【新世界エヴァンゲリオン】

 

 

<翌朝 通学路>

 

ヒカリは昨日に引き続いて自分より早く来ていたアスカを見て驚いた。

「おっはよ〜ヒッカリー!」

満面に笑みを浮かべるアスカ。

並の男ならこれだけでイチコロだろう。

「ど、どうしたの?やけに機嫌がいいわね」

「別にぃ気のせいでしょ?」

そう言ってさっさと歩き出すアスカ。

今にもスキップを始めそうだ。

慌ててヒカリも追いかける。

「今日もミサト先生呼び出されたの?」

「そんなことないわ。たぶんもう学校よ」

…遅刻常習犯のミサト先生が

「雪でも降らなきゃいいけど…」

ヒカリは天を仰いだ。相変わらず強い陽光が注いでいる。

 

 

<昇降口>

 

「おっす委員長!惣流!」

妙に気合いの入った挨拶をするトウジ。

「お、おはよう鈴原。相田君」

「おはよ委員長、惣流」

「おっはよ。相っ変わらずバカ面ねー」

言っていることは相変わらずだが口調は楽しげでありかつ笑顔のアスカ。

すかさずケンスケがカメラを取り出す。

「何や朝っぱらからひどいで惣流」

答えるトウジも笑顔である。

「事実でしょーが」

笑顔の二人を前に言うべき事のないヒカリ。

「鈴原も妙に機嫌がいいわね」

「あ、惣流もか?なんかトウジの奴、妙にうきうきしてるんだ」

「なにかいいことでもあったのかしら?」

そこへマナとマユミが現れる。

「あ、おはよみんな」

「おはようございます」

「おはよマナ、マユミ!」

バックに花でも咲きそうな笑顔におもわず固まるマナとマユミ。

いつもの如く下駄箱からこぼれ落ちるラブレターなど眼中になく意気揚々と教室に向かうアスカ。

「なにかあったんですか?」

「そうね。いつもなら『ほんっとうに男ってどうしてこうバカばっかなのかしら!』って踏んづけてくのに…」

 

 

<2−A教室>

 

ホームルームまでの間、級友達はあれこれと二人が機嫌のいい理由を話し合っていた。

本人に聞けばすむことなのだが…

「何があったの?」

「な、何って…」

直球勝負のマナの質問に対し、顔を真っ赤にするアスカ。

『!?』

見慣れぬものに後ずさる一同。

…これ以上聞くとやばいかもしんない、というかあまり関わらない方がいいかも。

一同の見解は一致していた。

必然的にマナ達の追求はよりくみやすい相手、すなわちトウジに向かう。

「すーずはーらくーん」

笑顔のマナに思わずひくトウジ。

「な、なんや霧島」

「…アスカの機嫌のいい理由、知ってるんでしょ?」

「な、なんのことかいな?」

あからさまに動揺するトウジ。

「…トウジ、お前って本当に嘘がつけない男だな」

「さぁ白状しなさい!!」

「そうよ鈴原、何があったの?」

マナとヒカリに挟まれ逃れようのないトウジ。

「か、堪忍や委員長、霧島。こればっかりはどうしても言えんのや!」

両手を合わせて頭を下げるトウジ。

「…鈴原」

あまりに必死なトウジに追求を思いとどまるヒカリ。

「…マナさん」

マユミもマナをとめようとする。

「そうね…ここまで隠そうとすることだもん。しょうがないか…」

「マナ…」

「マナさん…」

「霧島…」

収まりかけた場にケンスケが油を注いだ。

「…でも、ここまで隠そうとされると余計に知りたくなるよね」

「そのとーり!ほら、白状しなさい鈴原!!」

「ケンスケ!この裏切りもーん!」

そのときガラッと扉が開いてミサトが現れた。

「起立!礼!着席!!」

条件反射で号令を掛けるヒカリ。

慌てて席に着く一同。

 

「おっはよー!みんな今日も元気〜?」

『はーい!』

大多数の大多数が返事をする。

「よしよし」

「ミサト先生までご機嫌ね」

「何があったんだかね…」

ヒカリに答えながらケンスケはミサトの笑顔の撮影に余念がない。

「突然だけど転校生を紹介するわ!!」

『えぇ―っ!?』

「バカな俺の情報網には引っかかってないぞ!?」

予想外の事態に驚愕するケンスケ。

「ミサト先生、男の子ですか女の子ですかーっ!」

女子が質問する。

「知・り・た・い?」

ミサトがニヤニヤ笑いながら言った。

『知りたいでーす!』

「喜べ女子―っ!!男よーっ!!」

男子のブーイングと女子の歓声が響きわたる。

「しかも容姿・性格そろって超一級品よ!」

女子の黄色い歓声が上がる。

「さぁいいわよ!入ってきて!!」

 

…まったくミサトさんは先生になってもミサトさんなんだな

そう思いながら教室に入るシンジ。

ふっと静まり返る教室。

一度立ち止まったシンジが微笑んだ。

刹那、女子達から歓声が上がった。

一転して騒々しくなる教室。

シンジは教室を見渡してアスカを捜した。

窓際で自分を見つめるアスカを見つける。視線が合うと赤くなってうつむくアスカ。

次にトウジを見る。腕を組んでうなずくトウジ。シンジもうなづいて返す。

その近くにはケンスケ、ヒカリ、そしてマナ、マユミがいた。4人は唖然として言うべき言葉がないらしい。

ミサトを振り返ると手招きしていたので教壇にあがる。

「静まれ静まれ!とりあえず転校生に自己紹介をしてもらうわよ」

シンジは黒板に名前を書くと生徒達に自己紹介をした。

「みなさん初めまして碇シンジです」

 

 

 

【第四話 平穏、衝撃、のち平穏】

 

 

その一言で呪縛を解かれた4人は即座に事情を察した。

「「「アスカ(さん)!!」」」

「トウジ!知ってたな!?」

「え?」

「い?」

途端に追いつめられる二人。

「アスカひどいわひどいわ!私にまで隠してるなんて!」

「よりにもよってこんな大事なことを!昨日心配して損したわ!」

「それでアスカさん機嫌がよかったんですね〜」

「トウジ!お前がそんな奴だとはおもわなかった!

 男の友情ってそんなものだったのか!」

「あの、その、えーと」

「お、おちつけケンスケ、これはやな」

 

「はーいそこそこ。とりあえずはシンちゃんの自己紹介が終わってからね〜」

ミサトの言葉に仕方なく席に戻る4人。

級友達は何が起こったのか今ひとつ理解できずにいる。

「いいわよ続けて」

「僕は以前第三新東京市に住んでいましたので、今の様に僕を知っている人もいると思いますがあらためてよろしくお願いします。

 2年前事情があって僕はアメリカに渡ったのですがこの度こっちに帰ってくることが出来ました。これからはずっとこちらに住む予定です。

 いずれわかる事なので後から誤解の無いように言っておきますと、以前こちらに住んでいたときは、父の仕事の事情で父の同僚であるこちらのミサトさんの家でお世話になっていました。ミサトさんは僕のことを本当の弟のようにかわいがってくれてとても感謝しています」

そういってミサトに頷く。ミサトは手をふりながら

「あーら気にしなくていいのよシンちゃん」

生徒達はその様子でどうして自分たちの担任がこうまで転校生になれなれしいのか理解した。

「そして、今回もミサトさんは僕を先生の家に住まわせてくれることになり、本当に嬉しく思っています」

教室がざわめき出す。もっとも以前のシンジを知っているヒカリ達は落ち着いたものだ。

「みなさんもたぶんご存じだと思いますがアスカもミサトさんの家に住んでいます。ですからアメリカに渡る前はアスカとも一緒に暮らしていました。そしてこれからも以前と同じようにアスカとも同居するということになります」

『えー!?』

という声をクラスのほぼ全員が上げ次にアスカを見た。

顔を真っ赤にして小さくなるアスカ。

見たこともない様子に唖然とする一同。

「よかったわねアスカ」

「…うん」

照れて答えるアスカをヒカリは優しく見つめた。

「しつもーん!!アスカとはどういう関係ですか!?」

女子の一人が手を挙げた。

同じことを聞きたがっていたクラスメート達がうなずく。

「え〜僕とアスカは、その…」

さすがに赤くなるシンジ。

「ほ〜らいいから言っちゃいなさい。担任兼保護者のお墨付きよん♪」

「は、はぁ。一応…僕はアスカの恋人ということになるかと思います」

『うっそーっ!!』

更に大音量の歓声が上がる。

一同の視線がアスカに集中するが、アスカは小さくなるだけで否定はしない。

「僕はアスカの事が好きです。アスカもそう言ってくれました。ですが、僕は2年間もアスカを一人にしていました。だからこれからはその分も含めてアスカを幸せにしたいと思っています」

「えらい!」

ミサトがほめる。

…ふふーん、昨日発令所のメンバーに見せて免疫をつけたのが正解だったわね。そうじゃなきゃこんなこととても言えないわよ。ま、作戦勝ちってところね。あーやっぱりあたしって天才。

達成感に満たされご満悦のミサトである。

「さてさてホームルームの時間もそろそろ終わりね。シンちゃんの席はたまたまだけどアスカの隣よ」

…嘘つけ

一同、心の叫び。

「なにかあったらアスカに聞いてね」

「はい」

「アスカもよろしくねーん」

「………」

コクンとアスカが頷く

…照れちゃってかーわいいんだからぁ

「よーし、みんな今日も一日がんばろーっ!

 そーそー休み時間ならいくら冷やかしてもいいけど授業中はおとなしくしてるのよ〜。じゃ、また後で」

「起立、礼、着席!」

ヒカリの号令がすむとミサトはスキップして教室を去っていった。

そして…

シンジが一歩踏み出した瞬間、クラスメート達が大挙して押し寄せた。

「え、あの、うわ!?」

見るとアスカの所にも同様に押し寄せているようだ。

「ねーねー碇君身長いくつ?」

「え、えーと180…」

「何かスポーツやってるの?」

「い、いや特に…」

「本当にあのアスカと恋人なの?」

「い、一応…」

「アメリカで何やってたんだ?」

「べ、勉強かな…」

「どうやって惣流を落としたんだ?」

「ど、どうやってってその…」

強行突破するわけにもいかずそのまま捕獲されてしまうシンジ。

 

「ねぇねぇ碇君って本当にアスカの彼氏?」

「えっ」

「ずっと前からつきあってたの?」

「えっえっ」

「同棲するって本当!?」

「同棲ってその…」

いつもどおりなら一蹴するアスカもさすがに今日は分が悪いらしい。

「ちょっとみんないい加減にしなさい!!!」

「シンジを通したらんかい!!!」

ヒカリとトウジの怒号が同時に放たれた。

2−Aでこの二人(怒っている時限定)に逆らおうとする者はまずいない。

アスカの回りからさっと一定の距離まで引き、シンジの囲いがとけ道が出来る。

「サンキュ、ヒカリ」

「たすかったよトウジ」

小声で礼を言う二人。

「いいのよ二人とも」

「たくっ誰のおかげで平和になったと思とんじゃ…ええかお前ら!シンジはなぁ…あ痛っ!!

ヒカリがトウジの頭をはたく。

「すーずーはーらー」

「せ、せやかて委員長」

「あんたが自分でばらしてどうすんの!」

「しかしわしはやな…」

「まぁまぁ洞木さん」

まだ余裕のあるシンジがヒカリをなだめる。

「もう碇君は人が良いんだから…」

「シンジやけんな」

そう言った後で笑う二人。

変わらぬ光景に心が和む。

シンジはヒカリに向き直る。

「久しぶり洞木さん」

「本当。久しぶりね碇君」

笑顔で答えるヒカリ。

「お前がいると退屈しないな」

カメラ片手にケンスケが手を差し出す。

「それはひどいよケンスケ」

そういいながら手を握り返す。

「事実だよ…よく帰ってきたなシンジ」

「うん、ありがとうケンスケ」

トウジがうんうんとうなずきながら二人を見守る。

3バカ(バカかどうかは別として)トリオの復活である。

「碇君…」

「………」

遠慮がちにマユミが声を掛ける。

「久しぶりだね、山岸さん…マナ」

ぱっとマユミの顔が明るくなる。

「ええ、本当にお久しぶりですね」

「………」

マナは手を握ったり開いたりしている。

「マナ?」

ふーっと息を吐くとマナは笑顔で言った。

「お久しぶり、かしら。また会えて嬉しいわ、シンジ」

「…うん、僕も嬉しい」

マナの顔もぱっと明るくなる。本人は気付いていなかったが。

「それにしてもシンジったら変わったわね、あんなこというなんて。アスカなんてまだ真っ赤よ」

そういって横目で心配そうに見ているアスカを見る。

アスカはさっと目をそらす。

「マナも少し変わったね。何て言うか元気になった」

「そうかな?シンジが言うならたぶんそうよね。だってシンジは私の…」

「マナ…」

二人の間に沈黙の帳が降りる。

ふっと再び息を吐くマナ。

「…ま、いいわ。だってシンジはアスカを選んだんだもんね。でも…」

「でも?」

「へへへ〜シンジの事呼び捨てに出来る女の子はアスカ以外じゃ私だけよね!」

『えーーーっ!?』

ワンパターンというかノリがいいというか周囲から声が上がる。

「マ、マナ!?」

「だいじょーぶよアスカ。今更邪魔なんかしないわ。それどころか二人の邪魔をする奴は私がやっつけちゃうから安心して」

「マナ…」

「シンジも暗い顔しないの。そのかわりこれからも呼び捨てね。シンジも私も」

「うん」

 

「いやー映画を見てるようだね〜」

ケンスケがレンズをのぞきながら言った。

「本当ね」

「昨日の二人はもっとすごかったんやけどな」

「え、鈴原君その場面にいたの?」

「いたっちゅうかなんちゅうか、まぁネルフの機密やな」

「なんかイヤ〜ンな感じ」

「あんたたち素直に二人を祝福できないの?」

「幸せもんはどうやったってひやかされるんや」

「それに回りを見ろよ、あることないこと話まくってるぜ」

ヒカリが辺りを見回すといくつかのグループに分かれて話し込んでいる。

「アスカってずっと彼のこと待ってたのかしら?」

「道理で誰が言い寄ってもなびかないわけだよな」

「でもよ、たしか惣流って『私より優れた男以外に興味はない』とか言ってたろ」

「とてもそうは見えないわねー」

「でもかっこいいわよね」

「そうそうさっきの笑顔とか」

「なんていうか、きれいよね」

「他の男共とは違う感じ」

「あの二人、同棲するのか?」

「一応、ミサト先生も一緒だろ?」

「でも、あいつら昔も一緒に住んでたんだぜ」

「昔はもっと仲わるかったよな〜」

深刻そうなグループもいれば顔を赤くしているグループもいる。

「…はぁ」

ヒカリはがっくりと頭を下ろした。

 

 

 

「そういやシンジ。リツコさんとは住まへんのか?」

「ああそう言えばシンジの親父さん再婚したんだってな」

「あら、じゃなんでミサト先生の所へ?」

ぽつりとマユミが言った。

シンジに集中する視線。

「え、それはその…ね、アスカ?」

思わずアスカにふるシンジ。

「………」

アスカは既に頭から湯気を上げている。

マナとヒカリが顔を一変させシンジをにらむ。

「あ、そのえーと」

「碇君、今の話は本当?」

「シンジ…もしかしてもうアスカと…」

全員の疑問を代弁する二人。

「え、えーと」

ヒカリがすーっと息を吸い込んだ。

…あ、やばい

「二人とも不潔よ不潔よ!不潔だわーっ!!」

結局シンジはヒカリを説得できずに一時間目を迎えた。

 

 

 

NEON WORLD EVANGELION

Episode4: Let s party!

 

 

<ネルフ本部 ―午後―>

 

「どうしたシンジ。やけに疲れた顔をしてるな」

シンジが入ってくるなりジョニーが言った。

「一個中隊に一日中追いかけ回されたってところかな」

ソファにぐったりと倒れ込む。

本部に用事があるからと今日の所はアスカ達より早く学校から帰ってきた。

もっとも脱出してきたという表現の方が実情に即している。

「そーそー昨日のシンジかっこよかったわよ」

ジャネットがにっこりと笑う。

「………」

予想はしていたがやはり見られたと思うと恥ずかしい。

「まぁあんなに可愛い子に想われてるってのはうらやましい限りだな」

ジョニーは楽しげに笑う。

ここなら冷やかされることはないだろうと思ったのだがさすがに甘かったらしい。

残るはゲンドウの執務室くらいか…この時ばかりはゲンドウの仏頂面が恋しいシンジだった。

「お、シンジくん早かったな。久しぶりの学校はどうだった?」

加持が入ってきて言った。

「とりあえず疲れました」

しみじみと言うシンジに加持が追い打ちを掛ける。

「クラスメートにアスカは彼女だと宣言したそうじゃないか」

「ぐ…」

情報源はミサトだろう。学校でも油断はできない。

「へーやるわね」

「そりゃ真似できんな〜」

「アスカも幸せ者だな」

にへらにへらと笑う3人。

シンジは仏頂面で身体を起こす。

「………ミーティングを始めましょう」

 

 

<2−A教室>

 

アスカも昼前にはいつもどおりに戻っていたのだが。

おずおずと差し出した弁当をシンジに食べてもらったところ、

「おいしい!」

と満面の笑顔で言われたため再び精神が別世界に行っていた。

既に噂には尾どころか各種オプション装備付きで全校に流れまくっている。

ついでにケンスケの写真の値段表が回っているのはご愛敬だ。

下校時には相当の混乱が予想されるが、当事者の片方は既に早退していた。

アスカとしては片時も離れずそばにいたかったのだが、

「ごめん…」

という台詞とそのあまりにもすまなそうな顔を見ると何も言えず、明日からは一緒に登下校できる、今日からは帰ったらシンジがいて晩御飯を食べてもらえる。そう思って我慢したのだった。

とはいえそんな状態であるから、アメリカで何をやっていたのか等、通常行うべき質問はいまだ考えついてさえいなかった。

幸せそうなアスカを見てヒカリもマユミも幸せだった。

マナは少し複雑だったがそれでも喜んでいた。

今までにない笑顔のアスカを撮影しているケンスケは売り上げ高を予想して天にも昇る気持ちだった。

一方、トウジは気が楽になったのか午後のうたた寝をしていたためミサトのチョーク投げの的となった。

 

 

<ネルフ保安部 訓練所>

 

「…というわけで非常時は僕の指示に従ってもらうことになるのですが何か問題は?

 …なければこれで失礼します。どうもお邪魔しました」

ぺこりと頭を下げてシンジはトレーニングルームを出ていく。

後には折り重なって倒れている保安部のエージェント達が残される。

死屍累々という言葉がふさわしい。

もっとも身体に重大な損害は与えていない。

「やっぱり身体を動かすとすっきりするな」

シンジは意気揚々とシャワールームに向かう。

その日から保安部でシンジはゲンドウ並に(別の意味で)恐れられることとなる。

 

 

<ジオフロント 加持のスイカ畑>

 

「そろそろ食べ頃だな」

久しぶりに畑に水をやりながら加持は言った。

「これも葛城が面倒をみててくれたおかげだな」

えへへ、とミサトが笑う。

「まぁね。一応あんたの形見だったし。

 それにしても加持君がスイカなんか作ってるとは思わなかったわよ」

「ははは、ここは俺とシンジくんだけの秘密だったからな」

「そっかーあたしはシンジくんのお姉さんのつもりだったけど、お兄さんもしっかりいたのね…」

しみじみとつぶやくミサト。

「ま、男同士でなければ話せないこともあるしな」

「加持君がいてくれてよかったわ」

「お、嬉しいこと言ってくれるね。」

「えへへ。

 …でも、シンジくんちょっと変わったわね。本質的な所は前のままだけど何て言うか強くなったわ」

「…シンジくんは昔から強かったさ。俺なんかよりずっとね」

「どういうこと?」

「言ったとおりの意味さ。

 …確か、第十四使徒のときもここでシンジくんと話したな」

「…シンジくんがエヴァを降りるって言って、それでも帰ってきて助けてくれたときね」

「ああ」

「そっか、加持のおかげでシンジくん戻ってきてくれたんだ…」

「葛城、それは違う」

強い調子で加持が遮る。

加持の目を見たミサトは珍しく彼が真剣だと知る。

「俺はきっかけをあたえただけさ。決めたのはシンジくんだ。

 俺はここで水をやることしかできなかった。逃げてたのかもな、自分から。だが、シンジくんは戦うことを選んだ。逃げても誰も責めやしないのに。

 だから、俺はシンジくんを尊敬さえしている。だからかなシンジくんの教育を引き受けたのは?どこまでいくのか見てみたいと思った」

「…シンジくんは加持君のこと好きって言ってたけど、加持君もシンジくんのことが好きなのね」

「ま、男の友情だな」

加持の口調がいつも通りに戻る。

「ふふ、妬けるわね」

「シンジくんはもてるからな。

 さて俺はそろそろ戻るよ。早く仕事を終わらさないとな」

「遅れるんじゃないわよ」

「わかってるよ」

手を振りながら加持はその場を去った。

ミサトはその姿を見送った後、再びじょうろをもってスイカに水をやる。

その顔は微笑んでいた。

 

 

<葛城家>

 

「………」

アスカはリビングを行ったり来たりしていた。

…リボンは変えた。服は、うん、普通よね。

午後の間シンジと離れていたためアスカの精神状態はノーマル状態に戻っていた。

昨日は思考が停止していたしシンジと一緒に帰ったのでそこまで意識してなかったのだが、

…と、とりあえず、前と同じように普通にしてればいいのよ普通に。気を使いすぎるとシンジも困るだろうしね。家事は私が…久しぶりのシンジの手料理、おいしかったな…じゃなくて!今日からは私が作ってあげるのよ!…思えばシンジ大変だったのね何もかもやってくれて…

「クワ?」

ふっと我に返るアスカ。何事かとペンペンが見上げていた。

ペンギン相手に赤くなるのも妙な話だが、赤くなるアスカ。

「あーいいのいいの気にしないで。ペンペンもシンジが帰ってきて嬉しいわよね」

「ウギョッ」

懸命に嘴を振る。

どうやらうなずいているらしい。

「そうよね、あれこれ気にしてもしょうがないわ!

 アタシは惣流・アスカ・ラングレーよ!負っけるもんですか!!」

何に負けるのかよくわからないが燃え上がるアスカを見て目を丸くするペンペン。

ピンポーン

玄関のチャイムが鳴った。

瞬時にペンペンの視界からアスカが消えた。

「………クキョッ?」

 

「お帰りシンジッ!!」

満面の笑顔でドアを開けたアスカ。

「こ、こんにちは」

すまなそうな顔のヒカリ。

…やっぱりこう来たわねアスカ

「ヒ、ヒカリ?そ、そのえーと…」

視界にヒカリの背後の4人が入る。

マユミはすまなそうな顔だが、マナ、トウジ、ケンスケはにやにや笑っている。

「あ…あんた達」

「こ、こんにちはアスカさん」

「なによ今の喜びと期待にみちた『お帰り』は?」

「なんや霧島も人が悪いな」

「ほんと今のは記録にとどめておくべきシーンだね。撮影できなかったのが実に残念だ」

アスカは言い返す言葉が見つからず立ち往生していた。

「ご、ごめんなさいね。お邪魔かと思ったんだけど…」

「碇君が帰ってきたのをお祝いしようってお話になりまして…」

「そ…そう」

なんとか平静を保って応対するアスカ。

「あら、やっぱりお邪魔だったかしら?」

「マナ!」

「怒らない怒らない」

「っとに…マナってなんだかミサトに似てるわね」

「え、そう?」

「ま、いいわ。こんな所じゃ何だからあがんなさいよ」

「ごめんね」

「お邪魔します」

「邪魔するで」

「いや、この部屋も久しぶりだね」

 

 

リビングにずらりと座り、持ってきたジュースをあける一同。

「で、肝心のシンジはまだかいな?」

「本部でいろいろと手続きがあるみたいよ。ミサトも今日は早いって言ってたから一緒に帰ってくるかもね」

「あ、あまり遅くなるようでしたらまた今度にでも…」

気を遣うマユミ。

「いいのよマユミ。うちの家主は一般人と感覚が違うから」

「ミ、ミサト先生ってそういう人だったんですか?」

「マユミはまだミサトの本性を知らないのよ」

「本性?」

「…マナもまだしらなかったわよね」

ヒカリが確認する。

「え、ヒカリは知ってるの?」

「う…ま、まあね」

少し冷や汗を流すヒカリ。

「そういうわけだから遠慮せず夕飯も食べていって。多い方が楽しいし」

「惣流の手料理か、みんなに話したら泣いて悔しがるだろうね」

「あんた達感謝しなさいよ!

 今日はシンジの帰ってきたお祝いだから特別よ!

 金輪際こんなことはないと思いなさい!!」

「ふーん、アスカの手料理はシンジ専用か」

計算し尽くした合いの手を入れるマナ。

当然よっ…あ」

にやにやした視線に赤くなるアスカ。

「ほんま霧島も悪い奴やな」

「あら、シンジを譲るんですもの。せいぜいからかわさせてもらわないと」

「ぐぐぐ…」

拳を握りしめるアスカ。

「落ち着いてアスカさん!あーんマナさーん」

「マユミ、ここはマナの好きなようにさせておくの」

「で、でもヒカリさん」

「そーそーこういうのはためるとろくな事にならないからね」

口とは裏腹にこれから始まるであろう女の戦いに期待するケンスケ。

…そうよね。マナもシンジが好きなのよね。レイと違って赤ちゃんになったわけでもないし、ま、今日の所は我慢するか。

近年、会得した忍耐力を酷使してアスカは心を落ち着けた。

「とはいえさすがにシンジとミサトが帰れば8人と1匹になるし、ちょっとつらいわね。

 ヒカリ、悪いけど手伝ってくれる?」

「ええいいわよ」

そのまま6人は持ち込んだジュースとお菓子を食べながら談笑を続けた。

合間合間に冷やかしが入るがさすがに今日は反撃できないアスカ。

「にしてもセンセ遅いな」

「そうだね、もう6時になるよ」

「ちょっとミサトさんの所に電話でも…」

トウジとケンスケがそんな話をしていたとき玄関のドアが開いた。

「ただいま〜」

一陣の風が吹いたかと思うと彼らの視界からアスカの姿が消えていた。

「…えーと、見えた?」

マナのつぶやきに首を振る一同。

玄関からアスカの元気な声が響いた。

 

「お帰りっシンジ!!」

走ってきたアスカを見てシンジはとてもうれしくなった。この少女を好きでいられることに、好きでいてもらえることにたとえようもない喜びを感じる。

そんな心情を反映したシンジの笑顔はアスカの脳神経を一瞬で焼き尽くす。

「うん、ただいまアスカ」

…う、シンジの笑顔って反則ね。逆らいようがないわ。でも、逆らうつもりにもなれない。この笑顔を見続けていられたら私きっと…

「どうしたのアスカ?」

な、なんでもないわよ。さっ、早く入りなさいよ」

赤い顔のままアスカがシンジを促す。

「うん…あれ?お客さんが大勢来てるんだね」

靴を見るシンジ。そこへトウジ達が現れる。

「邪魔しとるで」

「あれトウジ?ケンスケも」

「委員長や霧島、山岸もいるよ。みんなでシンジが帰ってきたのを祝おうと思ってね」

「そうなんだ…ありがとう」

「さ、主役は早くあがりなさいよ。…何それ?」

外にはビールのケースとスーパーのビニール袋がいくつもならんでいた。

「あ、実はもう一人お祝いしてもらいたい人がいたんでいろいろ買ってきたんだ」

「もう一人?」

「うん。たぶんミサトさんは今日はたくさん飲むと思うし、リツコさんにも声をかけてあるんだ」

「誰なの?」

「その…加持さんだよ」

アスカは耳を疑った。

「か…だって加持さんは死んだってシンジが!

 それにミサトもあんなに落ち込んで!!」

「だから死んだ振りをしてただけで生きてたんだよ」

「そんな…」

…やっぱりアスカもショックだったか

加持がひょいと自分の前に現れたときのことを思い出すシンジ。

「実をいうとアメリカで僕の護衛をしてくれてたんだ」

間違ってはいない。ただし半分しか話していないが。

そういうものだと割り切るシンジ。アスカは知らないでいいことだ。

「そっか…そうなんだ。じゃ、シンジと一緒に帰ってきたんだ」

「うん、昨日は忙しくてね。アスカに会いにいけなくて残念そうだったよ」

「加持さんてどなたです?」

マユミが聞いた。

「あ、昔シンジを連れてきてくれたお兄さんかな?」

マナが乏しい記憶を掘り返す。

「うん、何度か会ったことがある格好いい人」

 

「ところでシンジ」

「なにケンスケ?」

「これ…一人で運んだのか?」

山のような荷物を指さす。

「え、そうだけど?」

…あ、しまった

「一人でって…」

「あ、悪いけどトウジ。運ぶの手伝ってくれる?」

「まかしとき、力仕事は得意やからな」

「頼むよ、あ、こっちに運んで。アスカ、そういうわけだから悪いけど夕飯の人数増えるんだ、僕も手伝…」

「ストップ!!」

アスカは手でシンジの言葉を遮った。

「きょ、今日はシンジのお祝いなんだから私に全部やらせて。

 その、加持さんが帰ってきたお祝いもだけど今日は私の料理を食べてもらいたいの」

「う、うん。うれしいけど…」

「じ、実はねみんなにも食べてもらうつもりだったから今更二人くらい増えても大丈夫よ。ヒカリにも手伝ってもらうし…」

「わ、わかった。アスカにお願いするよ。僕は明日から…」

「違うの。気持ちはう、うれしいんだけど。これからは私に任せてもらいたいの。

 昔はシンジがなにもかもしてくれてた。だからアタシ反省してる。本当にシンジには感謝してるわ」

「そんなことないよ。僕もミサトさんやアスカの世話ができてうれしかったし…」

「う、うん。それもわかってるの。だけどお願い私にやらせて。私、シンジのためにしてあげたいの。昔の恩返しだけじゃなくて…」

「…わかったよ。ありがとうアスカ」

「い、いいのよ」

そう言って見つめ合う二人。

 

「あーあ、やってられんわ。さっさと運ぶで」

「俺も手伝うよ。身体でも動かして発散させないとやってられないね」

「ちょっと二人とも!」

「事実よヒカリ。あ、私も運ぶわ」

4人の声に我に返るシンジとアスカ

「「あ、こ、これは」」

二人のユニゾンは2年たっても健在だった。

「はもってるね」

「見事なくらいにな」

「「前にもましてイヤーンな感じぃ!」」

「うふふ、まるで新婚さんみたいですね」

ピシッ

マユミの一言は周囲を凍り付かせた。

「え?え?………あ」

マユミも自分が何を言ったかに気づき固まる。

…やがて人々は無言で動き始める。

「クワ?」

ペンペンだけがマイペースだった。

 

「それでこのありさまか」

「シンジくんの人徳かしらね」

シンジが入れたお茶を湯飲みで飲みながら加持とリツコが話す。

一方の子供達と言えば、

レイを抱かされたトウジは身動きできず固まってしまっている。

レイの仕草が可愛いのかマナとマユミは飽きずに眺めている。

ケンスケはそれを撮影していた。

「で、肝心の主人は?」

「ぷっっはぁぁぁぁぁーっ!!!やっぱり仕事の後のビールは最高ね!!

 おまけに可愛い教え子達が訪ねてきて一緒に晩御飯なんて感動ものよ!!

 生きてて良かったわ!!」

既にビールの空き缶が何本も並んでいる。リツコは額を押さえ、

「ミサト、子供達の前なんだから少し控えなさいよ」

「何言ってんのよリツコ。教師たる者生徒に隠し事はいけないわ!ねぇ?」

「え、ええ」

「ははははは」

ミサトの飲みっぷりに圧倒されているマユミとマナが引きつった笑いを浮かべる。

「ほらあんたも飲みなさいよ」

「しょうがないわね」

と言いつつ一気に飲み干すリツコ。

人は見かけではわからない、と冷や汗を流しながら再認識する少女二人。

「おーとても二児の母親とは思えん飲みっぷりだな」

「ミサトとつきあってるとね、ほら加持君もやりなさいよ」

「ではお言葉に甘えて」

同じく一息で空ける加持。

すぐに宴会が始まる。

「あ、ミサトさん、せめて晩御飯…」

「あに言ってんの!シンジくんも飲みなさい!

 アメリカで鍛えてきたんでしょ!」

「鍛えてきた内容が違いますよ!」

「おいおい教師が未成年に酒を勧めるのか?」

「教師の前にあたしはシンちゃんのお姉さんなの。リツコもいいわよね?」

「ええ。別に構わないわ」

「ほらお母さんもこう言ってるじゃない。ほらシンジくんだけとは言わないわ。みんなもいいわよ」

「ミ、ミサト先生!私たちはまだ未成年です!!」

慌ててヒカリが言う。

「あらいーのよそんなこと気にしなくて」

「で、でも法律上…」

「大丈夫よ山岸さん。ネルフは公開組織になったけど、超法規組織には違いないから」

マユミに答えるリツコ。

「よ、よくわかりませんが?」

「つまり!日本政府が駄目といってもネルフがOKと言ったらOKなのよ!」

きっぱり言い切るミサト。

「そ、そんな無茶な…」

「まー諦めようよ委員長」

「せやせや」

「相田君、鈴原!!」

「そうよ、何たってあたしとリツコはそのネルフのbRなんだから!!」

再びきっぱり言い切るミサト。

「ま、少しくらいいいだろう」

そう言って加持はビールをコップに注ぐ。

トウジとケンスケは期待に満ちた目でその泡を見つめている。

がっくりと肩をおとすヒカリ。

ミサトの本性の一部をかいま見たマナとマユミには言うべき言葉がない。

「あ、アスカ。こっち運んでいい?」

「うん、お願い」

シンジとアスカはマイペースで働いていた。

「何か騒がしいけどどうかしたの?ヒカリも戻ってこないし」

「あぁ気にしなくても大丈夫だよ。ミサトさんが暴走してるだけだから」

「あっそ」

…これで納得されるミサトもミサトである。

 

「というわけでシンちゃん、加持君お帰りなさい」

『お帰りなさーい!』

音頭をとったミサトの号令のもと改めて乾杯する一同。そのまま料理に舌鼓を打つ。

「おいしーい!」

「こりゃうまいわ」

「なんだ惣流って料理うまかったんだな」

「本当」

「おいしいですね」

「クワッ」

「いつのまにこんなに腕を上げたんだアスカ?」

「うん本当においしいよアスカ」

「うん、ありがとうシンジ」

全身から喜びのオーラを発するアスカ。

「シンちゃんがいなくなってから特訓したのよね〜」

早速冷やかすミサト。

「その割にミサトの料理が相変わらずなのは不思議ね」

「ぐ」

ドンドン

リツコのつっこみにのどをつまらせるミサト。

「あ、相変わらずですか?」

「ええ、相変わらずよ」

「そ、そうですか」

はぁ、と肩を落とすシンジ。確かに一昨日もそんなことを言っていた。

「何よシンちゃんその顔は」

「いや加持さんが大変だなと思って」

「ん?なんで加持さんが大変なの?」

アスカが箸を止め聞いた。

「だってアスカ。加持さんはミサトさんの手料理を毎日食べることになるんだよ」

「…なんで?」

話が通じていない。

「あ、そうかアスカはまだ知らなかったんだね」

「そういえばそうね」

シンジとリツコがうなずく。

「な、何よ。何なの加持さん?」

「え、えーとだな、なぁ葛城?」

「な、なによしっかりしなさいよ」

ミサトが肘で加持を小突く。

「あらあらしょうがないわね」

「なんなんですかリツコさん?」

トウジが尋ねる。

「私から話していいのかしら?」

「やっぱりミサトさんから言うべきだと思いますよ」

そう言うとリツコとシンジはミサトを見た。

「う、わ、わかったわよ。

 えーコホン。ア、アスカ。実はね」

「何?」

「あたし…加持君と結婚することにしたの」

しばしの沈黙。

『えーーーーーーーーーっ!?』

「な、なんで!?」

「なんでっていってもやっぱり…」

「ま、愛してるからかな?」

さすがの加持も照れくさそうである。

「そ、そんなミサトさんが!?」

「この世には神も仏もいないのか!!」

「ちょっと鈴原!相田君!」

「わーおめでとうございます」

「へーミサト先生もついに結婚かぁ」

めいめいの感想をもらす教え子達。

「予想はしてたけどすごい反響ですね」

「ミサトも立派に教師してるのね〜。あ、駄目よレイ。ペンペンを食べちゃ」

「クワーッ!?」

「キャッキャッ」

 

「アスカ」

加持が真剣な顔をしてアスカに言った。

「な、なに加持さん」

「祝ってくれるかい?」

ミサトもじっとアスカを見た。

…祝ってくれるかって言ったって。でも、何でだろう全然イヤじゃない。加持さんにあこがれてたはずなのに、ミサトと結婚するって聞くと嬉しい。

そう考えながら視線をさまよわせると自分を見ていたシンジと視線が合った。

ゆっくりと息を吐き出し、

「当然でしょ。加持さんはともかくあの生活能力ゼロのミサトにもらい手があったんだものお祝いしてあげるわ」

「ぐっ、あ、ありがとうアスカ。とってもうれしいわ」

顔をひくつかせながらも礼を言うミサト。

「よかったわねーミサト。加持さんくらいよ。ミサトなんかをもらってくれるいい人は」

「な、なんか棘があるわね」

「気のせいよ」

「ふーん。あ、そっかアスカはシンちゃんがいるからもう加持なんかどうでもいいんだ」

「なっ何言ってんのよ!!」

真っ赤になるアスカ。

「へへーん。赤くなっちゃって可愛いわね〜」

「ふん!加持さん考え直すなら今の内よ!いくら加持さんでもミサトの手料理を毎日食べたら三日であの世行きよ!」

「そ、そんなにひどいのか?」

「あれはもはや毒物よ」

「たしかにさすがの私でも解毒薬を作る自信はないわね」

リツコも肩を落とす。

「大変ですね加持さん。また命がけの日々ですか」

ぽんと加持の肩に手を置くシンジ。

「俺にもしものことがあったら後を頼むよ」

「わかりました。心おきなく戦ってください」

「困ったことに撤退はできるが降伏はできないからな」

「ちょっとシンジくん!加持!」

「はは、冗談だ、怒るな葛城」

「そ、そうですよミサトさん」

「うー」

「事実を事実として受け止めるのねミサト」

「アスカだって昔は同じぐらいだったでしょ!」

「うっ…む、昔はどうあれ今はミサトとは雲泥の違いよね」

「ふふーん、シンちゃんを引き留められなかった悔しさを料理にぶつけたのよね」

「な、何ですって!?」

「何よ!?」

「やる気!?」

「上等じゃないの!!」

立ち上がって戦闘態勢に入る二人。

 

「なんつーか低レベルな戦いやな」

「ほんと、やっぱり一緒に住んでると似てくるのかしら」

「でも姉妹みたいにそっくりね」

「姉妹喧嘩か、二人とも美人だから喧嘩してても絵になるね」

カメラ片手にケンスケ。

「碇君…昔っからこうなの?」

マユミの問いにため息をつくシンジ。

「まぁね。もう慣れたけど」

「でもうれしいんでしょうシンジくん」

リツコが言う。

「ええ、あれだけはしゃいでるってことはそれだけ僕と加持さんが帰ってきたのを喜んでくれてるってことですから」

「この幸せもん」

「まったく変わってもらいたいね」

「はは、それなりに大変だけどね…加持さん」

「ん、何だい」

「…とりあえず料理を習いたいときはいつでも言って下さい」

声を潜めるシンジ。

「ああ頼むよ。…ところで本当にひどいのかい葛城の料理?」

こころもち青ざめて問う加持。

「すいません。あまり思い出したくないんです」

「…そうか、わかった頼むよ。シンジくん」

 

 

『お邪魔しました〜!』

「はーい、気をつけて帰ってね」

ミサトに見送られてトウジ達は帰っていった。

「さてと、アスカは?」

「レイちゃんと一緒に眠ってるよ」

「あら、だれかビールでも飲ませたの?」

「張本人が言ってりゃ世話無いな」

「加持さん」

二人の所にシンジがやってくる。

「お、どうだった」

「…とりあえず確認したのは7個です。明日、消毒しておいた方がいいですね」

「何の話?」

シンジが手を開く。手の平の上には幾つかの小さな箱が乗っていた。

「…盗聴器?」

「この家には電波妨害もかけてあるから問題ないとは思うが、念には念をというからな」

「誰が…まさか!?」

ミサトの表情が翳る。

「…マナです。現場も確認しました」

シンジも少しつらそうに言った。

「そう…ま、彼女もつらい立場だものね」

「とはいえ放っておく訳にもいかないがな」

「…ちょっと、まさか」

ミサトの顔色が変わる。

「おいおい、アスカや葛城に恨まれるようなことは願い下げだよ。な、シンジくん」

「そうですね。今回はちょっとリツコさんの知恵を借りましょう」

「リツコの?」

 

「…という訳なんですが」

アスカとレイの様子を見ていたリツコにシンジは事情を説明した。

「うふふふ、そういうことなら任せておいて」

…こういう目をしたリツコ(赤木)はろくでもない事を考えている。

3人の見解は一致していた。

「…加持君」

「な、なんだい?」

「…徹底的にやっていいのね?」

「ま、まぁお手柔らかに頼むよ」

笑いが引きつる加持。

「わかったわ、うふふふ」

リツコはとても楽しそうに笑った。

 

数日後、日本政府内務省調査部は悪夢のような事態に襲われた。

何があったか関係者は口を閉ざし、全ての記録は抹消された。

後に残ったのはマナが正式にネルフに移籍したという事実だけだった。

 

 

 

チルドレンの部屋 −その4―

 

シンジ「どうかしたのアスカ?何か機嫌が悪そうだけど?」

アスカ「やっぱりなんだか出番が少ないような気がするのよね〜

    シンジとのラブラブシーンもあんまりないし…

シンジ「え?」

アスカ「な、なんでもないわよ…あれ、珍しく熱血バカがいないわね?」

シンジ「トウジのこと?」

アスカ「そう」

レイ 「…鈴原君なら赤木博士がつれていったわ。実験だって」

アスカ「実験ねぇ…モルモットになってなきゃいいけど」

シンジ「なんだかリツコさん最近絶好調だからね」

アスカ「そうそう妙においしいところもっていくのよね」

レイ 「…そうね」

アスカ「ま、リツコは今のところ登場人物の中で唯一の母親だもんね。

    ママには逆らえないってとこかしら」

シンジ「へぇ」

アスカ「何よ?」(口を尖らせる)

シンジ「やっぱりアスカって優しいなって」(にっこり笑う)

アスカ「………」(真っ赤になる)

レイ 「…次回も長くなる予定です。続きをお楽しみに」

シンジ(綾波ってやっぱりマイペースだな)

 

 

つづく

 

予告

彼は自らの死を願った

シンジには彼の望みを叶えることしかできなかった

シンジの心に深い傷を残したあまりにもヒトに近すぎた使徒

突然の知らせはシンジに痛みと喜びをもたらす

シンジは彼に何を語るのか

彼はシンジに何を告げるのか

二人の少年の心をよそに出撃するエヴァ七号機

天空を舞うその姿はヒトに滅びをもたらす神の使いなのか

それとも神に仇なす異形の悪魔なのか

 

 

次回、新世界エヴァンゲリオン

第伍話 五人目の適格者

お楽しみに

 




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