幸せとともに

 

 

 

 

 

第弐話 衝撃

 

 

 

 

 

-2-A教室 6時限目終了-

 

 

「ねぇねぇ、碇く〜ん、前は何処の住んでたのよ〜?」

この少女がシンジを質問攻めするのは昨日に続き2日目だ。

 

「えーと、確か霧島・・・さんだったっけ・・?」

シンジは顔を向けてこたえる。その性格から知らず知らずに笑顔になる。

 

「お、覚えててくれたのね!・・で、何処に住んでたの?」

シンジの笑顔に顔がほんのり上気するが、霧島マナはそんなことでごまかされるよう

な甘い性格ではない。すぐに聞き直す。

 

(どうしよう・・)

シンジはどう答えれば最善かわからず、おろおろする。

 

そんなシンジに救いの手が差し伸べられた。

「霧島さ〜ん。ちょっち手伝ってくんない?」

シンジのピンチを知ってか知らずか、ミサトが絶妙なタイミングで声をかける。

 

「えっと・・ミサト先生が呼んでるよ。」

 

「そ、そうね。じゃねシンジ君!」

マナは惜しかったという表情でミサトのもとへ向かう。

マナはひそかに、意識してシンジの事をファーストネームで呼んだのだが、シンジが

そんな事に気づくはずもない。

そそくさと帰る支度を再開する。

 

 

 

 

 

「何すればいいんですか?」

 

「これを一緒に運んでくれるかしら。」

たった1週間で教師職が板についているのは、さすがミサトか。

 

「これですね。」

マナはひょいと段ボール箱を担ぎ上げる。

 

「霧島さん結構力あるわねぇ。何かしてたの?」

そんな会話をしつつ教員室まで向かう二人。

 

 

「ミサト先生、碇君ってなんでわざわざここに越してきたんですか?」

しばらくの沈黙を破ったのはマナの方だった。

 

「あ、あぁ。何か家庭の事情じゃないかしら・・。」

ミサトは痛いところをつかれて驚きながらも、それらしい答えをかえす。しかし、し

どろもどろの理由は説得力がない。

 

「ふ〜ん、そうですか。でも、自己紹介も名前だけだったし、何聞いても

 曖昧な答えしか返って来ないんですよ。」

 

「あっ、もしかして霧島さんシンちゃんに気があるのかなぁ?」

自分のペースにしようと、得意の(?)からかいモードが起動するミサト。

 

「!そ、そんなんじゃないですぅ!・・・」

反論しつつも顔が真っ赤なマナ。自分でもシンジが気になるのはわかっているのだ。

しかし同時に、シンジに対して

不信感を抱いているのも確かだ。ここでひきさがるマナではない。

 

「碇君が転校して来たの、あの騒動の後ですよ。しかも授業中のうなされ方ひどかっ

たし・・

 みんなも碇君の事不審がってますよ。」

マナは思っている事全てを口にした。

 

「・・そ、そう・・でも考え過ぎよ。シンジ君も転校して来て慣れてないだけでしょ

 う、この環境に。」

ミサトはそう答えるしかなく、下唇を噛み締めた。

 

 

ドサッ・・

 

「ふぅ。ありがと霧島さん、助かったわん♪」

ミサトは努めて明るく振る舞ったが、マナの返事は・・

 

「はい・・」

 

と、沈んだものだった。

その場が暗くなりかけた時、

 

ピ、ピリリリリ・・・

 

ミサトの携帯が鳴り響いた。

「あっ、ホントにありがとね霧島さん。もう帰ってくれてもいいわ。バイバイ!」

 

「はい。さようなら・・」

マナは見るからに元気なく帰っていった。

 

ピッ!

 

「はい、葛城です。」

 

『あっ、ミサトね。私、リツコよ。」

 

「あぁ、なんだリツコか。で、何?」

 

『なんだとは言ってくれるわね。緊急召集が出されたのをわざわざ知らせてあげた友

人に言う言葉かしら?』

 

「ごみんって。それより何?緊急召集って、まさか使徒!?」

 

『違うわ。とにかく本部第二会議室まで来て。それと、シンジ君も連れて来てね!』

 

ガチャ!・・ツーツー・・・

「ちょ!リツコ!?・・・・もう、何よあいつは〜。」

そうぼやきながらも手早く支度をしたミサトは教員室を飛び出ていった。

 

後にはその騒々しさに口をあんぐり開けた他の教師と、ミサトを追おうと準備を急ぐ

マヤが残っていた。

 

 

 

 

 

タッタッタッタッタッ・・・

ミサトは生徒達の間を駆け抜けながらある人物を探している。

すると、実はミサトより頼りになりそうな人物であるヒカリが目に入った。

 

「あっ!洞木さん、シンジ君見てない?」

ミサトは、いきなり駆け込んで突然尋ねる。

 

「碇君ですか?さっき帰る支度をしていま・・」

「ありがと!」

この間僅か1秒。ミサトはまさしく、風と共に去っていった。

 

後に残されたヒカリの第一声は、

「何?いったい・・」

 

 

 

 

(ふ〜、疲れた・・。それにしても霧島さん、なんであんなに僕の事知りたいんだろ

う。

 意識して目立たなくしてるんだけどなぁ。)

シンジは、自分がかなり謎の人物とされているのを知る由もなく、帰路につこうとし

ていた。

そのとき・・

 

「シンジく〜ん!」

かなり騒がしい声が学校の玄関に響く。

 

「どうしたんですか、ミサトさん?息をきらして。」

 

「あの、あの、ね、ネルフから、緊急、召集。一緒にきて。はぁ、はぁ。」

ミサトはかなり息絶え絶えに言い遂げた。ハッキリ言ってこの学校は広い。

この距離を走ればこうなるのも当たり前だろう。

 

「ふ〜ん。そうですか、何でしょうね?」

シンジはさして驚くでもなく靴を履きはじめた。

全力疾走でここまで来たミサトにしてみればなんとも悲しい限りだ。

もっとも、シンジのこういうところに安心させられるのも確かだが。

 

「あ、あっさり言ってくれるわね。緊急なのよ、緊急!わかってる、シンちゃん?」

 

 

「わかってますけど、まだそういうのよくわかんなくて・・」

頭をポリポリかいてぼやくシンジ。

 

「ハァ、とにかく緊急ってのは急いでこそ緊急なんだから。車乗って!」

ミサトはさらりと言ってのける。しかしシンジは・・・

 

「ミ、ミサトさんの車・・ですか・・?」

シンジは心持ち青ざめて確認する。どうせ無駄なのはわかっていたが・・

 

「あったりまえでしょ〜。ほら早く乗った乗った!飛ばすわよ!」

 

「・・・ゥゥ・・」

シンジは泣きそうになりながら助手席に乗り込んだ。そのとき彼は本能的にシートベ

ルトをきつ〜く絞めたと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10分後ミ・サ・トは、無事ジオフロントに着いた。

シンジは・・・夢遊病者のようである。

「えー!たった10分だけだったの!?」

とは、後の碇シンジ談である。余談・・・

 

 

-ジオフロント ネルフ本部第二会議室-

 

 

「碇、全員集まったようだ。」

 

シンジは、自分がこの場にいることは絶対おかしいと思っていた。彼の心臓は、すで

にのどのあたりまで来ている。

ミサトさえも、こういう場は居心地悪い事この上なかった。

この二人にそういう気分をさせているのは・・・

 

「そうか・・そろそろ進めてくれ。」

 

紛れもないこの人、碇ゲンドウであった。その威圧感といったら・・あぁ、恐ろしい

・・

 

「これより、第131回緊急会議をはじめる。」

それを聞きシンジは、(ネルフって131回も緊急会議あったのか・・ホントに緊急な

のか?)と素直に感じた。

進行はほとんど冬月が行う。ゲンドウはあいかわらず顔の下で手を組み、石像のよう

だ。

 

「今回の議題は・・・というより結論だな・・」

冬月の言葉にそこにいるネルフの幹部達、そしてシンジらが頭に?マークを浮かばせ

た。

 

「ふむ・・ネルフを公開組織にする。」

 

 

「なんですと!!(×多数)」

ミサトを含む幹部達は総立ちになり、さっきまでの?マークが!マークに変わった。

 

シンジはと言えば・・

 

「あぁ、ネルフって今まで非公開組織だったのか。」

と、独り根本的に間違った感想だった。

 

「どういう事ですか。碇司令!?」

幹部の一人が、みんなの意見を代弁して質問する。

 

「それは・・」

「いや、私が話そう。」

冬月が説明しようとしたのを、ゲンドウが声で制する。

 

「そんなに騒ぐ事ではない。今後の活動をうまく運ぶために、外の連中を安心させて

やるだけのことだ・・」

ゲンドウは全てを語らない。それでも幹部達はそれとなく理解したようだ。シンジを

除いては。

 

「ではE計画の方は?」

少しばかり緊張感を持たせてさっきの幹部がまた尋ねる。

 

「上っ面は公開しても問題はなかろう。いまさらエヴァの姿を眺めた所で、誰かがど

うすることもできまい。」

そして、冬月が付け加える。

「パイロットの存在も隠す必要は無い。わざわざ公開することは無いがな。」

目線がシンジの方へいっている事に、本人は気付かない。

 

「しかし、それはすこし危険なのでは・・・」

ミサトが初めて口を開く。シンジの事を考えての事だったのだろう。

 

「シンジの扱いはこれまでと同じAAA級だ。保安部の者を随時影に待機させる。」

ここまでいって、ちらりと保安部幹部の方に顔を向けけ確認する。そして続ける・・

 

「・・・それに・・・」

ゲンドウは軽くせき払いをした後、シンジに向かってこう言い付けた。

 

「シンジ、今後の任務に格闘技の訓練、並びに自己防衛の義務を加える・・・」

ゲンドウは厳しい口調で言った。

シンジの反応は・・・

 

「・・え?!・・でも!」

 

「デモもストライキもない・・これは命令だ、シンジ・・。くくく・・・」

ゲンドウは自分の言って自分で笑っている。恐い・・。幹部の中には倒れた者もいた

という。

 

「・・・分かったよ。(父さん変わったな・・)」

シンジはわざと無視して返事をした。

 

一段落したところで、冬月がゲンドウを冷ややかに見ながら、会議のしめにかかった

「まぁ、そういう事だ諸君。他の職員にも間もなく連絡がいく。活動は今まで道り、

E計画の全容については極秘のままだ。

 表向きには、使徒撃退用ロボットと言う事になる。」

ゲンドウの発言で頭の中が混乱していた全員が、冬月の言葉で現実世界に救出された

 

「なお、この件に関する簡単な報告が明日八時にMHK衛生で放送される予定だ。それ

では、これをもって第131回緊急会議

 を終了する。解散!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブォォォォ・・・・

さっそうと走る、ミサトの愛車であるルノーの車内。緊急会議の帰りだ。

 

「シンジ君、どうする?」

長い沈黙を破ったのはミサトの方だった。

 

「夕飯ですか?」

ミサトが(わざと間違えてんじゃないの?)と、思うような答えをするシンジ。素だ

 

「そうじゃなくて、さっきの事。・・・みんなシンジ君の事知りたがってるわよ。」

 

ミサトはあえて直接は聞かない。

シンジも、ミサトが何を言いたいのか理解できた。

 

「・・・僕はまだ、エヴァに乗っている事が誇りには思えません。・・でも、それで

も、みんなに嘘を言うのは嫌です。」

シンジも思っている事だけを言った。ミサトもそれだけで理解する事ができた。

 

「そっか。じゃあ、明日改めて自己紹介といきましょうか!」

 

「ハイ。」

シンジは、久しぶりに明るい声で答えた。こうなると、ミサトもいつものペースだ。

 

 

「ふっふ〜ん。明日は学校が楽しみだわぁ♪」

 

 

 

 

 

-翌朝 ミサト宅-

 

「それじゃぁ、先に行って来ます!今日の一時限目、ミサトさんの授業ですから遅れ

ちゃだめですよ。」

今日はシンジも心無しか元気に見える。

 

「ふぁぁい、いってらっは〜い。後からいくわ〜。」

ミサトはといえば、いつもとかわらずだらしないく、手をひらひらさせて返事をする

 

「ホントに大丈夫かなぁ?・・」

まったく緊張感のない朝だ。そこに聞こえるテレビの声・・

 

『これで朝のニュースを終わります。なお、三十分後の八時からは内容を変更して緊

急報道をお伝えします・・・」

 

それを聞いたミサトがニヤリと笑う。

(さぁて、面白くなりそうだわぁ。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回

 

第参話 仲間

 

 




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