いつまでも忘れない   2nd phrase

               転校生

 


 

ミサトの発言の、興奮も冷めないうちに、ミサトはまた言った。

 

「まあ、つもる話もあるでしょうから、このまま自習ぅー!」

 

「うおおー! さっすがせんせぇ、話が分かりますなぁ。」

 

トウジが言うとともに、また騒がしくなる教室。

 

「綾波さんは、空いてる席に座ってちょうだい。

今日は欠席がいないみたいだから、空いてればどこでもいいわよ。

みんなも騒ぐのはほどほどにねぇー。

それじゃ、 私は用があるから去るわねん。」

 

そういって、ミサトは教室を出ていった

そして残ったのは、騒がしい教室と、途方にくれたヒカリだった。

 

 

「さ て と、どこにしよっかなぁ。」

 

レイは、教室をぐるっと見まわした。

ここ! ここ!と、指をさしている男子が数人いたが、今まで話題の中心にあった

少年の、隣に座ることにした。

 

 

なぜそこが空いていたかというと、今、シンジの隣に座っているアスカが、

席替えの時真っ先にシンジの隣をとり、さらに、反対隣に人が座るのを、

鋭い視線で妨げたからである。

男であるトウジやケンスケも、恐れてシンジの後ろに座ることしかできなかった。

 

 

むろん、今もアスカは、かなり、鋭い視線を叩き付けている。

しかし、この手強い転校生は、むしろそれを楽しむかのように、ひょいとシンジの

反対どなりに座った。

 

「ちょっとあんた!なんで…。」

 

「んー、なあにぃー?」

 

アスカが何かを言おうとしたとたん、レイは笑みをたたえながら、アスカを制し

た。

 

(すごいな アスカをてこずらせるなんて…。)

 

シンジは、その中心にいることもわからず、ただ感心していた。

 

「ねえ、君、名前はなんていうの?」

 

レイは、もっともな質問をした。

 

「碇 シンジよ!!」

 

「ふーん、碇君かぁ、ねえ、シンジ君って呼んでいい?

あっ、それともシンちゃんがいいかなぁ。」

 

「なっ 、ちょっ、なんで!! だめに決まってるじゃない!!」

 

「ねえ、となりの人はなんていうの?」

 

「アスカよ!! 惣流 アスカ ラングレー!!」

 

「ふーん、アスカちゃんかぁ、いい名前ね。」

 

さっきからシンジは、一言も話さないまま話は進んでいった。

うるさかった教室も、今は静まり返って、三人、いや二人のやり取りを聞いてい

る。

そしてシンジがついに言葉を発した。

 

「何でアスカはそんなに怒ってるの?」

 

シンジにとっては、もっともな質問であった、しかし、その答えを知らないのは

この教室で、アスカとシンジだけであろう。

 

「べっ、べっつに怒ってなんかいないわよ!!」

 

そう言ってアスカはそっぽを向いてしまった。

 

「怒ってるじゃないか…。 綾波 レイ 、さんだったよね?」

 

「そうよ、なにかなぁ、シンちゃぁん」

 

その言葉が聞こえたとたん、辺りが火の海になったかと思うような視線が、二人を

襲った。

 

シンジは少し脅えながら、慎重に言葉を選んで話した。

 

「あ、あの、今朝は、ごめん、ね 、ぶつ かっちゃって 、ね。」

 

レイはあいかわらずだ。

 

「ああ、いいのよ、あれは私も悪かったんだし。

それに、パンツの一枚や二枚、見られたってどうってことないわ、

あ、な、た、にならね。」

 

レイの言葉が終わった後には、奇妙な沈黙が広がった。

アスカは、怒りにぷるぷるし始めている。

 

 

(このぐらいにしとこっかな。)

 

レイはいままでの、にやにや笑いをやめて、素直な笑顔に戻していった。

 

「アスカさん、ごめんなさい。 碇君もごめんね。」

 

「へ?」

 

アスカとシンジは、ほとんど同時に言った。

突然のことに、アスカの怒気も消えてしまったようだ。

 

「ごめんね、二人ともとっても面白いから、ちょっとからかってみたかったのよ。

ほんとに許して、とくにアスカさん。」

 

「えっ…、 あたしは、別に…。」

 

「私、ずっとこんなに楽しい友達が欲しかったのよ。

おねがい、二人とも私の一番最初の友達になって。」

 

その言葉に含まれる、深い意味までは分からなかったが、レイの真剣な口調と、笑

顔で、彼女が本気であることが分かった。

アスカとシンジは、多少戸惑いながらも うなずいた。

 

「わかったわ、多少腹も立ったけど、ほんとにやな奴じゃあないらしいから。

友達になりましょ。」

 

アスカは、間にあるシンジの机の上に手を出した。

そして、レイと握手をした。

 

「ぼくも、友達になるよ、よろしく。」

 

シンジは笑顔でそういった。

アスカもめったに見れないような、きれいな笑顔で。

 

アスカは、今までの怒りとは少し違う心の痛みを感じたが、気にしないことにし

た。

 

(いい笑顔ね…。)

 

 

「よろしくね碇君。」

 

 

 

そうしてすこしたった後、レイは、シンジの友達であろう少年達の方に向かって

あいさつをした。

 

「あなたは?」

 

「ぼ、ぼくは相田 ケンスケであります。

趣味はカメラと、軍隊物を集めることです」

 

ケンスケはなぜか、上官に物を話しているかのようになっていた。

 

「そう、よろしくね。 そちらのジャージのかたは?」

 

「わいは、 鈴原 トウジ、よろしくな。

なんや、うまいことやりおってからに。 このクラスで一番強い女を味方に付けたん

やから、もう恐いものなしやで。

心配することなんてなんもあれへん。」

 

「ふーん、そうなんだぁ、 っとっと、ほんとにそうみたいね、

すごい顔で、鈴原君のこと見てるわよ。

とにかくよろしくね。」

 

レイとトウジが話している間に、今までおろおろしていたヒカリが、側にきてい

た。

 

「すーずーはーらー 、アスカに向かってなんてこと言うの! まったく…。

綾波さん、私は洞木 ヒカリ、このクラスの学級委員長をしています。

わからないことがあったら何でも聞いてね。」

 

「わかったわ、ありがとう、よろしくね。」

 

 

こんな調子で、放課後までかかってすべてのクラスメートと話をし、名前を覚える

までになった。

この調子なら、クラスに溶け込むのに、三日もいらないと思われた。

 

 

 

そして放課後

 

週番のトウジと、それにいやいや?付き合うヒカリを残して、それぞれが帰る準備

していた。

 

「なあシンジ、あそこのゲーセンに新しいのが入ったんだ。

行かないか?」

 

ケンスケはシンジを誘った。

 

「だめよ! 中学生ともあろうものが、より道しないで帰るの!」

 

シンジはすこし行こうかな、と思ったが、アスカに断られてしまった。

 

「ちぇっ、まあしょうがないか、二人で仲良く帰ってくださいねっと。」

 

ケンスケは、少しすねたように言った。

 

「なんですって!!何であたしが仲良く帰…。」

 

「あの…、私も一緒に帰っていい?」

 

そばで話を聞いていたレイは、すこしすまなそうにたずねた。

 

アスカは一瞬なんで?と思ったが、

 

「ああ、そうね、あそこの角で会ったんだから、途中まで一緒じゃない。

いいわよ、一緒に帰りましょ。」

 

レイは、ほっとしたようにお礼を言った。

 

(そうか、転校初日だもんな、いろいろと不安もあったんだ。)

 

シンジは、そんなレイの様子を見て思った。

 

 

 

アスカとシンジとレイは、歩きながら相手のことを尋ねあった。

 

「あの、アスカさんは、どこに住んでるの?」

 

「あの角を真っ直ぐ行った先にあるマンションよ。

それから、アスカさんなんて変な呼び方しないで、アスカ、でいいわよ。」

 

「わかったわ、じゃあ私のことも、レイって呼んでくれる?」

 

「いいわよ、 レイ。」

 

名前を呼ばれるとレイは、少し恥ずかしそうにしていたが、とてもうれしいよう

だった。

 

「綾波さんは、どこに住んでるの?」

 

シンジは尋ねた。

 

「私もあの角を曲がって、ちょっと行った先のマンションよ。

私も、さん、なんて付けなくてもいいわよ。

私は、レイでも構わないけど、なんだか後が恐そうだからやめとくわ。」

 

アスカは何か言いたそうにしていたが、黙っていた。

 

「碇君は? どこに住んでるの?」

 

「僕もアスカと同じマンションに住んでるんだよ、部屋も隣だしね。」

 

「ちょっ、シンジ! 余計なことまで言わなくてもいいのよ!」

 

「なんで?」

 

「へぇぇーー、ふぅーん。」

 

「なによ!」

 

「幼なじみでぇ、同じマンションでぇ、家も隣でぇ、学校に一緒に通っててぇ。

なんだかとってもいい感じじゃないの、ふたりぃー。」

 

レイは先ほどのにやにや笑いになって、二人をかわりばんこに見ている。

 

「べっつに関係ないわよ、たまたま! たまたまよ!!」

 

「なるほどねぇー。」

 

「ほら、もう角よ、さっさと帰んなさい!」

 

「へぇー 、それじゃあねー 。 ふーーん…。」

 

レイはわざとらしく、ぶつぶつ言いながら、シンジと朝ぶつかった角で別れた。

 

 

「まったく…。」

 

「アスカ、顔赤いけど大丈夫?」

 

アスカは自分の顔が、赤くなっていることに気が付いていなかったので、急にあら

ぬ方向を見ながら、叫んだ。

 

「だいじょうぶよ!!

だいたい、あんたもちょっとはフォローしなさいよ!」

 

「なんでだよ、僕はそのまんまを言っただけじゃないか。」

 

「なに言ってんのよ、学校で変な噂でも流れたらどうするつもりなのよ。」

 

「変な噂って?」

 

「それは…、その…。」

 

「なに?」

 

「… なんでもないわよ! ばかシンジ!! ほら さっさと歩いた 歩いた!」

 

「… 変なアスカだな。」

 

このあと、顔の赤いアスカと、そんなアスカを見て不思議そうにしているシンジ

は、マンションにつくまで、ほとんど口をきかなかった。

 

 

 

そして、マンションのそれぞれの家の前についた後、

 

「それじゃあ後でね。」

 

アスカはそう言って、自分の家に入っていった。

 

後でね、とは アスカの母キョウコが、今日も研究所に泊り込みの場合は、また後

で、碇家にお世話になりに行く、ということである。

アスカは、自分の家でそれを確認し、不在の場合は、夕飯、風呂 、そして次の朝

までを、碇家で過ごすのである。

 

碇家には、アスカの部屋が、自分の家とは別にもう一つ用意されている。

それが、シンジの部屋の隣、にあるのである。

 

アスカが気にしているのは、このことで、いくら幼なじみとはいえ、一年の半分以

上一緒に暮らしていると、言ったら大変なことになるからである。

 

レイは、誤解せずにすんだようだが、シンジはそんなことを気にもせずに、さらっ

と言ってしまおうとするので、アスカも気が抜けないのだ。

 

そして、今日もまたキョウコは不在である。

 

<続く>

tetrapot@msn.com 1998 3/9 HAL



HALさんの部屋に戻る/投稿小説の部屋に戻る
inserted by FC2 system