また明日、また来週、いつかまた今度
自己欺瞞、自己嫌悪・・・
呆れるほど今までに繰り返してきた



バイト・オン
ザ・ブレット
Hiroki Maki
広木真紀




−圧殺の章−



15 Oak Hill Way NW7 Hamsted
GMTSat,22 July 2000 12:11 P.M.


7月22日午後12時11分
ハムステッド佐祐理の別荘1階大食堂
香里サイド


 ――翌日、ロンドン第2日目。当初の予定では、我々AMSのメンバーは早速ロンドンへ観光に繰り出し、初めての海外旅行を満喫する筈だった。夏休み中はこの国に滞在する予定であるわけだから別に慌てる必要はないのだけれど、何しろ私を含めてイングランドは全く初めてだというメンバーが殆ど。そんな人間に好奇心を抑えろと言うのが土台無理な話である。
 そんなわけで、私たちは前日の夜の内から見所満載のロンドンの町に思いを馳せ、見物ルートのプログラムに余念が無かったわけである。……わけであるのだが、その計画の全ては、朝1番に聞いた相沢君の「今日の昼、客が来ることになったから」という一言で、いきなり水泡に帰した。
 もちろん、観光計画を早速台無しにされた乙女たちが、この暴挙を黙って受け入れるわけが無い。だが、最初は栞を筆頭にブーブーと不平を垂れていた私たちであったものの、実際にその客人と顔を合わせる段に至って、それが観光どころの話ではないことに気付いた。
 たとえエリザベス女王がやってきたといっても、ここまで私たちが興奮することは無かっただろう。今、別荘1階の大食堂で私たちと向き合っている客人と言うのは、考えられ得る限り最高のビッグネームだった。少なくとも、私たちAMSにとっては。
「……んじゃ、紹介しよう」
 秋子さんと名雪をを除けば、唯一客人と私たちの両方に面識のある相沢君が、口を開いた。それと共に、私たちAMSの面々は、向かい合って立つ2人の男女に改めて視線を向ける。同様に、彼等も私たちを興味深そうに観察していた。
 どうしてだろう。ただそれだけのことだと言うのに、緊張で胸が高鳴ってきた。私としては非情に稀なケースだ。自分の過剰な反応に戸惑う。
「まず、こいつがナユキビッチ・イチゴスキー」
 相沢君は、眠ったまま立っている名雪の肩を軽く叩くと言った。
「うー。イチゴ好きだおー」目を横線にしたまま、名雪が微妙な反応を見せる。
「ふむ。名前から察するにロシア系か。ともあれ、よろしくなナユキビッチ君」
 私たちと向かい合う2人組みの内、男性の方が愛想良く笑う。彼の言葉は、完璧な日本語だった。
「あなた。その、名雪ちゃんよ」
「え。名雪? 誰だっけか」男性は、傍らの若い女性に訊き返す。
「秋子の1人娘よ。昔、祐一と良く遊んでいた」
「ああ!」女性の一言で、記憶が甦ったらしい。男性はポンと手を打って1つ頷いた。「おお、そう言えばそんな娘がいたな。秋ちゃんにも良く似てるし。思い出した、思い出した」
「……ったく。自分の姪の名前くらい覚えとけよな」相沢君は呆れ顔で肩を竦める。
「ま、いいや。続けるぜ。名雪の隣にいるのが、その親友のカオリビッチ・シオリスキーだ」
「おお、ロシア系の友達はやはりロシア系か。よろしく、シオリスキー君」
 再び男性の方は破顔し、私に手を差し伸べてきた。生身の方の右手である。無論、握手を求めているのだろう。私は躊躇うことなく、その手を握り返した。熱いくらいに温かく、そして大きくて力強い手だった。
「お会いできて光栄です。美坂香里、4分の1だけWASPの血は混じっていますが、生粋の日本人です」
「そう言えば、香里の父方のジイさんはアメリカ人だったとか言ってたな」
 相沢君が思い出したように呟く。以前、1度だけ話したことがあったけど、覚えてたのね。ちょっと意外だわ。
「で、その隣のちっこいのが、意外かもしれないが――」
 相沢君は、一瞬私と栞の胸部の間で視線を往復させてから言った。
「その妹であるシオリビッチ・アイススキーだ。信じられないことに1歳違いの、血の繋がった姉妹だ」

「その名前、全力で間違ってます! 祐一さん、いきなり嘘教えないで下さい。あと、その『意外かもしれないが』ってのは何を示してるんですか」
 栞は手を丸く握り締めて、それをバタバタと振りまわしながら叫ぶ。
「バニラアイスは確かに大好きですが、私は美坂栞です。祐一さんは嘘ばっかりです」
「ドラ息子が嘘しか言わないことは知ってるさ。よろしくな、シオリビッチ君」
 そう言って、男性はクシャクシャと栞の頭を撫でた。因みにその言葉からは、栞の言うことをちっとも理解していないことが窺える。この辺り、相沢君と性格がそっくりだ。
「えぅ〜。だから、違うって言ってるのに……」
 一瞬泣きそうな顔を見せるが、次の瞬間、栞はニッコリと天使のように笑った。
「まあ、この際なんでもいいです。お姉ちゃんだけ握手なんてズルイです。私にともして下さい!」
「いいぜ。ほら。しかも両手でガッチリとな」
 2人は両手で握手をし、ブンブンと元気良くシェイクした。
「おお〜。これが噂のロマンサーなんですね! 感激ですぅ」
 男性の左腕を見て、栞は興奮した様に言った。頬が紅く上気している。その左腕は、肘の下10cmあたりの所から、鈍い光を放つ黒い金属質の物に変わっていた。義手だ。
それも恐らく、手首や指の関節部がモーターで稼動する『筋電義手』と呼ばれる類のものだろう。現物を見るのは初めてだけど、電子工学の見地からこれは非情に興味深い。ペンチとドライバー片手に電子機器を弄るのが好きな人間ならきっと皆そう思うはずだ。
 私は失礼にならないように気を付けながら、それを観察した。多分、機能を重視しているんだと思う、最近の筋電義手が目指すような生身の手に外見を似せるというような細工はしていない。色が黒く、あからさまに金属質なのを見てもそれは明らかだ。
「本当に動くんですねえ。思ってたより大きいし。アニメなんかに出で来る巨大ロボットの手みたいです」
「そうかい? ま、確かに役に立つ腕だぜ。ちょっと重いのが難点だけどな」
 栞の言う様に、その筋電義手は常人の手より優に一回り以上大きい。手首より上の部分に関しては通常の2倍。両手を広げても掴み切れない太さだ。恐らく、あの部分にバッテリィと制御パネル、それにハードウェアが内蔵されているのだろう。
 関節は、超精度DCモーターで稼動させるんでしょうね、きっと。放熱はどうしてるのかしら。あと、黒く光る外装の金属。あれも気になるわね。見た限り素材が何であるか分からない。
 ただ、その義手が半端な人間が作れる代物じゃないことだけは分かった。あれは、職人――その世界に全てを掛けた本物のエキスパートでなければ開発できない、そういう類のものだ。
「凄いですねえ。これ、どういう仕組みになってるんですか?」
「おいおい。何も今からそんなに騒がなくったって、後で幾らでも時間取れるよ」
 黒い義手を握り締めたまま、目をキラキラさせて言い募る栞に、相沢君は苦笑しながら言った。
「まだ全員の紹介も終わってないし。質問タイムはそれからにしな、栞」
「祐一の言う通りよ。今日は昼食をご馳走させていただけるという話らしいから、その時にゆっくりお話しましょう」
 優しく言い諭すように、義手の男性の傍らに立つ女性が言った。
 光の加減によっては青味がかって見える長い黒髪と、口元に湛えられた穏やかな微笑。名雪の母親、水瀬秋子さんにとても良く似ている。一卵性双生児だと言われても、私は驚かない。

「じゃ、そういうわけで続きだ。こっちの2人は、オレの先輩の大学生。サユリビッチ・マイガスキー嬢と、その親友カワスミンチ・ケモノスキー」
「……祐一、違う」ポコっと川澄先輩のチョップが、相沢君の後頭部に炸裂する。
「あはは〜。私は、倉田佐祐理と言います。こっちは親友の舞です。今日はようこそ御出で下さいました。佐祐理は歓迎しますよ〜」
「2人は仲が良いのね」先程の女性は柔らかに微笑んだ。
「で、そこのオバさんくさいのが、ミシオビッチ・キツネスキー。趣味はゲートボール」
「相も変わらず失礼ですね。物腰が上品くらいは言えないのですか、相沢さん。それから、勝手に人の趣味を設定しないで下さい」
 天野さんはギロリと相沢君を睨み付けると、向かい合う男女に視線を戻した。
「お初にお目に掛かります。天野美汐と申します。相沢さんとは同じ学舎で学ぶ――」
「な、オバさんくさいだろ?」天野さんの言葉を奪って、相沢君は嬉しそうに言った。
「このパターンでいくと、相沢君のファミリィ・ネームはさしずめ『オンナスキー』よね」
 苛められる天野さんを助けるため、横から言ってやる。何人も女の子を侍らせてるんだから、間違いじゃないわよね。それに相沢君って割とエッチだし。 と言うより、青年期の男の子なんて、みんな女好きに決まってるわ。エロガッパよ。
「おんな〜、おんなが欲しい! 女体よいずこ〜」
 ホラね、やっぱり。案の定、相沢君は鼻の下を伸ばしながら己の欲望をスパークさせる。
 が、直ぐに我に返った。
「……って、オレは盛りのついたハーレムのトドか!」
「遊ばれてるな、祐一」
 義手の男性は、相沢君の醜態を見て豪快に笑ってみせた。
「ドラ息子がこんな調子だから、自己紹介だ。オレは、相沢芳樹。この腐れ外道のバカ息子、相沢祐一の実の父親だ。不本意ながらな。UKでは、ワイズロマンサーって名前で知れてる。オレはロックバンドをやってるんだが、そのバンドの名前なんだ。今夜、近くでライヴやるから見に来こいよ。楽しいぜ」
 そう言うと、ワイズロマンサーは少年のような笑みを見せた。なるほど、相沢君そっくりの笑顔だ。いや、雰囲気から容姿まで、この親子は良く似ている。
 相沢芳樹。ワイズロマンサーと呼ばれる、黒手こくしゅの男。確かに、一見しただけで相沢君の父親であることは歴然としていた。
 年の頃は、どうだろう。家族構成を考えれば40を超えていてもおかしくないのだが、それにしては若々しくてエネルギッシュだ。30前後にしか見えない。
 そして最大の特徴は、やはり、息子と同様、人を惹き付ける不思議な力を持っていることたろう。一種のカリスマ性とでも言おうか。言葉にするのは難しいけれど、とにかく彼には不思議な魅力を感じた。
「隣にいるのはオレの相棒。相沢夏夜子だ。夏の夜の子と書いて、カヨコ。そこにいる秋ちゃんの姉貴で、オレのドラ息子の実の母親でもある。バンドじゃ、メインギターをやってる大事なメンバーだ」
 ポンと傍らの小柄な女性の背を叩きながら、相沢君のお父さんは言った。
「皆さん、宜しくね」紹介を受けた女性は嫣然と微笑む。
 サラサラとした綺麗なストレートの黒髪は、名雪とそっくり。癖っ毛の私から見ると、なんとも羨ましい美しさだ。腰までゆったりと流れるそれは、艶やかな光を放って本当に綺麗だった。今は向かい合っているから良く分からないけれど、きっと背後から見たら嘆息してしまうほど見事な眺めとなるだろう。
 顔は、何度も言うように秋子さんと殆ど同じ。見るからに優しく温厚そうな顔立ちで、口元には柔らかな微笑が絶えず湛えられている。驚異的な若さを維持しているのも同様で、実年齢が幾つなのかは知らないが、どう考えても相沢君の歳の離れたお姉さんくらいにしか見えない。20代で充分通じるだろう。

「姉さん、お久しぶり」
「あら、秋子。本当、随分と懐かしい感じがするわね。会えて嬉しいわ」
 双子のようにそっくりな姉妹は、軽く抱擁を交わした。
「祐一がお世話になってるわ。どう、元気にしていた?」
「ええ。名雪も喜んでいるし、とても助かっているわ」
「--よっ、秋ちゃん。良く来たな」相沢氏も軽く手を上げて、秋子さんに笑いかけた。
「芳樹さん。相変わらずお元気そうですね」
「当然さ。元気でなくなる理由なんかない」
 どうやら、秋子さんと相沢氏は結構打ち解けた仲らしい。相沢氏にとって秋子さんは義理の妹になるわけだけど、それだけの関係なのだろうか。もっと、こう、旧知の仲といったような雰囲気があるけど。
「祐一さんのご両親と秋子さんとは、随分と仲が良いんですね」
 栞も私同様の疑問を抱いたらしい。私より積極的で社交的な彼女は、実際に口に出してそう問うた。
「秋ちゃんと、その死んだ相棒と、オレの3人は大学時代からの付合いさ。オレたちは親友だった。逆に、オレと夏夜子が出会ったのは偶然なんだ。だから、付合いの長さでは夏夜子とより秋ちゃんとの方が長かったりする」
 不思議なもんだな、と相沢氏は感慨深そうに付け加えた。
「そうだったんですか」栞は納得したように頷く。
「で、祐一。このお嬢ちゃんたちは、全部お前の女なのか?」
 相沢氏はAMSのメンバーをグルリと見回すと、唇の端を吊り上げて言った。
 お、おんな? オンナって、女よね。つまり、ミストレスと言うかなんと言うか。そういう意味なのかしら?
 あたしは……あたしは、違うわよね。ええ、違うわ。相沢君なんて興味無いもの。無いわ。
 大体私は、1人の男を他の女と共有するような趣味はない。ハーレムも側室も妾もゴメンよ。栞のことで精一杯だったから異性と付き合うことなんて今まで現実的に考え方ことすらなかったけど、仮に将来どこかの誰かとそういう関係になることがあれば、あたしは美坂香里ひとりだけを見てくれる人を選ぶだろう。
 だってそうだもの。好きだと言うのなら、あたしだけを見て欲しい。あたししか見ないで欲しい。そう願うことって別に不自然ではないと思う。人間には嫉妬や独占欲っていうものがあって、それは恋愛には必ず付いて回るものなんだから。
「さあね。それも面白いかもしれないけど、まだ括り方は考えてないよ」
 皆の注目を受ける中、相沢君は苦笑しながらそう答えた。
「みんな、良い友達さ。オレたちはパーティなんだ。そりゃ、いつかはそういう決着の付け方もしなくちゃならないかも知れないが、今はまだその時じゃない」
「そうか」相沢氏は満足そうに頷いた。「まあ、人間関係に決まった形式なんてないからな。それがどんなもんであれ、お前にとって最上の選択だと思うなら、好きにやるが良いさ。オレは何も言うつもりはない」
「――そうね」夏夜子さんも、嫣然と微笑みながら頷いた。
「ただな、祐一。人とは違った自分だけのやり方で生きていくってのは、それ相応にシンドイもんだぜ」
「ああ、分かってる……つもりではいる」
 相沢君は苦笑しながら、でも目は真剣なまま頷いた。
 ま、確かに色々あったものね。名雪と同居しているせいで生徒会に睨まれたり。あたし自身も、相沢君と付き合うようになってから、抱える厄介事を等比級数的に増大させているような気がするし。
 国際的な窃盗団と戦わされるは、殺人事件には巻き込まれるはでロクなことがない。そりゃ、刺激的で退屈はしないし、ある程度の危険は人生にメリハリをつける。でも、危険過ぎるのもちょっとね?
「そう言えば、芳樹さんも大学時代は、祐一さんみたいに色んな女性に人気でしたね」
 秋子さんはニッコリと微笑んで言った。大学時代からの知り合いだったという話だから、その時のことを思い出しているのかもしれない。
「いえ、祐一さんの倍は凄かったかしら……。同性からの信頼もあったみたいだし」
「フッ。それはつまり、オレは祐一の倍は格好良いってことだな。本当に良い男ってのは、男からみても格好良く見えるもんだ。女にモテるだけで一流気取ってるやつは所詮オレには及ばないってことだな」
 相沢氏はキッパリとそう言い切った。……呆れるほど凄い自信。
「けっ。言ってろよ、バカ親父」相沢君は、憎まれ口と共に笑い飛ばした。「それよりライヴの準備は良いのか? リハとか色々あるんだろう」
「そのことなんだけど……」夏夜子さんは思い出したように言った。
「お昼を食べてから、ちょっと祐一を借りたいんだけれど。構わないかしら?」
「えっ?」少し躊躇したが、誰も答えなかったので私が代表して言う。 「それは、相沢君さえ良ければ構いませんけど」
「じゃあ、決定だ」相沢氏は言った。「そうと決まれば、メシだ。メシ。ランチタイムと洒落こもうぜ」









15 Oak Hill Way NW7 Hamsted
Sat,22 July 2000 12:34 P.M.


7月22日 午後12時34分
ハムステッド 佐祐理の別荘 1階大食堂
香里サイド


 ロックバンド・ワイズロマンサーを迎えての昼食は、和やかに豪勢に行われていた。1階大食堂の長テーブルの上には、皆で腕を振るって用意した料理が所狭しと並べられている。和洋折衷と見事に統一性がないが、私たち日本人の口にも合うメニューに富んでいた。
「で、ドラ息子。お前、この先どうするつもりなんだ?」
 オニオンスープを些か品格にかける手付きで掬いながら、相沢氏は言った。勿論、この場合のドラ息子とは相沢祐一を指すのだろう。
「この先ってのは、どの先だよ」
「お前、確か今高校3年だったろう。留年ダブらなきゃ、今年で卒業だろうが。その後の進路ってやつだよ」
「はっ、これは珍しい。親父が普通の親っぽいこと言ってやがる」
 この親子はいつもこうなのだろうか。口を開くそばから悪態を吐き合っている。
「ま、一応大学進学を考えているわけなんだが」
 そう言えば、相沢君の進路希望を聞いたことなどない。大学に進学するとしても、彼はどこを志望しているのだろう。気にならないと言えば――嘘になる。
「あ、そう。大学ね。良いんじゃねえの。でも、金は自分で出せよ」
「えっ?」父親の何気ないその一言に、相沢君は勢い良く顔を上げた。
「当たり前だろう? 高校卒業って言ったら、もう18だぜ。18」
「いや、しかしだな……」
「はぁ」相沢氏はスプーンを置くと、溜息を吐きながら頭を振った。「スウェーデンに連れていったことあったな。向こうじゃ、何歳になると子供は独り立ちしていた?」
「じゅ、18」相沢君は気圧されたように呟く。
 そう言えば、スウェーデンでは18歳を過ぎると子供はほぼ100%家を出ると聞く。その歳になっても親との同居を続けていれば、ちょっと精神的に問題があるのではないかと疑われても仕方がないらしい。まあ、それもこれも日本より数世紀分は進んだ大人の文化と、大きな政府による完全雇用政策あってのものなんでしょうけど。
「東南アジアなんかじゃ、子供が親を食わすのが当然だっただろう。5歳の子供が、親を食わすために路上で働いてる。お前も見てきた筈だ。日本とアメリカくらいだぞ。意味もなく大学行って、学歴がどうとか言ってるのは」
「だって、オレ、日本人じゃん」
「祐一、自分も納得させられないような言い訳はやめとけ」相沢氏はキッパリと言った。
「大体、大学なんて必要以上に勉強したいっていう酔狂で行くようなところだろ。なんでオレがお前の酔狂のために高い金ださなきゃならないんだ。手前の酔狂には、手前で金出せよ」
「しかしなぁ」
「――とにかくだ、お前はもう自分の面倒は自分で見られる年齢に達してる。後は、自分で生きろ。本来なら家から追い出されるところを家賃無しで住まわせてもらってる上、ただでメシまで食わせてもらってるんだ。学費くらい自分で工面するのは当然だろ? どうせ、志も無く適当に進学を決めただけだろうし」
「うーむ。いきなりそんなこと言われてもなあ……」
 確かに、相沢氏の言葉はある意味で正しいのかもしれないし、それが相沢家の教育方針なのかもしれないが、いきなり『金は出さない』と言われたら私でも困ると思う。
 まあ、私なら特待生ということで学費を免除してくれる大学も探せると思うけど、それにしたって話が急過ぎる。

「あはは〜、でしたら佐祐理がお力になれるかもしれませんよーっ」
 ホストとして上座に就いている倉田先輩が、にこやかに口を開いた。
「奨学金という手もありますが、大学の学費くらいなら佐祐理が助けになれると思います」
「ん、なんだ?」相沢氏は少し驚いたように、息子と倉田先輩の顔を交互に見回している。「この嬢ちゃんは、お前のスポンサーなのか?」
「はい。佐祐理は、祐一さんのスポンサーですよ」
「えっ、そうだったの?」
 あっさりとその事実を肯定する倉田先輩に、相沢君当人が驚いている。でも確かに、この旅行にしたって旅費は全部倉田先輩が持ってくれているし、AMSの活動資金は全部彼女の懐から出ているのは事実よね。私たちのスポンサーという表現も決して大袈裟ではないだろう。
 気になって調べてみたのだが、やはり彼女は富豪だった。名義は全て代理人のものになっているが、建築および土木工事を一括して請け負う総合建設業――つまり俗に言うゼネコン――を彼女は運営していて、そこの事実上のCEOとして活躍しているようだ。地元の開発に関する事業は、そのほとんどが倉田家を介して行われていると言って過言ではない。父親が地元出身の代議士ということもあり、仕事のクチに困ることもないんでしょうね。
 元々、私たちの街は倉田派が推進していた新種の地域誘導型政策の一環、『新世紀型未来都市計画』のモデル都市として興された、極めて特異性の高い街。住人も、首都圏から送りこまれた技術者とその家族や親類を主としている。北の辺境のくせに妙に近未来的な設備が整っていたり、情報通信分野が発達していたりするのはそのため。私たちの言語に土地の方言が混じっていないのも、元はそこに起因している。
 まあ、そんなこんなで、モデル都市として開発計画は年中推進されているわけだから、彼女の事業はかなりの成功を収めている。最近進められているらしい開発計画の概要を辿ってみても、かなりのセンスを窺えるしね。TUTを街に呼びこんだのもそのプロジェクトの一環と考えれば、倉田一派の才は相当のものだ。そんな倉田の彼女なら、相沢君ひとりの学費程度など全く問題にならない出費だろうけど……。
「倉田さんだったかしら。いいの、祐一のために?」
 夏夜子さん――秋子さんに良く似た相沢夫人は言った。
 なんか、この『相沢夫人』って微妙に良い響きよね。この場にいる女の子は、その過半数がこの呼称をいずれは我が物にせんと狙っているに違いないわ。
「佐祐理は構いませんよ〜。祐一さんがどこの大学に進学されるつもりなのかは分かりませんが、国立でも私立でも、お好きなところに行ってもらえれば。佐祐理のお金は、こういう時のためにあるわけですし」
「でも、佐祐理さん。流石にそこまでしてもらうわけには……」
 アナコンダよりもず太い神経をしている相沢君にとっても、それは気の引ける話のようだった。それもそうだろう。学費まで負担してもらっては、殆ど『ヒモ』だもの。
 勿論、この場合のヒモっていうのは、ホタテガイやアカガイなんかの外套膜のことじゃなくて、女を働かせて金銭をみつがせている情夫のこと。まさに、相沢君のような鬼畜のことよね。
「いいんですよ〜。できれば、祐一さんには佐祐理や舞と同じ大学に進学していただいて、また一緒に同じ時間を過ごせたらなーとか思ってましたし」
「祐一もTUTにくる」
 どうやら川澄先輩も、相沢君とのキャンパスライフを心待ちにしているようだ。
「そういうことですので、お金のことは気にせず祐一さんは自分の好きな道を選んで下さい。そのお手伝いができるのは、佐祐理にとってとても幸せなことですから」
「うーむ。オレは今、男としてたまらなく甘い言葉をかけてもらっているような気がする」
 相沢君はだらしなく顔を弛緩させながら、嬉しそうに呟く。
 まったく。これだから男って嫌いなのよね。ちょっと綺麗な女性に持ち上げられただけで、すぐにこれだもの。何を考えているのやら。

 ――でも、相沢君が倉田先輩のいる『東北技術科学大学』に進学するっていうのは、私にとっても悪くない選択肢かも知れない。東北技術科学大学、通称TUTは、私が進路の1つとして考えている国立大学。思いきり理系っぽい名前の大学の癖に、文系の学部も充実しているし、講義も斬新で面白いと聞く。何より、県内にあるというのが嬉しい。
 多分、学部はバラバラになるだろうけど、それでもまた相沢君や先輩達と同じ学校で時間を共有できるというのは願ってもいないことだ。彼等と一緒にいるのは、とても楽しいし。
 私の頭の中では、早速シミュレートが始まっていた。相沢君の偏差値は、確か50前後。TUTの合格ボーダーラインが、64。今が7月末だから、センター試験までは6ヵ月。この期間内に、彼の偏差値を15程度上げてTUT合格に導くことができるだろうか?
 不可能じゃない。全くのシロウトだった人間が、毎日12時間の勉強を2年半継続して司法試験に合格した例もある。
 合理性を徹底追求すれば、なんとかなるかも。半年の間、放課後から夜遅くまで、毎日6時間程度を貰って私が彼の自宅学習をプロデュースすれば、可能性はある。まず、簡単な心理テストと学力検査で彼の思考形態と穴を見極めて、それに沿ったプロトコルを作成し、TUTの傾向を加味した知識を叩きこんでいけば……
 天野さんにも協力を仰ごうかしら。彼女は、こういう遊びが好きそうだ。いや、絶対好きに違いない。それに、やる気にさせるために、「偏差値を上げたら、Hなことを少しだけさせてあげる」とか言って騙してやれば、エロガッパな相沢君のことだから鼻息荒くして頑張るに決まってるわ。
「――フッ。我に勝算あり、ね」
「えっ、何か言いましたか。お姉ちゃん?」
 独り言を聞きつけられてしまったのか、隣に座ってご馳走を頬張っていた栞が、可愛らしく首を傾げて私を見上げてくる。
「ほっぺにミートソースが付いてるって言ったのよ。じっとしてて。とってあげるから」
 手近にあったナプキンで、栞の頬を拭ってやる。彼女の頬は、赤ちゃんのようにとても柔らかかった。
「はい、OKよ。ご馳走は逃げないから、落ち着いて食べなさい」
「ありがとう、お姉ちゃん」
 栞はにこーっと笑う。天使のような汚れない笑顔。私には絶対にない、この子だけの愛らしさ。この笑顔を取り戻してくれたのは、相沢君だったわね。
 私の欲望もあるけど、彼のためにも何か力になれたら嬉しい。彼がもし望んでくれたのなら、大学合格のために全力で彼をサポートしよう。そう改めて思う。

「それで――姉さんたち、最近はどうしていたの?」
 相沢夫妻のほぼ向かいに座っている秋子さんが言った。改めて見比べてみると、やはり秋子さんと夏夜子さんは良く似ている。秋子さんが三つ編みで、夏夜子さんがストレートのロングヘア。これが識別点になっていなかったら、まず見分けがつかないだろう。
「相変わらずよ。秋子に祐一を預けてから直ぐに東ヨーロッパへツアーに行ったわ。バルカン半島とか。最近はお客さんが集まるようになったから遠くまでいけるのよ」
「えっ、バルカン半島って戦争してなかったっけ?」
 名雪が意外な知識を披露する。いや、高校生――それも受験生なら知っていて当然の知識かもしれないが、名雪には『当然』とか『常識』とかいう概念は尽く適応されない。そのことは、彼女との数年に及ぶ付合いの中で、イヤと言うほど実感を伴って認識させられていた。
「おお、ところによってはまだアホらしい内戦とかやってたぜ」
 相沢氏は昨日の天気を語るように、あっけらかんと言う。
「だから戦場でギグかましてやろうと思ったんだが、おしいところで軍に止められた」
「当たり前だ」相沢君が呆れ顔で突っ込む。
「でも、NATO軍の駐屯地でやったギグは盛り上がったぜ。あっちには娯楽が無いみたいでな」
「そのギグ(ライヴ)のことなんですが、確か今夜もやるというような話を先程されていましたよね」
 栞を挟んで私の反対側に座っている天野さんが、遠慮がちに口を開いた。
「興味深い話です。是非、詳しいことを聞かせていただきたいのですが」
「ああ、やるぜ。キツネスキー君」
「天野美汐です」
「OK。じゃ、親しみを込めてミッシーでいいか?」
「お願いですから、それだけはやめて下さい」
 さすが親子。この辺り、相沢君と全く同じ発想だ。容姿と言い、性格と言い、相沢君は父親の影響を色濃く受け継いだようね。芳樹と祐一。頭文字から言うと、Yの遺伝子ってところかしら?
「ま、呼び名はともかくだ。ハイゲートのザ・フォーラムっていう結構名の知れたライヴハウスで演るんだ。こっからだと、健脚の持ち主なら歩いてだって行けない距離じゃない。みんな、見に来てくれよな」
 相沢氏はそこで言葉を切ると、隣の夏夜子さんに視線を向ける。
「チケット、あったよな。関係者用の」
「ええ。バンに置いてあるから、後でみんなに渡すわ。ちゃんと全員分あるから心配しないで」
「そうか。――まあ、チケットなんざ無ければ無いで、無理矢理にでも入れてやるけどな」
 そう言って、相沢氏は豪快に笑う。
「最近、オレたちのライヴのチケットって瞬殺されちまうんだよな。Time Out(日本でいう『ぴあ』)でも即日完売とか言ってたし。会場のボックス・オフィスの前にゃ、徹夜で並ばないと買えないとか聞いたぜ」
「景気の良い話じゃんよ」相沢君は紅茶のカップを傾けながら言った。
「バカ言え、なにが景気だ」ワイズロマンサーは憮然とした様子で言う。「また、オレたちをどっかのアイドルと勘違いした流行追いのミーハー馬鹿が集まってきてるんだよ。で、本当にオレたちのギグで燃えたい奴が、そいつらに邪魔されて来られねえんだ。冗談じゃねえよ。
Wembley Stadium and Arenaでなんか、絶対らねえからな」
「うぐぅ。でも、ボク、コンサートって初めてだから楽しみだよ」
「うんうん、私も初めてだよー。楽しみだね。どんな感じかな」
 あゆちゃんや名雪だけでなく、多分、相沢君以外の全員がロックバンドのライヴ・コンサートなんて初めてだろう。私もクラシックやオーケストラのコンサートなら行った事があるけど、ロックのライヴは経験が無い。一体どんな雰囲気なのか、想像もつかないくらいだ。ときどきTVで流れるコンサートの映像を見る機会があるが、やはりあんな感じなのだろうか。


 ――キングサイズのベッドよりも大きな食卓から粗方の料理が無くなった時、相沢夫妻は「ライヴの準備がある」と席を立った。
 ライヴの準備って、どんなことするのかしら。楽器の音合わせとか?
 そう言えば、良く歌手がコンサート前にリハーサルを行うという話を聞いたことがある。それも含めて、色々な用意があるんでしょうね、きっと。会場のセッティングなんかもあるだろうし。
「今夜、22時からだ。フォーラムで会おう。燃えるぜ」
 玄関まで見送りに出た私たちに、相沢氏は爽快な笑みを投げかけた。彼の肩越しに見える門の傍に、『Y'sromancer』と大きくペイントされた白いヴァンが止まっているのが見える。あれが、彼等の足なのだろう。
「ハイゲートだったな。隣町だから直ぐ行けるぜ」
「なに言ってんだ、祐一。お前もオレたちと一緒に来るんだよ」
「は?」
 だが、相沢氏は反論の暇を与えず息子の腕を取り、そのまま有無を言わさず引っ張って行った。
「お、おい、親父、ちょっ……」
「じゃな、アキちゃん。待ってるぜ」
「はい。楽しみにしてます」黒い左手を振る相沢氏に、秋子さんは嫣然と微笑み返す。
「皆さんもお揃いで来てくださいね。きっと楽しんでもらえると思うわ」
 相沢夫人は私たちにそう言い残すと、夫と息子の後を追って歩み去っていった。
「ええっ! だって、オレはもう何年も……」
「……から、それは夏夜子がフォ……って」
「無茶言うな、オレが母さんとお……」
「ええい、ゴチャゴチャ言ってねえで、さっさと乗れい!」
 ヴァンに押し込み押し込まれながら、相沢親子が言い争っている。まあ、タイミングがタイミングだから、内容の予想はつくけど――。
 楽しみね。









GMT Sat,22 July 2000 12:34 P.M.

同日同時刻 上空1万メートル
財団特別輸送機 機内
財団サイド


「あら、メールが入ってるわ」
 膝の上でハンディ・タイプの小型端末を覗きこんでいた三十六手が呟いた。
 高度約1万メートルの上空。ここは、財団がチャーターした特別機の機内だ。一般の旅客機では、たとえファースト・クラスでも実現しないであろう、贅沢なゆとりを持った客席と内装が特徴的と言える。貸切であるため、機内には操縦士を除けば三十六手と砕破、それに俺の3人しかいない。もっとも、3人共ヘリコプターから戦闘機に至るまで一通りの操縦訓練を受けているため、パイロットがいなくても困ることは無いが。
「メール?」三十六手を挟んで、オレの反対側の席で眠っていた筈の砕破が、目を閉じたまま訊いた。
「うん。財団から」三十六手は無意味と分かっていても、微笑を見せながら頷く。
「――解読してみてくれ」オレは言った。
「OK、頓破ルンファー
 三十六手はやはり微笑しながら言ったが、砕破に向けていたそれとは何故か種類が違っているような気がした。
 改めて言うまでもないことだが、財団からの指令は特殊な回線を辿り、特殊な暗合処理を施された上で末端に届く。炙り出しの手紙が、火に近付けないと読めないように、暗号化されたメールも然るべき処置を施し、暗号を解かないと読むことができない。
「任務の変更、ですって」暫くすると、三十六手は言った。
「内容は?」と問うより一瞬早く、彼女はそれを読み上げ始めた。
「スコットランドに反財団武装グループ『Thuringwethil』潜伏、同組織によるチョコレイト・ハウス襲撃計画の情報あり。任務の優先順位を変更。……皇聖五歌仙は、スコットランドの支部を防衛。反財団派の武装集団『Thuringwethil』を殲滅せよ」
「ほう、スコットランドが」
 エンクィスト財団は決して歴史の表舞台にその姿を現す事の無い、暗部にのみ存在してきた組織だ。だが、そんな財団の存在を嗅ぎ付け、これに対立する敵対勢力もやはり存在する。その中でも最も恐るべきとされているのが、デス=リバース率いる反財団思想を掲げるレジスタンスだ。
その名を、Thuringwethilスリングウェシル
 デス=リバースは、ここ数年だけでも既に6つの財団関連施設を壊滅させている。そして、その施設で被験者として扱われていた能力者を解放してきた。
 これによって生じる問題は、大きく2つある。1つは、貴重な施設と蓄積された実験・研究データ、そして被験者(能力者)が失われること。もう1つは、デス=リバースに救われた能力者の中から、奴を崇拝し、その意思を継ごうというような連中が出てくることだ。その最も有名な例として常に挙げられるのが、ルード・ホークこと鷹山小次郎であることは言うまでも無い。
 とにかく、デス=リバースを慕い、被験者として自分を扱っていた財団に復讐しようという連中が、近年急増している。しかも奴らはチョコレイト・ハウスで訓練を受けていた能力者だからして、それなりに手強い。Thuringwethilは総帥デス=リバースのSSSランクを頂点に、幹部はAランクの能力者で固められているという。
 各国でこういった反財団勢力が拡大し、大きな問題となっていることは、俺たち末端のエージェントでも良く知るところだ。俺達が『AMS』とかいう小僧の集団を警戒するのも、マイ・カワスミの能力を恐れる故ではなく、奴らが荒鷹に導かれて反財団勢力と接触し、その活動に参加するようになることを危惧するからに他ならない。

「しかし――スコットランドの施設が狙われているという情報の信憑性は、この際問わないことにするとしても、荒鷹ルード・ホークがイングランドにいるというのは偶然か? 地理的に考えてあまりに近過ぎるが」
「少なくとも、上層部は偶然とは考えてないみたいね」三十六手は低い声で言った。
「指令状の続きにはこうあるわ。今回の反財団勢力に、A級不穏分子『ルードホーク』ことコジロウ・タカヤマ参入の可能性大。また、デス=リバースがUKに潜伏中との未確認情報あり。要注意のこと。
 デス=リバース参戦の際の対処については、マニュアルに従うこと」
「相手の戦力は、最大と見ておくことだ」砕破が目を閉じたまま言った。「不穏分子には、荒鷹とデス=リバースの両者が加わっていると仮定しておいたほうが良い。その上で、対策を考えることだな」
「……そうだな」
 砕破の指摘は正しい。こういう時は、相手の戦力を最大と見積もっておくのがセオリーだ。
「残念ね。折角、あのボウヤたちと決着がつけられそうだったのに」三十六手が肩を竦めて見せる。
「優先順位が変更されたに過ぎんさ」
 俺はスコッチのグラスを傾け、そして続けた。
「作戦そのものが中止されたわけでも、変更されたわけでもない。スコットランドの仕事を片付ければ、当初の任務に戻れる」
「それに、オレたちに与えられた指令は、元々アイザワやカワスミを抹殺することじゃない。それは連携を取る筈だった『サイバー・ドール』の仕事だ。オレたちは元から荒鷹を殺る手筈になっていた。あの女がスコットランドに来るというのなら、内容に事実上の変更はないことになる」
「そうね……。まあ、あのAMSのボウヤたちの始末はゼンマイ仕掛けのお人形さんたちに任せるとして、私たちは与えられた任務に集中しましょう。Rude hawkにDEATH=REBIRTHとなると、只事じゃないわ」
 確かに。三十六手の指摘は正しい。寧ろ任務の難易度は飛躍的に高まっている。それに、オレたちはフルメンバーではない。楼蘭が誇る最強の遊撃小隊『五歌仙』は、その名の通り5人の能力者からなる部隊だ。最強の砕破サイファ、紅一点の三十六手サンセイリュウ、そして俺こと頓破ルンファー、それから撃砕ゲキサイおよび転掌テンショウ
 ただ、我々は単独でも極めて高い能力を持つため、普通は余程のことが無い限り別の任務に就かされることが多い。今回も、撃砕と天掌は別行動だ。今度の任務では、それが痛い。だが――
「見えたわ。グレートブリテン島よ」






to be continued...
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