写真が・・あった

 

それは埃を被っていた

 

それには彼らのすべてが写っていた

 

悲しみしか無かったのかもしれない

 

絶望に泣いていたのかもしれない

 

だが、その写真の中には・・・・

 

すべてを包み込む笑みがあった

 

全てのヒトが微笑んでいた

 

そんな写真だった

 

 

僕らの還る場所

第八話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスカが退院してから三ヶ月程過ぎた頃、僕とアスカはどこか旅行に行く事にした。今では殆ど使われていない線路を走る鉄道を使って、時間を掛けずに、長い時間を揺られて何処かに行く事にした。故にまだ行き先など決めていない。

 

 何処に行くのだろうか・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明け方の病院には宿直室の明かりしか灯っていない。

 深夜、アスカの病室の扉が開く音が静かに廊下に、そしてアスカへと伝わった。

 

 アスカが不審に思って起き上がってみるとそこにはシンジがいた。

 

「シンジ、こんな時間にどうしたの?」

 

 シンジは泣いているのだろうか・・・・?

 

「アスカ、僕はもう、過去を終わらせたいんだ・・・・此処で・・・。」

 

 シンジの表情は微笑んでいたのだろうか・・・・?

 

 「な、突然どうしたの?シンジ・・・・」

 

 アスカには、突然のシンジの言葉の真意が判らずにいた。

 

 

 

 

 

〜Air〜

 

 

 

 

 

・・・・あの時の僕はいつだって泣いていたんだ、心の何処かで・・・・

 

・・・・そして誰よりも自分が嫌いで、独りで生きている振りをしながら求めていたんだ・・・・僕は・・・・

 

 

 

 

 

「僕はアスカを好きじゃないのかもしれない・・・・。」

 

・・・・アスカの事を愛せない・・・・

 

「ただ・・・・幸せになりたくて・・・、幸せになりたいから、愛する振りをしているだけなんだ!」

 

・・・・恐いんだ、君に敗けることが・・・・

 

・・・・敗けたくない!アスカには・・・・

 

・・・・アスカにだけは!アスカにだけは、敗けたくない・・・・

 

「僕は、誰よりも・・・誰よりも幸せになりたい・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シンジはアスカの前で泣き崩れた・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただ、自分に許しを乞う事すら出来ないんだ、だからこそ僕は君に・・・・・いや・・・僕が君に愛される理由は無い・・・・。」

「だから僕は君に向かい合う事も出来ず、逃げ出したんだ・・・君を、アスカを殺すときに・・・。」

「でも、今の僕には必要なんだ、君と、本当の僕の想いを向かい合わせる事が・・・。」

「僕が生まれ変わるためにも、君を愛する事にも・・・・。」

「そして、全ての過去を開放したい、そして全ての未来を受け止めたいんだ!」

「だから・・・・僕を・・・・」

 

 

 

 

 

〜まごころを、君に〜

 

 

 

 

 アスカは泣き崩れているシンジを抱きしめていた。

 だがアスカもシンジに抱きしめられていたのかもしれない。

 シンジの心に触れてしまった事で自分自身が逆に包み込まれていたのかもしれない。

 

 

 

 

 

・・・・残酷な人ね・・・・

 

・・・・自分ばかりを懺悔するばかりで、私の気持ちに気付くこともない・・・・

 

・・・・でも、この人は自分を愛したいんだ・・・・

 

・・・・皆が嫌いだから自分を許したいんだ・・・・

 

・・・・でも、恐いんだね、自らを否定するのは・・・・

 

・・・・そして、私に自分を重ねて許してあげたいんでしょ・・・・

 

・・・・ごめんね、でも私は貴方にはなれない・・・・

 

・・・・貴方がそれを望んでいる事も知ってる・・・・

 

・・・・でも、だめ・・・・

 

・・・・私も貴方と同じだから・・・・

 

・・・・自分が恐いから・・・・

 

・・・・だからこれ以上、自分から逃げるのは止めよう・・・・

 

・・・・未来を、私たちの未来を抱きしめてあげたいから・・・・

 

 

 

 

 

「シンジ、たとえ世界が・・・・この世の全てが貴方を否定しても私だけは信じてあげる・・・。」

「だから私も信じて、貴方が信じてくれるなら・・・貴方が居てくれるなら・・・私は・・・。」

「私だけは貴方を許すから、許して見せるから!!」

「だから・・・・私を・・・・。」

 

 

 

 

 

〜終わる世界、そして・・・〜

 

 

 

 

 

「やっぱり奇麗なとこだね・・・ここは・・・。」

「そうね・・・。」

「もう・・・何も無いね・・・。」

「・・・でも・・・淋しいけど、懐かしいわ・・・。」

「・・・うん、そうだね・・・。」

「ほんと、いろいろあったわね・・・此処では。嫌な事も、良い事も・・・。」

「ん?良い事なんか、あったけ?」

「あったわよ、色々と・・・ね。」

「・・・ふ〜ん、そう。」

 

 

 

 

 

「ねぇ、シンジ。どうして・・・・此処に来たの?」

「・・・・さぁ、どうしてなんだろうね・・・・僕にもよく判らないや・・・・。」

「そう。」

「・・・・でも・・・・もう一度見たかったのかもしれない・・・・。」

「見たいって、何?」

「この街の、全て・・・・、そしてこの街の・・・・未来・・・・。」

「・・・・シンジ・・・・。」

「ねぇアスカ、僕はこの街で全てを失ったのかな?それとも手に入れたのかな?」

「・・・・馬鹿ね・・・・手に入れたのよ・・・・きっと・・・・。」

 

 

 

 

〜Birth Cry in the World〜

 

 

 

 

 

僕を許して!

嘘でもいいから!

アスカ!

私を愛して!

嘘でもいいから!

シンジ!

おれは・・・・

あたしは・・・・

君を・・・・

あなたを・・・・

 

 

 独りにはしないから!!

だから・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜Reincarnation〜

 

 

 

 

 

埃を被った写真には全てが写っていた

 

その中の笑顔は嘘なのかもしれない

 

ただの幻なのかもしれない

 

 

 

 夢なのかもしれない

 

 

 

だが、その写真には全てが写っていた

 

彼らは誰よりも幸せを望み

 

誰よりも悲しみに溢れていた

 

自らを慰め合う事の夢中になりながらも

 

生きる事に絶望しながらも

 

そして泣きながらも

 

生きるために闘う姿だったのかもしれない

 

彼らの悲しみは、還るのだろうか

 

 

 

 

 

日の沈む事ない

永久(とわ)に続く白夜の様なの毎日の中で

安らかな眠りを

人に

未来に

託して・・・

 

 

悲しい夢しか写って無かったのかもしれない

だが、微笑んでいた

だから還って行く

乾いた喉を潤すための水を飲むために

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜僕らの還る場所〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界は終わらない

たとえ彼らが死んでも

ヒトが居なくなったとしても

大地が無くなったとしても

魂があるかぎり

世界は終わらない

そこにある奇跡の物語は終わりを告げたが

  

それでも

世界は終わらない

 

 

 

還る場所がある限り

そして、ヒトが生きた証がある限り

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

EVANGELION

これこそが、ヒトの起こした最期の奇跡

 

 

 

 

 

 

〜完〜

 

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