いつまでも忘れない   1st phrase

               Introduction

 


 

これは二人の幼なじみの少年と少女、

そしてその友人達の話である。

 

 

 

「ばかシンジ!!」

 

その言葉に、はっとなって、少年は目を覚ました。

よく分からない夢を見ていたようだが、自分の部屋であることが判ったらしい。

 

「よおやくおめざめね!ばかシンジ!!」

 

「なんだぁ、アスカか…。」

 

自分の苦労も知らず、軽くあしらわれたことに腹を立てた、アスカという少女は、

少し大きな声で言った。

 

「何だとはなによ! こうして毎日遅刻しないように起こしてやってるのに、それが

幼なじみに捧げる感謝のことばぁ?」

 

「うん、ありがとう…。 だからもう少し寝かせて …。」

 

ふたたび布団にもぐり込もうとする少年を見て、少女は布団を取り上げながら、

 

「なに甘えてんの! もぉー 、 さっさと起きなさいよ!!」

 

と言ってバサッ、と、布団を取ったまではよかったが、少年の朝からがんばっ

ている部分を見てしまったため、少女はそのまま硬直しながら、顔を真っ赤にして

いった。

 

パァーン

 

「ッキャーー! エッチ、バカ、ヘンタイ、信じらんない!!」

 

いきなり頬をひっぱたかれ、はっきりと目覚めた少年は、精一杯反論した。

 

「しょうがないだろ、朝なんだから!」

 

朝、起きていきなりケンカをする二人だった。

 

 

そのころダイニングキッチンでは、少年の両親が、ほとんど毎日である騒ぎを 落

ち着いて聞いていた。

 

洗い物をしながら少年の母親は、誰に話し掛けるふうでもなくつぶやいた。

 

「もう シンジったら…。

せっかくアスカちゃんが起こしてくれてるのに、しょうのない子ねぇ。」

 

「ああ…。」

 

テーブルで新聞を読みながら、少年の父親は返事をした。

だが、内容までは聞いていないような、適当な返事だった。

 

「あなたも、新聞ばかり読んでいないで、さっさとしたくしてください。」

 

今度は話し掛けながら言った、が、

 

「ああ…。」

 

同じ返事が返ってきた。

 

「もう…、いい年してシンジと変わらないんだから。」

 

「君のしたくはいいのか…。」

 

会話に少し変化が表れた。

 

「はい、いつでも! もう、会議に遅れてお小言言われるのは私なんですよ。」

 

「君はもてるからな…。」

 

「バカ言ってないで、さっさと着替えて下さい!」

 

「ああ、わかっているよ、ユイ…。」

 

 

碇 ゲンドウと、碇 ユイ、 この二人は第三新東京市の、第壱中学校の教師であ

る。

二人の子供である碇 シンジの、親でもあり先生でもある。

 

しかし、シンジにとってあまり好ましいシチュエーションではない。

家でも学校でも、この二人に悩まされることになるからである。

 

そしてそのシンジは…。

 

 

「ほら、さっさとしなさいよ!!」

 

「うん、わかってるよ、ほんとうるさいんだから、アスカは…。」

 

「何ですって!?」

 

パァーン

 

今日二回目のビンタを、食らったところであった。

 

 

シンジを惜しげもなくひっぱたけるこの少女は、惣流 アスカ ラングレー 、シン

ジの幼なじみである。

クォーターであるため、髪はプラチナブロンドに赤みがかった色で、瞳は海のよう

に蒼い、肌も日本人というには白い。

さらに、そのスタイルのよさで、人の目を引き付けずにはおかない。

美少女という言葉を形にしたような姿である。

 

毎日、シンジを起こしに来るのは、小さいときからの日課のようなものである。

アスカの母親は、惣流 キョウコ ツェぺリンで、研究所、ゼーレで働いている。

早くに夫をなくし、女手一人で稼いでいるため、家を空けてしまうことが多い。

そのため、アスカが碇家にお世話になることも、少なくないのである。

 

 

「それじゃぁおばさま、いってきまーす」

 

アスカは、玄関でシンジを外に押し出しながら、元気よくあいさつした。

 

「いってきまぁーす…。」

 

シンジがつづいてあいさつする、元気はないが…。

 

「はーい、いってらっしゃい。 ほらもう、あなた!

いつまで読んでるんですか!」

 

ユイはゲンドウをけしかけるが、また、気のない返事が返ってきた。

 

「ああ…。わかっているよ、ユイ…。」

 

ユイは、またお小言を言われることになりそうである。

 

 

 

アスカとシンジの二人は、朝のラッシュが始まっている道路の、歩道を走ってい

た。

かなりの勢いで走っているように見えるが、平然と会話をしているところを見る

と、慣れてしまっているようだ。

 

「今日も転校生が来るんだってね。」

 

「まあね、ここも来年は遷都されて新しい首都になるんですもの、どんどん人は増え

ていくわよ。」

 

「そうだね。 どんな子かな、かわいい子だったらいいな。」

 

誰も女子が来るとは言っていないが、あくまで中学生である。

シンジの脳みそは、限りなくばら色だった。

その横では、なぜか不機嫌になったアスカが、シンジを睨んでいた。

 

 

 

同じ頃、同じように、通学路を走っている少女がいた。

髪型はシャギーの入ったおかっぱ、色は少し青味がかったシルバー、そして瞳は、

赤い色をしている。

神秘的なイメージを持つ姿をしているが、口にくわえたトーストと、いかにも焦っ

ている顔が、それをぶち壊しにしている。

 

「あぁーー 、 遅刻遅刻ぅー。 初日から遅刻じゃかなりやばいってかんじだよ

ねー。」

 

口に物をくわえながら、正確にしゃべれるのは、こちらもかなり慣れているからで

あろうか。

 

 

 

そうこうしながら、少女が曲がり角に差し掛かろうとした時に、少年が飛び出し

てくるのが見えた。

 

「ああー!!」

 

その瞬間。

 

ゴーーン!!!

 

 

 

シンジとその少女は、おもいきり頭をぶつけあってしまった。

 

「つつつぅ…。」

 

シンジは痛そうにうずくまっている。

 

「あぃたたぁ…。」

 

少女は、尻餅をついた格好で痛がっている。

 

シンジは、なにが起こったのかと思い、まわりを見てみると、スカートがめくれた

女の子が、頭をおさえていた。

 

少女は、少年の視線を感じて自分を見ると、大変なことになっていることに気付い

た。

そして、スカートを押さえ、すぐに立ち上がった。

 

「ごめんねー、マジで急いでたんだぁ。 ほんとごめんねー!」

 

そう言い残しながら、少女は急いで走りさっていった。

 

一方シンジは、まだ状況がつかめていないらしく、ぼーっとしたままだ。

 

そしてその横には、なぜかまた不機嫌になっているアスカがいた。

 

 

 

シンジが、クラスメートの鈴原 トウジと、相田 ケンスケに、今朝起こった事件に

ついて話していると、トウジがいきなり、怪しい関西弁で叫んだ。

 

「ぬあにぃーー!? でみたんか?そのおんなのパンツ!」

 

「別に見たっていうわけじゃ …。ちらっとだけ。」

 

「ッカァーー! 朝っぱらから運のええやっちゃなぁー!」

 

トウジが一人で興奮していると、いきなり横から耳を引っ張り上げられた。

 

「いてててえ! いきなりなにすんのや、イインチョー。」

 

耳を引っ張ったのは、このクラスの学級委員長をしている、洞木 ヒカリである。

彼女は、まさに中学生らしい黒髪でおさげをした少女である。

 

「鈴原こそ朝っぱらから、なに馬鹿なこといってるのよ!

ほら、さっさと花瓶のお水かえてきて! 週番でしょ!」

 

「ほんまうるさいやっちゃのう。」

 

「なんですって!?」

 

二人を見ていたシンジは、ぼそっと、

 

「尻にしかれるタイプだな、トウジって。」

 

「あんたもでしょ。」

 

すかさず、アスカにつっこみを入れられてしまうシンジ。

 

「なんでぼくが尻にしかれるタイプなんだよ!」

 

「なによ、本当のこと言ったまでじゃないの。」

 

「どうしてだよ!」

 

「見たまんまじゃないの。」

 

「アスカがそうやって、ポンポンポンポン…。」

 

「なによ! うるさいわね、ばかシンジ。」

 

二組の夫婦漫才を聞きながら、ケンスケはつぶやいた…。

 

「イヤー、平和だねぇー…。」

 

 

 

しばらくすると、ルノーエンジンの爆音が聞こえてきた。

その音を聞いて、すばやく反応する男連中。

 

「おおーぅ ! ミサト先生や!!」

 

シンジ、トウジ、ケンスケが窓に張り付いて見ると、スピンターンしながら、駐車

場のラインにそって、ぴたりと止まる車があった。

 

中からサングラスをした、黒髪の女性が出て来る。

そして、おもむろにそのサングラスをはずすと、校内のいたるところから歓声が上

がる。

 

「やっぱええなぁ、ミサト先生は。」

 

そのミサト先生とは、学校内でも人気の高い、葛城 ミサトである。

かなりの美人であることも確かだが、その気さくな性格と、ナイスバディな点も、

人気の秘密である。

 

歓声が聞こえると、ミサトは、自分のクラスの三人に向かって、ピースサインを出

す。

そして、そのサインに満面の笑みをたたえて、サインを返す三人。

さらに、その三人に対して、あきれたようにつぶやくアスカとヒカリ。

 

「なによ、3バカトリオが、ばっかみたい!」

 

二人は確かに親友同士だが、息までぴったりであった。

 

しかし、よく考えてみると、遅刻しそうだったアスカとシンジが、こうもゆっくり

していられるのは、担任であるミサトも、かなり遅刻しているからだった。

 

 

 

「きりーつ、れーい、着せーき。」

 

ヒカリが号令をかけると、ようやくついたミサトを迎えて ホームルームが始ま

る。

するとミサトは勢い良く、

 

「よろこべー男子ー! 今日は噂の転校生を紹介する!!」

 

「綾波 レイです。よろしく!」

 

シンジはその少女を見ると、いきなり立ち上がって叫んだ。

 

「ああああーー!!!」

 

その姿を見て、少女も叫ぶ。

 

「ああー! あんた今朝のパンツ覗き魔ぁ!!」

 

突然の言いがかりに、なぜかアスカがつっこむ。

 

「ちょっと! 言いがかりはやめてよ。

あんたがシンジに勝手に見せたんじゃない!!」

 

クラスメートなら、いつものことだ、と聞き流すところだが、レイは引っかかる所

があった。

 

「あんたこそナニ!? すぐにこの子かばっちゃってさ、

なに、できてるわけ?ふたりぃー。」

 

アスカは、自分を知っている者ならば、言い返しては来ないだろう、と思っていた

のであせってしまった、相手は転校生である。

しかもなかなか手強い。

 

「たっ、ただの幼なじみよ、うっさいわねぇ。」

 

「ちょっと授業中よ! 静かにしてください。」

 

ヒカリは、かなり騒がしくなってしまったクラスを、静めようとした、しかし、

 

「ぁあーーら楽しそうじゃない。私も興味あるわぁ、続けてちょうだい。」

 

ミサトがこう言ったせいで、クラスはよけいに騒がしくなってしまい、ヒカリは途

方に暮れてしまった。

 

結局、自習にしてしまったその授業は いつまでも騒がしかった。

そのためミサトは、冬月教頭に、ユイの三倍はお小言を言われたのだった。

 

<続く>

はじめまして、HALと申します。

私の作品を読んで下さいましてどうもありがとうございます。

話の筋としては、アスカとシンジ達の日常を書いていきたいと思っています。

なるべく特殊な状況は出さないようにして、二人のまわりを過ぎていく毎日が、い

い雰囲気で表現できたらいいな、と思っています。

そしてそれが、私の目から見た、あの26話の続きです。

それではしばらくお付き合い下さい。

 

tetrapot@msn.com 1998 5/22 HAL



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