【エヴァンゲリオン幻戦記】

 

 

ガーーーーッ

ガンッ

岩に乗り上げたジープはそのまま勢いに乗ってジャンプする。

ガガッ

着地の衝撃で身体が大きく揺さぶられた。シートベルトをつけるべきなのだろうがあいにくその暇がない。

「参ったわねぇ」

爆走するジープのハンドルを無造作に片手で操作しつつ彼女はぼやいた。

二十代後半の美女だ。

強風になびく長い黒髪と整った顔立ちは彼女が生粋の日本人であることを示し、乗り心地の悪い運転席に納められた肢体は、黒いコンビネーションと赤いジャケットで覆われていてなお、彼女が女性であることを強調している。その脚は力強くアクセルを踏み、空いている片手はライフルのマガジンを排出すると手探りで予備のマガジンを引き寄せている。さすがに片手でライフルを撃つほど酔狂ではないのであくまで準備だけだ。ライフルの弾の補充が終わると助手席に放り出していた拳銃に持ち替える。

申し訳程度についたバックミラーには数台のホバイクが映っている。

ホバー+バイク略してホバイク。水上走行も可能です。以下省略。

「…じゃないでしょ!」

ミラーに映る姿をたよりに手だけを後ろに向けて数度引き金を引く。

もっともこのような状況では当たるべくもない。実際彼女も当たることを望んではいない、とりあえず牽制になればいい。もっとも相手も撃ち返してこないところを見ると取るに足らない相手と思われている様だ。ちょっとシャクだが今は好都合だろう。問答無用で蜂の巣にされるよりはまし。

(…とはいえどうしたものかしらねぇ)

はぁ、とため息をつく。その瞬間バックミラーで何かが光り、咄嗟にハンドルを切った。

「!?」

ジュッ

先刻までジープが走っていた方向の地面が黒く焦げる。

レーザーが撃ち込まれたためだ。もっとも出力は絞ってあるらしい。どうやらタイヤを撃ち抜くなり何なりして止めようという気らしい。昨今の機械人形にしてはなかなか慈悲深い。

「だからっておとなしくつかまってたまるもんですか!」

 

 

 

ザッ

小高い丘の上に彼は上った。

辺りをざっと見渡してみるが、相変わらず荒野が続くだけだ。廃墟なり都市の残骸なりがいくつか転がっている。

乾燥した風が吹いた。鼻がむずむずする。

(まだこの風には慣れないな)

身体は慣れているのかもしれないが頭の方が慣れようとしない。自分はやはりあの常夏の街に慣れすぎている。

「?」

遠くに土煙が見えた。

バックパックから双眼鏡を取り出して目を凝らす。

「…乗せてもらえるかな?」

 

 

彼女は蛇行運転を余儀なくされていた。

相手は弾切れの無いのをいいことに撃ちまくっている。彼女の卓越したドライビングテクニックは直撃を避け続けていたが、直進できなくなった分だけ速度は落ちるので、両者の距離は徐々に詰まってきている。

このままでは捕捉されるのも時間の問題だろう。

「…こんな所で死ぬなんて冗談じゃないわよ」

いきなり殺されはしないかもしれないがどちらにしろたいした違いはあるまい。

 

 

女性…髪が長いのでたぶん…が運転しているジープが機械人形に追われているらしい。

「3台か…さて」

双眼鏡をしまうと肩のライフルを下ろす。

「出力強、長距離射撃モード」

つぶやくとライフル内でカチリと音がした。

何かの回転音が僅かに聞こえる。

ライフルを構えた後でライフルに付属したヘッドバンドをつける。

自動的に右目にサイトグラスが降りてきて、各種データがグラス上に表示される。

片膝立ちになり両手でライフルを構える。

遥か遠くのジープを視界にいれると、サイトグラスに自動的に補正された画像が投影され、その右上に距離が表示される。

「…982m。なんとかなるか…」

こともなげに彼はつぶやいた。

−STANDBY OK−

メッセージが表示された瞬間彼は引き金を引いた。

 

 

 

 

【第一幕 幻想(まぼろし)】

 

 

 

 

 

 

「!?」

バックミラー上をまばゆい閃光が横切った。

次の瞬間、機械人形が一体光ったかと思うと、ホバイクごと爆発し、あたりに破片を巻き散らす。

残りの2体が反応するよりも早く2つめ3つめの閃光が2体を撃ち抜き1体目の後を追わせた。

 

キキィ

ジープを止めると背後の残骸を振り返る。

さっきの閃光はおそらくレーザーか何かの類だろう。人形達のライフルよりも遙かに高出力の様だ。

彼女は射線から射手のいるであろう方角を推測する。

「………え?」

その方向にはただ荒野が続いているのみで人の姿はまるでなかった。ただし、遠くにやや小高い丘が見えた。だがそこまでは1kmやそこらはあるだろう。

「あそこから撃ったっていうの?」

スナイパーライフルかなにか狙撃用の銃で静止目標を撃つのならわかるが、ばりばりの実戦用の兵器で高速移動中の物体を狙撃できるのか?誘導可能なミサイルとは違うのだ。

それでも彼女の頭は常人とは違う。

あっさりその問題を棚上げし、ジープを返すとその丘に向かって走り出す。

「その顔拝んでやろうじゃないの」

 

 

ジープはかなりの速度でこちらに向かってくる。機械人形相手にカーチェイスをするだけあってそれなりに場数を踏んだ人物のようだ。

「…とりあえずヒッチハイクはさせてくれそうだな」

ライフルを担ぎ直すとベルトで固定する。

バサッ

マントを翻すと彼は丘を降りていった。

 

 

ザッ

彼女はジープを止めるとその人物を見た。

やや長身で細身。紫色のマントで身を覆っているところが何やら妙だが、そのほかの装備はかなり玄人だ。アイボリー色のジャケットと黒のズボンは一見普通の服に見えるが十分な耐弾効果がありそうだ。右肩の辺りでマントが膨らんでいる。おそらくはライフルの類だろう。だが、その顔を見ると意表を突かれたというかなんというか…

年は16、7だろうか、背は高い方だがまだまだ少年と呼ばれる年頃だ。

少年は先ほどからじっとこっちを見つめている。

(…あんまり美人なんで見とれてるのかしら?)

自分に都合よく解釈する。

どちらかというと女性的な印象を受けるがまぁハンサムと言えなくはない少年だ。

全体的に穏和な顔もこの少年の内面をそのまま表に出している気がする。

(…別段警戒の必要はなさそうね)

そう判断すると彼女はエンジンを切りジープを降りた。

「さっきはサンキュ。おかげで助かっちゃったわ。ありがとね」

そう笑顔で言った。

「………あり?」

少年の反応がない。

「どうしたの?」

怪訝に思い少年の顔をうかがう。

「……トさん?」

少年が何か言ったがよく聞こえなかった。

「何?」

少年は再度口を開く。

「…ミサトさん?」

「!?」

初対面の相手に名前を呼ばれ彼女…葛城ミサトは咄嗟に身構えた。だがすぐに狼狽してその体勢を崩してしまう。

「?…ちょ、ちょっと!?」

少年は両目から涙を流し泣き始めた。

「…ミサトさん…ミサトさんだ…」

少年は立ったままじっと涙を流し続けた。

「…ふぅ、一体なんなのよあなた…」

 

 

 

 

トントントン。ガサガサガサ。

小さなテントのそばで少女が忙しそうに働いている。

まだそばかすが残る可愛らしい少女だ。それでいてしっかりしてそうな雰囲気を受けるのはそれまでの経験のたまものか。

「洞木さん」

献立について悩んでいた少女に呼びかけたのは眼鏡をかけた青年だ。汚れた野戦服に身を包んでいるもののどこかしら清潔な印象を受ける。

「隊長見なかったかい?」

「え?」

「さっきから探してるんだけどいないんだよ」

「あの、隊長なら買い出しに…」

「は?」

「日向さんにはちゃんと言ってあるって言ってましたけど?」

「………」

青年ははて、と首をひねる。

…そういえば朝の打ち合わせの後、

 

「ふぅ。じゃここまでにしましょ。“後お願いね日向君”」

「はい、わかりました」

 

「そういうことか…」

かくっと頭をたれる青年。

「洞木さん。すまないけどお茶を一杯…」

「はい」

苦笑すると少女は隅に置いていたやかんをとった。

 

 

 

 

「…すみませんでした」

やっと泣き止んだ少年がそう謝る。

「まぁいいけどさ」

ポリポリと頭をかくミサト。泣かれたからって怒るわけにもいかないので困る。

「それで?」

ミサトが促すと少年は名乗った。

「碇シンジです。…えーと初めまして、葛城ミサトさん」

「碇、シンジ君ね」

(どっかで聞いた事あるような無いような…)

なんとなくもどかしい想いを抱きつつもミサトは続ける。

「…それで、なんで私の名前を知っているの?」

そう、それがそもそもの問題だ。

名は売れているが顔は売れていないはずだ。それなりにヤバイ仕事をしている者としてはそうでないと困る。

見ると少年はなにやら考え込んでいる。

(…言い訳でも考えてんのかしら?)

「あっ…えーと、聞くところによるとミサトさんは…あ、その…ミサトさんって呼んでもいいですか?」

「? …いいけど。初めてね、そういう呼ばれかた」

(もっぱら葛城の方で呼ばれるものね。葛城隊長とか葛城の姐御とか…)

「まあ別に呼び捨てでもいいわよ、ふふ」

そう言うとミサトは悪戯っぽく笑った。少年も合わせて笑う。

「相変わらずですねミサトさんは…あ、すみません。えーと話を戻しますとこの界隈ではミサトさんの名前は有名だと聞きましたけど?」

「まぁそれは認めるけど、表の交渉なんかはもっぱら日向君がやってるから、あたしの顔を知っている人間は限られるわよ?」

(…さぁどう答える?)

ずいっと追求の構えに入ったミサトだったが、少年の返答は予想外だった。

「僕がミサトさんの顔を忘れるなんてことは絶対にありません」

少年はきっぱりと断言した。

そこにこもった感情にやや顔を赤くするミサト。

「そ、そう?でもどこかで会ったかしら?」

少し少年の顔が翳る。

「…いずれ話します。それじゃ行きましょうか」

「へ?」

いきなり話題が変わる。

(…ちょ、ちょっと今の話はどうなったわけ?それに…)

「行くってどこへ?」

今度は少年が怪訝そうな顔を浮かべた。

「? ミサトさんが向かってた所へですよ。最初は適当な所まで乗せていってもらうつもりだったんですけど、ミサトさんに会えたのは幸運でした。ミサトさんのアジトを探す手間も省けましたし…」

「ちょ、ちょっと」

訳が分からないミサトを見て苦笑するシンジ。

「…掃除、洗濯、炊事。家事なら何でもござれです。家政夫としてしばらく雇ってみませんか?」

「家政婦なら間に合って…」

なにやらペースに巻き込まれそうになるミサト。

「ちょ、ちょっと待って」

…しばし頭を整理して結論を出す。

「……ま、いっか」

その後で苦笑する。作戦中には絶対選ぶことはないが実に自分らしい結論だ。

「?」

見るとなにやら少年も同じように笑っている。

「ふふ。ま、いいわ。とりあえず話も聞きたいし、乗って」

「はい」

助手席のドアに手をかけたところで思い出したように少年が言った。

「あ、安全運転でお願いしますね」

「何のこと?」

 

 

ジープは快調に走っていた。とはいえ荒れ地を走っている以上そんなに速度は出ないのだが。

「聞きたいことがあるんだけど…」

「今の時点で答えられることなら何でも」

「今の時点、ね…」

少年…碇シンジの笑顔には罪が無い。

(ほんと何考えてんのかしらねこの子)

大半の人間は少々話せば何を考えているかわかるミサトであるが、どうやらこの少年は対象外のようだ。

「そうねぇ。とりあえずお人形さんたちをやっつけた武器に興味があるわね。普通のライフルじゃないでしょ?それにあの距離で命中させた。家政夫としては駄目でも射撃要員として雇いたい腕だわ。それにさっきからの身のこなしを見る限り、白兵戦もそれなりにできそうね?」

「…命中したのはライフルとスコープの性能ですよ。まぁ荒野を一人歩きするくらいの心得はありますが、それはミサトさんも同じでしょう?」

(…謙遜ね)

シンジの答えを聞いてそう思う。

「今日一人だったのはたまたまよ。私はそこまで自惚れてないわ」

「ライフルは後でお目にかけますよ。でもただのレーザーライフルですよ?まぁ性能がいいのはたしかですけど。とりあえず分解するのは勘弁してくださいね」

「ふーん。結構軽いのね。用心深いかと思ったけど」

あっさりとOKしたシンジに拍子抜けする。

「…ミサトさんを信じてますから」

シンジは視線を前に向けたままそう答えた。

冗談でもふざけているわけでもなく本当にそう思っているらしい。頬がなんとなく熱くなる。

「………シンジ君って女の子にもてるでしょ?」

照れ隠しに言ったミサトだったが反応がないので隣をうかがう。

シンジの表情は固かった。

「………何か気に触ること言った?」

「いえ、気にしないでください。ミサトさんのせいじゃないんです」

そういって微笑む。ミサトを気遣う上での微笑みだ。

「…そう」

なぜそう思うのか自分でもわからない。ただ…

(…この子、戦場には向いてないかもしれないわね)

漠然とそう感じた。

 

 

「あたしのアジトに来る理由は?ま、あたしに会いたかったってのはなしね」

「その通りだったんですけど…もともと機会があれば行こうと思ってましたし」

「何をしに?見たところ旅人って感じだから仕事の依頼とも思えないけど」

「ある意味では依頼ですけど…」

「どういうこと?」

「それはまたいずれ。とりあえず僕はミサトさんの敵になるつもりはありません」

「なーんかごまかされた気もするけどまぁいいわ」

「はは」

「ま、それはそれとして帰る前に寄り道するわよ」

「?」

「食料とかの買い出しよ。そのために出てきたんだから」

「…ミサトさん」

何やらジト目になっているように見えるがとりあえず無視する。

「なーに?」

「買い出しを口実に飲みに行く気ですね」

「ぐっ…な、何を根拠に」

「ミサトさんが自分から買い出しを引き受けるなんてありえません。他の理由があるとすれば、せいぜいビールが飲みたくなったとか…」

「………」

「図星ですか」

はぁ、とため息をつくシンジ。

「うっさいわねぇ」

こちらもジト目で答えるミサト。

「ただでさえこんな仕事してるんですから、せめてその性格ぐらいなおさないと嫁の貰い手がないですよ」

「悪かったわね!どうせあたしは三十路前の独身女よぉ!!」

痛いところをつかれたミサトはシンジの首に手をかける。

「わぁミサトさんハンドルハンドル!!」

「このあたりにゃぶつかるものも無ければ轢くものもないわよ!」

「そういう問題じゃありません!」

 

 

 

 

EVANGELION ILLUSION

STAGE01: ILLUSION

 

 

 

 

 

 

ピピピピピピ

電子音に動きをとめる二人。

「何?」

シンジの顔が険しくなる。

「…人形のようです」

ポケットに手をつっこんでスイッチを押すシンジ。

電子音が止まった。

「何それ?まさかレーダーかなにか?」

とりあえず運転にもどるミサト。

「人形の反応をサーチする機械です。有効範囲はそんなに広くないですから近いですね」

「サーチって…」

「正確な位置も数もわからないのが欠点といえば欠点ですが…」

そういいながらシンジは後部座席のマントを開く。

中から大降りのライフルが姿を見せる。かろうじて携帯武器の範疇に入るサイズだが、少年が持ち歩くような代物ではない。

シンジはライフルを片手で膝の上に置くとマントを羽織る。

「通常モードに切り替え。カートリッジチェック」

シンジが言うとカチリと音がする。同時にライフルの側面に小さなLEDがいくつか点灯する。

「さっきのがきいてるか…」

LEDの表示を見ながらつぶやくシンジ。

(…残り少ないな。拡散モードじゃまずいかも知れない…)

どうするか考えていたシンジにミサトが呼びかける。

「ちょっとシンジ君…」

「なんですか?」

「今、何したの?」

「え?ライフルのセッティングですが」

「そうじゃなくて」

「え?…ああ、音声認識です」

こともなげに答えるシンジ。

「へ?」

(…たかがライフルにそんなもの組みこんでんの?)

ミサトが考えている間にシンジは戦闘準備を整えた。

右目におろしたサイトグラスがグリーンに点灯する。

「できたら通常弾も発射できたら良かったんですが、まぁ出力や射程の調節がききますから…来ました」

シンジの声に我に返るミサト。バックミラーに砂煙が映る。

「あらあら団体さんね」

 

地平線からホバイクに乗った機械人形の集団が現れる。総数5体。先程の3体の確認に来たのか、定期的に巡回しているのか知ったことではないが。

シンジは助手席の背もたれにライフルを乗せミサトに確認した。

「一応確認しておきますけど…」

「構わないからやっちゃいなさい!!

「了解!」

 

閃光が閃き爆音が轟いた。

 

 

「中距離!拡散モード!」

人形達が散開したのに合わせライフルのモードを切り替える。出力を落とすかわりにややレーザーを拡散させて命中率をあげる。

(…とはいえエネルギー消費は激しくなるんだよな)

おまけにゆれるジープ上では狙いもつけづらいし相手も回避行動を取っている。

ピーピー

―EMPTY−

なんとか3体しとめたところで警告音が鳴り、サイトグラスに弾切れの表示が点灯する。

無理すればまだ撃てるのだがいかんせん精密機械に無理は禁物だ。

シンジは充電にかかったレーザーライフルを後部座席に放り投げる。

「弾切れ!?あたしのライフルを!」

「いえ、自分の銃がありますから」

その時、人形のライフルが正確に目標を捕らえた。

 

レーザーの煌めきを見て叫ぶミサト。

「シンジ君!?」

だがシンジは慌てずどこか優雅な動作でマントを翻す。

「!?」

ミサトの目の前でレーザーはマントの表面に弾かれたように方向を変えシンジの頭上に消える。

「ふぅ危なかった」

「レーザーを弾いた…いえ反射した?」

唖然とシンジを見るミサトを叱咤するシンジ。

「ミサトさんとりあえず驚くのは後で!」

「………わかったわ」

さっと頭を切り換えるとミサトは車の運転に集中する。

(やっぱりさすがだなぁ)

そう思いながらシンジは懐から大降りの拳銃を取り出し両手で構える。

ドンッ!!

轟音とともに弾丸が放たれる。

距離があるにもかかわらず弾丸は正確に人形の胸に吸い込まれ…

ドンッ!!

大穴を空けた。

そのまま人形はホバイクから落ちて屑鉄と化す。

シンジが最後の一体をしとめたのはそれから十秒後のことだった。

 

 

「…その拳銃も何?」

つくづく驚かされ続けのミサト。

「特に名称もないですけど、開発中はパレットガンって呼んでましたっけ」

そういってシンジは一応オートマチックピストルらしい拳銃を置く。ゴトリと見るからに重そうな音がする。

「拳銃弾の破壊力じゃないわよ…」

「あぁ劣化ウラン弾ですから」

「ぶっ!!」

思わず吹き出すミサト。

「これも弾が少ないんでなるべく使いたくないんですよね」

そういいながらシンジはバックパックの中を探ってこれまた重そうな予備弾を取り出す。

「ウ、ウ、ウ、ウランって」

「そういえば次は劣化プルトニウム弾を作るって言ってましたっけ。今でも肩がぬけそうだからやめて下さいって言ったんですけど…」

「どこのどいつよ!そんな非常識で傍迷惑なもの作ってんのは!?」

パレットガンをしまうとシンジは笑う。

「すみません。それはまだ内緒と言うことで」

「………」

しばらくにらみ合ったがどうやら少年の口は相当に堅いらしい。

「じゃあ次。…そのマント何か仕込んでるの?」

「あぁこれには一応防弾、防磁、防電等々仕込んであります。一応表面のコーティングで多少は光学兵器にも効果が…」

「それでも…家政夫?」

「まぁとりあえずは」

シンジは笑ってごまかした。

 

 

 

 

崩れたビルの地下にその酒場はあった。

「ま、こういうところだから安心して商売できるわけだけどね」

「そうですね」

こういった残骸の中にそんな場所があるとはゼーレの人形達も気がつかない。逆に客の方もそういった場所にあるという認識がある。自然、店のできる場所は似通ってくる。

 

美女と少年の二人連れだが客たちは気にせずに自分たちのことに没頭している。こういう所では他人をあれこれ詮索しないのが礼儀だ。

「おや、姉御。今日はかわいい坊やを連れてるじゃないか」

ミサトの素性を知っているらしい口調でマスターが言った。

ミサトとシンジはカウンターの端に座った。

「へへへ。うちの新しい家政夫君よ」

「家政夫?冗談よせやい。あんたんところに行くようじゃ、その坊やも見かけ通りじゃないねぇ」

「まぁねん」

「ま、いいや。とりあえずいつものビールと他は?」

「つまみ適当にお願いねん。あ、シンジ君、今日のお礼に何でも好きなもの頼んでいいわよん」

「すみません。それじゃ遠慮無く…」

 

ジョッキに入った合成ビールを一息で飲み干すミサト。だがそれに驚いた風もなくシンジは食事を続けている。なんとはなしにそれを観察し続けるミサト。

「それであなたは何者?」

だいたい食事が終わったところでミサトは聞いた。シンジの方も聞かれるのはわかっていたのか驚いた風もなく答える。

「…単刀直入ですね。特に話すこともないんですが、一応旅人ってところでしょうか?」

「旅人ねぇ………それで旅ってなにが目的?あてどなくさまようほどのんきにも見えないけど?」

しばし考え込んだあとぼそりとシンジが言った。

「…人探し、ですか」

「人探し?」

「ええ。ある女の子を探してます」

「家族?それとも恋人?」

「強いて言うなら家族…かもしれません」

どこか表情が固い。

(…うーん。あんまり深くつっこまない方がいいわね)

ミサトはとりあえずそこで追求をやめた。ジョッキを手にとって話を続ける。

「ふーん。大変ねぇ。それで手がかりは?」

「あるような、ないような」

「ひょっとして行き当たりばったりで探してるの!?」

思わずジョッキをテーブルに叩きつけるミサト。

「まぁそうせざるを得ないんですが…」

そういってシンジは困ったように笑う。

「…わけありってことね」

落ち着いたミサトは再びジョッキを口元に運ぶ。

「ええまぁ。でも…」

「でも何?ゴクゴク」

「たぶん事態は急変すると思います」

「どうして?ゴクゴク」

「ミサトさんに会えましたから」

「ぶっ!!」

吹き出すミサト。まともに泡を喰らったシンジが顔をしかめる。

「…汚いですよ」

「なによそれは!?」

おしぼりで顔を拭くシンジを構わず問いつめるミサト。シンジは慌てずにビールを拭き取ってから答えた。

「過去の統計からいくと僕とミサトさんが出会うと事態が動き出すんです」

「はぁ!?」

ますます訳がわからない。

「そう…

 

『それは一体何度目の出会いなんだろう。でもたとえどれだけの時が流れようと、どれだけの世界を廻ろうと、全てはいつも僕とその女性の出会いからはじまる』

それは無意識のうちに脳裏に浮かびそしてシンジ自身も気づくことなく消えていった。

 

「シンジ…君?」

「え、あ…ああ、すみません。ぼうっとしちゃいました」

ミサトの声に我に返るシンジ。

「………」

(…今、ものすごく遠い目をしてたわ…とても深い眼差しというか)

変わった子ね、とミサトは結論づける。

(ま、とりあえず悪い子じゃないみたいだしいいか)

「まぁいいわ。じゃ最後に一つだけ。その子の名前はなんて言うの?」

ミサトの問いから少し間をおき、シンジはゆっくりかみしめるように答えた。

「彼女の名前は惣流アスカラングレーです」

 

 

続劇

 

 

 

予告

 

人は心の中に誰かを棲まわせている

友人、敵、家族、そして愛する者

どんな対象であれ心の中に存在するという事は幸いだ

心の中に誰もいない者は真に孤独だから

 

次回、エヴァンゲリオン幻戦記 第二幕 紅(くれない)

 

アタシを出せーっ!!




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