< 道標

「あの夏のパズル」

〜第一話〜

KOU





 −−− ただ青い海。
     突き刺さる様な日差し。
     オーヴァー・ザ・レインボウの甲板。

     あの時があいつとの初めての出会い。

    「あんたがサードチルドレン!?」

     これがシンジに初めて話し掛けた言葉。

     覚えてるかな、ばかシンジの奴‥‥


 私は白い花をじっと見ながらこんな事を考えていた。
 街を見下ろせるあの丘で。

 私達は並んで座っていた。

 左にはシンジ。
 右にはレイ。 

 夜空には月。

 そして‥‥使徒‥‥。

 今までどれだけの使徒を倒してきただろう。
 後どれだけの使徒を倒せば私は辿り着けるのだろう。

 −−− アスカ、行くわよ。

 私はいつもの言葉を唱え、立ち上がる。

 「シンジ、レイ、行くわよ」
 「うん」
 「‥‥ええ」

 そして、私は私の信じる道を行く。
 あの時、私が信じてたのと違う道を。
 あの時の私じゃ信じられない道を。

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  あの夏のパズル −piece1−  道標 mitisirube

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 蒼い空。
 耳障りな戦闘機の音。
 そして甲板を吹き抜けていく風。

 アスカが呆れ顔でシンジのつま先から頭の先までをマジマジと見ている。
 「そ、そうだけど‥」
 そしてぐっとシンジの眼の前に顔を近づけた。
 「冴えない奴!」
 「いきなりなんだよ!」
 「フン!ほんとの事言っただけじゃない?」
 「まあまあ、二人とも。今日から一緒に戦うわけだし。ね?」
 「で、あんたがサードチルドレンって事はあと一人いるんでしょ?」
 「え?」
 「あんたばかぁ?ファーストチルドレンに決まってるじゃない?」
 「あ、綾波の事?綾波は‥」
 「彼女は本部で待機してもらってるわ」
 「そうなの」
 「ええ」
 「で、あのぼけぼけっとした二人組は?」
 アスカの視線が指し示す先には、感涙しながら戦闘機に手をかけピースサインをす
 るケンスケと、その姿をカメラに収めるトウジの姿がある。
 「ああ、彼ら?シンジ君の友達よ」
 「類は共を呼ぶってやつね?」
 「‥‥意味わかってるのかな」
 ポツリと呟くシンジ。
 「あったり前じゃない!私を誰だと思って‥」
 「ア、アスカ、日本語上手なったわね?」
 ミサトはシンジの胸倉を掴むアスカにあわてて話し掛けた。
 「とーぜんよ。私にかかれば不可能な事なんてこれっぽっちもないわ」
 「そ、そうなんだ」
 「だからあんたはお払い箱よ」
 人差し指をシンジの目の前に突きつけた。
 「う、うん」
 アスカの勢いに負け、生返事の続くシンジ。
 「じ、じゃあそろそろ艦長に挨拶でも行きましょうか?」
 「そうね。こんなのほっといて行きましょ」
 「‥‥行ってらっしゃい」
 「シンジ君も行くのよ」
 「ぼ、僕もですか?」
 「見学も兼ねてよ」
 「意味無いのに〜」
 「あの二人も呼んできてくれる?」
 「はい」
 シンジは記念撮影をしてる二人に向かい駆けていく。
 「あいつらったらまるでピクニック気分ね?」
 「そうよ。アスカと弐号機がいれば使徒がきても大丈夫でしょ?」
 「ま、それもそうね」

       *          *          * 

 「アスカ!行ったわよ!」

 爆音と共に上がる水柱。それらが確実に弐号機を搭載した輸送艦に迫っている。
 「わかってる。黙って見てて」
 「速やかにお願いね。内部電源は‥」
 「わかってる。5分以内にはそっちにおびき寄せるから」
 炎上する輸送艦。瞬間、空を舞う紅い機体。使徒の額にはソニックグレイブが刺さ
 っている。
 「流石アスカ。ま、報告通りね」
 「‥‥すごいや」
 「何言ってるの?シンジ君も既に戦って勝ってるじゃない?」
 「僕にはとてもあんなふうには動かせないですよ」
 「アスカはそれなりの訓練してるから当然よ」
 「綾波も‥‥ですよね?」
 「まあね。でも訓練無しで動かしたシンジ君の方が凄いのよ?」
 「でも上手く動かせなくて壊してばっかりだし‥‥」
 「大丈夫。すぐに慣れるわよ」
 「‥‥僕には無理ですよ‥‥」
 「シンジ君?無理かどうかは結局はシンジ君次第よ。わかってるんでしょ?」
 「‥‥はい」

 そんなブリッジをよそに弐号機は次々と戦艦を足蹴に空へと攻撃をかわしている。
 「ミサト!そろそろ準備はいいの?」
 「OK!どーんと来ていいわよ!」
 「了解!エヴァンゲリオン弐号機、着艦しまぁす!」
 次の瞬間、物凄い揺れが艦を襲う。
 「「うわぁぁぁぁ」」
 艦内が騒然となる。
 「おっと、ちょっと乱暴だったかな」
 「ミサトさん!」
 シンジは海を指した。
 「アスカ!来るわよ!」
 「え!?」
 「惣流、後ろ!使徒だよ!」
 アスカが後ろを振り返ると、一直線に水しぶきが向かってくるのが確認できた。
 「そんなのわかってるわよ!」
 右肩からプログナイフを取り出す。
 「サードチルドレン、よぉおく見ときなさい!」
 そして真っ正面に向かい合うと刃をスライドさせ身構えた。弐号機を丸ごと飲み込
 まんばかりに口を開けて飛び掛かる使徒。しかも弐号機よりもはるかに大きい。
 「いっけぇぇぇぇぇ!」
 アスカは一歩も下がる事無く使徒に刃を突き立てその腹を引き裂いた。
 「ナイス、アスカ!」
 もがきながら海に落ちていく使徒。勝ち誇る様に甲板の上で仁王立ちする弐号機。
 「どう?サードチルドレン?」
 「お見事」
 「‥‥アスカ?いい気分の所悪いけど早いとこあいつ口を開けてきてくれる?」
 「あ!‥‥わ、分かってるわよ!」

 そして弐号機の内部電源が切れる頃、アスカ初の戦闘は完了した。
 戦艦2隻による零距離射撃により。

       *          *          *

 「アスカァ?そろそろ降りなさぁい!もうすぐ着くわよぉ!」

 甲板上にしゃがみ込むように活動を停止している弐号機。その真紅の機体は夕陽を
 背に受け鮮やかに紅く燃え上がっている。その肩の上でアスカは独り海を眺めてい
 た。

 「ごめんミサトォ!もうちょっと待って!」

 アスカの視界には少し前から確認できていた。
 
 −−− あれが日本。
     もう一つの私の国。

 アスカは背に何かを感じ振り返る。

 海の向こうに紅い日差し。
 昼のとは違う柔らかい日差し。

 瞬間、水面に走るひと筋の道。
 その道は紅く輝き、
 その道は夕陽に繋がっている。

 まるで少女を導く様に。
 まるでどこかへ導く様に。


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