エヴァクエ!
そのさん
森を出ると、とりあえずイムルへ戻ることにした。何をしなければならないかは分かっていたのだが、道具や防具などをそろえるためだ、多少の時間のロスは仕方がなかった。ちなみに武器はイムルで買える最高の武器を買ったので買いかえることはない。
トウジは先程から何かを思い出そうとしていた。具体的なことは分からないのだが、何かとても大切なことを忘れている、そんな気分だった。喉元まで出かかっているのだが、そこから上がってこない、実に気持ち悪い状態だった。
友情が芽生えてからそう時間はたってないが、彼の親友になりつつある鳥が心配して彼を見上げていた。
「クワワワ?」
「大丈夫や、なんでもない。そう、なんでもないんや」
そう言ってみるものの、口に出せば出すほど不安にかられるトウジ。
イムルの村が見えるところまできた。が、村の様子が少しおかしい。
「ん?何かあったんか?」
すでに彼は駆け出していた。
村の入り口には何故か校長が立っていた。
「と、トウジ君!」
顔は真っ青だ。トウジに嫌な予感がよぎる。さっきから感じていた不安が舌先まで出てきた。
「ナツミちゃんが、ナツミちゃんが、く、靴をはいたとたん・・・・」
唐突に思い出した。
(坊主がもっとった靴、同じや!)
「トウジ君!」
静止を振り切り校長の家へと走る。ドアは開けっ放しになったいた。
「ナツミ!」
中へ入ると力の限りに叫ぶ。が、返事は無い。
「ナツミ!どこや、返事せんかい!」
無音。
「クッソ!ワイのあほ!何ですぐ思い出さんかったんや!」
自分の馬鹿さかげんを呪ったが、そんな事をしても何も生み出さないことは分かっていた。すぐに思い出していたとしても間に合わなかっただろう。が、それでも自分を攻めてしまう。
外に出ると、先程は気付かなかったが、ケンが座り込んで放心していた。かけより目線を合わせ語りかける。
「坊主、お前がナツミに靴を履かせたんやな?」
大きくうんと頷く。
「いつ頃や?思い出せるか?」
「た、太陽がてっぺんに来た時位」
(そう時間はたってへんな。まだ間に合う!)
「坊主、よう聞けよ。ナツミはワイが絶対連れて帰るから、心配すんな。男やろ、しゃきっとせんかい!」
ケンの瞳に光が戻ってくる。
「お前はいま、出来ることが限られてる。ならそん中で一番いいと思うことをやるんや。今回はワイが教えたるわ。ワイはナツミを連れ戻す、そしてお前はワイを信じる。どや、分かったか?簡単やろ?」
ケンはもう一度大きく頷いた。だらしなく開いていた口は閉じられまっすぐにトウジを見返してくる。
「分かった。僕はお兄ちゃんを信じる。お兄ちゃん、絶対ナツミちゃんを連れ帰ってきてね」
「まかしとかんかい!ワイを誰やとおもっとんねん!バトランド戦士団、一番隊戦士長鈴原トウジやぞ!」
「トウジ君」
立ち上がると校長に向き直る。
「この坊主をお願いします。ワイはナツミを連れ戻しに行ってきます」
「分かった。気をつけるんだぞ」
靴を履き替えようとすると、ペンペンがとことこ歩いてきて足にしっかりとしがみ付く。
「お前、ついてくるんか?」
「クエ!」
「どうなるかわからんのやで?」
「クワア!」
「すまんな、こんなことに巻き込んで。じゃ行ってきます」
一人と一匹は、空高くへと舞い上がっていった。
気がつくと塔の上にたっていた。
「ここは・・・・・、西の塔か!」
イムルの西に位置する、湖に囲まれた島にぽつんとたたずむ塔。なぜこんな所に塔が立っているのか、入り口はいつも閉まっていてどうして入ることが出来ず封印されているのか、トウジは知らなかった。
「そうや、こんな近くにこんなごっつ怪しい塔があったんやったわ」
と、突然上から降ってくるモンスター。
「なんや!?ダックデビルに、おおにわとり!こんなやつらがいるんか、ここは!」
今まで出てきたモンスターよりもワンランク上、厄介な敵である。
「グワ!」
突然ダックスデビルが叫ぶ。と、とたんにトウジの力が抜けていく。
「しまった、ルカニや!」
防御力を下げる魔法、ルカニを唱えるダックスデビル。そこへおおにわとりの鋭いくちばしが襲い掛かる。慌てて防御するトウジ。だが体が思うように動かない。ダメージを覚悟したその時、
「クワアアア!」
ペンペンの思わぬ一撃!その攻撃はおおにわとりの急所に入る。
グエエエエ・・・
断末魔の叫びを残して消えるおおにわとり。ダックスデビルは一瞬目を疑った。その隙を逃がさぬトウジ。思い切り鉄の槍を突き立てる。
煙のように消えるダックスデビル。
「ふう、やばいやばい。それにしても助かったわ。お前、なんや凄いなぁ」
「クァワワア、クワワ」
「そうか、今度その飼い主にお礼いっとかんとな」
「クワワワアァ」
「会いとうないなんていったんなや。会いたくたって会えんやつだっておるんやぞ」
「クワァ・・・」
「気にすんな、ナツミはワイが絶対助けてみせる。絶対にな」
頬を両手で叩き気合を入れるトウジ。それを真似するペンペン。彼?に気合が入ったかどうかは分からないが。
目の前の階段をおり、一階下へと行く。
降りたところでモンスターの熱烈な歓迎を受けてしまった。
リリパットが二匹にべビーマジシャンが一匹、それにホイミスライムだ。
「また厄介な・・・」
「クワワ、クワ」
「よっしゃ、ホイミスライムは任せたで!」
先ほどの一件で、ペンペンを信用に値すると位置付けたトウジ。一匹をペンペンに任せた。
リリパットAの矢が会戦の合図となった。トウジは左、ペンペンは右へと動く。
トウジ達の思惑通りモンスター達は二つに分かれた。
トウジは鉄の槍を腰の位置に構える。3対1、数の上では圧倒的に不利。が、今の彼に敗北の2文字は決して許されなかった。ナツミを助けることが出来るのは自分だけ。自分の肩には2人ぶん、いやさらわれた子供たちすべての命がかかっている。
(負けられるかいな!)
先に動いたのはリリパットBだった。トウジは放たれた矢を鉄の槍で叩き落すと、リリパットBへと駆け出す。すぐさまリリパットAがこちらに狙いをつけ矢を放った。それをスピードを上げやり過ごす。リリパットAB共に弓の準備は出来ていない。
(いまや!)
その瞬間、
「ヒャド!」
ベビーマジシャンの唱えた氷の呪文がトウジを襲った。
ホイミスライムは十本近くある足を巧みに使ってペンペンを角へと追い詰めていった。ホイミスライムは一見するとクラゲが浮いているように見える。その何本もの触手を使い、じわじわと追い詰めていった。
ピシッ!
触手の一本がペンペンの右の床を叩く。もしペンペンがとっさに思い切り左に飛んでいなかったら、ダメージは免れなかっただろう。
「クァワ!」
ペンペンは逃げながらもチャンスを待っているようだった。
ヒャドを左手にくらい、盾があったとはいえ、完全に麻痺してしまい満足に動かす事が出来ない。
「くうぅ、やってもうたわ。・・・・・・けどなぁ」
唇を歪めると、べビーマジシャンへと。慌てたベビーマジシャンはもう一発ヒャドを繰り出そうとする。だが、
「おまさんらはヒャド一発でMP(マジックポイント)が尽きるんや!」
鉄の槍を横へ凪ぐ。真っ二つにされ悲鳴すら残さずに消える。
「・・・・後二匹」
ペンペンは追い詰められていた。右へ左へ、かろうじてかわし続けてはいるものの、だんだん逃げ道がつぶされていく。逃げる道はただ一つ、後ろへ下がるしかなかった。
それにも限界は来る。それはすぐに訪れた。後ろは壁、前にはホイミスライム。と触手が伸びる。
「!」
一瞬の躊躇。ペンペンの思惑通り、前三本の触手が絡まっている。
その隙を逃がす筈が無い。ビア樽女に習った通りの急所を突く。
パァン!という破裂音と共に消えるホイミスライム。彼?は初めて飼い主にお礼が言いたくなった。
その短い足で、彼の友達のところへと向かう。
リリパットABは頭を使っていた。隙が出来ないよう交互に矢を撃っていたのだ。トウジも矢を散らすだけで精一杯。左手はまだ思うようには動かせない。ちょうどリリパットBが矢を撃とうとした時だ。
ぷす
リリパットAが消える。驚いたリリパットBが見ると、そこには背後から忍び寄ってきたペンペン。怒りに震えペンペンを狙うリリパット。だが、それは叶わなかった。トウジが思い切り投げつけた鉄の槍によって。
「何もお前等が持っとる弓矢の専売特許やないんやで、投げつけて使える武器ちゅうのはな!」
いつものように、片羽を上げこちらを見る。
「クワア!」
「まぁな。ペンペンもやるやないか」
「クワ!」
「さて、行こか」
階段をおりる。確かこの塔は四階建てなのでここはに二階になる筈である。と、壁の無い部分がある。
「ペンペン、お前はここからなら降りれるやろ。帰った方がええんとちゃうか?」
「クワ、クワァッ!」
「そやかて・・・」
「クァッ!」
そう一声鳴くとずんずん進んでいく。
「ありがとお」
ペンペンの後ろ姿はどことなく照れている様だった。
ペンペンはトウジを助けたい思いでここに残った。それは間違いない。が、トウジは忘れていた。鳥は鳥でも、ペンギンは空を飛べないということを。
ここは一階。
「なあ」
「クワ?」
「この扉、ごっつ怪し無いか?」
「クワ」
同意するペンペン。ん?何かペンペンの言葉がわかってきたぞ。
「そうか、お前もそう思うか。よっしゃ、開けてみるか」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・
トウジは思い切り扉を押すとあっけなく扉は開く。
「なんや、大きいだけかい」
中へ入ると、一つだけ宝箱がおいてある。が、その宝箱は通常置いてありそうなものとは違う、なんと言うのだろう、雰囲気が違ったのだ。
が、鈍感男が一人。なんの躊躇いもなくその宝箱を開ける。
そこには一振りの剣が保管されていた。銀色の光沢、柄の部分にある紋章、赤い宝石が埋まっている。その剣からは異様なまでの魔力が放たれていた。
が、やはり鈍感男が一人。仕方がないことではある。彼にはもともと魔力というものは存在していない。魔法が使えるか使えないか、それは努力ではどうにも出来ない、天性の才能によるものなのだから。
にしてもだ、これほどまでのプレッシャー、魔力がなくても少しは感じても良いはずなのに・・・・。まあ、これも一種の才能か。
「クァワワワワッ!!」
「なんやて、破邪の剣やて!・・・・・・・で、なんやそれ」
律儀にこけるペンギン。
「クァア・・・・」
「抗議は後や、お客さんがおいでなさったで!」
そこにはピクシーが三匹。
「さて、こいつの切れ味、試したろか」
そこで見た。確かにペンペンが笑ったのだ。嘘だとお思いの方もいるかもしれない。ペンギンが笑うなんて、と。しかし、確かに笑ったのだ。彼の飼い主が、良からぬ事をたくらんだ時に見せる笑み張りの笑いを。
「クァックァックア!」
トウジは首をかしげる。
「何でそないなこと「クワァックア!」
仕方なく剣を両手で持ち高々と掲げた。
「で、どないせいゆうんや」
「クワワッ!」
トウジはすでに少しやけになっていた。腹のそこから声を出し思い切り叫ぶ。
「破邪の力よっ!!!」
破邪の剣の赤い宝石部分から溢れ出す炎。その炎はまっすぐ彼らの敵、すなわちピクシーたちに襲い掛かった。
呆然と立ち尽くすトウジ。してやったり顔(本当にそんな顔つきをしているのだ)のペンペン。
「な、なんやこの剣」
トウジはこの言葉を言うのが精一杯だった。
鬼に金棒、トウジに破邪の剣。
最強タッグを組んだトウジに立ちはだかるものは何もなかった。リリパットを切り捨て、ホイミスライムに会心の太刀を浴びせ、おおにわとり達には、業火をプレゼントする。その後ろをトコトコついてくるペンペン。
一階にはいない。ということは地下。早速地下への階段を探し始めた。
地下への階段を見つけるのにそう時間はかからなかった。
が、そこに倒れている一人の人物。
「タ、タリム!!!」
その体はぼろぼろだった。満足なところを探す方が難しいくらいに。一つ一つの傷は深くないのだが、このまま放っておけば間違いなく彼の人生にピリオドが打たれる。
「しっかりせい!どうしたんや!誰がこんな!!」
と、閉じられていた目がうっすらと開かれる。
「と、トウジか。ナツミちゃんはこの下だ。は、早く・・・」
「あほか!お前をこのままにしとけるか!」
こいつはそうなのだ。いくら自分が急いでいても、どんな事情があっても、目の前に困っている人がいれば放っておくことなんて出来ない、そんなやつだ。彼は微笑んだ。彼の親友にして最大のライバルの言葉を聞いて。そして彼にすべてを託す。
「い、いいか、良く聞け。今回の事件を調べ、確信したことが、ある。この世界には、闇の組織が、あり、そ、そいつ等が、モンスターを操っていると、いう、事」
「もうあまりしゃべるんやない!」
トウジは袋に薬草がないか調べたが見つからない。ナツミの事で頭がいっぱいで、イムルで道具をそろえてきてないのである。己の失策を恥じる。一時の感情に流され、準備を怠った。一介の戦士として、そしてバトランドの戦士長として恥じるべき行為である。
「いいから、聞け!聞くんだ・・・・。そうして、も、もう一つ。この世には、し、死海、文書というものが存在し、そこに、勇者の出現が予言されている。そしてその、勇者が、魔の者を、討つ、と」
一度ここで区切る。相当な体力を使うらしい。が、やめる事は出来ない。最後まで伝えなければ。
「・・・・・トウジ、勇者を探せ!これはお前に与えられた、使命だ。そしてゆ、勇者を守れ・・・・」
急速に弱まっていく彼の鼓動。
「だ、駄目や!タリム、おいタリム!」
しかし反応は無い。すでに意識はなくなっているようだ。ひっしに励ますトウジだったが、効果は微塵も見えない。
と、ペンペンがタリムに羽を当てる。
「ペンペン・・・・・」
集中すると、膨れ上げた魔力を一気に解放する。
「クァーッ!」
見る見るふさがってゆく傷。回復していく脈。
「お前、魔法も使えたんか!」
「クワック」
「切り札ゆうても、出せんかったら終わりやで。でも、ありがとう。何か助けられてばっかりやな」
穏やかな呼吸に変わったタリムをそこに置いたままにすると、タリムの袋に入っていた聖水をふりかけ、地下への階段をおりていった。
そこに見えるもの。祭壇らしきもの。その上には神官のようなモンスターが一匹。その隣に大きな一つ目を持ったモンスターが、やはり一匹。そして左手には鉄格子。その中には行方不明になっているであろう子供達がいた。そしてその中に・・・・、
「ナツミ!」
モンスターたちがこちらに気付く。
「何だお前は。・・・・その格好、この国の兵士か」
「子供らを返してもらいにきた。ついでにお前も張り倒すっ!」
フンッと鼻先で笑う。
「フン、戦士風情が・・・・・。そんなに死にたいのか?ならば望みをかなえてやろう。いくぞ、おおめだま!」
おおめだまと呼ばれたモンスターもそれに答える。しかしながら、顔はすべて眼で埋まっており、声を出す器官がなさそうだ。そのためかどうかは定かではないが、音では答えなかった。
おおめだまが先に動く。が、ただがむしゃらに突っ込んでくるだけだ。トウジは落ち着いてそれをかわし、その後ろから気合を入れ剣を振り下ろす。
「でやぁ!」
ざしゅ
致命傷を与える事は出来ない。しかし、次もまた突っ込んでくるだけ。当れば痛そうなのだが、当らなければ痛くも痒くもない。また同じ方法で傷をつける。が、今度もそれほど深い傷を負わせる事が出来なかった。
神官のモンスターは一歩も動かない。ただフテキに笑みを浮かべるだけ。
トウジは安心しきっていた。が、次の瞬間、おおめだまの眼が、白から赤へと変わる。
「な、なんや!?」
先程とは比べ物にならないスピード。よけきれず体当たりをまともに食らうトウジ。背中を強かに壁に打ち付けられ、思うように息が出来なくなる。
「かっはっ!」
(内臓がいってもうたかもしれん)
立ち上がる事さえままならない。
「クエエエエ!」
ペンペンの鳴き声と共に白い光に包まれるトウジ。傷が、痛みが和らいでいく。どうやらペンペンは今回完全にサポートに徹するようだ。
「サンキュ!助かったわ」
「クエッ!」
「クッ!」
ペンペンの右という声に反応して、反射的に右へと飛ぶ。と、今までトウジがいた場所をおおめだまが通り過ぎていった。うつ伏せになって倒れこむトウジ。
ゾクッ!
嫌な予感を感じ、慌てて左へ転がる。
ベキッ!
嫌な音をたてて、床のタイルが割れた。おおめだまの跳躍からのキックによるものである。
そのまま転がりつづけ、ある程度の距離を取り立ち上がる。先ほど手に入れた、破邪の剣を正眼の位置に構える。まだ目は赤いまま。スピード、パワー共に段違いだというのは実感できた。が、かわせない事も無いという事もまた実感できた。相手の動きを少しも見逃さぬよう、全神経をそちらに向ける。勝負は一瞬だろう。
(きた!)
タイミングを合わせ、後ろに飛びながら剣を上から下へ一気に振り下ろす。
倒れたのはおおめだまだった。
「ほう、おおめだまでは役不足か。それならこのワシが直々に相手をしよう」
笑みをくずさぬまま、言い放つ神官。
「フッフッフ、ギラ!」
神官の手からほとばしる熱き閃光。しかし、
破邪の剣から生まれでる聖なる炎に相殺される。
初めて神官の表情が変わった。
「おぬし、どうして破邪の剣を!・・・そうか、この塔に封印されておったのか!っく、しかし、破邪の剣一本で何ができるかぁ!」
そのひ弱そうに見える体に似つかわしくないパワーとスピードで杖を振るう。トウジは裁くのに精一杯で反撃の糸口をつかめない。
神官が大きく口を開いた。
「!」
そこから吐き出される火の玉。とっさに飛びのいて盾で防御するも、所々に酷い火傷を負ってしまう。
ペンペンは疲れきっていた。先程、タリムに使ったのは回復魔法で最高位の『ベホマ』。この魔法でペンペンの精神力、MPともにほとんどを使い切ってしまっていた。
最後の力を振り絞りホイミをかける。
「クァッ!」
暖かな白い光に包まれるトウジ。それを確認すると、ペンペンはその場に倒れこんでしまった。
「これで、頼みの回復魔法も使えなくなったな?さあ、どうするのじゃ?」
トウジは自分でもビックリするほど穏やかな気持ちだった。タリムが倒れ、ペンペンが倒れたというのにである。
(なんや、この感じは?これは、この剣から流れ込んでくる?)
「どうしたのじゃ、来ないならこちらから行くぞ!」
勝負は一瞬だった。串刺しにされる神官。
「な、なぜだ・・・・。このわしが負けるとは・・・・。し、しかし、他の手のものが、使徒が必ず勇者を探し出し、その息の根を・・・・ぐふ」
跡形もなく消えていく。トウジは穏やかな目でそれを見ていた。まるで夢を見ているかののように。
「トウジ!」
はっと我に返ると、鉄格子は消えおり、ナツミがかけて来る。
「ナツミ!」
『それ』は唐突に現れた。ナツミの前に。
ナツミに一撃を食らわせ気絶させると、そのまま肩に担ぎ上げた
「ナツミ!きっさん・・・許さんぞぉぉぉぉ!」
破邪の剣を振りかぶり思い切り振り下ろす。『それ』はただ見ているだけだった。
が、
「なんや!」
間に何かあるかのように剣が止まる。よく見ると六角形のたくさん集まった薄い膜のようなものが剣の進行を阻んでいた。
『それ』は仮面をかぶっているような顔をしていた。二足歩行で、一応人型ともいえないこともないが、人間とは明らかに違っている。大きさはトウジの約倍、3メートルほどだろうか、体の真ん中には赤く丸い物体がついていた。
ペンペンは異変を察知し、何とか起き上がりそいつを視界に入れた。
「ク、クワックァ!」
サキエル。確かにペンペンはそう言った。
「クワ、クワワワアァ、クワワワアァ!」
敵わない、逃げろ。そう警告しているのだがトウジの耳には届かない。剣は今だ正体不明の膜で止まっている。渾身の力をこめてもびくともしない。
「こらぁ!ナツミをはなさかい!」
スウーっとナツミを担いでいない方の手、右手を上げる。トウジに嫌な予感が走り、剣を引き、盾をかざす。
バシュッ!
トウジに光のパイルが打ち込まれた。盾のおかげで直接トウジには当らなかったが、その盾は粉々に砕け、トウジ自身も衝撃波で吹き飛ばされていた。這いつくばりながらも、諦めてはいない。
「ナツミを・・・・」
口の中をきったのか、ツーっと血が滴り落ちる。
出現した時と同じように、唐突にサキエルは消えた。ナツミと一緒に。
「ナ、ナツミーーーーー!!!!」
トウジの叫びは、一番届いて欲しい人に届くことはなかった。
どれだけの時が流れたのだろう。トウジには永遠の時が流れたように思えた。が、実際は五分も経っていないかもしれない。
すでに彼の中で決心はついていた。
節々が痛む体に鞭打って、なんとか立ち上がると牢獄の中で震えている子供たちに声をかけた。
「君等はイムルの村の子やろ?」
その中の一人が恐る恐る答えてくれる。
「うん。お兄ちゃんも僕たちをいじめにきたの?」
精一杯の努力をして笑顔を作ると、出来るだけ楽しそうに答える
「あほぬかせ。このナイスガイなお兄ちゃんが、いじめっ子に見えるか?お兄ちゃんはな、みんなをお家へ返そう思うてきたんや」
子供たちの顔に笑顔の花が咲き始める。
「ほんと!?本当に僕たちお家に帰れるの?」
「ああ、ほんとうや。さぁ、さっさとこっからでよか」
子供たちは全部で五人ほど。口々に歓喜の言葉を洩らす。
「ちょっと悪いんやけど」
一人の子供を呼ぶと、ペンペンを運ぶようお願いする。
子供たち全員を従え、階段を上がる。階段のすぐ傍で寝ているタリムを背負うと、一階の出入り口から外へと出た。
「ワイの予想が正しければ・・・・、おっ、あったあった」
それはタリムが乗って来た船だった。大人十人が乗っても大丈夫そうな船である。やはり彼はここに子供達がいる事を予想して来たようだ。この船が良い証拠である。トウジは何とか船を対岸まで漕いだ。
何故かモンスターは一匹も出る事はなかった。この辺りからモンスターが一掃されてしまったかのように。
「コウ!」
「ママ!」
イムルに着くと感動の対面がまっていた。が、トウジの心は晴れる事はない。ペンペンはもう目が覚め、自分で歩けるようになっているが、タリムは一向に目を覚ます様子はないからだ。それに、もう一つ。
「お兄ちゃん、ナツミちゃんは?」
ケンが期待をした目で見上げている。トウジはその視線が痛かった。
「あぁ、ちょっと怪我してもうてな。たいした事はないんやけど、少しの間入院した方がええゆうことになってな」
「え〜そうなの・・・。僕のせいで、怪我を・・・・」
「坊主、ナツミはな、全然気にしてないゆうとったぞ。だから気にすんな」
「でも・・・」
「坊主!男やろ!くよくよすな。お前がナツミにしてやれる事は、今度ナツミが帰ってきたときに、また一緒に遊んでやる事や。分かったな?」
「うん」
「坊主、これからはな、そういうことも自分一人で考えていかなあかんで」
「うん!頑張る!」
「よし、頑張るんやで」
ワシワシと頭をなでてやる。
後ろには校長が立っていた。
「トウジ君、ナツミちゃんは・・・・」
「校長先生、ちょっとこっちでお願いします」
感動の対面場から少し離れた木陰。
「ナツミは、モンスターに連れ去られました」
うすうす感ずいていたのか落胆はそれほど大きくはない。
「やはりか」
「校長先生!鈴原トウジ、一生のお願いがあります!どうかこの事は町の人にだまっとってくれませんか?おねがいします」
校長は渋い顔をする。
「あの子の、ケン君一人のためにかな?」
「・・・そうです。あの坊主にナツミがさらわれた事を知られてもうたら、あの坊主、これからその罪の事を背負って生きてかなならなくなります。あの坊主に罪はないんです。どうかお願いします」
「トウジ君はそれでいいのかね?」
「ワイは、その嘘を本当にしようと思うてます」
「それはこの国を出て行くということかね!?」
少し俯いたまま何のリアクションも返そうとはしない。沈黙は肯定。
「・・・・・そうか。分かった、約束しよう。この事は2人だけの、いや、王様にはこの事を話しなさい、そして3人だけの秘密にしよう。この村の事は私に任せなさい」
トウジは深々と頭を下げた
「校長先生、おおきに!」
イムルを去るトウジの後ろ姿を校長は見送っていた。
「トウジ君、君は一番険しい道を選んだんだよ。自分だけが苦しむ道を。君は他人に優しすぎる。一人で他人の痛みまで背負おうとするんだから。せめて、ほんの少しでも、その痛みを私が引き受けよう」
やはりタリムの意識は戻らなかった。
ここはバトランド城の医務室。王への報告をそっちのけで、ここへやってきたのだ。医者の話では、ベホマをかけたのは良かったのだが、時間がたちすぎていたと。脳に損傷があるかもしれないそうだ。もう意識は戻らないかもしれないと、しかし、もしかしたら明日戻るかもしれないし、1年後戻るかもしれない。希望はまだあるとの事だった。
「王さん、人払いをお願いできるやろか?2人だけ、いや2人と一匹で話したい事があんねん」
謁見の間に入るや否や、こう切り出した。
「・・・・良いだろう、皆のもの下がれ」
トウジはこれまでの経緯を話し(もちろんペンペンの事も)、タリムの言葉、神官の最後の言葉、ナツミがさらわれた事などを事細かに話して聞かせた。
「・・・・・・・・・・・・・・」
「王さん、お願いがあるんや。黙ってワイを旅にいかせてくれへんか?」
王はただ黙ってトウジの腰に収まっている破邪の剣を見つめていた。
「王さん!たのんます!」
「・・・・・・トウジよ、何故お前が破邪の剣の封印を解くことが出来たか分かるか?」
唐突な質問に目を丸くした。
「へっ?この剣、封印されたんかいな」
王はうつむいたままだ。がちょうどペンペンと目が合う。その鳥は口をきくことは無かったが、王にはすべてが分かってしまった。
「やはりこれも定めか・・・。トウジよ、お前の好きにするが良い。タリムのことは心配するな。わしが責任を持って面倒を見させよう」
「王さん!すんまへん、わがままばかり言って。・・それで、我がままついでにもう一つだけ。ワイのバトランド戦士団一番隊戦士長の任をといてもらいたいんや」
「なぜだ?」
姿勢をただし、敬礼をしながら自分の思いを吐き出す。
「ワイは今回多くのミスをしました。この結果を生んだのは、すべてワイの責任やとおもうてます。そのワイに戦士長なんて務まりません」
しばし思案する。
「・・・分かった、現時刻をもって鈴原トウジの戦士長の任をとく。しかし、後任はなし、空席とする」
目を丸くするトウジ。その顔を眺め、優しい笑顔を作る。
「トウジ、一回りも二回りも大きくなって帰って来い。いつまでも待っておるぞ。・・・・それから、その破邪の剣は餞別としてお前にやろう。本当はな、この国の国宝なのじゃが、まあ気にするな。それから旅の軍資金じゃ。5000Gほどもっていけい。当分の間、くいっぱぐれはないじゃろ」
ハッハッハッハと愉快そうに笑った。
トウジはバトランドを後にする。
親友との約束、勇者を探しだし、その勇者を守るために。
唯一の肉親、ナツミの行方を探すために。
「クワアアア」
「で、お前もつきおうてくれるんか?」
「クア!」
「そうやったな、ワイらは友達やったな。よっしゃ、さて、どっから行こか?あてもなし、手がかりもなし、と来とるからな」
「クァッ、クワワワワァ」
「西意外?じゃ、西から行こか!」
「クァワアアア!」
彼の旅は今始まった
後書きと言う名の反省会
反省・・・・・・・・・・・。
『今度は何をしたんです?』
何か当たり前のように言うね、主人公君。
『4月28日からの三連休がほとんどバイトだからって、金曜を無理やり自主休講にして4連休を作るような人なんですから、当然でしょ』
うっ・・・・・、ま、まぁいいじゃないの済んだ事は。やっぱり若いうちは前を向いて歩いていかないと・・・
『そして足元にある石につまずいて転ぶ、と?』
・・・・・・・ごめんなさい、もうしません。
『ま、罪の意識はあるようなのでこの件はこれで、と。それで、何を反省してたんです?』
勢いだけで使徒を出しちゃった、てへ♪
『・・・・・処置なし、ですね』
あぁ、見捨てないで!一応、案はあるんだよ、案は。・・・・・ただ物語りに組み込みづらいだけで。
『こんな言葉知ってます?「飛べない豚はただの豚だ」』
何とかします、何とかします!だから見捨てないで!ぷり〜ず!!!
と言うわけで一章終わりました。終わりは良いのかあれで!とも思ったのですが、一章から四章は要するに伏線のための章なんで、まぁいいかなと。
『次はおてんば姫ですよね』
その通り。で、多分予想している通り、あの人が二章の主役です。あと、次くらいからオリジナルの設定がチョコチョコと入るかな。
『挑戦と無謀は違うって分かってます?』
そう、ご意見ご質問ご感想のメールは随時募集です。特に意見下さい。ネタ無くて詰まったり、面白い設定なら採用します(断言)。
『いいのかなぁそんなんで』
多分・・・。じゃ、次の章の反省会で会いましょー。