『仕組まれた女神』 −第三部−

くらしろ


 

   #5

 

忍びの者達の朝は早い。 そして、その修業は起床時からも始まる。

その事を実感させるように、アスカの怒鳴り声が朝の空気を切り裂いた。

「シンジ、まだ寝てんの!? さっさと起きなさいよ!!」

だが、それに答えるシンジの声は聞こえない。

「ほら、きりきり起きなさいよ、バカシンジ!!」

再びアスカの声が聞こえ、彼女の蹴りがシンジの脇腹に入る。

鈍い音が土間に響いた。

「くぅ......。」

苦痛を堪える呻き声がシンジのこの日の第一声となった。

「漸く、お目覚めね! バカシンジ!!」

アスカはそんなシンジの苦痛などお構いなしに、罵声を投げ掛け続ける。

「何だ、アスカか...。」

一方のシンジはこの状況下でもまだ寝惚けている。

ある意味、彼も肝が据わっている。

どうやら、まだ現実を認識していないらしい。

「『何だ』とは何よ!? バカシンジの癖に、この私にそんな事言う訳!?

 一体誰が親切に起こしてやってるのよ!?

 それが、このドイツ生まれの天才美少女忍者、アス影様に向かって言う感謝の言

 葉ぁ!?」

爽やかな一日の始まりに似付かわしくないアスカの罵詈雑言の独演会が続く。

シンジは寝惚けた意識の中で、ただアスカの独演会が終わるのを祈るばかりであ

った。

「大体ねぇ、こんなに気立てがいい私だからシンジを起こしてやってるのよ!」

「...。」

シンジは何も答えない。 いや、彼の理性がその返答を抑えている。

「これが綾影なら、『起きないの? なら置いて行くわ...、でござる。』

 で終わっちゃうものね〜! シンジもそう思うでしょう!?」

シンジはアスカの自慢話しが終わるまでは、ひたすら沈黙を守ろうと決意してい

た。 だが、シンジのそんな思いを打ち砕くかのように、アスカはシンジに同意を求

めようとする。

「そう思うでしょう、シンジ!」

「......。」

シンジは心ばかりの抵抗を試みる。

しかし、その抵抗はアスカの前では無意味であった。

そして、その結果をもっとも知っているのは、他ならぬシンジ本人であることを彼は

無意識のうちに認識していた。

「ねぇ...、シンジ! ...おらぁ! 返事は!?」

再び鈍い音が響き、シンジの脇腹に激痛が走った。

「は...、はい...。」

シンジは敗北を素直に認めた。

もっとも、いくら抵抗しても、アスカに対して勝ち目は万に一つもない事は始めから

分かっていたのであるが...。

「結構、結構!」

満足げに微笑むアスカ。

まさに、勝者の余裕と言った所であろうか。

「さあシンジ、起きましょうね!」

余裕ができた勝者の少女は、さっきまでの態度とはうって変わって、シンジの手を引

っ張って体を起こしてやる。

一方、敗者の少年はアスカの成すが侭にされる。

「さあ、シンジ。 起きたんだから顔を洗って来ましょうねぇ!」

その余裕は優しさに昇華されるのかと、シンジは僅かな期待を抱いた。

だが、それはさらなる支配への転化の擬態でしかなかったのである。

「それが済んだら、さっさと朝食を作るのよ!

 分かってるわよねぇ、シンジ!!」

 

こうして、毎朝恒例のアスカとシンジの主従関係の確認儀式が滞りなく行われた。

 

 

   #6

 

味噌汁を炊くいい匂いが竃から立ち込めている。

もちろん、その前にいるのはシンジである。

ちなみに、この朝食の材料も昨夜の老人の好意であった。

 

「ねぇ、シンジ。 綾影はどうしたの?」

アスカは座敷にふんぞり返って朝食をただ待っている。

文字通り、アスカはシンジの支配者となっていた。

「さあ...、僕は今日は見掛けていないけど...。

 そう言えば、綾波、どうしたんだろう?」

シンジは顔に少しだけ心配の色を浮かべる。

「まあ、どうせあの綾影の事だから、どこかをほっつき歩いてるんでしょ!

 本当、綾影は何考えてるんだか分からないわよねぇ!」

シンジはアスカも何を考えてるのか分からないと思っている。

しかし、それを決して口に出す事はなかった。

また、シンジがそれを発言する前にアスカの怒りが混じった声がした。

「ねぇ、シンジ。ご飯まだなの!?」

「...ゴメン...。 もう少しだけ待ってくれないかな?」

「んもぅ! 早くしてよね! 美少女はお腹が空くのが早いんだから!!」

昨日は、「ドイツ忍者は空腹ぐらい我慢するもの」と言っていた本人が口にする台詞

ではない。 だが、それも彼女に言わせると、「これもドイツ忍法のうちよ!」の一

喝で切り返されてしまうであろう。

「ねぇ、シンジ。」

アスカは急かされて必死に朝食の用意をしているシンジの後ろ姿に話し掛ける。

待ちかねてとうとう横になってしまっていた。

「それに、この村の人達を見掛けないんだけど、どうしちゃったのかしら?」

「あれ、アスカ。 知らなかったの?」

シンジが背中越しにアスカに答える。

「何よ?」

「今日はこの村の祭りがあるって事を。」

「そんなの聞いてないわよ!」

「あれ、昨日あのお爺さんが言ってたじゃないか?」

「え!?」

「そうだよ、アスカ。」

「そ、そう...。」

シンジに弱みを見せまいと、何とか威厳を保とうとしているアスカ。

シンジはそんなアスカの努力を知る由もなく、説明を続ける。

「今日はこの村の鎮守の祠で祭りがあるそうだよ。」

「へえ〜、面白そうじゃん!」

アスカが興味を示す。

「そうかなぁ...。」

「あら、シンジ。 こう言う賑やかなモノは嫌いなの?」

「そう言えばアスカは前に、『日本の祭りなんて形式的で詰まんない』って言ってな

 かったっけ?」

アスカの額に冷や汗が流れる。

「うるさいわね〜! 考えが変わったのよ!!

 大体シンジはそんな細かい事を覚え過ぎるのよ!」

「...そんな事言ったって...。」

「いい事、シンジ! 忘却が人の人生を支えてるのよ!!

 シンジも少しは人生勉強しなさい!」

「...、本当にアスカは都合がいいんだから...。」

シンジはぶつぶつ言いながら料理を続けるしかなかった。

 

「あ、分かった!!」

アスカが突如大声を上げる。

「ゴ、ゴメン...。」

咄嗟にシンジが直立不動になる。

どうやら、アスカの大声に条件反射ができてしまっているようだ。

「何言ってるのよ、シンジ!」

「ア、アスカが急に大声を出すから...。」

「本当に情けないわねぇ!」

「ゴメン...。」

「ほらぁ、そう言ってまたすぐに謝る。」

「ゴメン...。」

「ああ〜!!!」

アスカはシンジの態度に業を煮やす。 そして、今度は一転して黙り込む。

...沈黙が訪れる。

 

「アスカ...。」

シンジは背中越しに言う。 だが、返事は聞こえない。

 

「アスカ?」

やがて、沈黙に耐え切れなくなったシンジが振り向いた。

「ねぇ、アスカ。 どうしちゃったんだよぅ?」

シンジが振り向いた先にはアスカが不敵な笑みを浮かべていた。

「ねえ、シンジ。 少し不安になった?」

シンジが神妙にコクリと頷く。

「バァ〜カ!」

アスカは思いっきり舌を出した。

シンジは呆気に取られている。 そして、膨れ顔になるシンジであった。

 

「それで、アスカは何が分かったんだよ?」

シンジは照れ隠しなのか、再び料理を始めながら背中越しに語っている。

心無しか、手元が荒っぽくなっているようだ。

「アンタ、バカ〜! 綾影の事よ!!」

「綾波?」

「そう、綾影がどうしてるのか分かったのよ!」

「え、どう言う事?」

「アンタってつくづく頭が悪いわねぇ〜!

 いいわ! これ以上シンジを罵っても話しが進まないから、教えてあげる。」

シンジは複雑な心境でアスカの得意げな説明を聞く事になる。

「いいこと、綾影はこの村の祭りを見に行ってるのよ!

 本当に、綾影は変わってるわねぇ!?

 私は綾影の考えてる事が時々分からなくなるのよね!」

勝ち誇ったような態度のアスカ。

シンジはは内心、アスカも変わっていると思っていた。

 

「それじゃ、シンジ。 行くわよ!」

「え!? 行くってどこに?」

「決まってるじゃない!! 祭りによ!!」

「そ、そうなの?」

「綾影だけが祭りを楽しんでるなんて納得行かないじゃない。

 そうと決まれば、シンジ。 さっさと朝ご飯を作って!!」

「わ、分かったよ...。」

自称ドイツの天才美少女忍者は如何なる時にも、食事の事は忘れない。

シンジは心の中で肩を竦めた。

 

 

   #7

 

村から続く小道に沿って森の中に少し進んだところに祠がある、とシンジは聞いてい

た。 そこに、この村の鎮守の神が祀られているのであると言う事も。

 

「何だか、暗くて薄気味悪いわね!」

「そうだね。これだけ木が生い茂っているとね。」

 

その小道を歩くアスカとシンジ。

確かに、アスカの言う通り、太陽はかなり高く登っているが、その光は森の梢に遮ら

れて、辺りは薄暗い。

アスカは周りを見渡しながら、鬱蒼とした森の中を進む。

シンジもアスカに寄り添って行く。

その小道は曲がりくねりながら森の奥へ奥へと続いていた。

やがて、二人は道の先に明るい場所があるのを見つける。

「あれ、何かしら?」

急にアスカが走り出す。 道の先に何かを見つけたようだ。

「ちょっと、アスカ。待ってよ!」

シンジもアスカの後を追った。

 

アスカの行き着いた先には小さな広場が森の中に忽然と開いていた。

そこには村人の言うこの村の神が祀ってあるのだろうか、小さな祠があった。 

木が生い茂っていないために、太陽の明りが燦々とその広場に降り注いでいる。

「ふ〜ん、こんな場所があるの。」

アスカはその広場を見渡す。

その時、不意にアスカを迎える声がした。

「ようこそ、おいで下さいました。」

アスカは一瞬どきりとするが、その表情をすぐさま仮面の下に隠して振り向いた。

「あっ、昨日の...。」

そこにいたのは、昨夜アスカ達を迎えてくれた老人であった。

「アスカ〜!」

漸くシンジが追い付く。

「お〜そ〜い〜!!」

アスカの文句がシンジを出迎える。

「お〜、二人ともお揃いで。」

老人はシンジの方に目を遣った。

「あ、昨日はどうもありがとうございました。」

やっとアスカに追い付き、息も絶え絶えのシンジであったが、その老人を見つける

と、頭を下げる。

「シンジ、何やってるの?」

アスカはシンジに近付き、深々とお辞儀をするシンジの顔を覗き込む。

「ア、アスカ。 ちゃんとお礼をしなきゃ。」

「そ、そうね。 どうもありがと!」

今回はシンジに反抗する事もなく、神妙なアスカ。

チョコっと頭を下げる。 ついでにウインクをするのも忘れない。

シンジは何かを言おうとするが、老人の言葉がそれを遮る。

「相変わらず元気なお嬢さんじゃな。 ええのう...、若いって事は...。」

老人はしげしげと二人を見る。

あたかも、何かを品定めするように。

しかし、二人はその目の奥に潜む邪な光に気付く事はなかった。

 

「ねえ、おじいさん!」

アスカは陽気に老人に話し掛けた。

「綾影知らない?」

老人は何かを思い出すように空に目を遣り、徐に答えた。

「綾影...? はて、もしかしてお前さん方の連れのお一人かの?」

「そう、あのちょっと辛気臭い娘よ。」

「ア、アスカ...。」

シンジがアスカに何かを言おうとする。 だが、老人の声が再びシンジの声を遮る。

「おぅ、おぅ...。知ってるも何も...。」

「え、綾波を知ってるんですか?」

シンジは老人の返答に驚きの表情を露にした。

「ああ、そうじゃ...。 ついて来るといい...。」

と思い出したように老人は言うと、森の奥に向かって歩き出した。

「ええ〜! どう言う事よ!!」

アスカは老人の背中に向けて質問を発する。

「と、とにかくアスカ。 ついて行こう。」

シンジはアスカにそう言うと、老人の後を追った。

「ちょ、ちょっと待ってよ! シンジ!!」

斯くして、二人はその老人の後をついて行く事となった。

 

老人はどんどんと森の奥に向かって進む。

「ねえ、一体どこまで行くんです?」

シンジは心配そうな声を出す。

「そうよ、どんどん森の奥に入って行ってるじゃない。」

アスカの言う通り、彼等は森の奥深くに向かっていた。

辺りは一層暗さを増し、冷たい空気が彼等を包む。

「心配は無用じゃ。」

老人はアスカ達の気持ちを他所に、歩く事を止めようとしない。

「ほ、本当にこんな所に綾波はいるのですか?」

「そうよ! 

 そう言えば、まだ綾影がどうしてこんな所に来たのかも聞いていなかったわ!」

「まだ話しておらなかったかの?」

「そ、そうですよ...。」

「そうよ! 私達三人のリーダーは私なんだから、話して貰わないと!!」

アスカの態度は相変わらず誰に対しても高飛車である。

「では、お話し致しましょう...。」

老人はそんなアスカの態度にも動じる事なく、話を続ける。

「我等の村では今日がこの村の鎮守の神の祭りの日だと言う事は、申し上げたの。」

「ええ、昨日の晩聞いたわ!」

アスカが自信満々に答える横で、シンジは、

「...僕が今朝、教えたのに...。」

とアスカを横目で睨み、呟いていた。

...むろん、アスカの聞こえる事のないような声で。

「我らの村には月の女神を祀っておるのじゃが

 その祭りには毎年、女神に扮する乙女が必要なのじゃ。

 まあ、祭りの主役じゃな...。

 ところが生憎、うちの様な田舎の村は若い衆の者が嫌気をさして出て行ってしもう

 てな。 ここ何年かは近くの村の若い娘に頼んで来て貰っておるのじゃが、今年に

 限って都合が着かないと断わられてしまったのじゃ。

 そんな困り果てた時に、お前さん方が現われたんじゃ。」

「それじゃあ、綾波は...。」

「そう、女神役をやって貰っておる。」

「綾波が女神様かあ...。」

シンジはレイの扮する女神の姿を思い浮かべた。

だが、シンジの妄想が拡がろうとして行く時に、アスカの大声がシンジの頭の中のレ

イの姿を掻き消した。

「ちょっと待って!!」

「どうしたの、アスカ?」

「何で、私じゃなくて綾影が女神なのよ〜!?」

「そ、それは、綾波の方がアスカより...。」

シンジが彼の考える答えを言おうとした時、老人が語り始めた。

「ああ、その事か?

 実は昨日、お前さん方に祭りの話しをした時、二人のどちらかに女神役を頼もうと

 したんじゃがの。肝心な事をつい言い忘れてしもうたんじゃ。

 年は取りたくないものじゃのう。 はっ、はっ、はっ...。」

老人は豪快に笑う。 そして、再び言葉を続けた。

「それで、今朝慌てて思い出して、頼みにお前さん方を尋ねたら、偶然にもあの娘さ

 んが外におっての。 大急ぎで頼んだと言う次第じゃ。

 何せ、この祭りは朝早くから始まるのでな。事情を説明したら、快く引き受けてく

 れたしの...。」

「ちょっと〜! それじゃあ、なぜあの人形女が女神、つまり祭りの主役になったか

 まだちゃんとした説明になっていないわ!」

「アスカ...。」

シンジはアスカを止めようとするが、アスカの怒りは収まらない。

「それにの...。」

老人は対称的に淡々と説明を続ける。

「女神の衣装はお前さん方より少し年上の女性の体格に合わせて作っておる。

 それで少し心配したのじゃが、あの娘さんにぴたりと合ったのでな。」

「それって、どう言う意味よ〜!」

さらに、アスカが突っかかる。

「ねえ、アスカ。アスカはドイツ忍者だろ。

 だから、日本人向けの衣装には体型が合わないって事だろ。」

シンジは何とかアスカを宥めようとする。

「綾波がアスカより大人の体型をしている」とは口が裂けても言えない。

「そ、そうかしら。」

「そ、そうだよ...。」

「まあ、綾影なら何も喋らないから女神にぴったりかもしれないけど!」

「そうそう...。」

シンジはアスカの怒りが収まりつつあるので、胸を撫でおろす。

しかし、今度はアスカの自慢話しが始まる番であった。

「そうよね! 私は月の女神と言うより愛の女神って感じだものね!

 それじゃあしょうがないし!!」

「そ、そうだよ...。

 (どっちかと言えば、戦いの女神だけど...。)」

シンジはアスカに調子を合わせるのに必死である。

アスカの増長はなおも続く。

「で、お爺さん。

 綾影は女神役でいいとして...、私は何をやればいいの?

 そりゃあ、こんな天才美少女に変な役回りを与えたりしないでしょうね!?」

「ア、アスカ...。」

恐縮するシンジ。

「おお、お前さん方はこの祭りの客人じゃ。

 存分に持て成すが故に、ゆるりと寛いで下され。」

「そう来なくっちゃ!!」

アスカは胸を張る。

「でも、お爺さん...。」

今度はシンジが老人に尋ねる。

「綾波は女神役だと言っても、作法とかはできないと思いますけど...。」

「心配は無用じゃ。 女神役と言っても形だけのもの。

 何もせずにただ祭壇の前にいてくれたらそれでよい。

 後は我等が行うでの...。」

「そうですか...。」

 

 

斯くして、彼等は森のかなり奥に到着した。

そこには、洞穴がその暗い口を開けていた。

入り口の周りには羊歯や蔦が生い茂っている。

そして、その奥からは低い唸りが聞こえて来ていた。

アスカとシンジはその音を怪訝に思った。

だが、老人の説明によると、その音は中にいる村人達の祈りの声であると言う。

やがて、老人は松明を取り出すと中に入って行く。

アスカ達もその後に続く。

中は狭く、湿気に満ちていた。 また、足元は悪く、シンジは度々躓く。

アスカと言えば、天井より滴り落ちる水滴に悪態をついていた。

 

...どれぐらい歩いたであろうか、やがて一行は広い空間に出る。

そこは松明の明りで煌々と照らされている神秘的な空間であった。

その空間には、村人達の低い祈りの声が谺している。

 

「皆の衆! 客人達が到着なされたぞ!」

 

老人の低い声が空間に響くと、その祈りの声はぴたりと止んだ。

よく見渡せば、村人達が奥にある祭壇に平伏している。

そして、シンジはレイの姿を見つけた。

 

「綾波!」

シンジが驚嘆の声を上げる。

「あ、綾影!?」

アスカは自分の目を疑う。

 

レイは祭壇の前に徐(しず)かに立っていた。

絹の色よりも白い異国の装束を纏って。

その頭には色とりどりの宝石が散りばめられた冠を戴っている。

アスカの知識によると、それは宝冠(ティアラ)と呼ばれている異国の品であった。

そして、レイはまさに希臘(ギリシア)や、羅馬(ローマ)の神話に登場する女神の

姿のようであった。 

 

やがて、レイはゆっくりと、そして静かに両手を拡げる。

神が遣わされた鳥が翼を拡げるように...。

 

村人達は無言で平伏し続けている。

そして、アスカとシンジは声を出す事すらできなかった。

 

そう、レイは月の女神そのものであった。

 

                          <続く>

 



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