「あの夏のパズル」

〜第五話〜

KOU





 某日13時05分、第三新東京市。

 

 「綾波!」

 「ファースト!止めなさい!」

 「代わりはいるもの」

 「なに馬鹿な事言ってんのよ!その零号機はもうもたないわ!早くよけなさい!」

 

 アスカはシンジをレイはアスカを庇っていた。

 

 「アスカ!」

 「わかってるわよ。腕の一本は覚悟しなさいよ!」

 「わかってる」

 

 弐号機の手がソニックグレイブを握り、初号機は左肩よりプログナイフを取り出す。

 

 「いくわよ?」

 「うん」

 

 零号機の背から飛び出す2機のエヴァ。

 妖しく光る2つの刃。

 

 「「このぉぉぉぉ!」」

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

  あの夏のパズル −piece5−  ある日の病室

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 『トゥルルトゥルル‥‥トゥルルトゥルル‥‥』

 

  夜の葛城家に1本の電話。

 

 「アスカ!綾波が目を覚ましたって!!」

 「そう‥‥」

 

  既に食事を終え、寝転がりテレビを見ているアスカ。

 

 「そうってことはないだろ!」

 「よかったわね」

 「よかったわねって‥‥」

 「ほんとの事でしょ?なんか文句ある?」

 「ないけどさぁ‥‥」

 「ないけど何よ?」

 「明日の学校帰りにお見舞いに行こうよ?」

 「いってらっしゃい」

 「さっきからそんな言い方して‥‥綾波はアスカを庇って‥‥」

 「うるさいわね!私はそんな事頼んでないし、あんな命令もでていなかったわ!」

 「そ、そうだけど‥‥」

 「‥‥もう寝る!おやすみ!!」

 「お、おやすみ」

  −−−まだ早いんだけどなぁ‥‥

 

  時計は夜の8時半を指していた。

 

       *          *          *

 

  翌日の学校。

  レイの席には誰もいない。そしてアスカの席にも‥‥。

 

 「ねえ碇君?アスカ、今日お休みなの?」

 「う、うん。す、少し風邪ぎみだから休むって言ってたよ」

 「そうなんだ。昨日の先頭で怪我でもしたかと思って心配だったから」

 「だ、大丈夫だったよ」

 「良かった。帰りにお見舞いに行ってもいいかな?」

 「や、止めといた方がいいと思うよ。今日はゆっくり寝ときたいって言ってから」

 「そうなの‥‥。じゃあ、お大事にって言っておいてね」

 「うん、伝えとくよ」

  −−−まさかさぼったなんて‥‥途中までは一緒だったのに‥‥。

 

       *          *          *

 

 『コツコツコツ‥‥』

  −−−えーっと‥‥303号室っと‥‥ここか‥‥

 

 『コンコン、コンコン』

 

 「い、碇だけども・・・」

 「どうぞ」

 

  聞き慣れた声とともにドアが開く。

 

 「マヤさん!?」

 「こんにちはシンジ君。今日はお見舞い?」

 「は、はい」

 「シンジ君一人なの?アスカは一緒じゃないの?」

 「え、ええ」

 「そうなんだ」

 「マヤさんこそお見舞いですか?」

 「そうよ。状況報告ついでにね」

 「そうだったんですか」

 「あら?もしかしてお邪魔かしら?」

 「そ、そんなことないですよ!」

 「それじゃあ邪魔者は去るわね。シ・ン・ジ・君」

 「マヤさん!」

 「いいからいいから。アスカには内緒にしといてあげる」

 「か、かまわないですよ!別にアスカとは‥」

 「そうなの?」

 「そうですよ!」

 「はいはい。じゃあレイ、あの件はよろしくね」

 「はい‥‥」

 

  クスクスと含み笑いをしながら病室を後にするマヤ。

  そして静寂だけが病室を支配する。

 

 「‥‥元気、そうだね‥‥」

 

  二人きりの長い沈黙を破ったのはシンジだった

 

 「ええ」

 「そ、そうなんだ‥‥よかった‥‥」

 「‥‥?」

 「あ、あのさ‥」

 「座ったら?」

 「う、うん」

 

  ベットの横のパイプ椅子に腰掛ける。先ほどまで座っていたマヤの温かさが伝わ

 ってくる。

 

 「何?」

 「これ‥‥」

 

  シンジは鞄から小さな包みをとりだし膝の上で広げる。

 

 「これ食べるかなって」

 「え?」

 「前に本部で美味しそうに食べてたから」

 「‥‥ありがとう」

 「う、うん。じゃあ、これ」

 

 『ウィーン』

 

  レイが受け取るその瞬間ドアが開いた。

 

 「Hallo〜ファースト! 元気してる?(ゼー、ゼー)」

 「アスカ!?」

 「‥‥惣流さん‥‥」

 「な、なによ!私が来ちゃおかしい?(ゼー、ゼー)」

 「い、いや、そんなことないよ。ただ‥‥」

 「来るのは当然でしょ!同じエヴァのパイロットとして!(ゼー、ゼー)」

 「そうだね‥‥」

  −−−素直じゃ無いなぁ。

 「‥‥その包み‥‥」

 「こ、これの事?」

  アスカは後ろ手で隠していた包みをベットの上にそっと置く。

 「手ぶらで来るのもなんだしね」

 「‥‥ありがとう」

 「でも、重なっちゃたわね。まさかバカシンジと同じ物とはね」

 「そうだね。綾波、無理して食べることないよ」

 「大丈夫。有り難くいただくわ」

 「そう?ならいいけど。シンジ!お茶いれてきて!」

 「え?」

 「なにボケボケっとしてるの!さっさとするの!」

 「わ、わかったよ」

  −−−人使いが荒いんだから。

 「熱かったら殺すわよ」

 「はいはい。じゃあ、お湯沸かしてくるよ。綾波、ポット借りるよ?」

 「ええ」

 

  シンジは給湯室に向かう。

  そして病室には少女が二人。

 

 「‥‥レイ、あんな無茶はもうしないでくれる?」

 「‥‥」

 「もう誰も失いたくないのよ」

 「でも‥」

 「わかってる。代わりはいるんでしょ?でも自分で思ってるほど孤独じゃないのよ」

 「‥‥」

 「まっいいわ。止めましょこんな話。こうしてまた話せたことだし」

 「‥‥ええ」

 

  甘くて香ばしい香りが部屋を満たしていく。

 

       *          *          *

 

 「シンジが買ってきたの不味い!」

 「な、なんだよ!折角買ってきたのに」

 「そうよ、惣流さん。碇君に悪いわ」

 「食べ比べてみれば一目瞭然よ! シンジ、私の食べてみなさいよ!!」

 

  アスカは食べかけのを割り、シンジの目の前に突き出した。

 

 「そんなに変わらないと思うけど‥‥ほんとだ!」

 「それみなさい」

 「‥‥ありがとう。わざわざ買ってきてくれて」

 「何よ突然?これぐらい大した事ないわよ」

 「綾波、わざわざって?」

 「お、美味しい!!やっぱファーストのお勧めだけはあるわね」

 「ふーん、そうなんだ?」

 「ええ」

 「しかし、差がでるもんだね?小麦粉にあんを入れて焼くだけなのに」

 「シンジ?あんたって相変わらずわかってないわねぇ。レイ、シンジにも美味しい

  鯛焼きと不味いタイヤキの見分け方を教えてあげて」

 「わかったわ‥‥

  まず美味しい鯛焼きから。

  それは 、少しコゲがある。皮がパリパリで薄い。あんが甘い。

  持てないほど熱い。周りにパリパリのかすがあり、こげたあんがついてる。

  どこから食べてもあんが飛び出す。たて続けに三匹食べることができる。

  作り置きなんてしていない。次から外出の目的になりえる。以上」 

 「うんうん、勉強になるわ。わかったシンジ?」

 「‥‥」

 「じゃあ続けて」

 「ええ。反対に不味いタイヤキだけど、

  気味悪い程均一に焼けている。皮がだれてて厚い。

  あんと思ったらクリームだった。ぬるい。小麦粉がはみだしてぶら下っている。

  かじった場所によってはあんに出会えない。一口食べて残りの処置に困る。

  5個単位で箱詰めで積んである。今後その店を見ただけで胸焼けになる。以上」

 「完璧ね!」

 「‥‥ありがとう」

 「‥‥」

 「わかってんの?シンジ!」

 「う、うん‥」

 「よろしい。じゃあ冷めないうちに食べましょう!」 

 「そうね。走った意味が無くならないうちにね」

 「‥‥ばれてた?」

 「ええ。息が乱れてたもの」

 「そっか。私もまだまだね」

 「アスカ?じゃあ学校来なかったのは‥」

 「シ、シンジ!お茶が無いわよ!!」

 「‥‥。はいはい只今」

 

 「‥‥美味し‥‥」

 

  そして今日も第三新東京の日が暮れていく。




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