これは始まりの終わりなのか…?それとも終わりの始まりなのか…?
どうか、そうでありませんように
◆ ◆ 4(最終章) 願イ ◆ ◆
彼女にはっきりと「嫌い」と言わせたこと…あの事があれで良かったのか、そして彼女
に接する態度があれで良かったのか、今は良く分からなくなってしまった。
というよりも、何故あんな行動を取ったのか、良く分からないのだ。ただ、あの当時の
僕では、ああするしかなかったのだろう、と思う。というより、そう思わないとやってら
れないんだ。無論、これは僕の勝手な言い草に過ぎない。そんな事は重々承知の上だ。
僕は彼女を傷つけたんだ。この事実だけは何があっても拭えない。たとえ彼女が僕の事
をどう思っていたにしても、そんなことには関係ない。自分がとった行動は自分の内側に
責任がある。僕は、彼女がどうあろうと、どう言おうと、あの時の僕を許すことはできな
いし、許すべきでもないと思う。
あの頃の僕は異様なほどに他人の心を知りたがった。でもそれは別に人の為じゃ無い。
「要らない子供」じゃない事の証しが異様なまでに欲しかったから。人に好かれ、自分が
存在する事を許して欲しかったから。認めて欲しかったから。
涙が出るほどに、それが欲しかったから。
それを自分の周りの全ての人に求めていたのだろうか?自分を認めてくれない人が一人
でもいると、自分が居てはいけないのではないか、と不安になったのだろうか?
…そうかもしれない。なんて脆弱だったんだろう、僕は。
自分が生きて在る、ということの価値を知らなかった。
ただ在る、「それだけ」の事がどれだけの力を持っているか、知りもしなかった。
判断を他人に委ね。意志を他人に委ね。評価を他人に委ね。
自分の存在すら他人に委ね。
だけど一方で。
密かに自分の望む判断が。望む意志が。望む評価が欲しくて。
自分が、自分で望む存在であって欲しくて。
そこから外れた他人の判断が、意志が、評価が、心の中で許せなくて。
だけど、そんな事は表にはおくびにも出さず。
ただ、愛想笑いをしてごまかしてた僕。
だから、好き勝手に振る舞っていた彼女が。振る舞うことが出来た彼女が。
憎かった。傷つけたかった。壊したかった。ずたずたに。
羨ましかった。憧れてた。彼女のようになりたかった。
どっちが本心なのか。あるいはどっちも本心なのか?はたまたどちらも本心ではないの
彼女は僕をプールで揶揄(からか)った。
彼女の水着姿は眩しくて、それに動揺してる自分を見せたくなくて顔を逸らした。
だけど正直言えば、ホントはもう少し見たかったな。
…宇宙から敵が飛来した時。
僕と彼女ともう一人の少女の三人は丘の上で寝転びながら。
新緑のむせぶような匂いに包まれる中、なにともない話をした。
夜の風は僕らを優しく吹きぬけた…
─なぜ、あの時のあるがままを楽しめなかったのだろう
─なぜ、自分で壊したのだろう
だけど。
もしれない)があってから、僕と彼女はまったくうまくいかなくなった(当たり前だ)。
僕は、あの当時僕が望んでいた答えを彼女から引き出すことが出来たので、復活を遂げ
た事実によって作られた新しい真実
−「彼女は僕が嫌い」という真実− ごと、「彼女」の存在を僕の心の表面から葬り去った。
トランプゲームの「大貧民」で革命が起きた時のように、昨日まで最高の価値があった
ものは既に最低に成り下がっていた。
心の中にあった彼女の存在も、彼女の行動の記憶も、鋼鉄の箱に入れてどこか心の奥底
の方にしまいこみ、決してその蓋を開けようとはしなくなった。
僕は彼女を全くもって避けるようになった。彼女の幸せそうな顔など、見たくも無かっ
た。
彼女の方も、僕を切ったことで僕より遥かに深く痛手を負ったのであろう、僕に対して
殆ど口を利くこともなくなり、僕の前に姿を見せることすらほぼ皆無になった。
そんな関係の中で、僕らの心は悲鳴を上げ続け、我慢はついに限界に達した。
僕らは互いに距離を置くことになった。
任務が全て終了していないということは何の歯止めにもならなかった。
しかし、情けないことにそんな時でも積極的に動き出したのは彼女の方だった。彼女は
早々にマンションを離れ、何処かに移っていった。僕はと言えば、近ごろようやく上司の
マンションから余所に移る準備ができたに過ぎない。
別れた後、彼女からは何の連絡も来ていない。当然と言えば当然か。
もう会うことも無いだろう。
彼女は、僕の知らない場所で元気に暮らしているのだろうか。
僕の事はもう忘れただろうか。
できれば、彼女の為に忘れて欲しい。
最近僕は時々ある思いに悩まされる。
どうか、そうでありませんように。
【了】