〜第1話〜

 

 

「気持ち悪い…」

彼女は確かにそう言った。

 

薄暗い。

紫の雲に覆われた空。

血の色をした海。

荒れた砂浜。

砂浜に膝を屈する僕。

足元に横たわる少女。

彼女は生きていた。

もう傷つけたくなかった。

でも、更に傷ついていた。

だからもうこれ以上…。

僕が何かをすると更に傷つけてしまう。

ナゼ?

どうして?

僕の気持ちをわかってくれないの?

だれもわかってくれない。

だから僕も傷つくんだ。

結局、アスカが悪いんじゃないか。

わかってくれないから。

 

エヴァ。

ミサトさんが乗れといった。

父さんが乗れといった。

リツコさんが乗れといった。

みんなが乗れといった。

僕は乗りたくなかった。

誰ともかかわりたくなかった。

それは傷つきたくなかったから。

でも、あの綾波は見ていられなかった。

だから乗った。

綾波を守るために乗った。

でも、守ってもらったのは僕。

いつも支えてくれたのはアスカ。

結局僕は…

 

 

 

 

 

〜こころとこころ〜

 

 

 

 

 

僕の人生を変えたアスカの一言から10年たった。

あれからアスカは僕に一切話てはくれなかった。

アスカの中から僕の存在が消えてしまったかのように。

あの時僕はこれでよかったと思った。

アスカと話さなければこれ以上傷つけなくて住むと思ったから。

今は後悔している。

大人になった僕。

あの時の記憶は全部はっきりしている。

あの時の僕が今の僕なら、もっとマシな今を作れただろう、今更どうしょうもない。

あのあと僕はNERV本部に行った。

中は赤い液体でいっぱいだった。

ミサトさんはエレベータの前で倒れていた。生きていたけど目を覚まさなかった。

とりあえず引きずって医務室へ連れてった。

青葉さんや日向さんやマヤさんは発令所で倒れていた。

やっぱり目は覚まさなかった。

他の人たちは誰も見つからなかった。人の形をした赤い液体だけがそこに存在した。

みんなが目を覚ましたのは3日経ってからだった。

みんなとても元気だった。そろっていい夢を見たらしい。

僕はみんなにサードインパクトを起こしたことを伝えた。みんな驚いて信じられないようだったけど、

ミサトさんだけが明るく振舞っていた。

それからは大忙しだった。

「復興」

みんなそれだけを考えていた。

人はすごい。

色々ありすぎてなかなか思い出せないくらいに。

アスカの行方はわからなくなっていた。

NERV諜報部で生き残った人たちに探して貰ったけど、見つからなかった。

僕も色んなとことを探した。

でも…

トウジやケンスケ、ヒカリとかクラスのみんなはほとんど生きていた。

しかし、地球規模での失踪者は10億人をゆうに超えていた。

ここは僕の望んだ世界。

望まれなかった人はここにはいない。

僕の世界。

だから僕が変える。

元の世界に。

僕はNERV総司令になっていた。世界の支部は僕の一言で自由に動く。

父さんがいた席は今、ミサトさんが座っている。

エヴァは初号機と2号機以外は解体した。もう必要の無い物だってことはわかってる。

でも、捨てられなかった。

これが唯一僕とアスカをつなぐものだから。

アスカが忘れられない。気になる。生きてるのか。どこにいるのか。どうしてるのか。

世界の復興作業はかなりすすんでいる。発展途上国だったところと紛争が始まっているところがまだ遅れているくらいだ。

それで、情報系統もかなり問題なく稼動している。が、アスカは見つからなかった。

あの日、夢ではないことはわかってる。だから絶対生きてる。…そう信じてる。

 

僕がゼーレというものの存在を知ったのは実は最近だった。

ゼーレの幹部達は行方不明。活動は完全に沈黙していたので、気が付かなかった。

メンバーの中に父さんの名前があった。

父さんの仕事。

教えてくれなかった。

それがわかった。

「人類補完計画」

父さんは僕をそんな狂った計画の為に利用していた。あんなに傷ついても信じて闘った

綾波、そんな狂った計画だと知らずに、それを生きがいとして生きていたアスカ。

僕らをだました。

許せない。

許せない。

許せない。

 

 

あれからどの位時間がたったのだろう。アタシはあの時から時間は止まって感じる。

動いていない時間。

胸の中に空いた大きな空間。

お母さんを感じた。

でも、埋まらなかった。

なにが足りないのか。

アタシはそれがなんなのか知っている。でも、口にしてはならない。

シンジ…

胸の中ではいつも呼んでる。自分。

あのとき突き放した自分。

平然を装う自分。

アタシの中でいつも喧嘩してる。

弱いアタシ。

強いアタシ。

それを傍観するアタシ。

今は強くなくちゃいけない。

でも本当は違う。…弱い。

こう考えてることがキライ。

 

この街は荒れている。

生まれ故郷だった街。

昔の面影は無い。

突然の政治家幹部の失踪。

野心家達が発起し内戦が勃発した。

あれからこの街に戻って、帰る家も無く路頭に迷い、暴漢に襲われそうになっていたところを、

民衆レジスタンスに助けてもらった。

それからずっと、ここにお世話になっている。看護婦として、時には兵士として。

あの時助けてくれた少年、ミッターマイヤ。今はここのリーダー。

彼は絶大な信頼を受けている。どこかの組織の誰かさんとは違って、奇抜で巧妙かつ繊細なゲリラ作戦。

それは全て成功してる。ほとんど死者もださない練りこまれた作戦だった。

民衆の開放、食料確保、防衛以外の戦いはしない。先日10年の活動が実り、都市を一つ

完全に開放したところだ。ドイツ軍政府とも交渉し今後お互いの不易な戦いをやめるための条約を結んだ。

あと注意しなければいけないのが、ほかの独立軍である。

街一つ開放したのだから、必ずやつらの的にされる。だから政府は自ら手を下さなくても

勝手につぶされるだろうと思ったんだろう。もっと警戒しなきゃいけない。

いつまで続くんだろう。

エヴァがあれば、一気に敵の本部に撲りこむのに。エヴァがあれば…。

なにを言ってるの?エヴァ?

エヴァがなければなにも出来ないの?

…出来ない。今は…。

 

シンジ…。NERVの総裁になったのは知ってる。ニュースで見た。国連直属だったNERVが、民間企業として活動再開。

そのときシンジが宣誓してた。

世界を復興させるって。

どう思ってる?アタシのこと。世界のことより。ねぇシンジ…。

「どうした?アスカ。ボーッとして」

「え?」

ミッターマイヤ。アタシの婚約者。

気を抜くといつもシンジのことを考えてる。それがイヤだった。

いつもアタシを心配してくれて、いつも笑顔を振り撒いてくれる。どこかシンジと似てた。

この人ならシンジのこと忘れさせてくれると思った。

そのためにこの人を利用している。ヒドイ。汚いアタシ。

「なんでもないわよ」

「そうか、ならよかった」

そう云ってまた笑顔。

どうしてアタシなんかに…。

「アスカが元気ださないとみんなまで暗くなっちまうぞ!」

アタシを励ましてくれてる。ありがとう。

「うん。そうだね、ごめんごめん」

「まぁ、いいさ。これから作戦会議だ。行くよ」

そして彼がアタシの手を握る。引っ張る。アタシはその隣を歩く。大きくてたくましい手。

安心感が沸いてくる。

会議室は狭い。このレジスタンスの本部は地下なのだからしかたない。

薄暗い部屋の中に8人ほどの男が集まっている。このレジスタンスの主要メンバー達だ。

みんなやさしい。あの時もやさしかった。

そこへアタシ達が加わって会議は始まる。

 

ミッターマイヤが議題を繰り出す。

−「都市防衛」−

とホワイトボードに書かれた。

「今後の最重要課題はこの街の防衛だ。今までは攻撃重視だった、

防衛といっても本部はいくらでも変えればいいから脱出だけだったが、これからはこの街を守らなければいけなくなった。

かなり広範囲におよぶ防衛線をひかなくてはならない。

はっきり云って今のままでは絶対兵力が足り無すぎる。「少数精鋭」、ゲリラには向いているがこれは違う話になってくる。

今度はこちらがゲリラに遭うのだ。

それで、兵力の増強を図ろうと思う」

みんな神妙に聞いている。反対・意見などみんなはする気は無いのだ。彼の言った通りにて失敗したことは無いのだ。

反対しようが無い。だから云われたことを忠実に正確にこなすのが彼らの任務だった。

「TV・ラジオを使って、民衆から同士を募る。たぶんこの国中に同士達はいるはずだ。

そんな者たちで統合しようかと思うんだ。

呼びかけは僕とアスカで行う」

 

この案はその場で全員の承認を受け、即実行となった。ラジオ放送局も臨時TV放送局もここ本部にそろっている。

そして呼びかけが始まった。

この呼びかけはアタシの知らないところまで届いていた。

 

あの人のところまで…。

 

 

〜こころとこころ〜 第1話 −完−


(つづく)


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