あの夏のパズル −piece0− 重なり会う刻
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波で歪む月。
オーヴァー・ザ・レインボウという名の船。
ベットと大きな皮のトランクのみの部屋。
ブラインド越しにその月を見る少女。
その長い髪には鈍く光る二つの紅い髪留め。
−−− いよいよ明日か‥‥。
ブラインドを広げていた指を離す。
そしてわずかに洩れる月明かりで腕時計を照らした。
−−− 後、15時間。
ワンピースのままベットに横になり天井を見つめる。
−−− 私は負けない‥‥絶対に‥‥絶対に‥‥。
そして彼女は先ほどから拒み続けていた睡魔に身を任せた。
* * *
闇に凛と輝く月。
人々に忘れられた団地。
ベットと冷蔵庫‥‥殺風景な部屋。
窓越しにその月を見る少女。
その透き通る白い肌、そして妖しく光る紅い双眸。
−−− 今日が終わっていく‥‥。
いつ開けるか分からないカーテンを閉める。
そして制服を脱いでいく。
−−− また明日が来る‥‥。
下着のままベットにうつ伏せになる。
−−− そして近づいてくる‥‥あの時が‥‥。
そして彼女は静かに瞳を閉じ、静寂な時に身を任せた。
* * *
いつもの夜空に浮かぶ月。
一世帯のみのマンション。
生きる事に不器用な人の集う部屋。
ベランダでその月を見上げる少年。
横には缶ビールを持った女性。
「明日は何処に行くんですか?」
「い・い・と・こ・よ!」
「じゃあ早く寝ないと?もう夜風には十分あたりましたよね?」
「はいはい。仰せの通りですよ」
二人はリビングに戻り、窓、カーテンを締め、ブラインドを降ろす。
そして電気を消す。
「じゃあ明日は7時におこしてね」
「はい。じゃあおやすみなさい」
「おやすみ〜」
少年は短パンとタンクトップに着替えベットに横になる。
−−− 明日も暑いのかな‥‥
そしていつも通りSDATの奏でるメロディに身を任せた。
* * *
今、それぞれの刻が重なろうとしている。
それぞれの過去を背負い。
それぞれの未来の為に。
刻のピースを握り締め。
しかし、誰も分からない。
そこにどんな絵が描かれているのかを。
そしてあの夏が始る‥‥。