【新世界エヴァンゲリオン】

 

 

<ネルフ本部食堂>

 

打ち合わせの終わったシンジ達は食堂でリツコの用意したお弁当を食べていた。

「しかしリっちゃんもマメだね。育児をしながら仕事をしてるのにこんなものまで」

加持が意外だと言った。

「今日は特別ね」

そう言って微笑むリツコ。

「どうせシンジくんが帰ってきて浮かれてんでしょ」

「ミサトほどじゃないわ」

「まあまあ」

そういう3人の視線はレイに食事を食べさせているシンジに向かう。

「いいかい、レイ。よく噛んで食べるんだよ。今から噛む癖を付けとかないとね」

シンジは視線にも気づかず一生懸命にレイに教えている。レイも理解しているのかいないのか小さな口を懸命に動かしている。

「シンジくんていい父親になるわね、きっと」

「アスカもあれでなかなかしっかりしてきたし子供が出来たら変わるわよ」

「二人の子供か、男でも女でもさぞかし美形だろうな」

「それはいえるわね」

遠い目でそれを想像する3人。

「でも、いいのリツコ?二人に子供が出来て」

ミサトがふと尋ねた。

「…何か問題がある?」

首をかしげるリツコ。

「…察しが悪いわね」

「何よ、いったい」

「いい?よーく聞きなさいリツコ。シンジくんの子供ということはつまりリツコにとっては孫になるのよ」

ガタッと立ち上がり後ずさるリツコ。

「あぁそうか。…てことはリっちゃんはおば…」

加持君!…お願いだからその先は言わないで

青ざめた顔でリツコは頼んだ。

「リツコ、諦めが肝心よ。どんなに遅くたって10年後には出来てるわよ。

 その頃でもリツコは40代ね…ま、しょうがないわ」

「………」

リツコは頭を抱えて考えた。この恐ろしい事態を回避する方法を。孫ができること自体はきっと嬉しいだろう。ゲンドウもきっと顔が崩れるくらいに喜ぶに違いない。が、おば(以下抹消)と40代(場合によっては30代後半、しかもその可能性は非常に高い)と呼ばれるのはなんとしても避けたい。世界でも屈指の頭脳がフル回転するが光明は見えない。

…MAGIに解決策を分析させよう。母さんもひいお(以下抹消)とは呼ばれたくないはず。それでも二人の邪魔をするということを考えつかないのはリツコが良い母親の証拠である。

「それはそれとしてレイのなつきかたも尋常じゃないわね」

「一応は昨日初めて会ったばかりなのにな」

レイは楽しそうにシンジに笑いかけている。

「レイの遺伝子にシンジくんが好きって書き込まれてるんじゃない?」

「そいつは言い過ぎだが納得してしまいそうなのが怖いな」

「でもきっと間違いなくブラコンよ」

断言するミサト。

「ま、シンジくんなら実害はないからいいんじゃないか?」

リツコはいまだ思考の迷路の中を迷っていた。

 

 

<第壱高校>

 

『2−Aの鈴原君と惣流さんは至急職員室まで来て下さい』

その放送はアスカ達が弁当を食べ終わった頃を見計らうかのように行われた。

ヒカリが心配そうに二人を見る。

アスカはさっさと弁当箱をしまうと教室を出ていく。

トウジもヒカリに弁当箱を渡すと立ち上がる。

「ごっそさん委員長。ちょっと行って来るわ」

二人を見送ったヒカリの顔は不安で一杯だった。

「ミサト先生が早朝から呼び出され、今エヴァのパイロット二人に呼出か」

ケンスケがヒカリの心を代弁した。その後でしっかりとフォローする。

「大丈夫だよ委員長。ネルフの発表は聞いただろ?もう使徒はいないのさ。

 第一、戦闘になるなら避難勧告も出るだろ?」

「う、うん」

 

「来たわね二人とも」

職員室に入るなりマヤが声をかける。

「なんぞあったんですか?」

「まさか…」

アスカの想像をマヤはすぐにうち消す。

「あ、大丈夫よ。そんなんじゃないから。ただ先輩が急にテストを行うことになったので葛城さんが二人に本部に来て欲しいって」

拍子抜けする二人。

「なんだ脅かさないでよ」

「まったくリツコさんもミサトさんも人が悪いで」

「そういうわけだから悪いけど二人とも午後の授業は欠席してすぐに本部に向かって」

「OK」

「わかりました」

 

アスカは帰り支度をしながらヒカリ達に事情を説明した。

以前ならこれも立派な機密漏洩であるが、現在のネルフは公開組織であるためいちいち目くじらを立てることもない。もっともパイロットが14歳の子供だったというのは相変わらず極秘事項だが。

「…ということよ、じゃまた明日ねヒカリ」

「うん。頑張ってねアスカ、鈴原」

「あぁおおきに。ほなケンスケ」

「あぁがんばれよ」

二人を見送ったヒカリだが先ほどとは打って変わって明るい表情だった。

「あらヒカリさっきとちがって明るいわね」

「ヒカリさんて本当にアスカさんと鈴原くんのこと心配してたんですね」

「う、うん」

少し赤くなりながらヒカリがうなずく。

「あら、アスカと鈴原?わたしはてっきり…」

「な、何よマナ、私は学級委員としてクラスメートの心配を」

「別にムキにならなくてもいいじゃない」

「マナ!」

「まぁまぁヒカリさん」

三人がじゃれ合っているのをカメラで撮っていたケンスケは椅子にもたれるとしみじみと呟いた。

「平和だね〜」

 

 

 

【第参話 幸福の肖像】

 

 

「で、テストってなによ?」

発令所につくなりアスカは言った。

「ま、ちょっとした計測といった所かしら。特定の状況に置ける心拍数や脳波の変化を計測し、パイロットの心理状況の観察を行い結果をエヴァに搭乗する際の参考とします」

リツコの説明は相変わらずわかりにくい。

アスカならまだしもトウジにわかるわけもない。

「よーわからんですがとりあえずプラグスーツに着替えてきましょか」

「あ、まだ着替えなくていいわ」

「そらまたなんでですミサトさん?」

「うーん。プラグスーツはまた次かしらねリツコ?」

「そうね…とりあえずはそのまま」

額を寄せて話し合うミサトとリツコ。

「エヴァに乗るんじゃないの?」

「今日は…たぶん乗る必要はないわ」

「まぁええですけど」

「じゃ、最初はアスカね。とりあえずケイジに行って」

「ケイジ?エヴァには乗らないんでしょ」

「そうよ。あ、ケイジといっても7番ケイジよ」

「はあ?」

「鈴原君はとりあえずここで待機していて」

「わかりました」

訳の分からない指示だがリツコとミサトの立案についていちいち考えても無駄なことは知っているのでアスカはさっさとケイジに向かった。

アスカの出ていったドアが閉じるとミサトは司令塔のゲンドウと冬月を見上げる。

「構いませんね、碇司令」

真剣な口調のミサト。リツコも二人を見上げる。

「…反対すべき理由はない。やりたまえ葛城一佐」

「はい!」

「計測準備!」

リツコがてきぱきと指示を出す。慌ただしくなる発令所。

冬月が苦虫をかみつぶしたような顔でゲンドウに問う。

「…本当にこれでいいんだな碇」

ゲンドウは手を組んだまま口元を歪めた。

 

 

…本当に何考えているんだか

そう考えながらアスカは昨日と同じように弐号機を見上げた。

 

 ママ

 ママがいなくなっても私はエヴァに乗ってる

 いいよね。たまにママの事を思い出しても

 今の私はエヴァが無くても大丈夫。一番でなくても大丈夫

 だって私が強いことに間違いはないんだもの

 別に強くなくたって大丈夫なんだけどね

 それを教えてくれたあいつの事を考えるときだけ涙が出る

 でも泣いてもいい。それはきっと私があいつを好きだって証拠

 だいたい2年も音信不通でなにやってんのよあんの馬鹿!

 ああ思い出したらむかついてきた。…そういえば昔はいっつもプリプリしてたな私

 きっとかまって欲しかったのよね

 でもあいつはそんな私に優しくしてくれた

 

 こんな私を、ぼろぼろになった私をあいつは一生懸命面倒見てくれて…

 でも私が元気になった途端さっさとアメリカに行っちゃった、私を置いて。

 あのときはひどい奴だと思ったけど、シンジとてもつらそうだった。今ならわかる。

 けどあの時は随分ひどいこと言っちゃったな。

 ごめんね。シンジだってきっと何か事情があったのよ。それなのにアタシったら

 

 

 

「帰ってきてよバカシンジ」

 

小さな声で言ってから弐号機を見上げる。

アスカの誇りでもあった赤いフォルム。

「…これに乗って戦ってたのよね。まるで昨日のことみたい」

「…そうだね」

 

 

声がした

それは聞きたくて聞きたくて、会いたくて会いたくて、でもここにいるはずのない存在

 

 

おそるおそる声のした方角を見るアスカ。

そこには封印された初号機を見上げる少年がいた。

昔よりずっと背が伸びて、でも相変わらず細く見える身体。

ぐっと握りしめた拳。昔と違い、こうと決めたら何ものにも揺るがない意志の力をそこに宿している。

女性的な線の細い横顔はそれでいて男性の美しさを秘めている。

視線に気づいた横顔が自分の方を向いて照れくさそうに微笑んだとき、アスカは自分が一番ほしかったものを思い出した。

少年がアスカに向かって歩き出す。アスカの足も意志とは無関係に歩き出す。

初号機と弐号機のちょうど中間で二人は立ち止まる。

しばし無言の二人。

だが、少年の声で沈黙は終わりを告げる。

 

「ただいまアスカ」

 

その言葉をアスカは何度夢に見たことか。

そして目が覚めたとき夢であったことを何度悔やんだことか。

だが、夢でない証拠にアスカの髪に優しく触れた手の感触。

 

「シ、ン、ジ…本当に?」

 

「…うん、僕だよ」

 

「…夢じゃない?」

 

「試しにひっぱたいてもいいよ」

にっこり笑うシンジ。

 

「う…うう」

アスカの瞳が潤みあふれるように涙がこぼれ落ちていく。

 

「やっぱり、おかえりって言ってくれないのかな?」

困ったような声を出すシンジ。

 

相変わらず鈍感な奴。

だからコイツはシンジだ。

間違いなくシンジだ。

 

「う、バカ、バカバカ、バカバカバカバカバカ

ドンドンとシンジの胸を両手で叩くアスカ。

駄々をこねる子供の様に叩き続ける。

 

 

 

シンジはさっきもらったばかりのIDカードを見た。

造りは以前のカードと変わりない。

身体のデータが変わり、少しだけ大人っぽくなった自分の顔が写っている。

だが、カードの効力は以前とは桁違いである。

本部各所の立入禁止区域はおろか、主がいないとはいえターミナルドグマへの進入すら許可されている。入れないのはゲンドウの執務室と在室中のリツコがロックしているときの研究室くらいである。同程度の効力のカードはゲンドウと冬月、リツコしか持っていない。もっとも放って置いても入れるようにしてしまうとのことで加持にも渡されるらしいが。

無論、目の前のドアに入ることなど造作もない。

 

一歩足を踏み入れると無数のライトが点灯し部屋の住人達を浮かび上がらせる。

ゆっくり足を進め、正面で足を止める。

 

「ただいま、母さん」

 

エヴァンゲリオン初号機はただ静かにたたずんでいた。

 

 

それからしばらくしてのことだった、反対側のハッチが開いて少女が入ってきたのは。

エヴァを二体も格納しているケイジである。反対側とはかなりの距離がある。

少女はシンジに気がつかずに弐号機を見上げていた。

同じように初号機を見上げるシンジ。

考えることは同じだったのだろう。

少女が呟いたとき思わず声が漏れた。

「…これに乗って戦ってたのよね。まるで昨日のことみたい」

「…そうだね」

 

 

 

力が抜けて崩れ落ちそうになるアスカをシンジが抱きとめた。

「うっうっバカバカバカ」

涙はいつまでも流れていた。

「そんなにバカバカ言われたら本当にバカみたいだよ」

「うっうっだからあんたはバカなのよ」

 

 

しばらくして落ち着くとアスカは深く息を吸い込んだ。

…よし

顔を上げて言った。

「お帰りシンジ…!!」

口にした途端シンジが力一杯アスカを抱きしめた。

…く、苦しい

けど…嫌じゃない。

思いの外、厚い胸板にぎゅっと抱きしめられたアスカの胸に温かいものが満ちていく。

 

…アスカ、小さくなっちゃったな。本当は僕が大きくなったんだけど。

…でもきれいになった。

抱きしめる前のアスカの姿を閉じた目の裏に思い返す。

すらりと伸びた身体。中学生の頃よりさらに女らしさを増した肢体。

子供らしさが抜けて大人の女性のように整った顔立ち。

そして、光を浴びてより美しさを増す長い髪。

 

そんなことを思いつつシンジは気合いを込める。

逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ

…思えばこれを唱えるのも久しぶりだな

そう考えるとふっと肩の力が抜け、逆に心が落ち着いた。

そして口を開く。

「…2年間もほっておいてごめん。アスカ、やっぱり怒ってるよね」

「………」

…僕にこんなことを言う資格はないのかもしれない。

そう言いそうになって心の中で自分を殴りつけるシンジ。

…それを決めるのは僕じゃなくてアスカだ。

伝えたいことを全て伝えよう。そして後はアスカに委ねるんだ。

「…でも、僕はアスカに会いたかった。ずっとアスカのそばにいたかった」

「………」

「だって、僕はアスカのことが…好きだから」

 

アスカは自分の顔が熱くなるのを感じた。きっと真っ赤だろう。

アタシは自分から何もしようとはしなかった。シンジを引きとめることもできなかった。

でもそんなアタシにシンジは言ってくれた。

アタシに会いたかった、ずっとアタシのそばにいたい、アタシのことを好きだって…

「その…返事を聞かせてくれる?」

心細いシンジの声。

ふふふこういうところがシンジだ。やっぱりシンジはシンジだ。

バカで弱虫で料理がうまいのが唯一つの取り柄で、でも本当はアタシなんかよりずっとずっと強い。

今なら…シンジが抱きしめてくれている今ならアタシも素直に言える。

「バカ…アタシもシンジが好きよ」

ぎゅっと更に抱きしめる力が強くなった。苦しかったけどそれすらも嬉しくてアスカはそのままシンジに身を委ねた。

心地よい静寂が辺りを包む中、初号機と弐号機が二人の子供達を優しく見守っていた。

 

 

 

NEON WORLD EVANGELION

Episode3: They are happy, 

          because boy met to girl !

 

 

 

「あ〜、ところでそろそろいいかしら?」

しばらくして遠慮がちにミサトが話しかけた。

カメラの向こうでばっとシンジから離れるアスカ。シンジも真っ赤な顔のまま取り繕う。

ただ無意識にお互いを見てしまい、視線が合った二人は更に真っ赤になってうつむく。

「…まったくお見合いやってんじゃないのよ」

ミサトは呆れて言った。

もっともミサトの顔もかなりゆるんでいたりする。

 

 

時間はしばらくさかのぼる。

「う…うぅ」

「どうしたの鈴原君?」

「わしこういう場面に弱いんです、うぅ…」

もらい泣きするトウジ。

発令所の面々は微笑ましく二人を見守っている。

しっかり二人の後からやってきたマヤも自分の席でハンカチを手にうるうると泣いていた。

「本当によかったわね二人とも…グス」

メインスクリーン上でシンジがアスカを抱きしめている。

アスカはあふれる涙をこらえることもせず大声で泣き続けている。

「…リツコ」

ミサトは小声でリツコに話しかけた。

「大丈夫よミサト。既に松代にもバックアップを行っているわ」

得意げにリツコが言った。

「さすがは赤木博士。たよりになるわ」

「ま、当然ね」

二人の背後でゆっくりと司令席が下がっていく。

「碇司令?」

ミサトが気づいたときにはゲンドウは消えていた。

「さすがに皆の前では醜態をさらしたくないのだろう」

冬月が苦笑して言った。

 

二人の告白がすむと発令所の面々はほーっとためていた息をはきだした。まさに文字通り息をのんでみていたのである。マヤは感動のあまり涙が止まらないのか両手で顔を覆っている。

「生きててよかった!この仕事続けて良かった!俺は本当にそう思うよ青葉君!」

「そうっすね!なんか頑張ろうって気になりますね日向さん!」

「うっうっ本当によかったなぁ二人とも」

トウジはひたすら二人の幸せを喜んで泣いていた。

「さて、と」

マイクを取るリツコ。

「リツコ?」

「…ずっとあのままにもしておくわけにもいかないでしょ」

「それはそうね〜野暮は百も承知だけど」

「そう、じゃお姉さんにお願いするわ」

「…あんた母親でしょ?」

「シンジくんのね。まだアスカの母親にはなってないわ」

「…ずるいわよリツコ」

 

 

そして再びケイジ。

「とりあえず発令所に戻ってきて。そのままどこかに行ったりしないでね〜」

「ミサト!謀ったわね〜!!」

拳を握りしめ、肩をふるわせアスカは叫んだ。

「別にあたしだけの陰謀じゃないわよ」

「みんな同罪よ…って、あーまさか発令所で!!

「そ、メインスクリーンで実況生中継。映画館で見るより迫力あったわよ」

「あな、あな、あな」

怒り心頭のアスカ。頭に血が上って言いいたいことが言えないらしい。

そのときふっとシンジが後ろからアスカを抱きしめた。

「シ、シンジ!?」

別の感情で頭に血が上るアスカ。

「僕がさっき言ったこと、アスカは嘘だと思う?」

首をぶんぶんと左右に振って否定するアスカ。

…たとえ嘘でも、嘘だと思いたくない。

「僕もアスカの返事は嘘じゃないと信じてる。

 ただ、僕が言いたいのはその…みんな…心配してくれてたんだってこと。

 だから…」

シンジはそこで言葉を切った、アスカはわかってくれると思って。

アスカは目でシンジに答えた。

シンジは微笑むとアスカの手を取って出口に向かう。

そのままシンジに誘われケイジを出ていくアスカ。

「なんやシンジの奴、しばらく見ん間にええ男になったな」

トウジが一同を代弁して言った。

…一回りも二回りも大きくなって帰ってきよった。わいも負けてられへんなぁ

ミサトも同感だった。

…シンジくんもアスカも幸せそうね。しっかりやんなさいよ。あんた達はこれからもっともっと幸せになんなきゃいけないんだから

リツコは司令塔にもたれて目を閉じた。

…私なんかがあんなに立派な息子をもっていいのかしら?おまけにあんなにかわいらしい

娘までもらって。

冬月は床に消えたゲンドウの席を見下ろす。

…ふふ、これではしばらく碇は帰って来れんな。ユイ君、見ているか。君の息子はこんな

にも成長したぞ

 

 

シンジに手をつながれて発令所まで来たアスカはすでに思考が停止していた。

感じるのはシンジの手の感触のみ、脳裏に浮かぶのはシンジのことばかり。

…私ってこんなにシンジのことが好きだったんだ

 

 

発令所に入った二人は口笛と歓声、即席の紙吹雪に迎えられた。

シンジは照れくさそうにしながらもアスカを連れてミサト達の所に向かう。

アスカは真っ赤な顔のままシンジについていった。

「あらあら、まるで結婚式ね」

「まぁいいでしょ。どうせ本番も時間の問題だし」

ミサトもリツコも幸せそうにその光景を見ていた。

 

「シンジ!!」

トウジはシンジが来るのを待って声を掛けた。

「久しぶりだねトウジ」

そう言って微笑む。

「ほんまやな」

そう言ってトウジも笑った。

…シンジ、ほんまに大きなったな。昔のシンジやったらわしの足のこととかつまらんことをうじうじ言うてわしが怒鳴りとばすところや。

ちなみにトウジの足はサードインパクトの際に元通りになっていた。

トウジに限ったことではないがそれはまた別の話だ。

トウジが手を差し出すとシンジがその手をつかみ強く握った。

「今までどおりわしらは親友や」

「うん」

シンジも変わらぬトウジの言葉が嬉しかった。

「…にしても惣流はいってしもとるの」

「そ、そう?」

トウジは今にも天井を突き破り空に舞い上がりそうなアスカを見る。

「センセも惣流を泣かせるなんてやるようになったな」

「そ、そんなことないよ」

何だかんだと言ってもやっぱり恥ずかしいシンジだった。

「あーシンちゃんアスカと同じくらい真っ赤っか」

「あら本当ね」

「ミサトさん!リツコさん!」

「ふふふふ照れない照れない。さーみんなお祭りはここまでよ!後は本番まで我慢して仕事に戻って!

ミサトの言葉に部下達は渋々仕事に戻っていく。が、それでも彼らの顔は笑っていた。

二人の再会を演出するついでにスタッフの精神休養、士気向上を図るというミサトの作戦はうまくいったようだ。たとえ名目上であってもそういう理由がなければここまで大々的に行う許可は下りないのは当たり前だ。

「二人ともご苦労様、送って行くからちょっち待っててね」

「へ、テストはどないするんです?」

「特定の状況に置ける心拍数や脳波の変化を計測しつつパイロットの状況を観察する。

 …何か問題あったかしら鈴原君?」

リツコがしらっと言った。

「あ、なるほど。

 …ネルフって結構お茶目な組織やったんやな」

ぼそっとシンジに言う。

「首脳部に問題があるからね」

シンジがしみじみと言った。とりあえず自分はまだ首脳部ではないつもりらしい。

「あぁわしも最近そう思うわ」

「何か言ったかしら?」

「「いえ何も」」

「そーそーアスカ聞こえてないでしょうけどシンジくんは今日からまたあたし達と一緒に暮らすことになったから。よかったわね〜」

「ミサトがでしょ」

冷静に突っ込むリツコ。

「そーよ。うらやましいでしょ〜」

「…まぁね」

「あら…正直ね」

「…たまにはね」

ミサトは無言でリツコの肩に手を回した。リツコも素直に身を委ねる。

一方、

「何!?またかいな!うらやましいぞシンジ!」

「え?」

ふっと顔を上げるアスカ

「一緒に暮らしてもいいかなアスカ?」

照れたままシンジが言った。

「…うん…」

つぶやいてまたうつむくアスカ。

「ちなみにアスカと鈴原君のクラスに転入することも決まったからね〜」

「そりゃほんまでっか?」

ぱっと明るくなるトウジ。

「本当だよ、これからもよろしくねトウジ」

「何や水臭い、こっちこそよろしくたのむわ」

「ちなみに明日みんなを驚かせるまで、ネルフのトップシークレット。他言無用よ」

「まかといてください。こんなおもろいこと、やなかった大事なこと、口が裂けてもいいません」

 

次にアスカの正気が戻ったのはシンジの手料理が葛城家の食卓に並び終わった後だった。

ミサトも幸せのあまりビールを飲み過ぎて数年ぶりに酔いつぶれることとなった。

 

 

 

 

チルドレンのお部屋 −その3―

 

アスカ「………」(ぽわんぽわんとハートマークが飛んでいる)

トウジ「なんや惣流はまだあっちの世界かいな。やるなセンセ」

シンジ「ト、トウジ。何も僕がここに来るなりそんなこと言わなくても」

トウジ「事実は事実やろ。ん?綾波うれしそうやの、てっきり機嫌悪いかと思たけど」

レイ 「アスカが幸せだと碇君も幸せそうに笑っているから私も幸せなの」

シンジ「あ、綾波」(ちょっと照れる)

トウジ「…ほんまええ嫁さんになるで」

レイ 「ありがとう鈴原君」

トウジ「…センセも罪作りな男やな」

シンジ「…どういう意味だよ」

トウジ「ま、次からの話でようわかるわ、このままいけば学校の話やからな」

シンジ「それがどうかした?」

トウジ「センセは相変わらずやな〜。ほれ霧島とか山岸とか」

アスカ「そんなことは許さないわよ!!」

レイ 「あ、アスカが帰ってきた」

アスカ「シンジは絶対に渡さないんだから!!」

レイ 「頑張ってねアスカ」

アスカ「まかせときなさい!!

   あんたの分まで頑張ってあげるわ!!」

トウジ「センセも果報者やな」

シンジ「う…うん」

アスカ「!?シンジ、い、いつからそこに

シンジ「え、えっと最初から」

アスカ(ポッ)

シンジ(つられてポッ)

トウジ「お前ら見とると本当に飽きんわ…」

 

 

つづく

 

予告

シンジはアスカ達と同じ高校に転校した

かつてそうであったようにシンジの転入は

学校に波乱をもたらす

懐かしい旧友達との再会は

シンジを日常の世界に連れ戻す

 

 

次回、新世界エヴァンゲリオン

第四話 平穏、衝撃、のち平穏

さぁて次回もサービスサービスぅ!

 




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