EVA Police Force

〜新第三東京市警の平凡な日常の風景その一〜

 

 

所長室。サイドボードの上には良く分からないトロフィーや盾などが無数に飾られ、

壁には何故か鹿の頭の飾り物。窓際には人が2人は寝れそうな大きな机。そこに1人の男が座っていた。

サングラスをかけ白い手袋をはいた手を顔の前で組んでいる。

その男の後ろには窓から外を眺めている中年終わりかけの男。

 

「彼女、本当に来たな」

「あぁ。シナリオ通りだ。」

「あれで、金一封とか昇進とかを希望してきたらどうするつもりだったんだ。」

「その時はその時だ。あれは来た。問題ない。」

「掴まえられた者達はどうするのだ」

「奴等は我々を知っている。何かしゃべられる前に消さねばなるまい」

「早くしなくていいのか」

「問題ない。もう手は打った」

「…そうか」

 

 

 

 

 

太陽が空の真上で自らの絶対の力を主張していた。「夏」、気温はまだまだ上がる勢いだ。

所内の一部でもぐんぐん熱くなっていった。

 

「お腹減った〜。早く食べよシンジ」

 

所内の食堂はセルフサービスで好きなメニューを選ぶシステムになっている。もちろん無料ではない。

物を受け取るときに備え付けのカードリーダに自分の署員カードを通し口座から引き落とされるのだ。

給料日後は一番豪勢なAランチが飛ぶようにでるのだが、月末の今時期はCランチばかりになる。

賄いのおばちゃん達はこれを予想して作っている。

 

「最近Cランチばかりよねー。早く給料日来ないかな」

「そうだね。なんかいいバイト知らない?アスカ」

「公務員がバイトしちゃダメに決まってるでしょ!バカシンジ」

「冗談に決まってるだろ。あっ綾波がいるよ。あそこ空いてるみたいだからあそこ座ろう」

 

広めの食堂なのだが如何せん人数に見合った座席数ではなく、いつも混雑していた。

しかし綾波の周りだけはどんなに込んでいても空いていた。

その理由は仲のいいシンジやアスカには到底理解できるものではなかった。

例によって、レイの両サイドが空いていたのでアスカとシンジはレイをはさむように座った。

座りざまふとレイのトレイの上に乗っかってるものを見たアスカ。

 

「ちょ、ちょっと!なんであんたAランチなのよ。このアタシがCランチで我慢してるときにぃ!」

 

レイは味噌汁をコクっと飲み込んで、その味噌汁を見つめる。

 

「…おいしいわ」

 

アスカは整った顔をゆがます。

 

「なにそれ、嫌味?ちょ、シンジも何か言ってよ!」

 

シンジはすでに座って食べ始めていた。

 

「アスカも早く食べようよ。冷えちゃうよ」

 

シンジの態度でさらに燃え上がろうとしたが、これ以上何を言ってもムダだと悟り、

確かにお腹も減っているので、とにかく座って食べ始めた。

 

「アンタ、お金もってるのね」

「そうね。お金、使い道ないから…」

「使い道って、アタシ達の給料じゃ洋服買ったり化粧品かったりしたらあっという間に無くなるでしょ普通」

「あたしそんなの買わないわ」

 

確かに、シンジさえレイの普段着や化粧したところを見たことが無かった。

 

「欲しい物とかないわけ。貯めてあれが買いたいとか」

「…ないわ」

「じゃあ、あんたのおごりでどっか食べに行こうよ」

 

レイは一息間を置く。

 

「イヤ」

「どーしてよ!。いいじゃない、使い道無いんだったら」

「あたしがおごるのは碇君だけ」

 

アスカは前かがみになってシンジに視線を合わす。

 

「シンジ。おごって貰った事あるの?」

 

シンジは真っ赤になりなら答える。

 

「あ、ある、かな。」

 

再びアスカの顔がゆがむ。

 

「あーそーですか、よかったわねシンジ。どーせアタシは、どーせアタシは…ブツブツ」

 

さすがにシンジも気まずくなり、どうしたらいいかあれこれ考える。

 

「あー、じゃさ、今度みんなで街にでも行こうよ。僕がおごるからさ」

 

アスカとレイが勢い良くシンジのほうへ振り向く。それも笑顔で。

 

「もう前言撤回なんて言わせないわよ。約束破ったら殺すからね。」

 

(…笑顔でそんなこと言わないでよ。)

 

「…そう。…うれしいわ。」

 

(なんだい綾波。その不敵な笑いは、怖いよ。)

 

「そ、そう、僕も楽しみだよ。あ、あははははは、あは。」

「碇君、顔が引きつってるわ。言ったこと後悔してるの?今更」

 

(「今更」って倒置法で強調しないでよ。わかってるんだろう。)

 

「なに?自分で言っといて、イヤなの?」

 

下斜め45度の角度で影の入ったアスカの眼がシンジを捉える。

 

「な、なに言ってるんだよ。僕は大丈夫さ。早く食べちゃおうよ、あはははは」

 

本当のことを言ったら「殺される」シンジはそう思った。

アスカとレイはさっきまでの争いを余所にニヤニヤしながら、なにやら相談している。

別にいいわよと、言ってくれることを期待して放った言葉は思わぬ方向で進展してしっまった。

(…あ〜、新しい自転車買おうと思ってたんだけどな〜。)

 

「シンジ!次の木曜有給取りなさいよ。アタシとレイは非番なの」

「どうしてだよ。」

「3人同時に非番の日なんてあるわけ無いでしょ。だからよ!」

「だからってどうして僕が休まなきゃならないんだよ。アスカが休めばいいだろ」

「…もう一回いってみて」

 

握りこぶしを突き出し、背景に炎が上がった。この状況で逆らえるシンジではない。

 

「も、木曜だね。OKわかったよ。係長に言っとくから。」

「分かればいいのよ分かれば。」

 

      ・

      ・

      ・ 

 

「……………6分署の指名…」

 

浮かれているアスカの耳が反応する。

 

「そうそう、死体で見つかったって」

「ウソぉ!」

 

婦警の噂話だった。普段なら気にも留めないくだらないものだが、その内容はアスカに関係のある内容だった。

 

「ちょっと!その話詳しく聞かせて」

 

アスカは「ダンッ」と彼女達が座るテーブルに手をついた。

急に割り込まれた婦警はビックリしたようで、ビクッと肩が揺れる。

 

「えーっと、6分署の話ですか?」

「そうよ!早く話しなさいよ」

「は、はい!」

 

アスカは階級も同じで年も下なのだが、勢いに負けて思わず敬語で答えてしまった。

 

「なんでも、6分署で一斉逮捕された8人の容疑者が本庁に護送中に車両が交通事故に合って、

その隙を突いて容疑者が逃げたそうなの。で、事故が遭ったのは昨日なんだけど

今朝方芦ノ湖のほとりで容疑者全員の死体が発見されたんだって。」

「どーゆーことよそれ!。犯人は?」

 

アスカは戸惑いを隠せないでいた。自分がせっかく捕まえた容疑者に逃げられた上、何者かに殺されていたのだ。

 

「今調査中らしいですが、手がかりはまだ見つかってないそうです。」

「そう。」

 

アスカはシンジ達の席にもどり座る。

 

「あれってアスカがこっちに来る前に捕まえたやつだよね」

「6分署の連中なにやってんのかしら、バカばっかりね。アタシの苦労全部水の泡にしちゃうなんて、許せないわ。

せっかく捕まえたのに」

「ちょっと引っかかるね。殺されてるなんて」

「うん。絶対裏があるわ」

「でも…気にすること無いわ」

「どうしてよ」

「うちの管轄じゃないもの」

「管轄じゃないって言ったって気になるじゃない!」

「…ご馳走様」

 

レイはスッと立ち上がり食器の乗っかったトレイを持ってカウンターの横にある回収台へ持っていった。

 

「でも、気になるわよね」

「そうだね。なんかあるよ絶対」

 

その後二人は無言で昼食を済ませ自席へ戻った。

 


(つづく)


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