【エヴァンゲリオン幻戦記】

 

 

これまでのあらすじっ!

さぁあんたたち、このアタシが前回のあらすじを説明してあげるわ。感謝しなさいよ。

だいたい、アタシが出ないって………ちぇっわかったわよ。さっさと説明すればいいんでしょ?

時は21世紀。管理用スーパーコンピュータゼーレが暴走して大惨事になっちゃった日本。

ゲリラのリーダー葛城ミサトはゼーレの人形に追われて碇シンジと出会う。

なぜか自分を知っているらしいシンジに興味を持ったミサトはシンジの要請を受けて彼を自分のアジトに案内するのでした。

シンジの目的はアスカという名前の女の子を探し出すこと。

碇シンジ、そして惣流アスカラングレーとは一体何者なのか?物語は…いやぁ!もっとしゃべらせてぇーっ!!

 

 

 

 

薄闇の荒野をライトも点けずに走る車が一台。

(まぁ確かに轢くものもなければはねるものもないだろうけど…)

はたしてそこまで考えて運転しているのかどうか、怪しいものね。

「ん?どうかした?」

シンジの視線に気づいたのかミサトが聞いた。

「いえ何でも。…あとどのくらいですか?」

「もうそろそろよ」

ミサトは言葉の途中でハンドルを切り大きく北に曲がる。やがて茂みが散在するちょっとした小山が見えてきた。

スピードが落ち、心地よい自然の風だけが感じれるようになる。

「いい風ね」

同じ事を考えていたのかミサトが言った。

「そうですね」

ただそれだけのことがシンジはどこか嬉しかった。

 

車が停まる。

「はいご到着」

「ありがとうございました」

「いえいえどういたしまして、っと」

ミサトが降りようとするのとシンジが懐から拳銃を引き抜くのはほぼ同時だった。

「………」

ミサトはさほど驚いた風もない。

シンジの銃口は近くの茂みに向けられている。

「ミサトさんのお仲間ですか?」

そう呼びかけると茂みの中から答えが返る。

「そういう坊やは姐御の客人かそれとも拾い物か?」

ややあってシンジは銃口をずらした。

「物騒な所ですね、ここは」

そう言いながらシンジは拳銃をマントの中に仕舞う。

「同感だな」

茂みの中からライフルを構えた男が身を起こした。ミサトよりも年上だろう。がっしりした年配の男の人だ。

「お帰り姐御。マコトの奴が心配してたよ」

ミサトへの呼びかけからしてミサトの部隊の隊員なのは間違いないようだ。

「あらら、まずったわね」

「あいつもあの性格さえ治せば言うこと無しなんだがなぁ」

「日向君はあれでいいのよ。じゃ、引き続きよろしく」

「あいよ」

男の人は再び茂みの中に消えた。

「見張りですか?」

「そういうこと、さ、行くわよ」

 

「ただいま〜」

「あ、隊長お帰りなさい」

ミサトの間のぬけた声に答えたのはシンジと同い年くらいの少女だった。

「ただいま洞木さん」

そのままわいわいと話し出す。娘3人よれば(多分に年齢差があるわね)姦しい、と言うが二人でも十分姦しい。

「………」

その間シンジは懸命に驚きを押し殺していた。

洞木、というその少女は彼の記憶にある同性の人物とうり二つである。おそらく同一の人物と判断して差し支えないだろう。しかし…

(…何度も同じ目にあっているのに慣れないな)

「あれ?」

「どうしたのシンジ君?」

「え、あ、その…すいません、なんでもないです」

(…何度も同じ目に?)

何故そんなことを思うのか?

どこか自分が自分で無い感覚。

(…わからない)

悩んでいるシンジをよそにヒカリはミサトに聞く。

「そちらの方は?」

「ああ、碇シンジ君。ちょっち面倒なことになってね。手を貸してもらったの」

「め、面倒なことですか!?」

「だいじょーぶよ。結果オーライ。問題なしよん」

ミサトはそう言うが少女はまったく信用していないようだ。それについてはシンジも同感だった。

「…そうだったかな?」

「そうなのよ! ま、しばらくうちの隊に同行させてくれってことだからよろしくね」

「しばらく、ですか?」

そういって隊員がどんどん増えていくのをヒカリは知っている。彼女もその一人だ。これを隊長の人望というべきかどうか…

「とりあえず家政夫として雇ってくれってことだったっけ?」

「ええそうです」

「か、家政夫!?」

驚くヒカリを置いて話は着々と進んでいく。

「そういうことは洞木さんが仕切っているから彼女の言う事にしたがって」

「わかりました」

「え、ええ!?」

「じゃ、洞木さんに預けるからよろしくね〜」

ひらひらと手を振りながらミサトは去っていった。

 

唖然としていたヒカリだけどミサトの姿が消えるとシンジに向き直り口を開く。

「あの…本気ですか?」

「一応ね。…ひょっとしてお邪魔かな?」

「そ、そんなことはないですけど…」

しげしげとシンジを眺めるヒカリ。彼女が見ただけでもあからさまに怪しい懐や肩のふくらみ、あくまで自然体でいて隙を感じさせない立ち姿。

「…やっぱり戦闘要員に見えます…」

「うーんそうかな。うーんそうかもしれないね。困ったなぁ」

困ってますという顔をしてみせるシンジ。

それを見て吹き出すヒカリ。

「ぷっ」

「?」

「まぁいいわ。正直なところ猫の手も借りたいの」

「そうだろうね」

「あ、私ったらごめんなさい。洞木ヒカリです。よろしく」

「碇シンジです」

にっこり笑い合う二人。むっ。

「えーと碇さんは…」

「呼び捨てでいいよ。同い年だと思うから」

「え?17歳なの?」

「えーと、たぶん…」

何だか自信なさそうに答えるシンジ。

「へぇ。なんとなく大人びた感じがしてたから、てっきり年上かと思ってたんだけど。じゃあ碇君、ね」

「よろしく洞木さん」

 

 

【第二幕 紅(くれない)】

 

 

 

 

キャンプは数戸の簡易住居といくつかのテント、それを囲むように停車している数台の大型車両、何台かのバイクから成り立っている。もちろん、本来の本拠地は別にある。あくまで移動中の仮住まいに過ぎない。

ミサトはその中で一番大きい簡易住居、てっとりばやく言えばプレハブ小屋の様な物に入っていった。

「隊長!」

ミサトが入るなり眼鏡の青年、言わずと知れた日向副長が、席を立ち声を張り上げた。

「いっ…」

「言いたい事はわかってるから、ね。メンゴ」

日向さんが口を開くより先に両手を合わせて片目をつぶるミサト。

「はぁぁぁぁぁぁ」

日向さんは盛大なため息をついた。

(…まったくこの人はいつもいつもいつもいつも…)

だけどいちいち怒っていては身が持たない。この辺の割り切りが重要ね。

「…まぁいいです。今度からはっきり言ってから出ていってください。その方が心構えができますから」

「そうするわん」

ひらひらと手を振ってミサトが答えた。

(おや?)

首をかしげる日向さん。ミサトはどことなく上機嫌に見える。

「…何かいいことでもありましたか?」

「あ、わかる?実はちょっといい拾い物をしたの」

「………また、拾ってきたんですか?」

「うーん。実際はちょっち違うんだけどね」

ミサトは日向の横を通って自分のデスクにつく。

「?」

卓上のケースを開くと眼鏡を取り出してかける。

日向さんはそれを見てわずかに眉を動かした。

眼鏡をかけるという行為には意味がある。それは後でおいおい説明するとして。

眼鏡越しに日向さんを見つめミサトは口を開いた。

「…うちで一線張れる腕前よ」

低い声でそう告げる。

「…そりゃすごい。掘り出し物ですね」

「もっともうちの隊員になってはくれないようだけどね」

「というと?」

「ま、昔の言葉でいえばアルバイトってところかしら」

「傭兵、というわけでもないんですね」

しばし逡巡したあとミサトは続ける。

「…女の子を探して旅してるそうよ」

「…それは…また…」

日向さんは複雑な表情を浮かべる。

「…警戒はする必要はない、と思うわ」

「…珍しいですね」

常日頃、最悪のそのまた最悪の展開まで想定した上で行動するミサトがそう言っているのだ。

「なんていうのかな…ここでわかるって言うか」

そういって自分の胸を指差すミサト。

「彼は敵じゃない、むしろ…」

「………」

「…そう思うんじゃなくて、そうわかる。ふふっ論理的じゃないわね」

いつにない表情を浮かべるミサトに驚きながら日向さんは肩を竦めた。

「ま、隊長の勘はよく当たりますから」

そういって場の空気を変えるとミサトも顔を和らげた。

「とりあえず面倒を見てあげて。まぁ、うちの連中ともめ事を起こすタイプには見えないけどね」

 

 

トントントン

グツグツグツ

ジュージュー

移動中である以上作れるメニューは簡単なものばかりだし、手の空いている隊員に手伝わせるとはいえ、かなりの人数分の食事を作る手間は大変なものだ。それはヒカリが一番よく知っている。だが、シンジはこともなげにそれを引き受けると手際よく作業をこなしていく。それどころかどことなく楽しげですらある。

「………」

「どうかしたの洞木さん?」

怪訝そうな表情のヒカリに気付いたシンジは大きな中華鍋片手に尋ねる。

「碇君…コックかなにかやってたの?」

「よっと。…別に、どうして?」

「男の人の手並みとは思えないわ」

「そう?はいチャーハン上がり」

「………あ、はい!」

 

 

「うーん、今日もおいしいわね。やっぱこうじゃなきゃ」

ミサトは一口食べるとそう言った。

「………」

食事を運んで来たヒカリはミサトの言葉にも反応しない。

「あり?どうしたの洞木さん?」

「…今日の食事はほとんど碇君一人で作ったんです」

「へぇ。やるじゃない。家政夫で売り込むだけのことはあるわね」

「なるほど尋常じゃないな」

なにが尋常でないのかは言わずにスプーンを口に運ぶ日向さん。

「まぁいいじゃない。洞木さんも料理だけが仕事じゃないんだし、彼がここを出て行くまでしばらくのんびりすれば?」

「いいえ、今に満足していては駄目です!このままではいずれ碇君に負けてしまいます!そうよヒカリ!ちょうどいい機会だわ、もっと腕を磨くのよ!」

「な、なにか燃えてるわね」

そういいながらもミサトの手は止まらない。まったく食い意地が張ってるんだから。

「それで彼に対するみんなの反応は?」

日向さんの質問にふっと熱を冷まして答えるヒカリ。

「あ、はい。まぁみんな美味しいものには弱いですから」

「なるほど」

 

 

「ごめんなさい。後片付けまで手伝わせちゃって」

「どういたしまして。これが仕事だしね」

キュッキュッと音を立てて皿を拭くシンジ。

(本当に楽しそうね)

そう思いながらシンジを見ていたヒカリの視界に日向さんが入る。

「もう終わったかい?」

「あ、はい終わりました日向さん」

そう答えたシンジに日向さんは怪訝そうな顔をした。

「…自己紹介、したっけ?」

「あ、いや、そのえっと…」

考えてみれば日向さんとは初対面である。既に感覚が麻痺し始めているようだ。

(しまった。ミサトさんや洞木さんと長い間話していたから昔の感覚で…)

気を付けないとこの先誰にあっても同じ様な失敗をしてしまうだろう。

「誰かと話してるのでも聞いたんじゃないですか」

何やら口篭もるシンジをなんとなくフォローするヒカリ。

「そう?まあ、いいか。僕は副長の日向マコトだ。よろしくな碇シンジ君」

「あ、はい、よろしくお願いします」

相手が日向さんでよかったとほっとするシンジ。

「とりあえず今日の寝床に案内するよ。荷物は?」

「あ、すみません」

シンジは隅に置いておいたライフルとマント、バックパックを取りに行く。

「洞木さん」

「はい?」

「どう思う?」

「何がですか?」

「彼だよ。兵士として」

しばし考え込むヒカリ

「…素人の動きではないですね」

「そうだろうな」

「なにか?」

「いや。警戒の必要はないというのが隊長のお達しだ。気を遣う事はないよ」

 

「お待たせしました」

「いや、それじゃ…」

「………」

ついて行きかけて立ち止まるシンジ。

怪訝そうに見守る2人の前で硬直したかのように立ちつくす。

「どうかしたの碇君?」

シンジは自分の懐で小さな信号音を発する機械を見つめていた。

(…やれやれ、今日といいこの前といいミサトさん何か悪いものにでも憑かれてるのかな?)

ため息をつきたくなるシンジ。それでも顔を上げると日向さんに言った。

「迎撃の準備を」

「え?」

バックパックを背負うとマントを羽織り直すシンジ。

「人形です。かなり近い」

 

 

 

 

EVANGELION ILLUSION

STAGE02: LILITH

 

 

 

 

 

 

 

 

「ついてなかったわねぇ」

ミサトは苦笑混じりに言った。日向さんも同じような顔をしている所を見ると余裕があるみたい。

ミサトの部隊はそうそう見つかりそうな所にキャンプしたりしない。無論斥候も十分に立てているため、シンジが警告するのと前後して人形を発見したという報告が入った。

どうやら人形の部隊が移動する際たまたま近くを通りがかったらしい。

人形の基地の配置から予想される行軍ルートも外して野営しているのだが…

(ほんと、何か悪いものでも憑いてんのかしらねぇ?)

シンジと同じ感想を覚えるミサト。

「まぁ会っちゃったものは仕方ないわ。引き上げの仕度にはどのくらいかかるかしら?」

「さほどは。まあさすがに5分やそこらでは無理ですが。それにまだ発見されたわけではありませんし、やり過ごすというのは?」

そう言いはしたものの既に外では引き上げ仕度が始まっていて騒々しい。

「もし見つかったらアウトよ。なら最初から発見されるのを前提にしておいた方がいいわ。全員に合流ポイントを指示して。そうね…N−11あたりにしましょう」

「とっとと逃げるという事ですね」

「無理して戦っても弾の無駄よ」

 

 

細かい処理は日向さんに任せミサトはジープの助手席で一眠りしていた。

敵に発見されなければそれでよし。発見された場合は数名の足止め部隊が人形達に攻撃を仕掛けて注意を引き付ける手はずだ。この程度の事でミサトが知恵を絞る必要はない。その頭脳はもっと別のことに向けるべきものだ。

「ミサトさん」

呼びかけに顔を上げる。

「…シンジ君?」

ジープのそばにシンジが立っていた。

(そういえばあたしをミサトさんって呼ぶのはこの子だけだったわね)

「どうしたの?」

「足止めに参加させてもらえませんか?」

眼鏡の奥でしばし逡巡するミサト。別にシンジのことを忘れていたわけではない。ただシンジ自身は荷物もないし撤退時に置いていかれるような間抜けな事もしないだろうと考えていたのだ。しかしシンジはなぜ足止めに参加したいのだろうか?別にミサトの隊はこの程度のことでどうにかなるようなことはないし、第一シンジがミサト達の為に危険を冒す理由はない。恩を売るにしてももっといい機会を探すべきだろうに。

だが、ミサトはそんな自分の考えをよそに日向さんに呼びかけていた。

「………………日向君」

日向さんは何も聞かずにうなずく。

「了解しました。碇君、こっちだ」

シンジはミサトに一つ肯くと日向さんについて足止め組に向かった。

(あたし何やってんのかしらね?)

そんな思いに耽るミサトを残して。

 

 

(僕は何をやっているんだろう)

シンジはそんな考えに耽っていた。

「どうかしたんか?」

そう話し掛けて来たのは同じ足止め組の隊員だ。

シンジと同い年位らしいが、がっしりした体つきをしており、小型の携帯用ミサイルランチャーを肩に抱えた姿は既に立派な戦士のものだ。

名前は聞いていないがシンジのよく知るある人物に良く似ている。初めて見た時は驚いたがいい加減慣れが出来てきたのか同じ失敗は繰り返さずにすんだ。

(他の隊員には会ってないけどもしかしてケンスケとかもいたりして…)

そんなことを考えながらシンジは答えを返す。

「その…ちょっと考えごとを、ね」

「なんや、のんきなやっちゃな。まあぎゃあぎゃあ騒がれるよりはマシやけどな」

そういって彼は口元に笑みを浮かべた。

足止め組はシンジ、日向さんを含めて5人だ。それぞれが人形達に狙いを定めている。

「ふふ…」

シンジが彼にあわせて笑おうとしたとき一人が叫んだ。

「来た!!」

人形の一部がキャンプの方に進路を変えた。

日向さんがうなずくと5人は一斉に射撃を開始した。

 

 

 

「隊長!?」

「あら日向君早かったわね」

日向さんが一人キャンプに戻ると、中央でアイドリングしているジープが目に入る。

そして彼の敬愛する隊長はのんきに助手席でコーヒーを飲んでくつろいでいた。

「隊長!!」

思わずジープを素手でぼこぼこに破壊したくなる日向さん。現実には出来ないので頭の中で想像するにとどめるだけだが。

「まぁまぁ。それで?」

日向さんの心中を知ってか知らずか脳天気な声で尋ねるミサト。

「ふぅ。…こっちの陣地は蜂の巣になったんで、一度散開して集まれるようならここに。そうでなければ単独で逃げるように指示しました」

「僕以外はばらばらに逃げたようですね」

日向さんに続けて声がするとシンジが姿を現した。

「あら、さすがねシンジ君」

笑みを浮かべるミサト。

「さすがね、じゃないですよ。こんな所で何をやっているんですか?」

「日向君と同じような事言うのね」

「当然の結果だと思いますけど?」

「とにかく隊長も碇君もそろそろ引き上げ時です」

「そうですね」

「じゃ、乗ってちょうだい……!?」

大きな音を立てて人形達が姿を表したのはその時だった。

一体見えたかと思うとそれに続くようにどんどんわいて出る人形達。

「乗って!!」

ミサトは慌てて運転席に移る。日向さんも後部座席に飛び乗った。

「シンジ君!!」

人形の一体がシンジに向かってバズーカを発射した。

「!?」

 

ピキィィィィィーン!!

ドゴォッー!!

シンジの1m程手前でバズーカ弾が爆発した。だが、爆風はシンジには届かない。

「まさか…」

唖然とするシンジ。そこへ人形のレーザーライフルが火を吹く。

「碇君!!」

日向さんはそう叫んだがもう間に合わないことは知っていた。

「何!?」

だが日向さんの予測を裏切ってレーザーはシンジの前で何かに弾かれた。

続けて発射されるレーザーも同じだ。

「な、なにあの赤い…」

ミサトの目はレーザーが弾かれる際に生じる赤い八角形模様をとらえていた。

そしてシンジもまた。

「AT…フィールド? はっ!?」

 

 

 

少女はただ静かにたたずんでいた。

戦いも喧騒も何もかもが別世界の出来事であるかのように。

そしてシンジは無意識にその名を呼んでいた。

「綾波…」

 

少女はかすかに顔を動かし視線をシンジに向けた。

紅い瞳がまっすぐシンジを見据える。

そこに何が込められているのかシンジにも誰にも伺い知ることは…

 

 

「ちょっとなにボーっとしてるのよ!」

声を荒げるミサト。

(…どうやら知り合いみたいだけど再会を祝ってる場合じゃないでしょ!)

そう悪態をつきながらも頭は回転し続ける。

(シンジ君の知り合い…探していたアスカって子かしら?でも、いま綾波って呼んだわね。つまり探している子とは別ってこと?いえ、それよりもあの赤い発光現象…ええい!)

あれこれ考えている暇はない。指揮官としていつまでもここでじっとしているわけにはいかない。今はひとまず逃げること。

「日向君!!」

「はい…!!」

ドォォォォーン!!

至近距離に撃ち込まれるロケット弾。だがまたも紅い壁が爆風から3人を護る。

広場の真ん中で堂々とライフルを構え直すシンジ。敵の攻撃を一切無視している様に見える。そのまま爆風の向う側に撃ち返すと人形に命中したのか遠くで爆発が起きた。

(…あの壁は破られる事はないとわかっているってこと?)

何度も弾丸やレーザーを弾く赤い発光現象を見つめるミサト。

「綾波!退くよ!」

「了解」

少女は静かに首肯すると駆け出した。それを追ってシンジも走りはじめる。

「なんだかわかんないけどおもしろくなりそうね」

ミサトはそう呟くとアクセルを踏み込んだ。

そのままハンドルを二人の方に切ろうと…

「駄目です!」

日向さんが叫んだ瞬間ロケット弾が降り注ぐ。

「ちぃっ!!」

急制動をかけてその反動で車の進行方向を無理矢理変える。

だが、そのせいで二人との距離が開いてしまった。

(あの赤い壁を当てにするのはちょっと不安ね)

「行って下さい!!」

シンジの叫びが耳に届く。

「何ですって!?」

「この場は二手に分かれましょう!!」

「………」

爆煙の向うに少年とそれに寄り添うように立つ少女の姿が見える。

「大丈夫。また会えますよ!」

二人のことは非常に気になる、気になるのだが。

(…ここはあの子の言うとおりね)

ミサトは人形のいない方向に車を向けアクセルを踏み込む。

そして振り返ると叫んだ。

「約束したわよ!今日のギャラはまだ払ってないんだから!」

「わかりました!」

その答えを最後に二人もまた走り出した。

 

 

 

「綾波」

「…何?」

走りながらシンジはレイを見る。自分とは違いあの頃のままの姿の少女。壱中の制服がこの世界ではあまりにも…

(でも…)

「いや、なんでもないよ…」

「…そう」

二人はただ闇の中を走り続けた。決して離れることなく。

 

続劇

 

 

 

予告

 

誰しも心に壁を持っている

時にその奥を垣間見せる事はあっても

決して開け放たれる事はない

その壁こそが自分と他人を分ける境界線だからだ

ゆえにその壁は非常に堅固であり

そしてとても脆い

次回、エヴァンゲリオン幻戦記 第三幕 顕現

シンジの浮気者―っ!!




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