「あの夏のパズル」

〜序章〜

KOU





人は心の中で生きる。
自分の心の中で。

心の中の過去‥‥「思い出」。

人は思い出を残し生きていく。
今という刻に己の喜怒哀楽を刻みながら。

心の中の今‥‥本当の自分‥‥本当の気持ち‥‥「想い」。

人は想い生きていく。
何かを、誰かを、
過去を、今を、未来を、
信じ、そして望みながら。

心の中の未来‥‥「夢」。

人は夢見生きていく。
過去と今を紡ぎながら。

人は刻を並べ生きている。
夢が叶うようにと祈りながら。

刻というピースを組み合わせながら。

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  あの夏のパズル −piece0− 重なり会う刻

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波で歪む月。

オーヴァー・ザ・レインボウという名の船。
ベットと大きな皮のトランクのみの部屋。
ブラインド越しにその月を見る少女。
その長い髪には鈍く光る二つの紅い髪留め。

 −−− いよいよ明日か‥‥。

ブラインドを広げていた指を離す。 
そしてわずかに洩れる月明かりで腕時計を照らした。

 −−− 後、15時間。

ワンピースのままベットに横になり天井を見つめる。

 −−− 私は負けない‥‥絶対に‥‥絶対に‥‥。

そして彼女は先ほどから拒み続けていた睡魔に身を任せた。
 
       *          *          *

闇に凛と輝く月。

人々に忘れられた団地。
ベットと冷蔵庫‥‥殺風景な部屋。
窓越しにその月を見る少女。
その透き通る白い肌、そして妖しく光る紅い双眸。

 −−− 今日が終わっていく‥‥。

いつ開けるか分からないカーテンを閉める。
そして制服を脱いでいく。

 −−− また明日が来る‥‥。

下着のままベットにうつ伏せになる。

 −−− そして近づいてくる‥‥あの時が‥‥。

そして彼女は静かに瞳を閉じ、静寂な時に身を任せた。

       *          *          *

いつもの夜空に浮かぶ月。

一世帯のみのマンション。
生きる事に不器用な人の集う部屋。
ベランダでその月を見上げる少年。
横には缶ビールを持った女性。

「明日は何処に行くんですか?」
「い・い・と・こ・よ!」
「じゃあ早く寝ないと?もう夜風には十分あたりましたよね?」
「はいはい。仰せの通りですよ」

二人はリビングに戻り、窓、カーテンを締め、ブラインドを降ろす。
そして電気を消す。

「じゃあ明日は7時におこしてね」
「はい。じゃあおやすみなさい」
「おやすみ〜」

少年は短パンとタンクトップに着替えベットに横になる。

 −−− 明日も暑いのかな‥‥

そしていつも通りSDATの奏でるメロディに身を任せた。

       *          *          *

今、それぞれの刻が重なろうとしている。

それぞれの過去を背負い。
それぞれの未来の為に。

刻のピースを握り締め。

しかし、誰も分からない。
そこにどんな絵が描かれているのかを。

そしてあの夏が始る‥‥。


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