幸せとともに

 

 

 

 

 

第参話 仲間

 

 

 

 

 

-2-A教室 朝-

 

ガタッ、

(ふ〜、疲れた。朝からこれじゃぁ、先が思いやられるな・・暑い。)

シンジは席に着くと、机にとっぷしてしまった。

 

「おはよ、碇君。」

こちらからは、マナの元気な挨拶が飛んで来た。

 

「あ、あぁ、おはよう・・。朝から元気だね。」

シンジには、マナの元気が何処からくるのかまったくわからない。

 

「こういう体質なのよ!碇君こそ朝からそんなんじゃだめよ。」

笑顔で答えるマナに、シンジは少し心がなごむ。と、同時にある問題に悩まされる。

 

 

(みんなにどう話そう・・どこまで・・)

 

 

ガラッ!

いつもより心無しか元気に聞こえる扉の音と共に、こちらもうれしそうなミサトが登

場する。

 

「おっはよ〜ん♪みんな!」

 

「おはようございま〜す!」

こちらも元気が売れる程あるようだ。ある少年を除いては・・

 

シンジはまだ迷っている。シンジにとって、嘘をついていた人に真実を話す事は、う

れしくもあり精神的にも大ダメージなのだ。

実際には嘘をついたわけじゃないのだが・・事が事だけにこれは結構大問題だ。

 

そしてミサトも真剣な表情で腕時計を見た。もっともこちらは、少しばかりうれしそ

うだが・・

 

「え〜と、今日の一時限目は変更するわ!とりあえずテレビつけて。」

ミサトは何かを決心したような表情をしてから、今度はいつもの声でそう言った。

皆からはささやかな歓声があがり、テレビに近い席の生徒がそれのスイッチを入れる

 

「MHK衛星よ。」

生徒は、ミサトの指事でチャンネルをあわせ席に座った。

・・と同時に番組が始まる。

 

『今日は予定を変更して緊急報道をお伝えいたします・・・・・』

 

そのアナウンサーの言葉を聞いて、ほとんどの生徒がミサトの方を向き疑問を視線で

訴える。

しかしミサトはそれに答えず、目線をテレビに注いでいる。生徒も諦めて、番組の内

容に耳を傾ける。

 

『昨日の深夜、国連から各国政府を通じて全世界一斉に緊急会見が行われました。・

・・・

 では、その内容をお伝えいたします。いままで国連直属の非公開組織であったネル

フが、公開組織となりました。・・・』

 

生徒達はそこまで聞いてもあまり反応を示さない。

ミサトとシンジは真剣なまなざしでそれを見続ける。

 

『ネルフは国連直属の国際的防衛組織として、2001年に設置され、

 主な活動としては国際的な範囲で戦力を保持し防衛にあたるというもので、はっき

りとしたことは謎に包まれていました。

 しかし今回の発表により、その戦力等が明らかになりました。ネルフの持つ戦力は

、そのほとんどが特殊な兵器等ですが、

 緊急でしかも特殊な戦闘の場合のみ”エヴァンゲリオン”、とよばれる人形ロボッ

トが使用されているとの事です。

 

 なおこの組織の・・・・』

 

プチッ・・

 

ミサトが、アナウンサーがひとしきり言い終えたところで電源を切った。

教室内を振り返ると、さっきとは違って目を丸くした生徒が数人いた。やはりエヴァ

の話がインパクトあったのだろう。

ケンスケなどは机に手をついて立ち上がっていた。

 

「先生・・・このニュースがどうしたんですか?」

一人の生徒がおずおずと聞いた。

 

「そーねー、何から言おうかしら・・よし!単刀直入にいうわ。」

ミサトが真剣な顔を生徒達にむけて言う。

 

「私は・・・教師であると同時に、ネルフの関係者なの。・・・みんな、言ってる事

わかってる?」

生徒達はいったい何の事だかわからないといった表情をしている。ミサトはなんだか

肩すかしをくらってため息をついた。

 

「ハァ、だからね。私がネルフ職員と教師の仕事を掛け持ってるって事よ。」

 

「別にミサト先生がやめるわけじゃないんですよね。じゃぁ、たいした事じゃないで

すよ。」

生徒達はあっけらかんといている。ミサトは、実はちょっとくやしかったりする。

 

(でも、これは大パニックになるでしょうねー・)

ミサトは心の奥でほくそ笑みつつ言った。

「まぁ、そういうことね。じゃぁ、私の話が終わったところで・・・シンジ君が改め

て自己紹介をしたいそうよ〜♪」

 

「はぁ?」

教室全体がまたもや?マークに包まれる。

 

(ミ、ミサトさん!そんな、いきなりなんて聞いてませんよぉ〜(泣))

シンジはそう嘆きつつも、声に出すとまたややこしいので素直に教壇に立った。

 

「え〜と、その、自己紹介をちゃんとしていなかったので、改めてやらせてもらおう

かと思って・・・」

『ミサトさん、何から話せばいいんですか?』

『そ〜いうのは自分で考えるの!』

シンジはミサトに、目線で助けを求めたが無駄であった。

生徒達は時間に比例して、?マークを増やしている。

 

「・・・え〜っと、僕はこの間までもっと田舎の方にいました。で、何で今ここにい

るかっていうと・・・、

 ミサト先生のネルフの話の後なのもそのせいなんだけど、そのぉ、父もネルフの職

員で、それで父に

 呼ばれて、ここに来ました。」

シンジはしどろもどろになりつつも、ありのままを話した。クラスメートもそれなり

に納得している様子だ。

しかしシンジにはこの後が一番問題であった。ミサトの方に目をやると、

『言っちゃいなさい・』

とウインクで返って来た。

シンジは頭の中で内容を整理してから、続けた。

 

「でも仕事の事情で、父とは暮らしていません。で、さっきの話でミサト先生がネル

フの職員だってことで、

 ミサト先生の所で住まわせてもらっています。」

ミサトと暮らしていると言う事で教室にどよめきが起こった。

早速、手をあげて何かいおうとした生徒がいたが、ミサトに手で制された。

 

(そうだ、ここで話し終わってもいいんだ。)

シンジはふとひらめいて方針をかえた。

「それくらいです。え〜と、何か聞きたい事とかってありますか?」

『なんで〜!?』

ミサトは期待(?)を裏切られて、シンジに目線で攻撃する。

しかしシンジは気付かず、生徒達から質問が飛ぶ。こうなるとミサトも仕方なく、生

徒達をあてていく。

 

「趣味は?」

「好きなスポーツは?」

 

等と、ごく一般的な質問が続いた。しかし・・・

 

「じゃぁ、次は・・霧島さん!」

ミサトがマナを指名した。

 

「え〜と、お父さんと暮らすわけでもないのに、なぜここに来たの?」

マナがシンジの作戦を打ち砕く一言を発した。

 

『ナイス!霧島さん!』

ミサトはマナに変な感謝を捧げた。

そしてシンジは・・・・

 

「え〜とですね・・・それは・・・(す、するどすぎる!)」

シンジはもう開き直って、あっさり話してしまう事にした。

「まぁ、その・・なんというか、父の仕事の手伝いをしに・・」

「ネルフでする手伝いってなんですかぁ?」

マナの言葉は、シンジにとって厳しくもあり、話を進みやすくする救いでもあった。

 

 

「・・・エヴァンゲリオンの操縦です。」

シンジは言った。しばらくの静寂・・・・・

 

 

「エ、エヴァンゲリオンって、さっきのロボット・・?」

マナが目を丸くして一言確認する。

 

「まぁ、・・ロボット・・・かな。うん。」

 

「えぇぇぇぇぇ!!」

2-Aの教室から、学校中に響くであろう大音響が響いた。

シンジはエヴァが人造人間である事実は伏せた。それでも衝撃的事実だ。

 

『ふふふ・・・』

ミサトの心の声である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくシンジは質問攻めにあい、一躍クラスの大人気者となった。

もともと整った顔だちであるシンジだ。今までは正体不明であったが、それが明らか

になってしかも、

エヴァンゲリオンのパイロットとなれば、男子だけでなく女子にも注目の的だ。

 

「おい!碇、操縦席ってどうなってんだ!?」

「どんな武器があんだよ!?」

男子からの質問は大多数これ。そしてシンジの答えは、

 

「あの・・そういうのはまだ秘密で・・。ゴメン。」

こういう状況に慣れていないので”秘密”ですますしかない。

 

「ねぇねぇ碇君!今日さぁ、一緒にお弁当食べよ!」

「ちょっとぉ!抜け駆けだよぉ!」

女子からはこういう誘いが大多数。

「悪いな!碇はオレ達と食べる約束してんだ。な、碇。」

ケンスケは、シンジの正体を知るやいなやすぐに友達になったようだ。必然的にトウ

ジも一緒である。

「あ、うん。そうなんだ、ゴメン。」

「別にいいよ。碇君は謝る必要無いって!じゃぁ、・・」

「イ、碇君!一緒に帰らない?今日。」

その女子生徒が言い出そうとするのをさえぎるように、マナが乗り出して誘って来た

 

シンジはこういう状況も初めてなので唖然としていたが、ミサトに目線で確認をとら

れて立ち直った。

「えっと、今日はネルフに行かなきゃならないんだ。本当にゴメン!」

シンジは本当に申し訳無さそうに謝った。

「あ、そっか。じゃ、今度ね!」

「うん、今度。」

マナがさほど気にしていなさそうなので、シンジは少し安心した。

 

 

 

「マナぁ♪やっぱり、碇君に気があるんだぁ!」

「そ、そんな事ないよ!」

誰がどう見ても気があるようにしか見えない。この女子生徒とマナの言い合いは授業

中も続いたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃぁな、碇。」

「ほなな、センセ。」

「じゃぁ、またね。」

シンジは新しくできた仲間と別れると、ジオフロントへ行くリニアがある駅へ向かっ

た。

 

(まだ時間があるな。この辺りもまだ知らないし、ぶらぶらしようかな・・)

シンジは”BOOK”の看板を見つけ、少し小走りにそこへ向かった。

 

タッタッタッタッタ・・

 

シンジは器用に人込みを抜けていたが、曲り角から飛び出て来た影は避けられなかっ

た。

 

ドンッ!ドサ・・

 

「アイタァ・・あの、大丈夫ですか?」

「イテテテ・・・う、うん、なんとか大丈夫かも。」

 

シンジはぶつかった相手を見た。

青い髪、赤い目、それが一番に目につく少女だった。シンジはファッションの一種だ

ろうと、

気にする事もなかったが、その目の赤は作り物では無い神秘的な光を持った、本物の

目だった。

 

「ゴメン、気が着かなかった。」

シンジはまっ先に謝った。彼の性格だ。

「ううん、私もこんなところで全力疾走しちゃって。ゴメンね!」

その少女の笑顔からは明るく屈託のない性格が感じられた。

 

「あ、そうだ!ぶつかった縁って事でさ、道教えてくれないかな?私はレイ、綾波レ

イ。」

少女は挨拶をしながら第三新東京市の地図を広げた。

 

「あ、僕はシンジ、碇シンジ。」

シンジは地図の端を持って、覗き込みながらいった。

 

「碇君ね。でさぁ、ジオフロントって所に行きたいんだけど、載って無いのよ。」

レイは地図に目を走らせながら、さらりと言った。が・・・

 

「・・・ジ、ジオフロントへ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ジオフロント ネルフ本部司令室-

 

「碇、彼女の迎えを出さなくていいのか?」

本を片手に将棋の駒をさしながら、冬月は尋ねた。訪ねられた相手は、いつものよう

じっと手を組んで席についていた。

 

「本人が望んだ事だ。」

「しかし、ジオフロントは地図には載っとらんぞ。他のを渡したんだろう?」

冬月は当然というように言った。ところが、

 

「・・・・・そうなのか?」

「そうなのかって、おまえ・・。どうするんだ。」

「フッ、彼女は来るさ。ユイもそうだった。」

こめかみに手をやる冬月をよそに、ゲンドウは回想モードに突入しそうだ。

 

(はぁ・・・。こんな親を持って大変だな、シンジ君・・・・・そして・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴー・・・パァー

その頃シンジとレイは、ジオフロントへ向かう専用リニアの中にいた。

 

「ここ来たの初めてなんだぁ。ねぇ碇君・・碇君?」

 

 

 

(なぜセキュリティーカードを持っていたんだろう・・

 なぜジオフロントに・・

 綾波レイ・・・綾波・・

 

 

『ミサトさん、たいした事じゃないんですけど・・初号機ってことは、他にもあるん

ですか?エヴァ。』

『えぇ、私が見たのは零号機だけだけど他にもあるそうよ。零号機のパイロットもい

つかここに呼ばれるかもね。』

『・・パイロットってやっぱり・・」

『えぇ、か〜わいい女の子よん・名前はねぇ、綾波さんよ。』

 

 

・・綾波・・零号機・・!

 

 

 

「碇君!」

レイは、床を見つめ黙り込んでいるシンジを大声で呼んだ。

 

「え?あ、うん。何?」

シンジは、レイの事を考えていた所にいきなり呼ばれたので、動揺して答えた。

 

「碇君さぁ、なんでカード持ってるの?」

 

「へ、カード?」

シンジは、突然の質問に何のカードかわからなかった。

 

「ほら、このリニア乗る時に・・。」

聞いてはいけない事を聞いたのでは無いかと、語尾を小さくしてレイは言った。

 

「!?・・あ、そうか(お互い同じ事考えてたんだ。)」

シンジは深刻に考えた自分がおかしくなり、笑い出しそうだった。

 

「あ、あのぉ、別にどうでもいいんだけどね。」

そんな様子を見ても、レイはまだ手を絡ませている。

するとシンジが笑顔を向けて、手を差し伸べた。

「これからよろしく!」

 

「こ、これからよろしく・・って、ど、どういう事?」

レイはシンジの行動にどう反応していいかわからず、おろおろした。

シンジは続けた。

「改めて自己紹介。僕の名前は碇シンジ。」

「それはさっき聞いた・・・シンジ・・!」

レイはハッとシンジの顔を見た。

 

「エヴァンゲリオン初号機専属パイロット、サードチルドレン碇シンジ。」

「あ、あなたが・・・」

レイは動揺して言葉を返せない。するとシンジはレイの手を、差し伸べた方の手で握

って言った。

 

「よろしく、綾波!」

 

 

 

 

 

 

 

 

次回

 

第四話 それぞれの思い

 

 




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