「アスカ、恋の10倍返し!?(前編)」
「アスカぁーー?早くしないと遅刻よぉーー?」
「はぁーーい。もうちょっと待ってぇーー。」
階段の下から母の声くるが、鏡の前で作業の仕上げをしている少女は手が離せない。
「よしっ!完璧に、ブスだわっ!」
ようやく作業が終わったようだ。その出来具合を確かめるように、鏡に映る自分の顔を満足げな笑みで見つめ返している。
「さぁーーって。転校初日から遅刻はマズイわよね。」
ベッドの上の鞄を手に取って急いで階段を駆け下りると、靴を出してくれている母の姿が目に映った。
「アスカ、諦めちゃダメよっ!」
「分かってるって!じゃ、行ってきまぁーーす!!」
片手を上げながら元気良く走って行く娘の背中を見送る母、キョウコ。微笑んではいるものの、その胸中は心配事で溢れかえっている。
「今度こそは、見つかるといいんだけど・・・・・。」
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そして、第3新東京市、第壱中学校。
2年A組は朝のホームルームの最中だ。
「えー、それでは、今日は皆さんに先日話した転校生を紹介します。」
ザワザワザワ・・・・・
担任教師の言う「転校生」という言葉に、クラス中の男子達がざわめき立った。それもその筈、転校生は女子と言う噂のうえ、クォーターの帰国子女だと言うのだ。思春期の男子達が高ぶるのは無理もない。
(どんな子かな・・・)
奥手で有名な碇シンジもそんな中の一人だ。
「はい、では、惣流さん。入って来て下さい。」
ガラッ
クラスの全生徒の熱い視線が、開けられたドアへと注がれる。
そして。
「惣流・アスカ・ラングレーです。よろしく。」
「「「「「「えええぇぇ〜〜〜〜‥‥」」」」」」
入って来た期待の転校生を見るや否や、男子達が一斉に落胆の声を上げ、一斉にがっくりと肩を落としてしまった。一部の女子達も、なーんだと期待外れを露わにしらけた顔だ。
へぇ、あれが惣流さんか、どんな娘かな・・・・・。
仲良く出来るといいんだけど。
そんな中でも、シンジ一人だけが、澄ました顔でいる。
だが、シンジ以外のクラス中の誰もが、美少女を期待していたこの惣流アスカと言う少女。お世辞にも可愛いとは言えず、ビン底メガネ、黒い瞳、クセのついた黒い髪、そして寸胴と、とても皆の期待していた「スタイル抜群ブロンド美少女」とはかけ離れていた容姿だったのだ。
「けっ。なーんだよ。」
「期待して損したぜ。」
「あーあ、寝よ寝よ。」
「さてと、1時間目は数学だな。」
「ま、世の中うまく出来てるもんさ。」
「八月は夢花火ってね。」
一気にテンションの下がった男子達の様子を見て、教卓前のアスカは軽蔑の冷たい笑みを浮かべている。
ふんっ、やっぱりどこの世界も、男は上辺だけか。
あーあ、この学校も見つかりそうにないわねぇ・・・。
そして、アスカのトドメの一言。
「ちなみに今、恋人募集中です。」
「「「「「「はああぁぁ〜〜〜〜〜〜???」」」」」」
その容姿で恋人募集中などよく言えたもんだなと、クラス中の生徒達が一斉に疑惑の声を上げている。そんな予想通りの反応に、密かに心で笑っているアスカ。
ぷぷぷっ。みんな揃いに揃って怒ってやんの!
ま、明日になったら、10倍にして返してやるわ。楽しみにしてなさいよ。
「えー、じゃあ、惣流さんは、碇君の隣りに座って下さい。」
「はーい。」
「碇のヤツ、災難だな。」
「俺の隣りじゃなくて、ほっとしたよ。」
「どうかしてるぜ、あの女。」
そんな心無い生徒達の言葉が飛び交う中、アスカはお構いなしに、ピョンピョンと小気味良く席へ向かうと、早速お隣り同士のシンジに挨拶をする。
「よろしく。」
「こちらこそよろしく。惣流さん。」
ふぅーん・・・・・。
少しはまともなヤツが居るのね。
透き通るような笑顔で挨拶を返すシンジに、アスカは少し関心を示しているようだ。
ま、コイツも化けの皮を被ってるに違いないわ。ゆっくりと剥いで行ってやる。
だがアスカはこの後、シンジに化けの皮もなにも無い事に気付かされるのだった。
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1時間目。
一応は授業中なのだが、肝心の授業内容が相変わらずの老教師のセカンドインパクト日本昔話とあっては聞く者も少なく、寝ている生徒が大半だ。
カツン
同じくうつらうつらと睡魔に襲われていたシンジだが、隣りのアスカが落としたペンが足下に転がって来たので拾ってやる。
「はい。」
「はあ?誰が拾えって?」
「え、いや、落ちたからさ・・・。」
「ハンッ。今度からは勝手に拾わないでくれるかしら。」
「え、うん・・・。」
シンジの手からひったくるようにペンを受け取るアスカに、どうしたのだろうと、心配そうな顔をしながら、授業へと身を戻すシンジ。
おかしいわね・・・・・突っかかってきなさいよ・・・。
ひったくり際に見たシンジの顔が気になるアスカ。まるで自分の心を察するかのような、そんなシンジの顔に困惑を隠せないようだ。
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そして1時間目が終わり5分休みなると、アスカは早速といった感じでシンジに声をかけた。
「ねぇ、えーーっと。」
「あ、碇シンジだよ。」
「じゃあ、シンジでいいわね。君づけして呼ぶのって、ムカつくから。」
「え、まぁ、別にいいけど。」
(なによ、あの女はぁぁ〜〜〜!!!)
(ちょっと、いきなり碇君の事名前で呼んでやがるわよ!)
(あんなブスが碇君にぃぃぃ!)
会って早々にシンジを名前呼ぶアスカに、クラスの一部の女子から怒りの視線の矛が向いているのだが、そんな様子に気付くまでもなくアスカはさらに詮索を続けている。
「でさ、国語の教科書貸してよ。もって来んの忘れちゃった。」
「えっ。だって、次が国語だよ?」
「だから借りるんじゃない。早く貸しなさいよ。」
アスカの心裏で働いているのは、シンジという少年の性格の詮索、興味。国語の教科書は持っていたのだが、わざとこうして悪態を取る事によって、シンジがどのような反応を示すかが知りたかったのだ。
「まぁ、困った時はお互い様だからね。はい。」
「え?」
優しく微笑みながら、あっさりと教科書を貸してくれたシンジに、アスカが呆けて目を見開いている。
「あんたはどうするのよ?」
「今、他のクラスの友達から借りてくるよ。」
「そ、そう・・・。」
そう言って教室を後するシンジの背中を、始終呆然と見送ったアスカ。
お、おかしいわね。なんで、そこまでしてくれるのかしら。
そして、慌てて鞄から手鏡を取り出し、自分の顔を確認する。
うーーん。完璧よねぇ・・・。どこから見ても不細工じゃない。
こんなブスの我が侭に、よく笑顔で付き合うわね・・・・・あいつ。
鏡を鞄に戻しながら、碇シンジというヤツはひと味違うぞと、アスカ。
・・・こりゃ、思ったより早く見つかりそうね。
そして人知れず、待ち焦がれた希望に胸をときめかせるのであった。
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4時間目、体育。
この日の体育の授業は、男女合同で運動会に備えての競技練習が行われる事になっている。男女合同という事なので、男子も女子も、どこかソワソワした様子だ。
「よし、じゃあ二人三脚をやるぞ。男女それぞれペアを組め。5分以内な。」
担当教師がそう言うと、待ってましたと色めき立つ男子と女子。バラバラとそれぞれお目当ての人の交渉に入って行く。シンジも誰と組もうかとひとまず立ち上がるが、さっそく女子3人に囲まれてしまった。
「ねぇ、碇君。わたしと組もうよっ!」
「ダメよ!わたしと組むんだからっ!」
「わたしったら、わたしなの!」
「え、えっと、その・・・・・・・あれ?」
キャーキャーと目の前で騒がれる中、ポツンと一人座っているアスカの姿が目に入ったシンジ。どこか寂しげな顔のアスカに、目を細めてしまう。
転校して来たばっかりだから、相手が見つからないのかな・・・。
「あの、ごめん。僕、惣流さんと組むよ。」
「「「ええーーーっ!!」」」
「だってほら、一人だと可哀想だよ。」
そして、ごめんと手を会わせてその場を後にするシンジの背を、なんでよぉと信じられない顔で女子3人が見送るが、転校して来たばかりだという事情も分からないでもないので、渋々諦めたようだ。
ふんっ。やっぱり男って、外見だけね・・・。
男なんか、誰も信用出来ないわよ・・・。
一人膝を抱えて、冷笑を浮かべていたアスカだったが、不意に目の前に差し出された手に思わず顔を見上げた。
「ねぇ、相手、いないんだよね。」
そこには、太陽の光りで輝くような笑顔でシンジが優しく見下ろしている。
「・・・・・そんなに、あたしが一人なのが面白い?」
「違うよ。いないんだったら、僕と組もうよ。」
「え・・・・・。」
「その、僕も、一人で困ってたんだ。丁度いいよ。」
どうしてそんな嘘ついてまで・・・・・?
先ほどシンジが女子に囲まれていた事は知っていたアスカ。どうしてそこまでして不細工な女に構ってくれるのかと不思議に思ってしまう。
「ね、組もうよ。」
そっか・・・。
こいつ、優しいんだ・・・・・。
「・・・・・うん。」
頷き、シンジの手を取るアスカの笑顔は輝いている。
「あれ、どうしたの?」
「あ、ああ、目に砂が入っちゃって。」
「大丈夫?」
「ええ、大丈夫。気にしないで。」
やっと、見つかったのかな・・・・・。
出会って短時間の間に、アスカの中の碇シンジは、今の自分を解放してるかもしれないという希望の光を携えた存在になっていた。
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昼休み。
体育の時の経験からか、アスカが一人ぼっちにならないよう気を遣ったシンジが授業後にすぐに声をかけて来た。
「ねぇ、惣流さん。お弁当食べようよ。」
「え、ええ、別にいいけど。」
そう言うと、シンジがニコリと笑って机を正面に寄せてきた。
「ね、ねぇ、あんたさ。」
「なに?」
「その、どうしてあたしなんかに、そんなに構ってくれるの?」
「え、だって、惣流さん。転校して来たばっかだからさ、一人の内は色々と大変だろ?」
「ま、まあね・・・。」
転校する度、転校する度、その先々でこの容姿のせいで冷たくあしらわれて来たアスカは、男は上辺だけの生き物としてしか認識してこなかった。だから恋人が欲しくても、そう言う所からくる男に対する嫌悪感は捨てきれず、男不信に陥ってしまっていたのだ。
だが、今回ばかりは違う。
この碇シンジという男のおかげで、そんな今までの自分に別れを告げられるような気がするのだ。
ママ、あたし、こいつに賭けてみるわ・・・。
出会って間もない内にそんな風に思うのは軽率ではないかと思う所であるが、先ほど述べた通り、学校を転々として様々な人間と関わって来たアスカには、知らず知らずの内に相手の心を見抜く「洞察力」というものが備わっていた。しかも、人間不信気味なアスカの防衛本能から生まれたそれは、かなりの精密精度を誇っいる。つまりアスカにとって、直感こそが100%であり、なによりも信用出来るのだ。
こいつなら、信用出来る気がするの・・・。やっとね・・・。
そして、そんなアスカの直感が初めてOKサインを出した人物。それが碇シンジだった。
「でもね、シンジ。明日からは大丈夫よ。」
「え?そうなの?」
そう、アスカが行く先々の学校で疎外されていたのは、とある理由から、その「初日」だけだったのだ。
「そう、今日だけ一人なの。」
「そうだね。みんなとは仲良くしないとね。」
それぞれの理由でニコッと笑う2人。だが、そんな2人をからかうかのような声がどこからともなく聞こえてきた。
「おいおい、碇のヤツ正気か?あんなブスと弁当食ってるぜ。」
「マジかよ。うわっ、本当だ。」
「よく弁当食えるよな。俺だったら吐いてるぜ?」
「ハハハッ、お前そりゃあ言い過ぎだよ。」
「おっと、そうだった。シンデレラ壌に悪いな。」
「ハハハハッ!」
ボソボソと聞こえて来るその声に、シンジは顔をしかめる。
「惣流さん、気にしないでいいからね・・・。」
「ああ、大丈夫よ。全然気にもならないから。」
「あの・・・ごめんね。」
「ちょっと、なんであんたが謝んの?」
「いや、だって、その・・・」
「ふふっ、分かってるわよ。」
「ごめんね・・・。」
ホント・・・優しいのね・・・。
悪口を言われているのに、なぜ平然としていられるのか分からなかったが、アスカにニッコリと微笑みかけられるとどこか安心感を覚えるシンジ。
「それよりさ、学校案内してよ。」
「うん、いいよ。」
丁度弁当も食べ終わり、時間もまだ20分ほど残っているので、早速2人は教室を後にした。そんな仲の良い2人の背中をクラスの生徒達が嘲笑して見送るが、明日にはその笑みが凍り付く事を、彼らはまだ知る由もない。
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廊下。
「じゃあまず、図書室に連れてってよ。」
「うん。行こうか。」
そう言ってシンジとアスカが図書館へ向かい始めるが、行き交う生徒達が揃って誹謗の言葉を投げかけて来た。
「うわっ。すっげぇ女。」
「碇ってああいうのが好みなのか。」
「ちょっと、見てよあの2人・・・。」
そんな言葉を浴びせられてシンジがキッと睨み付けるが、当のアスカはフンフンと鼻歌を歌っている。
「ねぇシンジ。いいわよ、気を遣わなくても。」
「でも・・・。」
「あんた、ホントに優しいね。」
「優しいとかじゃないよ。このくらい当然だよ・・・。」
「それがそうでもないのよねぇ〜。」
頭の後ろに両手を持ってきながら、自嘲するように笑むアスカだが、内心はシンジに大きな関心を寄せている。
「でも、僕はイヤなんだよ。こういうの。」
「悪いわねぇ。ま、明日までの辛抱だからさ。」
「明日まで?」
「そ、明日まで。」
「ふぅーん・・・。」
昼食の時もそうであったが、先ほどから「明日まで」を誇示するアスカ。意味がよく分からないシンジだったが、ひとまず相づちしておく。
「それより、あいつらの言ってた言葉、覚えといてね。」
「え、なんで?」
「いいからいいから。明日が面白くなるわよ。」
アスカがニヤッと得意げに笑うが、シンジにはこれまた意図が分からない。
「まぁ、一応、覚えとくよ。」
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しばらくして図書館に着いた2人。
「ここが図書室だよ。」
「へーぇ、結構立派じゃない。」
「惣流さんは本とかよく読むの?」
「あ、ちょっとシンジ。」
するとアスカがシンジの前に回り込み、腰に手を当てた姿勢でズイと寄って来る。
「惣流さんなんて、かたっくるしい呼び方やめてよ。」
「え、そう?」
「アスカでいいわ。」
「で、でも、恥ずかしいよ。」
「いいから呼びなさい!」
「わ、分かったよ・・・。」
そう言って呼吸を整え、ゴクリと唾を飲み込むシンジにアスカは吹き出してしまう。
「ふふっ、そんな緊張するような事でもないでしょ?」
「う、うん。そうだね、アスカ。」
「そう、それでよろしい。」
すると上機嫌になったアスカは、シンジの手を取って歩き出した。
「あっ、ちょ、アスカ!?」
「それよりさ、シンジはあたしの事、どう思う?」
「え、どうって・・・?」
「見たまんまよ。どう思ってんのかなって。」
「うん・・・・・綺麗、かな。」
「えぇ!?あたしの外見がぁ!?」
まさか、こんな自分のような容姿が好みなのかと、ぎょっとしたアスカが素っ頓狂な声を上げた。常人ならこのアスカの反応に違和感を覚える所だが、残念ながら鈍感なシンジは気付いてなさそうだ。
「え?外見?外見じゃないよ。」
「じゃあ、なにが綺麗なのよ。」
予想が外れてほっと胸を撫で下ろしたのも束の間。
「アスカだよ。」
「あ、あたし・・・?」
「そう。」
「へ、へーーぇ・・・」
やはり、シンジは「自分」を見てるのだと、アスカは頬を赤く染めながらに確信した。
「あたし」を見てくれたのって、あんただけよ・・・・・シンジ。
初めて「自分」を綺麗と言ってくれたシンジに、嬉しくて嬉しくてたまらないアスカ。まっ赤な顔で寄り添うと、微笑みながらシンジの顔を覗き込んでいる。
「ねぇ、シンジ・・・。」
「なに?」
「ご褒美に、あんたの願い事を叶えてあげる。」
「え?」
「ただし、あたしについての願い事だけね。」
「アスカについての、願い事?」
「そう、例えば、あたしのこの外見、どう思う?」
シンジの前に躍り出ると、スカートの両端をつまんで可愛らしく小首を傾げるアスカだったが、この容姿では可愛いという言葉は出てこないだろう。もっとも、本人もそれを承知の上でやっているのだが。
「う、うーーん・・・。」
それはシンジにとっても同じ事で、可愛いと言えば嘘になるし、だからと言って逆を言うのも気が引けてしまう。
ふふっ、ホントに優しいんだから。
返答に困り果て、真顔で考え込んでいるシンジに、アスカが助け船を出してやる。
「もっと可愛い方が、イイでしょ?」
「う、うん・・・。もうちょっと、可愛い方が、いいかな・・・。」
「えーーー?もうちょっと、でいいの?」
遠慮気味な答えに、アスカは満足しないようだ。
「う、うん。」
「まぁいいわ。叶えてあげるっ!」
「え?どうやって?」
「明日になれば、分かるわよ。」
「なにが分かるの?」
「あんたのお望み通り、もうちょっとだけ、可愛くなってあげるって事よ。」
もうちょっとと言う所を妙に強調して言うアスカだが、当のシンジは言っている事がさっぱり理解出来ない。自分を気遣ってくれているのかなと、軽く受け流す事にした。
「へぇ。じゃあ、明日を楽しみにしてるよ。」
「驚いて、ショック死しないでよ?」
「はははっ、覚悟しとくよ。」
「ふふっ、どーーだかねぇ。」
軽く受け流すシンジの明日の反応が、アスカは今から楽しみで仕方がない。
「でもアスカさ・・・。」
「なーに?」
「その、無理しなくても、いいから・・・。」
「・・・・・うん。ありがと。」
最後まで自分を気遣ってくれるシンジ。ここまで心配してくれるその気持ちの暖かさに、アスカは涙腺を緩ませるのであった。
・
・
・
アスカの家。
「たっだいまぁーーーーっ!!!」
まさか!?
いつになく威勢良く帰って来たアスカに、期待を膨らませた母キョウコは台所の作業を止めて玄関へと急いだ。
「おかえりアスカ!で、どうだった?学校どうっだった?」
ドキドキを抑えきれない様子が、キョウコの高ぶった声から分かるアスカだが、折角の結果をただで報告するのももったいないので、ちょっと悪戯してみようと、元気なく肩を落として俯いてみる。
「・・・やっぱり、また、ダメだったの・・・。」
思惑通り、急転直下、落胆の色を露わにするキョウコに、頃合いや良しと、アスカが一気に打ち明ける。
「うっそぉぉ〜〜!!見つけちゃったもんねぇぇ〜〜!!」
「えええぇぇーーーーーーーー!!!本当!?本当に!?」
キョウコは俯いていた顔をガバッと上げると、目を見開いてアスカに詰めより、その両肩を掴んで感情のままに揺さぶる。
「もう、最高の男よ!!」
「よかったぁぁぁーーーーーー!!!」
そう言って抱きつくキョウコは笑ってはいるものの、目からは涙が流れている。嬉し泣きというものだろう。
「アスカ・・・・・。本当に心配だったのよ?あんた、一生一人で過ごすんじゃないかって・・・。」
「あたしも、そうなるかと思ってたんだけどね・・・。やっと・・・・・やっと、大丈夫かなって。」
「良かったわよ・・・ホントに・・・良かった・・・・・。」
すでに涙声になってしまっているキョウコ。
「ありがとう、ママ・・・。」
母の背に手を回して抱きしめるアスカは、触れあうその体から、暖かいものが流れてくるのが分かった。
今まで心配かけてごめんね・・・、ママ・・・。
そして、しばらく抱き合っていた2人。
「ほら、アスカ。いつまでそんな格好してるの?いつもの可愛いアスカに戻りなさい。」
「うん!」
優しく微笑みながら、目を涙で赤くしたキョウコがそう言うと、アスカは満面の笑みで応える。
「ママもその人の事、聞きたいしね。」
「待ってて、すぐに着替えてくるから!」
アスカは階段をリズミカルに駆け上がると、自分の部屋へとスキップして入り、身鏡の前で立ち止まった。
「ふぅ、もう二度とこんな格好しなくて済むのね・・・。」
ありがとね。シンジ・・・。
鏡の自分に1回ニコッと笑うと、さっそく「着替え」に取りかかった。
まず、ビン底メガネと黒コンタクトを外し、黒髪のカツラも外して、中で束ねられていた蜂蜜色の髪を振りほどく。
バサッ
次に、顎の辺りに手の爪を立てると、顔に付けていた特殊メイクパックを勢いよく剥がす。名称は「D型ドブスマスク」。
バリバリッ
続けて、制服の下に着ていた特製寸胴腹巻きを外す。
ドサッ
そして最後に、改めて鏡に、ビシッとポーズを決めるアスカ。
「ふふふっ♪やっぱあたしは、可愛くなくっちゃね♪」
シンジのヤツ、どんな顔するかなぁ。ビックリしてくれるかなぁ・・・。
シンジの驚愕の顔が頭に浮かび、ぷぷぷっと吹き出すと同時に、さんざん自分をバカにしてくれた男子や女子の凍り付く顔を思い浮かべ、くっくっくっと含み笑いするのだった。
「アスカぁ〜〜〜〜?まだぁ〜〜〜?」
「はぁーーいっ!今行くぅ〜〜〜!」
リビングで待つ母の元へと向かうアスカ。そこには紛れもない、美少女の姿があった。
そしてこの翌日。
第3新東京市、第壱中学校は、審判の日を迎える事となる。
<後編へ>
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