Days

by JUN


Fourth Day

 

完全なる無の世界

そこは白き世界
そこは黒き世界
そこは青き世界

そして

 

そこは赤き世界

 

 

サードインパクト

  『それ』により地球上に存在するの生命は
LCL―『生命の水』―へと還った

たった二人の除いて

 

その中で人々は

生命は例えようもない安堵の中にいた

人も、獣も、植物に至るまで
『心の壁』を取り除かれた事による
―絶対的安心感―を感じ
覚める事の無い夢の中に身を投じる

 

そこは、歓喜に満ち満ちた世界

ただ、『なにか』が足りない世界

だからこそ少年の否定した世界

 

 

そして、白き少年はそこにいた

 

 

「なるほど、シンジ君が拒絶したのもよく分かるね」

 

『道』をゆく少年の名を呟くその少年は、その顔を侮蔑の色に染める

 

「確かにここは楽園なのかもしれない

 誰かに傷つけられる事も、誰かを傷つける事も

 他人の顔色をうかがうことも、他人に合わせることもしなくていい

 ヒトが恐れる事の全てが、ここには存在しないのだから」

 

そこまで言って少年はかぶりを振る

 

「・・・・・だが同時にここは、他人と触れ合う事も、分かり合うことも

 思い合う事も、愛し合う事すらできない自分本位の世界

 ただひたすらに自慰に没頭し、愛撫し合う事を忘れた世界

 

 騙しあい、傷つけあい、恐れあい、憎しみあいながら

 触れあい、分かりあい、思いあい、愛しあう事こそ

 ヒトだけに許された真の安らぎだというのに・・・・・

 

 僕らが何よりも欲した世界を捨て

 こんな下らない世界に逃げ込むなんて・・・・・

 本当に・・・・・侮蔑に値するね、彼らは」

 

使徒とは完全な単体生命体

彼らは恐らく世界でもっとも孤独な存在だったのだろう

仲間も、同類も無い『完全な単体』ゆえに

唯一、群生生命体となった第18使徒『リリン』に憧れ

せめて原初たるアダムに還り、安らぎを得ようとした

 

その最もたるところにいたのが

この白き少年であり

 

その憧れに最も近いところにいたのが

今罪の道を歩く青き少年だった

 

「かつて碇ユイは言った

 『生きていれば何処でも天国になる、生きているのだから』、と」

 

「彼らにとってここは天国のような世界なのだろうね

 だが、この世界で彼らは本当に『生きている』のだろうか

 この己の無い、永遠の世界において生きるということは

 本当に『生きている』ということなのだろうか

 ・・・・・僕には判らないね」

 

少年はそこまで呟いて表情を変える

その顔に先程までの侮蔑の色は無い

 

苦しげな、余りに弱々しい表情

 

その顔を彩るのは悲しみ

 

「そして彼女の息子である彼はその言葉とはまったく反対の道を選んだ

 己を裁く為に、己を傷つける為に、己を罰する為に、己を殺すために

 ガラスのように繊細だった彼の心は

 繊細すぎたが故に壊れようとしている」

 

少年の頬を涙が伝う

己が友を思うゆえの悲しみ

彼が持ちえなかったはずの真の感情

使徒である彼が何よりも欲した感情の一つ
              モノ

 

確かにその道を選んだのは彼である

―この『歓喜の世界』を否定した青き少年―

 

だが

 

送り出したのは自分達だ

 

―彼がそれを望んだ―

―彼が自分で決めた事だから―

―人に流される事しか知らなかった彼が―

 

それは間違う事の無い事実である

 

しかし、それでも彼は悲しみを背負わずにはいられなかった

 

 

「僕達は君を君の望むがままにその世界に送り出した

 だがそのために君は今自ら壊れようとしている

 

 誰よりも人との触れ合いを望んだ君が

 誰よりも傷つきやすいのに

 誰よりも傷つけあう事の意味を理解したはずの君が

 そして誰よりも優しかったはずの君が

 

 

 誰か教えて欲しい

 

 

 『僕達は本当に正しかったのか』、と・・・・・・・・・・・」

 

 

そう

彼もまた己を行いに罪の意識を持つ者であった

 

彼が何よりも愛した少年を

初めて好意という物を感じた少年を

 

あの地獄に送り出したのは

紛れも無い自分であったが為に

 

彼もまた己を苦しめていた

 

 

 

 

「なにが正しくてなにが間違っているのか

 それは誰にも判らない事よ」

 

「・・・・・リリス」

 

彼の背後に現れ、彼の問いに答える少女

 

蒼銀の髪と赤き瞳を持つ

 

純白の天使

 

「ダブリス、私達が正しかったのかどうかは判らないわ

 でもこれは彼が決めた事、私達は彼を信じる事しかできないわ」

 

「だがそれでも!・・・・・っ!?」

 

彼は振り返り何かを言おうとした

自分でも分からない『何か』を

 

だができなかった

 

彼女の瞳に光る涙を見た為に

 

「・・・・・すまない、辛いのは君も同じなんだね」

 

「・・・・・それでも、私には見ていることしかできないから」

 

おそらくこの白き少女は恋をしていたのだろう

 

あの優しく、傷つきやすかった少年

 

今は自ら壊れようとしている青き少年に

 

『あのとき』の自分は気付く事は無かった

 

『今』は気付いたであろうその感情

 

 

遅かった

 

 

それ故の辛さ

 

誰でも己の愛する者が壊れていく様など見たくは無いだろう

 

 

だが

 

 

この少女は見続けなくてはならない

 

それ故の辛さ

 

 

 

「リリス、教えてくれ

 これから彼は『何処』に向かうのかを・・・・・」

 

「・・・・・分からない

 けど、このままではまた・・・・・」

 

「また・・・なのか」

 

白き少年は顔を歪め

青き少女は涙を流す

 

共に少年の未来に思いをはせて

 

恐らく訪れるであろう未来に

 

そう

 

『未来』に

 

 

 

 

 

 

 

「碇君・・・貴方は『また』繰り返すの?」

 

 

 

 



(つづく)



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