「あの夏のパズル」

〜第七話〜

KOU





 「こんちくしょぉぉぉぉぉぉ!!」

 

  何度目かの使徒再来。

  今回のアスカの戦いには鬼気迫るものがあった。

 

 「おまえの所為でぇぇぇ!!」

 

  学校までは機嫌が良かったのだが‥‥

 

 「出てくる時間を考えなさいよ!!」

 

  結局アスカ一人で使徒をやっつける形となり、夕闇に月が浮かぶ頃作戦は終局を

  迎えた。

 

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  あの夏のパズル −piece7−  素直なひととき

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  今朝の葛城家。

 

  シンジは弁当の献立を考えながら台所に向う。

  −−−今日は何にしようかなぁ‥‥ん?

  いつもは誰も居るはずのない早朝の台所に人の気配がある。

 

 「おっはよ、シンジ」

 

  台所には制服にエプロンを着けたアスカがすでにいた。

 

 「お、おはよう。今朝は早いんだね」

 「ええ。ところでシンジは良く寝れた? 私はコーヒー飲みすぎたせいでなかなか

  寝付けなかったけど」

 「確かにあれは飲みすぎたね。僕もなかなか寝むれなかったよ」

 「やっぱりね」

 

  アスカの部屋では洋服が散らかっていた。

 

 「ところでアスカ、今日の当番も僕だったよね?」

 「ええそうよ。今朝は早く目が覚めたから‥‥。た、ただの暇つぶしよ!」

 「そうなんだ」

 「素直に感謝しなさい!私の手作りなんてそうそう食べられないわよ」

 「う、うん。でも手伝わないで大丈夫?」

 「あんたばかぁ?誰にもの言ってんのよ?」

 「ご、ごめん‥」

 「まったく!」

 

  アスカはシンジの心配をよそにテキパキと作っていく。

 

 「へぇ〜。アスカってやっぱり女の子だったんだね」

 「なんですって!」

 「ご、ごめんなさい!」

 「ばぁか。こぉんな可愛いくて美しい女性になんてこと言ってんのよ」

 「ごめん」

  −−−あれ?いつもならとっくに蹴られるのに‥‥。

 

  椅子に座ってぼ〜っとしているシンジ。

  −−−こんなのんびりした朝はここに来て始めてかもしれない。

 

 「シンジ、中身なににする?」

 「え!?な、何?」

 「おにぎりの具のことよ」

 「え?朝御飯におにぎり?」

 「ばぁか!違うわよ。これは‥‥お昼よ」

 「お昼?」

 「と、とにかく何がいいのよ?さっさと答えなさいよ」

 「な、なんでもいいよ」

 「ばか!なんでもいいが一番困るのよ!あんたもこっちに来なさい!」

 「は、はい」

  駆け足でアスカの隣に立つ。

 「さっさと握る!」

 「はい」

 「ちょっと待った!」

 「な、何?」

  アスカがすっと台所から離れたかと思うと、何やら手にし再びシンジの隣に立つ。

 「ほら、着けなさいよ」

 「う、うん。ありがとう」

 「じゃあさっさと始める!私は鮭と梅で三角型でお願い」

 「わかったよ」

 「シンジは?」

 「うーんと‥‥鮭とおかか」

 「で、形は?」

 「俵型でお願いします」

 「りょうかい!

  それから、おにぎりはただ握るだけでなく愛情を込めて握るのよ」

 「愛情?」

 「り、料理をするときの心構えよ。わかったら何回も言わせないの!」

 「う、うん‥‥」

 

  そしてアスカは、ハミング交じりでで朝食も作りあげる。

 

 「アスカ、昨日から変ね?何かいいことあったんでしょ?今日も早起きなんかしち

  ゃって〜。しかも、お弁当と朝ご飯まで作ってさ?」

 「そ、そんなことないわよ。得てして普通よ。ふ・つ・う!」

 「そうなの?怪しいわねぇ」

 「ミ、ミサトも変よ!朝からご飯食べるなんて」

 「なんとなく今朝はそんな気分なのよ。ねえシンちゃん?」

 「そ、そうなんですか健康的でいいですねぇ」

  −−−ミサトさん!僕にふらないで下さいよ!

 「なんでそこでシンジに聞くのよ!」

 「お、美味しく出来てるわね。このだし巻き」

 「シンジ?」

 「ほんと美味しいですよね。このだし巻き」

 「もういい、知らない!」

 「‥‥」

  −−−たはは‥‥シンジ君に絶対朝御飯食べてくれって頼まれたなんて言えない

     し‥‥。

 

       *          *          *

 

  なんだかんだで結局は二人で学校へ登校した二人。

  傍目にはいつもの二人であるが、ヒカリだけはアスカがいつもと違う事に気づい

  ていた。

 

 『キーン・コーン・カーン・コーン‥‥』

 

  いよいよ第壱中学校はお昼をむかえた。

 

 「シンジ。私のお弁当ちょうだい」

  アスカは早口、小声でシンジに話し掛ける。

 「はい、これ。自分で作ったんだから自分で持ってけば良かったのに」

 「バカ!声がでかいわよ。私があんたの分まで作ったなんて知れたら大変よ」

 「そんなもんかな?」

 「そうよ。ちゃんと味わって食べなさいよ!じゃあ」

 「うん」

 

  アスカが振り返るとそこには‥‥

 

 「ア・ス・カ!それアスカの手作りなんだ?そういえば今日のアスカっていつもと

  違って気がしたんだ」

 「そ、そんなことないわよ!」

 「ほんと熱くてかなわんわ」

 「惣流に碇、お熱いねぇ?」

 「違うわよ!」「違うよ!」

 「アスカったら「私が他人の為にお弁当を作るなんて加持さん以外考えられないわ」

   っていってたわよね?」

 「そ、そうだけど‥‥」

 「委員長、まあまあそう責めないで。早速お披露目してもらおうよ。な、碇?」

 「え!?‥‥ア、アスカ?」

  シンジはアスカを覗き込む。

 「もう、どうにでもして!」

 

  その後はリンゴひとつ、ウインナーひとつで大騒ぎだった。アスカは顔が真っ赤

  になりっぱなし。周りもここぞとばかりに責めたてる。

 

 「たまにはいいでしょ!いつもばかシンジに作らせて可哀相って言ってたのはあん

  た達でしょ!」

  結局は開き直り怒り出すアスカ。

 「アスカったら照れちゃって」

 「ヒカリ!」

 「なぁに?ア・ス・カ?可愛いウインナーね?りんごもウサギしてるしね?」

 「くぅぅぅぅぅ!この、ばかシンジ!あんたもなんとか言ったら!!」

 「え?‥‥う、うん。とっても美味しいよ」

 「‥‥え?」

  −−−ば、ばかシンジ!な、なに言ってんのよ!

 

  驚くシンジ以外の一同。

  そして二人の周りが静かになる。

 

 「‥‥あ、ありがと」

 「うん」

 

  そしてまたも二人の周りは大騒ぎとなる。

 

 「アスカ、また作ってよ?」

 「ば、ばか!何調子に乗ってるのよ!もう作んないわよ!今日はたまたまなの!」

 

  そんな大騒ぎをレイはただ静かに見守っていた。

  窓からの夏の日差しを受けながら。

 

       *          *          *

 

  そして長い学校での一日が終わり、放課後となる。

 

 「シンジ、帰るわよ!」

 「うん」

 「さ、早く!あの二人に見つかったらなに言われるかわかったもんじゃないわ」

 「二人?三人じゃないの?」

 「そ、そうね。と、とにかく今のうちに行きましょ」

 

  そこにはアスカとヒカリの女の友情があった。

 

 「鈴原に相田!今日は私と三人で帰るのよ!」

  −−−アスカ、楽しんできてね。

 

 「さっさと歩きなさい!」

 「早いよアスカ」

 「普通よ!」

 

  明らかに歩くスピードがいつもより速いアスカ。

 

 「シンジ、とりあえず家に帰って着替えて、それから出かけましょ?」

 「そうだね」

 「今日のお店はすっごいんだから。期待してていいわよ」

 「う、うん」

 

 『トゥルル・トゥルル‥‥トゥルル・トゥルル‥‥」

  そんな二人の携帯が鳴る。

 

 「はい、アスカです」

 「なんですってぇぇ!使徒ぉ!!至急本部に来いですって!!!」

 「はい、碇です」

 「使徒ですか。わかりました。すぐにいきます」

 

  立ち止まるアスカ。手にする携帯電話が握り潰されそうなのをシンジは知らない。

 

 「‥‥‥」

 「ア、アスカ?」

 「‥‥‥」

 「本部にいくんだよね?」

 「え、ええ」

 「じゃあ行こうよ?」

 「そんなことわかってるわよ!!」

 

  いきなり鞄をシンジに押し付け走りだすアスカ。

 

  −−−使徒なんて!使徒なんて!なにもこんな時に‥‥

 

  とりあえず追っかけるシンジ。

 

 「アスカ、そんなに急がなくても。まだ接近中て言ってたろ?」

 「ぜーったい許さない!」

 「待ってよアスカ」

  −−−アスカ、気合はいってるなぁ。

 

       *          *          *

 

  ミサトが発令所から主モニターに向かい何度も言い聞かせている。

 

 「アスカやりすぎよ!もう止めなさい!」

 「何度も何度もうるさぁい!ミサトは黙って見てればいいのよ!」

 「は、はい‥‥」

  

  使徒は跡形も無く殲滅された。

  弐号機によって。  

 

  夕闇に浮かぶ月はいつもと変らず輝いている。

  再び鳴き始めた虫の声を受けながら。




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