないだろう?
 国を守り、民を守る為の軍人が、魔の跳梁に何も出来ない。ただ歯を食いしばり、悔し涙を呑み込んで、少年や少女に未来を委ねなければならない。ただ力があるというだけで。その為に、豊かな未来が待っているはずの彼女達を血みどろの戦いに送り込まなければならない。国を守るという使命に理想も誇りも持っていた『本物の』軍人が、そんな無念に、耐えられるはずは無い。
 だから、雪組は作られたんだ」

 普通に会話する十倍以上のスピードで情報を交換する高速話法には、抑揚も緩急も強弱もない。ただ平坦に内容だけが語られる口調に、感情を込めることは出来ない。しかし、雄次郎の言葉には、紛れも無く「想い」が込められていた。

「確かに、雪組は賢人期間の連中の玩具にされている面があるよ。奴等の血なまぐさい商売道具の実験部隊の一面がさ。
 だけどね。それで『魔』に対抗できるなら、国と民を守るという使命が果たせるなら、例え自分がモルモットになるのだとしても、例え自分が自分以外の何かに変わってしまうのだとしても。一個の歯車になってしまうのだとしても。
 自らの信じる『使命』の為に。
 彼らは皆、全て承知の上で『雪組』という兵器の部品になっているんだよ」

 加山の脳裏に、昨夜の一幕が甦る。自分も、彼も、そして今、目の前で戦う彼らも。軍人とは、何と愚かな人種なのだろうか。自分自身も含めて。
 愚かで、頑固で、不器用で。騙し、騙される世界を巧みに泳ぎわたっているつもりでも、所詮自分も、そういう愚直な「男達」の仲間なのだ。

「お前も言うようになったな」
「受け売りだけどね。さあ、無駄話は終わりにしようぜ」

 揶揄交じりの苦笑いに込められた賞賛。弟を、対等の男として認める眼差し。
 微妙に目をそらし、すぐに敵へと戻す雄次郎。敵陣を刺し貫く兄弟の視線。

「分かるだろう、兄貴。降魔兵器の防御力場に開いた穴が」
「ああ。狙いは、あの杭だな」
「……槍なんだけどね。まあ、いいや。行こうぜ、俺たちも」
「どうやらお前の方が降魔兵器相手の『戦い方』が分かっているようだ。俺は、どうすればいい?」
「兄貴から指示を求められるなんて、何だかこそばゆいな。居心地が悪いような良いような、変な気分だ。
 じゃあ兄貴。『不知射(しらぬい)』は、まだ使えるよな」
「ああ」
「全力じゃなくてもいいんだ。不知射を撃ち込んでくれ。俺が、『響弾(きょうだん)』で止めを刺す」
「了解だ」

 走り出す兄弟。
 小さな合図に応えて、加山の後に続く火と雷の術者達。
 反撃の、幕が開いた。 

 

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