エヴァクエ!

 

そのに

 

「アレクス!」

小さな密閉された牢獄に、トウジの声が反響してこだまする。地下にあるため、月の光も届くことは無い。あるのは天井に申し訳程度についているランプのみ。その奥、トウジとは鉄格子を隔てた向かい側に、一人の男がベッドの上で丸くなっていた。

鉄格子にかじりつくように詰め寄ると、中の人物にむかってもう一度声を掛けた。

「アレクス!わいや、トウジや。わかるか?」

がしかし、中の人物は怯えた瞳をこちらに向けるだけで何も言い返してはこない。

「アレクス・・・・」

トウジは愕然とするが、気を取り直してなるべく優しい声で語りかけた。

「すまんかったな、大きい声だして。お前さん、アレクスゆうんやろ?」

「うん。お兄ちゃん誰?」

(あかん・・・・・・、完全に忘れてまっとる。フレアさん・・・・。いや、約束したんや、知らせるって!)

「よし、もう遅いからな、今夜はもう寝や!ちょっと寝心地は悪いやろうけど。明日また来るから」

「・・・・うん。お休み」

始めは何だという顔だったが、トウジの目を見ているうちに安心したのか、素直に返事をする。ベッドに入り込むのを見ると、足音を立てないようゆっくりと階段を上がっていった。

 

すぐに校長の家に行き事情を話す。

「すんまへん、せっかくのご好意に」

「気にすることはないよ。早く知らせてやるといい」

「ナツミ、この埋め合わせは絶対するからな」

ナツミは首を横に振り軽く微笑む。

「いいよ、そんなの。たまに顔見せに来てくれれば。それよりも、早くフレアさんに知らせてあげないと」

「ああ、ほんとにすまんな」

校長の方に向き直る。

「すんまへん、ほんならナツミのことたのんますわ」

ドアを閉めて出て行く。その後ろ姿を見送って小さくため息をついた。

「もう、私の心配ばかりして。そんなんだから恋人の一人も出来ないのよ」

「でも、そんなお兄さんが大好きなんだろ?」

自分の呟きに返答が返ってくるとは思ってもいなかったので、少しビックリしながらも、頬をピンクに染めて頷いた。

「・・・・・・・・うん」

 

 

走る、走る、走る、走る、走る、走る。

今の彼の前には、ホイミスライムもキラースコップもみならいあくまも障害にすらならなかった。今だ夜明け前、今日は寝れないななんて思いつつ、あのじめじめした洞窟を抜ける。

後少し、ここからだと夜が明ける前に城につける、そんな目算をつけた。と、そこに出てくる一匹のバブルスライム。スライムの突然変異系で、固形を維持できなかったものである。トウジは一刻も早くという焦りと、相手が一匹だということから、油断していた。このモンスターの特性など、すでに頭になかった。

「邪魔やぁぁぁぁぁ!!」

銅の剣を一閃する。が、とかげの尻尾きりのように自分の一部を切り離し致命傷を免れる。反撃とばかりにトウジに襲い掛かった。

「クッ!」

体当たりをかましてくるバブルスライム。慌てて銅の剣でなぎ払う。さすがにこれをかわす事は出来ずに弾けとんだ。が、バブルスライムの一部だったものが、トウジの肌が露出している所、左手の甲にかかってしまった。焼けるような熱さが手の甲に走る。

「くぅぅぅぅっ!」

思わずうめきがもれた。バブルスライムはそれ自身が毒の塊のようなものであり、肌に直接つくと、そこから全身に毒が回ってしまうのである。

道具屋に貰った毒消しはすでに使ってしまっている。痛む左手を押さえると歯を食い縛り、まるで毒を無視するようにまた走り出した。

 

 

ドンドンドン、ドンドンドン!

そんな音で、フレアは心地よい夢の世界から現実へと引き戻された。

(今見ていた夢に、アレクスが出てきていたような・・・)

大抵、夢というものは覚めると内容をほとんど覚えていなかったりするものである。それが、たまに覚えているとそれが正夢になったり。

(まさか、ね)

そうは思いつつも、どこか心の片隅で期待してしまうフレア。誰が見ているわけでもないのに、その期待を絶対顔には出さないと心に決め、平静を装いドアの鍵をはずす。

ドアを開け、外を覗いても誰もいなかった。今はまだ夜が明けてからすぐ。夜露で葉っぱ達も綺麗に光っている。まだ外には誰も出ていない。こんな朝早くとも呼べないような時間に出てくる物好きは、まずいないだろう。

(こんな時間に・・・・・、いたずらかな)

と思い、ドアを閉めようとしたその時、左斜め下の方から声が。

「フレアさん・・・・」

突然の声に体を強張らせる。視界には入っていなかった。

トウジだった。が、いつもは血色の良い顔が、今は真っ青。おまけに荒い息。ただ疲れているだけではなさそうだとフレアの素人目にも分る。

「ト、トウジ様!いったいどうなさったんですか!?」

「ハアハァ・・・・ええか、落ち着いてよう聞き。アレクスを見つけた。イムルの村に居った」

フレアの顔色が変わる。

「そやけどな、記憶がのうなってまっとんねん。でもワイはフレアさんなら何とか出来るんやないか、と思っとる」

息を呑むのが見て取れる。

「どや、今から行くか?いくんやったらワイがイムルまで責任もって連れてったる」

フレアはしばし思案する。そして恐る恐る口を開く。

「でも、トウジ様、どう見たってお体が・・・・」

ワイのことは関係ない!・・・・・フレアさんがどうしたいかだけや」

「私は・・・・・」

戸惑う。もし自分がこの後に言葉を続けたら・・・・。がしかし、トウジはいった、自分がどうしたいか、と。

「私は、会いたいです。例えあの人に記憶がなくても、私は行ってあの人に会いたいです!」

目を逸らさずに、はっきりとそう告げた。

トウジはにんまりとすると、鞘を杖がわりにしてゆっくりと立ち上がる。

「よっしゃ、決まりやな。ほなさっそく出発するで。はよ着替えてきいや」

自分の格好を思い出したのか、慌てて家に引っ込むフレア。トウジはドアの横の壁にもたれかかり、荒い息をゆっくり落ち着かせようとする。

「もってくれよ、ワイの体」

そう自分に言い聞かせるように呟くと、気合を入れるため自分の頬を二回、両手で叩いた。

 

 

「きゃぁぁぁぁぁ!」

「フレアさん!くっ、こなくそぉぉぉぉ!!」

モグラのモンスター、キラースコップが3匹に、ホイミスライムが2匹。いつもなら、この数だ少しはてこずるだろうが、怖いものでもない。しかし、今はそうも行かない。言い方は少し悪いが、お荷物のフレアさんと、確実に体を蝕んでいくバブルスライムの毒という二つの枷がついているのだ。

「イムルまでもうちょいなんや!」

すでに洞窟を過ぎ、イムルまで目と鼻の先と言うところまで来ていた。

が、二つの枷の上、組み合わせが悪い。ホイミスライムは名前の通り、回復魔法のホイミを唱え、傷を癒してしまう。必然的に戦いは長引く。今のトウジとって、時間をかけるという事はすなわち、身を削っていくということである。

短期決戦に持ち込みたいのに、相手はそうはさせてくれない。表情にも焦りが出てくる。その焦りが小さなミスを生む。そのミスが重なり・・・・、

「きゃぁぁぁぁぁ!」

フレアにキラースコップのスコップが襲い掛かる。

「フレアさん!」

ホイミスライムを切り捨て向かうが、間に合わない。

と、その時、

メラ!

どこからか火炎魔法の呪文が聞こえた。フレアに襲い掛かってきたキラースコップが火だるまになり、すうっと空気に溶ける。

声がした方をみるとそこには、

「タリム!」

「よう、トウジ。苦戦してるみたいじゃないか。助太刀するぜ」

そう言って残りのホイミスライムに切りかかっていく。

「すまん、恩に着るわ」

 

タリムを加えたトウジ達に怖いものはない。さっきまでの苦戦が嘘のようにサクサクと倒すことが出来る。

最後のキラースコップをタリムが切り捨てるのを見ると、トウジはその場に崩れ落ちた。

「トウジ(様)!!」

駆け寄る2人。

うつぶせに倒れたまま、自嘲気味の笑みを浮かべた。

「すまんな、みっともないとこ見せて。タリム、悪いんやけど肩貸してくれへんか」

タリムの肩を借りて立ち上がる。が、顔色はさえない。それを見てタリムはすぐに思い当たった。

「おい!お前バブルスライムの毒にやられてるんじゃないのか!?」

「ワイの体なんてどおでもええねん。それよりもフレアさんを早いとこイムルに・・・」

「馬鹿かお前は!」

突然怒鳴りつけるタリム。

「馬鹿って・・・」

「何も分かってないんだな。お前が倒れたら、一緒について来たフレアさんはどうなる?モンスターの格好の餌食じゃないのか?お前は一人の命を預かっているんだ。それにな、お前が死んだら悲しむ人がいるだろ?ナツミちゃんが、校長先生が、城下町のみんなが。それを分かっていてのさっきの言葉なら、俺はお前を軽蔑する」

黙するトウジ。

「・・・・すまん、失言やった。取り消すわ」

「取り敢えず毒消し草のめ」

袋から毒消しを取り出し飲ませてやる。

「で、このままイムルに向かえば良いんだな」

「頼む」

「フレアさん、だったかな。すまないな、この馬鹿が危ない目にあわせてしまって」

思わぬ言葉に、心外だとばかりに反論する。

「そんな!トウジ様は私のために一生懸命・・・・」

フッと息を洩らす。微笑んだようだった。

「ああ、分かってるよ。すまなかった。・・・・トウジ、やっぱりお前が戦士長になって正解だったんだろうな。さ、イムルに向かおうか。時間が惜しいんだろ?」

 

 

「アレクス!」

鉄格子越しに感動の再開を果たす夫婦。

が、しかし、

「・・・おばちゃん、誰?」

「!アレクス・・・・。あなた、本当に覚えてないの?」

先程のトウジよりも青い顔である。

「ねぇアレクス、一緒に今度料理しようって言ったじゃない!デートにも、買い物にも付き合ってくれるって!子供も欲しいって・・・」

堪えきれず両目から涙がこぼれてしまう。

「おばちゃん、何で泣いてるの?何か悲しいことがあったの?」

たまらず声をかけるタリム。

「フレアさん、取り敢えずアレクスを連れて帰ってそれからでも」

「そうや、急いだってええ事なんかないで。ゆっくり時間を掛けて・・・」

涙を拭うフレア。

「・・・・もう、これしかないわ」

決意をした目だ。少しもじもじしながら、頬をピンクに染め振り返り、トウジとタリムを見る。

「あのぅ、少しの間後ろを向いててもらえませんか?」

2人には「?」マークが飛んでいる。

「ん?構わないけど」

「何でや?」

疑問を口にしつつも、言われたとおりにする二人。

「アレクス、こっちに来て」

「?うん」

おもむろに服を脱ぎだすフレア。

 

 

自主規制自主規制自主規制自主規制自主規制自主規制・・・・・・

 

 

「フレア!」

「あぁ、アレクス!思い出してくれたのね!」

いったいナニをして思い出したのか。それは秘密にしておきたいと思う。これは色々、大人の事情いうやつがあるのだ

これまた何故か前かがみになってる2人。声をかけるタイミングの事を、2人で牽制しあっていたりする。

「おい、どうするよ。お前から声かけろよ」

「ワイからか?けどなぁ、まだナニかしてたら・・・」

「でもこのままだと、色々あって俺ら動けないぜ」

「そやかて、後ろ振り向く勇気も、このまま前かがみで外出る勇気もないんや。まさに八方塞。おお、そや!タリム、戦士長になりたいゆうとったな。よし、ここでになったらお前にゆずったる」

「あっ、きたねー!そんなんなら俺ならなくても良い」

「遠慮すなや」

「あの〜・・・」

「「えっ」」

ゆっくりと振り向くと、もうナニもしてない様だ。

「あ、あの、トウジ様ありがとうございました」

何故か前かがみな二人を見、怪訝な顔をするも自分を救ってくれたことに変わりない。

「ワイよりもこいつや」

そういってタリムを前に出す。普通ならこの場面は感動的な場面になるのであろうが、何度も言うとおり、彼らは前かがみ。もう理由は問うまい。体よくタリムの後ろに隠れることが出来たトウジと、2人の視線を一身に浴び少し気まずいタリム。

「タリム様、妻の危ないところを助けていただいたそうで、本当にありがとうございました」

「いや、礼には及ばない」

「あのう、おニ人はこの村で起こっている事件について調べに来られたのですよね?」

事件と聞いてとたんに顔つきが変わる2人(が、相変わらず前かがみ)。

「何の関係もないのかもしれませんが、私が記憶を無くしているとき、子供たちととても仲良くなったんです。それで、この村のケン君から聞いたのですが・・・」

そろそろ直ってきたのか、だんだん前傾姿勢から直立になっていく。

「この村の東の森に、看板があるらしいんです。その看板から東に40歩南に40歩のところに秘密の遊び場があるって」

「秘密の遊び場?」

「ええ、そう言っていました。大人には秘密の遊び場らしくて。けれど、ケン君が言うには消えた子供たちは皆、そこで何かを持って帰ってきてたそうなんです」

「何かってなんや?」

「すみません。そこまではちょっと・・・」

とても落ち込んだ顔をするので、慌ててタリムがフォローをいれる。

「いやいや、とても参考になったよ。ありがとう」

「ほんと!わ〜い、よかったぁ」

・・・・どうやら完全には抜けきってはないようだ。

「それじゃ、ワイらは先に行きますわ」

「本当にありがとうございました。お礼の件、いつでも来てください。タリム様も、4人で。ご馳走を作ってお待ちしております」

「ああ、楽しみにしとるで」

深々と頭を下げる夫婦を残し、戦士2人は階段を上がっていった。

 

「で、タリムはなんであんなとこにおったんや?」

素朴な疑問を口にする。

「もちろん失踪事件についてだ。トウジは秘密の遊び場を当るのか?」

「ああ、いまんとこワイはそこの情報くらいしかもってへんからな」

「じゃあ、ここでお別れだ。俺はちょっと気にかかるところがあるんでな」

「おい、もうすぐ日が暮れるで。どや、ナツミのやつにあっていかんか?お前が来ればあいつも喜ぶとおもうんや。久しぶりに一緒に飯でも・・・・」

「せっかくのお誘いなんだが、今回はパスさせてもらうよ」

「そうか。ほな、次は逃がさへんからな」

「ああ、次は必ず」

沈む夕日と一緒に消えていくタリム。その姿はまるで全身から血を流しているように見えた。ぞっとして、その妄想を振り払うトウジ。彼も校長の家に向かおうとしたのだが、さっきの光景が頭にこべりつき、もう一度振り返り、姿の見えなくなったタリムを探す。

今日の夕日は、何故か泣いているように見えた。

 

 

丸一日の間、まともなものを食べていなかったトウジは、そりゃもう食べる食べる。親の仇といわんばかりの目つきで食べ物を睨むと、一気に口の中に放り込む。

「トウジ、そんなに急がなくったって、夕飯は逃げないよ」

「いや、わからへんで。もしかしたらこの鳥の丸焼き、急に二本足で逃げてくかもしれん。その前に食ってまわんと」

「ほんとに馬鹿だな・・・・」

ちなみに、何故兄のトウジは似非関西弁なのに妹のナツミは標準語なのかと言えば、そう言えば何でだろ?

「いや〜食った食った。ごっつぉさん!」

「トウジ親父臭〜い!『し〜は〜し〜は〜』っていいながら、爪楊枝加えるの止めて〜!」

「ええやないか、別にお前に迷惑掛けてるわけやあれへんのやし」

困った顔をするナツミ。

「そりゃそうだけど。あっ、だったらそのだっさいジャージ止めて」

「ジャージを馬鹿にすな!」

「あっ、怒った〜♪ジャージ馬鹿がだっさいだっさいジャージ貶されて怒った〜♪」

「お前、ださいを二回ゆうたやろ今!こら、訂正せい!」

トウジは至極まじめなのだが、ナツミのほうはそうでもない。唯一の肉親、それもたまにしか会えない兄とじゃれあうのがとても楽しいらしく、笑顔で部屋中を逃げ回る。

食後のお茶を準備していた校長も、リビングの騒ぎを何事かと思い顔を出したが、二人の様子を見ると、これ以上ないぐらいの笑顔をしてまたお茶の準備に戻っていった。

「まて、こらナツミ!」

「やだよ〜だぁ♪」

 

睡眠もまた丸一日ぶりで、泥のように眠った。長い、とても長い夢を見ていたような気がするのだが、起きてみると全然かけらも覚えていない。

今日もまた晴天だった。日はまだ高くない。昨日はあれだけの事があり、とどめの追いかけっこで、随分早くに就寝したのだ。

リビングに出ると、すでにナツミも校長も起きていた。

「あっトウジおはよ〜」

「おはようさん」

「今日は早起きだね。まっアレだけ早く寝れば当然か」

寝癖のついたままの頭をポリポリかきながらテーブルにつく。

「まあな。ところでナツミ、お前からだの調子はええんか?」

「うん。最近は絶好調!」

「ほんならええんやけどな。ちょっとでも調子悪うなったらすぐ言うんやで」

「はいはい、わかってます」

「ワイ朝飯はええわ。ならナツミ、校長先生、行ってきますわ」

少しだけ、ほんの少しだけナツミの顔が曇ったが、それは一瞬。その変化は誰にも知られることはなかった。すぐに笑顔に戻ると、

「気をつけてね。同僚の人に迷惑掛けちゃ駄目だぞ」

「わかとるって」

「トウジ君、体にだけは気をつけてな。無理しないように」

「はい。ほな」

扉を開け外に出る。朝日のシャワーが全身に注ぐ。一瞬目がくらんだが直になれる。数歩進むと向こうからケンがこちらに向かって走ってくるのが見えた。

すれ違う瞬間にチラッと目に入ったのが、奇妙な形をした靴だった。

すぐに後ろから

「ナ〜ツミちゃ〜ん、あ〜そ〜ぼ〜!」

という声が聞こえてくる。ナツミよりも5歳くらい年下だろうか。

(彼氏・・・・なわけないか)

何となく、そう、漠然とした不安を抱きつつ、イムルの村を後にした。

 

 

(確かこの辺やった筈やけど・・・)

自分の怪しげな記憶を頼りに、森の中の看板を探していく。

「おっかしいなぁ。確かにこの辺・・・・・あったあった、あれや」

視線の先にはぼろぼろになった看板。

「ええと、ここから東に40歩、南に40歩やな」

1,2,3,4、・・・・・・・・・、一歩ずつ数えていき東に進む。

今度は南。1,2,3,4,・・・・・。

「40!あれ、こんなとこに井戸なんかあったか?」

そこにあったのは古ぼけた井戸。中を覗くと良くは見えないが、底は見えないのでかなりの深さがあるのだろう。

「秘密の遊び場か。ちゅうことは、中に入れってことかいな」

もう一度中を覗いてみる。やはり底は見えない。

辺りにロープかその代わりになるようなものは無いか探してみたのだが、生憎そのような都合のいいものは見つからなかった。

「はぁ・・・・・」

もう一度覗くとする。

その時だった。後ろから誰かに押されたような感覚。

落下していく時に見えたのは、

(銀髪・・・・)

しかしその記憶は彼に残ることは無かった。

 

 

「うっ、う〜ん・・・」

どれくらい時がたったのだろう?うつ伏せになって倒れていたトウジは頭を押さえて立ち上がった。

「ここは・・・。確か井戸に落ちて」

そこで二つのことに彼は気がつく。一つはまったく、擦り傷一つすらしてない事。もう一つは、自分が落ちてきたはずの井戸の穴が天井に無いことである。

「あれ?なんや、わい。悪い夢でも見とったんかいな」

が、彼はさっきのが夢でも何でもない、現実だということは分かっていた。

「そういや井戸に落ちるときなんか見たような気がしたんやけど・・・」

『こっちへおいでよ・・・・』

「っ!誰やっ!!」

ここで初めて当りを注意深く見回す。そこは迷宮になっているようだった。緑色のこけに覆われた壁がその古さを証明している。

「なんや、誰か知らんけどワイを招待してくれたってことかいな。ええやろ、つきおうたるわ!」

まっすぐ進むと左右に別れる道に出る。するとまたあの声が。

『こっちへおいでよ』

「どこや!男やったら隠れんえとどうどうと姿見せんかい!はは〜ん、さてはピーが小さいか自主規制なんやな!」

そういう過激な発言は止めなさい。P○Aに睨まれるじゃないか。しかしそんなことはお構いなし。彼の罵りは続く。

声の主からの反応はなし。

「こっちからの呼びかけには、あくまでだんまりかい」

諦めて右へと曲がる。

『そっちじゃないよ・・・・』

進みを止める。

「ナビゲート付きちゅう訳か。親切なこっちゃ」

だんだん腹が立ってきたが、おとなしく声に従うトウジ。

途中モンスターも出たが、イムルの村で仕入れた鉄のやりの前に、成すすべも無く倒されていく。

 

暫く行くと階段がある。

「なんや、結構深いんやな」

素直に地下におりていく。声からの指示は無かったものの、階段しかなかったのだ。当然降りれば良いのだろう。

 

モンスターをなぎ倒しながら先に進んでいくと、少し大きな部屋に出る。中央には堀に囲まれた宝箱が一つ。

「ここがゴールちゅうことかいな」

横から飛び掛ってくる大ミミズを鉄の槍で一閃すると、周りに気を配りながらゆっくりと宝箱に近付いて行く。

(罠は・・・・、なさそうやけど)

思い切って開けてみると、そこには靴が一足。どこかで見たことがあるようなデザインだ。

「はぁ?こんだけ苦労して、出てきたのがこの変てこな靴一足かい。あほくさ、やっとれんわ」

が、せっかくここまで来て手に入れた靴だ。

「せっかくやし、履いてみるか」

中に何か仕掛けられている形跡もなし、用心しながらもその靴に両足を入れる。

と、突然襲う浮遊感。

「な、なんや!あだっ!」

トウジは天井に頭をぶつけて落ちてきた。

「痛たたたたたた・・・・。な、なんやこの靴!?」

慌てて靴を脱ぐトウジ。

 

ふと、今まで集めてきた情報が頭の中に浮かび上がる。

『あの子、急に消えてしまって・・・』

『突然ふっと消えてしまうらしくて・・・・・』

『大人には秘密の遊び場らしくて・・・・・』

『消えた子供たちは皆、そこで何かを持って帰って来たそうなんです・・・・・』

にやり

「そういうことかい・・・・」

今しがた脱ぎ捨てた靴を見ながらそう呟いた。

 

 

さて、どうしたものかと思ったトウジは、とりあえず落ちてきたと思われる(落ちてきたはずの穴が無いので断定は出来ないが)場所まで戻ることに決めた。

が、その途中でふと思いつく。

「そういや、こっちに進んだら何があるんやろ?」

急いではいたのだが、それよりも好奇心が勝りそちらの方に足が進む。

 

しばらく進むと先程とは違う少し広い小部屋に出た。

「なんや、行き止まりか・・・」

戻ろうと思い方向転換する彼の視界に、見慣れないものだ映る。

「なんや、あれ」

思わずこぼれたセリフ。

・・・・・・・・・・それはペンギンだった。

「ぺ、ペンギン?何でこんなとこに?」

ゆっくりと近付いていくと、そのペンギンもこちらに気付いたのか、物怖じすらせずにトコトコとトウジのほうへと寄ってくる。

そのペンギンは首輪をしており、そこには「PEN2」とかかれている。

「ペ、ペンペン?」

「クワァッ!」

ビクッ!

こちらの呼びかけに答えたのか、片羽を上げて大きく鳴き声を上げた。その声に驚き、身をすくませるトウジ。

「な、なんやお前、人間の言葉わかるんか?」

「クワァッ!クワクワァ」

「おお、そりゃ凄いな!で、何でこんなとこにおったんや?」

何故かペンギンとの会話を成立させるトウジ。

「クワァ・・・・。クワッ、クワワァクワ、クックワァクワ」

「・・・・飼い主が酒好きで、つまみの焼き鳥にされそうになったから逃げてきたんか」

しかも、言葉通じてるし!(汗)

「難儀やったなぁ」

「クワァァァァ・・・・」

ペンギンに同情の涙を流すトウジ。・・・・・何かとてつもなくシュールな場面なんだけど。

「で、ペンペン。お前こんなとこにずっとおる気か?」

「クワワ」

「なら、行くとこあるんか?」

「クワワ」

二度首を横に振る。

「そうか・・・・。なぁ、ワイと一緒に来るか?ここに居るよりはええやろ」

「クワッ!?」

「大丈夫や、気にすんな。ほら、いくで」

「クワァァ!」

ペンギンとの友情を成立させてしまったトウジは、そのままペンペンという新しい仲間を得た。頼もしいかは分からないが。

 

 

「なんや、この穴?」

ペンペンがこっちにこいと言って(?)連れて来たのは、最初の分かれ道を右に行ったところ。声に従い、来なかった方の道だ。

「クア、クワワワ」

「なんやて!?あのなぁ、ワイは上から落ちてきたんやで?何でまた落ちなあかんねん」

「クァワワア」

「信じろゆうたって・・・・・」

「クワッ!」

そう言うと、覗き込んでいるトウジを背中から突き飛ばす。その勢いで一緒に落ちていくペンペン。

「何するんやあぁぁぁ・・・・・」

彼の叫び声は、その穴に吸い込まれていった。

 

 

彼は何かにつつかれているような感覚を受けて目を覚ました。

もちろん突いていたのは彼の友鳥?ペンペン。ペンペンはトウジが目を覚ましたのに気付くと器用に扉を開けて外に出る。

トウジは起き上がると周りを見回してみた。

そこは部屋だった。何も無い部屋。唯一ある、いや、あったのがペンペンがあけた扉。外開きなので、今はこの部屋に無いといっても良いだろう。そこから外に出る。

そこは、

「・・・・森?」

だった。周りを見回すと、自分が落ちてきた井戸がある。

ペンペンがトコトコと進んでいく。

トウジは走って彼?に追いつくと、ペンペンを見ずに小声で言った。

「サンキューな、助かったわ」

ペンペンもトウジを見ずに片羽を上げ答える。

「クワッ!」

・・・・やっぱり変な友情だ。

 

 

 

 



    (つづく)

 

後書きと言う名の反省会

 

・・・・・・・・・・・・・・・。

『どうしました?黙り込んじゃって』

あぁ、S・I君か・・・。この小説、どこがいけないんだろうと思って。

『どこ、って全部じゃないんですか?』

んな身も蓋も無い。具体的にってこと。何かがいけないのはわかるのだけど、それがどこかってのが、いまいち分からない。

『ま、書いている本人が「どこが悪いか」を分かっていたらそこをすぐ書き直しますから、その疑問はもっともだと思うんですけどね』

ま、いいや。自己満足の域だからな。よし、OKOK!

『いいんですか?それで』

いやいや、最近、君の声をやっていた人がインターネットラジオを始めてね、某『銀河に○エロ』をほうふつとさせるテンションで、非常に楽しませてもらってるんだよ。

『唐突に変わりましたね。もしかして宣伝ですか?』

そう見る人もいるかもしれないが、そんなつもりはまったく無い。でも、毎週更新、時間は30分OVER、料金は250円。ね、珍しいと思わない?

『やっぱり宣伝ですね』

違うって。別にファン倶楽部の会員ってわけでもないし。でもまぁ、ついでだから。

その名も『秘密の花園』。・・・・・・司令(笑)、はまり過ぎです。

 

さて、少しだけ内容を。この話、LAS度が非常に高くなる恐れがあります。作者がそうなのだから仕方ない。今のところ、そういうのは無しの方向なのですが、多分変わります。(どう変わるかは分かりません)

『本当に無計画ですね』

ほっときなさい。

と、計画という言葉が出たので。一章は次で終わります。二章はこの話のの容量なのでどうするかは決めてません。もうちょっと削るか。さて、さっそく・・・・、

『推敲でもしますか?』

花園聞かなくちゃ♪




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