終わりの7日間

〜 1日目・シンジ 歪んだ安らぎ 〜

神宮寺 


 目が覚めると、世界は未だ安眠をむさぼっていた。
ここへ来るまで知らなかったのだが、夜というものは全ての者が眠る時間なのだ。
無論、起きている者もいるが、彼らは眠っている者を起こさない様に細心の注意を払
う。そうしなければ生きてはいけないからだ。だから、夜はこんなにも静かなのだ。
今にして思えば、あの街や先生の所にいた時は、世界が何故眠らなかったのか、自分
が何故、そんな騒がしい場所で眠れたのか、不思議でたまらない。いや、逆か。あの
街では、いつも眠らない誰かがいたからこそ、誰もが安心して眠れたに違いない。
 
 あの街とここではルールが違う。ただ、それだけのことだ。
 
 そういえば、ここへ来た当初は、夜が静かすぎて恐くて不安で中々眠れなかった。
ルールが違う事を頭でわかっても、身体ではわからなかった。隣で眠っている彼女の
寝息を聞いて、時には抱きあったまま、ようやく眠れたというのに。今では静かでな
いと眠れない。まったく、慣れとは不思議なものだ。
 
いや、これは偽善だ。嘘だ。偽り以外のなにものでもない。
何故なら、僕はあの騒がしい街でも、夜眠る為に、もっと別な騒音を必要とした。
DATが奏でる騒音で、外の騒音を打ち消して、初めて眠る事ができた。
そして、この場所も、本当はそんなに静かではない。あの街とは奏でる音の種類が違
うだけで、時としては、あの街よりも騒がしい音が、聞こえて来る。
 
春に、風がたてる雄たけびの声。
夏に、獲物を追うけもの達の声。
秋に、生を貪る虫達の歓びの声。
冬に、寒さを堪える木々の悲鳴。
 
僕はそんな音を打ち消して欲しかった。
だから、彼女の寝息を側で聞きたかった。
だから、彼女を抱きしめていたかった。
捨ててしまったDATの代わりに?
そうだ。でも、違う。
DATの奏でる音こそ、代わりなのか?
そうかもしれない。でも、確信がもてない。
僕は、何を求めていたのだろう?
わからない。わからない。でも、何かが足りない。何かが欲しい。
でも、その何かがわからない。
 
僕の横で、彼女が寝ている。安らかに寝息を立てている。
 
彼女のぬくもりを感じる。熱いくらいに彼女の体温を感じる。彼女が生きている証。
 
当り前の現実。当り前になった現実。当り前にした現実。
 
それが、僕の心を安らがせる。
それが、僕の心をいらだたせる。
 
僕はゆっくりと上体を起こした。傍らで寝ている彼女を起こさない様に苦労して。
夜、寝ている者を起こさない。それが、この場所のルールで、僕はここの住人なのだ。
 
窓から差し込む星明かりが、彼女の寝顔をモノクロームの写真の様に、その白い肌を
妖しく色めかせる。気がつくと、僕の視線は彼女に釘付けとなっていた。今までに、
何十回、何百回も見つめているが、それでも僕は見つめずにはいられない。
 
そして、僕はゆっくりと両手を伸ばし、彼女の白い首に指をはわした。
彼女の首は温かい。彼女は生きているのだ。
僕の指に頸動脈の鼓動が伝わる。彼女は生きているのだ。
彼女の首が呼吸に合わせて上下する。彼女は生きているのだ。
僕が指に力を込める。彼女は生きていなくなるのだ。
 
夜、起きている者は寝ている者を起こしてはいけない。それが、ここのルールだ。
だから、僕は彼女の首を絞める。そう、夜起きている者は寝ている者を起こさない限
り、何をしても自由なのだ。仮に、寝ている者が永遠に目を覚まさないとしても。
 
 
 ボクハ ナゼ カノジョノ クビヲ シメルノダロウ?
 
 
僕の中で、誰かの、僕ではないが、でも、僕でしかない声が、響く。
僕は自分で分かっている。ここへ来る前から彼女の首を絞めているのだから。
 
 
 ソレガ 終わり ダカラダ
 
 
僕の中で、別の誰かの、僕ではないが、でも、僕でしかない声が、答える。
でも、僕は分かっている。最後まで首を絞める事がない事を。
 
 
 デハ、 ナゼ ユビニ チカラヲ コメナイ?
 
 
僕の中で、誰かの、僕ではないが、でも、僕でしかない声が、再び、響く。
もう何回も、何十回も、何百回も響いた呪文を響かせる。
 
 
 ソレデ 終わり ダカラダ
 
 
僕の中で、別の誰かの、僕ではないが、でも、僕でしかない声が、再び、答える。
何度も、何十回も、何百回も答えて、満足出来なかった答を繰り帰す。
 
 
 デハ ナゼ カノジョノ クビヲ シメル?
 
 ソレガ 終わり ダカラダ
 
 デハ、 ナゼ ユビニ チカラヲ コメナイ?
 
 ソレデ 終わり ダカラダ
 
 デハ ナゼ カノジョノ クビヲ シメル?
 
 ソレガ 終わり ダカラダ
 
 デハ ナゼ・・・・・・・・・・
 
 
不意に彼女が身をよじらせる。
起きている者は、寝ている者を起こしてはいけない。それが、ここのルールだ。
いや、僕は分かっている。それがいい訳に過ぎない事を。
僕は、最後まで彼女の首を絞める事がない事を。そして、この場所のルールとは、僕
が彼女の首を最後まで絞めない為に作り上げた偽りに過ぎないのだと言う事を。僕が
彼女の首を絞める為に作り上げた偽りに過ぎないのだという事を。僕が彼女の首を絞
める事で安らぎを得る為に作り上げた偽りに過ぎないのだという事を。
 
ベッドを降り、傍らにかけておいたカーディガンを羽織り、外へと向かった。
勿論、彼女を起こさない様に苦労して。
夜起きている者は、寝ている者の眠りを妨げてはいけない。
この場所のルールが偽りでも、それを僕が守っている限り、それは真実なのだ。
 
一歩、家の外へ出ると、草原を渡ってきた風が僕の頬をなぶった。
今はまだ、秋の始めだから、その冷気がほてった肌に心地好い。もう一月も経つと、
そんな感覚は寝言にしかならなくなるが。
 
そう、この場所は、まだ冬がある。四季がある。
この家を世話してくれた最上さんの言葉によると、昔に比べると遥かに暖かくなった
そうだが、ここへ来るまで冬を知らなかった僕らにとっては十分すぎる程寒い冬だ。
 
いや、馬鹿な事を言っている。寒いから、冬なのだ。
もうじき、その冬が来る。ここへ来てから3度目、あの街を出てから4度目の...
いや、あの街には冬がなかったから、やはり、3度目の冬だ。
 
そう、あの街を出てから、もう3年が経っているのだ。
あの街で過ごした時間は、ほんの1年に満たなかったと思う。 無論、僕が物心つく
前に過ごした時間を別にして。あの時、僕は何をしていたのだろう。何故、あの時は
現実は僕にあんなにも冷たかったのだろう。今の現実は、僕に、いや、僕達に優しい。
満天の星々が僕達を見下ろしている現実。草原の丘の上の一軒家で彼女と二人で暮ら
すという現実。お伽話の様な現実。夢の様な現実。あの頃の現実に比べて.....
 
エヴァに乗る事は嫌だった。最初は父さんの命令だった。逃げたかった。でも、逃げ
る事は出来なかった。僕が逃げれば、僕の腕の中で息を荒くしている包帯だらけの女
の子がエヴァに乗る。僕の替わりに。だから僕はエヴァに乗った。それが、僕がエヴ
ァに逃げ込んだ現実だった。でも、エヴァに乗ると皆が誉めてくれた。皆が優しくし
てくれた。エヴァに乗ったら友達が出来た。だから、すぐにエヴァに乗る事はそんな
に嫌いじゃなくなった。そして、父さんも誉めてくれた。あの時は嬉しかった。あん
なに嫌っていたのに、父さんに誉めてもらったら、自分に嘘をついていた事に気がつ
いた。僕は父さんが嫌いじゃなかったんだ。嫌いだったのは、僕を誉めてくれない父
さん。僕を見てくれない父さんだったんだ。だから、エヴァに乗る事が好きになった。
エヴァに乗れば、皆が誉めてくれる。皆が優しくしてくれる。父さんが誉めてくれる。
父さんが僕を見てくれる。でも、それも嘘だった。それも偽りだった。父さんは僕を
誉めてくれたんじゃない。エヴァに乗る僕を誉めてくれたんだ。皆も僕に優しくして
くれたんじゃない。エヴァに乗る僕に優しくしてくれたんだ。僕を誉めてくれたんじ
ゃない。僕に優しくしてくれたんじゃない。僕の乗った初号機が僕の友達の乗ったエ
ントリープラグを握り潰した時、その事が分かった。だから、僕は逃げた。エヴァに
乗る事も止めた。
 
でも、逃げられなかった。
 
僕が逃げる事で大勢の人が死ぬ事がわかったから。
僕が逃げる事で大勢の人が傷つく事を思いしらされたから。
 
だから、僕はもう一度エヴァに乗った。
 
いや、ひょっとしたら、あの時、エヴァに乗る事が僕にとって逃げる事だったのかも
しれない。僕がエヴァに乗らなければ、死ぬという現実から逃げる唯一の手段だった
のかもしれない。
 
そして、僕は帰って来た。逃げる事ができない現実に。エヴァに乗るという現実に。
でも、現実は何処か壊れはじめていた。何かが終わりはじめていた。
 
アスカは家によりつかなくなった。たまに帰ってきても、部屋にこもったまま出てこ
なくなった。僕は学校に行かなくなった。誰も行けと言わなくなったから。行っても
そこには僕の居場所はない。ケンスケや委員長にどんな顔を見せればいいのかわから
ない。逃げる場所がまたひとつなくなった。僕の逃げる場所は、自分の部屋だけにな
った。いや、ひょっとしたら、そんな場所などはじめからなかったのかもしれない。
DATが僕の耳にささやいている間だけが、僕には逃げる場所がある。そう思えたの
かもしれない。いつの間にかDATが僕の耳にささやいてくれる騒音なしには眠れな
くなった。いや、それは前からか?どっちだったのだろう?わからない。わからない。
どうでもいい。ミサトさんは、恐くなった。ある日の夕食の時、ミサトさんが言った。
『加持君は多分生きていないわ』明日は雨が振りそうねとでも言うような口調でそう
言った。多分、予感があったのだろう。あるいは逃げ場がない現実に感覚が麻痺した
のだろう。僕は、その言葉をそのまま受入れた。アスカはその言葉を聞いていなくな
った。自分の部屋に帰ったのだろうか?いや、ミサトさんと罵りあっていた記憶もあ
る。どっちだろう?もしかしたら、最初から居なかったのかも知れない。夕食には隣
にアスカがいて、ミサトさんが目の前で美味そうにビールを飲んでいるという幻想を
僕は見ていたのかもしれない。偽りの家族の夢を僕はみていただけなのかもしれない。
 
そして、16番目の使徒が、あの街を消してしまった。
 
綾波レイと一緒に。
 
彼女は僕が最初にエヴァに乗った理由だった。
 
そう、僕がエヴァに乗れば、彼女は乗らなくてすむ。違う。僕がエヴァに乗れば、彼
女が死ななくてすむ。違う。違う。違う。違う。違う。僕がエヴァに乗れば、彼女を
見殺しにするという現実から逃げることが出来る。だから、僕はエヴァに乗ったんだ。
誰かが死ぬという現実から逃げるには、僕が死ぬという現実へ逃げ込むしかなかった。
でも、綾波レイは死んだ。彼女は死んだんだ。僕の逃げる場所がまた一つなくなった。
 
でも、それも嘘だった。彼女は生きていた。僕は仔犬の様に喜んで彼女の元へ飛んで
行った。それなのに、彼女は言うんだ。綾波レイと同じ顔、同じ声で彼女は言うんだ。
「いえ、知らないの。たぶん、私は3人目だと思うから」やっぱり、嘘だったんだ。
綾波は死んだんだ。綾波はもういないんだ。では、僕は、何処へ逃げればいいんだ?
 
そんな時、僕の前にリツコさんが現れた。リツコさんは、僕をいろんな所へ連れて行
ってくれた。僕にいろんな事を話してくれた。僕にいろんな物を見せてくれた。そし
て、リツコさんは言った。LCLの海の中で、僕を見つめる綾波達の前でこう言った。
「少し待っててね。全てを終わらせてくるから」そう言って優しく微笑んだ。でも、
リツコさんは帰って来なかった。どのくらいの時間そうしていたのだろう。僕は何も
言わない綾波達を無言のまま見つめていた。彼女達は奇麗だった。でも、僕は何故か
涙がでた。涙が止まらなかった。綾波が死んだと聞いた時流れなかった涙が、今度は
止まらなかった。綾波は僕と同じだ。逃げる事もできないんだ。
 
どの位そうしていたか分からない。いつの間にか冬月副司令が僕の前に立っていた。
そして、僕に父さんとリツコさんが死んだ事を告げた。僕はその言葉に何と答えたの
だろう?覚えていない。そして、冬月副司令は、小さな機械を取りだし大声で叫んだ。
「最初からこうすればよかったのだ」そしてボタンを押した。LCLの中の綾波達は
壊れていった。壊れて行く彼女達も奇麗だった。
 
この後、僕は何をしたのか自分でよく覚えていない。確か葬式をした様な記憶がある。
誰の?綾波の?違う、彼女は生きている。生かされている。死へ逃げる事すらできな
い現実の中で。そうだ。父さんの葬式だ。僕は黒い服を着て、ただ茫然と座っていた
様な気がする。ミサトさんにしっかりしなさいと言われた気がする。ケンスケや委員
長と久しぶりに会った気がする。そういえば、リツコさんの葬式はどうなったんだろ
う?あぁ、父さんと一緒にやったんだ。二人が死んだのは、エヴァ実験中の事故とし
て処理したから。リツコさんが父さんを撃ち殺して、自分の頭も撃ちぬいたなんて事
は、ごくわずかな人しか知らないんだ。そういえばアスカはどこへ行ったのだろう?
 
そんな僕の前にカヲル君は現れた。彼は僕を好きだと言ってくれた。友達になってく
れた。僕は彼の言葉に飛びついた。ようやく、逃げる場所ができたと思った。でも、
今度も嘘だった。カヲル君は使徒だった。僕を裏切った。そして、僕は彼を殺した。
「自らの死。それが唯一の絶対的な自由なんだ」さわやかな笑顔と共に、カヲル君は
そう言った。多分、カヲル君も僕や綾波と同じなんだ。逃げる事ができないんだ。死
ぬこと以外に。でも、ずるいよ。逃げる為に僕を使うだなんて。一人で逃げてしまう
だなんて。僕は死へ逃げるだなんて恐くて出来ないのに。脅えながら生きる事にしが
みつく事しかできないのに。
 
だから、僕は彼を殺したんだ。
 
僕の指には、エヴァを通じて伝わってきたその感触が残っている。握り潰した血潮の
熱さを覚えてる。僕の耳には、エヴァを通じて聞えてきたその音が残っている。握り
潰した時に身体が上げた悲鳴を覚えてる。彼の首が立てた水音を覚えている。僕の目
には、エヴァを通じて見たその光景が残っている。人の形が壊れて行くのを覚えてる。
首が飛ぶのを覚えている。最後の彼の笑顔を覚えている。覚えている。覚えている。
畜生。覚えているんだ。忘れられないんだ。忘れられないんだ。忘れたいのに。違う。
覚えているのに、いや、忘れたくないのに、違う。違う。違う。違う。違う。覚えて
いたいのは、彼が僕にくれた逃げ場所と過ごした時間。忘れたいのは、彼が僕を殺し
たという現実。でも、現実が現実なんだ。
 
そして、夜、僕は彼女の家を訪ねた。彼女は見ていたから。僕がカヲル君を殺すのを。
「君達には未来が必要だ」カヲル君はそう言った。僕を見た後、誰かを見上げて。そ
うだ。彼女は見ていたんだ。見下ろしていたんだ。だから、僕は彼女の家を訪ねた。
彼女を殺す為に?そうかもしれない。でも、できなかった。首を絞めようとしたけれ
ど、綾波と同じ口からもれる意味をなさない声が、初めて会った時の綾波と同じ声だ
と気がついたら、最後まで絞める事ができなかった。そのかわりに酷い事をしようと
した。けど、それもできなかった。僕を見つめる紅い二つの瞳が、綾波と同じ瞳だと
気付いたら、何もできなかった。僕に出来たのは裸の彼女の胸の上で、裸のまま泣き
続けるだけだった。それなのに、彼女は僕を抱きしめてくれた。そして、涙を流して
くれた。僕の為に?死んでしまった綾波の為に?自分の為に?カヲル君の為に?わか
らない。わからない。ただ、わかったのは、お互いの腕の中が逃げ場所と思えただけ
だった。僕はそこでなら、DATが僕の耳にささやいている事なしに眠れる事ができ
た。そうだ。僕と彼女はようやく逃げる場所を手にいれたんだ。お互いの腕の中に。
 
でも、夜が明けたら、僕達が逃げなければいかない現実がなくなっていた。現実は、
ミサトさんの顔をしていた。現実は、ミサトさんの不機嫌な声で僕と彼女に命令した。
「二人とも、早く服を着なさい」ミサトさんの顔は何処か寂しげで、僕達を憐れんで
いる様な気がした。僕達は黒い車に乗せられ、ネルフ本部、司令室へ連れて行かれた。
「綾波レイ、碇シンジ、両名のチルドレンの資格を抹消する」今度の現実は冬月副司
令、いや父さんが死んだから司令代行か、の声で静かにそう言った。その後、何か僕
達を慰める事を言っていた様な気がする。でも、現実なんて.....
 
「碇くん.....」
振り返ると、そこにも現実が立っていた。綾波レイと同じ顔をした彼女が、不安げな
面持ちで僕を見上げていた。紅い瞳で僕を見つめていた。
「ごめん、起こしてしまったかな?」そう言って微笑む。多分、僕は立派な偽善者な
のだろう。そうに違いない。いや、そうであって欲しい。そうでありたい。彼女は、
脅えた仔猫の様に、僕の腕の中に飛び込んできた。そして、小さな声でささやいた。
「恐かった....」僕は震える彼女を抱きしめる。何十回、何百回、同じ事をした
のかわからない腕で。そして、唇を重ねる。何十回、何百回したのと同じ口づけを。
彼女は綾波レイではない。綾波レイは、あの街と一緒に消えてしまった。でも、でも、
彼女は綾波レイでしかない。彼女は綾波レイでしかない。もう、何百回、何千回も、
感じた不安と安らぎが僕の中でせめぎあう。そして、僕は碇シンジでしかない。僕も
碇シンジでしかない。僕に彼女について何が言えるのだ?わからない。わからない。
「もう、寝よう。明日も早いんだから.....」肯く彼女を僕は家へ誘う。草原の
丘の上の一軒家に住む、都会から逃げてきた若い二人。一昔前のドラマに出てくる様
な現実。嘘ではない。でも、真実だけではない現実。やっと手にいれた安らぎと幸せ。
そう、僕達は幸せなんだ。例え歪んでいても、互いの腕の中に安らぎを手に入れた。
仮に、それが偽りだとしても、僕達が幸せだと思っている間は、それが真実なのだ。
 
だから、僕は、彼女の首を絞める。これからも、きっと.....
 

                               (つづく)



 



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