「ねぇ、アスカ。今日の晩御飯何にする?」
いつもの日常。平和な日々。そして・・・小さな幸せ。碇シンジはそんな日常をこよなく愛する一介の青年である。
「う〜ん、昨日はお肉だったから・・・・今日は魚にしたら?」
会話の中には柔らかな物腰の感じがする。惣流・アスカは支えられる事を、そして支える事のできる存在を見つける事ができた女性。
「魚か・・・じゃあ虹鱒か何かのムニエルなんてどう?確かこの時期はもうすぐ産卵が始まる時期だから脂が乗っているのが手に入るかも。最近、魚も海の物ばかりだから、たまには川魚なんてのもいいかも。どうかな?」
いつものよう自分たちのペースで話す二人。
過去の彼らとは違い、今は心すらも分かち合える事のできる二人がいる。この空間は二人の動きに合わせて、満ちたり、引いたりとしている。
「そうと決まったら早く買い物に行かなきゃね、早くしないと暗くなっちゃうよ、シンジ。」
「そうだね。それじゃ急いで用意しよう。アスカ。」
扉を開けると空は赤かった。
いま彼らの住んでいる新しいマンションは12階にある。
玄関から二人が出たとき、それは偶然だった。
この時間帯に、ここから見れる情景。
そして二人は見た。恐ろしいまでの夕焼けを。
心動かされ、忘れられないぐらいの衝撃。
生きている事。それを実感させられ、時間が生きているものと知らされる。
感じる事が出来る喜び、生かされているのではなく生きていると認められるぐらいの強くなれた二人は、過去の罪を認めそして、肯定しながらも生きていく事を望んだ・・・そう二人で。
そしてその事を今日、二人はこの夕日を見て改めて実感する。
あの戦いの日々と、その儀性は無駄ではなかったと。
「一生忘れない」シンジはアスカにそう言った。
「忘れられないね」アスカはシンジにそう返した。
魂たちは還っていく、止まる事のない悠久の時へと。
そして又、メヴィウスの輪のように繰り返される生と死。
それすらも超越する夕日の中に二人はいた。
二人は寄り添いながら、互いを支え合いながら坂道を歩く。
二人に言葉はない。いや言葉などは要らないのかもしれない、何故なら二人の想いはとても満たされていたから。
夕日が沈み、寂しくもあり恐くなるようなそんな気持ちが二人に溢れてきた時、暗いが晴れた深蒼の空の下、静かなそして冷たい空気の中。今は優しい月の光が二人を包み込んでいた。
あたかも二人の行く先を照らしているかの様にも感じられた。それは二人に与えられた至福の瞬間。