銀河の英雄は
アタシに決まってんじゃない!」伝説
 
 
第四話(中編)

宇宙歴七九七年 五月
片山 京
 
 

V
 
 

 自由惑星同盟軍宇宙艦隊司令部所属第一三艦隊、通称『アスカ艦隊』は自称『救国軍事会議』に対する明確な軍事行動を開始した。それと同時に同盟全土に対して、評議長不在ながらも存続し続けている自由惑星同盟政府(キール・ローレンツ政権にではない)に対する支持を表明した。
 ハイネセンの地表に縛り付けられていた自由惑星同盟政府だったが、最強の宇宙戦力を獲得したことになる。各星系政府も流動的となった戦局を前に判断を保留。どちらの勢力に対しても支持を打ち出さなくなった。結果、第一一艦隊が訪れたハイネセン周辺の三星系と叛乱軍に占拠された四星系のみが『救国軍事会議』支持を表明したが、武力による強制である事が明白であったため、大勢に影響を与えることもなかった。残りの星系は沈黙を守り、中立の立場を消極的に表しているにすぎない。
 
 
「シンジ君、ちょっといい?」
 アスカ艦隊旗艦エヴァンゲリオン級打撃戦艦弐番艦エクセリオン。その司令官執務室に近い一室。副司令官待機室とも呼ばれているが、本来の用途は別にあったはず。しかし、誰も何も言わないため既成事実と化してしまっている。
 広くもない部屋の中央に設えられた執務机に、第一一艦隊がかつて行った戦闘を元にした戦術概念図が立体表示されている。 
「ミサトさんですか。どうぞ入ってください」
 簡単なキー操作で戦術概念図の時間軸を停止。抽象化された艦列が執務机へと沈んでゆく。なかなか凝った演出だ。別室に控える従卒のレイにインターフォンでお茶の準備を頼み、既に座っているミサトの正面に自分も腰掛ける。従卒とは、日常の雑用係と考えればほぼ間違いない。
「ミサトさんもお忙しいんじゃないですか?」
 アスカ艦隊は、先に叛乱を起こしたシャンプール鎮定戦を数日後に控えている。その降陸作戦を『Nerv連隊』が実行することになっている。
 アスカ自身の当初の予定では無視するつもりだったのだが、イゼルローンとの連絡を妨害される可能性に思い至った。距離的に無理がなく、時間の空費も目をつぶることができる程度。結局、ミサトも了承したため二日ほど前に急遽決定したという次第だ。
 指揮官がもっとも気を使い、忙しくなる時期であることは経験上知っている。いくらミサトでもこの時期ばかりは神経過敏になるのだ。だからこそ解せない。
「ん?そっちはヒュウガ君に任せてあるから。第一、今は彼が連隊長なんだし」
「確かにそうですが……」
「彼にもそろそろ独り立ちしてもらわないとネ」
 それはそれで正しい意見なのだが、素直に首肯できないのはなぜだろう。確かに、情報の整理や事前の作戦立案などの参謀的な手腕に恵まれたヒュウガのことだから、机上の作戦案には完璧に近いモノを作成してくるだろう。実戦の指揮は大隊クラスがやっとという状態なのでまだ全てを任せる所まではいっていないというのが正直なところ。
 実際、いくら任せると言っても最終的にはミサトの検閲が入り、ミサトの指揮によって動くことになるのだからヒュウガも不満に思うべきではないだろうか? シンジにそれを指摘する資格があるかどうかは、また別の問題。
「そうですか……そうですよね。ヒュウガさんもがんばってるんですよね、みんながんばってるんですよね」
「何言ってんのよ。シンジ君だってがんばってるじゃない。もっと自信を持ちなさい」
「そう……でしょうか? 実感がないから不安なんですよ……実際」
 自嘲気味につぶやくシンジ。これでは、ミサトが性根(しょうね)を叩き直す前に逆戻りだ。アスカに余裕がないときに懐刀と言うか、半身と言うか……そういう立場のシンジにはここ一番の組織に対する指導力……せめて代理を務めるくらいの能力を見せてほしい。個人戦闘、艦隊戦術に関してその才能は余人の認めるところなのだから。
「失礼します」
 一礼をしてレイが入ってきた。手押しのワゴンには、シンジが先ほど頼んだ惑星シロン産の茶葉を使った紅茶が温かな湯気を上げている。ついているのはミルクとレモン。ブランデーでも期待していたか、ミサトの顔に落胆の色が現れる。それらを手際よく配したアヤナミ曹長待遇軍属はシンジに示された席に座る。
「さあ、ミサトさん。本題に入りましょう」
 血は争えない。ミサトの脳裏に浮かんだのは、若き中将の父の顔だった。親子とは妙なところが似るものだ。
 
 
 一度、補給のためかバーラト星系に戻った第一一艦隊。その後の足取りがつかめない。いや、再びバーラト星系を離れたことまではわかってる。問題はその後だ。
「……以後の足取りは全くつかめておりません。また、各地の基地からの情報も七割がた途絶えたままであり、こちらの筋から掴むのもほぼ不可能かと思われます」
「情報を送ってくる拠点は?」
「全てフェザーン方面の補給基地です。この周辺では、エル・ファシル星系が好意的な他はあまり良くないですね」
「エル・ファシル? ああ、あそこならそうかもしれないわね。他は中央への不満ってこと? それとも日和見ってこと? まぁ、エルゴンさえ静まれば何とかなるでしょ」
 エルゴン星系には、叛乱惑星シャンプールが属している。ここを押さえればイゼルローン周辺の自称『救国軍事会議』側の拠点はなくなる。『Nerv連隊』が既に攻略の準備を行っているため、今のところこれ以上アスカにできることはない。
「まぁいいわ。マヤはそのまま情報の収集に当たってくれる? リツコは偵察部隊を編成して。できるだけ遠いうちに、できるだけ正確な位置を、できるだけ早く割り出すのよ。相手よりも先に」
 シャンプール攻略を始めれば、いやでもこちらの位置はわかってしまう。それまでにその姿を捉え、準備しておきたい。ハイネセンでは双方兵力が不足し、膠着状態に陥っているらしい。どちらかの宇宙艦隊さえ壊滅すればその基盤は大きく揺らぐ。
 現在でさえ実際の戦力はゲンドウたちを上回るのだが、治安維持に兵力を割かねばならずこのような状態になっているのだ。状況を有利に動かすには、『自由惑星同盟』にとっても唯一の宇宙艦隊であるイゼルローン駐留艦隊……通称『アスカ艦隊』を壊滅させること。それによって、軍用宇宙港に籠城する『自由惑星同盟政府』を地上戦に持ち込まずに屈服さることができるだろう。最悪なのは消耗戦の末、両艦隊が消滅すること。
 条件はほぼ同じ。『救国軍事会議』を倒すには第一一艦隊の覆滅(ふくめつ)が第一条件なのだから。
「同盟は滅びたっていいけど、ママとか、アカギ総司令とか、ユイ小母様に枕元に化けてでられるんじゃぁ寝覚めが悪いし、ネ。国なんて所詮道具なんだから」
「司令! お言葉がすぎます!」
「どこが? これ以上ないほど良識に満ちた発言だと思うけど」
 柳眉を逆立てるリツコ相手に事も無げに叩き付ける。「化けてでる」と言っている時点で十分不謹慎ではあるが。
「国家を否定する軍人がどこにいるというのですか!」
 杓子定規なリツコの答えを受け、少しはまともにしゃべる気になったのか椅子に座り直し姿勢を整える。正面からリツコを見据えることができるように。
「人が集まれば混乱が生じるわ。それをできる限り円滑に処理するのが『国』って制度よ。少なくとも、民主共和制を自称する政権はね。残念ながら『救国軍事会議』は誰にも望まれていないし、市民が国家を必要とする条件に当てはまらないわ。だから、今こうしてアタシがここにいるの。
 『国』が細かく分かれて『個人』になるわけじゃないの、『個人』が集まって『国』をでっち上げるの。
 そこの所勘違いしてると、いいように利用されちゃうわよ。まぁ、これは極端な話なんだけどね」
「では、司令は何のために戦場に立っておられるのです?」
 まさか「シンジが居るから」とは答えないだろうが、どういった返答がくるかは興味がある。リツコとしては、今後、補佐してゆく上で是非とも知りたいところではある。建前としてはだが。本音は前者にある。
 理由はどうであれ、リツコの考えに好きなだけ反論したのだから、その問いに答えるのは当然の義務。この戦いに対する動機ではない。軍人として、今、己がある理由だ。
「わかんない」
「「は?」」
 想像だにしなかった返答に、そろって間の抜けた返事を返す参謀長と副参謀長。言うに事欠いて「わからない」とは……
「アタシにだってイゼルローンを陥とすまでは『戦う理由』ってやつはあったわよ。
 でもね、その後わかんなくなっちゃったのよ。
 復讐なんてばかばかしいって頭ではわかっていたわよ。でも、あのころのアタシにはそれしかなかったから……パパの死んだ所を見て、叱られちゃったような気になって……こんな事、アンタたちに言うことじゃなかったわね」
 さすがのアスカも心が弱くなっているのだろうか? ばつの悪そうに二人から見えない方へ顔を向ける。
 リツコとしては自分から問いかけたことだが、聞くべきでないことを聞いてしまったという思いが強い。同席したマヤも同じように居心地が悪い。
 まだ二五歳。世間一般では半人前で気楽にやってる年頃だ。一〇〇万の命に責任を負うことなどない。まだ価値観の大きな変化もあって然るべきだろう。
 あの夜……シンジにひた隠しにしていた自分の弱さを見せてしまってから何かが変わった。
 今は、目先の目的がある。
 では、その後は?
 それは、何?
 大切な……もの?
 アスカが何よりもそれを求めていることを、自分にはそれを語る資格がないことを、リツコは……知っている。
 
 
 どうも性に合わないモノがある。人によっても違うのだろうが、こういった一目見て金のかかった部屋というのもその一つだし、目の前にいる脂ぎった自治領主(ランデスヘル)もできれば視界に入れたくない物だ。そう、物だ。彼女にとってはそこに何かがあるという記号でしかないのだから。
 本来なら恒星間航行の資格を得た自分には、もう全く縁のないもののはずだった。自治領主府という存在は。
 それなのにひと航海終わり、久々にこのフェザーン自治領(ラント)へと帰ってきた途端、急に呼び出された。あわてて乗組員の給与、自分の船の維持費、宇宙港の使用料を支払ってしまうと手元に残された資金は微々たるモノだった。大半の独立商人は似たようなものだが、それにしても気が滅入る。
 で、追い打ちをかけるようにこの自治領主(ランデスヘル)である。さらに気が滅入る。待っていたのがこの脂ぎったオヤジなのだから楽しいわけがない。
「機嫌が悪そうだな」
 デスクの向こうから野太い声が聞こえてくる。内心、返答するのもかったるかったのだが、変な印象を与えても困るので弁解だけはしておく。
「いえ、そんなことありませんわ。ご用件をまでお聞かせいただいておりませんので、少々不安に思ってはいますけども。決して自治領主(ランデスヘル)様の御前だからと言うわけではありませんし」
 明らかに最後の言葉はよけいな発言で、言った方は後悔したが、言われた方――『フェザーンの黒狐』ことフェザーン自治領主(ランデスヘル)アドリアン・ルビンスキーは、気分を害したふうもなかった。
「君は、地球教の信者を聖地〈テラ〉へ運んだのだったな」
「はい」
「彼らについてどう思う?」
「よくわかりませんが、宗教一般に対しては私は興味ありません。貧乏人が神の公正さを信じるのはひどい矛盾だと思いますね。神が不公正だからこそ、貧乏人がいるのでしょう」
「一理あるな。君は神を信じないのかね?」
「貧乏神で良ければ」
「はっはっは、なるほどな。なかなかおもしろいことを言うご婦人だ」
 ちょっと気が楽になった。後から思えばそれが失敗の原因だったような気がする。
「神なんてシロモノを考え出した人間は、歴史上最大のペテン師ですよ。その構想力と商才だけは見上げたものです。古代から近代に至るまで、どこの国でも金持ちと言えば貴族と地主と寺院だったじゃありませんか」
 自治領主(ランデスヘル)は、興味を込めて妙齢の女独立商人を見やった。見られている方は、もうやめてくれと言う感じだ。自治領主(ランデスヘル)は、四〇代前半の精悍そうな男だが、頭には一歩の毛もない。この異相の男に見つめられているのだが、若い美形の方が何千倍もましだ……って言うか、その方が絶対にいいに決まっている。この男はどうも好きになれないし、好きになる必要もない。金だけは持っていそうだが、自分の体を商品にする気は全くないから関係ない。
「なかなかおもしろい意見だが、それは君自身の独創によるものかね?」
「いえ……」
 女独立商人は残念そうに否定した。
「大部分は受け売りです。子供の頃の……もう一〇年になりますか」
「ふむ」
「上の妹の友人にやたらと利発な娘がいましてね、大人びたことを言うのですが幼なじみの男の子にべったりで……もうほほえましいぐらいに不器用で。でも、本当によく物を知っていて、考えるという事を知ってる娘でした」
 本人が聞けば何か弁解じみたことを言い出すだろうが、端から見れば彼女の観察の通り。
「名前はなんと言った?」
「アスカ・ツェッペリン。現在アスカ・ラングレー・ソウリュウと改名したそうですが」
 女独立商人の表情は、新しい秘芸に成功した奇術師のものだった。
「今は、上の妹共々軍人なんて職業をしているそうですが、自由人たる私から見れば同情を禁じえませんよ」
 ふと警戒心が呼び起こされた。自治領主(ランデスヘル)がそれほど驚いた顔をしていないのだ。数瞬の沈黙の後、ルビンスキーは重々しく口を開いた。
「コダマ・ホラギ船長、自治領政府から君に重大な任務を与えることにする」
「は?」
 
「船長、どういう魔法を使ったのですか! 今、エネルギー公社から連絡があったのですが……うちのような零細商船には、全く奇跡みたいなモンだ」
 ベリョースカ号は今後一切燃料の心配をしなくて良いと既に通達が入ったそうだ。何とも対処の早いことか。船に戻ったとたんコレである。
「政府に身売りしたのよ」
「と申しますと?」
 先ほどから騒いでいる事務長のマリネスクが問いかける。
「ったく、何のためにあの国を捨ててきたと思ってんのよ。あの『クソ狐』が」
 女性が発するにしては、甚だ問題のある発言だが怒っていることだけはよく解る。
「政府に身売りしたと言うことは……公務員になったということで?」
「公務員?」
 何ともユニークな事務長の表現を聞いて、コダマは怒気を殺がれたような表情になった。
「確かに公務員には違いないわね。情報工作員になって自由惑星同盟に行けってね」
「ほほう」
「これじゃぁ、ホラギ家の三姉妹、全員公務員じゃないの。しかも、私はスパイよ! 何で日陰の身に甘んじなきゃいけないの!」
 二女のヒカリは同盟軍第一三艦隊司令官補佐の任についており、三女のノゾミは来秋士官学校を出て任官する予定だ。このクーデター騒ぎが終わればの話だが。
 何にせよ同盟にも一応徴兵制度があり、一定年齢に達すれば必ず任官せねばならず、そういうのが嫌だからこそフェザーンくんだりまでやって来たのだ。今までは幸運の女神の贔屓(ひいき)を受けたのか、一隻とはいえ個人で商船を所有することができた。我ながらかなりうまくいったと思う。しかし、あの自治領主(ランデスヘル)のおかげでめちゃくちゃだ。
「情報工作員ですよ、情報工作員」
 マリネスクが宥めるように言ってくる。
「言い換えりゃいいってもんでもないでしょうに」
「そこはそれ、気の持ちよう一つでずいぶん違いますから」
 自分より遙かに年上のこの男が言うのだからと、一応受け入れておく。納得はしていないが。
「私がアスカちゃんと知り合いだったなんてとうに調べがついていたのよ。おもしろくないわね。いっそのことアスカちゃんに全てばらしてあげようかな」
「でも、それは無理でしょう」
「何で?」
「情報工作員に任命して、それで終わりなんてお粗末なことはしないでしょう。ちゃんとあなたの背後には監視プラス制裁の目がつきますよ。ご家族にお会いになるのも気をつけた方がいいですね」
「ちょっと、脅かさないでよ」
「まぁ、何にせよ、気をつけるに越したことはありませんよ」
 貧相な中年男は、コダマを安心させるように精一杯笑いかけた。
 
 
 レイが見ているとどうもやりにくい。彼女に聞かせるのがよいとは思えないからなのだが、自分の考えを実行するのであればレイの協力が不可欠だ。何が何でも実行しようというほどでもないが。
 シンジは既に話の内容の予想をつけているのだろう。そのためのレイ……その話はするなということか。でも、そうはゆかない。
「ベターよりベストを取るべき……ですか?」
「そっ」
「どういう意味かは、分かってられるんですよね」
「もちろん。うちの親たちも一緒だし。これはアスカのためでもあるのよ」
「アスカのためでも何でも、僕も彼女も承服しませんよ」
 ミサトに対し、ここまで強く出るシンジは久しぶりだ。他の人間相手と言えば、つい最近ゲンドウに食い下がったところだから、ここのところ自分を主張することが多くなってきたということだろうか? だとすれば、シンジにとっては大きな成長だろう。
 実のところいやがるのは分かっていた。しかし、変なところで筋を通したがるアスカを口説き落とすにはシンジの援護を期待せねばならず、また、確実性を増すためにレイの援護も欲しいところだ。
「シンジ君の言いたいことは分かったわ。レイ、あなたはどう思う?」
 二人一度に説得はしにくい。シンジ一人であれば何とでもなったろうが、レイが同席しているために用心深くなっている。おそらくは、自分の気を引き締める目的もあってレイを同席されたのだろう。
 それより、素面のミサトを見て警戒態勢を整えるあたり何か違うような気もするのだが。
「ミサトさん!」
「いいの、私はレイに聞いているの。
 レイ、思ったことをそのまま言ってくれない?」
 切れ味鋭いミサトの視線に、怯むことなく真っ向からその視線を受け止める。気の強さはアスカ譲りなのか、本人の元々の資質なのか……
 沈黙。思いをかき集め、言語化するには時間がかかる。人生経験の少ない若年者ならなおさらだ。
「ミサトさん」
「なに?」
「味方にも大きな犠牲を払うことを前提条件にしているのでしたら……やめた方がいいと思います」
 至って正論である。それだけに反論は難しい。
「どうしてそんなことを考えたんですか」
 進軍速度を落とし、キール以下何名かの雲隠れした不良評議員があぶり出されるまで待てとは。気持ちは分からないでもないが、極端にすぎるのではないか? アスカのためというのも気になる。むしろ、アスカを嫌う連中に口実を与えることになってしまうのではないか。
「最終的には、僕たちに何をさせたかったのです?」
 ため息を一つ。
「今のところまともな政治家は保護されてるわ。キールとかまともじゃない連中を『救国軍事会議』に始末させるの」
 そこまではシンジも考えないでもなかった。ミサトほどあくどくはないが。
 最初に聞いたのもこの部分だった。問題はこの後だ。
「治安維持に戦力を回していると言ってもほとんどキール探しみたいなもの。その戦力に余裕ができたらどうするかしら。ちょーっと、立て籠もっておられる方々に頑張ってもらって、危なくなったところで私たちが掃除をしちゃえばいいのよ。ついでに権力も握って……その頃には宇宙戦力を握っているのは吾々だけだし、解放者としての人気を支持に転化することもできるわ。残った連中も排除してローエングラム侯爵と和平でも結んでしまえば問題なしってね。間違いなくコレがベストな選択よ。
 逆に、アスカが何もしないんなら、生き残った小物が何考えるんだか解ったモンじゃないわ。小人の嫉視ほど怖い物はないわよ。
 今の体制を続けるんなら絶対大怪我するわね。同盟も、アスカも」
 それでなくても現行体制には『アムリッツア星域会戦』という前科がある。過激ではあるが、ミサトの懸念は決して不当なものではない。ただ、その騒動を楽しんでいる節はあるが。
「その考え、誰かにお話になりました?」
「シンジ君たちが初めてよ」
 咳払いを一つ。悲しいほどわざとらしいが、ミサトが背を正すぐらいの効果はあった。次の一挙動で席から立ち上がる。目の前の青年が『シンジ君』から『イカリ中将』へと変わる。この変わり身の早さもアスカ艦隊では必須の技能なのだ。
「カジ准将」
「はっ」
 ミサトも立ち上がり、もう一度姿勢を正す。
「貴官の献策は確かに伺いました。しかし、現在の状況に合致するものとは思えません。もうしばらく、本職の元に留めておきます」
「了解いたしました」
 完璧な敬礼を返し、小気味よい歩調で退室した。
 その容姿もさることながら、姐御肌的な面倒見の良さもあってなかなか人気が高い。若い女性兵士の間では彼女の行動をまねるものも多いという――飲酒はまた別の問題だが――ミサトが時折見せる『カッコイイ歩き方』を直に見ることができるのだから、しっかり目に焼き付けておかないと嘘だ。
 しばらくミサトに見とれていたレイが、シンジを振り返る。ミサトが出ていってから少し経っている。一瞬目が合ったが、レイの方から逸らせてしまう。あの夜――クーデター勃発の日――以来似たような事を繰り返している。妙齢の女性が親しい男の部屋で一夜を過ごしたのだ。何事かあったと……よりはっきり言えば、男女の関係を持ったと取るのは思考の飛躍のしすぎだろうか?
 
 
 イゼルローン要塞における住居として、シンジの部屋は高級士官用のものが割り振られている。家具一揃を新たに購入し三つの部屋へそれぞれ配しているのだが、そのソファーに人影があった。二つ。いや、この場合、一つと言うべきか。女が男にすがりついている。言うまでもなく、女はアスカ・ラングレー・ソウリュウであり、男はこの部屋の主シンジ・イカリだ。
 キッチンで泣き崩れたアスカを宥(なだ)めようやくここに落ち着いたのだが、一時の勢いは衰えたとはいえ、未だ泣き止む様子はない。ゆっくりとリズムをつけ背をたたく。昔、母にしてもらったように、ゆっくりと、ゆっくりと。
 しばらく、そのまま時が流れる。いつの間にか声は収まり、しゃくり上げているため大きく肩が震えているが、落ち着けばそれも収まるだろう。
 無理もない。シンジがアスカの涙を最後に見たのが一四歳――アスカの父を含めた戦死者合同慰霊祭の時。以来、シンジの前でさえ気を張ってきたのだ。一〇年以上溜め込んでいたものを、今、一気に吐き出している。
 支えるために空いた手を肩に置く。驚くほど華奢な骨格に、なぜか躊躇いを覚える。その正体はシンジにも解らなかったのだが……
「落ち着いた?」
 胸元で頷くような感触。シンジ自身の視線は前方に固定されたまま。「見るな!」との言いつけを律儀に守っている。背中を叩いていた手が止まる。今度は、髪を、頭を先と変わらぬ優しさで撫でてくれる。
 安堵。
 穏やかなまどろみの海へ転げ落ちそうになる。自分を支えるために添えられた腕、普段のアスカからは考えられないことだが、衝動に突き動かされ躊躇なくその腕に抱きつく。強く。強く。さらなる安堵。もう離さない。
 理性から切り離された感情が、もっとも必要とする存在を選別、認知して実際の行動に反映した。その存在をより感じるため捕まえたものを胸元へと引き寄せる。意識はやや弱くなっているがしっかりと存在している。ただ、祖父の裏切りという事実からアスカ自身を守る生理的作用が働き思考が止まっている。より純粋な意思が表れているのだが、二人ともそれに気がついていない。シンジは、アスカの予想外の行動に焦るばかり。洞察力を働かせることなど到底不可能な状態だ。
 そのうち寝息まで聞こえてきた。そう、今は眠るべき。目覚めていると、心に負担がかかるばかり。
 誰にも見せることのできなかった悲嘆は涙で洗い流した。傷ついた心は、優しさに包まれ眠りによって癒されるだろう。だじょうぶ。彼女は一人ではない。
 実は、シンジの左腕はとんでもないことになっていた。端的に言えば抱き枕状態。一人で軽いパニック状態に陥っている。とはいえ、その穏やかな寝顔を見てしまうと強引に引き抜くのも躊躇われる。起こすのは論外として……
 最後には『据え膳』などと言う言葉まで浮かんでくる。僕だって男なんだ。と思っても行動に出すことができない。引っかかるのだ。自分がアスカのことをどう思っているのか? 逆にアスカは僕のことをどう思っているのだろう? 親友? ただの幼なじみ? 違う! そうではない。そうじゃない。
 男として、アスカは僕のこと……
「やっぱり家に泊めるしかないか」
 強引に思考を中断する。別の問題提起によってそれまでの思いを破棄してしまおうというのだ。今回はかろうじて成功したようだ。
 その結論にしても、願望の要素が混入していたのは否めないが、アスカを思っての結論には違いない。
 夏とは言え、要塞内部の気温制御によって時間とともに冷え込んでくる。人工的な閉鎖された空間に長期間滞在することになるため、気候の変化など自然現象の模倣(もほう)は積極的に取り入れられているからだ。今日のところは少々恨めしい。手の届く範囲にアスカに掛けてやるものもなく、自分の上着はアスカが腕ごと抱き込んでしまっているために使えない。突然鳴り出したTV電話(ヴイジホン)にはクッションをかぶせ放置。誰が掛けてきたかも分からないのに、アスカをくっつけた状態で出られるわけがない。
 
 出ない。
「アスカァ。ああ、シンジ君の家じゃないの?」
 とは、ジョッキ片手にご機嫌なカジ夫人の言。
 他にも、二人が一緒にいるところを何人かが目撃している。時間は二三時を過ぎている。にもかかわらずアスカから連絡がない。今までになかった事だ。
 シンジにところへTV電話(ヴイジホン)を掛けてみたが先のように誰も出ない。
 居ないのか、出られない状況なのか……出られない状況……!
「やだ、もう、なんか考え出すとろくな事ないんだから」
 自然と独り言が出るのは不安な証拠。何に対して? 決まっている、アスカとシンジだ。今まで何もなかったことの方が不思議な二人なのだ。何かのきっかけ……今日のようなことがあれば一気に進展する可能性は高い。
 シンジに抱かれるアスカ。
 ただの妄想のはずなのに、圧倒的なリアリティーでレイを押しつぶそうとする。
 つぶされるのは、何?
 私の中のシンジさん?
 それともアスカさん?
 アスカなら譲れるという思い。それがこうも容易く揺らぐとは……
 嫉妬。
 認めてしまった。
「私って嫌な娘だな……」
 人を思い、思う人が他の女性を見ている。嫉妬心を抱くのは無理からぬ事。思春期の少女の潔癖さが、そんな考えを抱いた自分を許せない。自分が、汚くて惨めな存在に思えてくる。
 自己嫌悪。
 答えるものすら居ない部屋。
 否定も肯定もされることなく……
 眠ろう。そうすれば嫌なことを考えなくてすむ。
 
 レイ・アヤナミは一睡もできず翌朝を迎えることになる。
 
 不自然な体勢ながらも右腕一本で全装備重量公称四〇キロ前後のアスカを抱え上げる。胎児のような姿勢でいてくれたことが幸いした。不快気な寝言を聞き流し、寝室まで運ぶ。よく起きないものだと場違いな思いにとらわれる。
 できるだけ衝撃を与えないようにアスカを横たえ、自分はベッドを背に左腕は預けたまま。このまま朝を迎えれば、「どこに手ぇ突っ込んでんのよっ!!!」とか言って殴り倒されそうな気もするが、その時はその時だ。そのくらい元気が戻れば心配ないだろう。
 冷えないようにとアスカに毛布を掛けてやり、自分の分をベッドの下から取り出し引っ被る。
「おやすみ、アスカ」
 二の腕に当たる豊かな胸の感触と、手首を固定する太股の感触が眠りを遠ざけることは解っていたのだが……
 
 実際には一般的な意味では何事もなかった。
 それを知るのは本人たちだけ。微妙に変わってしまった二人の距離も、何かあったことを肯定しているようにも見える。確かに『何か』はあったのだが、他の人間が想像するようなものではなかった。
 
 
 レイがシンジとアスカを避けているのは明白だ。こうなると、この手の話では明らかに『アスカ、シンジ派』であるミサトに事情を語ってくれる望みも薄そうだ。今はそれどころではないし。こういう時もっとも頼りになるカジは、今回の艦隊行動には参加していない。イゼルローン回廊で、要塞と自分の子供とでっかいペンギンの面倒を見ているはず。
 さて、レイの周りで相談に乗ってくれそうな大人は……
 リツコ……理詰めで迫ってどうこうなる問題ではないだろう。
 マヤ……個人的なつきあいは聞かないからこれは不自然だろう。
 ヒカリ……アスカに近すぎる。
 トウジ……論外。
 マナ……多少問題がなくはないが、シンジの狭い交友範囲では他に心当たりがない。それに、あの明るさはレイにとっても良い方向へ働くのではないか?
 それは、大人の都合の良い考えでしかないがそれも承知。
「レイ。ありがとう」
「いえ」
 シンジの方へ視線は向けるが、微妙に位置を変え顔は直視しないようにしているのが分かる。それが辛い。
「巻き込んで悪かったね。ミサトさんもあんなの本気じゃないんだろうし。気にしなくてもいいと思うよ。最後のは……形式も必要って事かな」
 自分の言葉が空回っているのも分かる。
「分かりました……あの……」
 言葉を選ぶ。適当なものが見つからない。
「いえ、失礼します」


 

W
 
 

 物資の備蓄は三年分。クーデターに先立って発生した叛乱鎮定用として集められたため銃器類も豊富にある。攻撃衛星に征宙権は奪われてしまったため、宇宙港としての利用はできないが、やたら堅固な作りの施設は十分に要塞の任を果たすだろう。幸い、元が軍用宇宙港であるだけにレーダーやアンテナ類は充実している。そのため無線通信の類はたいがいキャッチできる。指向性の高いレーザー通信などはさすがに厳しいが。
 放送局が占拠されてしまったために、民間に対する情報の流出は口コミによるものだけ。風説の流布による内部崩壊を防ぐため、軍用宇宙港へ逃げ込んできた住人にはできるだけ正確に現状を伝えるようにしている。その点、対立陣営の影響下にある住民よりも恵まれているが、反面、多くの自由が失われているのは否めない。今のところ、ほとんどの市民が躁状態にあるため大きな影響はないが士気が落ちてきた時どうなるか分からない。
「問題点は洗い出せました?」
 一〇歳年下の妻に呼びかけられ、やっと書類から顔を上げる。大したことをしていたわけではない。言うなれば暇つぶしだ。今の状況ではこちらからは何もできない。せいぜいが『Nerv諜報部』を使って嫌がらせをするぐらいだ。とりあえず情報の収集と簡単な操作だけを指示しているだけ。後は、エージェントの一人をクーデター派経由でアスカ艦隊へ接触させるように工作を行っている。ここのところ連絡がないところを見ると、接触のチャンスがやってきたのかもしれない。
 いろいろ問題は頭をよぎったが、口にしたのは全く別のことだった。
「キョウコ君は落ち着いたかね」
 ゲンドウにとってキョウコは妻の友人と言うだけでなく、戦死した親友(と言うといまだに不機嫌になるが)アルベルト・ツェッペリンの妻であった人物だ。個人的にも交友があるため常々気に掛けているが、例によって顔には全く出さないため、妻と気に掛けられている本人ぐらいしか分かってくれない。何せシンジの父親だ、お人好しと言われても仕方のないところが確かにある。ユイにすれば、それを素直に表現ができない不器用さが可愛く思えるのだが。
「ええ、もう心配ないでしょう。やっとアスカちゃんに任せることを承知してくれましたし」
「そうか」
 最初の頃は「抵抗運動を取りまとめるから外へ出せ」と言って聞かなかったのだが、周囲の説得……とりわけユイの説得によってようやくその考えを捨てたのだ。娘だけを矢面に立たせている罪悪感もあったのだろう。夫、アルが戦死したときも反戦団体の立ち上げを画策した前科がある。そのために一時ツェッペリン家と絶縁することになったが、アスカの任官とともに復縁。現在ではまたツェッペリン姓を名乗っている。戸籍上ではソウリュウ姓である。
 娘とは方向性は違うが、行動力とそれを支える知識を有した秀逸な人材に違いない。特に、経済分野に関しては同盟でもトップレベルの見識を備えている。
「その代わりと言っては何なんですけども……」
 そこまでユイが語ったとき、司令室の扉が勢いよく開いた。
「遅い!」
 そこには、明るい色の髪をもった、イカリ夫妻もよく知っている今話題の年齢不詳の美女が立っていた。右手は腰に、扉を上げ放った左手にはそこそこ分厚い紙の束をもっている。誰の親かは言うまでもなかろう。ただ、似合わないだぶだぶの野戦服を着込んでいるのが難点か? ちなみに、ゲンドウは軍服、ユイは普段着を着用している。
「人を廊下で待たせて何やってるかと思えば……まぁいいわ。おもしろい話を聞かせてあげるわ」
 ガッポガッポと妙な音を立てる軍靴を鳴らせ、ゲンドウの前までやってくる。サイズが合わないものを強引に借り出したようだ。『Nerv連隊』を除いて陸戦連隊に女性は皆無と言っても良い。女性の平均的な身長の上、細身のキョウコに合うものがあるとは思えない。
 それはそうとして、ユイが用意した椅子に掛けると紙の束をデスクに広げた。
「結論から言えば、彼らの支配体制に綻びが見えるわ。経済統制が限界にきたわけじゃなくて、運用が下手になってるの。外の民間物資の不足はそこからきてるみたいね。
 ハイネセンは、物資の一大消費拠点よ。自給率は一〇パーセント以下。中立を表明した星系からの物資の流入がないみたいだから、物価が上昇するのは当然。食料なんかは支配星系から送り込まれているんだけど、搬入量と市場に出ている量に大きな差があるわけ。つまり……」
「物資の隠匿が始まっているわけか」
「綱紀がゆるんできてますね」
 そろっておいしいところを持って行く夫婦。だてに二七年も連れ添っているわけではない。当然、話の腰を折られたキョウコの機嫌は悪くなる。
「コホン、続けていいかしら?」
 わざとらしい咳払い。
「すまなかったな、先を続けてくれ」
 超然と返しているが、色眼鏡の奥が動揺している。
「中間的な回答はあなた達が今言ったとおり。第一一艦隊が惑星テヌールセンに寄港してしばらくしてからこの現象が現れた……
 そろそろ市民の方は限界かもしれないわね。無理な経済統制に、このところの恣意的な物資の隠匿。もう歪みが出てきたのよ。情報規制もまずいわね。そっちは私の専門じゃないけど。後はゲンドウさん、貴方が判断すること。私は民間の協力者にすぎないんだから」
「そうか……
 ご協力感謝します、ツェッペリン博士」
「どういたしまして。少しはお役に立てたかしら?」
 無言でうなずくゲンドウ。サングラスの中央を押し上げながら憮然と呟く。
「アスカ君にとっては、辛いことになりそうだな。そう、君も……だな」
と。
 次にゲンドウが受け取った報告は、市民暴動の勃発とその鎮圧に大量の市民の血を要したことだった。この事件は後に、『スタジアムの虐殺』と呼ばれることになる。
 
 
 『上陸』ならぬ『降陸』作戦には一定のパターンがある。司令官には奇策を用いる場もなく、その手際と機会を捉える明敏さが要求される……はず。
 衛星軌道上の制宙権を確保。上空から大気圏空戦隊と協力し、迎撃施設などに空爆を行い制空権を得た後、陸戦隊のシャトルを地上へと送り込む。そして、衛星軌道上の本隊と密接に連絡を取り合い、宇宙と地上双方から目標地点を制圧する……以上が通常の流れである。
 しかし、ミサトは一味違った。凡庸な指揮官であれば一週間以上はかかったであろう作戦を、彼女は三日で成し遂げてしまった。その手法は、火力の集中によって点を確保し、それを装甲車の横列展開で繋いで線とし、この線を前進させることで面を拡大するというものだ。この方針で丸一日続け、敵が対応する能力を身につけた頃、攻撃パターンを全く違うものに切り替えた。確保した点の一つから、直線的に目標へ向かい前進、無防備の土地を電撃的に突破したのだ。
 この急激な変化に叛乱軍は対応できなかった。本拠地とした同盟軍管区司令部ビルに立て籠もったのだが、半数以上の友軍から切り離された以上、有効な反撃の手段は残されてはいなかった。二時間に及ぶ銃撃戦と白兵戦の末、指揮官は自殺。残兵は白旗を掲げた。元は友軍である。最後の一人まで殺し合う必要はどこにもない。
 
「さすが、我が艦隊の誇る汎用人型決戦兵器」
 旗艦々橋へと帰ってきたミサトに対する、司令官殿の有り難い労いの言葉である。その割にはミサトがうれしそうな顔をしていない。
「何ですか? その、『汎用人型決戦兵器』って? 響きがやたらに物騒なんですけど」
 艦橋要員の手前、一応敬語だが口調は不信に満ちている。聞き流せばいいのだが、そうも行かないらしい。姉としての面子というか……まぁそういうものらしい。
 “らしい”というのは、どう見てもじゃれあっているようにしか見えないから。
「まぁ、いいじゃない。気にしなきゃイイじゃん」
「そういう問題?」
 眉を顰(ひそ)めるが、本人は取り合う風もない。しかたがない。
「後で詳しく聞かせてもらうわよ!」
 ここは引き下がるしかないが、ただ身を引くのもしゃくだから小声で抗議。とは言え、ほめられているのは間違いないので悪い気はしない。
 
 それはさておき……
 
「投降者……ですか?」
 こういう時に沈黙を破ることができるのは、シンジかマヤぐらいしかいない。他の幹部のように余計な勘ぐりをしないからなのだが、根が素直というのが最大の要因であることは解っていながらも余人が口にする事ができない事実。今回の発言者がシンジだったのは、報告者がマヤだったから。単純な消去法だ。幹部会議ではいつもの光景と化している。
「ええ、間違いありません。投降信号の発信とともに、投降者本人のメッセージを確認いたしました」
 手元の小型端末に視線を落としながら、そこに記された情報を簡潔にまとめる。
「官、姓名は?」
 リツコの促しに応え、与えられた情報をさらに読み上げる。
「ケンスケ・アイダ大佐。同盟軍情報部の所属です」
「シンジ、スズハラ」
 沈黙が降りる前にアスカが疲れたように二人を呼ぶ。
「アンタたちが何とかしなさい」
「何とかって……」
「そないなこと言われても……」
「ねぇ」
「なぁ」
 顔を見合わせる同級生。本人でも解らない何かがかんに障った。
「いい、三バカトリオの残党! アンタたちがいるのを承知でやつは乗り込んでくるのよ。その思いを受け止めてこそ“男の友情”ってぇもんでしょう!」
 こっぱずかしい演説だが、この方がスズハラのハートを――ヒカリとは違う意味で――がっちりキャッチできる。シンジは、燃え上がったスズハラに引きずられ、なし崩し的に了承するだろう。
「よっしゃぁ、話し合うたる。わいらにしかできひん事や、これは! なぁシンジ」
 ほら、予想通りの展開。
「それじゃ、ヒカリ、リツコ、二人のフォロー ヨロシクね」
 かつては便宜上ひとまとめに「三バカ」と呼んでいたが、バカはバカでもその中身がそれぞれ違う。シンジは「鈍感」と言うことに対してだったし、トウジは「ファッションセンス」と「こだわり」さらに「意識の古さ」に対するものだった。
 ケンスケの場合は少し毛色が違う。彼の場合には「バカ」の前に「専門」という枕詞が入る。興味を持ったことにしかその能力を使用せず、徹底且つ異様なほどのめり込む。この男の領域で張り合おうとは、万事強気のアスカですら思わない。トウジのように、旧知と言うだけで心を許すタイプではないだろう。これは対人スタンスの違いであり、能力の優劣を示すものではない。
 アスカはシンジのようなお人好しや、トウジのように一本気な人間の持つ性善説的な考え方を否定するつもりはないが、現実がそう甘くないことも知っている。リツコのような実践的な人間をつけることによって硬軟両略を取ることが可能になるだろう。ヒカリにはトウジの手綱を取ってもらう。
「用心のしすぎじゃないですか?」
 四人が出ていった扉から視線を戻し、マヤが問いかける。実際内乱の真っ直中であるため、友人知人親類が敵味方に別れてしまった例は掃いて捨てるほどある。その一つひとつに今回のような対応はしていられない。そういった観点からすれば彼女は正しい。
「思い過ごしならいいのよ。ただ、アタシが直接知っている中で、油断のならないヤツの上位五人にはいるの……念には念をってね」
 タイミングが良すぎる。「救国軍事会議」の保有する艦隊(第一一艦隊)との会戦前に接触するなら、これが最後の機会だろう。
「まっ、できることはやっとかないとね」
 それが司令官の答えだった。
 
 
 歩くのは気にならないが、暇なのはかなり辛い。自称行動派美少女レイ・アヤナミはそんな少女だ。だから、展望区画のベンチに腰掛け、ぼーっとしているだけで
「君がここにいるなんて珍しいじゃないか。レイ・アヤナミ君」
とか声を掛けてくるヤツもいるわけだ。
「そう言うアンタの方が珍しいんじゃないの?」
「ハハハ、そうかもしれないね」
 わざとらしいかわいた笑い声とともに、レイの隣へと滑り込む。気にさわらないこともなかったが、それより今は人恋しい。ヒュウガに引き合わされてから、何回か食事をともにしているが特別な感情はない。いいオトモダチと言ったところか。艦内で同年代と言えば彼しかいないというのもあるが。
「下、どうだった?」
「地上かい? 同じ制服に銃口を向けるのは今回限りにしたいね。どちらも死者が少なかったからまだしもってところかな」
 叛乱軍側で死者の比率は全体の一〇パーセント。負傷者も合わせると三〇パーセントあまり。対する『Nerv連隊』は、死者二パーセント。負傷者を合わせても五パーセントに満たなかった。それでも遺恨は残るだろう。生き残っている人間が多いだけに。
「どこもかしこもろくな事になっちゃいないわねぇ」
 どうにも弱気なレイに、耐えきれなくなったカヲルがその姿勢を変え、レイの横顔を正面から見ることができるようにする。イゼルローンで何があったかは知らないが、最近のレイはどうもおかしい。彼女が自分から話さない以上自分から聞くつもりはなかったが、思い詰めているのならば無理にでも聞き出した方がいいのかもしれない。
「君がそんな後ろ向きなことを言うとは思わなかったな」
「それってどういういみ?」
 声に険悪さが加わる。売られた喧嘩を買うのだから症状は軽い。ここで「もうほっといてよ」などと返されたらカヲルには打つ手がない。
「何を抱え込んでいるんだい? ボクでは相談には乗れなくても、愚痴の聞き役ぐらいにはなれるんじゃないかな」
 その険悪さを殺ぐように次の台詞を置く。このくらいの計算は許されるだろう。ただ、レイに対して対人関係の技術を使うのはなぜか気が引ける。
「ふぅん。カヲルがねぇ」
 疑い深げに横目で観察する。この男はどうも何を考えているのか解らないところがある。今の所いつもの薄笑いは影を潜めている。信用してみるのもいいかもしれない。確かに今の自分は自分らしくない。胸の内の、このモヤモヤしたものを何とかするチャンス。自分から犠牲になろうという奇特な人間が目の前に居るのだ。ここは、その厚意に甘えておこう。
「ありがと、カヲル」
 この後、休憩を挟み五時間にわたってカヲルの苦行が続くことになる。自分が言い出したことだしね。
 
 
 一言でその男を言い表すなら“ふてぶてしい”
 ここは艦隊司令執務室。その“ふてぶてしいの素”が執務机の向こう側、アスカの正面に突っ立っている。アスカの側にはシンジが控え、その執務用の向かい――彼のすぐ裏になるのだが――にはミサトが居る。彼女の技術をもってすれば、素手でも瞬殺できる位置だ。
「話をするならこの四人で」
 それがケンスケ・アイダ大佐の要求だった。
 なんだか無視をされた観のあるトウジがかなり荒れる一幕もあったが、シンジに割とあっさり取り押さえられヒカリに引き渡された。今頃、説教を食らっているだろう。
「希望は聞いたわよ。言いたいことがあるんならさっさと喋っちゃいなさい」
 こちらも機嫌が悪い。ジュニアハイの時とは言え、隠し撮り写真を販売していた相手だから好意の持ちようもないのだが、シンジの友人と言うことに免じて悪意も持っていない。それにしても、以前に増して危険になったと思う。修羅場もくぐって来たのだろう。その目が尋常ではない自信を秘めている。その結果が現在の地位として現れているのだから大したものだ。諜報分野でこれほどの結果を出したのは、現統合作戦本部長代理のゲンドウ・R・イカリ大将ぐらいのものだろう。
「では、お言葉に甘えて」
 そこで言葉を切ってしまう。
「何よ、喋るんじゃなかったの?」
「椅子は?」
 まぁ、ぬけぬけと言ってくれる。
「ミサト」
「なに?」
「ちょっとシめてやって。
 自分の立場ってぇものをコイツに教えてやった方がお互いの幸せに寄与すると思うの」
「なるほど」
 喜々として立ち上がるミサトの目は本気。指関節なんか鳴らしたりしている。さらに口元に微笑みを浮かべているものだから、もう怖いこと怖いこと。
「いや、ちょっと、じゅーぶん理解していますから。喋る、喋ります、喋らせてください!」
「アンタそれでよく情報部で出世できたわねぇ」
 あきれ気味にその態度を揶揄って見せる。
「時と、場合と、相手によって態度は変えないと生き残れないんだな、これが」
 平然と言い返すケンスケ。これでは時間を食うだけと見たシンジが仲裁に入る。
「ケンスケはアスカを挑発に来たわけじゃないだろ。アスカも、話ぐらい聞いてあげなきゃ」
 シンジの言うことももっともなので、双方矛を収める。ミサトも何事もなかったかのように与えられた席へと戻る。
「本題に入りましょう。
 本職は、特務機関Nerv総司令の全権代理人として貴艦隊へ参りました」
「そんな馬鹿な」
「カジ准将。
“God’s in His heaven.
 All’s right with the world.”
 お気持ちは解らなくもないですが、この言葉の意味するところがお解りになるのなら、今は私の話を聞いていただけますか」
 その口調はあくまで軽い。しかし、瞳は先と違い十分に鋭く、言葉の意味を理解し立ち上がろうとしたミサトの動きを征する。
 椅子へと掛け直したミサトだが、右肩に縫い込まれた連隊の隊章を無意識のうちに触っていた。緋色の証に刻まれた古き……二〇〇〇年の昔に語られた劇詩の一節。果たして、この男はどこまで知っているのだろうか? あまりに古い言葉のため、読める者すら少なくなっているこの詩を詠うことの意味を。
「続けて」
 二人の反応を無視して先を促す。
 促された方は、視線をアスカに戻し一度だけ深呼吸。いちいち芝居がかって居るのが気にくわない。
「表向きは、救国軍事会議の工作員だけどね。
 さて、手土産として情報を持ってきたんだけど……第一一艦隊の予想される位置と指揮官の名前……これで信用してもらえるんじゃないかな」
 芝居気たっぷりにどこからともなく記録媒体を取り出す。胡散臭いことこの上ないが、演出効果としては確かに有効だ。
「それは後から確かめるとして……」
 デスクに置かれた媒体を拾い上げシンジに手渡す。第一一艦隊なら指揮官はルグランジュ中将だろう。頭は固いが、指揮官としては有能と聞く。それよりも、このデータが信用に足るかどうか提供者越しに見極めなければならない。
「表向きのアンタの任務は何?」
「『アスカ艦隊』内部からの混乱の誘発。それに効果が見られないときには、指揮官の暗殺もやむなし」
 拍子抜けするほどあっさりとバラしてしまう。その度胸だけはミサトも舌を巻く。先ほどの醜態が芝居であったことも、あわせて認めなければならない。たった一人敵地にあって全く自然に芝居がうてるのだから。この男、天性の詐欺師かもしれない。
「だいたい『Nerv』って何? うちの艦隊の陸戦連隊とは違うみたいだけど」
「それは……」
「それは、私から説明いたします」
「ミサト!」
「ミサトさん!」
 いつになく硬い表情のミサト。何の合図もなく同時に発せられた、咎めるような……それでいて気遣うような……微妙な色をした声たち。
 心遣いはうれしい。だが、今を逃すと二度と言えなくなってしまいそうな気がする。だから……
「その成立は、シリウス戦役の頃と聞いているわ」
 
 その成立と繁栄。銀河帝国成立の裏に隠された、SEELEとの対立と敗北。「長征一万光年(ザ・ロンゲストマーチ)」への参加。同盟の成長とともにあった復興を。
 
「ふーん。ルドルフの威を借るSEELEに、組織の息の根を止められそこなった恨みってわけ?」
 とりあえず印象に残ったことを無難にまとめてみせる。
「そこを勘違いしないでほしいな。五〇〇年も昔のことにこだわるほど俺たちは暇じゃない。だいたい、そんな昔の人間にそこまでの義理もない……こうしてNervは復興したんだからね。
 俺の知る限り反動的勢力の最大の黒幕がSEELEなんだよ。おかげで人類は五〇〇年を空費したんだ。我ながら偉そうなことを言ってると思うけどさ。
 まぁ、今のところSEELEの最終的な目的なんて、正直言って解っていない。でも、今の路線を貫くようなら……」
「ろくな事じゃないわね」
 ケンスケの決めゼリフをあっさり奪う。恨めしそうにこちらを見るメガネを無視してシンジへ氷蒼色(アイスブルー)の瞳を向ける。何かを決断するときのアスカの癖。いや、まだ迷っている。
「もう一つ」
 また奇術師を気取って何もないところから封書を取り出す。
「イカリ、おまえさん宛だ。角の部分に右手親指の指紋を認識させれば開けてもOKだ。不正な手段で開封しようとすると、中の文書はインクに使用されている薬品によってで破棄される。初歩的な保安システムだけど、これがけっこう有効なんだな」
 カードを飛ばす要領でシンジに投げてよこす。エアーコンディショニングからの風で軌道が乱れたが危なげなくその手に収まった。さっそく、指示されたとおりの手順を踏んで開封する。最も内にされている書簡が期せずしてシンジの目に入った。
 辞令?
 しかし、今まで受け取ったものと書式が違う。不審に思いつつも何枚かまとめて三つ折りにされている用紙を広げる。
 クシャ
 左手の中で手紙が悲鳴を上げる。その異様な様子に、アスカがその手紙をのぞき込む。
「ちょっと、ケンスケ。アンタ何考えてんの!」
「その手紙に何が書いてあるかなんて、オレは知らないさ。言ったろ、『初歩的な保安システムだけど有効だ』って。それを書いたのは総司令だよ」
「その『総司令』って誰よ」
 人でも殺せそうなほど力を込めて、ケンスケにその視線を突き刺す。
「父さんだ」
 今度はシンジにその視線が向けられる。
「こんな勝手なことを言い出すのは父さんしかいないよ」
 単なる思いこみのような、そうでもないような……その場にいる者全員が判断に困るようなことを言い出す。
 二枚目には短い文章が真ん中あたりに載っているだけ。
 
『お前しかできん、だからやれ。
 拒否することは許さん』
 
 確かに誰が書いたか一目瞭然、悪魔も鼻白むほどの身勝手な物言いだ。
 三枚目から六枚目は組織図。こんなもの何で存在するのか……って言うか、秘密組織が文書でこのようなものを残して良いのだろうか? 実名はなく、役職名しか記載されていないがケンスケにとっては冷や汗ものの一品だ。
「で、何が書いてあった?」
 ケンスケも興味深げに聞き返す。何も口にしないが、ミサトも知りたいようだ。
 そんな二人の前に、シンジは辞令だけを呈示した。
『シンジ・イカリ中将。
 貴官を、特務機関Nerv総司令官に任ずる。
 尚、現在の職務は平行して遂行されたし』
 見せられた方は二の句が継げない。能力はともかく、こんなやり方でトップが交代するとは想像の遙か彼方。リアクションの取りようがない。
 その中で、一人だけ頭の中で計算を続けている人間が居る。他の二人よりもいち早く事情を知ることができたアスカだ。結論が出たのか、シンジの顔を見て一度だけ軽くうなずく。
「とりあえず、Nervとやらとの協力関係に異論はないわ。
 ミサト。言いたくてもいえない事情ってものがあったんだから気にしなくてもいいわよ。
 ただし、シンジの件は別。今のところは保留にしといて。どうせハイネセンまで行くんだから当人同士話し合ってもらいましょ」
 シンジにとっても、ゲンドウには言いたいことは山ほどあるから異論はない。
「あと、アイダ大佐は特別室を用意しているから期待してなさい」
 
 
「ここがその特別室ねぇ……確かに『特別』って言うのは間違いないなぁ」
 確かに備品は多少豪華に見えるが、ここまで案内というか、連行というか……とにかく連れてきたヒュウガにしても苦笑するしかない。ここは、ごく一般的には『営倉』と呼ばれる一室だ。軍艦用の留置所と考えれば間違いないだろう。
「不自由でしょうがしばらく我慢してください、確かにここはVIP専用室ですから」
「ふーん。見た目以上に何が特別なんですか? ヒュウガ中佐」
「防諜設備と、中の人間に対する保安設備が、ですよ」
 そう言うことを平然と言うあたり、『Nerv連隊』最後の良心も朱にまじわって赤くなってしまったか……ヒュウガよ。
 
 その“朱”の方は……ケンスケから聞き出すべき事を必死でリストアップしている。自分の知らない『Nerv』の顔があるのだ。ここは本気にならざるをえない。
 
 
「艦長、偵察部隊より通信です『敵艦隊発見。位置は……』」
「司令官殿は?」
「執務室で会談中とのことです!」
「かまわん、呼び出せ。イカリ副司令とアカギ参謀長もいっしょにな!」
 想像以上に近い。多く見積もっても数十光日といったところか。対応をとれるギリギリの距離と言われているが、我らが司令官殿にその常識は通用するのだろうか?
「艦長、ソウリュウ提督がつかまりました」
「こっちへ出してくれ」
 艦長席の通信ディスプレイに、立体投射されたアスカが姿を現す。
「ムサシ艦長、だいたいの所は聞いたわ。正確な位置を教えてくれる?」
「解りました、すぐにそちらへ転送いたします」
「一五分後に会議室に集合。遅れないように」
「了解いたしました」
 ムサシは、士官学校の教科書に載せても恥ずかしくないほど完璧な敬礼を返し、アスカの映像が消えるのを待った。
 
 
 ムサシの交信映像が消えた後、その前に見ていた文字と写真が空中からにじみ出るように再表示される。先ほどケンスケから受け取った記録媒体に収められていたものだ。
「シンジ、アタシはアンタを信じてもいいの?」
 ケンスケとの会談の後、そのまま残っていたシンジに問いかける。弱気になっているのが自分でも分かる。
「これまでずっとアスカと一緒だった。これからもずっとそうだったらいいと思う。これじゃ答えにならないかな?」
「ん? じょうできよ……」
「どうするつもりだい」
 敵は戦略レベルで、できる限り最高の手を打ってきた。なるほど、ベンハルト・ツェッペリンの『徹底して勝ちにいく』とはまさしく的を射た表現だったようだ。孫娘を相手にしても、その切れ味はいささかも鈍ることはない。それが彼をして、統合作戦本部長の顕職まで登り詰めさせた財産であり、この叛乱劇の旗手たるを務めざるを得なかった要因でもある。
 もっとも、どうするも何も“徹底抗戦”か“全面降伏”しか無いのだ。
「決まってんじゃない」
 シンジの方へ振り向きつつ人の悪い笑みを浮かべる。
「お引き取り願うわよ。手荒なことになるかもしれないけど」
 可能性のようなことを言っているが、確実に戦闘になるだろう。
「分かった」
「アテにしてるわよ」
 少し堅い笑顔を残してデスクへ向き直る。インターフォンのスイッチに手を掛け、別室のヒカリを呼び出す。
「ヒカリ、悪いけどみんなをいつもの会議室に集めてくれる? 大至急ね」
 顔を上げると、『救国軍事会議』艦隊司令官の写真と目があった。
 ベンハルト・ツェッペリン退役元帥の写真と……

 


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第四話(後編)へ続く

99/07/24改訂
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銀河英雄伝説は田中芳樹氏の著作物です
yoshiki tanaka (C)1982  徳間書店刊


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